マーレとお供のメイドエルフはナザリック第九階層「ロイヤルスイート」を歩いていた。ナザリック内で最も豪華絢爛たる神域である。マーレは何度も来たことがあるがエルフメイドは初めての場所。山から下りてきた未開の野人が初めて石造りの街を見たかの如く、キョロキョロとあちこちを見回している。
二人が長い廊下を幾らも行かない内に、向こう側から数名の男性使用人がこちらへ向かってくるのが見えた。
彼らはマーレの姿を認めると廊下の脇へ整列する。マーレは階層守護者であり、ナザリックを守護する存在なのだ。彼らが敬意を払わない理由はどこにもない。
「ちょうどよかったです。あの、お願いしたいことがあるんですけど」
「はい、なんなりとお命じください」
「大人の男の人用の服ってありますか?」
「はい、ございます。マーレ様が仰る通り丁度よいところでした。偶々私どもの制服を整理していたところ、偶々一人分余ってしまいました。こちらでよろしいでしょうか」
「わあ、ありがとうございます!」
偶々余っていた服を偶々使用人の一人が持ち歩いていた。マーレの日頃の行いがよいからスムーズに事が進むのだ。
服はエルフメイドが受け取った。早くもミッションコンプリートである。
マーレはぺこりと頭を下げて使用人達を恐縮させ、さあ第六階層に帰ろうとしたところで足が止まった。
エルフメイドが受け取った服と男性使用人達をちらちらと見比べる。制服というだけあって同じデザインの衣服であるようだ。上下黒のスーツで、ジャケットの裾が燕の尾のように長くなっている燕尾服。セバスの着てるものと似ている。細部が微妙に違う程度。
それなりに格好いいし、そこそこお洒落だし、何よりも成人男性用の衣服ではあるけれど、マーレの目にはちょっとシンプルに映った。ジャケットもスラックスもシャツも黒でネクタイだけが白。袖のカフスボタンやジャケットのボタンは銀色で色彩に乏しい。
ぶくぶく茶釜様から与えられた色とりどりの衣装に比べてしまうと、ぶっちゃけ地味だった。
「……これってかっこいいですか?」
「!?!?!?」
男性使用人達一同へ、魔法最強化に魔法抵抗難度強化を付加したチェイン・ドラゴン・ライトニングを受けたかの如き衝撃が走った。
彼らはアインズ様からの密命により、マーレ様が来たら男物の服を貸すべく既に準備を整えていた。何とも浅はかであった。
マーレ様が誰に服を貸すのか見当がついている。先にナザリックで大演説を行ったあの男だ。彼らの中には彼の男を見たことがある者もいた。人間にしては堂々たる大層な美丈夫。
その男がこの期にナザリックを訪れたのは何故か。アインズ様の出征式に参加するために決まっている。ナザリックのシモベとして、出征式に参列が許されたのは嬉しい限りだろう。
その栄えある舞台に自分たちのお仕着せを着せてよいのだろうか。決して悪いわけではないだろう。しかし、彼の男はナザリックの仲間であっても自分たちと同じ使用人ではない。アルベド様直属の配下である。
彼の男へ使用人のお仕着せを着せてしまうのはアルベド様の顔に泥を塗り、アインズ様の栄誉を汚すに等しい。万死に値する大罪である。
幸いなことにマーレ様のお言葉でアインズ様の真意に気付くことが出来た。挽回する目は残されている。
「失礼いたしました」
「あっ」
エルフメイドに渡したお仕着せをやんわりと取り返す。
「お許し頂けるのでしたらどのような衣装がよいか再考いたしたいと存じます」
「え、えっと……?」
(私に聞かないでくださいマーレ様! 私としては女装でなければ何でもいいと思います! って言いたいのに言えないジレンマ! アインズ様、私はどうすればいいのですか!? 無難に行っていいですか!?)
「マーレ様も一緒に選んでいただければあの男は泣いて喜ぶと思います」
エルフメイドは何とか笑みを作り、無難を選んだ。
マーレが頷くと同時に、男性使用人達は一人を残して急いでないように見える最大限の速度で歩き去った。セバス様とデミウルゴス様に連絡を取り、衣服や装飾品の貸与を打診するのだ。アインズ様の栄誉のためにアルベド様の配下を飾ると言えば色よい返事がもらえると考えた。
マーレの午前中はこのようにして慌ただしく去っていくことになる。
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一方、第六階層に残された者達も緊迫した空気にあった。
「聞こえなかったかしら。私は立ちなさいと言ったのよ」
「それとも立てない理由があるの?」
二人のエルフメイドが苛立ちを隠そうともせず、テーブルに着いたままの男へ言い放つ。言いながらも、二人は男が立てない理由に察しがついていた。
隣に座っていたマーレ様は気が付かれなかっただろう。マーレ様をお見送りする時も男は座ったままで、やはりわからなかったと思われる。
しかし、
男の手が、時々テーブルクロスの下に潜るのを。その度にナプキンで手を拭っているのも。
食後のお茶を飲んでいるときなどは左手がずっとテーブルクロスの下にいた。後ろから見ていたエルフメイド達は、男の手がもぞもぞと妖しく動いていたのを知っている。
エルフメイド達はわかってしまった。
この男は、いじいじしていたのだ!
マーレ様の服を着て、マーレ様とお喋りをして、いじいじしていたのだ。
立っているから立てないのだ。
何という変態なのだろう。マーレ様の為を思えばここで誅するべき。しかし自分たちの戦闘能力はザコである。ならば何としてもここで厳しく警告をしておかなければならない。
「いいんですか、私が立っても。大変なことになるかも知れませんよ?」
「なっ……なにを……」
金髪のエルフメイドが後ずさった。髪の長さはもう一人よりやや長い。三人の中で一番素直な髪質である。
男がエルフを見るのは、ダークエルフの双子を除けば三人が初めてである。見慣れないため、はっきり言って髪型以外では区別が出来なかった。エルフは見目麗しい者が多いと聞くがその通りで、よく言えば整った顔立ち、悪く言えば没個性に見えた。それでも感情はわかる。
明確な敵意といやらしさ、或いは卑しさを感じた。
良くも悪くも純粋な方が多いナザリックの方々の中では、表情に深みがあると言ってよいかも知れない。
「立ちなさいと言ってるのよ!」
茶髪のエルフメイドは臆せず言った。
「……わかりました」
すっと椅子から立ち上がり、二人に向き直った。
二人は息を飲んだ。
上半身は、よい。マーレ様のブラウスとボレロを着て、インナーにショートスリップを着ている変態だが、よいことにする。
下半身はふわりと広がるロングフレアスカート。こちらが大問題なのだ。
「そそそそそそれ! 一体何を入れてるのよ!?」
「何も入れてませんよ」
「嘘よ! そんなに大きいわけないわ!」
スカートの一部分が膨らんでいた。女のエルフは持ち得ない第三の器官があるかの如く。不自然に、股に太い棒でも挟み込んでいるかのように膨らんでいた。
彼女たちはそれが何であるか見当が付いてはいたが、信じがたかった。
かつては奴隷であった彼女たちは、性暴力を受けたこともあった。男のそこにそのようなものがあると知っている。しかし彼女たちが知っているそれは、親指を少し膨らませた程度のもの。同じものとは思えない。
「そう仰るならどうすればよいでしょう?」
嘘と言われてもどうにもならない。これは本当に肉体の一部であるのだから。
恥ずかしいことに、男はマーレの服を着て、勃起していた。
とは言ってもまさか女装をして興奮しちゃっておっきしちゃってるわけではない。パンツがキツいのである。
上半身のインナーが女児用のスリップなら、下半身は女児用のパンツだった。マーレ様が用意してくださったのだから履かないわけにいかない。魔法のパンツはサイズが違っても履けてしまった。残酷なことに。
しかしそれでも女児用である。収めるものを収めるべきスペースがなく、おかしな具合に締め付けられておかしな刺激を受け続けてしまう。
食事を終えてほっと一息付けば、ふと先ほどのことを思い出す。妖艶なヴァンパイアブライド達に囲まれ、挿入までしたのだ。
この場に妖艶な者はいないが、あまやかな女の匂いが鼻孔をくすぐる。
ちょっと反応してしまって、座ったままテーブルクロスの下に手を潜らせてポジションを直していた。彼女たちがいじいじしてたと思ったのは全くの誤解でもなかった。
まさかあれが本当にアレなの、そんなの嘘に決まってるわ、そう思うならあなたが確認してきて、えっ私が、私レンジャーあなたドルイドあなたに何かあったら私が走って助けを呼んでくるから、だったら私が声を上げればザリュースさんたちに届くと思うわ、仕方ないわねそれじゃ私が、何よもしかして見たいの、そんなわけないじゃないそれじゃあなたが行ってよ、仕方ないわね、あなたの方が見たいんじゃない。
二人の内緒話に聞き耳を立てると、ショートヘアの茶髪がレンジャーでさらさら金髪がドルイドであるらしい。どうやら二人とも興味津々のようだ。いっそスカートをめくり上げようかと思うが、ブライドを捨てた男であっても男としては中々取り難いポーズである。
しばし待たされ、話が決まったようだ。茶髪の方が一歩進み出た。たれ目がちな目がつり上がっている。
「手を上げてなさい。何かしたら彼女が大声を出して助けを呼ぶから」
言われた通りに両手を上げて、手のひらを見せた。
(マーレ様のためマーレ様のため。この男をここでどうにかしないと私たちのマーレ様が!)
しゃがみ込んでスカートの中に潜り、飛び退いた。
両手で口を覆ってふるふると頭を振る。
「どうだったの?」
同僚の声にも答えられない。
彼女が何を見たのか確かめるべく、今度は金髪のエルフメイドがしゃがみ込んだ。切れ長の目はつり上がってさえいなければ怜悧な魅力があるだろう。
「む……」
彼女がスカートの中に潜るなり下半身に開放感があった。中で何をしているのか、中々出てこない。スカートの中に熱がこもりつつある。下半身に熱い息が吹きかけられているようなこそばゆさがある。
出てきたエルフメイドは、少しだけ頬に赤みが差していた。
あなた中で何してたの、何もしてないわ、じゃあどうしてあんなに時間がかかったのかしら、考えてたのよ、考えるって何を、あの男のあれをどうにかしないといけないわ、どうして!?、どうしても何もどうにかしないとマーレ様が汚されてしまうわあなたそれでいいの?、うっ、こんなことやりたくないけど出来ないわけじゃないしやったこともあるし仕方ないわね、……何よあなたやりたいの?、違うわマーレ様のためよ私が大人しくさせるからあなたは見張ってて。
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同僚を見張りに立たせ、金髪のエルフメイドがしゃがみ込んで再度スカートの中に潜った。
スカートの中なのに視界は意外なほど明るい。透け感のある生地で作られていて、光があたるとシルエットが露わになる大変セクシーなスカートなのだ。マーレ様が着ればだけれど。
ゴクリと唾を飲み込んで見上げる。
皺のある柔らかそうな玉袋の上に、男の性器があった。真っ直ぐに上を向いて立ち上がり、スカートの生地を押し上げている。
彼女は男の体を知らないではない。奴隷であった時分に教え込まれてしまった。そんなことを望んだわけがない。嫌悪と絶望に泣きながら教え込まれた。ゆえに、人間の成人男性には嫌悪と恐怖があった。それは今も変わらない。男から性的な目で見られると怖気が走る。
しかし、この男は違った。
女装して美少年に興奮する変態なのだ。変態が女に欲情するわけがない。
自分の身に危険がないと知れば好奇心が勝る。美しい男へ命令を下し、意のままに出来る倒錯的な優越感もある。
そして、性欲もある。
満足したことは一度たりともなかったが男の体を知っている体だ。とても可愛い二人の主に仕えて充実した日々を送ってはいるが、持て余すことがなきにしもあらず。皆に隠れてこっそりと慰めることがあった。
マーレ様の貞操を守るためだけではない。間違っても男の欲望のためではない。
これは、自分の為なのだ。
人間の男への復讐と、己の心の傷を克服するため。
男の無様を嘲笑って、尊厳を取り戻さなければならない。
(…………熱い)
根本を握れば親指と小指で作った輪に余るほどの太さがあった。
上を向いているそれを自分の顔に向け、薄い唇を開いて、スカートの中に茶色い頭が潜り込んできた。
「どうしてあなたまで来るのよ、見張りはどうしたの?」
「……一人じゃ心配だったの。見張りは、大丈夫よ。この男は何も出来ないわ」
「………………」
「………………」
「……やるわよ」
「…………ええ」
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ずっと上げていた両手をおろし、軽く振る。見下ろせばスカートに二つの山。エルフメイド達の頭だ。撫でてやりたくなったが、そんなことをすれば叫ばれるかも知れない。
二人の話し声はスカートに遮られてよく聞こえない。話がまとまったようで動きがあった。
逸物が温かく柔らかいもので包まれた。おそらく両側から唇で挟まれている。ぬめる感触は舌を這わせているのか。
扱かれ舐められ、先端だけをしゃぶられる。射精を促す激しさはなく、好奇心に任せて色々と試しているような緩やかな愛撫。
敵意満々だったのに、どうして二人はこんなことをしてくれるのか。今までのナザリックでの経験から、一つ推測があった。
アルベド様は食餌として求められるので除外するとして、シャルティア様は間違いなく性欲のために求めてきた。ソリュシャンは食欲のためなのでやはり除外して、ルプスレギナは発情期の解消のために相手をすることになった。
先ほどまでいた第二階層のヴァンパイアブライド達はいずれも妖艶な美女なのに全員が処女だった。
これらから、ナザリックは男不足であると推測できる。
思えば人の形をした男性をほとんど見かけない。セバス様やデミウルゴス様はそうなのだが、メイドである彼女たちがお相手願うのは無茶な話だろう。
衣食の世話になっているのだから、彼女たちの欲求不満を解消するのはやぶさかではない。
さっきはギンギンになったところで挿入までしてそれきりだったため、願ったり叶ったりでもある。
「はい? どちら様ですか?」
どこかから語りかける声があった。
スカートの中の二人は凍り付いたように動かなくなった。
「マーレ様からの言伝ですか? はい、はい、私にそのようなことを……。光栄です。感謝に堪えません。勿論です。いつまでもお待ちしております。はい、わかりました、そのように」
メッセージの魔法で会話している間に二人のエルフメイドはスカートから出ていた。
二人揃って口元をハンカチで隠し、鋭い視線で問いかけてくる。
「マーレ様から伝言がありました。私の衣装を選ぶのに時間が掛かるそうです。昼までには戻るのでここで待っているようにとのことでした」
まだ朝食を終えて間がない時間である。
昼までとなると相当の時間が空くことになる。
二人のエルフメイドは顔を見合わせた。金髪のエルフメイドが切れ長の目を細めて口を開いた。
「……この男を終わらせるのに口では時間が掛かりすぎるわ」
「あの男は三擦り半で終わったというのに、この男はおかしいんじゃないかしら?」
「いえ正常だと――」
「「あなたは黙ってて」」
「……はい」
どうする?、どうする?、マーレ様は時間が掛かりそうなのね、その間に私たちがどうにかしろと言う事よ、……提案があるわ、なにかしら?、一つ考えがあるけれどあなたにしろって言ってるわけじゃなくて私がするからどうかなって思ってるだけで、だから何よ?
金髪のエルフメイドは険のある表情ながらも顔を赤らめ、男をちらと見てから同僚の長い耳に唇を近付けた。そして言った。
「おまんこを使うわ」