ユリは満面の笑みを浮かべているが、中身はガチと書いてマジである。断られることなぞ夢にも思っていない。無垢な乙女にこのようなことをしておいて責任をとらないなんてあってはいけないことなのだ。アインズ様が実は魔法が使えない人間であるのと同じくらいあり得ないことである。
万が一にも断ろうものならショック症状を誘発した後に本気で真剣を振り下ろすに違いない。
ユリがそこまで思っていることをこの男は知らない。しかし、見下ろすユリを真剣に見つめ返し、重々しく頷いた。
「わかりました。責任をとります」
「うれしい♡」
今度はキスの雨ではなく、頬をとらえて唇へ。
腰の動きも再開した。前後左右のグラインドから上下運動へ移行。ぱちゅんぱちゅんと肉を打つ音に派手な水音が混じり合い、うおっほん! とルプスレギナが咳払いをしたところで中断した。
「盛ってるところ申し訳ないっすけど、おにーさんはどうやって責任とるつもりっすか?」
目の前で姉が男へ愛の告白をした感動的なシーンなのに、妹の目は白い。妹がいるのに何盛ってるんだこの姉は、と思うだけでなく、姉よりもこの男の性格を知っているからだ。
「そんなの――」
「そんなの決まっていますよ。ユリさんがセックスしたくなったらお相手するのが私の責任です」
「…………………………………………はあ!?!?」
ユリは盛大に面食らうが、ルプスレギナは案の定とばかりに大きく息を吐いた。
「ぜんっぜん違うよ! 責任をとるっていうのはボクと結婚することなの!」
「はあ? どうしてそれが責任になるのですか?」
「どうしてって……、だってボクとあんなことしたでしょ!?」
「ですから可能な限りお相手します」
「だからそうじゃなくて! 責任っていうのは、…………えーと、つまり…………」
「与えられた役割や任務を果たすことです。ユリさんをお慰めする事が私の役割に加わった、そういうことでは?」
「違うわよ!!!!」
真面目そうな話になりそうだったので、言葉の厳密さを求めて現地語から日本語モードに移行していた。
デミウルゴスに及第点をもらった日本語は上達し続け、今や会話の途中で言葉を切り替えてもユリやルプスレギナでは気付かないほど流暢に話せるようになっている。
『責任』がどのような意味を持っているか、以前貸与された日本語辞書に載っておりきちんと覚えている。辞書にはユリへ話したとおり「引き受けてなすべき任務・立場上負わなければならない義務」とあった。男は責任の意味を正しく知っている。
しかし問題が一つ。男が貸与された辞書は子供用の辞書だった。字は大きくて漢字には全て平仮名が振ってある。当然、収録語数は少なく、省略されている箇所も多い。日本語を一から勉強するのだから、優しい辞書から始まるのは当然である。
これが大人用の辞書だと責任の項目には「法的・政治的・道徳的責任」などが追加され、それぞれを解説している。
ユリが言っている責任とは道徳的責任なのだ。
もう少し詳しく書くと、結婚した男女しかしてはいけない行為を未婚の男女がしてしまうのはよろしくないため、それを正すために結婚しなければならない、ゆえに結婚するのが責任を取ること、となる。
同じ言葉を使って同じ単語を指しているのに、それぞれが捉えている意味が違っている。会話が噛み合うわけがなかった。
尤も、もしも男が大人用の辞書を熟読してユリが口にした責任の意味をしかと把握していれば、『でもそれってユリさんの気分の問題ですよね』とストレートに地雷を踏み抜き、撲殺されたことだろう。
「ボクにあんなに色々したくせにボクと結婚するのはそんなにイヤって言うわけ?」
ユリの目は据わっている。もう笑っていない。しかし、まだ騎乗位で挿入したまま。
「うーん……」
こちらの方は煮え切らない。どうしても嫌なわけではないが、どうしてそうなるのか。日本語ネイティブではないため、日本語で言う『責任』は辞書で得た意味以上の物を知らないのだ。
ユリとてどうして責任が結婚に結びつくのか説明できない。そのあたりのことはわかって当然と思いこんでいる。
このままではどこまで行っても平行線。どちらかが折れるしかない。このような時、折れるのは弱い方と決まっている。
ユリの媚肉が逸物にきつく絡みつき、勃起を強いて微妙な快感を送ってくるのだ。さっき出したばかりだが、そんなことをされたらもう一度しごいて欲しくなる。だけども、頷かない限りユリは動いてくれないだろう。下から突き上げようにも、高レベル物理職であるユリに抵抗されたらどうにもならない。
以前ソリュシャンが謀ったように、男が射精を求めるときは非常に意志が弱くなるのだ。
どうせたかだか結婚まあいいやとばかりに軽いのりで、
「わかりました」
と答えた瞬間である。
ルプスレギナが「おにーさんは私のお婿さんにするんすよ!」と苦言を告げるよりも早く、厳しさを浮かべるユリの顔に笑みが戻るよりも早く。
とち狂ったナーベラルが室内でドラゴン・ライトニングを使ったかの如く凄まじい威力と轟音を伴って、部屋の窓が木っ端微塵に粉砕された。
窓とは反対方向にある部屋の出入り口には、秀麗な美顔にデスマスクのような無表情を張り付けたソリュシャンがいた。内心の思いがどうであれ、常に美しい微笑を浮かべていたソリュシャンが無表情である。ただ事ではなかった。
ソリュシャンはドアを蹴破った脚を静かに下ろす。無表情のまま、ゆっくりと男女が絡み合うベッドに近付いた。
ユリは、ソリュシャンが放つ異様な圧に押されるように男の上から転げ落ちた。
姉を見る目は、無表情ながらも鋭く険しい。何も言わず視線を切った。ルプスレギナも一瞥され、ひっと情けない声を上げた。
ソリュシャンの目が止まったのは、未だベッドに横たわる男。どんな神経をしているのか、ソリュシャンの圧に晒されようと萎縮せず、立たせたままでいる。
この時ばかりはミルクの誘惑に耐えて股間に目を向けず、射抜くように、刺し殺すように男と視線をぶつけ合った。
「あなたは私と結婚すると約束したでしょう? それなのにユリ姉様と結婚するですって? ふざけているのかしら? 馬鹿にしているのかしら? 私をからかっていたのかしら? それともユリ姉様をもてあそんでいるのかしら? 私はセバス様にあの時の話を通しているのよ? それなのに私との約束を反故にするつもりなのね。…………………………プレアデスのこの私をここまで虚仮にするなんて!! ……ごめんなさい。あなたのこと、とても気に入っていたわ。でも駄目。生かしておけない」
ソリュシャンは腕を振り上げた。細く繊細な美しい指が形を失い、不定形の汚れた粘液と化す。同時にスキルも発動する。振り下ろすだけでも即死するだろうが、刹那でも早く死を与えたい。
ソリュシャンは、直属の上司であるセバスへ、ナザリックのシモベと現地の人間との婚姻を果たすにはどうすればよいのか相談している。セバスとツアレの結婚を念頭に置いたものであるが、それは自分と愛しのお兄様との結婚のカモフラージュに過ぎない。セバスもそれは知っている。ソリュシャンが人間の男との結婚を求めていることをセバスは知っているのだ。セバスとツアレ、ナザリックと現地人との融和の象徴等々、様々な建前を置いているが、最奥にはソリュシャンの欲がある。
だがしかし、自分と結婚の約束をした男はユリと結婚すると言う。
そんなことを許せようものか!
栄えあるナザリックの戦闘メイド『プレアデス』の三女ソリュシャン・イプシロンが、人間の男から結婚の約束を反故される。それだけでなく、自分の姉と結婚すると言う。
絶対に許せない!!
ナザリックの、プレアデスの、女の、ソリュシャンのプライドは跡形もなく打ち砕かれた。そんな恥を晒してはもう生きていけない。恥をかかせた男も生かしておけない。
この男を殺せばアルベド様から大変なお叱りを受けるのは間違いない。そんなことはもう全く構わない。自分も死ぬつもりなのだ。
自分はナザリックのシモベであることよりも女であったのか。だから女として恥をかかされたのが許せないのか。
この男と暮らしていた期間は悪くなかった。まさに蜜月。甘い蜜をたんと飲ませてあげたし、おいしいミルクをたっぷり飲ませてもらった。
少しだけ胸が痛んだ。
アルベド様の大切なお食餌を手に掛ける罪悪感か、シモベの命を大切にするアインズ様のお心を慮ってか、それとも、この男を失ってしまうことに対してか。
ソリュシャンは全ての想いを振り切った。
「さようなら、愛しのお兄様。偽りの兄妹だったけれど、あなたのこと、本当に愛していたわ」
事の成り行きに呆然として動けないユリと、妹の暴挙を止めようとするルプスレギナよりソリュシャンの方が早く、ソリュシャンよりも男が口を開く方が早かった。
「もちろんソリュシャンと結婚するつもりだ。約束を忘れてはいないよ」
ソリュシャンの腕は振り下ろされなかった。
ルプスレギナには訳が分からない。
いち早く我に返ったのはユリだった。
「ボクと結婚するって言ったのにソリュシャンと結婚ってどういうことよ!」
「ユリさんとも結婚しますよ?」
「はああああああああああ!?!??!」
「それじゃ私のお婿さんにもなるっすよね?」
「いやルプーとそんな約束は」
「じゃあ今するっす! 丈夫な赤ちゃんいっぱい産むっすよー!」
「じゃあってなんだじゃあって」
「うるさいっすね。シコシコもしてあげるっすから♡」
「うっ……」
固まったソリュシャンを押しのけ、ルプスレギナもベッドにあがった。宣言通りにシコシコし始め、男の体へしなだれかかった。
射精を前にした男という生き物は(以下略)。
「……わかったよ」
「わーい!」
結婚の約束を取り付けたルプスレギナは口も使い始め、手の動きを加速させた。
デュラハンであるユリと違い、ルプスレギナの口内は熱い。ユリに焦らされたのもあって、股間に集まった熱が放たれようとしたその時である。
「いたーーっ!? ちょ、なにするんすか!」
赤毛に包まれる大きな耳を強く引っ張られた。
射精の予兆はたちまち遠のいてしまった。
「私と結婚して、ユリ姉様とも結婚するですって? お兄様は一体どういうおつもりなのですか?」
「そ、そうだよ! 結婚は一人の相手とするものなんだよ?」
「えー、別にいいじゃないっすか」
「「ルプーは黙ってて!」」
「……はーい」
ベッドの上で美女姉妹から詰め寄られようとも、男の態度は変わらない。むしろどうして二人がいきり立ってるのか不思議そうに首を傾げた。
「確かに魔導国では重婚を認めていません」
ですが、と続いた。
「ですが、ナザリックは魔導国の法に従うのですか? もっと言えば、ナザリックの法は王国の法に倣うのですか?」
明後日の方向から放たれた致命打に、美女姉妹はピキリと固まった。
少しややこしい話になる。
エ・ランテルは魔導国の首都である。しかし、魔導国の所領となる以前は王国の都市であった。エ・ランテルは王国の法に従う。魔導国の所領となってもそれは変わらない。現在、アルベドを筆頭にナザリックの文官が物凄い勢いで法の改定を急いでいるが、それが終わるまでは王国の法を流用しているのだ。終わったとしても極端に変わることはない。エ・ランテルに住む魔導国の国民は、かつては王国民であったため、大きく変わってしまえば混乱が避けられないからだ。
当然のことながら、魔導国の法が新たに施行されても重婚は認められない可能性が濃厚である。
この男は魔導国の国民なのだから、魔導国の法に従わなければならない。
しかし、アルベド直属の配下であるため、ナザリックの一員でもある。
魔導国の法とナザリックの法が完全に同一であるならば兎も角、そんなことはあり得ないとナザリックの誰もが知っている。
であれば、魔導国の法とナザリックの法のどちらを優先すべきかは知れたこと。当然、ナザリックの法が優先であり、ナザリックのシモベはナザリックの法に従わなければならない。
ではナザリックでは重婚が可能か否か。
とても繊細な問題である。
現在、アインズ様の正妃をめぐってアルベドとシャルティアが対立しているのは周知である。どちらかが勝ってどちらかが負ける。負けた方は第二夫人になるわけだが、もしも重婚が禁止となると敗者は永劫に破れたままになる。
アルベドもシャルティアも、どちらも自分の勝利を疑っていない。しかし、どちらかは確実に破れるのだ。
その時、敗者を救う手段がなかったとしたら。
ユリとソリュシャンは顔を見合わせた。
これはアルベド様案件。いや、アルベド様を越えたアインズ様案件である。プレアデスである自分たちは迂闊に口を出せない領域の話。出してしまうと、上位者二人のどちらかから確実に責められる。そこに見えている虎の尾をわざわざ踏むほど愚かな二人ではない。
「いーじゃないっすか別に」
人狼であるからか、ルプスレギナはおおらかだった。
「……お兄様は私とユリ姉様の二人をご自分の妻とするおつもりなのですか?」
「ちょっとちょっとソーちゃん、私が入ってないっすよ!」
「三人も娶るつもりですか?」
「三人が俺の妻になると言うより、俺が三人の共有物になるって表現の方が正確だと思うな」
「……ユリ姉様、どうしましょうか?」
「そんなことボクに言われても……」
デリケート過ぎる案件である。
顔を見合わせた二人は、この場では解決できないことであると悟った。二人は揃って重い息を吐いた。
その拍子に、ソリュシャンの視線が少しだけ下がった。ユリの裸体が目に入る。見ようとして見たわけではない。ユリが裸のままなのがいけないのだ。
自分よりもちょっとだけ大きい豊満な乳房。無毛の自分と違って形よく整えられた股間の茂み。ぺたんと脚を崩して座っているため、見えてしまう秘部。割れ目はとろりと粘り気が強い汁を垂らしている。愛しのお兄様がたっぷりと放った精が溢れている。お兄様はシャルティア様に拉致られてナザリックにいたため、もう何日も味わっていない。それがこぼれ落ちシーツのシミになろうとしている。とても勿体ない。シーツのシミにするくらいなら自分が飲んだ方が。
「それはヤバすぎっすよ! ソーちゃんしっかりしろーーっ!!」
ふらふらと、うつろに姉へ近付くソリュシャンをルプスレギナがとっさに羽交い締めにした。このままだととても不味いことになりそうな予感がしたのだ。
「そっちじゃなくてこっちから直飲みするっす」
「え……、ええ、そうするわ。ルプー、ありがとう」
ユリは、自分の身に迫った危機に気が付かなかった。
ルプスレギナは、ソリュシャンはおにーさんの精液が大好きなのを知っている。そしてユリは、ついさっきたっぷりと中出しされたばかりだった。
ソリュシャンを止めないととても不味いことになりそうだった。
具体的にどう不味いのか、余りに不味いことなのでルプスレギナは考えることを止めた。
▼
「どういうこと?」
「こういうことです」
「ふざけないで!」
グィッ、グェェエ!
ナーベラルの問いかけはよく分からなかったので適当に返したら胸ぐらを捕まれて吊し上げられた。
痛みに強かろうと息が止まれば苦しいもの。苦しさに耐えられても肉体は生理反応を抑えられない。首を絞められて男の顔は真っ赤になり、ナーベラルは慌てて手を離した。ケホケホと咳込んだ男が立ち上がってから、要件を告げた。
「ユリ姉様とソリュシャンとルプーと結婚するって聞いたわ」
「正しくは、結婚する話が出ている段階です。何事もなければそうなるでしょうが、確定とまでは言えません」
モモンに扮するパンドラズ・アクターがアインズ様ロールをしている間、ナーベラルは黄金の輝き亭で一人でお留守番か、大きなお屋敷に宿泊することになる。お屋敷には姉妹が常駐しているので、大抵は後者である。
ユリは既にナザリックへ帰還し、ソリュシャンとルプスレギナは勝ち組の余裕でもって快くナーベラルへ時間を譲ってやったのだ。
もちろん、二人して覗き穴の向こうに控えている。性悪である。覗かれていることをナーベラルに告げないこの男も同罪である。
「どうして私がそこに含まれていないの!」
「どうしてと言われましても。ナーベラル様は私と結婚したいのですか?」
「馬鹿なこと言わないで。私が人間の男と結婚したいわけがないわ。でも必要に迫られてやむなくなら仕方ないも言える。……だからどうして必要なのか考えなさい!」
「ええ……」
何という無茶振り。これぞナザリッククォリティ。覗き穴の向こうでは性悪姉妹が爆笑している。笑い声で気付かれないよう互いのほっぺたを抓りあっている。どうしょもない姉妹である。
「特に必要では」
「必要な理由がどこかにあるって言ってるのよ。いいから考えて」
「そう仰られても……、そもそもナーベラル様と私とでは接点がありません。ないものを作れと言われても不可能です」
「っ……」
険しさを装っていたナーベラルの顔が痛みを堪えるように歪んだ。
「ですが美姫ナーベとなら何とか」
「……それは?」
「ナーベ様はモモン様の冒険者としてのパートナーです。そしてモモン様にはお美しい婚約者がいらっしゃいます。ですが、モモン様はナーベ様と行動を共にしている。男と女が一緒にいれば何かと勘ぐられるものです。そのような風聞を消し飛ばすために、ナーベ様がモモン様以外の男と結婚していると知らしめるのは悪いことではないかも知れません。結婚に至る過程は、顔を合わせ続ける内に想いが深まってとか何とか適当に」
「それよ!」
「ですがそうしますと、魔導国の一国民として結婚する形になるので」
「私がそれでいいと言ってるのよ」
「……はあ」
喜色満面のナーベラルである。
一番の懸念が解消されたので、ちらちらと男の顔を窺った。同じ頻度でベッドにも視線を飛ばす。繰り返す度に頬が赤くなっていった。
「それでは、夫婦となったときの予行練習をしましょうか?」
「え……ええ。それで、いいわ」
二人は予行練習した。
翌朝、ナーベラルは二人の姉妹から予行練習と散々耳打ちされることになる。真っ赤な顔をパンドラズ・アクター様に心配され、馬鹿姉二人に復讐することを決意した。
本作の着地点だけはなんとなく決めてます(たどり着くかは未定)
でもプロットとか考えたこともないので次話未定
アウラと出番が遠ざかってるシクススとメインのアルベドをどうにかとは思うけど未定
とりあえずよい連休を