最近のアルベド様は以前にも増して滅茶苦茶忙しくなりました。
アインズ様の不在時はナザリック全体の運営を担う大任を仰せつかっております。能力的に果たせるのはアルベド様だけでありまして、それ以前に、他の者たちではあまりにも重大すぎる任務にプレッシャーで押し潰されてしまうことでしょう。アルベド様だからこそ可能な大任なのです。
カルネ村も放っておけません。ゴブリンたちがエンリ大将軍を担ぎ上げていい感じに自治が行われていますが、カルネ村はアインズ様がこの地で初めて接触した人間の村であり、ナザリックの橋頭堡とも言えるからです。先の遠征でアインズ様が連れ帰ったドワーフたちを受け入れるのもカルネ村です。お客様ではなく定住するので、寝床を用意したからはいどうぞと言うわけにはいきません。受け入れ体勢を整える必要があります。
エ・ランテルは魔導国の首都なので現時点では一番力を入れているところです。王国の一都市から魔導国の首都となりましたから、司法やら行政やら立法やらなんやらでやることが山積みです。
極々簡単な例を上げると、AさんがBさんを殴って全治一週間の怪我を負わせました。さて、Aさんの罪は如何に? 単純なようですが、Aさんが殴ったのは物盗りのためか、口論が行き過ぎた喧嘩か、腹の虫の居所が悪かったのか、殴ろうと思って殴ったのではなくたまたまAさんのグーの先にBさんがいたのか、以前やられたのでその報復か、などなど、様々なケースが考えられます。悪いことをしたから兎も角死刑!、なんて馬鹿なことは出来ません。そんなことをすれば誰も彼も破れかぶれになって凶悪犯罪が多発した末に国力が細るのが目に見えています。罪に相応の罰が要るのです。刑法の一つをとってもこれです。どうでしょう、めっちゃ面倒くさそうでしょう。
魔導国は人治ではなく法治国家です。その時の気分次第で罪状を決められないのです。
アルベド様は王国の法を熟読し、帝国の法も参考にし、エ・ランテルの法を改定しているのです。法律一つとっても要勉強なのです。それ以外にも外交に内政にとあれやこれやで。
あちらこちらに散見する慣例や伝統も放置できません。それらは、よく言えば長い時間の中で効率化された手法と言えますが、悪く言えば思考停止の前例踏襲です。偉大なるアインズ様が治める地を何となくでやっていいわけがありません。一つ一つ精査する必要があります。
その間にもナザリックとエ・ランテルの運営をおろそかには出来ません。
もうめっちゃくちゃ大変です。
だからといって投げ出すわけにはいきません。自分にしかできないことなのですから。
自分以外に出来そうなデミウルゴスは出張中、パンドラズ・アクターはアインズ様の影武者中。他に知識労働が出来そうなのは見あたりません。如何に優れた頭脳をもっていようと、絶対的に手足が足りないのです。
エ・ランテルの大きなお屋敷に囲っているあの子なら即戦力になるとは思っています。
王国や帝国の書物を要約してアインズ様にご報告する能力があり、デミウルゴスの教育によって都市に必要な機能を把握し、亜人にアンデッドに人間が混在するエ・ランテルの人間側の要人として知られるあの子なら、おそらくは自分が求める能力を発揮してくれるだろうとは思っています。
ですが、それはしたくありませんでした。
あの子が働いているところを見たくないのです。お屋敷でのびのびと暮らしてくれているだけでいいのです。色々なことを好きなだけ学んでくれて構いません。ですが、それを有効活用させようとは夢にも思いません。言ってしまえば、学習のために手を掛けるだけ無駄です。それでいいのです。
無駄なことだとわかっているけれど、手間暇掛けて磨き上げる。これぞ贅沢と言うものでしょう。
勿論のこと、アインズ様が一言仰せになればそんな贅沢と甘えは捨て去って最適効率でもって有効活用する所存ですが、あれはアルベドのだから、と言うことのようで話にも上がったことはありませんでした。
と言うのは以前の話。今となっては行政などに関わらせるわけにはいかなくなりました。
それはそれとして、お食事の時間は癒しの時です。
アインズ様の不在時は寝る暇も食事の時間も惜しんで、エ・ランテルに行ってもかつてのように滞在時間十分でした。お仕事を一生懸命頑張りました。
ところが、お戻りになったアインズ様からお叱りの言葉を受けてしまったのです。ナザリックの為に働いてくれるのはうれしいがきちんと休まないとダメだぞ、なのです。
ああ、アインズ様はなんとお優しい方なのでしょう。全ナザリックに感動と感涙の嵐が吹き荒れるのはいつものことです。
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「どうぞごゆるりとお過ごしください」
「もちろんよ。そのために来たんだから」
エ・ランテルの大きなお屋敷のお食事部屋では、お屋敷の真の主人であられるアルベド様がふかふかのソファに座っています。今日はふわふわのクッションが敷き詰めてありました。大きなお尻が深く沈み込みます。確かに腰を下ろして座っているのですが、体重が絶妙に分散されてまるで水の中に浮いているような不思議な座り心地です。いつも使う椅子がこれだと動きにくくて不都合がありそうです。体を休めるときに偶に使う程度なら面白くていい刺激になります。
アルベド様をお迎えする若旦那様の趣向であることは言うまでもありません。
「はあ……」
アルベド様は空になったグラスをもてあそびながら、憂えた眼差しで小さく息を吐きました。一生懸命働いていたがために、偉大なるアインズ様のお優しいお心を無下にしてしまいちょっぴりお叱りを受けてしまったのが堪えているのです。こんなところを他のシモベたちの前では見せられません。特にシャルティアに見られようものならプークスクスザマァダカラ年増ハ、とかなんやかんやあった末にグーとかパーが繰り出されます。ちなみに、いつぞやピッキーの前で大いに荒れたのは忘れました。あれはノーカンです。
憂えるアルベド様はとてもセクシーでした。
ここで「お疲れさまです」なんて言うのは何も知らない素人です。ナザリックのシモベたちがアインズ様のために働いて疲れなど覚えるわけがないのです。中でもアルベド様は100レベル。一日30時間の超過濃密労働が一ヶ月続いてもへっちゃらです。
そこのところをきちんとわかっている若旦那様は何も言いませんでした。アルベド様の右斜め前に立ち、給仕をしています。美の神秘が世界の壁を突き破って現世に顕現為さった美の具現の憂える姿を一瞬たりとも逃がさんとばかりに見つめています。一瞬一瞬が至福の時です。
「隣に座りなさい」
「はい」
腰から生える一対の黒翼を大きく広げます。翼の内側に座れと言うことです。そのあたりのことは一々口で言わなくても伝わるようになりました。
アルベド様と太股が触れ合う距離に座りました。太股が触れ合えば他の部分も触れ合います。柔らかな感触に甘く芳しい体臭、徐々に伝わってくる体温。
グラスをテーブルに戻し、男の肩に頭を預けようとしましたが角がちょっぴり邪魔になるので代わりに胸へすがりつくようにしなだれかかりました。
「…………私がこうしたら肩を抱くとか頭を撫でるとか、何かあるでしょう?」
「よろしいのですか?」
「言われる前に出来るようになりなさい。恋人にするように優しく」
今日のアルベド様は恋人プレイ気分でした。
命令したり乱暴なプレイをしたりサキュバススキルで無理に搾り取ったりせず、まったりイチャイチャしてちょっとだけブルーなハートを癒したいのです。
アルベドからも優しくするつもりです。して欲しいことをしてあげて、たっぷり甘えさせるつもりでした。
と言うのも、この後ちょっぴり厳しいことを言わなければならないからです。
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アインズ様が遠征からお戻りになって数日後のことでした。アルベドはこっそりアインズ様から呼び出されました。メイドたちを使った伝令ではなく、メッセージの魔法で執務室にこっそり来るよう命じられたのです。
アルベドはピンと来ました。
プロポーズに違いありません!
アインズ様の遠征に随伴したシャルティアは、まあまあそれなりにきちんとすべきことが出来たようでアインズ様にご迷惑をお掛けすることなく、アインズ様が想像していた以上の成果を上げたそうです。言われたことができた程度で偽乳小娘は有頂天です。調子に乗りまくって鬱陶しいことこの上ないです。
そんなシャルティアの耳に触れさせないがために、アインズ様はメッセージの魔法で伝えてきたに違いありません。ああ、なんてお優しいアインズ様、とアインズ様賛歌を作詞してしまいそうになったアルベドですが、ぐっと我慢しました。
なにせプロポーズです。当然お受けします。お受けした後でどのように振る舞えばいいでしょうか。執務室で。アインズ様のお部屋で。シチュも色々考えます。あんなことやこんなことやどんなことがアインズ様のお気に召すのでしょうか。
脳内で108通りの妄想を考えていたにも関わらず表情にはおくびにも出さずアインズ様の執務室の扉を開きました。
何故かデミウルゴスがいました。どこかしら申し訳なさそうな顔を向けてきます。
デミウルゴスを同席させてプロポーズするのは、きっと素早くナザリック内に周知させるためだと思ったのですが、
『これを読んでみろ』
十数枚の文書を渡されました。
一目で気付きました。これはエ・ランテルに囲っているあの子のレポートです。
こんなものが出てくるのですから、どうやらプロポーズは後回しのようです。内心では大層気落ちしながら、命じられた通りに読み進めました。
面白くはありますが荒唐無稽でした。
レポートでは芸術の都の必要性を訴えています。かなり息の長い計画とは言え、見事に芽吹けば相当の物を築く事が出来ます。種まきに一世代、形になるのにもう一世代、収穫できるのは次の世代から。まず100年から掛かります。しかし、上手く行けば文明を数百年単位で加速することが出来そうです。
ただし、現在のナザリックはそこまで手を伸ばす余裕がありません。アインズ様が世界征服を達成なさったらこのような都市を造るのも悪くはないでしょう。
そのように所感を述べたところ、
『次はこれだ』
続いての文書はたった二枚。どうやら先に読んだレポートの序章に当たる部分のようです。
そこには、まずジャガイモの皮を剥きます、のような乗りで、まず人類を絶滅させます、とありました。
近隣諸国の人口から、世界人口(人間以外にも文明を持つ知的生物を含む)を約4億と推定しています。こんなに要らないので、まず千分の一にします。具体的には田畑を焼き、塩を撒くとあります。一定規模以上の人口を支えるには農耕が絶対に必要で、狩猟採集だけで維持できる人口はたかが知れているのです。
収穫された麦や米は倉庫に保管してあるでしょうが、田畑はそうはいきません。城壁で囲ってあるわけでもありません。世界は広く、田畑は様々なところに点在しているでしょうが、数年に一度焼けばいいのです。塩を撒けば土地は死に、作物を育てることが出来なくなります。10年としない内に何もかもが滅ぶでしょう。とても効率的です。もしも実行に移されたら、アインズ様が警戒なさっている法国すら簡単に滅ぶことでしょう。
その作業の傍らに、教育を与えるに値する人物を選別していくとあります。
『何が問題かわかるな?』
アインズ様は滅茶苦茶なレポートに、怒っているというか扱いに困っているようでした。
対象が広いとは言え数年に一度でよいのですから、ナザリックの能力なら決して不可能ではありません。火を放つだけなら力のないシモベにだって可能です。
しかし、目論見通りに対象が衰退していく前にナザリックがしたことだと発覚すると、ナザリック以外の全勢力が敵対してしまいます。無敵のナザリックとは言え、未知の敵を作るのは慎重なアインズ様の好むところではありません。
ナザリックのしたことと知られなかったとしても、全てが死に絶えるとは限りません。例えば、アインズ様のようにアンデッドは飲食不要ですし、飲食不要となるアイテムが存在しないとは言い切れません。現に、アインズ様はそのようなアイテムをいくつもお持ちです。
そして一番の問題点は、多様性が失われることです。ナザリックの文化と文明は確かに素晴らしいのですが、それ一色に染めてよいものかどうか。アインズ様がこの地で初めて見た生活魔法なるものは、ナザリックには存在していません。ナザリックから生まれるとも思えません。それらの芽を全て刈り取ってよいものかどうか。
アルベドはアインズ様へそのように申し上げました。アインズ様は我が意を得たりとばかりに頷かれました。
『これはアルベドも知ってるあの男が書いたものだ。人間が嫌いだとは思っていたが、まさかこんなことを考えてるとは……』
実は少し誤解があります。
デミウルゴス様に提出したレポートではありますが、課題図書の理解度を計るには他の二部で十分であり、アインズ様がお読みになった物はおまけのお遊びです。実行されたら素晴らしい文明が築けるとは思っても、まず不可能と思っていました。デミウルゴス様ならこんなのも面白く読んでくださるに違いないと思って書いたのです。
案の定、デミウルゴス様はかなり面白く読みました。やってみたいなあと思ってしまいました。アインズ様にこんなのがありますよとお見せしてしまいました。そしたらかくのごとしです。
もちろん、デミウルゴス様はレポートの内容を実行に移す際の問題点を把握しています。ですが、やってみたいなと思ってしまったのです。なにせ悪魔ですから。
『私が言いたいことがわかるな?』
処分しろとまでは言えません。人類絶滅ヒャッハー! はナザリックのシモベたちのデフォなのですから。
どうしろとは言えませんが、アルベドに然るべく対処をして欲しいのです。具体的にどうすればいいのかわかりませんが、アルベドならきっと何とかしてくれると信じています。
『かしこまりました。私から厳しく指導いたします』
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そんなわけで、厳しく叱らないといけないのです。
アインズ様のご命令なのでやらないわけにはいきません。でも、なんだか気が進まないのです。厳しいことを言ってこの子の態度が変わったら、とほんの少しだけ懸念があります。
まさかそんなことはないと思いますが、どうしてか気になってしまうのです。
そのようなわけで、鞭の前に飴をあげようと考えました。
角が肌を傷つけないよう気を付けながら、固い胸板に頬ずりします。相変わらずの好い匂いでサキュバスの本能を刺激します。押し倒してちゅっちゅしたくなってしまいます。
肩を抱かれました。アルベドが言いつけた通りの行動なのですが、躊躇うような恐れるような、いつもとは違って手付きから迷いが感じられました。
怪訝に思って見上げると、ナザリックにも稀な美貌は困ったように眉根を寄せていました。
「恥ずかしながら恋人へどのように振る舞えばよいのか。恋人がいたことはありませんので」
「………………は?」
まさかその顔で恋人がいたことないわけが、と思ったところでずっと監禁されていたことを思い出しました。
自由だった時分はおそらく十歳前後。色も恋もまだでしょう。
あの女がずっと傍にいたはずですが、この子の前であの女の名前は絶対に出したくありません。
「それなら私が教えてあげるわ」
あの女とは肉欲に爛れきった関係だったのでしょう。ただそれだけの関係です。
この子にはまだ誰も踏み行ったことがない未開の領域があることを知り、アルベドは胸の奥で生まれた優越感で、にんまりとした笑みを浮かべました。
オバロ二次ってチートっぽいオリ主はいても本来の意味のチート(不正改造)は見ないです(正確に言うと見たことはあるがプロローグだけ)
レベル100万のオリ主とか扱いに困るかな?