「ともあれ、短い期間になると思いますがよろしくお願いします」
「ふん……アインズ様とアルベド様のお言葉がなければお前のような下等生物の手を取ることなんて絶対にあり得ないわ。よく覚えておきなさい」
「心得てますよ、ナーベさん」
ナーベラルは清らかな乙女がぬめつくナメクジを触ってしまった時の顔で男が差し出す手を取った。
メキャァ、ギッ!、まあ大変応急処置は私にお任せを、痛みが引いてくけど痺れるような?、うふふ麻痺毒を応用した麻酔ですわ、色々なことが出来るんだね、うふふお任せあれですわ、痛みは引いたしそろそろ治療をお願いしたいのだけど、うふふ、ソリュシャン?、うふふお兄様の血もお肉もとっても美味しいですわ!、ちょ溶けてる溶けてる、ああお兄様お兄様ずっとソリュシャンの中に……、ナーベさんソリュシャンの気付けをお願いします、わかったわライトニングランス!、ピギィ!
こんなこともあろうかとアインズ様は幾つものポーションを置いていきました。アインズ様は未来をも見通す端倪すべからざる御方。さすがはアインズ様です。
「ナーベラル様は戦闘メイド・プレアデスの一員と伺っております。今でこそ冒険者を装っていますが本来の仕事はメイドであるとか」
「その通りよ。お前如きでは決して足を踏みいることが許されないナザリックの第九階層ロイヤルスイートにて至高の御方々へお仕えすることこそ私たちの役目」
「そうですか……」
「なによ」
男は難しい顔をして顎をさすった。もしかしてナーベラル様は、
「ドジっ娘メイドですか?」
ナーベラルは静止した。小突けばビキィとひび割れそうである。反対にソリュシャンは美しい笑みを張り付けたままビクンビクンと震え始める。かなり怖い。
再起動したナーベラルは真っ赤な顔でドジっ娘を否定。ソリュシャンはずっとビクンビクンしていた。
▼
メイドたちへ冒険者のナーベ様がしばらく御逗留されることを告げ、夕食を挟んで夜。ちなみにメイドたちは現地で雇った者が多数、ナザリックで行儀を習った者が少数。
男の部屋は開錠(物理)を受けたため施錠不可能。アルベド様のお食事部屋は論外。ソリュシャンお嬢様の寝室も考えられたがナーベ様に逗留していただく客室で行うことになった。行われるのはナーベラルの性感帯開発の一歩手前、兎にも角にもタッチされても手がでないようにすることが先決である。
「それでは早速始めましょうか」
昼とは違って薄手のシャツにピッチリしたズボンのナーベラル。その周りを昼と同じように男が一周二周。後ろに回ってお尻をペロッと。ナーベラルはむっと眉間に皺を寄せる。二回目のタッチでむむっとなる。む、むむ、む、むむ。下がった手が拳となるも振り上げられない。昼の訓練で耐性が出来たのか順調である。それなのに物言いがついた。
「後ろからだと誰に触られているのか見えませんわ。私も何度か触ったけれどナーベは気づいたかしら?」
「えっ?」
むむっと来たのがソリュシャンタッチ。呆けるナーベラルへ男は微苦笑。提言を受けてナーベラルの前に立った。
「おかしなことをしたら殺……ころ……ただじゃおかないわ!」
「ナーベさんの訓練です。お忘れなきよう」
「!!」
殺意たぎる視線を間近で受けて、男はナーベラルに抱きついた。両手はナーベラルの背後へ回り、尻肉を掴むのではなく腰を抱くのでもなく、その中間へ手の平を押し当てた。きゅっと力を入れればナーベラルの体がかすかに跳ねる。手の平の温度がナーベラルへ伝わり、ナーベラルの温度が手の平に伝わってきてから手はゆっくりと下がった。胸の時とは違って最初から無遠慮に尻肉を掴む。ナーベラルの体がかすかに跳ねる。こね回し撫で回し、ナーベラルの視線は強くなる。熱を帯びる。
尻は胸より遙かに鈍感。撫でた程度では刺激が薄い。代わりに今は抱きしめられてる。暖かい吐息が顔にかかって、ナーベラルは顔をしかめた。射殺すように睨みつけても男の笑みは変わらない。諦めて顔を伏せた。男の胸に顔を預けた。
こんな下等生物に体を触られるなんてお尻を撫でられるなんて、アインズ様のご命令でなければアルベド様のご飯でなければ八つ裂きにしてくれるのに、お尻を撫でられてるだけなのにお尻はくすぐったいだけなのにどうして力が抜けていくの?、きっとおかしな魔法を使ってるなんて卑怯、体が熱いのもきっとそのせい胸がきゅんとするのもきっとそのせい、見苦しい顔じゃないけどこんな近くにあるなんて、誰か誰か助けて、ナーベラルはナーベラルは、!?、おなかにかたいものが押し当てられてる、熱くて固くて大きくて、熱いのはきっとこのせい、こんなよくわからないものを押し当てて、ひゃぁっ!?
得意とする電撃系の魔法が背筋を貫いた。痛みは皆無でも衝撃は大きく、ナーベラルは背筋を大きく反らせた。
「ナーベ様はとっても敏感でいらっしゃるのね。背筋を撫でただけであんなに大きなお声を出して。お兄様に抱きしめられるのがそんなによかったのかしら?」
ソリュシャンはくつくつと嗤い、反射的に距離をとったナーベラルの代わりに男を抱きしめた。
「お兄様もいけないお方。ナーベ様を抱きしめてこんなに固くしてしまって」
男の胸へしなだれかかり、繊手は男の股間へ伸びた。男が着るのは夜着にしているガウン一枚。合わせから中に忍び込み、
「さ……さっきから私に当ててたものは何だ!? 一体何を隠している!」
「えっ」
「えっ」
「……二人とも何だその顔は」
そんなつもりはなかろうとも、ナーベラルの甘い吐息と甘い感触、そこへ加えて弾力ある尻肉、顔を赤くして睨みつける様子は可愛らしく、ついには力を抜いて体を預けてくる様子は非常にそそった。ついと言う奴だったのだけど、ソリュシャンに握られる前に力を失ってしまった。
「作戦タイムを要求します」
どういうことでしょうか、そんなこと私に言われても私たちはかくあれと創造されたのであって、知識に差があると、そういうことよ、私の手には余るんですが、でもアルベド様のお言葉が。
本日の訓練は一先ず終了。
二人が退室するとナーベラルは胸をかき抱いたままその場は崩れ落ちた。赤い顔のままずっと胸を抱いていた。
▼
男はアルベド様の食餌であるが表面上は高等遊民。食っちゃ寝して時々メイドのお尻をペロッとしていやん若旦那様のエッチ!、と言う毎日。
それでは流石に暇すぎて日中は読書に勤しんでいる。読んでいるのは帝国の風俗史。慣習・習俗・伝統などをまとめた書籍である。ペラペラと読み進み、数ページ毎に内容を要約して口にする。ソリュシャンに聞かせるためである。ソリュシャンお嬢様は帝国から来たお嬢様というストーリーなのだから知っておくべきだった。
長椅子の前に書見台を置き、二人は並んで座っている。今日はそこへナーベラルも。男を挟んでソリュシャンの反対側に。冒険者として知っておいて損はない。そんな間も訓練継続。男の手に手を重ね、嫌々ながらに握っている。ナーベ様は力加減があれなのでソフトタッチを覚えるためである。
始めは手の甲に手の平を重ねるだけ。それが手の平に手の平を重ね合う。指が絡んで握りあい、横目で覗いたソリュシャンお嬢様がはしたなく脚を上げました。
「飽きてしまいましたわ」
書見台をどけて、はしたなくもスカートをたくし上げて股を広げ、苦笑する男の膝に乗り上げた。
「少し休憩にしましょう? ちゅっ」
男の頬を捉え、紅い唇を合わせた。じゅるじゅると鳴るのは唾をすする音。たっぷり10秒間鳴り響き、顔を離したらサイドテーブルのグラスに手を伸ばす。口に含んで口移しに。そうしてもう一度唾をすする。ナーベラルの驚愕の目に挑発的な笑みで応え何度も何度も唾をすする。
休憩終了読書再開。
二人が何もなかったかのように読書を続ける横でナーベラルは赤い顔を俯けていた。
▼
本格的な訓練は夜になってから。今日は男の寝室で。
「ソリュシャンは?」
「ソリュシャン様はセバス様に報告があるとかで先ほど屋敷を離れました。今夜は二人だけです」
呆然と立ち尽くすナーベラルへガウン一枚の男は近付いた。昨日と同じにナーベラルの周りを一周二周。正面から距離を詰め、
「ひっ」
左手が背中で右手は前へ。左手が尻を撫で右手は胸に触れる。
初めては五度で手が出た。今は五度で強ばりが消えた。十度で体のどこかが熱くなり、二十で吐息も熱くなった。昼のソリュシャンを思い出す。何度も何度も唇を合わせていた。キスくらいは知識にある。男の顔が目の前にある。視界に入れても見苦しくはない。笑ってない。真っ直ぐに見詰めてくる。右と左で色が違う。目線を下げれば唇がある。温かい息が顔にかかる。人間だけれどイヤな匂いではなかった。
ソリュシャンのようにするべきか。視界は男の瞳だけになって熱い吐息が唇を撫でて、ナーベラルは思考を放棄して、
「合格よナーベ」
「!?」
ソリュシャンの声で我に返った。
「昨日手が出なかったのはソリュシャンがいた影響と思って今夜は席を外してもらったんです」
とは言え不慮の事態に備えて物陰に隠れていた。けしてナーベラルをからかいたかったわけではない。
「アインズ様からのご要求は多少のスキンシップを受けても手が出ないようにです。さすがはナーベラル様、たった一日で課題をこなすとはお見事です」
「え……」
「これで美姫ナーベとしてモモン様の元へお戻りになっても何の問題もないでしょう」
「え……」
「ふふふ、よかったわね、ナーベラル」
「……これで……終わり?」
「そうよ。残念かしら?」
「そんなわけないわ。モモン様の元へ戻れるのに喜ばないわけがないでしょう!」
「それもそうよね」
ふふふと嗤う。
「でも残念ね。訓練期間はまだ終わってないわ。今戻ってもモモン様にご迷惑をお掛けするだけよ」
与えられた訓練期間は数日あった。その数日の間はモモンなりの予定が詰められている。予定とは予定通りに進むのが一番好ましく、ナーベの都合でモモンの予定を左右するのは許されない。
「それにアルベド様のお言葉もあるし、なによりも……」
擬態に張り付けている微笑を取り払い、真剣な顔でナーベラルを見た。
「お兄様の熱くて固くて大きいものが何かもわからないなんて姉として恥ずかしいです」
「姉!? 私たちは二人とも三女でしょう!」
「知らないから妹です」
「何を知らないって言うのよ」
「ナニです」
「何って何!?」
言い合う姉妹を尻目に男は嘆息した。出来れば避けたい流れであった。ナーベラルはきっと力加減が不得手なドジっ娘メイド。万一竿をメキャァとか玉をグチャァとかされたらと思うと背筋が凍る。立つものも立たなくなる。しかし拒否権はない。ソリュシャンのお兄様でお屋敷の若旦那様は所詮フェイク。実態はアルベド様のご飯である。
性格上準備会が省けなかったよ