なんか91話が二つあったので片方消したら両方消えてしまいました
よって投稿しなおし
折角元日0時に投稿したのに!
ナザリックから帝都とは反対方面へ遠く離れたアベリオン丘陵には、聖王国を苦しめている亜人たちの拠点がありました。
昔から亜人たちと聖王国では緊張状態にありましたが、かろうじて保たれていた均衡が完全に崩れ去ったのは魔皇ヤルダバオトが現れてからのことです。
亜人と一言で言っても、様々な種族と、それぞれに様々な部族がありました。互いに仲良くできるわけがなく、聖王国へ攻め込む以前に亜人同士で争っていたものです。
そこをヤルダバオトが全部まとめてフルボッコ。瞬く間に亜人たちを束ねて亜人連合と成し、聖王国へ攻め込んだのでした。魔皇ヤルダバオト率いる亜人連合に侵略された人間の土地では、地獄もかくやという凄惨な光景が現出しました。
その亜人連合の本拠地であるアベリオン丘陵。
中でも選ばれたものしか近づけない魔皇ヤルダバオトのお膝元では、とても和気あいあいとした心温まる情景が展開されておりました。
「エントマにお土産よ」
「わあぁ、ソリュシャンありがとぉ」
エ・ランテルのお屋敷のソリュシャンお嬢様ことナザリックのシモベであるプレアデスのソリュシャン・イプシロンは、アベリオン丘陵に詰める妹のエントマ・ヴァシリッサ・ゼータの所へ陣中見舞いに来ていました。
本来の目的は、自分の姿をグレーター・ドッペルゲンガーに写し取らせることですが、そちらはもう完了しています。顔を見せるだけで済んでしまう簡単なお仕事です。
わざわざエ・ランテルから遠く離れたアベリオン丘陵まで来たのだから、それだけで帰るのはちょっとあれです。そんなわけでして、妹を見舞っているところなのです。尤も、遠く離れた土地と言っても魔法で一瞬で移動したわけですから、関係者各位の時間と都合がつけばいつでも行き来出来たりします。その都合をつけるのが難しいところではありますが。
「おいしいいぃいい!! なにこれぇ!」
にっこにこした雰囲気でエントマがかじり付いているのは、人間の腕でした。エントマはソリュシャンのお土産を早速味わっているのです。
エントマは可愛い顔をした女の子に見えますが、可愛い顔はフェイク。可愛い顔は仮面の形をした蟲なのです。本当の顔は仮面の下にあります。そのため、エントマがお食事をするときは、仮面の下へ食べ物を差し込むため、顎から食べてるように見えたりします。そのあたりは幻術の応用次第で普通にお口から食べてるように見せることも出来るのですが、今はエントマとソリュシャンしかいないので、あまり気にしていないようです。
「うふふ、美味しいでしょう? まだまだいっぱいあるわ」
大人の腕一本をたちどころに完食したエントマへ、ソリュシャンは新しい腕を体の中から取り出しました。
エントマへのお土産は、左腕と右足左足を合わせて二十本もあるのです。実際にカットした本数と計算が合わないのは、残りは全部ソリュシャンのおやつになるからでした。
「私も凄く美味しいと思うわ。味わい方は違うけれど、やっぱりエントマも美味しく感じるようね」
「すっごくおいしいよぉ! どうしたのこれぇ?」
「お兄様にお願いしたら、快く差し出してくれたの」
「お兄様? ソリュシャンのお兄様なら私のお兄様なのぉ?」
「違うわ。お兄様は人間の男よ。エントマもいつか会うことになるでしょうから簡単に説明しておくわね」
お兄様は人間の男でアルベド様のお食餌である。アルベド様が大変大切にしていらっしゃるので、殺傷することは絶対に禁止。
頭がとてもよくて痛みにはとても強くて、自分が丸飲みして一日中溶かしてもけろりとしている。
デミウルゴス様がお兄様の頭脳を評価していらっしゃる。アインズ様もモモン様として時々言葉を交わしにいらっしゃる。
どういうわけかシャルティア様のお気に入りになってしまって、アルベド様と取り合いになってしまったことがあった。あの時、板挟みにされたのはとてもつらい経験だった。
エントマが今味わったとおり、血も肉もそれ以外も、とっても美味しいお方。
「ナザリックの外の人間なのぉ? 食べてもいい人間?」
「勝手に食べてはダメよ。お願いすればこうして食べさせてくれるわ。回復しないといけないけれど。ナザリックの外から来た人間なのは確かでもアルベド様に捧げる忠誠は本物よ。エントマが勝手に食べたりすると、間違いなくアルベド様からお叱りを受けるわ。そこだけは気を付けて」
「ふうぅん?」
「それでね? 私、お兄様と結婚しようと思ってるの」
「………………………………………………え?」
ソリュシャンが、人間を苦しませて観察するのが大好きな生粋のサディスト凶悪スライムが、栄えあるプレアデスの三女である己の姉が、人間の男と結婚するとか言ったような気がしたけれど流石にそんなことはあり得ないから聞き違いだと思って、エントマは聞き返しました。
「エントマは私のこと応援して頂戴」
「何を応援するのぉ?」
「だから、私とお兄様の結婚よ」
「……ソリュシャンが誰と結婚するのぉ?」
「私と、お兄様よ」
「…………お兄様って人間の男なんでしょぉ?」
「そうよ。結婚がスムーズに出来るようにセバス様へ根回ししているわ」
「………………えええええええええええええええぇぇぇぇえええええ!!!!! ソリュシャンが人間と結婚?!?!?!」
「驚き過ぎよ! 何が悪いって言うのよ。お兄様は私を愛してるのよ? だったらその気持ちに応えてあげてもいいじゃない!」
「ソリュシャンはぁ……、そのお兄様とか言うの、好きなの?」
「お兄様が私を愛してるって言うから。仕方なくよ。……………………?」
ソリュシャンは、唐突に振り返りました。
現地基準ではとても豪奢な、ナザリック基準ではとても質素な天幕の内壁が見えるだけです。
天幕の中にはソリュシャンとエントマの二人しかいないので、誰もいるわけがありません。ソリュシャンは、シーフ・アサシン系統のクラスを修得しているので探知や索敵はバッチリです。ソリュシャンの目をかいくぐって天幕の中に誰かが来れるわけがありません。
天幕の中には、やっぱり二人しかいませんでした。
「どうしたのぉ?」
「……お兄様がいたような気がしたのだけど、やっぱり気のせいね。今は帝国にいるはずだから」
帝国にいるはずのお兄様がすぐそこにいるような気がしてしまったのは、それだけ自分はお兄様を愛しく思っているからだと分析して、ソリュシャンは、プルンと体を震わせました。
「エ・ランテルにいたと思いましたが、今は帝国にいるのですか?」
「「ヤルダバオト様!」」
「今はデミウルゴスで結構」
今度は気のせいではなくて、魔皇ヤルダバオトことデミウルゴス様が天幕を潜って中に入ってきました。
今更のことですが、魔皇ヤルダバオトはナザリックのシモベであるデミウルゴスなのです。アベリオン丘陵の亜人たちと聖王国は、ナザリックのマッチポンプによって支配されることになるのです。
「お兄様は……、あ、いえ、その。……あの者は人類絶滅をアインズ様に上申したかどで、文化の多様性を知るために帝国で学ぶようアルベド様から命じられました。ご命令に従い、現在は帝国の帝都に滞在しています」
「ふむ……、そうなりましたか」
デミウルゴス様は眼鏡の位置をクイと持ち上げて直し、顎に手を添えて考え込んでしまいました。
人類絶滅は、デミウルゴスに提出されたレポートに書いてあったことなのです。
さすがのデミウルゴス様は、あれはあくまでも理想論であると察していました。出来ることと出来ないことくらい、さすがのデミウルゴス様はきちんと判別できているのです。それでもやってやれないことはなく、やってみたいことではありました。
アインズ様にこのようなものがありますよとお見せしてしまったのはデミウルゴスです。
あの男がエ・ランテルから帝国へ左遷されたのは、半分くらいはデミウルゴスのせいです。もう半分はあの男の自業自得です。
それでもいささかばかり悪いことをしたと思いました。
人間は消費する資源であると同時に己の嗜虐心を満足させる玩具くらいにしか思っていないデミウルゴスですが、ナザリックの同朋ともなればその限りではありません。
特にあの男の頭脳は、デミウルゴスも大したものであると認めるほどなのですから。
「ご機嫌とりなぞは必要ありませんが、そうですね。私からも土産を用意しましょうか」
人間の男が喜びそうなものを、実は確保してあるデミウルゴスです。
ナザリック的には特に必要ないものなので、使い潰して捨てていこうと思っていましたが、使えるものなら使うべきでしょう。
エコノミカルでエコロジカルなデミウルゴスでした。
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遠く離れた土地で話題になっている帝都のお屋敷の若旦那様は、夕飯を終えてから自室でぼけーっとしておりました。
揺り椅子に座ってゆらゆらしながら、目は開いてるような閉じてるような曖昧な状態で、慣れた者でないと寝てるのかと勘違いしそうです。
部屋には一人ではありません。若旦那様以外に、双子の幼女二人がベッドを温めています。まだまだ子供なので、暗くなるとおねむの時間になるのです。セットの抱き枕です。
「ほらほら、チビたちは自分の部屋で寝るっすよ。おにーさんの枕は私がするっすから」
そして後から入ってきたルプスレギナ。
意外に優しく双子を揺り起こし、けども中々起きないので、寝てる二人を抱え持って隣の部屋のベッドに放り込んできました。
「くっふっふ……、今日はじっくりたっぷりしっぽりするっすよーっ!」
ゆらゆらしてるおにーさんの後ろから抱きつきました。
首筋に顔を埋めてくんくんします。相変わらず好い匂いで、気分が高まってきます。
おにーさんは未だにぽけっとしているけれど、ルプスレギナは堪らなくなって耳をカプッとしました。
「……ルプーか」
「ありゃ、起きてたんすか?」
「そりゃ起きてるよ。少し考え事をしてたんだ」
「おにーさんっていっつも何か考えてるっすよねー。何考えてたんすか?」
「……空間のことだよ」
若旦那様は、ルプーには言ってもわかんないだろなあとか思いながら答えました。
繕うことを知らない素直な若旦那様なので、ルプーにはわかんないだろなあと思ってるのがストレートに伝わりました。
ルプスレギナは、ちょっとだけカチンと来ました。アルベド様やデミウルゴス様やパンドラズ・アクター様や、恐れ多くもアインズ様と比べれば自分の頭などたかが知れているとわかってはいますが、バカではないつもりです。
話す前から、お前じゃわからんと言われるのは頭に来ます。
「空間がどうしたって言うんすか? ちょっと話してみるっすよ」
頭に来たのもありますが、ここで知的な会話が出来ればおにーさんの好感度が稼げるとも思ったのです。
どういうわけか、ユリ姉とソリュシャンとナーベラルが、おにーさんと結婚したいと言っています。おおらかな人狼であるルプスレギナは、全員と結婚すればいいとか思ってますが、自分を優先して欲しいのが女心。
他の姉妹がいない今は絶好のチャンスなのです。
「……一次元とか二次元とか言っても、ルプーにはわかるかい?」
「それくらいわかるっすよ! 一次元が点で、二次元は平面ってやつっすよね?」
「……点は0次元だ。点と言うより大きさがないと言うべきだけれど。一次元は太さがない線だね。二次元は平面で合ってるよ」
「むう……。それで、三次元が立体。四次元は三次元に時間が加わったもの、であってるっすか?」
「それは不正解。四次元は立体に時間を加えたものってのは作家の空想だよ。空間の話だから時間は関係ない。それに時間を加えたら次元が増えるんなら、二次元に時間を加えたら三次元になるってことになる」
第四の次元を時間としたのはSF作家の空想なのです。そのあたりはナザリックの最古図書館にある辞典に書かれていました。辞典に載るくらい有名な作家のようです。
ちなみに、若旦那様が最古図書館で借りた本は、全て辞書、辞典、いわゆる全書の類ばかりでした。
日本語辞書が五冊。日本語学習用の時に使った子供用ではなくて、全部大人用の辞書です。
漢字辞書は三冊。漢字はともかく数が多いのです。内一冊は漢字の由来辞典でした。
英語辞書も三冊。英々辞書、英日辞書、日英辞書です。
ドイツ語辞書は一冊。色んな言語に手を出しすぎてもわからないかもと思ったので、こちらは子供用の優しい辞書です。幸いにもパンドラズ・アクター様がドイツ語教室を開いてくださったので、今度は難しい辞書を借りてこようと思っています。
数学事典が五冊。中身は覚えはしたのですが、完全な理解には未だ至っていません。学ぶためのテキストではなく、あくまでも辞典なので、内容が簡略化されている部分も多いのです。
合計で十七冊となり、貸し出し限度を超えているのですが、そこは司書長のティトゥス様が融通を利かせてくれました。若旦那様は、頻繁にナザリックを訪れることが出来ないので特別です。貸出期限もちょっと長いです。
なお、借りた本は全て古典に属するものばかりなので、閲覧制限には掛かりませんでした。若旦那様以外には借りるどころか読もうとすら思わないでしょう。
このようなわけでして、今やいつぞやユリが言っていた責任の詳細な意味をわかっているのですが、責任が結婚にどうしてつながるのかはやっぱりわかっていませんでした。
「ゼロ次元の世界があって、ゼロ次元の住人がいるとする。ゼロ次元は大きくも小さくもないそれだけの存在だから、自分以外の他者は存在しない」
「点が一個でそれだけってことっすよね?」
「……まあだいたいそんなところ。一次元世界になってやっと他者が現れる。見えるのは点だけだ。これが二次元になると点以外に線が見えるようになる」
「二次元って絵のことじゃないんすか?」
「それは三次元世界から見た二次元のこと。自分も二次元なんだから上からは見えない。俺もルプーも帝都の屋敷も、ナザリックも、全て高さが同じで真横からしか見えないって考えてみるといい。二次元には長さはあるけど高さがないんだ」
「……何となくわかるっす」
「点と直線でも色や光の加減で凸凹はわかるかもね。これが三次元になると高さが加わる。上から見ることが出来るから、二次元の世界を一発で見通すことが出来る」
「えーとつまり、横からしか見えないのが上から見えるようになったってことっすよね?」
「そう言うこと。そして三次元世界から二次元世界を折り曲げてみる。紙を折り曲げて、点と点を重ねるんだ。そうすると二つの点の距離がゼロに近付く。紙は重なっても一つに混じり合うわけじゃないから、ゼロに近づきはしてもゼロにはならない。ほんのちょっとだけ隙間がある。その隙間を通り抜けるのが、アインズ様やシャルティア様が使う転移の魔法じゃないかって思うんだ」
「ほえーーーーーっ!」
わけがわからない話だと思ったら、魔法の考察でした。
わけがわからないことばかり考えてるおにーさんだと思ってたら、意外や意外に実際的なことを考えてるようでルプスレギナは大いに感心してしまいました。
「転移の魔法は四次元に関与してる。四次元は、三次元の立体に四次元方向への軸が加わったもの。三次元世界はそちら方向への距離と言うか厚さがゼロになるから」
「ちょっと待つっす! 四次元方向への軸ってなんすか?」
「縦横高さの三軸の全てに直行してる軸のことだよ。四次元世界から三次元世界がどう見えるかは、三次元世界から二次元世界がどう見えるか考えるとわかってくる。四次元からだと、前を見てるのに後ろも横も見えるようになる。真正面から見ると奥行きがどれだけあるかわかんないだろ? それが見えるようになるわけだ」
「…………ほんとっすか?」
「本当だよ。ただ、三次元世界にいる俺たちは四次元方向が認識できない、はずだ。だから見えないしわからないし想像もできない。頭の中で組み立てるしかない。だけど仮に四次元方向が認識出来ると、三次元世界の距離があまり意味をなさなくなる。三次元世界では二次元世界の距離が簡単にゼロに出来るみたいに」
「…………………………」
やはりわけがわからない話でした。
一瞬でルプスレギナの理解を振り切って、文字通りの別次元へ遠ざかってしまいました。
ルプスレギナは、わからないかもと思ってたけどやっぱりわからなかったので、あんまり面白くありません。
おにーさんをぎゅうっと強く抱きしめて、ぐえぇと鳴かせました。
「変な話を聞かされて疲れたっす。私の疲れをとるためにたっぷりしっぽりを要求するっす!」
自分から聞いておいてこれである。
これぞナザリッククオリティ!
「明日は帝国の魔法学園に行くから夜通しとかは無理だよ」
「私もついてくっすからそれくらいわかってるっすよ。それでも三回くらいは、いいっすよね?」
拘束を緩め、耳たぶをカプリとした。シャツのボタンを外して中に手を入れ、胸板をさわさわしながら甘えた声でおねだりする。
ルプスレギナがおにーさんとエッチまでするのは、平均して三日に一度くらい。手や口だけだと三日で五回くらい。今日はその三日振り。手や口はおにーさんの方から頼まれるのだけれど、エッチまでは自分からおねだしりないとあんまりしてくれないのだ。
おにーさんが立ち上がってルプスレギナが蕩けた顔を見せたその時である。
まことに無粋なことに、球形の暗い扉が開かれた。
「アルベドが呼んでるでありんす。早く来なんし」
「はい、ただちに!」
ルプスレギナは、あっさりと袖にされました。これから濃厚エッチだと言うのに、さすがに面白くありません。ですが、階層守護者であるシャルティア様へ物申すことは出来ません。まして、アルベド様からのお言葉なら尚更です。
以前、シャルティア様にエッチの邪魔をされたことを思い出して、またしばらくお預けになるのかと思ってがっくりきました。
「明日の学園訪問は取りやめ。ルプーから伝えておいてくれ」
「……わかったっす」
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ナザリックに入るには、第一階層から入るか、表層部のログハウスにある魔法の扉を潜るのかのどちらかをしなければなりません。
今回はアルベド様にお呼ばれされているので、魔法の扉をくぐって第九階層へ直行しました。ログハウスではユリが何か言いたそうにしていましたが、シャルティア様の邪魔をするわけにはいかないので黙っていました。
さくさくと進んでアルベド様のお部屋の前。
シャルティア様がドアを叩くと内側から開かれました。
「連れてきんした。折角わざわざ帝都まで行って連れてきんしたでありんすから、終わったら私の所によこしなんし」
「……………………わかったわ。お前は早く入りなさい」
「はっ!」
若旦那様は、ドアの前で跪いておりました。
アルベド様は余りにもお美しいので、目を慣らしていない状態で直視し続けると目が潰れてしまうのです。
久しぶりにお会いするアルベド様は、やはり光を放っておられました。
世界の隅々まで照らす真の美の光です。
今夜のアルベド様は、特別な装いではなく、いつもの白いドレスをまとっておりました。
ドレスに意思があるならば、アルベド様にまとってもらえる光栄に歓喜の歌を永劫に歌い続けることでしょう。
アルベド様のお部屋は、前回の訪問時と変わらない様子です。
部屋をジロジロと眺める不躾を犯さず、姿勢を正して直立し、アルベド様に向き直りました。
怜悧な眼差しも、ふっくらと赤い唇も、長い睫毛も、完全に滑らかな完璧な頬も、何から何まで間違いなく前回お会いしたときよりも輝いておりました。
ところが、それらが形作る表情からは、少しだけ険しさを感じられました。
どこかしら余裕がないような、切羽詰まった何かを感じるのです。
アルベド様は眉間にわずかな皺を刻み、呼び寄せた男へ近付きます。
何も言わず、男の頬を両手で包みました。
「んっ……」
流れるように、唇へ唇を重ねました。
キスの作法として、アルベド様のお体を抱きしめるべきと思い手を伸ばそうとしたのですが、動きません。動けないのです。全く力が入りませんでした。
「んんっ…………ちゅぅ……、あむっ……、んっふぅん……」
唇を重ねられ舌を差し込まれ、強く吸われています。
唾を啜られているのではなくて、精気を吸われているのです。
猛烈な勢いで吸われています。
限界を超えて吸われています。
精気を吸われきった後は生気です。
命を吸われているのです。
全身から血の気が引いていきました。
第三者がこの場を見ていれば、男の肌の色が、真祖の吸血鬼であるシャルティアと同じ白磁の色に変わっていることに気付いたことでしょう。
立っていられなくなり、足腰から力が萎えていきます。
その場に崩れ落ちてしまう前に、アルベド様からベッドへ押し倒されました。
それでも唇は離れません。
命が吸われ続けています。
精気は尽きて、生気も尽きようとしています。
ああ、アルベド様に命を捧げるなら本望、と。己の最後を彩る光栄に思いを馳せました。
やがて、手足がピクピクと震え始めます。
生ある者が死の門を潜るときに現れる断末魔の痙攣です。
「ぷはっ!」
完全に向こうへ行ってしまう前に、アルベドは唇を離しました。
すぐさま用意してあるポーションを飲ませます。
ナザリック製ポーションは凄いのです。死にそうだった男は、瞬時に元の健康状態を取り戻しました。
男を押し倒した姿勢のままのアルベドは、久々の精気を堪能してようやく表情を崩した。
二人の唾が混ざり合ったものが唇を濡らしている。妖艶に舌なめずりをして、舐めとった。
「やっと人心地つけたわ」
「……はい、お役に立てて光栄です」
「まだよ」
もう一度唇を合わせた。
今度は精気を吸ったりしない。ちゅっちゅと唇を合わせるだけのキス。
五回十回と繰り返して、合わさっている時間が長くなる。
キスの作法として、自らにのし掛かるアルベドの腰を抱いた。
腰から生える黒翼の上と下。
アルベドは、伸ばしていた翼をたたんで男を包むと、男を抱きしめながら転がった。
上下が逆になり、アルベドが下、男が上。
「あなたに抱いて欲しいの」
白いドレスグローブを外してベッドの外へ放り投げた。
「いっぱいキスして」
ドレスに合わせた繊細なネックガードに、その上から胸元まで覆う金糸のアクセサリも投げ捨てる。
「私を、犯して」
ドレスの襟をずり下ろした。豊満な乳房がこぼれでる。
「いっぱい犯して。あなたのおちんぽを私のおまんこに奥まで入れて。私の中でいっぱい射精して。私の子宮をあなたのおちんぽみるくでいっぱいにして」
上になった男を抱きしめる。
形のよい唇を、男の耳に寄せた。
これだけは、小さな声で囁いた。
「私を……、愛して」
否も応もない。
ずり下げられたドレスを更に引き下げれば、腰の黒翼に引っかかることなく、するりと上半身が裸になる。尻を持ち上げさせてスカート部も脱がせた。
美を司る美神が、自分の体の下で全裸になっている。
犯して欲しいと訴えている。
愛が欲しいと求めている。
「かしこまりました」
「最低でも十回よ」
「……かしこまりました」
アルベド様がお相手なら何度でも。
長い夜が始まった。