二度あることは三度あるらしい。
目を覚ますと知ってる天井。幸いなことに手枷は外れている。シズの姿はどこにもなかった。
シズの中に放った直後にまたも昏倒させられ、放置されたようだ。今度は水を掛けられることなく自然に目を覚ましたため、時間の経過が全くわからない。
お腹が減っていたので非常用レーションをぱくつき、簡易シャワーで体を清めた。
感情の機微とか言うやたらと難しいものを察する能力は皆無と己の節穴を自認する男であるが、シズが怒っていたのはわかった。わからないのは、どうして怒ったのかだ。怒る要素は皆無に思えたため不思議でならない。
潮吹きはとても気持ちよかった証なので、こちらはシズが気持ちよくなってくれて嬉しい、シズも気持ちよくなったわけだから怒るわけがない。
潮吹きに出てくる液体はつまるところおしっこで、シズのそれは人のものと違ってとても良い匂いがした。恥じるどころか誇るところではと思われる。
いったい何が悪かったのか。
潮吹きについてはラナーに散々してやった。盛大に失禁するほど感じたわけで、当時は密かな満足感を覚えたものである。しかし後日。潮吹きの三回に二回は演技と気付いた。あの女は、感じてる振りをして、わざとおしっこを掛けてきたのだ。あれは人におしっこを掛けて悦に入る変態である。
シズの潮吹きは演技ではなかったので、やはり気持ちよかったと思われて考察は振り出しに戻った。
解けない疑問に首を捻りながらセーフティルームを後にした。
無知が罪ならバカも罪だった。
▼
「ここにいらっしゃいましたか。……わん」
「ペストーニャ様。私もペストーニャ様を探していました」
九階層に戻り、荘厳にして神聖なる長い廊下をうろうろとしていると、犬面人身のメイド長、ペストーニャにようやく会うことができた。
ペストーニャを探していたら、シズに狙撃されて閉じこめられて好き放題されたのだ。
「食事はお済みでしょうか? ……わん」
「簡易なものでしたが、済ませたばかりです」
「そうでしたか。それでは私についてきてください。アインズ様より、あなたのスーツを仕立てよと仰せつかっております。……わん」
「承知しました。面倒をお掛けします」
ペストーニャの先導で歩き始めた。
歩き進むのは知ってる道で、目的地は以前連れて行かれた衣装部屋と察した。そこで超高級ダークスーツを仕立ててもらい、その前にメイドのおもちゃになったりした記憶がある。
「どこで何をしていたのか聞きたいところですが、シズ様から絞られたのでしょうか、わん」
「ご存じでしたか?」
「はい。あなたが着ていたジャケットの裾にシズ様のシールが貼られていましたので。……わん」
シズがお気に入りに1円シールを貼ることは、ペストーニャも当然知っている。
千切れたジャケットの裾を回収したらシールが貼ってあることに気付き、もしかしたらシールを捨てるためにジャケットを破ったのではないかとシズは勘違いするのではないかと案じていたら案の上であったようだ。
他愛ない話をしながら歩き続け、これから仕立てることになるスーツの話になった。
「どのようなスーツになるのか楽しみにしております。私としましては、同じものをいただければ幸いです」
「さようですか。考慮しておきます。その前に採寸しなければなりません。……わん」
「……………………あれ?」
ペストーニャの言葉に違和感があった。
「採寸は前回仕立てていただいた際にしたはずですが」
「廃棄しました、わん」
「えっ」
「なにか?」
「いえ……」
メイドのおもちゃになりながら必要ないと思われるのに採寸された寸法は、保存してないらしい。
仕立てるのは一着だけ。二着目は考えていなかった、と言われたらそうかも知れないので何とも言えない。
しかし、である。
「あの……、破れてしまいましたが、このスーツにも魔法が掛かっています。丈夫で汚れない上に、寸法を自動で調節してくれます。採寸は必要ないのではないでしょうか?」
「それがなにか?」
「えっ」
魔法の服なので採寸は必要ない。ペストーニャもそれを認めた。しかし、採寸すると言う。
必要ないことをわざわざ行うのはおかしい。不合理である。
理屈めいたことを考えている男に、ペストーニャはかわいくておっきいわんこのお口で、はあと大きな溜息を吐いた。
この男はわかっていないらしい。
アルベド様からこの男の経歴を簡単に伺ったところ、真っ当な社会経験がないとのこと。だから、頭は良いのにわかって然るべきことがわからないのだ。
アインズ様が正式にナザリックの一員として、アルベド様の副官もしくは補佐役として認めると仰ったばかりなのに、これは些かいただけない。
この男のためにも、ナザリックのためにも、後のことを見据えて、教えてあげることにした。
ペストーニャは立ち止まり、くると振り返って男と向き合った。
ペストーニャでさえ認める美貌は、訝しそうに眉根を寄せていた。
「いいですか? よく聞きなさい。……わん」
「はい!」
「スーツを仕立てるために採寸すると言うのは……」
「言うのは?」
「建前です。……わん!」
「!?」
ペストーニャはぶっちゃけた!
建前というのは、表側の理由である。
表があるなら裏もあり、そちらが事を行う真の目的となる。
唖然としている男を無視して、ペストーニャは扉を開いた。
目的地に着いたから立ち止まったのだ。
「連れてきました。それでは前回と同じように。……わん」
「「「かしこまりました、ペストーニャ様!」」」
扉の向こうに控えていたメイドたちが斉唱した。
真の目的とは前回と同じ。
メイドたちのおもちゃになることである。
この男がナザリックに来ていることを知ったメイドが世間話程度にペストーニャへ話していた。
あの男が来ているようですね、少しだけ見かけましたが男なのに相変わらず綺麗な顔をしていました、また見てみたいと言っていた子もいました、あの銀色の髪はどんな手触りなのでしょうか、左右で色の違う目は近くで見るとどうなのでしょうか。
露骨にアピールしてきた。
アインズ様当番でリフレッシュしているメイドたちなのだが、最近のアインズ様はナザリックよりもエ・ランテルにおられることが多く、また大変お忙しいアインズ様はメイドたちの都合を最大限考慮してくださるも時間が合わないことがあるし、遠き地へ遠征に赴かれることもある。
メイドたちを慰撫するため、ペストーニャは一肌脱いだのだ。
男は数瞬逡巡した。
建前である採寸は必要ないことである。
であれば、裏の目的を聞き出して、と思ったところで迷いが生じる。
裏の目的がなんであれ、想像通りであれ、追求しても避けれらない可能性が大であった。
ペストーニャからは何度も回復魔法を掛けてもらっている。凄いポーションをもらったことがある(贅沢にも痛み止めとなった)。魔法のブレスレットをもらってもいる。
その対価として裏の目的を突きつけられるとどうにもならない。受け入れるしかない。そもそもにして、ナザリックのメイド長の要求を断れるかと言えば無理であった。
それどころかもしも裏の目的を聞き出してしまうと、わざわざ用意してくれた建前を完全に無視して裏の目的が過激になる危険性がある。
しかし、お優しいペストーニャ様なので、こちらの訴えに耳を貸してくれる可能性がなきにしもあらず。
「それでは後のことはあなた達に任せます。アインズ様はエ・ランテルへお戻りになるそうなので、2・3時間は自由にして構いません。……わん」
「「「承知いたしました! ありがとうございます、ペストーニャ様!」」」
メイドたちの見事な斉唱を受けて、ペストーニャは行ってしまった。
数秒迷っていただけなのに、片方の道は完全に途絶えてしまった。
美しいメイドたちに囲まれて、逃げ出せる可能性はゼロである。
「!?」
カチャと小さく鳴った。
咄嗟に振り向く。扉の前には、見覚えのある明るい金髪をしたメイドがいた。
メイドは、猫のように目を細め、にんまりと笑った。
扉は施錠され、出ることも、誰かが入ってくることも出来なくなった。
▼
前回訪れた際の衣装部屋は、色とりどりの衣装や大きな布地が目眩がするほど鮮やかに並び、積まれていた。
あの時は着せかえごっこがメインだったが、今回は採寸である。スーツを仕立てるために体の寸法を測るのだ。全く必要ないが。
であるからなのか、現在の衣装部屋からは衣装や布地が片付けられ、広々としていた。数脚のソファーがあるだけで、豪華な応接間に見えなくもない。ソファーも片付けて調度を工夫すれば、ダンスホールになりそうだ。
違うのはメイドたちも。
前回は二十名を越えていたが、今回はその半分に満たない。
ナザリックのメイドがいるのは、ここナザリックは当然として、エ・ランテルのお城。アルベド様のお食事処はメイド教官として日替わりで赴くため、こちらは人数を割いてない。そこへ帝都のお屋敷が加わった。シクススの他に若干名。
ナザリックに常駐しているメイドはもう少しいるはずで、この場に全員集まっているわけではないようだ。
それというのも、とあるメイドが根回ししたからだ。
ここにいるのは有志ばかりである。
「久し振りね」
一歩前に出たのは黒髪のメイド。
艶のある黒髪を肩口で切り揃えている。切れ長の目はややつり目がちで、悪戯な光を湛えていた。
ナザリックのメイドたちの中で、男が知るのはシクススを筆頭に、エ・ランテルのお屋敷で顔を合わせたメイド教官。帝都のお屋敷に来てもらっているメイド。ナザリック常駐組では一人だけ。
以前ベッドを貸してもらい、その際に小さく名を告げられた。
「シェーダさんですね。よろしくお願いします」
「ふん」
いかにもつまらなそうに鼻を鳴らすも、メイド仲間たちはわかっている。
あれは割とかなり喜んでいることが。
「早速始めるわ」
この場ではシェーダが音頭をとるようだ。
彼女の言葉を皮切りに、あれよあれよと服を脱がされた。
破れているジャケットを脱がされ、破れているシャツをはぎ取られ、靴も靴下も脱がされてズボンを下ろされた。前回と同じくパンツ一枚にさせられた。
前回と明らかに違うのは、メイドたちの態度である。
前回はギャラリーがいた。セバス様配下の男性使用人たちと、デミウルゴス様配下のムキムキ悪魔たち。今回はメイドだけである。
メイドたちの監督をしていたペストーニャも、今はいない。お仕事に戻ってしまった。
ブレーキ役がいないのだ。
メイドたちの目は爛々と輝いている。
中でもシェーダは経験者の余裕かどことなく大きく構え、彼女の姉妹めいた白と金のメイドは期待に輝いている。
他のメイドたちも遠からずで、仲間たちの目を気にしているようでいて、けどもメイド長の目がないことから前回よりも大胆に男の体へ触れてみる。
胸板や背中をさわさわと撫で、自分の手のひらを合わせて男の手の大きさに感心する。
手の大きさとかスーツを仕立てるのに絶対関係ないと思ったので正面から告げたところ、「だから?」と返ってきたのでそれ以上何も言えなくなった。
メイドたちは交互に後ろから抱きついては首筋に鼻を埋めてくんかくんか。中にはそのまま前へ手を伸ばして胸板をさわさわ。
シェーダは一味違った。
キャーとかわあ……とか、黄色い声が上がった。
「こうした方がいいでしょう? 後ろからも前からも一緒よ」
前から抱きついてきた。
抱き返したりはしない。見目麗しいメイドたちであるが、おさわりは厳禁である。
それが不満なのか何なのか、離れたときの目は少々きついものが混じっていた。
「そろそろ…………いいわよね?」
男に訊いているのではない。
仲間たちに確認しているのだ。
皆、頬を赤らめて、けども真剣な顔で頷いた。
余裕があるのはシェーダと、あの時一緒にいた金と白のメイド。
シェーダは一度きりとは言え経験者である。残る二人はそこまでいかなかったものの、現物を見ている。
残りのメイドたちは、興味津々であるがそこまで至る機会を得られなかった。あるいは勇気を持てなかった。
一人ずつでは勇気を出せなかろうと、仲間がいれば心強い。古来より、赤信号みんなで渡れば怖くない、との格言がある。集団心理という奴だ。
「それじゃあ……」
白いのが男の右に、金色のが左に。
両膝を床について、屈み込んだ。
ナザリック第九階層のロイヤルスイートにある部屋は、特別な目的がある部屋でない限り、どこもふかふかの絨毯が敷かれている。至高の御方々の私室はそれぞれだ。
衣装部屋も例外ではなく、素っ裸で寝ころんでもふわふわで快適なだけで、汚れたりすることはない。彼女たちがいつも綺麗にしているからだ。
床に膝を突いてもエプロンが汚れることはない。そもそも男は裸足である。
そして、シェーダは後ろに回った。
二人と同じように膝を突く。
「行くわよ? ……せーの!」
「ちょまっ……」
三人は、えいと声を合わせた。
キャーキャーキャアー!! と、黄色い声が喜色もあらわに上げられた。
三人が掴んだのは、男のパンツ。
ひと思いに下ろされた。
美しいメイドたちの前で、正真正銘素っ裸にひんむかれた。
メイドは黒シェーダ、白リファラ、金キャレットとしました
プログラミング用語からです
意味よりも語感からと言うことでどうかお一つ
ペストーニャってプレアデスに敬称つけてましたっけ?
記憶にないので様をつけました
文字数は前回のちょうど半分くらいです
文字数揃えるなんて高度なことは出来ないんです