自分の胸から吹き出る赤黒い血を、ただ見ているだけだった。
ーーーそ、んな
死ぬのかと、本気で思った。
手加減された刃ではない。
斬魄刀を持っていないはずの雅に。
屋根の上に倒れ、ただ呆然と自分を切った相手を見つめるしかなかった。
変わらず無表情に吉良を見つめる雅の手には、氷でできた刀のようなものが握られている。
「黒晶隊長!」
瞬歩で現れた9番隊隊長檜佐木修兵が吉良と雅の間に現れた。
「自隊の副隊長を切るなど、正気ですか!」
雅はその言葉を無視して振り返り斬魄刀の元に向かった。
静かに鞘にしまう。
「黒晶隊長!」
無視されたことに苛立ったのか、吉良の復讐なのか、突然切りかかってきた檜佐木をしまったばかりの斬魄刀の一凪で吹き飛ばす。
唖然とする檜佐木には目もくれず雅は吉良を見据えた。
「斬られないと思ったか?自分は副隊長だからか。突然現れた女に自分が負けるはずないと思ったからか。」
「ーっ。」
「甘ったれるな!」
先ほどまでの無表情な雅からは想像もつかないような力強い声だった。
よく響くその声は、見物していた死神たちにもよくどどいた。
「お前はなぜ刀を抜いた。私を認めたくないからか?絶対に勝てると思ったか?
だというのに斬られた事に驚愕する。何故だ。
副隊長だから斬られない?甘いことを言う。私を隊長と認めないのにお前は私に自分を副隊長として扱えと。」
雅の言葉に何も答えられなかった。
「いいか。お前は死神だ。お前の斬魄刀は何のためにある。それを相手に向ける時は、斬って斬られる気でなければならない。
みんなそうだ、霊圧も実力も申し分ないはずなのに、なぜ実践に通用しない。
あの死神代行の黒崎一護に頼らなければ自分たちの世界をも守れない。
…それは、日頃から常に鍛錬のつもりでしかないからだ。」
いつの間にか、そこにいる全員が聞き入っていた。
「もう一度言おうか。お前が斬魄刀を抜き相手に向ける時は、斬って斬られる覚悟をしろ。」
その場に沈黙が落ちた。
「…黒晶隊長。」
初めに沈黙を破ったのは吉良だった。
「…なんだ。」
ゆっくりと立ち上がり瞬歩で雅の元に現れ、傷をかばいながらも跪いた。
「…これからよろしくお願いいたします。3番隊副隊長吉良イヅル、隊長の背中をお守りします。そして、すみませんでした。」
深く頭を下げる吉良イヅル。
そんな感動的なシーン。
真剣な顔で跪く吉良の頭を。
「〜〜〜〜っ!何をなさるのですか黒晶隊長っ!」
涙声で雅を見上げると長い足で的確に吉良の頭を蹴り上げた雅は悪びれもなくフンっと花を鳴らして言った。
「私は跪かれるのが嫌いなんだ。堅苦しいのも嫌いだぞ。そして男のくせにメソメソするな。」
呆れながらも微笑みながら言うと吉良は驚いたような顔をした。
「し、しかし僕はっ!」
なおも謝ろうとする吉良を遮るように言う。
「イヅル、お前は謝るのが好きなのか、それは斬魄刀の性か?私がもういいといっている、だが私は斬った事を謝るつもりはないぞ。
…ただし、治してはやる。」
そう言うと手をかざし吉良の胸から腹にかけて斜めに走る大きな傷を淡い光が包む。
「回法も使えるのですか…」
驚きながら雅に言うが、無視された。
この人が無視するのは普通のことなんだ慣れよう、と思ったイヅルであった。
「…あとは救護の隊に任せよう、ゆっくり休め、イヅル」
突然現れた新しい隊長。
その細い体で、力強い喝をいれてくれた。
信じよう、信じたい。
そう思えた。