歓迎会の場を去った日番谷だったが、探すまでもなく雅を見つけた。
3番隊隊舎の屋根の上。
満月の月の光に照らされた雅は静かに目を閉じていた。
170cmほどだろうか、女にしては長身でゆるくウェーブした漆黒の黒髪はしっかりとした質量を持って背中に流されている。
どこに隊長を務めるほどの力があるのだろうかと疑うほど繊細ではかない存在のように感じる。
切れ長な目と黒曜石のような瞳はまぶたの奥に隠され、長いまつげに縁取られていた。
麗人と言って申し分のない美しい女だ、と日番谷は思っていた。
「酔ったのか。」
雅の方へ数歩近づきそう問うと雅はただ首を縦に振った。
そうして日番谷の方にふと顔を向ける。
今度は雅の方から数歩踏み出して日番谷の傍に立った。
「日番谷殿も酔ったのか?」
日番谷を見上げてそう問う雅の瞳に自分の姿が映っているのが見えて、なんだか不思議な感じがした。
「…そんなところだ。」
そう言って瓦の上にどっかりと腰掛けると、つられるようにして雅もその隣に座った。
沈黙が辺りを支配する。
が、そこに不快感は存在しなく、心地よさまで感じていた2人である。
先に沈黙を破ったのは雅だった。
「冬は月が綺麗だ、星も。雪も降る。」
そう言って月を見上げる雅の言葉が独り言なのか判断がつかなかった。
「…あぁ。冬は好きか?」
答えてもらう気ななかった。
でも。
「うん、好きだ。」
酒と寒さで赤くなった頬でしっかり目を見て微笑まれたのだ。
「ーーーーっ!」
日番谷の頬が染まるのは言うまでもない。
まるで、自分が好きと言われてるみたいで…
だめだ、自分も酔っているな、と自分に言い聞かせながらも日番谷は初めて感じる気持ちに戸惑っていた。
「…日番谷どのは、冬を写し取ったような容姿をしているな。」
雅は日番谷の気持ちを知るわけもなく、そう言ってゆっくり手を伸ばして日番谷の白銀の髪を撫でた。
不快感は感じなくて、ただ恥ずかしかった。
「…みんなこれを怖がって、散々な扱いだったがな。」
そういってあまり触るな、笑ながら言うが、雅の手が離れることはない。
久々に思い出した。
流魂街のある一角、潤林安にいたころ、白い髪など、と恐れられ避けられた髪色である。
翡翠色の瞳を、氷のような瞳をした男、疫病神、と言われたこともあった。
真央霊術院にはいって、そして死神になって、容姿のことを言うものは減っていった。
「髪は月の光を受けた雪のようだし、瞳は翡翠をはめ込んだみたいで綺麗だぞ。」
酔いのせいか雅はいつになく饒舌になる自分に気がついた。
そんな雅の言葉に日番谷は目を見開く。
そして優しく微笑んだ。
「そんなに褒められたのは初めてだ。」
「褒めたつもりはないぞ、そう思っただけだ!」
何と無く気恥ずかしくなって日番谷の髪をぐしゃぐしゃっとして離し、そっぽを向くと日番谷は
「てめぇ!なにしやがる!」
と言って雅の髪をぐしゃぐしゃにした。
「し、仕返しするなどガキくさいぞ!」
雅がムキになって言うと日番谷は「どっちがガキだ。」
といってもう1度頭をくしゃくしゃと撫でた。
猫のように目を細めている雅を見て、頭を引き寄せて至近距離で目を合わせてこういった。
「お前の黒髪も黒曜石の瞳も夜のようだな。それに、意外に子供くさい。」
なんで自分がこんなことが言えたのかと思うくらい、日番谷は自分に驚いていた。
雅も驚いていたのか目を見開いていた。
そしてそのあと花のように笑った。
「お前のように接してくれた奴も、お前のように飾らない言葉で言ってくれたやつも初めてだ。…ありがとう」
しばらく心地の良い沈黙がその場に落ち、日番谷の「戻るぞ」という言葉で、隊舎の中に戻った。
「「…なんだこれは!」」
裸同然で眠るの男たちと、机に突っ伏して眠る乱菊を見て隊長2人が呆れ返ったのは言うまでもない。