今回、鬼舞辻無惨が少し登場。
シリアスだと疲れるので少しギャグ善逸、伊之助が出ています。
その夜、鬼殺隊の柱である者達が屋敷に集められた、親方様と呼ばれる産屋敷耀哉の話を誰も口を挟むことなく聞いていた。
鬼に襲われた女性を屋敷の離れに住まわせる、最初の家、柱達は皆、黙って聞いていた。
だが、鬼が一緒だと知ると皆、難色を示した、本来なら反対する者がいても不思議はない。
以前、竈門炭治郎の妹、禰豆子が鬼だと知ると柱全員が迷うことなく、共に行動することを反対した、だが、今回は違う、異例だ。
はっきりと口に出して反対と言えないのは、その鬼が柱の一人である悲鳴嶼行冥と似ているからだ、いや、声までもだ、まるで現し身の様に似ているのだ。
鬼の能力だとしても、今まで、そんな鬼がいた等と聞いた事も見たこともない、柱である全員の間に奇妙な沈黙が広がった。
「話があるんだ、いいかな」
皆がその場を離れる間際に産屋敷が呼び止めたのは岩柱の悲鳴嶼行冥だ。
なんだ、この気配は。
いつからだろう、この感じ、鬼、否、人のようだ、だが、わからない、よく、わからないというのは不安だではない、苛立ちさえ感じる。
随分前からだっ、だが、その時は気にするほどではなかった。
しかし、数ヶ月、否、半年あまり、この違和感は少しずつ、わずかだが、少しずつ大きくなっている、確かめなければと鬼達に命令した。
だが、鬼達は確かめる事もできず返り討ちにあっている、正直、腹正しさ、怒りを覚えた。
仕方ない、しばらく様子をみようと思い、目を閉じて眠ろうとした。
鬼は夢を見ることなどない、必要ないからだ、だが、この鬼には必要だった。
鬼舞辻無惨という、この鬼には。
話があるんだと産屋敷耀哉に声をかけられ、何を言われるのかと思った。
何の前置きもなく、それは突然で返答できなかったのは無理もない。
「彼女と祝言を挙げてもいいんじゃないかい」
自分は使命を果たすまで全ての鬼を、この世から滅するまではと言いかけた、だが、その言葉を産屋敷は遮った。
「鬼狩りの任務は厳しい、君が途中で怪我をして、いや、命を落とす可能性もある、でもね、その反対の可能性もある」
あり得ない事ではない、彼女が生まれつき病持ちで体が弱いというなら生きている間に少しでも楽しい時間をと思うだろう、だが、知り合ってから、そんな話や様子は見たことがない。
鬼を退治する自分は、いつ、何があっても不思議ではない命を落とす可能性もある。
現実は時として残酷だ、お伽噺の様な結末を迎えることができるとは限らない。
もしかして、悲鳴嶼自身が知らない事を知っているのではないだろうかと思った、そんな空気を感じ取ったのかもしれない。
「これから先、鬼は彼女を狙う可能性がある、だが、殺すこと、食べる事はしないだろうと思うんだ」
「何故、そんなことが」
彼女のそばにいる鬼だと言われて、はっとした。
「君にそっくりな鬼は彼女を守っている、他の鬼から、ただ、それが今だけなのか、これから先もかは分からない、これが禰豆子なら安心かもしれない」
ああと悲鳴嶼は頷いた、彼女は今まで兄と一緒に鬼を退治してきた、そばには兄の炭治郎がいる、何かあったとしても兄が止めるだろう。
「だが、彼女に関していうなら、はっきりとした答えが出せない」
君が始終、側に居ることが可能ならという言葉が続く、だから祝言をあげろというのだろうか、だとしたら、あまりにも。
「酷な事を言っているのは承知だ、だから、こちらから先に話を通したんだ」
産屋敷の静かな声、だが、はっきりと聞こえた、断られたと。
「君とは一緒になれないと言われた」
すまない、この時、産屋敷が頭を下げた。
「近いうちに、ここを離れると言っていた、だが、それだけは思いとどまってくれるように頼んだ、鬼との戦いは、これからも続くだろう」
悲鳴嶼は頷いたが、しばらくは顔を上げる事さえできなかった、そんな彼の心中を察したのたか、産屋敷のすまないという言葉は部屋の中に幾度も響いた。
「禰豆子ちゃーん、どこに行ったのおおっ」
絶叫といっても過言ではない、だが、本人は必死だった。
「炭治郎っ、彼女が、禰豆子ちゃんの姿が見えないんだ、もうすぐ夕方だけど、太陽がでているんだ」
血走った目で自分の首を締め上げる、我妻善逸に落ち着けと炭治郎は声をたけた、確かに太陽の光は鬼にとっては致命傷だ、だが、光が当たらなければいいのだ。
「ほら、後ろ、お帰り、禰豆子」
慌てて振り返った善逸は、少女の姿を見て心底安心したという顔になった。
「どうしたんだ、禰豆子」
にっこりと笑いながら少女は持っていた包みを兄に手渡した、なんだろうとあけてみた炭治郎は水まんじゅうだと嬉しそうな声をあげた。
「なんだ、それ」
とっても美味しい菓子なんだと炭治郎は説明し善逸に包みを見せた、鉢の中には水が満たされ、中は透明な丸い球体がいくつか浮かんでいる。
「中にあんこが入ってるんだよ」
突然、禰豆子が匙をだし、鉢からすくいあげると口元の竹をわずかにずらし、つるんと口に放り込んだ。
あっっと、思わず声をあげたのは善逸だが、大丈夫だと炭治郎は説明した、普通、鬼は人間の食べ物は口にしない、というより食べない、だが、最近の禰豆子は色々と食べるんだ、嬉しそうに話す炭治郎を見て禰豆子がにっこりと笑いながら、善逸にも食べろと言いたげに万寿の入った鉢を差し出した。
「えっ、俺にくれるの、食べていいの」
もったいないなあと言いながら手を伸ばしかけたときだ。
「だったら、俺が貰うぜ」
通りかかった伊之助が鉢を掴み、口を開けると放り込むようにして腹の中に納めてしまった。
あっと、炭治郎と禰豆子は豪快な食べっぷりに唖然とし、善逸の眼が点になった。
だが、次の瞬間、怒りに変わった。
「おい、てめえっ、折角、禰豆子ちゃんが、こ、このっ、俺に」
わなわなと震える、少年の怒りが怒髪天、大爆発したのはいうまでもない。
貴方には、この家で暮らして欲しいのですと、産屋敷という青年から言われて、敷地内の外れの家に女は鬼と住むことにした。
村に残った人間はどうなっただろう、戻ったところで、どうしようもない、なら、ここにいれば少なくとも、あの人に会うことができる、だが、それが簡単な事ではないと知ったのは数日後の事だ。
目が覚めたが外は暗い、日は昇っていないのだ。
「悲鳴嶼、さん」
隣の部屋で眠っている鬼に呼びかける、だが、返事はなかった。
瓜二つ、そっくりな鬼の事を、最初、なんと呼べばいいのか分からなくて、女はあえて悲鳴嶼さんと呼ぶことにした、最初、鬼は戸惑った顔をしたが、今ではあえて受け入れている。
人間だった頃は良い事などなかったという、どこか投げやりな物言いにあえて何故と聞く事はしなかった。
眠っているのだろうか、もう一度呼んでみようとわずかに体をお起こしたとき、玄関の方から音がした。
着物は破れ、汚れていた、だが、それだけではない、怪我をしていた。
「鬼が出た、だから殺してきた」
「薬を、手当しないと」
鬼には手当や薬など必要ない、だが、着物はどうだろう。
血にまみれて破れた着物を鬼だからといってずっと着させておく訳にはいかないと女は街に出ることにした。
「付き合ってもらってごめんなさい、炭治郎君」
夕暮れどぎの街中、色々な店を回って歩くのはなかなか楽しい、それに産屋敷からも言われているのだ、できるだけ一人で行動させないようにと。
女は食べものだけではない、綺麗な布のハギレも買っている、妹の禰豆子に髪留め補をを作ってあげると言われて炭治郎は驚いた。
「荷物を持って貰うお礼よ」
「ありがとうございます、でも、これは」
他にも布、反物を買っている、男物の柄みたいだという言葉に女は小さく頷いた。
「あの人の着物を、汚れが落ちないし、破れて新しく仕立てた方がいいから」
あの人、それが誰の事なのか、わずかながら、ぎこちない笑いを炭治郎は返した、体が大きいから大変ですねと。
「たくさん、食べるのよ、そうだ、今日、夕飯を食べに来ない、禰豆子ちゃん、善逸君、伊之助君も一緒に来て皆で食べると賑やかで楽しいわ」
「いいんですか、だったら、悲鳴嶼さんも一緒に」
女が立ち止まった。
「馬鹿だなあ、炭治郎、そういうときは絶対に、首に縄をつけて引っ張ってでも連れて行きますって」
「善逸、それは無理だよ、悲鳴嶼さんは体格もいいし」
「もののたとえだよ、女だって会いたいに決まっているだろう、俺たちを誘ったのだって、気まずいからだよ、わからないか」
「そ、そうなのか、気づかなかった」
呆然とする炭治郎に悲鳴嶼さんを誘いに行こうと善逸は声をかけた。
「すまんが、君らだけで行ってくれ、今夜は柱の集まりがあるのだ」
悲鳴嶼の言葉に炭治郎は、がっくりと肩を落とし、そうなんですかと。
「でも、悲鳴嶼さん」
自分の恋にも必死だが、他人の恋にも善逸は寛容だった、だが、悲鳴嶼はすまないと繰り返した、その時、初めて伊之助が口を開いた。
「おっさん、もしかして、○○れたのか」
少年二人は無言になった、だが、それは悲鳴嶼もだ。
気まずい沈黙が訪れた。