自分は夢を見ていたのかと鬼舞辻無惨は窓の外を見た、雨が降っていた。
散ってしまったな、それは誰に話しかけるでもない、一人言の様な呟きだった。
花の名前にしよう、それは夢の中で自分が呟いた言葉だ、あの時は本心であり、真実だった。
生まれた子供には花の名前をつけて、そして家の周りに、木を植えて三人で暮らそう。
数日前の事を思い出す、鬼狩りの人間にいつ会うかわからなかったので気配を隠して行ったのだ。
女に道を尋ねるという、たったそれだけのことだ。
「ああ、それなら、この道をずっと先の」
女が立ち上がったとき、風が吹いたので花びらが舞った、淡い桃色の花弁が、昔を思い出す、桜の木の下に立って迎えてくれたこと、見送ってくれたこと。
彼女に似ている顔立ち、いや、声もだ。
生まれてくる最初の子は女の子だと思う、何故か分からないが、あのとき自分は、そう思ったのだ。
ほんの数刻前まで平然と人間のふりをしていたのに、今は心臓が、呼吸が激しくなっていた。
女の名前を知って驚いたからだ。
自分ではない男との間に生まれた子に、その名を何故、つけた、聞きたくても女は死んでいる。
娘を守る為に夫を殺した女、火刑で亡くなった女は何を思って、この名前をつけたのか。
無数の鬼が集まっていた、いや、それは鬼ではない、鬼舞辻無惨が産みだした者ではない、新しい鬼だ。
ああ、嬉しい、これで、これでもう恐れる者、モノは、いない。
自分たちを追い、殺そうとする鬼狩りの連中から逃げる事もない。
一人の男が自分の腕を切り落とした、だが、すぐに、そこから生えてくる腕は人の腕だ。
これでは心許ない、戦えない、そう思ったとき、腕は形を変えた、刀にだ、ああっ、強くなった、自分たちは。
視線の先には一人の女が倒れていた、怪我をしたのか腕からは血が流れていた、それを、ほんの少し嘗めただけで変わった、特別な生き物になった。
この女の血を飲み、交わりをすれば、もっと強くなれる、何故なら東の空が、日の光がもうすぐさすというのに恐怖を感じないのだ。
明るくなってくる空を見上げながら、彼らは笑った、そう、この瞬間、まさに克服しようとしていた。
倒れていた女に一人の男が近寄った、物欲しそうな視線でなめ回す様に全身を見下ろし、手を伸ばした瞬間、男の体が塵の様に粉々になった。
「鬼舞辻、来たのか、だが、遅いぞ」
突然、現れた白スーツの男性を見て、その男は慌てた様子もなく声をかけた。
「おまえも、仲間になるか」
「馬鹿なことを」
にたり、にたりと笑いながら男は倒れている女を指さした。
「おまえに殺す事はできないだろう、わかっているよ」
無惨は言葉を飲み込んだ、自分が出せなかった答えに疑問に相手は気づいているということか。
「渡す訳にはいかん、俺たちの」
「鬼はどうした、そばにいた筈だ」
ああと男は首を振り、視線を向けた、その先には一人の男が倒れていた、首を切り離されて。
「あんなできそこないでも鬼の血が混じっているからな、用心の為だ」
そう言って男は笑い出した、おまえは気づかなかっただけだと、おまえの愛した女は、鬼だ、ただ、自分が鬼だと気づいていなかった。
「黙れ」
男の言葉を遮るような、その声に周りの空気が震えた、だが、男達、鬼となった者達は怯むことなく牙と殺意を向け、遅いかかった、だが。
瞬時にして男達は屍となった、踏みつけるように姿を現したのは一人の鬼。
上弦の参、猗窩座だった。