最初は坊主の悲鳴嶼さんの筈が、ちょっと変わってしまいましたが、こんな話があってもいいんじゃないかと思って書いてしまいました。
馬鹿な、こんなことがあるわけがない、何故だ、ほんの少し前まで勝者の立場だった筈の鬼は不安を感じていた。
無残を殺す、そして自分が新しい鬼の頭として生まれ変わる、自分が支配する世界は赤い血の色で染める為に、それは願望であり、だからこそ生まれた意味があるというものだ。
無残は決して弱くはない、だが、人間から鬼になったのだ、その為に探した、弱みをついたのだ、勝つためにはどんな手を使っても勝利しなければ意味がない。
無残の周りを調べた、そして行き着いたのだ、人のふりをした女に、よくばれずに隠したものだと感心した、いや、女自身でさえ気づいてなかったのかもしれない、自分のことを、そして腹の中の子供が。
「おまえの血を感じるぞ」
鬼は笑った。
「何故、この女だけ村で生き残ったと思う、助かったことが奇跡だと思うのか、鬼は非情だ。慈悲の心などあるわけがない、だから、争った、鬼達は」
言葉が途切れた、鬼は自分に何か蛾触れたことに視線を落とした、死にかけの鬼が自分の足を掴んでいる、蹴飛ばそうとした、だが、死にかけた鬼の体が少しずつ再生していく。。
(悲鳴嶼さん)
(行冥、さん)
半壊の肉の塊が少しずつ形をなしていく、それを見ていた鬼は邪魔だとばかりに手を伸ばして掴もうとした、肉が削げて骨の見える手など簡単に振り払えると思っていた、だが、反対に手首を掴まれたがっしりとだ。
「は、離せ」
だが、返事の代わりに腕を掴む力は、益々、強くなっていく、その強さに鬼は声を漏らした、まるで自分の体から生気が、血が、肉が吸い取られてしまうような感覚に声をあげずにいられなかった。
無惨は、目の前の光景に言葉を失った。
空気が震えるような声に無惨が感じたものは違和感だ。
目の前にいるのは鬼の筈だ、なのに、違うとはっきりと感じ、嫌悪した。
それは貴様が触れていいものではない、怒りに任せた一撃を放った、どんな相手、鬼だろうと、鬼殺隊の最強の人間であろうと防ぐ事はできない筈だった、なのに。
花が好きな人だった、綺麗でしょう、とてもよい香りがするでしょうと笑っていた。
でも、あの時だけは泣いていた、何故だろう。
誰の種だよ、俺のじゃねえだろ、怒鳴る様な罵声、父親の声に驚いた、何を言っているのか分からなかった、種、違う。
もしかして、ああ、自分の母は、否、そんなことがあるだろうか。
本当の父ではなかったのだろうか。
血が流れる、止めなければ、このままでは最期の頼みさえ叶えてやることができない。
だが、流れる血は止まらない、いや、止める事ができないのだ、肉が裂ける、筋肉が、体中の組織が壊れていく、鬼の自分を凌駕する鬼、相手は鬼なのか。
死ぬ、ここで自分は終わってしまうのか。
綺麗ですねと笑う、だから、自分も頷いた。
庭に植えよう、季節が変わっても花を見ることができるようにと言った、本心からだ。
だが、自分の隣に立つ女は泣いていた、嬉しいから泣くのだという。
では、今、どうして、君は、いや、おまえは。
泣いて、いるのか、無惨は手を伸ばした。
女は、やめてと叫んだ。
「悲鳴嶼さん、 行冥さん」
悲痛な叫びだ、悲鳴嶼は女の側に駆け寄ろうとした、だが、全てを拒絶する様な空気が、そこにはあった。
鬼舞辻無惨は鬼だ、自分たちの敵だ、離れるんだと悲鳴嶼は叫んだ。
その男は鬼だと。
熱い、炎のような、いや、太陽に焼かれるような熱さに身が焦げる様な感覚に翻弄されそう
な無惨だったが、女の顔がしだいに変化して行くことに気づいた、顔色が、皮膚の張りがなくなっていく、まるで、人が急速に老いるように変わっていく、姿が。
やめろと言いたかった、だが、言葉が声にならず、唾を飲み込み、息をするのがやっとだ。
不意に自分の体が重くなった、重なる様に女の体が自分の胸に崩れ落ちる。
「猗窩座ああっ」
女の体を抱きとめ、無惨は叫んだ。
なんだ、体の中から信じられないほどの力が溢れてくる、無惨から与えられた力に猗窩座は驚いた、周りに鬼達を抹殺、いや圧倒する程の力、だが、動きの素早いモノもいる。
「残りの鬼を狩る、その間、この女を預ける、守れ」
疑問を浮かべてた自分に気づいたのだろう、無惨の視線が、まるで芝居の観客のように呆然と自分を見ている人間に向けられた。
「私の娘だ」