僕は、どこまでも無力だった。
「う、ぐ……っ」
飛び出し、向かっていったことに難しい事情はない。ただ、男ふたりによってホテルに連れ込まれそうになっていた女のコがつらそうに見えたから。
耳の下でふたつに束ねられた長い髪――それは鮮明な記憶として残っている。見間違いようもない。ハンバーガーの恩義はあった。けれど、それ以上に――きっと僕もあの日、あんな目をしていたのだろう。だから、思わず手を差し伸べていた。
けれど、結局このザマである。
「あっちも……了承済み……なんだよ……ッ!」
男の言葉が信じられず、僕は彼女に目で訴える。が、否定する様子はない。ならば、僕は一体なんのためにこのような暴挙を……?
この身体は雨の中に押し倒されて、馬乗りとなった男が拳を振り上げる。これでは避けようもない。きっとこれは、あの夜――初めてこの男と出会ったとき、僕が散らばらせた空き缶をそのままにしていった報いなのだろう。いくら、元に戻す気力がなかったからといって――あの瞬間、僕はこの男と同じところまで堕ちていたのだ。
ゆえに、その男も僕に気づく。
「お前……もしかしてあんときの家出少年か」
その握り拳は、僕に降ってくることはない。いつでも鉄槌を下すことはできるが、男はその前に考え込んでいるようだ。それでも、決して隙はない。辛うじて男の股の下から這い出せたとして、この場にはもうひとり仲間がいる。
何よりも。
ここで僕だけ逃げ出しては、いよいよ何をしにきたのかわからない。ならば、このまま殴り潰された方がまだマシだ。やっぱり僕には、あの温かな職場でやり甲斐のある仕事に囲まれている資格なんてない。こうして、暗く冷たい場所に、ひとり――
「……ふん、使いようがあるかもしれねぇな」
唐突に、男は僕から立ち上がる。だけど、僕は敗北者だ。そのまま黒い空から降り注ぐ雨をこの身に受け続けるだけ。しかし、それすら許されない。
「お前、竿役やれよ」
胸ぐらを掴まれ、強引に立たされる。が、足には力が入らない。そんな不甲斐なさに嫌気が差したのか、男は僕
「お前がやんねぇんなら……レイプモノに変更すっけど」
彼女へと向けられた男の視線はどこまでも厭らしい。それは、蛙を睨む蛇の如く、女のコの表情を一変させる。
「……え……っ、そんなの、話にない……!」
ここで僕は初めて、心の底から怯えた女の子の顔を見た。不安に俯く横顔ではなく、絶望を確信して見開かれた瞳。それが僕によってもたらされたものなら、これ以上腑抜けてもいられない。
ようやく自立した僕の襟元は、いまも男によって握られている。飼い主に引きずられる老犬のように、僕はよたよたと建物の中へと引っ張り込まれていた。肩を抱かれているという違いはあれど、彼女もきっと立場は同じ。僕らはもう、この男に逆らうことはできないのだろう。
どうやら、ホテルの人間も了承済みなようだ。フロントで何の手続きを行うこともなく、雨に濡れた僕たちが訝しがられることもない。そこはまるでやつらの自宅かのように、僕らはエレベーターで所定のフロアへと運ばれていく。
その間、男ふたりは和やかに雑談を交わしていた。
「でも、何でそいつを?」
「コイツは家出少年だからな。俺たちが直接相手するよりまだ言い訳の余地があんだろ」
「あー……そういうことか」
僕には何のことだかわからない。ふたりにだけ――もしかすると、彼女にも――わかることがあるのだろう。
目的階に到着すると廊下は短く、すぐに部屋へと入れられた。普通に寝泊まりするには内装の雰囲気が明らかにおかしい。その原因は間違いなく、ガラス張りの浴室にあるだろう。それに加えて、大きなベッドに大きなテレビ。疑う余地もなく、ここは、
男のひとりは、早速撮影の準備に取り掛かっている。もうひとりの方が、僕に素っ気なく指示を出した。
「じゃあ、お前は先にシャワー浴びとけ」
「……はい……」
当然、あの透き通った中で。どうせ水浸しなのだから、服も着たままでいいのではなかろうか――などと考えもしたが、これから行うことを考えると、そんな抵抗は意味がない。僕は同じように視界の開けた脱衣所で一枚一枚脱いでいく。幸いなことに――誰一人として、僕の湯浴みに興味はないらしい。男たちと女のコは、静かに打ち合わせをしている。もし僕がここから永遠に出ることがなければ、あのコは救われるのだろうか。いや、痺れを切らした男たちに乱暴されるだけだろう。僕だけでなく、あの女のコまでも。
なので僕は、おとなしくすぐに出た。身体を拭いたタオルを腰に巻いて。それによって――とうとう事が動き出してしまった。
「じゃあ、次はお前だぞ」
「やることは、覚えてるだろーな」
男たちからの念押しに、彼女は俯いたまま返事をしない。ただ、ニヤついた連中に風呂場の方へと連れられていくだけだ。しかも、カメラを携えて。間違いなく、とんでもない様を撮られてしまうのだろう。
だとしても。
彼女は、それを行うとの約束でここへ来ている。それが良いことなのかはわからない。ただ、ここまで来て僕が出ていったところで話をややこしくするだけだ。
自分は、あの男たちと何の約束もしていない。だが、彼女との約束の中にいつの間にか組み込まれている。ならば、あのコの思惑に合わせていくのが最善か。
僕だけが助かりたいのなら、この隙に逃げることもできる。が、その結果――表で彼女が見せた絶望の予感が、現実のものとなるかもしれない。だから、黙って待っている。このベッドの、縁に座って。
しかし、どうしても心配は尽きない。それでつい、僕はガラスの向こう側を覗き見てしまった。
彼女は、微笑んでいる。
痛々しい笑顔で。
だから――
上着に手を掛けた時点で、僕は下を向いた。これ以上、彼女を辱めないために。
聞き耳を立てるつもりはないのに、聞こえてきてしまう。ドカドカと男たちが浴室に入っていく中に、ひたひたと小さく裸足でタイルを叩く音が。いま、彼女はどんな姿をしているのだろう――と、思い悩む必要もない。間違いなく、僕の想像のとおりだろう。
しかし、撮影の進捗は芳しくないようだ。シンと静まり返った後、苛立たしげな男の声が響く。
「……チッ、ちゃんと喘げっつーたろ」
「す…すみません……」
これは、彼女が謝らなくてはならないことなのだろうか。理不尽な叱責が届いては、つい割り込みたくなってくる。せめて、撮影がうまくいくよう祈っていたが……男たちも手をこまねいてはいなかった。
「じゃ、コレ使ってみな」
「え、え……? なに……?」
むー……というモーター音が少し鳴り、止まった。その間に、彼女はすべてを理解したらしい。
「わかり……ました……。やってみます」
「よし、じゃ、このシーン撮り直しな」
そして訪れるしばしの静寂。にじり寄るような空気の中に、再び先程の振動音が交じり始めた。何が起きているのか、僕には窺い知れない。だが、男から止められないのであれば、問題なく進んでいるのだろう。
そして――
「……ぁ」
女のコの優しい吐息に、僕はつい顔を上げてしまった。すると――
「あ、や、あぁ……」
彼女は浴槽の縁に座っていた。お風呂に入るべきその姿で。けれど、それは入浴などではない。大きなカメラに向かって足を開き……股に手を当てていた。もう一方の手は自分の胸の先に。膨らみは決して大きくはないけれど、脇から腰へと至る曲線は確かに女のコだ。
そして、瞳を閉じてうっとりと開かれた唇には大人の魅力が湛えられていて、どこまでも艶めかしい。
「ん、あん、はぁ……」
よく見れば、彼女の手には何かが摘まれている。蕾を彩る淡い桜色ではなく、もっとけばけばしい、強いピンク色のモノが。それが、彼女の鼓動を力強く跳ね上げているのかもしれない。
「ふぁ……あぁ……だめ……」
声どころか……ピチャピチャと水が跳ねる音まで聞こえる気がする。シャワーを使った様子はなかったのに。
「あ……あぁん……その……ち……乳首が……おっぱい……が……」
……っ!? 女のコの口から、そんな、単語が……。聞いてはいけなかったその言葉に、僕の胸が思わずドキリと脈を打つ。
しかし、それだけでは終わらない。
「お……おまんこ……クリトリスも……あ、あ……いい……気持ち……いい……です……」
その声色はどこまでも恥ずかしそうで、けれど、それが僕の心に突き刺さる。どうやら、それを言葉にするのも“約束”のうちらしい。彼女は必死に、その言葉を繰り返す。
「おっぱいに……ローター……いい……いいです……っ! おまんこも……あぁん……クリトリス……おまんこが……あぁ……はぁ……っ」
プチュプチュと蜜を掻き回す音で、彼女の指つきが想像できてしまう。その、うっとりとした表情からも。
「はぁん……
それが、彼女に課せられた“約束”なのだろう。そこへ至る許可をカメラに請い、そして――
「あっ、はぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
こんな声を……あの女のコの口から……? 驚くほどに妖艶で、ファーストフードで聞かせてくれた声とはまる別人。しかし、それはまだ終わらない。
「あ、あ……出ちゃう……ホントに……出ちゃいますって……!」
カメラを向けられているということは、未だ撮影は続いているのだろう。そして、男たちの声がないことから――誰もそれを止められない。
「もう……あ……やだ……あぁ……っ」
ビチャビチャビチャビチャ……
それは、ここからでもはっきりと見えた。女のコの股の間から、鋭い水飛沫が吹き出している。カメラに届きそうな勢いだけど、男に逃げる素振りはない。いまも開かれたままの噴出口に向けて、じっとレンズを向けている。けれど、女のコも足を閉じない。出るものを、出るがまま。すべてが終わった後も、呆然と跡を眺めている。
そこで僕は――彼女と目が合った。チラリと責めるような視線を感じて、僕は慌てて目を閉じる。いつからだろうか、不覚にも我を忘れていたのは。見てはならない、とわかっていたのに、気づけば一部始終を脳裏に焼き付けていた。もう、何の言い訳もできない。僕もやはり、あの男たちと同じだった、ということだ。
「よーしオッケー! 床は流しとくから、お前は先に部屋へ戻っとけ」
すぐにシャワーを流す音で溢れかえってしまったので、彼女がどんな返事をしたのかはわからない。が、その場に留まることなどできず、逃げるようにベッドルームまでやってきた。しかし、僕には合わす顔がない。俯く僕の隣に――ボスンと座るタオル姿が視界の端に入った気がする。そこから伸びる白い足は綺麗だけど、僕の意識はどうしてもその根元の方ばかりへ。ダメだとわかっているのに、思い描かずにはいられない。そんな思いが――彼女にも伝わっていたのだろう。
「ずっと見てたでしょ。あそこからでもわかったから」
「……ごめんなさい」
未だ、彼女はタオル一枚だけ。先程の申し訳なさもあり、僕には顔を上げることもできない。
しかし――そんな居た堪れない気持ちも、彼女の一言で吹き飛んだ。
「君、童貞?」
「えっ、あ、はい……っ!?」
いきなり何てことを……!?
「童貞なのね、その反応」
彼女はあからさまに苛立っている。当然か。あのようなところを見られて、心穏やかにいられるはずがない。
「ここからは、私に合わせなさい。余計なことは考えないで」
「え、え……?」
最初からそのつもりではあった。が、相手からはっきりと明言されると、いささか気後れしてしまう。
よほど機嫌が悪いのか、彼女の言葉選びには容赦がない。
「君のことだから、私のこと、カワイソー、とか思ってるんでしょ?」
それは、その……カメラの前であんなことをさせられていたのだ。可哀想に思わないはずがない。彼女もまた、憐れまれる立場にあることを理解している。そのうえで。
「はっきり言って、もう……手遅れだから」
吹っ切れている――とも違う。男と交わした“約束”はまだ終わっておらず、きっと、より恥ずかしいことをさせられるに違いない。
だとしても。
だからこそ。
「ここで中途半端なことして、お金が減ったり……それこそ出なかったら、目も当てられないの」
どうやら、彼女の報酬は僕にかかっているようだ。何も知らない、この僕に。だからこそ、羞恥と不安に苛立ちを募らせる。
「これは仕事。ビジネスなの。君は黙って私の指示に従っていればいい……わかった?」
「は、はい……」
その顔には、プロが素人を諭す余裕は見られない。建物に入る前と同じように、彼女だって心のうちで震えているはずだ。ならば、僕が足を引っ張るわけにはいかない。きっと、僕も恥ずかしいことをさせられるのだろう。けれど、風呂場で辱められた彼女のことを思えば……どんなことでも耐え抜きたい。
そこに、男たちが部屋へと上がりこんでくる。
「よし、話は済んだな。それじゃー……始めるぜ」
そう言うなり男はカメラをベッドに向けた。それだけで、これから何をするのかわかってしまう。
僕が、このコと……その……でも、ならば……!
「ま……待ってください! それなら……せめて僕らふたりだけで……!」
撮ればいいんだろ!? だったら、第三者に立ち会わせる必要も――
「甘えたことヌカしてんじゃねぇ」
僕の願いは、即座に一蹴されてしまった。そして、女のコからさえも同じように。
「そういうこと。君
慣れているわけではない。が、心構えはできている。ならば、僕だけが拒んでいる場合ではない。もうなるようになれ……ッ!
と、ベッドに横になろうと思ったのだが……カメラが回り始めても僕は床に立たされたままだ。そして、男は奥へ手前へとハンドサインを送ってくる。しかし、僕がそれに従う義理はない。ただ、彼女の誘導に従うだけだ。
そして、立ち位置が定まったところで……彼女は胸元からはらりとタオルを落とす。そこにまったくの躊躇はない。まるで、僕のことなど見ていないように。
だとしても、僕は彼女を見ずにはいられない。控えめな胸の膨らみには穏やかな色合いが浮かび、股の上では割れ目を隠すように暗がりを作ろうとしている。もう、遠くから眺めているだけではない。すぐ手の届くところに、女のコの温かな裸があって――
一瞬にして心を奪われてしまったが、彼女はすぐにしゃがみ込む。それはまるで、僕からの厭らしい視線を引きちぎるように。しかし、実際にそのような意図はなく、ただ、“台本”のような“約束”に従って。細かなト書きは決まっていないものの、大雑把にナニをするかだけは決まっているのだろう。
僕の頭の中は――未だに彼女の裸体でいっぱいだった。本来、こういうことをする際には部屋の照明を落とすものだろう。恥ずかしいから。けれど、これは撮影である。室内は目一杯に明るく、彼女の身体は余すことなく照らされていた。そして、いまも足元にそれはある。上からでもほんのりとわかるふたつの山なり。その先の小粒のところまで、しっかりと見えている。そこに夢中になっていたからか――自分の身にはどこまでも無頓着だった。何のために彼女がしゃがみこんだのか、少し考えればすぐわかることだったのに……!
「……ぇ……」
僕には覚悟を決める猶予さえなかった。無造作に、投げ捨てるように、腰に巻かれた最後の一枚は、あっさり床へと引き下ろされる。抵抗したり、恥じらったりする間さえない。気づけば、僕は女のコの前に己の恥部を晒していた……!
もしかすると、彼女は僕も恥辱に巻き込みたかったのかもしれない。その手つきに迷いはなかった。
しかし、その勢いもピタリと止まる。
「ぇ……ウソ……」
いきなりグロテスクなものが現れたのだ。直視することなどできるはずがない。手で口元を押さえて、床へと視線を逸している。その様子に、本当に申し訳なくなってくるのだが……僕にはどうすることもできない。
しかし彼女は、視線を戻した。男たちはニタニタしながらも、あごで先へ進めろと催促している。もう彼女は迷わない。両手で、僕の……僕の……!
「……んっ」
僕に、声を出すつもりはない。けれど、女の子に――それも、裸の女の子に、その指で触れられては……! こわごわとした手つきから、真剣な心持ちが伝わってくる。この程度で終わることはない。この程度で、まごついている場合ではない、と。
これは、あくまで観察か。これから口づけを交わす相手への。先端を顔に近づける様子は、マイクに向かうアイドルのように。けれど、スローモーションで見ているようにゆっくりと。
そして、口は開かれた。しかし、それに語りかけるためではない。もっと大きく、息を呑むように、その唇の向こう側へと……!
「んっ! んん……っ!」
女のコの嗚咽が喉から漏れる。あごもやはりつらそうだ。なのに、僕の身体は……この温もりに
すると……
「は、あぁ……」
そのとき僕は、彼女と目が合った気がする。その瞳は怯えていなかった。むしろ、いたずらっぽく微笑んでいるようでもある。が、すぐに目を伏せて……
「くぅっ!?」
舌が……っ! ぬめぬめとうごめくものが、僕の……溝になっている部分をくすぐってくる……!? 今度は、根元の方へチロチロと……! う、ぅ……女のコが……僕のこんなところを……。くすぐったいのともやはり違う。間違いなく性的に感じてしまい、僕の
「ん、く、んん……っ!」
いけない……そんなところを舐められたら……思わず腰がカクンと落ちそうになってしまう。どうしよう……こみ上げてくる……だけど……だけど……!
そこでふと口の動きが止まった。ちらりとカメラの方を見ると、部屋の奥――ベッドの方を指差している。とうとう……僕は……彼女と……。
しかし、彼女の舌使いによって……もう何も考えられない。すでに夢心地なのに……これ以上が……あるのか……?
そんな僕をよそに、彼女はすくっと立ち上がる。もう恥じらいは見えない。お互い裸であることも忘れているように、軽くこちらへ身を寄せた。ちょこんと
「そこに座って」
耳元で囁かれて、僕の身体から力が抜ける。ボスンと腰を下ろすと、壁に備え付けられた大きな姿見の鏡に僕の間抜け面が映っていた。その前に陣取るビデオカメラは当然録画中。僕の
けれど……僕にも彼女の気持ちが少しわかった。女のコに咥えられて、ずっとモジモジしていたところを撮られていたのである。いまさら恥じらったところで、彼女が言うように、手遅れだ。
ゆえに、彼女もまた平然と。男から受け取った何かを――僕に、手渡す。ピンク色の、うずらの卵のようなものだった。しかし、手触りはふにふにと柔らかい。これを……どうしろと……?
「捻るとスイッチ入るから。当てる場所はわかるでしょ? 絶対に、遠慮しないで」
よく見ると、上下に半球が合わさったような作りになっているようだ。そして、それを言われたとおりに捻ってみると――
ヴヴヴヴヴヴヴヴ……
先程風呂場から聞こえてきた音が、僕の手元で呻いている。もしかして、彼女は、これで……?
その痴態を思い描く暇もなく、目の前に影が下りてきた。彼女の背中が、僕へと迫ってきている。まさか、このまま、僕と……!?
しかし、そのまま僕の身体が飲み込まれることはなかった。股の下に敷かれただけで、その奥へは至っていない。だけど、彼女のすべてが鏡に映り込んでいる。カメラの男が屈み込み、女のコの恥ずかしいところを懸命に注視しているから。彼女はそれが気になって気づいていない。頬を染め、伏し目がちな瞳はひどく物憂げに見える。肩より先は本来ならば見てはならないのだろう。しかし、僕の胸に寄り掛かるなめらか背中と、足に押し付けられる柔らかな感触が、僕から理性を奪っていく。
彼女は、どこまでも可愛い。
控えめな胸も淡く儚い色づきと似合っているし、女のコの、女のコであるところを覆う薄い毛も、少しだけ大人びた印象を受ける。何より、そのもっと向こう側――本来、覗き込まなければ見えない二房の割れ目――そこはとても綺麗で、二枚の花びらが収まりきらずに溢れ出していた。それはまるで、僕に触れて欲しそうに――
「イケそうになったら自分で動くから、それまでは……お願い」
あまりに夢中になりすぎて、今度は僕が気づいていなかった。彼女がとっくに、僕の視線を察していたことに。けれども、それを責めるような状況はとっくに通り過ぎている。僕は、
しっかりと鏡を見ながら、僕は腕を回していく。女のコの、胸へと目指して。その手の中にあるものを、小さな先端へと押し付けると……!
「ふぁっ、あっ、あぁ……」
ピクリピクリと、彼女のお腹に力が入ったのが伝わってくる。本当にこんなことをしていていいのだろうか。僕の手は未だに迷っているのに、彼女はそれ以上を求めてくる。それも、耳打ちではなく、堂々と。
「指も……指も使ってぇ……❤」
やはり、こうやって口に出すことも、“約束”なようだ。しかし、これはただの演技ではなく、僕への指示も兼ねている。だから言われたとおりに、空いていた手で、もう片方の手で鷲掴みにしてしまった。
「はぁんっ、乳首……乳首をきゅぅってぇ……」
男も、カメラの向こうから僕を睨みつけている。こうして胸を手で隠してしまうのは良くないようだ。なので……彼女には申し訳ないけれど、あえて見せつけるように。横から女のコの乳首を……クリクリ……クリクリ……と……。
「いいっ、いい……好き、好きぃ……❤」
あくまで、これは演技だ。けれど、そんなに求められては、つい力も入ってしまう。ダイヤルを回すような動きから乳搾りへ。引っ張り出すような動きに、彼女の腰はヒクヒクと悶え始めている。
それは、次の場所へと促すために。
「ねぇ……ローター、おまんこにもぉ……クリトリスに……シてぇ……❤」
そのあたりの構造は、何となくわかる気がする。が、実際に見たことがあるわけではなく、詳しいところはよくわからない。デリケートな場所でもあるので、慎重に……わさわさと毛の上を振動させていく。
あぁ……僕、女のコの……アソコに触れているんだなぁ……。これを、彼女は仕事と言い切っている。けれど、僕には割り切れない。罪悪感と興奮が入り混じり、その侵入はどうしても憚られてしまう。
けれど、僕たちはカメラの前にいる。ここまでやって、撮り直し――なんてことは許されない。心を強く持ち、奥へ、奥へ……女のコの、割れ目の中へ……!
「あっ、あぁっ……そこ……クリトリス……好きぃ……っ!」
自分の指でも確認できた。ぬるりとした温かい中に、ポコリと突き出したところが。ここに、コイツを当てて……!
「いいっ、あぁん……おまんこ……おまんこいいのぉ……っ!」
その先端に向けてクルクルと撫で回すように。胸に当てた手も休むことなく。股の下からは、力強く持ち上がろうとしている僕の身体が、女のコの溝に沿って潜り込もうとしているようだ。このままでは――このまま至ってしまう……!
何より彼女の表情はとてもうっとりしていて――僕に女のコを委ねてくれていて――むしろ、口元は少しだけ嬉しそうだ。このままでは、指示を待つことなくすべてを奪いたくなってくる。
そんな僕の気配を察してくれたのだろうか。彼女はゆっくりとその腰を上げ始める。
「入れたい……おちんぽ、おまんこに……」
こちらからでは見えないが、きっとカメラ目線になっていると思う。彼女は僕の
けれど、ここから先はそれをさらに超える。女のコの、女のコたりえる身体へとしっかり向きを合わせて――異なる性を――お互い、自分の身体には存在しない、だからこそ交じり合うその場所へ――
「ん、ん……んふぅ……あぁ……」
その息遣いは、これまでとは打って変わって苦々しい。どうすれば彼女を慰めることができるのだろうか。せめて、この
そのうえ、彼女はここで衝撃の告白を口にした。
「
処女ってことは……初めて……? それを、会ったばかりの相手と、カメラの前で……!?
願わくは、これもまた演技であって欲しい。が、そんな希望を抱く間もなく、彼女の腰が引き上げられていく。
だがそれは、この行為に終わりを告げるものではなかった。
「あっ……あふぁ……っ!」
本来男が行うべき上下運動を、女のコ自ら執り行っている。抜けないように控えめに、
「あぁっ、おまんこ、気持ち……いい……っ!」
言葉とは裏腹に、彼女の表情には痛々しいものが入り混じっている。しかし、形ばかりの快楽を止めることはない。その様子をしっかりと映すために、彼女の両手は僕らの繋がりに添えられている。間違っても、隠すためではない。挟まれた二枚の膨らみを、自らの指で開かしていた。男と女で、つながっているところが。入ったり、出てきたり……それがしっかりと見えてしまっている。
「おちんぽ……あぁんっ、おちんぽで、おまんこが……あっ、あぁ……っ!」
こうなってしまっては、もうどうにもできない。ただただ、
しかしここで、彼女から新たな指示が下される。
「お願いっ! クリトリスっ! クリトリスを……ローターでぇ……っ!」
あまりの気持ちよさに、つい両手も呆けていた。片腕は――ふたり分の身体を支えるために突っ張っておかなくてはならない。けれど、振動をもたらす右手だけなら……
「あっ、あっ、はっ、あぁあああっ!!」
これは、演技ではない。彼女の
「いいっ! いい……っ! ローター好きなのぉっ! おまんこ……おちんぽと……ローターで……あ、あ、あ、あぁ……っ」
けれど……こんなに搾られたら、僕の方が……っ。
「ごめん、出そう……っ!」
そう呟くが、彼女の腰の動きは止まらない。だが、その表情だけは男に伝わったのだろう。右手の親指と人差し指で輪を作り、左の人差し指をその輪へ向けて下から上へ。それは、まさにいま行っている行為の継続。その指示のままに、僕は……
「
けど、けど……そんなことしたら……! その続きを、彼女自ら口にする。
「赤ちゃん! 妊娠したいのぉ! お願い! 生ちんぽ
そんなこと言われたら、もう……っ!
ビュクッ! ドクッ! ドクン……!
「あ、あ、ああああああああ……ッ!」
彼女の身体が反り返り、僕の方へともたれかかってくる。それをそっと抱きしめていると……彼女は、ゆっくりと繋がりを解いた。そこから溢れ出してきたものが、僕の方へと滴り落ちてきたのを感じる。僕は……彼女の……
よほど疲れていたのだろう。彼女は再び僕の膝へとお尻を下ろす。けれど、さすがに再び繋がり合うことはない。ゆったりと僕の方へと重さをかけて、少しだけ寛いでいるようだ。
抱きしめて労ってあげたいところだけれど、ここはそういう雰囲気でもない。
「よーし、ノルマは全部こなしたな。約束通り満額出してやる」
男は傍にあった机の上に、厚みのある封筒をぽんと置いた。
「じゃあ、また金が必要になったらいつでも言いな。こっちは大歓迎だからよっ」
男たちはいそいそと撤収していく。無駄に長居するつもりはないらしい。カメラを担いで部屋を出る前に、軽くこちらを振り向き一言だけ。
「あ、チェックアウトは一時間後だから、それまでに出ておけよ」
ここまで頑張ってきた彼女を一言も慰めることなく、男たちは上機嫌のままに退場していった。ここで僕は、彼女になんと声をかければ良いのだろう。
「え、えーと……」
先ずは、僕から降りてくれないとどうにもならない。が、急かすことなく、彼女は横へとゴロンと落ちた。そして、一言。
「はぁ……サイアク」
背中を丸めて、身体を隠すように。やっぱり、恥ずかしかったんだな。
だから僕は裸を見ないように、じっとカメラがあった方を見る。鏡に映る僕の姿は……ひどく肩を落としていた。
言葉を失った僕の代わりに、彼女の愚痴だけが続いていく。
「最初は、私があの男に任せてればいい、って話だったのに……君が出てきたから、私が頑張らなきゃならなくなっちゃったじゃない」
「その……ごめん……」
僕は改めて自分の身体を見る。そこに残された赤い血糊は、僕のものではなさそうだ。本当に、彼女は処女で……相手が僕で……しかも、カメラに収められながらなんて……!
僕はこの行為をどうやって償ったらいいのだろう。合わす顔もないほど落ち込んでみるも、彼女は声色を一転させた。
「でも……まあ、あんなオッサンよりはマシだった……かな」
誰が相手であろうと、ここで行われることは“約束”により変わらない。僕であったことで気が紛れてくれたのであれば、少しだけ救われた気持ちになる。
だからといって、喜んでいいものではない。神妙な面持ちを崩さないよう気を張る僕へ、彼女は身体を起こしながら言葉を続ける。
「それに――」
何気なく横を向くと、そこには彼女が座っていた。けれど、ゆったりとお尻の横に手を下ろしたままで。桃色の蕾が目に入り、僕は思わず視線を逸らす。が、そんな様子を女のコは鼻で笑い飛ばしていた。
「ねぇ
「森嶋……帆高……」
相手の顔も見れないので、僕は自分の膝を睨みつけながらそう答える。しかし、これに彼女が名乗り返すことはない。
「そ。何か源氏名考えといて。……ああ、源氏ってのは女子だけかも」
「な……え? 何で……?」
予想だにしない提案に、僕は思わず振り向いてしまった。しかし、そこで言葉を詰まらせる――
「だって……君は――」
その表情が、どこまでも真摯なものだったから。
「――君は、私の彼氏になるんだもの」
それは、決して――抱き合ったことで愛が芽生えた――などということはない、と眼差しは語っている。が、軽口や冗談の類でもない。
ただ――
その真意は、このような形で――裸のまま、ベッドの上で語り合うべきことではないように思えた。