※この作品はR-18です。

花田提督と艦娘達の日常   作:花田司令

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第百八話「海風の戦い 後編」

ヒィッツ提督「間に合ってくれよ」

 

花田中将「うぅ」

 

蒼龍「刀治郎!」

 

花田中将「蒼龍?はっ!海風は!」

 

ヒィッツ提督「おやもうお目覚めかい」

 

花田中将「あぁすまない。ヒィッツ提督少し取り乱した」

 

ヒィッツ提督「大丈夫さ。俺も同じ状況だったら花田君と同じ行動をしていたさ」

 

花田中将「そうか。それで現在の状況は?」

 

ヒィッツ提督「メインモニターを見てみろ」

 

 

 

「そう言えばさぁ、僕こういうのも持ってるんだよ」

 

そう言ってウェイカー兄が懐から取り出したのは海特警正式採用の自動拳銃だった。

 

海風「!!」

 

「カイトクケーの建物から持って来たんだ。カッコいいでしょ?」

 

海風は目を見開いた。そして最悪の想像が脳裏によぎった。果たしてその予想の通りウェイカー兄は銃口を海風に向けた。その表情はまさに悪魔の笑みというべきものだった。

 

「艦娘ってピストルの弾は効くのかなぁ?」

 

海風にはもう弾丸を回避するだけの体力は無い。仮に体力があったとしてもウェイカー妹の術の所為で体は思う様には動かせない。海風は最早このままこの兄弟に嬲り者にされるのを待つだけの、まさに俎板の上の鯉であった。万事休すである。

 

海風「(パパ…ママ…ごめんなさい……)」

 

海風は心の中で花田司令と蒼龍に謝った。皆を守ろうとする余り気を逸らせて一人で勝手に飛び出した事を後悔した。状況判断で言うのならば一番初めの時点でそれは誤りであり、自分は悪手を打っていたのだ。

 

また自分の所為で家族達が悲しみ、苦しむ事になってしまう。自分が一番恐れる事態を自分の手で引き起こす事になってしまった。

 

海風「(悔しいよぉ……隼鷹さん、コルサックさん、那智さん……)」

 

「ヒヒ……」

 

ウェイカー兄が引き金を引く。

 

海風「(パパ、ママ、皆……元気でね……)」

 

海風は目を閉じた。

 

蒼龍「やめてー!」

 

花田中将「海風ー!」

 

銃口から発砲音と共に弾丸が撃ち出され、無機質な殺意を纏いながら海風に向かい一直線に飛んで行った。

 

しかし、弾丸が海風の体を穿つ事は無かった。

 

「─随分な無茶をしたものだな…だが、よく一人でここまで持ちこたえたな、海風」

 

 

聞き覚えのある声が海風の耳に入った。それは海風のよく知る人物の声だった。

 

海風「え……?」

 

「な……」

 

「そんなのアリかよ…!」

 

海風が恐る恐る目を開くと、そこには銃を持ったまま驚いた様子で目を見開いている兄妹と自分を庇う様にして立っている一人の艦娘の姿があった。

 

海風「『那智さん』……!」

 

那智の右手の親指と人差し指の間には、海風に向かう筈の弾丸が握り込まれていた。そして那智は間髪入れずそれをそのまま兄妹の、正確にはウェイカー兄の拳銃に向かって指弾の要領で撃ち返した。

 

我に返ったウェイカー兄が改めて銃口を向け引き金に指をかけ直すのと、撃ち返された弾丸が銃口から銃砲腔へ侵入するのはほぼ同時であった。

 

「まずいッ!」

 

危険を察知したウェイカー兄が咄嗟に銃を投げ捨てる。このまま気付かずに引き金を引いていたら、銃身が破裂し自身も決して小さくない被害を受ける事になっただろう。

 

那智「間に合って良かった……」

 

那智は海風を一瞥すると、再び鋭い眼差しで兄妹を見た。

 

「へへへ……そんな怖い顔しないでよ、お姉さん」

 

「おねーさん、ミョーコーガタジュ―ジュンヨーカンって言うんでしょ?私達知ってるよ。だってここに来るまでの間にやっつけた事あるもん♥」

 

「お姉さんと同じ顔の艦娘もやっつけたよ。強そうな事言ってた癖にすっごく弱かったな~」

 

「そうそう♥よわよわのザコザコだった~♥雑魚雑魚ざぁ~こ♥」

 

兄弟達は僅かに気圧されたが、すぐさま海風と初めて相対した時の様な態度になって那智をわざとらしい声色で挑発した。

 

那智「その雑魚にこうして邪魔をされた上に武器までダメにされたというのに、状況が分かっていない所を見ると思ったより頭は悪い様だな。弱い犬程なんとやら…というが本当の様だな」

 

「ッ……!」

 

那智「どうしたどうした。頭に来たのか?つまらない雑魚の挑発に乗せられたのか?年相応の『子供』らしくて可愛いな。余裕の無くなった顔は雑魚そのものだ」

 

「こいつ…っ!」

 

「ぜってーブッ潰す……!」

 

 

挑発で那智のペースを乱すどころか、逆に挑発し返された兄弟の顔から余裕が消え、一転怒りの形相となる。ウェイカー妹がハーモニカを吹き鳴らすと同時に、兄が指弾を海風の時よりも一層激しい勢いで那智に向って放った。

 

海風「那智さん!その音を聞いちゃダメ!体が頭で考えるのと違う動きをしちゃう!」

 

「もう遅いっつーの!この音が耳に入った時点でもうゲームオーバーって訳よ!」

 

ウェイカー妹も兄と共に攻撃に参加した。兄弟の指弾の弾幕が一斉に那智へと向かう。

 

那智「ふっ!!」

 

那智は短く息を吐くとその場で激しく両腕を動かし始めた。兄弟は那智の無謀な行動を見て再び余裕を取り戻し、歪んだ笑みを浮かべた。

 

しかしその余裕もほんの刹那の間だけで、一秒二秒と時が経つにつれ、その余裕に陰りが生まれ出す。

 

そして弾を全て使い果たしたのか、二人の攻撃は止まった。それに応じて那智も腕の動きを止め、左右の握り拳を手の甲が上になる様にしてそっと開いた。するとそこから二人の放った弾の全てがぽろぽろと地面に零れ落ちた。攻撃は全て受け止められていた。

 

「こんなバカな!」

 

「私の能力が効いてないの!?」

 

那智「いいや、確かに効いていたぞ。仕組みは分からんが確かに最初は体の動きに違和感を感じた。だが、『それまでだ』。体の動きが頭で考えるのと違う動きをすると言うのなら、『それに合わせて体を動かせばいい』。海風のおかげで助かった」

 

「なんだよそれ…!ふざけんなよ……!」

 

何でもない様な涼しい顔で言う那智にたまらず声を荒げるウェイカー兄。これには流石に海風もウェイカー兄に共感した。

 

 

那智「どうした?これで終わりか?」

 

「うっ……」

 

「……」

 

ゆっくりと近づいてくる那智に対し、兄弟は完全に打つ手を無くしたのか後ずさりをして距離を取ろうとする。しかしここでウェイカー妹が躓き、地面に尻餅をついてしまった。

 

「きゃっ!」

 

「トマシーナ!」

 

妹に気を取られて足を止めるウェイカー兄。振り向いた時には那智は二人の目の前に立っていた。

 

「ご………」

 

那智「ん?」

 

「ごめんなさいぃぃ~~~~~~~~っ!!」

 

「私達ちょっと調子に乗っただけなんです!もう二度としません!許してください!」

 

「施設を壊したり人を傷つけたりした分のお金は働いて弁償します!」

 

兄弟は突然両手をついて那智に必死に謝り始めた。

 

那智「今更謝った位で許されると思っているのか?」

 

海風「な、那智さん……」

 

那智の様子を見て海風は困惑の表情を浮かべる。

 

海風「何してるの那智さん……そいつらは…今那智さんの後ろにいるんだよ!!」

 

海風の言う通り、ウェイカー兄妹は那智の背後にいた。ウェイカー兄が手を叩いた直後、二人は堂々と那智の後ろに回っていた。それにも関わらず那智は既にもう誰もいない場所を見続けている。

 

「アハハ!聞こえないよ…たとえ耳元で叫んでも。だってあのおねーさんは今私達の相手をしてるんだもの。『あの人の脳が作り出した自分の思い通りになる作り物の私達と』」

 

海風「なんですって!」

 

海風の必死の叫びを一笑に付してウェイカー妹は言った。先程のウェイカー兄のハンドクラップ、それはウェイカー兄の卑劣な戦略、すなわち『催眠術』であった。

 

鮮やかに戦い、圧倒的に勝利したい、闘争の中に身を置く者ならば誰しもが持つ願い……その心理の弱みを突き術を施す能力。術中の闘争者はこうあって欲しいという安易な敵(ビジョン)を作り出し、こうあってほしい展開をイメージしてしまう。

 

だが、その相手は実体無き幻。闘争者にとって好都合なだけの単なる虚像である。

 

「今頃あのおねーさん、自分の頭で作り出した私達を相手にして得意になってんだろーね。アッハハ!かわいそ~♥」

 

ウェイカー兄の術中に見事にはまった那智の姿を見て心からの嘲笑を浮かべるウェイカー妹。

 

海風「そんな……那智さん……」

 

海風ががっくりと肩を落とし崩れ落ちる。那智でさえもこの二人には敵わないと言うのか。

 

「やっぱりお姉さんも、雑魚だったね……♪」

 

那智の背後に立つウェイカー兄がいよいよとどめを刺そうとする。その手には先程海風を戦闘不能に追い込んだ砲丸があった。

 

「じゃ、さよなら~~♥」

 

ウェイカー兄の手から砲丸がレールガンの様に射出され、那智の後頭部に向かって吸い込まれる様に一直線に飛んで行った。加速を付けた砲丸が最高速度に達し、那智の頭部に激突する。

 

その次の瞬間だった。

 

「……!?ぐぇはッ……あ゛…けはっ」

 

海風「!?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

砲丸の直撃を受け倒れたのは、ウェイカー兄だった。なんと那智は砲丸が当たる直前に強烈な後ろ回し蹴りを砲丸に浴びせ、そのまま先程拳銃の弾を返した様にウェイカー兄に向って打ち返したのだ。今度の砲丸はウェイカー兄の体を狙って飛ばされ、見事鳩尾の中心に最高速度で直撃した。

 

「よくもお兄ちゃんをぉぉぉぉっ!!」

 

動かなくなった兄の姿を見て激高したウェイカー妹はポケットからアーミーナイフを抜いて右手に握り、那智に向って一気に躍りかかった。

 

那智「……」

 

しかし那智はその右手首を掴んでそのままねじり上げた。ナイフが地面に音を立てて落ちる。怒りの刃が那智に届く事は無かった。

 

「このっ!離せ!クソ女!おらっ!」

 

口汚く那智を罵りながら抵抗するウェイカー妹だが、当然拘束は解かれない。それどころか那智は更に力を加え、手首をねじり上げた状態からそのまま脇固めの形に転じる。ウェイカー妹は左手で反撃しようとするが、すぐさま那智が更に極(き)める力を強め関節への痛みでそれどころではなくなる。そして那智はウェイカー妹の肘と手首を極めたまま倒れ込んで体(たい)ごと潰し、寝技の体勢になって締め上げた。

 

「があああああああああ!!くそがぁあああああああっ!!」

 

痛み、屈辱、怒り、ありとあらゆる感情を込めあらん限りの声で張り裂けんばかりにウェイカー妹は叫んだ。

 

 

花田中将「これは」

 

蒼龍「さすがは那智さんね」

 

ヒィッツ提督「さぁてそろそろ行くとしようかね」

 

花田中将「ヒィッツ提督 海風を頼む」 

 

ヒィッツ提督「分かった」

 

 

続く

 

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