銀髪ロリ巨乳の死神がセックスお誘いしてくる 作:緋枝路 オシエ
歩道橋のド真ん中で34歳の低学歴と小学生並の体躯の化け物。
どんな対面なんだか…………俺らの他に歩道橋を利用する者は居ない、走っている車のエンジン音も鬱陶しいセミの鳴き声も――――俺が次の言葉を引き出すまで何も聞こえなかった。
「……………………お前が人間じゃ無い、非現実的だがそれは認める…………だが待てよっ! 余命13日ってどんな冗談だ!?」
「そのままの意味だ。目を閉じ、胸に手を当ててみろ、聞こえてくるだろう、砂時計が落ちる音…………止まる事は無い、終わりの迫る音を。その砂時計は正確だ、13日で一粒も残らず空となって上下反転する事は決して無い」
っ……………………ッ゙!! 嘘だろッ!? マジで聞こえてきやがるっ。
サラサラサラサラサラッ――――脈を刻むリズムで粉粒が下へ溜まらず、人間が何れ行き着くあの世――――ライフラインが繋がってしまっている。
「俺が死ぬのを待つのかっ、お前…………死神っ…………!」
「………………………………そうだなっ、ソレと変わりない存在かもしれないな。13日後に貴様の命は尽きるのだ、私が狩り取るからな」
救いは無い、生きていても意味は無い。
自殺を決め込んでいたのに死を突きつけられると――――怖くなった。人間は自分勝手だ、だけど死ぬのが…………怖くなった。
「なぜ俺が選ばれたんだっ!? 命を奪うべき人間は他にも居るだろうっ!? 俺なんかよりずっと死んだ方がマシな犯罪者とか役に立たねぇ政府の権力者とかさぁ! そういう奴らを狙えよっ!?」
「貴様の主張は最もだ、その怒りも否定するつもりはない。だが私が貴様を選んだ訳では無い、それだけは理解して欲しい」
全世界の人口70億人以上…………わざわざ俺を選ぶメリットなど皆無。
もうおっぱいに目もくれず、少女を真上から睨み付ける光景は大人げないだろうが、俺と少女、この二人だけが取り残されたかの如く他の人型生物の姿は現れない。
「狩るのは私だが選んだのはこの世界、シラレザル理だ。審判は生を受け報われず、後悔ばかり、理が『この世の不利益』と判断した者へ下されるんだ」
「…………っ…………いつの間にか俺は中二ゲームの世界に入っていたのかぁ、ハハハハッ――――」
「仮想世界ではない、私達が地に足つけているこの世界――――現実だ」
…………………………ダメだっ、まるで表情は変化してないが断言された。
人間に好かれなかったとか、そうじゃない――――世界が俺を見捨てた。
『私の世界にお前は不必要』だって――――
俺の価値は犯罪者以下なのかっ、働いて働いて、死にたくないから頑張って生きて…………それでも世界は『俺を必要としてなかった』
「…………混乱するのは無理も無い、人間の処理能力の限界を超えている、それだけ衝撃的な真実だったからな。勤め先を辞めたのだろう? 自宅で横になってから改めて私の――――」
「ゔッ゙! る゙っせええ゙ぇ゙っ!!」
少しずつ少しずつ…………確実に終幕が近づいてる…………
サラサラサラッ、現在進行形で砂が落ちる、聞こえちまってる…………お前――――心臓の持ち主は俺だぞっ、仇なすようにカウントは止まってくれない…………自分の心臓すら『俺』を裏切るのか? 自分の物なのに『俺』を否定するのか…………?
あんな死神の言う事なんざ信じたくない、だけど…………サラサラサラサラッ――――
また猛スピードで走る、それでも流れ落ちる音は止まない。落ちた砂は集結する事が無く、真っ暗な空間へ吸い込まれていく。
「俺はシヌ、あと13日、俺、シヌ」
双眸を開きっぱなしで自宅へとリターン。最中に恐らく車のクラクションや、交通整理の警笛と思われる音が耳へ入ったが、振り返らずにガン無視。
ぶつかるかも、など考えず疾走しながら目を瞑る、胸に手を置く、あぁ…………やっぱり聞こえてくる。
何かをしても、何もしなくたって――――
13日後に俺は死ぬから詰んでいた、それが事実。
ギネス記録を更新する速度で長距離を走り終えた俺の身体は、疲労どころか息切れの一つも起きてなかった。
死の刻が設定された緊急事態に、底知れぬ力を引き出したのかもしれない。だがエネルギーは燃焼されているので腹ペコだ。
「どうせ死ぬんだ! 食いたい物を我慢せずに注文するぞっ! カロリーも代金も考えなくていい! 13日の間に使いまくってやりたい放題してやるっ!!」
保険も下りないんだ、貯金を引き渡す相手も居ない! どう使おうが俺の自由だ!
多くない収入、切り詰めて切り詰めた生活、未来の為と節約し蓄えて来たが…………何とも馬鹿馬鹿しいエピソードだ。結局『未来』は13日しか残っていないのだから。
「まず3500円のピザだろ、ハンバーグとチキンソテーセット! これも食いたかったんだよなぁ! 後は特上寿司に大吟醸! 明日もガンガン注文しっ――――」
「あの距離をあの速度で走っていたからな、摂食中枢の訴えは想像を絶するほどだろう。食後の胃もたれには気をつけろよ」
……………………!?!?
とうに振り切った死神ッ!? 何で俺の家に入り込んでんだッ!?? どうやって追いついたッ、どんな手段で俺の家が分かったッ!??
幼くも冷たい声色だが、もしや俺の身体を思いやっているつもりなのか?
俺の命尽きるのを待っている死神に一番似合わない言動。
ハハッ、胃もたれした人間は〝死神にとって〟あまり美味くないとかなのか?
「てめっ…………出てけよッ!! 13日後に俺の命はくれてやるよッ! だがなぁ! 命有る間に顔合わせるのは願い下げだよ化け物が…………早くこっから出てけよォ゙ッ゙!!」
綺麗、だがそれ以上に気味が悪い。死神…………化け物だから瞬間移動でも使ったのかもしれない。
「待てっ、私は――――」
「うるせぇ出てけ!」
自分の家に異性、どころか誰かを入れたのは初めてだ。初客が化け物になるとはな。
話を聞いてやる必要はない、反論しようとした化け物の腕を引っ掴んで――――死体を連想させる冷たさに俺の方が驚き一度は離してしまった――――家から追い出した。
「…………………………………………」
内側から鍵を掛ければ、いやっ、透過能力を持っているかもしれないなっ…………それだとキリがない。
「その都度追い払ってやりゃあいいか! 飯だ飯だっ! 飲めや~~歌えやぁ~~! ハッーーハハァアッーー!!」
大量の宅配注文を終え、死への恐怖から背を向けるように狂乱。他の居住者への迷惑なんざ知った事ではない!
そうだ! 金を投与出来るんだから本番ソープに行けばいいじゃん!? 34歳になって童貞を捨てる笑い話だが死ぬんだからヤらなきゃ損だしなぁ!
「ああ、13日よりも先に死んでやるのもアリだな。金使い切ったらレイプして殺人して、歴史に残る傷跡を刻印してから高層ビルから飛び降りてやろーかなぁ!」
女性の配達員がピザを届けに来た。
檻の外へ出してはいけない、喜怒哀楽が全て『喜喜喜喜』に変換されたハイテンションの俺を見て、小声で「キモいこの人」と漏らしたがどうだっていい!
(そのとーーり! 俺は~~キモいッ! 中卒無職無資格童貞! 虐められ続けた劣等感の集合体でぇぇ~~すっ!)
※
「疲れて眠ったか」
追い出され太陽と満月が反転しても、あの者の砂時計は反転される事は無い。
ただ儚く流れるのみ、私は――――だから覆すだけの力も持ち合わせていない。
失礼ながら数時間、あの者の生活を眺めさせて貰っていた。敷き布団1枚干せるスペースでしかない、小さなベランダ――――三階だが〝回り込めばいいだけ〟だ。
宅配された食べ物や酒、暴飲暴食、溺れ煽る姿、私は滑稽だとの感想は抱かない。
人は誰しも死が目前と悟れば、理性よりも種としての本能が上回る生き物。
特に三大欲求の比率変化は著しく、睡眠欲が殆ど削られてしまう。間も無くして『本当の睡眠』となるのだから勿体ないと本能が判断するのだろう。眠りこけているあの者はまだ理性が残っているが。
「食欲も大幅に増加するケースが殆どだ。健康に体型、気にする必要も無くなってしまうから…………そして――――性欲」
その為に私が存在する。捌け口…………私に任命された役割の一つ、あの者が目覚めたら――――
「……………………ニイニイゼミ、熱帯夜、陽のある間と勘違いしているから鳴き続ける。勘違いしたまま寿命を迎える…………」
ステンレスの物干し竿に体育座りしている私の眼前を飛翔し、アパートの壁にへばり付いたニイニイゼミ。
住民から「眠れない、五月蠅い」と怒りの矛先をぶつけられても、鳴くのを止める気配は無い。
「13日、セミの寿命は長くて一ヶ月持つと言われている。短命なセミと同じ、私が――――対象も同じ…………」
セミの隣で私の腹も鳴る。姿形が変わることの無い身体は空腹を訴えるが、例え10年間飲食せずとも私は死なない『死ねない』
「………………………………」
あの者は酒瓶を抱いている。寝言、想像上の女性の名、彼も勘違い、寂しさと人恋しさの表れ。
「生憎、私は人では無い…………すまないな」
睡眠を取る必要のない私は、彼が眼を覚ますまで寝顔を見つめ砂時計の音を聞いていた。