原作5巻でカットされたシーン(めぐみんの告白など)は「やってない」という体で話を進めていますのでご注意ください。
風が走る丘の上。
その爆煙はまるで今の私の心を現わしたようなハート型。
あの日、あの青空の下で。
あなたが私の心に爆裂魔法を放ったのだ。
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「ゆんゆんは、誰かを好きになったことってありますか?」
私は気だるそうに、物思いにふけながらため息をついて相向かいに座るゆんゆんに語りかけた。
ゆんゆんは突然の質問に頭が追いつかなかったらしく、きょとんとした顔をしていたが、しばらくすると私の言葉を呑みこんだようで次第にあわあわと顔を赤くして慌てだす。
「ふぇっ!?す、好き!?え、それって、もしかして、こ、こ、恋バナってやつ!?まさかめぐみんとそんな話が出来る日がくるなんて!」
そう言うとゆんゆんは胸元から手帳を取り出し、赤ペンで丸を書いている。
あれはゆんゆんお手製の「友達とやりたい事リスト」のはずだ。
相変わらず私以外に友人と呼べるような人はいないようですね。
紅魔の里では私と同じ位には活躍したと言うのに、まったく。
「それで、ゆんゆんは恋とかしたことありますか?ないなら時間の無駄ですから別の人に相談します」
「ちょっと待って!まだ誰かを好きになったことはないけど、分かる範囲で相談に乗るから!だから行かないで!」
一応の礼儀として付き合いの長いゆんゆんに相談したわけですが、この人選は我ながら間違っていると言えるでしょう。
お互いに里に居た時は男っ気がありませんでしたし、未だにソロでクエストをこなしているゆんゆんに恋のいろはなど聞いても建設的な意見を貰えるとは思えません。
私のこの胸に渦巻いているもやもやとした気持ちを打ち明けた所で、的確なアドバイスなんて出来るはずもありません。
…ですが、この相談は相手が相手なだけにダクネスにはし辛いものがあります。
アクアは恋とかそう言うのを理解しているか疑問ですし。
そんな風にこの話を先に進めるか迷っていると、店のカウンターからウィズが近づいてきてにっこりと笑顔を向けてきた。
「めぐみんさん!何だかお悩みの様ですね?私で良ければご相談に乗りますよ?」
私とゆんゆんが話し込んでいるのは他でもない、ウィズの店だ。
人があまり来ないことをいいことに私はそこで恋バナをはじめ、そういう話が好きなリッチーに見咎められたのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつものように爆裂魔法を唱える。
魔力の流れ、タメ、発動時の反動。
もろもろのポイントを意識した魔法は、この間まで目標にしていた地点を大きく離れ、射程ギリギリに位置する大岩にて爆裂した。
「……………」
「うーん、悪くはないんだが何だかすっきりしない爆裂だな。威力はいい感じだから92点ってところか」
私自身もそのくらいだと思っていた爆裂魔法。
カズマはそれを的確に採点してのけた後、ドレインタッチで魔力を分け与えて私を引き起こす。
その顔はどこかいぶかしげで、私を見て先程の爆裂魔法の出来について疑問を投げかけてくる。
「どうした?なんか紅魔の里から帰ってきてから…いや、ピクニックの後からか?爆裂魔法の出来が良くないぞ?しこりがあるというかなんというか?体調でも悪いのか?」
「いえ…、体調は悪くありません。原因も…心当たりはありますのでそのうち改善されると思います」
「ふーん」
カズマはそう言うと、特に追及することもなく話を切った。
誰のせいだと思っているんですか、まったくこの男は。
「ですが、やはり少しふらつきますので今日もおんぶをお願いします」
「げ!?またかよ!それこそ帰ってきてから毎回じゃねーか!そういうのはドレインタッチをする前に言えっての。分け与えた分が損だろうが」
カズマはそう悪態を付きつつも慣れた手つきで私をおぶると、アクセルに向かって歩き出す。
私はそんなカズマのぐちぐちと文句を言う横顔と、見た目以上に広い背中、胸がきゅんとして苦しくも安心する匂いを堪能していた。
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「はぁ~疲れた。お前マジで具合が悪いなら一日爆裂も休んで体調を万全に戻してから出かけろよ。おぶって帰るこっちの身にもなってくれ」
屋敷に戻ってきた私たちは広間にあるソファに腰かける。
カズマはお疲れの様で、ぐだっと身体を投げ出しながら文句を言ってきた。
「先程言った様に体調は悪くはありません。しいていうなら気分の問題ですので」
「はぁ!?おま、気分で男をこき使うなんてどんな悪女だよ!?今からそんな手を使ってくるとか将来魔性の女になるぞ」
「魔性の女は止めて下さい!それは…すみません。でも、少し確かめたいことがあったので…。ですが不本意ながら今日で確信に至りましたので明日からはおんぶは大丈夫です」
「?意味が分からないが、まあいいよ」
私が少し憂いのこもった顔で謝るものだから、カズマはそれ以上文句も疑問も投げかけることはなく気まずそうに顔をそらした。
「それで、カズマはこの後どうするんですか?」
「俺は部屋に行って夕飯までごろごろする」
「そうですか、私はゆんゆんと約束があるので外出しますが夕飯までには帰りますので」
私はそう言ってソファから立ち上がると、玄関に向かって歩き出す。
以前ならごろごろすることに苦言を呈するところですが、今日は気分がいいのでスルーする。
そんな私の変化を不思議に思っているのかカズマは変な顔をしていたが、気にする事でもないと部屋に引き上げていった。
ゆんゆんと待ち合わせしたのはウィズの店だ。
ここ最近の心の憂いなどを相談するため事前に「話がある」と言って呼び出していたのですが、あの子は誰かから何かを誘われる経験がほとんどないので私の言葉に「え!?めぐみんから誘われるなんて!?行く!絶対行く!」と喜んでいた。
いい加減私離れをしてほしいものです。
ウィズの店に入ると、備え付けられているテーブルにぶるぶると震えたゆんゆんが縮こまりながら座っていた。
テーブルの上には紅茶とお菓子が乗っているが手を付けた感じはない。
そんな様子をウィズはにこにことカウンターから眺めていましたが、私に気付いたのか顔を上げて挨拶をしてきました。
「いらっしゃいませ、めぐみんさん。ゆんゆんさんもお待ちでしたよ」
「こんにちはウィズ。それで、そこのぼっちはどれくらい前にここに来ましたか?」
「ぼ、ぼっちじゃないわよ!里の時にふにふらさんとどどんこさんとお話しをしたし!」
私のぼっち発言にゆんゆんは騒ぎ出すが無視する。
ウィズは私の問いかけに少し困ったような顔をして顔をそらす。
「えぇ~と、実は朝お店を開けた時に外でゆんゆんさんが待っていたので、中に入っていただいたんですが…」
「この娘は!確かに私も時間を指定しませんでしたが何考えてるんですか!会えなければそれはそれでウィズに言伝するなりして別の日にすれば良かったでしょうに!」
「だってだって!この機会を逃したらめぐみんのことだから都合が悪いとか言って二度と話をしてくれないかもしれないじゃない!そう思ったら眠れなくて、迷惑にならないよう道のすみっこの方で待ってたんだけど、店主さんに見つかっちゃって…」
私はこれ見よがしに溜息を付き、ウィズは「いいんですよ」と人の良い笑顔を浮かべている。
つまりテーブルの上のお茶とお菓子は朝から用意されたもののようで、お茶から湯気が立っているところから考えるに、喫茶店でもないのに定期的にお茶の煎れ直しをしているようだった。
売り上げが悪いというのに、こちらの方が心配するほどのお人よしぶりだ。
「はぁ、まあいいですよ。呼びつけたのは私なので私にも落ち度がありますし。それで、ゆんゆんに少し話をしたい事がありまして」
「なに!?なんでも言って!今日のために盛り上がるトーク術も色々覚えて来たから!」
私がゆんゆんの相向かいに座りながらそう言うと、張り切って手をバタバタと振るゆんゆん。
正直、これから話す内容はゆんゆん相手でもかなり恥ずかしい。
だけど、それを悟られるのはしゃくなので、どこか憂いを帯びた表情とアンニュイな雰囲気で語りかけた。
「ゆんゆんは、誰かを好きになったことってありますか?」
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るんるんと浮かれ気分なウィズに、ドキマギと目を赤く光らせたゆんゆんに詰め寄られる。
こんな状況で話をするのは気が引ける。
「それで!めぐみんさんは誰を好きになったんですか!?」
ウィズがずいっと顔を寄せて来る。
「いえっ、私がではなく、ゆんゆんに好きな人はいるのかなと思いまして」
「いえいえ!そういうのは大抵の場合本人に好きな人が出来た時の『探り』としての前置き話ですよね?そういうのはいいので白状してください!」
流石はリッチー。
どうやらバレバレのようです。
まずはゆんゆんに話を聞いて、馬鹿にしてから段々と話を進めていくつもりだったのだけれど、予定がずれてしまいました。
「えーと、めぐみん、流石に私もめぐみんの言い方から好きな人が出来たってのは分かったけど…」
「ウィズには隠し事は出来ませんね。ゆんゆんも紅魔族としてこういった洞察力は見習わないといけませんよ?」
「ちょっと!だから私も分かったって言ってるでしょ!」
ゆんゆんがぎゃあぎゃあ騒がしいがこちらはそれどころではない。
いまだウィズは目をキラキラとさせて話の続きを待っているのだ。
ここは観念して暴露するとしますか。
「まぁ、その、実は…その…気になる人が…ですね?出来まして……はい」
しどろもどろに答えるとウィズの笑顔がより一層輝きだし、ゆんゆんの顔が目と同じくらい赤くなって、当の本人はあわあわと慌てている。
「まぁ!それはとっても素敵な事ですね!」
「あわわわ!あのめぐみんが!乙女の顔してる!」
失礼な発言をしたゆんゆんのほっぺをつねってやると「いひゃいいひゃい!」と暴れ出すが、ウィズが「それでそれで!」と話を進めるよう催促する。
「お相手の方はどなたなんですか?予想としては、あの人、ですかね?」
「うぅ…。め、めぐみんと接点のある男の人なんて、あの人しかいないよね?」
どうやら二人とも当たりを付けているようですが、私の口から言わせたいらしい。
顔に熱を帯びているのが分かるほど恥ずかしいですが、今日のこの場を用意したのは自分です。言わざるをえません。
「相手は………………カズマ…です」
「「きゃーっ!!」」
二人はそう言うとまるで同年代の友達の様に互いの手を合わせて悲鳴を上げた。
これじゃまるでさらし者ではないですか。
「と、とにかく!そういう感じなのですが、何か文句はありますか!」
「すごい!めぐみんが本当に誰かを好きになるなんて!食い気と爆裂魔法へに対する執着しかなかったあのめぐみんが!」
「おい!私に対する侮辱をこれ以上続けるならゆんゆんのバーコードの位置をギルドの掲示板に貼り付けてやりますよ!」
「やめてー!そこまでしなくていいじゃないの!私はめぐみんの成長を喜んでいるだけなのに!」
「まあまあお二人とも!それで、カズマさんのことをどうして好きになったんですか?ちょっと前まではそうじゃなかったんですよね」
私がゆんゆんの胸倉をつかんでゆすっていると、ウィズが手をポンと叩いて詳細を聞いてくる。
うぅ、年の功のリッチーに照れ隠しでごまかすのは難しいようだ。
「ええと、その、この前の紅魔の里で、皆で我が実家に挨拶にいきまして…」
「そこでカズマさんが親御さんに『娘さんを下さい!』って言ったんですね?」
「違います!その時の私は寝ていたので良く分からないのですが、起きたら…カズマが隣に寝ていて」
「まぁ!」
「ええー!!」
同衾までは予想外だったのか二人は驚きで目を丸くしている。
「まぁ、その、1回目は私も怖くなって逃げてしまったんですが、2回目は、その、嫌じゃなかったというか、安心したというか」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!その…1回だけじゃなくて2回もカズマさんと……寝た…の?」
「えぇ、まぁ…」
私の返答にゆんゆんは「あわわわ!」と顔を真っ赤にしている。
「つまりめぐみんさんは、カズマさんと、そういう関係になったということでよろしいんですね?」
……………………………
…………………
……………ッ!!
「違います違います!この寝たというのは文字通り一緒に添い寝しただけで、そういうアレはありません!ゆんゆんもウィズも妄想が過ぎますよはしたない!」
「ええ!?今の話し方だとそう捉えられても仕方ないと思うんだけど!」
「私も創作で良くある乱暴に行為に至ってそこから恋に発展するアレかと思いました」
どうしたことでしょう。この二人はすぐにそういうことに結び付けてしまう頭ピンクな人達だったようです。
もし、そうなっていたらこの件を相談するのはゆんゆんではなく警察でしょうに。
「二人がどういう思考回路を持っているかよーく分かりましたよ。それで、シルビアを倒してアクセルの街に戻ってきた訳ですが、ひと段落ついたということでパーティの皆でピクニックに行きました。そこで私はカズマに爆裂魔法を諦めて上級魔法を習得することを打ち明けたんです。私が上級魔法を習得すればみんながピンチになることも無くなりますから…」
「え!?めぐみんが爆裂魔法を諦める!?」
長い付き合いのゆんゆんはその意味を誰よりも知っている。
私が如何に爆裂魔法に人生を捧げて来たか。
そしてそれを諦めるということの意味を。
まだ付き合いの浅いウィズもゆんゆんの顔色を見てそれがどんなに大きな意味を持つかを察したようです。
「決心した私はカズマに上級魔法習得のスキル欄を押してもらおうと冒険者カードを渡しました。とてもじゃありませんが自分自身の手では押せませんから。そして、操作が終わって帰ろうとしたらカズマが「最後に爆裂魔法を撃ってくれ」って」
私の回想を二人は黙って聞きいってくれている。
「最後の、お別れの爆裂魔法。全身全霊を込めたそれは、今まで見た事ない規模の物でした。………カズマは上級魔法ではなく、爆裂魔法威力向上にスキルポイントを使ったんです」
ゆんゆんは顔を赤くしてこくこく頷いており、ウィズは「まぁ」と口を抑えて驚いている。
「驚いてカズマの方を見ると、ニカって笑って、何も言わないで笑うだけなんです。その顔を見たたら、あぁ、好きだなぁって。私はこの人が好きなんだって気づかされました」
一気に話し終えた私はその時の光景や感情を想いだして感極まってしまい、それを隠すために一度テーブルに視線を落として落ち着くことにした。
するとゆんゆんがわなわなと震えてテーブルを軽めに叩いた。
「すごい!カズマさんすごい!それはめぐみんも好きになっちゃうのも分かる!」
「えぇ、カズマさんはやる時はやる人ですけど、その対応は本当に満点ですね!」
ゆんゆんとウィズはまるで自分がそこに居たかのように興奮して、カズマの行動を褒め称えている。
「カズマのことが好きだと気づいてから、自分自身でも信じられなくて、二人で爆裂魔法に行ったりしてカズマのことを観察したり自分の心に向き合ってみましたが……たまらなく好きなんだって…」
そう言って恥ずかしくなってしまった私は、テーブルに突っ伏してしまった。
その私を、ウィズがよしよしと撫でてくれる。
「ふふ、めぐみんさんは誰かを好きになるのが初めてなんですね?だから自分の気持ちに気付いてもどうしたらいいか分からない。だからゆんゆんさんに相談しようと思ったんですね?」
「…………はい」
どこまでお見通しなんだろうこの優しいリッチーは。
「そんなの、もしめぐみんに1対1で相談されてたら何にも出来なかったと思う…」
「ゆんゆんさん、相談と言うのは何も解決に向けてアドバイスするだけが全てじゃありませんよ。悩みを聞いて一緒に悩んであげる。それだけで十分救われるんです。それはお友だちのゆんゆんさんにしか出来ないことです」
ゆんゆんは思いのほか重かった私の相談内容に自身の無力感を感じたようですが、ウィズが取り成したおかげか気落ちしている様子はありません。
というか「お友だち」という言葉に嬉しそうにしている。
この子は、私が真剣に悩んでいるというのに。
「でも、めぐみんさん。私達にはそのお悩みを解決してあげることは出来ません。それが出来るのはめぐみんさん自身と、何よりカズマさんだけですから」
ウィズの言葉はもっともだ。
どこまで言ってもこの問題は私とカズマの問題だ。
ゆんゆんやウィズに打ち明けたことで心は軽くなったが、決着自体は自分自身の手で付けなければいけないのだ。
「ですが、解決と言っても、私自身がカズマとどう向き合ったらいいか、答えが出ていないんです……」
私が今の正直な気持ちを吐露した瞬間、お店の扉が勢いよく開かれ、馴染の悪魔が乱入してきた。
「へいらっしゃい!世間でゲスだのクズだのと評判な冒険者にちょーっと優しくされただけで堕とされたちょろ娘と、相談されて嬉しい反面ちょろ娘が自分の知らない所へ行ってしまったような気がして寂しさを覚えているぼっち娘よ!」
今までのしんみりした空気をぶち壊すかのように登場したのは元魔王軍幹部の悪魔バニルだ。
…登場して早々、人をイラつかせるのが上手い悪魔ですね…!
「誰がちょろ娘ですか!!」
「わ、私だって別に寂しがってなな、ないし!」
「あらバニルさん。買い出しの方は終わったんですか?」
私とゆんゆんは怒りにいきり立ちテーブルから立ち上がるが、ウィズはマイペースに問いかけた。
「うむ、中々良い大根が買えた。これならば走る大根人形にもなれる逸品だ」
姿が見えないから店の奥にでもいるのかと思っていましたが、どうやら夕飯の買い出しに行っていたようです。
悪魔とリッチーで夕飯が必要なのかは疑問ですが。
「それはそうと、そこの恋に迷える子娘よ。そんな貴様にうってつけの薬があるがどうだ?」
そう言うとバニルは大根を再び買い物袋にしまうと代わりに小さな小瓶に入った薬を取り出してきました。
まるでいつもカズマにするような怪しげな勧め方ですね。
「買い物袋から出してきましたが、それを買うために外出していたのですか?」
「いいや、この時間に貴様が訪れるのは分かっておったからな。予めこの薬を袋にしまってから買い物に出たというだけだ」
…相変わらずこの悪魔は。カズマがやり込まれてしまうのも納得です。
「それでバニルさん。その薬は一体どんな効果なんでしょう?私も初めて見るアイテムですね」
何だかんだ魔法具店の店主。
ウィズはバニルの取り出した薬が気になるのか、薬の容器をじっと見ている。
目薬のような容器に入った色は薄いピンク色をしており、少量ずつ使う事くらいしか詳細は分からない。
「ふむ、そこなぼっち娘よ。貴様は『夢遊病』というのを知っているか?」
「その呼び方は止めてくださいっ。む、夢遊病は知っています学校で習いましたから。確か夜中に勝手に歩き出してしまう病気ですよね?なのに本人は半分眠っているからか、翌日には歩いていたことなんかは忘れてしまうって…」
「おおむね合っている。この薬は誰かに飲ませることで、その者を夢遊病にかけることが出来る薬だ」
バニルはそう説明したが、そんなはた迷惑な薬、何の意味があるのだろうか?
「この薬を飲んだ者は深夜、飲ませた相手の所へやってくる。半分眠ったままな」
その言葉に私は思わずぴくりと反応してしまう。
それを見てバニルは口もとをいやらしく二ヤつかせる。
「この薬を飲んだ者は半分寝ておるからな。普段はひねくれている様な者でも素直に言う事を聞いてくれる上に、本心などもさらけ出すだろう」
その耳触りの良い言葉に、私はさらにぴくぴくと反応してしまう。
ゆんゆんは「すごいっ!」と薬の効果に仰天しているようだ。
「つ、つまり、この薬を飲ませれば相手を夜中に呼び出して言う事を聞いてもらえたり、自分のことをどう思っているか分かるってことですか!」
ゆんゆんが薬の効果内容をまとめてくれた。
つまり、これがあればカズマの気持ちなんかもカズマに悟られずに分かったりするわけですか…。
「それでバニルさん。何か副作用もあるんですよね?」
ウィズは薬の効果に驚きはしたものの、何か裏があるだろうと踏んでそう質問をする。
「ふむ、この薬を飲んだ者は便宜上夢遊病になると説明したが厳密には違う。翌日になっても忘れることはなく、何を言ったか、何をやったかはっきりばっちり覚えている」
その言葉にがっくりきてしまう。
それじゃあ変な事を聞いたら秘密裏に事を成そうという思惑から外れてしまうではないですか。
「だが、見通す悪魔が宣言する。あの小僧に限って言えばその副作用は気にしなくて良い」
「それはどういうことでしょう。カズマは副作用が起きずに翌日には忘れてくれたりするのですか?」
「いや、ちゃんと覚えている。具体的な内容を言ってしまうと面白くないから言わぬが、悪いようにはならん。小僧が勝手に都合の良いように解釈してくれる」
????
いまいち要領を得ないが、どうやら使うことで関係が気まずくなったりはしないようですね。
「それで、対価は?お金はありません」
「ほう、小僧と同じく話が早いな貧乏娘よ。対価は使用した次の日には店に顔を出してもらおう。そうだな、そこなぼっち娘も連れてな」
「?それだけでいいのですか?」
「うむ、我ながらなんと良心的な対価であろう」
私はその言葉を吟味し、うむむと唸る。そして
「分かりました。買います」
「いいのめぐみん!?悪魔との契約は慎重にって習ったでしょ!?」
私の即決にゆんゆんが口を出してくる。
心配そうな顔をしているがまた自分と連れ立って店に来られるのが嬉しいのか、口もとは笑ってしまっている。
「大丈夫ですよゆんゆん。もしこの悪魔が騙すような真似をしたならカズマにチクりますから。知的財産の交渉が難航する位には話を盛って」
「くだらん心配をせずともよい。どこぞの神々のように分かり辛い契約書で縛ったり騙したりはしておらん。小僧はお得意様。お得意様は神様だ。神に喧嘩を売るなど、恐れ多くて吾輩には出来ぬて。フハハハハハ!」
過去に何度も神々に喧嘩を売っている悪魔が何を言っているのか。
「使い方は簡単だ。何か飲み物に1滴垂らせばよい。それだけで今夜小僧はお前の傀儡だ」
傀儡。
カズマを思い通りに出来る。
思わずゴクリと喉をならしてしまう。
「め、めぐみん?目が光ってヤバい感じだから少し落ち着こう?」
「めぐみんさん?カズマさんはやられたことを覚えているのですからあまり突拍子のないことは出来ませんよ?」
二人の忠告はあまり耳に入ってこなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ただいま戻りました」
「遅いぞめぐみん!今日お前が料理当番だろ?俺が代わりに作り始めてるけど手伝い位はしてくれ」
屋敷に帰るとアクアもダクネスも帰っており、カズマは私の帰りが遅いとみるや代わりに夕飯を作り出してくれていたらしい。
台所からカズマの声が聞こえてくる。
「す、すいません思いのほか話し込んでしまって。すぐに手伝います!」
「めぐみんにしてはめずらしいな。自分の当番を忘れるなんて」
「私としてはお酒を呑みだしているから、ちょっと位遅くなっても許してあげるわ」
アクアとダクネスの声を背中に受けながら、急いで台所に顔を出す。
カズマが腕まくりをして料理の下ごしらえを進めてくれていた。
「とりあえずある物で適当に作ろうと思ってる。メインは肉でも焼いて付け合せに2・3品作りたいからめぐみんも1品考えてくれ」
「分かりました」
カズマはそう言いながら肉の下処理をした後に、野菜とソースを混ぜた和え物のような物を作っていた。
私はメインが肉、ということで何かサッパリとしたものでも作ろうかと思う。
遅れを取り戻すためにもくもくと作業をしていると、少し手の空いたらしいカズマが私の方をチラと見て気まずそうに話しかけてきた。
「あー、それで、その、なんだ、体調とかはもういいのか?」
そんな風にぶっきらぼうに聞いてくるが、気恥ずかしいのか頭の後ろをかいている。
おそらく爆裂魔法の出来が良くないのを体調の性だと思っているのだろう。
「ふふ、ええもう大丈夫ですよ。心配してくれるなんてカズマは優しいんですね」
「ば!?馬鹿言え。お前の体調が悪いと今日みたくおんぶして帰ったり、料理を代わったりしなきゃならないからな」
カズマは私の言葉に照れてしまったのか再び黙って料理を続けてしまった。
……カズマは優しい。
優しいのだ。
素直じゃないけどちゃんと見てくれている。
自分の好きな人がこんなにも優しいというだけで、何だか誇らしくなる。
それから料理が出来上がるまで必要最低限な会話しかなかったけれど、幸せな時間を堪能した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「それでね魚屋のおじさんが酷いのよ?最近魚の質が悪くなったのはアクアさん達のパーティの性じゃないかって!だから私はこう言ってやったわけよ…」
「いや、あながち風評被害じゃないからな。実際問題マグロは取れなくなったわけだし」
私達の夕飯はにぎやかだ。
朝やお昼はそれぞれが寝ていたり出かけていたりと全員が揃う事はあまりないが、夕飯は違う。
みんながみんな、今日あったことを持ち寄って話に花を咲かせるのだ。
だから私はこの時間が好きだ。
自分が一人じゃないと実感できる。
…けれども、この場でどうやってカズマに薬を飲ませようか。
基本的に私たちは手酌でそれぞれが好きな飲み物を飲む。
カズマの杯に私が何かを注ぐ場面というのは席の関係上でも少ない。
ううむ、困りましたね。
「そういえばめぐみんは爆裂散歩の後はどこへ行っていたのだ?帰りも遅かったし、皆心配していたぞ?」
そう思案していると、話しの合間を縫ってダクネスが私に問いかけてきた。
アクアとカズマも喧嘩みたいになっていた話を打ち切って、こちらの話に混ざる姿勢だ。
「私はゆんゆんとウィズの店に行ってきました。少し話があって…」
「話?話ってなーに?」
アクアが無邪気に返してくる。
しまった!今の流れでは話の内容を言わなければならないじゃないですか。私としたことが。
「またどうせ勝負だなんだと張り合ってたんじゃないか?この間の戦いでどっちが活躍したとか。これだからお子様は」
私の葛藤を知るよしもないカズマがそんなことを言いだした。
「待って下さい!私が子供ではないと何度言えば分かるのですか!私はもう結婚だって出来る年なんですよ!」
「お前の見た目で結婚なんかしたら警察に連れて行かれちゃうっての」
むかー!この男は!
なんですか里で一緒の布団にもぐりこんだ時はまんざらでもない感じだったのに!
「カズマ言い過ぎだぞ。めぐみんもあんまり怒ってやるな。こいつもめぐみんの体調が悪いかもしれないって気にしてたからな」
「おま!それは言うなって言っただろうが!」
その言葉に先程台所での優しさを思いだし、心がきゅっと温かくなってしまう。
…これじゃあ怒るに怒れないじゃないですか。
あ、いや、これです。これを口実にすれば…
「そうですかそうですか。カズマは優しいのですね。では私からの感謝の気持ちです。私がお酒を注いであげますよ」
「え?おっおう、まあな?ありがとう」
カズマはいきなり態度が変わった私をいぶかしんでいたが手に持っていた杯を私の方へ差し出す。
私はしめしめと思いながらカズマから杯を受け取り、無くなりかけていた杯にシュワシュワを注ぐ。
そして手とビンで皆に見えないよう気を付けながら夢薬(仮)を1滴垂らした。
カズマは私から杯を受け取ると、疑いもなくそれを口にする。
私は同じように自分の飲み物を飲みつつ、カズマがちゃんと薬入りのシュワシュワを呑んでいるか、マジマジと見つめてしまった。
「どうしためぐみん?カズマのことを凝視して?」
「あぁー!もしかしてめぐみん!カズマのお酒に毒でも盛ったんじゃないのー?」
「ぶふうううう!!」
「うわ!きたねーな!」
私は口に含んでいた飲み物を勢いよく吹き出し、カズマにかけてしまう。
なんでアクアはこうも肝心な時に察しが良いのだろう。
「へ、変な事言わないでくださいむせてしまったではないですか。あ、あれですよ、私もお酒を呑んでみたいなって…」
苦し紛れにそう弁明すると。
「ダメだぞめぐみん。めぐみんに酒はまだ早い。もう少し大人になってからだな…」
「ダクネスまで私を子ども扱いするんですか!!」
収まっていた怒りが再び噴出してくる。
そのまま、いつものように騒がしく、夕飯は過ぎて行ったのでした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
お風呂で隅々まで身体は洗った。
パジャマも洗濯したばかりの良い匂いのする物だ。
部屋の鍵も開けてある。
「…よしっ」
考えられる準備は済ませた。後はカズマがやってくるのを待つだけである。
…何だか妙に緊張してそわそわしてしまう。
というかお風呂で身体を洗ううんぬんってなんですか、これでは初夜を迎える新婚さんじゃありませんか。
これから来るのは夢うつつなカズマなんですから一線を越えるなんてことは…
「一線を越える……」
は!?
部屋に戻ってきてから何度目か分からない妄想が頭をよぎってしまう。
ぶんぶんと頭を振って冷静になるよう努める。
まるで夜這いを待つような心理状況になってしまっている。
これじゃあ昼間ゆんゆんとウィズはピンク脳と思ったことを馬鹿に出来なくなってしまう。
「私も大概ピンク脳だったんですね…」
でも仕方ないのだ。
今から好きな人が部屋に来るのだ。
さっきから鼓動は早くドキドキしているし、髪に乱れはないかと何度も手ぐしで治してしまう。
期待するなというのは無理な話だ。
「早く、カズマ…来ないですかね…」
夜は更けていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「………………………遅い」
もう深夜と呼べる時間帯は過ぎて東の空は白け始めている。
あと少し経てば鳥たちがちゅんちゅんと鳴き始めることだろう。
「これはあれですか?あの悪魔に騙されましたか?ふはは!想い人が来ると思って徹夜した残念娘よ!悪感情美味である!っていう奴ですか!!」
期待に期待を重ねていた分、怒りがふつふつと沸いてくる。
これはもうカズマだけでなくアクアにも声をかけて足止めをしてもらいつつ、店に爆裂魔法をぶっ放してやらなければ気が済みません!
そうしてウィズの店爆裂計画を企てて高笑いをしていると、不意に、ゆっくりと部屋の扉が開いた。
「!?来た!?ほ、ほ、ほ、本当に!?」
私は思わずベットに潜りこみ、毛布の隙間から伺うように部屋の入口の方を覗いてしまう。
そこにはカズマがいつもの寝巻きを着用し、左右に少しふらつきながら立っていた。
表情は夢うつつといった感じで、目は開くとも閉じるとも言えない半眼状態だ。
…そうか、カズマは基本的に夜更かししているから、普通の人より就寝時間が遅いのだと思いいたる。
「あぁ本当に来た…!あぁ…」
長い時間待っていた性で様々な感情に頭がぐるぐるとしていたが、本当にカズマがやって来た喜びに打ちひしがれてしまう。歓喜に身体が震えて声にならない嗚咽が出てしまう。
だけど朝まで時間はない。
急いで確認をしないと。
私はベットから立ち上がるとカズマのそばに寄る。
「カズマ…、その、カズマは今…寝てますか?」
なんとも頭の悪い質問だがこれを聞かないと怖くて前に進めない。
身を守るように抱きしめているマクラをぎゅっと掴みながら思い切って質問してみたのだが
「寝てるよ」
「起きてるじゃないですか!あの悪魔騙しましたねッ!」
私は怒り狂って抱きしめていたマクラを床に叩きつけてしまう。
「なんで…?俺はめぐみんの部屋に…?いるんだ…?」
「あ!?え、えっとこれはその…」
勢いのままおもいきりマクラを叩きつけてしまったがカズマはうつろな状態のままだ。
これは、そうか、寝ているというよりも夢を見ているといった感じなのでしょう。
逆に何もしゃべれない状態よりも全然良い。
それならば…
「これは…そう!夢です!これは夢ですよ!カズマ!」
「夢…」
カズマは私の言葉にうぅんと頭をかしげ、ゆっくりとではあるが首に手を当てて考えているようだ。
「今日って淫夢サービス…頼んだっけか?あれ?」
「い、いんむサービス?なんですかそれ…。あぁ、いや、そうですよこれはいんむサービスって奴です。だから私の部屋に居てもおかしくありませんよ!」
何だか良く分からない単語が出てきたが、勝手に納得してくれるなら好都合だ。
「そうか…。じゃあ…」
カズマは私の言葉にうなづくと、おもむろに服を…
「ってなんで服を脱いでるんですか!!?」
「脱がなきゃ…出来ないだろ…?」
「何をするんですか!?何を!?」
「何って…ナニだろ…?」
一体どうなっているのでしょう!?
カズマは夢で私に会ったら問答無用で服を脱いで行為にいそしむのが当たり前なんでしょうか!?
「ちょ、ちょっと待って下さい!そういうのは、その、将来的にはそういうこともしますが、今はまだです!まだ…服を着ていてください!」
「今日は焦らしプレイ…?分かった…」
カズマは私の命令に曖昧にうなづくと、いそいそと服を着始める。
どうやらこちらの命令はちゃんと聞いてくれるようで安心した。
「それではカズマ。カズマに聞きたい事があるので答えてください」
「今日は激しい感じがいい」
「違いますよ!プレイの内容ではありません!」
「ぐぅ…」
なんでやるのが当たり前なんですかこの男は!
いや、待って下さい。
もしかして
「もしかして、こうしてカズマの夢に私が出て来るのって初めてではないんですか?」
「…割と頻繁には」
「ひ、頻繁に夢に出て来てる…!それで、その夢の内容って…!」
「S〇X」
~~~~~ッ//////!!
よ、予想外でした。まさかカズマが夢の中で私と頻繁に、そういう、アレを、しているとは…!
こ、これは、脈あり、というやつなんでしょうか?
それならばと、聞きたかったが怖くてやめた質問をしてみる。
「か、カズマは…、その…、私のことを…どう思っているんでしょう…?」
「頭がおかしいと思っている」
「おい」
なんで頻繁に夢の中でS〇Xしてるのに好感度が上がってないんですか!
「普通夢の中に異性が出てきたら少しは意識するものでしょう!?なんでそんなにドライなんですか!?」
「夢と現実は別物(キリッ」
この男は!
なんでそこはしっかり分別が付いているのですか!そこをしっかり出来るのなら普段のセクハラを控えてくださいよ!
「でも…、紅魔の里ではちょっと意識した」
「ふぇ!?あ、ありがとう…ございます…」
い、いきなりそんな風にぶっこまれても恥ずかしくて反応に困る。
我が母に無理やり閉じ込められたりしましたが、無駄ではなかったようですね。
「…それじゃあ次の質問です。…カズマって好きな人はいるんですか?」
この質問もずっと気になっていたものだ。
もしカズマに好きな人がいた場合はその人よりもアピールしなきゃ勝てないだろう。
緊張してカズマの返答を待つ。
「俺が好きなのは…」
好きなのは…!
「アクア以外の女の子全員」
「ただの女好きではないですか!なんですかこの男は!」
うすうす気づいてはいましたがこの男、ただのろくでなしの女好きではないですか!
どうして私はこんな男のことを…!
「………?」
私はカズマを睨んでやりましたが、当のカズマはどこ吹く風。
はぁ。やっぱりこんなのでも、好きなんですよねぇ。
「…もういいですよ。では、どんな人が好みのタイプなんですか?」
「…俺のことを甘やかしてくれる大人のお姉さん」
ダメだこの男。早くなんとかしなければ。
いやいや、典型的なダメ男だが、これは今日一番の情報だ。
私はベッドわきのテーブルから手帳を出すと、「カズマの好みは大人の女性。甘やかすのが◎」と書いた。
私は内面こそ包容力があり冷静な大人の女ですが、カズマよりも年下なのがネックですね。
ここは甘やかす方向でアピールしていきましょうか…?
私が今後の方針を模索していると、カズマはぼーっとその様子を眺めている。
「今後のことはまた明日にでも考えましょう。今はカズマですね…。とりあえず聞きたい事は聞きましたが」
「…………」
カズマは何も言ってこない。
まるで人形のようにこちらの指示を待っているようだ。
そ、それなら。少し踏み込んだことをやらせても?
「か、カズマ!その、私に…告白してみてください!」
「…恋人プレイ?」
「こ、恋人…!そうです!恋人にするように情熱的にお願いします!」
私の命令を聞きうけたのか、ぼーとつっ立っていたカズマは私の近くに歩み寄り、右手で私の頬を撫で、左手で私の肩を抱いた。
そして…
「めぐみん…好きだ。世界中の誰よりも」
それはもう、理想的に、告白してきた。
ヤバい。
これは、ヤバい奴です。
はまりそうです。
「はい…!私もカズマが好きです…!……そのままぎゅっとハグしてもらって、耳元で好きだって言ってください」
私の要望に応えるべく、カズマは左右の手を背中に回して、少しキツめに、けれど大切なものを包むようにハグをしてきた。
身長差から私の顔はカズマの胸に埋まってしまっている。
カズマの安心する匂いが胸いっぱいに充満する。
カズマはそのまま私の耳に口を近づけて囁く。
「めぐみん…。好きだ…。愛している…。誰よりも可愛い…俺だけのめぐみん…」
あぁ~~~ッ!!
凄いッ!これはダメなやつです。
多幸感でいっぱいになって、なんかもう全てがどうでも良くなってきます。
私がカズマに抱きしめられトロトロに身悶えていると、背中に回っている手がするすると降りていき、お尻の方へ…
「ちょ、ちょっと待ってストップストップ!」
「…恋人プレイ?」
「プレイはダメです!それ以上は流石に起きている時にしましょう!一回離れてください」
そう言うとカズマは素直に拘束を解いて私から離れた。
あ、危なかった。流れで最後までいってしまうところでした。
カズマに抱きしめられるのは用法用量を守らないと危険ですね。
私は手帳に「カズマのハグは麻薬。危険ダメ絶対」と書き記す。
多幸感と眠気が合わさって意味の分からない文章だけど自分が分かればそれでいい。
「次は接触はなしで…。そうですね、そこの壁を使って私に壁ドンしてください。壁ドンしながら私を口説く感じで」
私の命令を聞いたカズマは私の手を引き壁に向かっていく。
そして壁際に私を立たせ、右手は壁に、左手は腰に手を当てて私を見下ろしてくる。
「…なんでこんな所にこんな可愛い子がいるんだ?なぁ、俺と付き合わないか?」
「…ちょいわるカズマ。…これもいいですね」
私がドキドキと見上げていると
「お前の目がキラキラ赤く光って…綺麗だな。それに髪だってしっとりしてて、いい匂いがする。顔だってまるで人形みたいに可愛い」
「あ、ありがとうございます…」
やれば出来るじゃないですかカズマ。普段もどんどん褒めてくれてもいいのに。
心臓が早鐘を鳴らし、顔が赤くなってしまうのが分かる。
「なんだ照れてるのか?くそ、照れてる顔も可愛いな、どうにかなっちまうぞ」
カズマはそう言うと腰に当てていた左手をこちらに伸ばし、私の前髪をくるくると弄り出す。
「なぁ、俺の女になれ」
思わずドキリとしてしまうような男の人の顔。
それがだんだんと近づいてきて…
「…ストップ!ストップですってば!なんで自然な流れでキスしようとしてくるんですか!」
「…無理やりチャラ男プレイ?」
「なんで最終的にS〇Xする流れになるんですか!やりません!やりませんからね!」
私がふーふーと威嚇するとカズマは壁ドンの姿勢からぼっ立ちに戻る。
どうやらカズマの性欲が強すぎてに夢=S〇Xという図式になってしまっているようですね。
どうしてそんなことに。
もう時間もギリギリで、あと1回くらいにしとかないと他の二人が物音に気付いて起きてしまうかもしれません。
ここは細かく設定を指定してカズマの性欲が介入する余地を無くさなければ。
「というわけでカズマ、最後の命令です」
……………………………………
…………………………
……………
「あぁ姫!貴方様は私が命に代えても守りますとも!」
「そんな、私はあなたが居てくれるだけでいいのに…!」
ゆんゆんから借りている姫と騎士の物語。
身分の差、姫を狙う悪い大臣、隣国との戦争。
様々な障害を乗り越えて最後に二人は結ばれる王道、というには使い古された感じの話だが、初恋まっただなかの自分としては結構面白く読めている。
今のカズマと私は物語中の騎士と姫だ。
場面は姫を我が物にしようとする大臣の私兵から、騎士が単身助けに来て、そのまま二人で逃げる場面だ。
そんなお姫様な私は今カズマの腕の中にいる。
抱きしめられているのとはちょっと違う。
いわゆる、お姫様抱っこだ。
「姫!あぁ姫!私の愛しき姫!爆裂魔法を愛し、しかしそれ以上に仲間想いの姫!可愛らしく気高い魔導姫!今だけは私の物だ!」
「あぁ、いい。すごくいいです。これです、こういうのでいいんですよ」
物語の設定に私自身の情報も混ぜたらなんだか良く分からない感じになってしまったが、やりたかったのはお姫様抱っこされながらの求愛なのだからこれでいい。
薬のおかげか普段ならこんなごっこ遊び、絶対カズマはやってくれないでしょうが今は騎士そのものだ。
一生私を守って欲しい。
「くそっ!こんなに可愛い姫をあんな大臣に渡すくらいならば!いっそ私の手で…!」
騎士カズマは思いのたけを伝えるため、腕の中の姫へと顔を近づける。
次第に二人のシルエットは重なっていき…
「重なっていき…、ではありません!どうやってもS〇Xに行くんじゃないですか!」
私は両手でカズマの顔を押しのけて暴れる。
急いで手帳に注意喚起を書きこむ。
手帳のページには新しく「どうあがいてもS〇X」の文字が刻まれていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あら、めぐみん。今日はずいぶん遅かったわね」
広間に行くとアクアがちょむすけと喧嘩をしながらソファの取り合いをしていた。
「すみません。寝過ごしてしまいました」
結局あの後カズマを部屋に帰して私も寝たのだが、妙に興奮してしまい中々寝つけず、完全に朝になってからの就寝となってしまった。
当然起きられるはずもなく、既に時刻はお昼の時間だ。
「たまにはいいんじゃない?体調も悪いみたいだし、今日は屋敷でゆっくりすれば?」
「いえ、今日もゆんゆんと会う予定がありますので。長い時間寝ましたので体調もばっちりですよ」
「そう?ならいいんだけど、風邪は魔法じゃ治せないんだから気をつけてね」
本当はまだ頭が重いのだがバニルとの約束で今日もゆんゆんを連れてウィズの店に行かなければならない。
薬の効果自体は間違いなかったのできっちり契約は順守しないと後が怖い。
そんな風に思いながら遅めのお昼を食べていると、カズマが同じように遅れて広間にやってきた。
「この引きニート!おはようじゃなくておそようじゃない!私を見習って早起きなさい!」
「うるさい駄女神!お前昨日は俺より起きてくるの遅かったじゃねーか!今日はたまたま早く起きたからってマウント取ってくんじゃねーよ!」
会って早々にアクアと喧嘩するカズマ。
よかった昨日は色々付き合わせてしまいましたから様子が変わるかもと思っていましたが、いつも通りのようですね。
「おはようございますカズマ。恥ずかしながら私も寝坊してしまいました」
昨日のやり取りを思いだし少し顔が赤くなってしまったが、おおむねいつも通りの表情やしぐさで挨拶できたと思う。
思うのだが…、カズマの方は全然いつもと違った。
「あ、めぐみん……。おはよう…」
カズマは私が挨拶すると少し顔を赤らめ、しばしジッと私の目を見つめてきた。
その強い視線に腰が抜けそうになる。
昨日の夜にも見た……男の人の視線だ。
カズマは……今とても私を求めている、そんな顔をしている。
しばしドキドキとカズマと目を合わせていると不審に思ったのかアクアが横から割って入ってくる。
「なーに二人とも睨み合っちゃって!なになに?なにか喧嘩でもした?それともにらめっこ?」
アクアはカズマの視線の意味も、私が少し興奮してしまっているのも分からないみたいで、そんな見当違いのことを叫んだ。
そのおかげか、この怪しい雰囲気も霧散し、どちらともなく視線を外した。
「わ、悪い。……なんかめぐみんに言おうと思ってたんだけどド忘れしちゃって考えちゃったよ」
そう誤魔化しつつ、チラチラと私のことを伺い見るカズマ。
「すみません私も寝ぼけててぼーとしちゃいました」
そう謝りつつも、口もとはにやけてしまう。
今までもカズマが私やダクネスのことをイヤらしい目で見ることは度々あった。
でも、今のは、そういう次元じゃなかった。
私がカズマをあの目にさせたんだ。
何とも言えない達成感にくふふと含み笑いをしてしまう。
「あー、それで、だ。今日なんだけど急に予定が入ったから夜は宿屋に泊るわ。だから夕飯はいらないから」
「この間も外泊したばっかりじゃない。そんな不良に育てた覚えはないわよ!」
「そもそもお前に育てられた覚えがない」
カズマはそう言うと昼食を食べ始めるが、私は逆に食べ終わった。
どうせゆんゆんはまたウィズの店で待っていることだろう。出来るだけ早めに行かないとウィズに申し訳ない。
「それでは私は少し出ますが、今日はちゃんと早めに帰って夕飯の準備をしますから安心してください」
私はアクアの「いってらー」の声を背中に受けて館を出た。
「ローテーションの順番が狂っちまった。めぐみんが連続になるなんて…」
カズマの独り言はもちろん聞こえなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ウィズの店の前に着くと、ゆんゆんの姿は見えず、何やら中が騒がしい。
既に中にいてバニルにからかわれているのでしょうか。
予想を立てつつ店の中に入ると予想通りゆんゆんは既に中に居て、バニルにからかわれているようだった。
からかわれているのはゆんゆんではなかったが。
「そこで騎士に扮した小僧は言う!『あぁ姫!貴方様は私が命に代えても守りますとも!』それを受けて姫になりきった爆裂娘は瞳を潤ませながら愛を語る!『そんな、私はあなたが居てくれるだけでいいのに…!』」
「キャーー!!」
「それで!それでどうなったんですかバニルさん!早く続きを…」
「続きを!じゃありませんーー!!!なにやってんですかあなた達!!」
昨日私とゆんゆんが座っていたテーブルには木箱と古いカーテンを使って造った即席の小さな舞台が組み上がっていた。
その上でくねくねと動いているのは2体のバニル人形。
明らかに私とカズマを模した人形は、昨日の私達の動きを再現した人形劇を行っている。
「フハハ!よく来たなネタ種族の爆裂娘よ!出会って早々羞恥の悪感情、大変に美味である!」
バニルが上機嫌に笑い、その笑いにつられるように2体の人形も腰に手を当てて笑う動作をしている。
「あ、めぐみんさんいらっしゃい!今バニルさんが昨日のめぐみんさん達を劇で再現して下さっているんですよ!よかったらご一緒に」
「観る訳ないでしょう!!なんで当然のように観賞してるんですか!!」
「めぐみんとカズマさんが…!なまじ知っている人達だからそこらの小説よりも生々しい…!」
「このぼっちが!なに人の恋路で発情してるんですか!はっ倒しますよ!」
ウィズとゆんゆんは劇の最初から楽しく観賞しているのか興奮は最高潮のようだ。
私が激昂しているというのにきゃーきゃー言って全く人の話を聞こうとしない。
「では続きをば。『くそっ!こんなに可愛い姫をあんな大臣に渡すくらいならば!いっそ私の手で…!』そう言うと小僧は爆裂娘に顔を近づける。気持ちだけではない、次第に二人のシルエットも重なりあっていく…」
「「きゃーーー!!」」
「ぶっ殺しますこの悪魔め!!」
「フハハハハ!強烈な殺意のこもった悪感情、大変に…!こら、やめんか仮面に手をかけてひっ剥がそうとするのはやめないか!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これが、対価、という訳ですか」
「フハハその通り!我が見通す目には昨夜のやり取りはもちろん、起きた後の小僧の欲情した野獣の眼光も、それに興奮した貴様の姿も見えている!」
「ああああああああ!!!」
私は恥ずかしさと怒りの混ぜこぜの感情に耐えきれず、テーブルに突っ伏してしまった。
「そんなに気になさらないで下さいめぐみんさん!これは…そう、お二人のやり取りを見て的確なアドバイスを送るために必要な事ですから!」
「絶対今思い付いたでしょうその理由!」
「わ、私もごめんね。最初はめぐみんに悪いと思ったんだけど…。想像以上に…すごかったから…」
ゆんゆんには刺激が強かったらしく、赤い顔と目でふらふらしている。
「ふ、フン!今回は醜態を晒してしまいましたがもう二度と薬を使うことはなく、この劇も開催されることはありません!残念でしたね」
「それはどうかな?吾輩が見通すと……見える、見えるぞ!1週間後に欲望に耐えきれずに薬を使用する汝の姿を!」
「私は欲望になんか負けません!もし私が欲望に負けて薬を使うようなことがあれば次回の劇は最初から一緒に観たってかまいませんよ!」
「め、めぐみん。流石に私もその言い方は伏線回収される未来しか見えないんだけど」
ゆんゆんはそんなことを言うが、私の意志は固いのです。
カズマがあんな風に告白してきたり、何でもいう事を聞いてくれるカズマだったとしても…。
…………。
「ふむ、その様子だと1週間持つかも怪しいかもしれんな!フハハハハ!」
「ぐぅぅぅ…!」
悔しさで歯を食いしばりギリリと鳴らしてしまう。
この悪魔の言い方には腹が立ちますが、正直私自身も耐えられるか不安になってきました。
昨夜のカズマとの逢瀬は、それはとてもとても魅力的でしたから。
「めぐみんさん、逆に、逆に考えましょう!カズマさんは私の見立てによるとぐいぐい押してくる女性に弱いと思います。この恥ずかしい気持ちを乗り越えて積極的にアピールすれば、きっと結ばれること間違いなしですよ!」
確かにカズマは押しに弱そうですし、この薬を使ってそこら辺を練習すれば…いやいや!でも……
…結局、1週間後に私が薬を再び使用したのは言うまでもありません。