16-29
「今夜は花火大会が有るのよ、先生一緒に行きましようよ」
優奈は夕方に成って急にモデルに飽きたのか、康正に強請りだした。
康正も絵を描くのも少し飽きて、気張らしに行こうと二人は食事に出掛けて、その後花火を見に行く事にして車で自宅を出て来た。
新神戸の駅前のタクシー乗り場で待つ賢造の目に、優香の浴衣姿が飛び込んで来た。
あれ?優香?違うよな?大阪に向かったのに何故?と見ていると、黒のワゴンの車に乗り込む。
人違い?と思ったが賢造は胸騒ぎを覚えて、警察手帳を見せて急遽タクシーに飛び乗って尾行を始めた。
「犯罪ですか?」好奇心の塊の運転手が尋ねると「誘拐の可能性が有る、注意して追って欲しい」
「はい、判りました」運転手の好奇心も手伝って尾行が始まった。
ワゴン車の中で「沙織さんは何処で合流するの?」と三人の男に尋ねる優香に「沙織って誰だ?」と逆に聞かれる優香。
「えー、貴方達は沙織さんの友達では?」
「違うよ、俺達浴衣の美人が来るから載せて案内してくれと頼まれただけだよ」
「えー、それはどうゆう事よ!」驚く優香。
「AVのタレントが来るから、載せたのだよ」
「中々の美人で驚いたよ」
「何訳の判らない事言っているの、私はタレントでも女優でもないわ、降ろしてよ!」変な話しに驚く優香。
「駄目だよ、もう契約金貰ったでしょう、怒るならプロダクションの社長に怒りなよ、騙されたのだよ!」
「何の話なの?さっぱり判らないわ、降ろしてよ」
「今から、撮影現場に行くからそこで交渉すれば!」
「何を言っているのか判らないわ、私は岡山から来た大学生よ、貴方達が言っている人とは違うのよ、だから降ろしてよ!」
四人の話は全く噛み合っていない。
三流プロダクションの社長が借金の返済の為に、タレントをAV撮影に売り飛ばした。
本人は全く知らないから無理矢理連れて来い、場所は垂水の倉庫だ!そこでAV撮影をする。
清純なモデルの様な美人が、浴衣で準備して乗り込んで来るから連れて来い。
一馬に頼まれた学生達は、優香を襲いたい気持ちを押さえて誘拐をしていた。
「手荒なまねはしたくない、大人しくして欲しいよ、お姉ちゃん!」
「意味不明の誘拐で捕まるわよ」
「何を言っているのか判らない、でも綺麗でスタイルも良いな」
「本当だ、お金貰ってなかったら俺達がレイプしているよ」
「警察に逮捕されたいの?私の父は刑事よ、判っているの?」
「お姉ちゃんの親父さん刑事なのか?」
「そうよ、何度言わせるの!岡山県警捜査一課の刑事よ、判ったら早く降ろしなさいよ!」
「おおー恐い、恐い」と一人が言うと、もう一人の男が「高木!おねえちゃん、別嬪さんだから直ぐにAV業界のスターに成るよ、サイン貰っておけ」と笑った。
優香はバッグの中に手を入れて、携帯のスイッチを適当に触っていた。
それは、先日から何度も電話をしてみようと思っていた康正の番号だった。
「先生、携帯鳴っているよ」と中央のダッシュボードから優奈が取り出して、着信の携帯を運転中の康正の耳に当てた。
「もしもし」と言う康正の耳に「何処に連れて行くのよ」
「垂水の撮影所だよ」女性と若い男の声。
「貴方達これは犯罪よ、誘拐って罪が重いのよ!」
その声は明日香!康正は明日香が何者かに誘拐されて、咄嗟に携帯のボタンを押して助けを求めていると思った。
耳を澄まして聞き取る康正、唯ならぬ気配を感じる優奈。
「先生、どうしたの?」
「渡辺先生が誘拐されたのでは?」
「えーー」優奈が驚きの声をあげた。
「垂水に撮影所が在るの?」
優香は誰かが聞いてくれている事を信じて、場所を教えようとしていた。
これでも刑事の娘よ、甘く見ないで!タレントと間違われて連れ去る馬鹿バイトの学生!
現場に到着すれば人違いに気づいて解放されるわ、でもこんな馬鹿共は逮捕して貰わないと駄目よ、その様に考えているから、比較的冷静な優香だ。
「でも、美人だよな、こんな美人とSEX出来るなら、俺男優に成りたいよ」と優香をマジマジと見る高木。
「垂水にそんな撮影所本当に在るの?」
「山の中だから、造れたのさ」
「高速で垂水で向うのは北神戸だ」と一人が道を教える。
「何処で降りたら良いのだ?」
「前開インターだな」
「降りると直ぐだ」の会話の後携帯は充電が切れてしまって、康正にはその後の会話は聞き取れない。
「先生、渡辺先生が誘拐されたの?」
「そのようだ、助けに行こう」
「警察に連絡しなければいけないでしょう」
「まだ、誘拐と決まっていない確認をしてから、花火は中止だ」
康正はここで明日香に自分を売り込む時だと、淡い期待を持っていた。
追跡を続けるタクシーの賢造の運転手が「テレビのドラマの様で興奮します」と必死だった。
「見失わないで、追ってくれ」と言った矢先に、赤信号に突っ込むタクシー。
前の車が黄色で走って慌ててハンドルを切る運転手、横からの車を避けるために、道の横に出てしまった。
「あっ、済みません見失いました」車を立て直す運転手に「この先は?」と尋ねる。
「高速の入り口と高丸方面に行きますね、どうしましょうか?」
「諦めよう、ここに向かってくれ」と清水興業の関連の志方組に行く事を指示した賢造だが、気持ちは先程の女性は優香では無いと否定していた。
「暴力団ですよね」恐る恐る尋ねるタクシーの運転手。
しばらくして到着すると「ご苦労さん」何も言わないで降りる賢造。
新しいビデオの映像が明日香で無い事を祈っていた。
「岡山県警も暇ですな、ポルノ画像に興味が有るとは知りませんでしたよ」と嫌みを言う志方会長に「兎に角、病院関係のものを見せてくれ」
賢造は病院の画像に絞っていたから、町村の持ち込んだ画像は見なかったというより、志方組長が出さなかった。
町村と云う医者の画像を見る事なく、五点の画像を見て安心顔に成る賢造。
「美容整形の医者で売り込むリストを貰えないか」
「えー、医者の名前を出すと困るのですがね」
「犯罪の捜査だ、単なるポルノの捜査では無いのだ、強姦監禁の疑いが有る」
「判りました、出しますよ」
しばらくして十ケ所の病院のリストを書いた用紙を持って来て賢造に渡した。
目を通す賢造一度調べに行った病院が二つ入っていた。
勿論町村美容整形外科の名前も掲載されていたのだった。
優香を載せたワゴン車が倉庫に到着した。
「早く、降りろ!」と優香をワゴン車から降ろすと、手に持ったバッグを高木が優香から取り上げて中を覗く。
「携帯を、取り上げるか」と手に持って「充電切れか」そう言って安心したようにバッグに戻した。