16-5
翌日、康正は自宅の応接間のソファーで目覚めた。
どの様にして帰って来たのか全く記憶に無かったが、何とか自宅迄帰って来たのだとシャワーを浴びて着替えを始めた。
日曜日の朝はあいにくの雨に成っていた。
明日香さん綺麗だったな、お酒少ししか飲んで無かったけれど、一緒に帰った記憶も無かった康正は明日香の携帯に電話をした。
明日香は鳴り響く携帯の音に目覚めて、マンションの自分の部屋のベッドの上でぼんやりとしていた。
慌てて着信履歴を見て荻野先生だ。
昨夜の事で何か?
明日香は一生懸命に思い出そうとしていたが、昨日の夜のある時間から思い出せないのだ。
カクテルを飲んで、応接室でアイスコーヒーを飲んで荻野先生と一緒に帰ったのかな?
気に成る明日香は服装の乱れ身体の異常を確かめて、何も無いと思っていた。
管理人に聞けば昨夜の事は判ると思って、管理人室に向かう明日香だった。
「あのう、昨夜私は何時に帰りましたか?酔っ払っていたのかも知れませんが?」と尋ねると、初老の男性が「渡辺先生、昨夜は生徒さんに付き添われて帰られましたね、何かパーティでお飲みになったとかで、気分が悪く成ったと生徒さんがおっしゃっていましたよ」と微笑みながら話した。
「どんな生徒さんでしたか?」
「ここに、録画が残っていますよ、ご覧下さい」
管理人は明日香を招き入れて、モニターを映した。
そこには、四人の生徒に抱き抱えられて入る自分が写っていた。
池尻沙織、板東典子、小塚恭子、坂田麻代に抱き抱えられてマンションに入る姿だった。
部屋に戻って沙織に電話をすると「先生、大丈夫?昨夜は大変だったね、変なカクテル飲んだでしょう?」と笑いながら言う。
「アルコールは入ってないと言われて、飲んでしまったわ」
「先生、悪戯されたのよ、あの朋子さんは時々からかって強い酒を、アルコールが入ってないと言って飲ませるのよ」と言いながら笑った。
「えー、そうなの」
「そうよ、弱い人なら直ぐに酔っ払うのよ」
「先生眠っていたから、泊めてあげようと思ったのだけれど、お父さんが送りなさいと言ったから」
「そうだったの、ありがとう」
「どういたしまして、これからは気を付けてね」で電話が終わった。
明日香はあの女性の悪戯に騙されたと解釈して、朝から髪を洗ってお風呂に入った。
身体には何の痕跡も無かったので、明日香に判る筈も無かったのだ。
翌日沙織が職員室にやって来て、夏休みの部活の予定を書いた紙を持参して康正に手渡した。
そこには八月二十日からバスで、萩と秋吉台に写生とスケッチ旅行に行く計画が書かれていた。
「これは?楽しそうだけれど、予算が無いのでは?」と康正が尋ねる。
「大丈夫です、バスは父が出してくれます、キャンプの用意をしていけば充分です」と微笑みながら答える沙織。
「えー、また君のお父さんが?」驚く康正。
「父も私の趣味を理解してくれています」
「進学特訓が同じ時期に有るのでは?」と尋ねる康正。
「私は推薦でこの学校の系列の大学に行きますから、特訓は必要有りません」
「そうなのか、他の三年生は就職か専門学校だった?」と言う康正。
確かに系列の女子大学は在るのだが、普通は中々入学出来ないのだ。
この高校で十人の推薦枠が有るのは知っていたが、お金の力なのか?と思う康正だった。
私立では有名な女子大学で、時々この高校にも大学の出身の先生が就職する時も有った。
秋吉台国際芸術村とキャンプ、萩の城下町、秋芳洞の計画に成っていた。
四泊五日の日程が少し長いのでは?と思ったが、康正はキャンプで、もしかしたら明日香と同じテントで眠れるのかと、変な期待を持っていた。
その日の夕方、沙織が部員達に発表して大いに喜ぶ部員達。
土曜日の夜、男性と遊んだ部員も数人いたから、沙織の大盤振る舞いを期待している面も大いに有った。
発表の後は、新入生のモデル候補二人をモデルに絵を描き始める部員達。
堀田優奈、鷲尾舞がモデルだ。
康正と明日香も一緒に描き始める。
しばらくして「先生、上手ね」と沙織が康正の絵を後ろから見て感嘆の声をあげた。
すると、部員が一斉に康正の絵を見に集まって来た。
「ほんと、プロの絵だわ」
「ほんとう、先生賞獲ったの?」
「これなら、応募出来るわ」と各自口々に褒め称える。
「自宅でゆっくり描くと、もう少し綺麗に描けるかも知れないよ」
「先生の家には一杯作品有るのですか?」
「趣味で描いた絵なら沢山有るよ」
「わー、見たいな」と言う生徒も多かった。
明日香も康正の絵を見に来て「お上手ですね、人物画がお得意ですか?」と言うと「風景も描きますが、人物が好きですね、ただモデルが中々居なくてね」と笑うと「渡辺先生をモデルに描いてみたら?美人だから良いでしょう?」と沙織が言った。
「私はとてもモデルは勤まりませんわ」と謙遜する明日香。
「私ならヌードでもいいわ、こんなに綺麗に描いて貰えるならね」と沙織が言う。
「そうよね、写真と違って絵画はいいわね、青春の記念だ」と沙織の子分の三人が口を揃えて言うのだ。
「先生、過去にヌードは描いたの?」
「数点描いたよ、昔だけれどね」
「また、見せて下さい」
「実は絵画コンテストに応募したかったのだけれど、中々モデルが居なくて、中止にしようかと思っていたのだが、今の話しでモデルに成って貰えれば、出展出来る気がしてきた」と微笑む。
「美術部の部長に就任されたので、是非賞を獲得して欲しいです、好みのモデルこの中に居ますか?」と沙織が見廻して「やはり、一番は渡辺先生だ、次は優奈、舞の順だわね」そう言われて頷く康正に「私、モデルなんてした事無いので、無理ですわ」と早くも断る明日香だ。
「一度、先生の家に作品を見に行きましょうよ、良いでしょう荻野先生」
「そうだな、モデルをお願いするにしても、一度作品を見て貰わないといけませんよね」
「じゃあ、決まり、善は急げと言いますから、明日行きます」
「えー、先生困りますよね」と言う明日香に「構いませんよ、一人暮らしですから、汚いですがね」と笑う。
明日香はこのままモデルをさせられると、困惑の表情に成っていた。
康正は反対に、明日香をモデルに絵が描けると思うと興奮を覚えていた。
昼間、家政婦に来て貰っている康正、掃除洗濯をして夜の食事を作ると夕方六時過ぎに帰るのだ。
外食の時は事前に連絡をして週五日来ていた。
柴田初美五十六歳、康正の母親に近い年齢でもう三年来て貰っていた。
この柴田も入れない部屋が有る。
地下室に有る絵画の保管場所と云われる場所の掃除はしていなかった。
そこは、康正の秘密の場所だった。