※この作品はR-18です。

コンプレックス   作:花木 悠

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大きな痛手を残して

 16-53

賢造は脈を確かめて明日香が気絶しているだけだと思って、風呂場を探してシャワーで洗う事にした。

余りにも凄い姿だったから「あっ、おとうさん」と気が付いた明日香が抱きついた。

「恐かったな、もう大丈夫だよ」と優しくそして涙声で言う。

「本当に、恐かった」と泣き始める明日香の身体を洗い流して、賢造の服も血で染まってもの凄い姿に成っていた。

地下室で銃声が響く、警官と銃撃戦に成っている様だ。

しばらくして、救急隊が来てバスタオル姿の明日香を担架で運んで行った。

賢造は今泉に後を託して、一緒に救急車に乗り込んだ。

「もう、大丈夫だから、安心しなさい」と明日香の手を握りしめる。

「私に対する恨みが明日香に向けられたのだな、悪かった!許してくれ、もう少し早く気がつけば良かった」と賢造も泣いていた。

「私を助ける為に、黒人の人が犠牲に成ってくれたの、知らない人なのに撃たれて亡くなったと思うわ」と明日香が言ったので、あの黒人は明日香を助ける為に京都に来たと始めて賢造は知った。

望月婦人科であの黒人に強姦されて、撮影された事は全く知らない我が子にどの様に説明すれば良いのだと困惑の表情に成る。

「あの黒人さんが、助けてくれなかったら私死んでいたわ」

「良かったな、感謝しなければな」と慰めるのが賢造には限界だった。

 

地下室の鍵がこじ開けられて、警官達が乱入すると同時に地下室が煙で充満して、小さな爆発と同時に火が付いて燃え始めた。

「消防を呼べ」の声の中、警官達が外に逃げると女二人も逃げ出るが、男達はもう煙の中で見えない状態で火の手が大きく成る。

今泉達も家から脱出して女二人を逮捕した。

大きな爆発音が地下から起こって「ガスに引火した様です」と山田刑事が今泉に言った。

京都府警に連れられて二人の女が向かう。

二人だけでも逮捕出来たので、事件の全容解明出来るだろうと思った。

 

「おかあさん、明日香は無事だよ」賢造が妻咲子に電話をした。

「そう良かったわ、どの様な姿で帰って来ても、暖かく迎えましょうね」と泣きながら言う咲子だった。

テレビの速報で事件の事が流れて、高校の教師Aさんには成っていたが、明日香で有る事は判っていた。

賢造に判らない事は、明日香に悪戯した男の存在だった。

少し回復したら聞いて見るが、今は精神と体力の回復が一番だと賢造は思っていた。

 

翌日医師が、妊娠も病気も勿論性病も有りませんでした。

麻薬の反応も僅かで、生活には支障は無いと思いますと賢造に伝えた。

しばらくして病室には咲子が、鬘を買って持参していた。

頭に被せて「お母さん、似合う?」と作り笑いをした。

「直ぐに伸びるから、必要無くなるわよ」

「優香には内緒にして、驚かせるかな?」

「駄目よ、流産するわよ」

土曜日に結婚式、日曜日に誘拐、恐怖の三日間、妹は何も知らないで、新婚旅行で週末に帰る頃には退院出来る。

でも、もう明日香は霞ヶ丘女学園を退職する事に決めていた。

 

沈火の後銀次の自宅の地下室から複数の遺体が発見されて、一人を除いて窒息死で一人は心臓を撃ち抜かれて即死状態だ。

望月の証言でトム、ニクソンと判明して、ポルノ男優が主な仕事だと判った。

兵庫県警はトムの自宅を捜索、トムの縁者を捜したがアメリカの孤児院育ちで誰も身内が居ない事が判明した。

自宅のワンルームマンションの机に大学ノートと便箋が用意されて、そのノートにはラブレターの下書きの様な物が有った。

そのノートを吉富課長が病院の賢造に渡した。

日本語は喋れても書く事が出来ないトムが、明日香に書こうとしたラブレターの下書き。

(明日香、アイラブユー)

(明日香、アイラブユー-)。。。。。。。。。と数え切れない程書かれていた。

賢造は明日香が色々陵辱を受けて、殆どは記憶が無かったか、騙されていた事が救いだった。

トムとのSEXは全く記憶に無く、学校の往き帰り会ったのか?

いつ自分を見初めたのか?そんな関係の男性が自分の為に命を投げ出して、救ってくれたと思って感激していた。

賢造には真実を明日香に告げる事が出来なくて、ただ孤児院で育った身寄りの無い男だと告げた。

それは明日香の心に深く刻まれて「彼の遺骨はどうなるの?」心配で尋ねる。

「多分無縁仏だろうな」と答えていた。

翌日学園の清水校長と香坂教頭が病院に見舞いに来て、百万円の見舞金を置いて帰った。

「こんな見舞金貰えないわ」と驚いて言う咲子に「お母さん、貰いましょうよ」と明日香が言った。

「何故?こんな大金を」と咲子が言うと「このお金でトムと言う外人さんのお墓を造りたいのよ」と言いだした。

呆れて賢造に相談する咲子に「それで明日香が立ち直れるなら、そうしょう彼が明日香の命を助けてくれたのは間違いが無い」と咲子の泣いている肩を抱いた賢造だった。

 

週末、明日香は退院して岡山に直接帰った。

賢造が明日香の様子を伺いながら、妊娠の事を尋ねたが、卑怯な医者に妊娠させられて子供が可哀想だったと涙して、賢造にはそれ以上聞けなかった。

明日香は本当の子供の父親は知らないのだと賢造は感じて、もう再び聞く事は無かった。

 

夕方、何も知らない康正と優香が大阪に帰って来て「寒いわね、グァムとは違うわ」と優香が開口一番言った。

今から岡山の実家まで行って、日曜の夕方帰る予定で寄り添う二人は、新婚気分満点で新幹線に乗った。

二人は明日香に会ったが、全く変化に気づかない程のラブラブで両親も安心したのだ。

沢山の土産を置いて、二人は神戸に帰っていったが、明日香は自分の退職の話は敢えて話をしなかった。

 

数ヶ月後、 明日香は完成したトムの墓石に花を手向けて供養をした。

同席した賢造には、何とも言い様が無い心境で手を合わせていたのだ。

「貴方に助けて貰った命を、大切に生きます、安らかにお眠り下さい」と祈る明日香だった。

 

その数ヶ月後男の子を産んだ優香が、実家に康正と里帰りに来た。

優香が子供のおむつを替えながら「おちんちんって、子供も大人も変わらないのよね」と笑った。

不思議な話に聞いていた咲子は微笑んだが、康正は凍り付いていたのだった。

明日香が甥っ子の顔を見て、自分の子供も今頃はこの様に生まれていたのかとしみじみと見ていた。

 

ソープ嬢の笑いに翻弄された男が起こした事件は、大きな副産物を残して.

幕を閉じた。

 

                     完

 

 

                      2015.08.04

 

 

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