《遊んでる場合か!ただちに空中集合!》
通信に、中尉の怒りの念波が添付され、平手打ちされた感覚。
『ポンポコ』の括約筋が、また少しゆるむ。
座標を航法P/Cに入力。転針して、自動で指定エリアへと向かう――はずだが針路が定まらず、フワフワと。
――チェッ。さすが旧式……機体が
そう唇を
「あぁもう、このボロが!ちゃんと飛べよ!」
今度は回線がショートしたらしく、一度、尿道カテーテルに軽い電撃。
「いッ!……たぁッッ……つ!?」
こりゃダメだ、と彼はあきらめ、イヤイヤ
――見えた!
感覚で20ちょい先、高度差で3000ほど下方の積乱雲そば。
事象破砕リミッターoff、界面翼・最適解へ。
機体にダッシュをかけて急行。
不明機母艦と錬成校VTOL1番機、そして3番機、4番機。それに双方の練習機群と耀腕が、
四方を雲に包まれた広大な空間で、青白い稲妻を血管のように這わせた
――『ソード』もっと右!『ランサー』お前は下から殺れ!『青龍Ⅱ』!ナニやってやがるクソ
――勝手言うな!タダでさえこっちは対耀腕弾の携行が少ない!
――ハァ?教導団の名はダテか!?ババァ!そうじゃねぇ!もっと寄れ!
――この黒い
練習機が一機、不明機と界面翼をぶつけあう。
――『フィー』!もっと距離をおいて!認識機動のロスが多すぎるわよ!?
――ワかってる姉ぇサマ!でも機体がなんか重く、てッ!
危うく
――ダメだ……航空優勢が、
そう感じた『ポンポコ』は、危険とプライドを
――大丈夫……あとで問題にされないよう、それッぽいトコに、抱えているモノをブン投げとけばいい。そう、なんにせよウエポン・ベイは、空にしとかないと……。
彼が機動降下に移ろうとしたとき、廉人中尉の指示を圧し、聞き覚えのある女性の声――VTOL機群の編隊長――が混乱する意識交信を押しのけ、最優先緊急モードで金切り声。
――各機、気をつけて!この耀腕は――変化します!
黔い耀腕の手の甲を、『オフィーリア』が大きく
前腕の一部がうずを巻いたかと見ると、そこから小ぶりな腕が噴出する。即座に回避行動にうつるが、所属不明の練習機が、それをジャマした。急な機動に速度を殺された彼女の界面翼を、耀腕が
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
脳に直接、いやな悲鳴が全開で響いた。
人間が出せるとも思えない
編隊長や『黒猫』が何か怒鳴っていたが、聞き取ることは出来なかった。
周辺を舞っていた機体は、うごきを止めた耀腕と『オフィーリア』機とを、“意識体”のまま、声もなく凝視する。
R2モードに入っている『ポンポコ』も、ほかの候補生たちと同じく距離という要素を取りはらい、すぐ目の前で起こっているかのようにその光景を目撃した。
界面翼をつかまれた『オフィーリア』の顔が、まるで水分を抜き盗られるかのように、イヤイヤをしながら見る間に
やがてミイラのように完全に
ミイラが、驚いたように眼をまん丸くするのが最後に見えた。
艶をうしない縮れた金髪が、放射状に逆立つ。
つぎの瞬間。
ボン、と何かが
タンパク質の焦げる臭いも一緒に。
どこかで
周囲の機体が、候補生たちが、凝然と声を
――『ウーラン・ツヴァイ』……『オフィーリア』のバックアップにまわれ。
廉人中尉が、うってかわった落ちついた調子で、指示を下した。
――でッ、でも――もう死んでるんでしょ!?
――命令だ。それと全機、所属不明機群に対し対耀腕弾の使用を許可する。作戦行動を阻害する場合にあっては、これを実力で排除せよ。
この“本気”な意識波がつたわったのか、所属不明の練習機群は一様にすこし距離をおき、現場を遠巻きに監視する空間に占位する。
操舵能力を喪った『オフィーリア』機が、緊急飛行モードに移行していた。
硬翼を自動展開。さらに緊急用の延長翼を出してグライダー状になり、耀腕から幾分、離れたところで、回収を待つための周回飛行を始める。『ウーラン』が『オフィーリア』機から垂れた緊急用の曳航索をつかもうと接近した。だが、その救援活動をねらってか、黔いほうの耀腕が、ゆるゆると雲海を
――『ウーラン』、『ロードマン』を援護に付ける。素早くやれ。
――ムリ!無理ゲーですって!やつら知能持ってる!『フィー』の死骸をオトリに!
そのとき、疲れたような編隊長の声が全機に伝わった。
――廉人中尉。増援がこちらに向かっています。それまで待機しましょう。この所属不明群にも対応してもらいます。状況は伝えました。増援は全機、八八式
援軍が、対艦用に武装しているというこの意識交信が決定的だった。所属不明の母艦は、練習機を順次、練度の高いうごきで空中収容するや、現場を高速離脱してゆく。
すると今度は黔い耀腕が、その形を薄れさせ、消滅したかと思うや、細白い耀腕の方は『オフィーリア』機を
――ちきしょう!
どこからか叫びがしたかと思うや、周囲を舞っていた機体のうち、一機が界面翼を全開に、耀腕へと特攻をかけた。
――黒ネコ!待て!
――冗談じゃありませんわ!このままあの子を引っ張られて、たまるもんですか!
虹色を伴った藍色の長大な界面翼が、小さく、後退翼状に変化してゆく。
――やる気だ。
空域の全員が見まもるなか、雲間をヒリヒリした緊張が
VTOL機が援護として、残り少ない誘導式の大型反応弾を轟音とともに射出。『オフィーリア』の機体ギリギリをすり抜け、耀腕の周囲で着弾・炸裂。動きを幾分おさえる。『ロードマン』がフォローにまわった。耀腕の基部を目標に、自機の残弾を全部放出。雲海の浅い部分が数度、オレンジ色に変色し、耀腕が『オフィーリア』機を放して沈んでゆく。
その
――やった!
ワイヤをつかみ、上昇する『黒猫』を全員が見て歓声をあげかけた、その
姿を消したはずの黔い耀腕が、雲海から垂直に、猛然と突き出される。
明確な悪意をもった、餓死者の正拳突き。
乗機を直撃され、『黒猫』の体が横ざまに“く”の字にへし折れた。
血と
分解する機体。
飛散する部品やハイドロ。増槽やウェポン。
パイロットシート周りの
ヘルメットが飛び、給気マスクも喪われた『黒猫』の蒼白い顔。
口から、鼻から、耳から、目から。
紅いものをタラタラとながし、長い黒髪がバサバサと高層気流にゆれて。
その時。
候補生たちは、たしかに聞いた。
――ネェサマ……ネェサマ……ネェサマ……。