ラピス・ラズリな冷たい
そして――皮肉そうな微笑を浮かべた、
ほんのすこし『オフィーリア』を連想するが、
一団は二人の前で足を留めた。
そして取り巻きを背後に、彼女は一歩進みでて軽やかに
「これは、これは。『デザート・モルフォ』どの。こたびはとんだ事になりまして。わが錬成校を代表し、お悔やみ申し上げます」
たいした迫力だ、と『九尾』は心中舌を巻く。
大柄で滅殺の気満々なサラを相手に、身長160cmそこそこと見えるこの肉食獣はビクともしない。対して“デザート・モルフォどの”も隠しきれない殺気をおさえつつ、見なれない
「ご挨拶、大変恐縮です『クラスナヤ・ズヴェズダ』どの。
それを聞いた彼女は、取りまきに有るか無きかの流し目をくれたあと、口調をいくぶん冷ややかなモノに転じ、
「とは言っても。まぁ
「まこと、
相手の気配を、サラはやんわりと受け流しつつ、
「とはいえ、
「貴女の所のように、小まわりの効く“小ッぽけな”修錬校ですと……」
目の前の『ズヴェズダ』は、サラの言葉などまるで聞こえないように、
「いろいろと
「お言葉の……とおりにございます……サー」
軽く頭をさげたサラのこめかみが、このときピクピクと動く。
「貴女には、まだ紹介してなかったですわね?」
そういうと彼女は、まわりの取りまきを次々に紹介する。
そのうち一、二名のW/Nに『九尾』は聞きおぼえがあった。
全国の対校戦・上位入賞発表のニュースで、わりと耳にする名前だ。
いずれも
「で――そちらは?紹介しては、くださいませんの?貴女のカワイイ
粘着質な声で“カワイイ子”といわれてムカッとくるが、先輩に恥をかかせるわけにはいかない。
『九尾』はサラが反応するより早く、幼年校時代、半
「尊敬すべきサー『クラスナヤ・ズヴェズダ』に
『九尾』!と取りまきの間に
(あの“耀腕
(“
(ちがう、“
(酒場に入り浸って、地元のヤクザ半殺しにしたって聞いたぞ……)
(マジで?コイツが!)
(こぇぇぇぇ!)
すこしのあいだ、集団をふくむ周りがザワつく。
そのとき、式典の始まりを告げる鐘が、
「ではサー『ズヴェズダ』……わたくしどもは――これにて」
あっけにとられる一団をよそに、サラは『九尾』をうながし、
修錬校ごとに指定された座席のエリアに向かう最中、とうとう彼女は笑みくずれ、
「ニャッハぁー、気持ちよかったァ!アンタのおかげで、あの『ズベ公』のブタに一泡フかせたわ。ザマミロっての!クソが」
破顔一笑、せっかくキメた『九尾』の髪を、ワシワシとなでる。
「ちょっとモー、やめてくださいよぉ!……でも、サー『ズヴェズダ』って、全国大会でいつも上位にいる人ですよね」
ふくれ顔で髪型をなおす『九尾』にサラは、
「サーなんてつけなくていーの。自分の家柄と、金と、コネと、容姿だけを鼻にかけてるクソ女なんだから」
「……それって最強の配牌じゃないですか」
「だ~か~ら~、このアタシが仕方なくペコペコしてンじゃないのさ。アイツにたてつくと、ウチのガッコの予算すら、キビしくなるかもしれないからネェ」
「へぇ……そんなに」
「それにアイツとはこの前、秋の大戦技会で因縁があってね。借りを返してやる……」
「今年のは中止になりましたよね」
「かわりの全国大会が年明けにひらかれる、ってウワサさ。そンときにな。来年の春は、例年どおりなら“事象震”が発生するハズ。そのマエに決着つけるつもり」
「……コワいですね」
「あぁ。
若干ザワつき始めた周囲。視線。
携帯カメラの気配と共に『九尾』という言葉がチラホラと。
「でも、なんでみんなボクの名前知ってるんだろ」
「あぁ、『九尾』っていうオマエのW/Nな?ずいぶん前に決まったらしい。でも保安上の理由から表に出せなかったらしいぜ。それがなぜ知れわたったかというと……」
サラは、すれちがう知りあいに会釈をかえしながら、
「アタシぁ見たことないが、当時の空撮映像が、ウィルスがらみで流出したんだとサ。他校じゃ、もうオマエのW/Nにつけられた二つ名だけひとり歩きして、けっこう有名らしい。“孤高の翼”“白雲の
満足げなサラは、艶めかしい腕を彼の汗ばんだ首にまたもやまわして、あたかも周囲に誇示するように通路を歩いてゆく。
スーハーと鼻で深呼吸する『九尾』。
ズボンの下も、けしからぬことにチョットふくらんで。
「気ィつけろよ『九尾』。有名になった候補生は、ほかの“二つ名”
「い、いえ!とんでもない!」
しばらく行くと、すこし高くなった階段部分に見なれない女官服を着た人物が、まるで
黒いドレスに印象的な、白い襟元。そこに輝く何かの十字章。
胴をしぼったシルエットの上半分は女官風の装い。しかし下は、『九尾』と同じく乗馬用のズボンに磨きたてた
『九尾』の視線を追ったサラが、
「へぇ、珍しいな。王室付き秘書官だ。階級は、と。宮廷中尉!?……平軍での上級少佐、ってトコだなァ。
しばらく混みあう通路を歩いてから、彼女は『九尾』の首にまわした腕をとくと、喪主校指定の上級生用座席エリアに去ってゆく。とおい人混みのなかにエースマンの愛用する騎兵帽もチラっと見えたような気が。
中央の壇上に副
鳴らされるオルガン・レクイエム。
儀典長の宣言と、従者隊が鳴らす
祭壇の袖から皇族と、総理大臣。そして外象民の長である王族が姿をみせた。
第一、第二――そして第三王女。
喪の象徴であるマスクに半顔を隠し、長い
中央に位置を占めるのは、女系王族であるこの王室の第一王女だ。
“
右隣に座る“
そして――左隣に座る、燃えるような赤毛を、黒リボンで結い上げた第三王女。
“
――あ。
着座せる王女たちの、それぞれ背後には、小姓だろうか。
その指揮棒を
ヴェネチアン・マスクをかけてはいるものの、周囲の小姓たちを圧し、“凄絶なる美”とも言うべき気配を、風貌、儀容ともあいまった形で周囲に発散している。
耀腕の奇襲を受けたVTOL2番機の乗員4名、そして『オフィーリア』の分。
座していた者は全員起立して遺体を迎える。だがこのうちの4つは空だ。雲海に墜ちた者を捜索するすべはない。残る一つ、『オフィーリア』の棺も、遺体はとうに火葬済みで骨壺が入っているだけと聞いている。遺体の状態は、ひどいものだったらしい。回収を手伝った医療班のうち二名が当日に配置転換を希望し、のこりの要員も長いあいだ、鎮静剤の助けをかりたと、これは『牛丼』の受けうりだ。
あの美しかった顔が、耀腕の力で見るまに無惨な面に変形させられていったイメージ。
――実際の死体も、あんなふうだったのかな、
と『九尾』は
侍童たちが捧げる
年老いた司教の振る香壺と、読経。若い司祭たちの交唱。
長い儀式と歴々のスピーチ。
座っている者の頭が居眠りでフラフラ揺れるころ、ようやく慰霊式は終わった。
百人規模の外象人による聖歌隊が、十二音階にしばられない不思議な
内閣の要職と皇族、王族。それに
開け放たれた大聖堂の大扉から冷たい外気が、ヒタヒタとまぎれこみ、儀式に使われた大蝋燭の列をゆらして、蒸された人々の顔をホッとさせる。
『九尾』が先に聖堂の入り口で出会った三人組が、男子候補生をひとり増やして近づいてきた。