すすむにつれて、通路の色が変わっていった。
そのうち
『九尾』が驚いたのは、こんな場所にも自分のデータが入力されており、秘書官の名前と同時に自分の
【ブルー
【これを固く禁止する――艦長】
虎ワクで、そんな注意事項がビス止めされている。
ここでアラームが鳴った。
つづいて女性の合成音声らしきものが、なめらかな口調で、
「
「ホワイト
やがて渋々といった感じで、ブ厚い
そこはエア・シャワールームとなっており、同時に吹き出るミストと殺菌灯を浴び数分間、強風に吹かれる。終わると、つぎの部屋は靴底がひたるほど、浅く水が流れており、靴裏を消毒。ようやく入った場所は、一○m四方ほどの大きさもあるだろうか。白を基調とした、黒いグリッドが壁面にならぶ、無味乾燥とした部屋だった。
中央にはコンソール。その傍らに、胸ほどの高さで一m角ほどの金属質な直方体が何本も整列して立っている。表面にはシリアルナンバーらしきものが、プレートで。
「――ここは……なんの部屋です?」
数歩、部屋の中央に歩み入り、くるりとふり向いたミラは、
「この艦のメイン・スタビライザー養成装置よ。
彼女はコンソールに手のひらを当ててから、何かを
壁のグリッドの一つが、まるで引き出しのように、ゆっくり壁面から直方体状に突きだした。
サイズ的には、コンソールわきで直立しているものと同じ。連動して上面の一部分がひらく。
かすかに感じられる、冷気。
「見てごらんなさい」
面白がるようなミラの口調。
『九尾』はイヤな予感とともに、引き出された部分に近づく。
――うっ……。
『九尾』の頭から血が音を立てて引いてゆき、一瞬、よろけた。
以前にも、こんな事があったと彼は頭のどこかで。
でもこんどの方が数倍ひどい。
あの、
静脈の目立つ、透き通るような白い裸体。
ひろくなった額には、刺青でもされたような
氷の印象だった
控え目な胸は露出され、両の丘の中央が切り割られて、ここにもチューブが何本も身体の中に飛び込んで。
腕も根本から切りつめられ、代わりに何かの機器が接続されていた。
下半身は隠されて見えなかったが、推して知るべしだろう。
「……サー
「言ったでしょ?候補生なんて――たんなる
ミラは、そんな彼の顔を小気味よさそうに横目にするや、
「これは、一般に
と、彼女は直方体の中に横たわる『黒猫』のひたいを、中指の腹でやさしく
「賞味期限?があるから、そのたびにカートリッジの中身を入れ替えなきゃだけど。まぁ、艦の運航状況しだいね。
「でも……でも、生きてるんですよね!?」
ミラはコンソールにもどり、立体表示を宙空に浮かべてデータを呼び出しながら、
「記録によると――この“素体”が日常生活に復帰する可能性は無いわね。ときおり眼球運動があるらしいから、ひょっとして自我意識があるカモだけど、望みうす。言ってみれば“
「そんな……ムゴい」
「ハ!植物状態で症状が固定された場合は脳髄を有効利用する
たんなる臓器の有効利用よと、あたり前のようにミラは言いはなつ。
「
「まさか、この四角なグリッドが……全部?」
『九尾』は、入り口以外の三面にならぶ格子状の文様を、今までとは違った目で、
「みんな――その、植物状態の女の子が詰まってるんですか?」
「空きもあるから全部ってわけじゃないけど、現状では四五%以上埋まってるみたい」
「……」
なんのことはない、
完全無欠な
おそるおそる、彼は秘書官の顔を
「ボクも植物状態になれば……こうなる?」
「まさかァ!」
『九尾』の
「男の子の
「――たとえば?」
その問いに、彼女は『九尾』の瞳をじっと見すえ、
「……そ・れ・は、機密事項。知りたければ候補生なんてやめて、
「このあいだ、って?」
ジれったいわね、とでも言うように、ミラは手近の直方体をガン、と蹴りつけ、
「“南十字星”に乗せたげようとしたときに、あのイケ好かない“
あれが、と『九尾』はそのときはじめて納得がいった。
自分でも変だと感じていたのだ。
感情崩壊にも似た、どうしようもない感謝の思い。
まさか――あれが人工的なものだったとは。
「アンタが拒否しようとしたら、おなじ手を使って志願させるかもしれない、もしそうなったら、アタシに言いなさい?何とかしてあげるから。だから――」
ミラは、宙空に浮かぶ緑のインジケータをつついた。
先ほどミラが蹴りつけた、コンソールわきに直立して並ぶ直方体の一つが、低い
「ほぉら……イイ子にちてまちたかァ?」
ミラは満面の笑みをうかべ、直方体の後ろに回り、中に拘束されている女性の額をピタピタ叩く。そしてポケットからハンカチをとり出し、口のまわりと、小さな乳房に滴りおちた
「だ~からぁ……ぜったいに、志願しちゃ――ダぁメ」
カートリッジの中に拘束されている女性に対して
(
あのとき。
ミラのほおを、大扇で打ち据えた若い女侍従。
それがどういうわけか“カートリッジ”の中に封印され、いまや
――それも、意識のあるままに?
「その人も、えぇと、スタビライザー?にされるんですか」
「んー。どうしよっかナー」
ミラは“中の人”のアゴを、きれいに整えられた光沢のあるピンクの爪でゆっくり引っ
「あのとき、手ひどくぶっ叩かれて大恥かかされちゃったもんねェ?……このまま麻酔なしで、後頭部にドリルで穴開けて、脳髄インターフェース、
中の女が悲鳴をあげた。
そして拘束された口を精一杯使い、
「エンハ…オオヒテフハハイ……エンハ……」
不自由な言葉をかろうじてあやつり、なにごとか訴えている。しかしそれを聞いたミラの眉間は美しく
「ようやく取れた
彼女はそう言うや、カートリッジの開口部内手前から、ジェル質感のあるショッキング・ピンクの筒を引き出した。よくみると、先端は男根をかたどっている。
イボつきの、カリが高い、見るからに
と――その模造チ〇ポは一転、ウネウネと自在にかたちを変えるではないか。
大小ふたつに分かれたり、タコの脚を思わせる形になったり。
果ては先端からミミズのような舌をチロチロ出しいれもする。
中の女性の悲鳴が大きくなった。
それを意に介さず、彼女はプルプルしたピンク色の亀頭に、軟膏のようなモノを塗りたくると、悲鳴を上げる
「はぃ、あ――ん?」
顔をそむけようにも、カートリッジの拘束と口枷が、それを許さない。
どぎついピンク色をした太く長いカリ高の男根が、女性の
女声の合成音が、
「
そして最後に宙に浮かんだ文字が点滅した。
《強制
「どうするぅ?これを吸うとネ?なぁにも考えらンない、おバカになっちゃうの。でも気持ちイイのよぉ?……これが済んだら
ミラが
思わず『九尾』は叫んだ。
「秘書官!もうやめて下さい!あまりにムゴすぎます!」
「ハァ!?あのときブッ叩いてくれたお礼をしてるんじゃないの!」
「それでもコレはあんまりです!」
やがて、こぶしを握りしめ仁王立ちで見すえる『九尾』の語気に本気を感じ取ったのか、チッと彼女は舌打ちし、コンソール操作をやり直す。
流れるような手つきで宙に浮かぶ外象文字をつつくと、知的な女性の口ぶりを想わせる合成音声は、
「了解いたしました。使用気体・通常格納・Aタイプに変更――強制呼吸補助を開始します」
アナウンスがそう言い終えるや、カートリッジ内の女性が脂汗を流し、グッタリとうな垂れて静かになる。さらにミラは操作を続け、カートリッジの開口部を鎖すと“部品候補”の姿を『九尾』の目から
ミラは肩を落とし、コンソールに目を向けたまま、
「ねぇ――ひとつ約束して」
「なんです!」
「どんなときでも、アタシに命令しないって」
「それならボクにも約束してください!」
『九尾』は語気も鋭く、負けずに言いかえす。
「卑しくもボクの“彼女”を名乗るなら!どんなときにも優しさや品格を失わない、って」
彼の言葉に一瞬、ミラの面差しが、暗く
「アンタまでそんなコト言うんだ……でも、イィ」
コンソールのわきを離れると、ミラは『九尾』に歩み寄り、いきなり彼の首に腕を巻き付けて唇を重ね、目を閉じた。その動きはネコのようにしなやか、かつ
今度のキスは、長いものになった。
ミラは、
「――ね……見て?」
* * *
「見ろ!きたぞ」
観衆のどこかで叫び声があがった。
スタジアムの舞台正面から搬送用の大エレベーターに乗って、航界機が一機。