尿道には、同じくバイブ付きな、バルーンを有するカテーテル。
つまりは
今日のバイブは“
そして――“
――ということは……と。
内ポケットの候補生手帳を取りだし、モールスじみたメモ書きを確認。
貞操帯の前シールドを、悩ましげににさすりながら。
もちろん強固に隔離されているので、まんぞくな刺激は与えられない。
《放課後、タダチニ下校シ、寮ノ門前ニテ待テ》……か。
指令を復送したあと、
――こんなんじゃ、漏《も》らしちゃうよ……。
おもわず身体が震えそうになるのを懸命にこらえつつ、『九尾』は、まわりに気づかれていないか、
暗い部屋の中で、灯りの点いた机が並ぶ閲覧エリア。
候補生たちがそれぞれのブースでテスト勉強に余念がない――はずだが、遠くの方で爆発音や銃声がしているのは、3D
瑞雲校を統括する情報システム全体に、非定常の緊急メンテナンスが入ると言うことで、その日の午前中最後の講義は自習となった。
クラス担任の『リヒテル』は、しばらく使えなくなる一年生用の図書館に担当の生徒たちを連れてきて“
このごろ老教官は担当講義を自習扱いにとすることが多い。やっぱり寄る年波には勝てないんだ、と、もっぱら一年生たちはウワサしあっている。
そして……また
――あいつ……ッ!
くっ!と彼は思わず制服のうえから貞操帯をおさえた。
高周波振動のせいで、尿道の奥がカユい。
そして高まる性的な衝動――まるで拷問だ。
眉をしかめつつ、『九尾』は彼方の王宮でリモコン片手に革張りソファの上で脚を組み、飲み物をかたわらにして、小悪魔的な笑みを浮かべるミラの姿を、楽々と想像する。最悪、
図書館のイスは柔らかく、振動がひびかないので助かる。
クラスの席の硬いイスには、仕方なく“座骨神経痛”だと周りに触れ回り、座席にクッションを敷いたので、(専用の低反発ウレタンが、上級生用購買部にあるのを女医に教えてもらった)作動音は目立たないが、しかし突発的な身ぶりで、どうもバレてるクサい。休み時間にクラスの女子集団が、聞こえよがしに自分のほうを見て「ビクンビクン」と言ってヒソヒソ笑うのを、彼は何度か耳にしている。
付けっぱなしを強制されるこの
最近は
きょうは、その三日目だった。
周囲の
自分のブースの机上に3Dホロでうかぶ「日本事象面周辺の
――どうせ鐘が鳴ってすぐのカフェテリアは混んでる……いや、まてよ?
そこで彼は、ハッと思いついた。
――なんで……終了時間を待つ必要がある?
『リヒテル』も居ないし、いま医療棟に行けば、昼休み前に
混むまえに食事もすませ、昼休憩を有効に使えるかもしれない。
彼は端末を消すと二階にあるブースエリアを出て、一階の広場が一望できる吹き抜けの下を
さっきトイレに小用をしに行ったとき、図書館の入り口脇にある室内庭園で、『
だが、いま彼が見れば、その庭園の葉陰には『山茶花』だけではなく、彼女の親しい友人である『折り鶴』や『
自分が初の貞操帯で苦しんだ土日に、雨のテーマパークで遊んでいたメンバーだ。そう思うと、とほうもない疎外感が湧き上がるのを否めない。彼等と自身の間には、一階と二階以上の、果てのない隔絶があるような……。
「オぅ!ポン、ナニやってんだそんなとこで?」
ソファーで脚を投げ出し、ふんぞりかえっていた『
「お勉強は――イイのかよ?」
一団の談笑が
気のせいか、舌打ちの気配。
視線にこもる敵意を感じながら、いたたまれない思いで彼は階段をおりると、さりげない足どりで『山茶花』に近づく。
「ぐあいが――ちょっと
「そう。大丈夫?」
「医療棟だァ?オ〇ニーだよなァ!Q・B!」
ドッと一団の笑いが弾ける。
不意をつかれ、自動ドアをあけたまま
その時不意に、『九尾』の中でこみ上げるモノが、彼自身にも意外な強さで噴出した。
「あぁそうさ!オ〇ニーだよ!」
声を限りに彼は怒鳴った。
その剣幕に一団はギョッとして静まりかえる。
二回の張り出しから、何の騒ぎかと閲覧室を出てくる気配も。
ひとり、ひとり。顔を
「おまえらも――ボクもな」
呆気にとられる世俗の集団を背にして、あとは後ろも見ずに図書館を出て行く。
医療棟に向かおうと曇天の冷たい大気のなか、両側に茂みがつづく
エッ、と後ろをむくとメガネの奥の瞳とぶつかって。
「『山茶花』ァ……どうした?」
「ゴメンね、ポン――『九尾』。このところ『
彼はフン、と鼻でワラい、
「イイよ、べつに。気にしないサ。どうせ
「そうじゃないの。あのね?最近学校から、探査院に応援で出てるでしょ?」
『九尾』はサラ先輩を思い出した。
先輩もまた、ここ数日は探査院に出向しているというウワサだ。
それで?と『山茶花』をうながすと、煮え切らない口ぶりで、
「私たちもこの前、本院に呼ばれて事務の手伝いに。それからナンかおかしくて」
「おかしいって――なにが?」
うん……とうつむいた一拍。やがて、
「本院の事務の人に、さりげなく就職状況を聞いたらしいの。そしたら酷いこと言われたらしくて。もどってきてからズッとささくれてるのよ。採用も私たちレベルの学校じゃ見こみ薄らしいわ。この不景気で民間企業は採用しぼってるし、省庁は人員削減でしょ?人生計画がどうとか」
『九尾』は唖然《あぜん》とする。
「イマからそんな心配してるの?早くない?
あなたが!ノンビリ屋さんなのよ!と『山茶花』は急に声を荒げ、
「――
制服で縛められる大きな胸の下で腕を組んだ彼女は、
「航界大学進学にしろ、就職にしろ、いまから考えておかないとオソいのよ?あなたは才能がある優等生だからいいけど、凡人のアタシたちは違うの!」
ふうっ、と『九尾』は脱力する。
結局――彼女もそうなんだ。
自分なんか、分かってもらえないんだなという思い。
いや、むしろ分かってもらおうなんて考えが甘ちゃんだった。
「……キミまでそんなこと言うんだな」
『九尾』のセリフに、『山茶花』はシマッタと口をおさえた。
「ゴメンなさい、そんなつもりじゃ――」
「いいって!」
それだけ言うと、彼は後悔気味な彼女の視線を背にはねかえし、足取りも荒くサッサとその場を離れてゆく。
――ちぇ。
モヤモヤとしたものを抱えながら校舎までたどり着いた『九尾』は、風が吹き抜けるわたり廊下をポケットに手を突っ込み――指導教官に見つかったら説教ものだ――寒々しく背を丸め、足ばやに医療棟へと向かう。
もはや馴染み深い感のある消毒液の匂いと、冷たい雰囲気。
ひとけのない、森閑とした気配。
「あのースイマセン……」
『九尾』が医務室に顔を出したとき、こんどは女医のまえにすわり、顔を突き出して、ピンセットと脱脂綿で消毒を受けるサラと目があった。
乱れた銀髪。
悔しそうにへの字に結ばれた唇。
その
「サr!……サー『モルフォ』、先輩!?」