※この作品はR-18です。

玲瓏の翼【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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027:サラ候補生の災難のこと、ならびに先輩チューターの偏執のこと(前

 

 アナル(肛門)にズップリと挿入されたディルドー。

 尿道には、同じくバイブ付きな、バルーンを有するカテーテル。

 つまりは遠隔操作(リモコン)付きの、排泄機能を備えた拷問具。 

 

 今日のバイブは“うしろ(アナル)”に一回――間をおいて、もう一回。

 そして――“まえ(尿道)”に四回。

 

 ――ということは……と。

 

 内ポケットの候補生手帳を取りだし、モールスじみたメモ書きを確認。

 貞操帯の前シールドを、悩ましげににさすりながら。

 もちろん強固に隔離されているので、まんぞくな刺激は与えられない。 

 

 《放課後、タダチニ下校シ、寮ノ門前ニテ待テ》……か。

 

 指令を復送したあと、諒解(りょうかい)の旨、ただちに返信。

 

 ――こんなんじゃ、漏《も》らしちゃうよ……。

 

 おもわず身体が震えそうになるのを懸命にこらえつつ、『九尾』は、まわりに気づかれていないか、窃(そ)っと、ほかの閲覧ブースを偸(ぬす)み見た。

 

 暗い部屋の中で、灯りの点いた机が並ぶ閲覧エリア。

 候補生たちがそれぞれのブースでテスト勉強に余念がない――はずだが、遠くの方で爆発音や銃声がしているのは、3D映画(シネマ)でも見ているのか。

 

 瑞雲校を統括する情報システム全体に、非定常の緊急メンテナンスが入ると言うことで、その日の午前中最後の講義は自習となった。

 クラス担任の『リヒテル』は、しばらく使えなくなる一年生用の図書館に担当の生徒たちを連れてきて“放牧(ほうぼく)”したあと、自分は教官室へと帰ったらしい。つまり図書館がまるまる一限、『九尾』が所属するクラスのやりたい放題。

 このごろ老教官は担当講義を自習扱いにとすることが多い。やっぱり寄る年波には勝てないんだ、と、もっぱら一年生たちはウワサしあっている。

 

 そして……また振動(バイブ)。

 

 ――あいつ……ッ!諒解(りょうかい)の返信したのに!

 

 くっ!と彼は思わず制服のうえから貞操帯をおさえた。

 高周波振動のせいで、尿道の奥がカユい。

 そして高まる性的な衝動――まるで拷問だ。

 

 眉をしかめつつ、『九尾』は彼方の王宮でリモコン片手に革張りソファの上で脚を組み、飲み物をかたわらにして、小悪魔的な笑みを浮かべるミラの姿を、楽々と想像する。最悪、百合(ユリ)の王女にいきさつを話し、二人してスイッチをいじって遊んでいるのかもしれない。

 

 図書館のイスは柔らかく、振動がひびかないので助かる。

 クラスの席の硬いイスには、仕方なく“座骨神経痛”だと周りに触れ回り、座席にクッションを敷いたので、(専用の低反発ウレタンが、上級生用購買部にあるのを女医に教えてもらった)作動音は目立たないが、しかし突発的な身ぶりで、どうもバレてるクサい。休み時間にクラスの女子集団が、聞こえよがしに自分のほうを見て「ビクンビクン」と言ってヒソヒソ笑うのを、彼は何度か耳にしている。

 

 付けっぱなしを強制されるこの呪(のろ)わしき代物は、三日に一度、保健室に行って、例の校内女医にスペアと交換してもらう。そして装着していたものは、生体部品をメンテするため、探査院の専門部署におくられる段取りと聞いていた。

 最近は身体(からだ)からヌリュヌリュとイヤらしい音をたてて長いプラグが抜がれる時も、何やらゾクゾクと鳥肌が立ち、自身の性癖に危機感をおぼえる『九尾』である。

 

 きょうは、その三日目だった。

 

 周囲の粘膜(ねんまく)が生体素材に慣れてくれば、これが「一週間」になり「十日」になりと日が延びると言われたが、初心者には今のところ三日が限度らしい。

 自分のブースの机上に3Dホロでうかぶ「日本事象面周辺の網化回廊(もうかかいろう)」をボンヤリとながめつつ、昼休みに入ったらすぐに出て行き処置をしてもらおう、と彼は心を決める。

 

 ――どうせ鐘が鳴ってすぐのカフェテリアは混んでる……いや、まてよ?

 

 そこで彼は、ハッと思いついた。

 

 ――なんで……終了時間を待つ必要がある?

 

 『リヒテル』も居ないし、いま医療棟に行けば、昼休み前に換装(かんそう)が済む。

 混むまえに食事もすませ、昼休憩を有効に使えるかもしれない。

 彼は端末を消すと二階にあるブースエリアを出て、一階の広場が一望できる吹き抜けの下を覗(のぞき)きこんだ。

 

 さっきトイレに小用をしに行ったとき、図書館の入り口脇にある室内庭園で、『山茶花(さざんか)』が文庫本に読みふけっているのを見かけていた。クラス委員の許可さえもらっておけば、自習を抜けるのに問題はないだろう。

 

 だが、いま彼が見れば、その庭園の葉陰には『山茶花』だけではなく、彼女の親しい友人である『折り鶴』や『花魁(おいらん)』、くわえて『牛丼』とその仲間も集まり、なにやら楽しそうに談笑している。

 

 自分が初の貞操帯で苦しんだ土日に、雨のテーマパークで遊んでいたメンバーだ。そう思うと、とほうもない疎外感が湧き上がるのを否めない。彼等と自身の間には、一階と二階以上の、果てのない隔絶があるような……。

 

「オぅ!ポン、ナニやってんだそんなとこで?」

 

 ソファーで脚を投げ出し、ふんぞりかえっていた『早弁(はやべん)』が、二階にいる『九尾』をめざとく見つけた。

 

「お勉強は――イイのかよ?」

 

 一団の談笑が歇(や)み、『九尾』は『早弁』の視線を追った集団の注目をあびる。

 気のせいか、舌打ちの気配。

 視線にこもる敵意を感じながら、いたたまれない思いで彼は階段をおりると、さりげない足どりで『山茶花』に近づく。

 

「ぐあいが――ちょっと医療棟(メディカル)へ」

「そう。大丈夫?」

 

 曖昧(あいまい)に返事をして、彼が図書館を出ていこうとしたときだった。背後から、

 

「医療棟だァ?オ〇ニーだよなァ!Q・B!」

 

 ドッと一団の笑いが弾ける。

不意をつかれ、自動ドアをあけたまま茫然(ぼうぜん)と『九尾』は棒立ちに。だが、やがて落ち着くと彼は庭園にいるクラスメイトの顔をゆっくりと睨(ね)めつけた。ほどなく、彼の超然とした視線にあてられ、一団の嗤(わら)いが尻すぼみになる。あとはヒソヒソと、リア充集団の少年同士で、これみよがしな悪意を持ったナイショ話の姿勢(すがた)。

 その時不意に、『九尾』の中でこみ上げるモノが、彼自身にも意外な強さで噴出した。

 

 「あぁそうさ!オ〇ニーだよ!」

 

 声を限りに彼は怒鳴った。

 

 その剣幕に一団はギョッとして静まりかえる。

 二回の張り出しから、何の騒ぎかと閲覧室を出てくる気配も。

 ひとり、ひとり。顔を睨(ニラ)みつけてから、彼はフッと表情をゆるめ、

 

「おまえらも――ボクもな」

 

 呆気にとられる世俗の集団を背にして、あとは後ろも見ずに図書館を出て行く。

 

 医療棟に向かおうと曇天の冷たい大気のなか、両側に茂みがつづく小径(こみち)を足早に歩く彼のうしろで、あとを追ってくる足音があった。

 エッ、と後ろをむくとメガネの奥の瞳とぶつかって。

 

「『山茶花』ァ……どうした?」

「ゴメンね、ポン――『九尾』。このところ『牛丼(あの人)』、ちょっと変なの」

 

 彼はフン、と鼻でワラい、

 

「イイよ、べつに。気にしないサ。どうせオ(・)レ(・)は嫌われ者だし」

「そうじゃないの。あのね?最近学校から、探査院に応援で出てるでしょ?」

 

 『九尾』はサラ先輩を思い出した。

 先輩もまた、ここ数日は探査院に出向しているというウワサだ。

 それで?と『山茶花』をうながすと、煮え切らない口ぶりで、

 

「私たちもこの前、本院に呼ばれて事務の手伝いに。それからナンかおかしくて」

「おかしいって――なにが?」

 

 うん……とうつむいた一拍。やがて、

 

「本院の事務の人に、さりげなく就職状況を聞いたらしいの。そしたら酷いこと言われたらしくて。もどってきてからズッとささくれてるのよ。採用も私たちレベルの学校じゃ見こみ薄らしいわ。この不景気で民間企業は採用しぼってるし、省庁は人員削減でしょ?人生計画がどうとか」

 

 『九尾』は唖然《あぜん》とする。

 

「イマからそんな心配してるの?早くない?ま(・)だ(・)一年だぜ?」

 

 あなたが!ノンビリ屋さんなのよ!と『山茶花』は急に声を荒げ、

 

「――も(・)う(・)私たち二年生になるのよ?」

 

 制服で縛められる大きな胸の下で腕を組んだ彼女は、呆(アキ)れたように、

 

「航界大学進学にしろ、就職にしろ、いまから考えておかないとオソいのよ?あなたは才能がある優等生だからいいけど、凡人のアタシたちは違うの!」

 

 ふうっ、と『九尾』は脱力する。

 結局――彼女もそうなんだ。

 自分なんか、分かってもらえないんだなという思い。

 いや、むしろ分かってもらおうなんて考えが甘ちゃんだった。

 

「……キミまでそんなこと言うんだな」

 

 『九尾』のセリフに、『山茶花』はシマッタと口をおさえた。

 

「ゴメンなさい、そんなつもりじゃ――」

「いいって!」

 

 それだけ言うと、彼は後悔気味な彼女の視線を背にはねかえし、足取りも荒くサッサとその場を離れてゆく。

 

 ――ちぇ。

 

 モヤモヤとしたものを抱えながら校舎までたどり着いた『九尾』は、風が吹き抜けるわたり廊下をポケットに手を突っ込み――指導教官に見つかったら説教ものだ――寒々しく背を丸め、足ばやに医療棟へと向かう。

 

  隔離(かくり)目的も兼ねる頑丈な自動扉を自身の生体認証で開け、メディカル・エリアの敷地に入り、医療棟へと入る。

 もはや馴染み深い感のある消毒液の匂いと、冷たい雰囲気。

 ひとけのない、森閑とした気配。 

 

「あのースイマセン……」

 

 『九尾』が医務室に顔を出したとき、こんどは女医のまえにすわり、顔を突き出して、ピンセットと脱脂綿で消毒を受けるサラと目があった。

 

 乱れた銀髪。

 悔しそうにへの字に結ばれた唇。

 その端(はし)には青あざと、殴られたような血がにじんでいる。

 

「サr!……サー『モルフォ』、先輩!?」

 

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