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3Dで浮かぶ資料をつつくと、年単位で微増の折れ線グラフがあらわれる。
目をこらすと自動的に資料の目盛りが細かくなった。
ほかには――何の説明もない。
グラフ下に、
【日本政府公安警察/外事課】。
そしてその横に並んで、
【宮殿官房第三部/第三課】。
資料の作成年度と個別案件資料・請求番号が添付されている。
まてよ?と『九尾』は
――最近……ごく最近……似たようなうわさを、どこかで聞いた、ような。
どこだっけ、と記憶を掘り起こそうとするが、ここのところ突飛なことが多すぎて、メモリの怒涛な上書きに、押し流されてしまっている。
前頭葉の、このへん。あともう少しで出掛かる、というトコロをあきらめ、周辺の類似資料を、ビューワーに命じて
【実験用に供する個体の選抜および
【廃棄F型候補生の入札
【新型人工血液によるカートリッジ・ファクターの合法的外活動化】
そんなたぐいの表題が、次々と。
手近な資料を、途中からひらく。
すると、ブースの宙に浮かんだ、鮮明なホロ画像。
『逃亡阻止を目的とする脳活動の必要最低限な
なにやらしかめつらしい字幕が流れた後……とうとつに貞操帯一つで手術台に大の字のまま拘束された、同年代と思われる女子。
異様に豊かな胸。
それに対して細すぎる腰。
さまざまな器機が残酷に接続されて。
両のこめかみに開けられた端子穴にケーブルが接続され、データが流された。
手術台の上で細身の肢体がのけぞり、苦痛に顔を歪めカテーテルをゆらす。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
いきなり大音量で、少女の絶叫。
――はうぁ!
『九尾は』あわてて画面を落とす。
一瞬、からだを縮め、凝固させて。
やがて、開放型のブースから恐る恐る首を伸ばすが、暗く静まりかえった閲覧室に、もちろんひとの気配はない。
心臓がバクバクと鳴り、首もとからイヤな汗が垂れる。
――なんで……なんで、こんなとこにグロ画像が!?
耳の中の鼓動と冷や汗が収まるのを待ってから、閲覧室の扉ぎわまで行き、図書館の気配に全身を研ぎ澄ます……。
大丈夫――何も聞こえてこない。
人の近づいてくる気配もない。
暖房に熱せられた古いカーペットの臭いと、電子機器の匂い。
……それだけ。
潮時かも、と考えるが……あと一歩、情報をつかみたかった。
手持ちの個人端末に有線で情報を移そうとするも、やめる。
どんな仕掛けがあるか、分かったものではない。
おそるおそる閉じた3Dを最初からミュートで再生……のつもりが、どこに行ったか分からなくなる。セキュリティの関係か、ログを残さないビューワーなので、トレースできない。とりあえず、近縁にあったソレっぽい題名の記録を。
【自家用人形を
『九尾』がおどろく間もなかった。
字幕付きの説明付きで、一連の映像がはじまる。
★《fig1・目的別手法選択および素材導入》
(BGMが明るく軽快なポップスの調子で)
――女子候補生が、部活にいそしむ光景。
柄付きのリボンをもったピンクのレオタード姿で柔軟まがいの運動。
胸。うなじ。
あるいはワキのレオタード皺。
大きく開脚して、湿った谷間がアップに。
恣意的なアングルめいた、粘着性のある各ショット。
開脚ジャンプが、背景をボカした長いスローモーションで。
乱れる髪。輝く汗の玉。
溌剌とした少女の顔。
着地をして次の演技につなげる彼女の、ハッとするほど美しい真剣さ。
染み込んだ汗がレオタードをテカらせ、まるでビニールの衣装を着ているようにツヤツヤと
やがて息を弾ませ、演技の終わったあとは、タオルで汗をふいて。
と――ココでなぜか逆光気味に、ソフトフォーカスが。
(曲調も一転、緩やかなものに)
レオタード姿のまま、同い年の少女たちとふざけあうシーン。
校庭の水飲み場。水泳の授業。キャンプファイア。
短いカットで、次々と青春のひとコマ。
そこへスーツの黒メガネ二人組が現われ、部活動の顧問らしき者と相談。
(BGMは一転、なにやら陰謀めいた、オドロオドロしいモノへと)
レオタードの上にジャージを着た姿のまま、彼女は不安そうな面持ちで、何も持たず白い革の内装をした黒いリムジンへと誘い込まれる。金庫のように分厚いドアが重々しく閉まり、彼女の姿を隠した。
思わせぶりに暗い雲がかかった浅草120階の方へと走り出す、霊柩車めく印象の高級車……。
★《fig2・全身脱毛、および素体の検査》
(BGMは密やかな、低弦の秘密めいた静かな調子で)
――どこかのエステサロンだろうか。
民間施設にしては、設備が高度医療センター的な雰囲気。
放射能マークの機材まであるその場所で、施術用のベッドに横たわって。
全裸となった冒頭の少女は、短い白衣を着た金髪と銀髪の若い女性二人ががりで、妖しげなローションをヌメヌメと塗り伸ばされている。
顔を見合わせた女たちの冥い笑み。
彼女らの手つきが、同性をいたぶるとき特有の邪険さを帯びて。
うすいオッパイに、秘裂に、ピンク色の
筋弛緩剤でも打たれているのか。
二人が力の入らない少女の姿勢を変えるたび、彼女はされるがままにあられもない姿となって、無抵抗で目を閉じたままテラテラと光沢のあるボディを光らせる。
シーンは変わり、デルタ部分と、後ろの部分の脱毛処理。
処置室は水周りの設備がある場所らしく、少女は相変わらず目を閉じた状態で体を洗浄されている。
やがて、あろうことか彼女は頭髪もふくめ、全身の毛という毛を哀れにも薬液によって除毛されてしまう。
まるでラテックス人形のようになった少女。
昏睡めいた眠りからは、まだ覚めない……。
あどけない美しさを持っていた女子高生の
身体を乾かされたあと、再度ローションのようなものを塗られ、次いで
黒いゴムのようなボディ・バッグに入れられると何十本ものベルトでギッチリと梱包されたあとは、ストレッチャーでモノのように乱暴に運ばれ、やがて小型のエレベーターで果てしない地下へと消えてゆく……。
★《fig3・豊胸処理、全身整形》
(BGMは無し。ただし、心電図を連想する調子で、澄んだ金属音)
――場所が手術室に移る。
血がたっぷりと。
手術用ケープの緑色を黒く染めて。
もともとの胸に換わり、乳房状のバイオ・エネルギーパックが当人の胸に。
一番下の肋骨が抜かれ、ウェストを狭窄された挙句、同時に骨格の一部も、超硬・多機能複合材に置きかえられる。
スタイルのシュミレーション。
手術室の中央に術後の予想図が3Dで浮かぶ。
贅肉の無い、引き締った身体は、段階的にふくよかな、女らしい肉体へと――いや、それを通り越して、セックスシンボルとも言うべき
無影灯のもと、手術台に横たわる少女。
執刀者たちの、よだれを流さんばかりな品の無い高笑い。
頭にゴム製のキャップ。
そして給気マスクを装着される血の気が失せた顔。
意識の無いはずの閉じた目から――涙がにじんで。
★《fig4・馴致、および強制現状認識》
(BGM復活。なまめかしい、ダルな調子で)
――場面はうって変わる。
四方の壁と床が白いソファー状の詰めものに囲まれた部屋。
天井の照明はピンクに。
全裸のまま、目隠しをされた女子候補生。
黒革の手枷と、足枷。
それに幅のひろい首輪。
口にまるいものを
時間が経過したのか、強制恵体化された身体のメリハリもなじんでいる。
スポーツ選手らしく清楚なショートヘアだった髪型は一転、非情にも頭蓋に何か所かドリルで埋め込まれ施術されたジョイントを介し、見事な
「A」から「E」ほどまでに肥大化させられた、まがい物の巨乳。
そして恐ろしいほどの細い腰。
それが見事に張り出した
……泣いているのだろうか。
金髪のウィッグをサラサラとゆらしながら、まるでしゃくりあげるように全身を細かく震わせ、鎖つきの手枷を巻かれた腕で、強制的に造られた豊乳が変形するほど己を抱きしめている。みずからの女性自身と肛門に深々と挿入され、貞操帯で非道に留められた淫具の
それでも
猿轡にポッカリと丸い穴が開く
耳に接着されたカナル型のイヤホンから流れる調教用の声が、副音声で流れた。
女性のネットリした、暗示型のおちついた声。
(大丈夫……貴女はカワイイお人形さんになるのよ)
「……」
(誰もがビックリしてふり返り、注目するぐらいのお人形サンにね……)
「あぉぉ……」
たたみかける調教音声に、少女が力尽きたようにうなだれる風情。
と、そこへ追い討ちをかけるように別の声で若い調教役の女の声が、
(でもザ~ンネン♪お人形はお人形でも、かわいいお洋服のかわりに淫らでエッチな服を着て、お客様の劣情に奉仕する浅ましい“メス人形”になるの)
「おごぉォォォオオ!」
わずかに残った少女の理性が、激しく首をふる。
(いやなの?それとも悔しい?――でもダメ。貴女は奴隷調教されて、それはイヤらしいメス人形になるの。お客サマの
よかったわねェ、と静かに嘲笑する声の気配。
(一生、お客サマのお情けを頂いて、気持ちよがってればイイんだから……ホラ!もっと
また――少女のくぐもった悲鳴。
しかし画面の外から扇情的なラテックス製のボンデージ・スーツを肌に貼りつけた、先ほどの金髪と銀髪の美女ふたりが出てきて、力なく抵抗する彼女を“人”の字型に拘束すると、胴体の目立たない部位に設けられたシャントに、点滴チューブの先を接続。
画面が変わり、点滴棒にブラさがる薬液パックのアップ。
大林製薬:【ヨガールアナル点滴静注液5mg】
(字幕:使用上の注意をよく読んで、用量・用法を守り正しくお使い下さい)
少女の抵抗が、しだいにトロンとしたものになって……。
(そう、いい娘ね。でも、もう少し。お尻をキュッ♪とさせなさい?)
少女が言うことを聞くようになったためか、女の声が労わるようなものに変わり、まるで頭をなでるような口調で、
(疲れたでしょう……よく頑張ったわね?うれしいわ。ご
「あぉォォォ……」
拘束された少女のアゴが、ノドが、苦しそうにうごく。
(……そうそう、いいわ。そしたら頬が引っ込むくらいキュッ、と吸うの。そしたらおチンポの先から濃厚な液がピュッ、と出てきますからね……前と後ろの穴のお道具もユックリ動かすわよ)
少女の軽く抗議するような、甘い鼻声。
(大丈夫?まっててね。いま容器をセットしてあげる……)
ボンデージ・スーツを着た金髪が
ズームされたカートリッジの商標。
【マゾニナールA・経口洗脳液】
(そう、いい娘、いい娘……)
★《fig5・目的別・脳浸透教導処置》
(ユーロビートっぽい重低音の音楽。SMチックな画ヅラとマッチして)
――あきからに仕掛けのありそうな黒いGスーツ。
そして
黒革のハーネスで宙吊りにされ、頭をすっぽりと覆うデバイスを
かぶせられ、様々なコードが延びる身体を
ラテックス風味の黒いG・スーツが、ローションでヌラヌラと照り光り、少女が調教の苦痛と強制注入される快楽に身悶えするたびにテラテラと淫猥な光沢をみせて。
前掛けにゴム長靴姿の銀髪が、妖しい笑みをみせながら、大きな数珠の
形をした電気コード付きのソケットを彼女の肛門に挿入し、ネットリと前後に動かす。
それにつれ、少女の股間から何かがはげしく飛沫(しぶ)いた。
同時に幾本もの束になった金髪のムチが、哀れな彼女の背中を襲う。
ビクビクン、と全身をピッチリ黒く覆われた身体が痙攣……。
さすがに『九尾』は、コレ以降を見るに耐えず、記録をスキップ。
★《fig10・子宮切除と代替器機挿入・》
(BGMはチャイコの弦楽セレナーデ)
(画面の下に【注:回復不能点につき注意】とテロップが流れる)
――空いた腹部に、ドラ○えもんのような、バイオ・メンテナンスハッチ。
レーザー刺青で、なにやら注意文言が焼き付けられる少女。
聖アンデレの十字よろしくX形に拘束されている彼女は、坊主頭を激しく 振り、拘束台をゆすって、刺青の痛みに眼をカッ、と見ひらき、銜えさせられた赤いボール状の猿轡を呑みこむ勢いで絶叫する。
絞られた音声をとおしてさえ、彼女の苦痛と悲哀が、まざまざと。
『九尾』は、また記録をスキップ。
★《fig15・口唇肥大、および口腔内部切除・有襞粘膜形成》
(BGMはバンドネオンの曲調で「Dr. Petiot 」を希望)
https://www.youtube.com/watch?v=xPskdzG207g
女子候補生の唇は、ぼってりと肉厚に整形される。
口の中は、生まれつきの歯列を除去され、アタッチメント式に。
そして奉仕用に具合の良いよう舌を二つに割かれ、そのうえ口の内側に、新たにイソギンチャクのような、突起粘膜を全面に融合される。
もちろん肉感的な唇をとじれば、口の中の淫猥なしかけは分からない。
★《fig20・眼球摘出・多機能視覚共用器機を視床下部ユニットと共に埋設》
★《fig23・脳・および頭蓋インターフェース構築》
《fig29》と字幕のある《外装整理。雇用主希望に基づく外見改変》では腰つきがさらに豊かに。大腿部は、それまでの優に1.5倍ぐらいにはなるだろうか。
最後の《納品・輸送》で少女はバイタル維持装置に接続され、厳重に梱包されてどこかへと運ばれ、このおぞましいHow toは終わる。
結局、可憐な印象のある、黒髪ショートヘアーだった痩せぎすの彼女は、
赤銅系な金髪をした肩まであるウェービーなウィッグ。
長いまつげの奥から覗く、豹の瞳を模した、デジタル風味な緑色の眼。
グロスな照りをみせる、肉厚の真っ赤なくちびる。
信じられないほどメリハリを付けられた人造ボディ。
その根元から切断された両腕。両足――ただし機械的なコネクター処理で、必要に応じ人工四肢が装着可能に。
……等々。生まれつきの体を改変、あるいは無機物に置き換えられ、最後には『
いやな汗が、ドッと全身から吹き出てくる。
吐き気、というよりも、ドス黒い胸苦しさ。
巡界艦のエイジング・ルーム。
フラッシュバックする『黒猫』の変わり果てた姿態。
ミラは――宮廷秘書官は、たしかあの時、改変は植物状態になった「
頭がクラクラしてビューワーの意志入力が反応しない。
イラついた彼は、ふるえる手で直接、宙に浮かぶ隣の表題をつつくと、こんどは四肢を二の腕、膝で切りつめられ、首輪をまかれた女子候補生が、なにやら蛍光色な蒼い溶液の充ちる透明なシリンダーに、天井クレーンでゆっくりと降ろされてゆく光景が映し出された。
【特殊任務・従事忌避者】とテロップが流れる。そして、
『対酸・対アルカリ・対炎症・および対防創を目的とする皮膚置換処置』
女子候補生はボウズ頭を激しくふり、もがきながら、粘性の高そうな液体にゆっくりと沈んでゆく。悲鳴は、口に銜えた何かのデバイスの効果で圧殺され、聞こえない――いや、ミュートのせいかと『九尾』は思い出し、おそるおそる音量をあげてゆく。
天井クレーンの低いモーター音を背景に、口を封じられたまま、クレーンに吊される候補生の悶える声。それに混じって、微かに話し声がした。
端末にイコライザー処理を命じて音を抽出。
「――から、コイツも馬鹿だよなぁ?素直に遠象探査を拝命りゃイイのに……」
「こんど日本に帰ってくるのが何時か、不明だからな。彼氏と別れンのがイヤなんだと。アホな話サ。聞いててイライラしてくるぜ。バカ女が!」
「ったくナ。結局「ドール」にされちまうンだから。彼氏とも永遠のお別れだ」
「このスタイルに、このお面だろ?前々から素体として、ネラわれてた?」
「ありうるな。“市場”は、いつでも――」
女子候補生が引き上げられると、皮膚はビニールのような照りを発し、驚いた顔で定着された彼女の表情もあって、まるで本当に人形にされてしまったよう。
『九尾』は再生を止めた。
――もうたくさんだ……。
暗い天井を見上げて深呼吸すると、視界が、まるで磁場酔いのようにゆるやかに回っているような気がした。
胸のむかつきが収まらない。
新鮮な空気を吸おうと、暗いブース・エリアの外によろめき出る。
――まぶしい。
モニターの輝度を最小にしていた為か、高窓から見える午後おそくの曇天すら、彼には痛いほどに感じる。とりあえず壁際に脚を投げ出して座りこみ、吐き気をおさえるため口を開け、あさく、かるく呼吸した。
いま見てきた悪夢が、外の光に反応したように溶けてゆき、胸苦しさがゆっくりと収まってゆく。こめかみに流れた冷や汗をイライラとぬぐい、明るさに慣れた眼で脇を向けば、個人ブースのならぶ部屋の入り口が洞窟めいて、薄気味わるく口を開けていた。
さぁ、どうする?と『九尾』は頬の内側を噛んでギュッと眉をしかめる。
――考えろ……考えろ……考えろ。
特殊任務・従事忌避者というテロップの画像が気になった。
『盟神探湯65B』。
メインパイロットを拒否したら、自分も、あの映像のようなことになるのか。
雲海。
フロイト。
耀腕。
そして……悪霊。
性的な道具にされるのと、雲海で壮絶な
「――コラッ!てめぇナニやってやがる!」
突然、