その日の仕事が終わったのは、26時もかなり回っていた。
数度の“お着がえ”をへて、最後は振り袖をまとわされ奉仕をつづけた『成美』は、ポックリを履く足もともあやしくフラフラになりながらバックヤードに戻ると、スチール製の細長いロッカーが並ぶ、開放された
背中のお太鼓や、はさまれた詰め物がジャマだ。
なによりキュウキュウに締め上げられた帯が苦しい。
まるでボンデージ・スーツの革製ウェスト・ニッパーめいて。
浮かびかかる不吉な記憶を封じ込め、数百ギニーはすると言われた
顔に、血の気がもどってくるのがわかる。
耳のなかに、こめかみに、心臓の
絹の照りを魅せる赤い裏地を背景に、白足袋を履く素脚の生々しさ。
早上がりのパピヨンたちが――これも様々な衣装で――そんな彼にむけ、各人各様の視線を投げかけて。
――警戒
――侮蔑
――敵意
――嫉妬
――追従
――憐憫
――そして欲情……。
えッ!?と思ったのはその時だった。
チリチリと音が近づいて、きわどいメイド服姿の少女が、うなだれた暗い視線で目の前の通路をよぎってゆく。
――愛香!?
一瞬、喜んだものの、彼女はイツホクについて出張中のはずだった。
涼子社長のようなピン・ストライプのビジネス・スーツをキメて、イツホクに続きリモの後部座席に乗り込むのを正体不明の胸苦しさとともにメゾン・ドールの車寄せから見送ったのを覚えている。
人ちがいか、と脱力しつつ、
――あんなJKめいた仔が……。
そして、そのJKの横顔を見たとき――ふと彼はイヤな記憶が甦りかける。
あの娘はココにいてはいけないような……。
なにか非道なことが行われたような……。
そもそもドコで見かけた子だろう……。
記憶をたぐろうとするも、今夜はもう頭が飽和状態だった。
いさぎよく
はしたなくも、
高価な振り袖を脱いで衣装担当のオバさんたちに渡し、呼んでもらったハイヤーでワタのように疲れた身体をホテルの部屋に運んだ彼は、シャワーでほんのり色づいた素肌にパール色なシルクガウンを
彼方をまた、航界機の航空灯がよぎってゆく。
それは先日の椿事を、彼に思い出させた。
いつの間にか注入されていた“防
どうやら生身の人間の記憶を「加工」して、作成されたような気配。
実在の人間と情報を細部にわたってやりとり出来るのが、その証拠だ。
ハナシの感じから、相当古い人格データをつかっているらしい。あの老人が少年だったころに隊長なのだから、生きていればかなりの歳だろう。
それが完全な一個人の自我ではなく、加工されたモノである証拠には、死後の出来事まで知っている(らしい)ことが挙げられる。
――“
それどころか、『
彼は窓に映った自分を
どこかオカルトめいた薄気味わるさ。
自分の知らない自分が、都市夜景の爛熟な
おそるおそる、
「ねぇ。アナタは――いったい誰なんです?」
返事はない。
生マジメそうな少年が、緊張した顔をするのを観るだけ。
『成美』は、とりあえずホッとする。
ここで自分の口が勝手に動き、ひくい声でしゃべりだしたら《オシッコちびる》に有り金を全部賭けていい。
――Oдержимостьとの意思疎通は、できないものだろうか。
彼は界面翼の話を思い出す。
自分の翼は自分では見えない――雲海の中を除いては。
おそらく、なにか
自分のピンチ……あるいは
はぁっ、と彼は窓際の革ソファーに腰かける。
――今日は疲れたァ……。
明日は休みたい――でもダメか。
“舞い”のスタジオレッスンもある。
イサドラの代わりのダンス教師が、マトモな人でよかった。
――そういやあのサド女教師、ドコいったんだろう……?
鉛のように重たい身体を立ち上がらせ、フラフラとベッドに倒れこむ。
音楽でも聴こうと手探りでヘッド部にある機器を操作すると、手元がくるったのかアロマテラピーのスイッチにでも触ったらしい。
かいだことのない穏やかなハーブの香り。
かすかに部屋をただよい、『成美』の鼻腔をくすぐって。
やがてゆるやかに天井が回りはじめ、彼は背中から
――……。
――……。
――……。
――あ……まただ。
ジジジジ……と秘部を苛むモーターの振動。
身体の
頭はスッポリと革のふくろで
口には丸い球を
どこかで奴隷を
あるいは別の方から、肉の焦げる気配――絶叫めく女の悲鳴。
――そうだ、ワタシもお
もぢもぢと無意識な内股歩きは、よけいピンク色めく情欲の淫火を
と、
幅広の首輪を巻かれ、そこから延びる
チャリチャリと
腕は、後ろ手にひとまとめにされて拘束された格好と思えた。
合わせられた手の甲側で、自分の尻を恐る恐る
――えぇ……ッ!?
信じられないほど肥大化され、ムッチリとした感覚……。
まるでタップリとシリコンでも注入されたような。
わずかに突き出たアナル・プラグも、肉感的にされた尻のヴォリュームに負けぬよう、よほど野太いものをズップリと奥まで挿入されている気配が。
――そんな……そんなぁ。
ピンヒールらしきものを履かされ、硬い廊下をヨロヨロ歩く緊張感。
それが、秘部をよぎって上に締め上げる、ハイレグらしい
あッ!と『成美』は硬い床(石畳?)を踏みそこねてヨロけた。
身体がふれ、危ういところで立ちなおるが、その拍子に自分の胸がユサリ、と
――おちついて。深呼吸三回……これは、ただの夢
「ホラ、急ぎなさい!」
「ナニよろけてンの!」
左右から腕を取る女の声。
ピッ、と蜜壺に挿入された器具から、よわめの電撃。
あァッ!とふたたび崩れ落ちかけるが、両わきを掴む腕が許さない。
それが細い指で握られるため、二の腕に食い込んでとても痛いのだ。
爪先立ちのようなピン・ヒールをムリヤリ立たせると、首輪が邪険に引かれる。
また
廊下らしい空間に、冷酷な反響をして。
「この
「パピヨンにするって聞いてたンだケド?」
「ヒヒ爺ィの一人が、どうしても!!ってね」
エナメルの感触がある手袋が、『成美』の
――!オォォォォ……ォ!
悲鳴を出そうにも、口に
ただかろうじて、
玉からは苦い汁のようなものが滲み出し、それが苦しさを倍化させる。
「――早くなさい?」
両わきの声とは別に、首輪を引く鎖を鳴らされて
「今月中に馴致を終えなければ、つぎの課程に移れないのだから」
「ネェネェ。この
「本当、こんなに早くメスに
「……洗脳用のプログラム、バージョンが上がったのよ」
鎖を引く方から、くだんの
「本人の中では、自分はメゾン・ドールの人気ビェルシカを
「まさに “ウツシ世ハ夢、ヨルノ夢コソ、マコト” ですわね……」
「この仔もカワイソーに。もうじきオッパイ、ブルブルさせてご奉仕かぁ」
さ。今日はココよ、と先のほうで声がしたかと思うと、古いフェルトの匂いがする重い扉が開かれたような空気の流れ。
邪険に背中を押され、フラフラと空気の動かない空間に
そのまま、貞操帯用のトイレめくモノを
「ほぉら、ご対ぃ面ぇえん」
革の袋が手荒く引かれ、目隠しがはずされた。
瞳孔を刺激しないよう、赤い灯の充ちる小部屋だった。
美事なボディに仕上げられた自分の身体。
正面の大きな姿見で、マジマジと『成美』は決定的に見せつけられる。
むねが丸く明いた、黒革のレオタード。
そこから
ウェーブがかった長い髪の奥に光る
黒い
いかにも男好きのする、淫乱な身体つき。
それをヒシ型に縛め、
一部のハーネスは
両わきに
「
「なら仕方ないよねェ?どうせ性欲
マニキュアを整えた細い指が、固くシコった乳首をつまんで、ひねり上げる。
「――――!!」
鼻声の哀しげな悲鳴。
あぁ、ゴメンゴメン。と、わざとらしく銀髪な片方が『成美』の口から、ユルユルとボールギャグを外し、鏡ごしに流し目線を “彼女” に合わせつつ、ヨダレまみれなその器具を、ピアスが
『成美』の耳の中、高ぶる心音に合わせ、ズキズキとうずく乳首の痛み。
――夢……じゃない。いったいどういうコトなの?なんで、髪がこんなに……。
「おいしい……
ナニか喋ろうと思うが、のど元で意思が消えてしまう。
口は動くものの、声を出す気力が萎えてしまう。
そして――その
ボッテリと肉厚にされ、まるでダッチワイフのような。
なによりツヤツヤとした真紅のグロスが、品下っている印象。
アタマの悪そうな、まるでSEXのことしか考えていないトロンとした
金髪が、いかにもワザとらしく、
「あら……こんな
「ワかった!お飾りがナイからだよ!アタシ準備しよッと」
銀髪が、すこし視野から姿を消していたが、やがてステンレスのワゴンを押して現われた。台の上には
既視感めいたものを感じる。
あのときは――残酷な焼き印だった。
「今度は……いったい、なにを……」
ふるえる声で“彼女”にされた『成美』は、うす笑いを浮かべて手術用のゴム手をはめる銀髪の仕草を見守る。
金髪が、メスとなった『成美』の
そんな哀しい女体の
発情した雌臭にまぎれて漂うヨードの匂い。
「さ――デキた」
使い捨てマスクをした銀髪が、針を片手に目を細める。
「いつも恥知らずにボッキし続けなきゃならないように、根もとからピアスしてあげるネ?安心して。お股にも、そのうちつけてあげるから。でもメス人形であるコトを自覚させるンだから、麻酔は無しだョ?」
アタマがクラクラして何も考えられない。
後ろから金髪が『成美』の体を押さえて。
「ウゴくと……取り返しがつかないヨ~?」
銀髪は容赦なく針を近づけ、たわわとなった『成美』の
ヒギィッ!という“
だが、痛いのはここからだった。
反対側にブツッッ!と音を立てんばかりに針が
頭の中に電気を通されたような、金属的な感覚。
「あッ!がァァァァァァァ……ッツ!」
「もっと可愛く
怒鳴り声がして、厳しいムチが背中に一度、二度。
シャァァァァァァァァァァァァァァ――ァ……ァ……ァ。
あとは、何をされたのかも分からない。
半ば失神状態のまま施術はつづき、気が付けば『成美』の乳首には、メス人形の証であるチタンのリングが冷たく、哀しく輝いて。
――あぁ……。
正面に据えられた姿見は、拘束された少女のみじめな姿を映しだす。
豊かな胸に、リング状のピアスは、その哀れさをいっそう加味した。
涙がひとすじ、メス化された
「ワタシ……これからどうなるの?」
鏡ごしにギロリ!と邪険に
上役らしき長い黒髪も、ヒュン、とムチを一振り。
ヒッ、と小動物のように身をすくめた『成美』は、
「あ、あの……哀れなメス人形の『成美』は、これからどうされるのでしょうか?」
宜しい、と黒髪は満足げにムチ先をテロりと舐め、
「どうもこうも無いわよ。今しばらくは、まだ夢を見ててもらうわ。オマエの身体が仕上がったとき、専用コンテナで西ノ宮に運ばせるの。そこで
「本当の “お人形” って……」
「もうしばらくは、「作りモノ」の身体で、ビェルシカしてなさい、ってコト!」
ドヤ顔で金髪が腰に片手をあてる。
銀髪が、その肩にしなだれかかり、
「アナタは“
「それとも
体内を犯す淫具に、スイッチが入った。
微妙な強弱の刺激で、
金銀の両方から、施術されたばかりのピアス付き乳首を吸われ、コロがされ。
やがてその鋭い疼痛が、次第に甘美さを交えて自身を責め立てる有様に、彼女はイヤイヤと髪を振りみだしつつ。
やがて波の高まりが訪れ、メス化されたアタマの中に火花が
ふたたび――世界は白い無に