※この作品はR-18です。

玲瓏の翼【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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050:官僚たちのこと、ならびに師弟対決のこと(前

 うひぃぃぃぃっ!

 

 ……というのが正直な第一印象。

 

 ――メイクを落とされて、ほんッッッッとうに、良かった……。

 

 『成美』は心の底からおもう。

 舞台化粧のまま修錬校・教官と対面したら、舎監にオナニーを見つけられた候補生どころの騒ぎではない。おそらく恥ずかしくて、いたたまれなかっただろう。このビェルシカ・スタイルでさえ身の置き所がないのに。

 

 火照(ほて)った顔で小部屋を見渡すとき、かつて自分が師事した大柄な教官が、みょうになつかしく――また遠い存在に思えて。

 

 その『リヒテル』といえば、いまどき見たこともないガッシリとした古めかしいノーフォーク・ジャケット。独(ひと)り、この軽やかな正装者の一群が集う小部屋で浮いている風。表情もどこか超然と、周囲を睥睨(へいげい)して憚(はばか)らない。

 そしてこの大柄な灰色羆(グリズリー)は、『成美』にむけた視線を彼の表情(かお)と、アナル・プラグに連結する腰から上に立ち上がった大きなフサフサのリス尻尾とに、時間をかけてタップリと行きつ戻りつさせた後(のち)、ネコミミ・ヘッドフォンから、

 

《ずいぶんと――変わった格好を、していますね》

 

 ヒョイと銀色な眉毛をあげ、強烈なジャブをはなつのを忘れなかった。

 

《お店では――人気者と聞きましたが?》

「うぅ……」

 

 プラグを喰いしめるアヌスを、キュッと緊張させ、

 

「それは……そのぅ」

 

 ソワソワと、『成美』は身をよじらせる

 まるで、口頭(こうとう)試問官の一団を前にして、回答に詰まったときのよう。

 各人各様の視線が、自分を嬲(なぶ)るように見つめるのを感じて。

 

《それは、もう。『成美』クンは、これからが期待できる“イチ推し”ですから》

 

 クジェチが、場を取りつくろおうとするのか、先ほどとはうってかわり、慇懃(いんぎん)な中にも尻尾を振らんばかりの勢いで、

 

《これもみな、探査院の皆様方のおかげかと。宮殿の方のごひいきも並々ならぬものですからなぁ。いい人材も、融通していただいており――》

「調子にノるんじゃネェや、予算未達(みたつ)の二流店長が!」

 

 イツホクが、見たことのない凄味をはなち、ギロリとひと睨(ニラ)み。

 すると、どういう具合か。叱られた犬のように、クジェチが悄(しお)れる。

 

 ――スゴい……。

 

 ネコミミを通していない、直(じか)の音声。

 もちろん『成美』は、あくまで聞こえないふり。

 曖昧(あいまい)で、ぎこちない愛想笑いを浮かべながら、二人のやりとりを見守る。

 

 イツホクは、メゾン・ドールの店長より、格が上なのだろうか……?

 

 あのチンピラ寸前の飄々(ひょうひょう)としたユダヤ人が、この場ではまるで我が王国のように、支配者然とふるまっている。対する周りの男たちも、あたかも腫れ物にでもさわるかのように。

 そしてその人物(イツホク)が、『成美』の方を一瞥(いちべつ)したかと思うと、

 

「あーァ、このガキが“ワケアリ”と知ってたら、手ェ出さなかったのにナァ」

「すると、この個体。『土鳩(どばと)』は……返却して頂けるので?」

 

 えっ、と心ひそかに『成美』は驚く。

 カイゼル髭(ひげ)が、デキャンタから自分のグラスにワインを注ぎつつ、

 

「なにぶん、こちらも元手がかかっているもので――」

「モトデかかってンのは、コッチもご同様でさぁ!」

 

 すかさずイツホクが刺々(トゲトゲ)しく反応する。

 カイゼル髭も負けずに、

 

「穢(むさ)い話ですが、いかほど?探査院(われわれ)は、補填しますよ?」

「いや、ゼニはどうでもイインだが――出資者の一部と、チョィとヤバい関係になっちまって。コッチの方を、権威(ちから)づくで何ンとかしてくれンなら、ネ」

「……どちらを?」

「丘の上ホテル」

 

 うっ、という微妙な沈黙が、部屋に訪れる。

 

 イツホクは卓上の鈴をとりあげ、優雅に鳴らした。

 もちろんそれはスタイルで、中には何かの電子的なデバイスが仕込まれているに違いない。小さな胴体に針穴のような稼働シグナルが明滅する。

ややあって、小部屋にノックの音。

 扉が開かれチリチリと音がして、青い髪をしたメイド姿の少女が入ってきた。

 

 ――!!

 

 あの娘だ……。

 心の動揺を、危うく押し隠すことに『成美』は成功する。

 部屋に漂い始めた、ほのかな彼女の匂い。そして哀しげな雰囲気。

 彼は横目を使いつつ、はじめて至近距離でさりげなく彼女を観察した。

 

 大型コントラバス・ケースに偽装した、移動型・強制調教機(コクーン)。

 ギッチリとその中に封入され、全身を侵され喘(あえ)ぎながら、フタ一枚隔(へだ)て目にした女子高生の一群。

 その彼女等の中でもいちばん可愛かった子が、いまや髪をうす青く染められ、きわどいメイド服を着せられて。

 

 それだけではない。

 

 サテン地なメイド服の胸を中から押し破らんばかりに、乳首の浮きも露骨となった見覚えのない巨乳。艶(ツヤ)やかな光沢の上にポッチリとした影を浮かべ、さらにはその周りに乳首を穿(うが)つリングの模様も。

 

 そしてチリチリと寂しげに鳴らす音。

 

 やはり彼女も、愛香とおなじく前と後ろに非道(ひどー)なディルドー(洒落てしまった^^)をズップリとハメ込まれ、さらには剃毛(ていもう)された“お股の唇(小陰唇)”にピアスを施術され、チリンと鳴る恥鈴(ちりん)を取り付けられているのだろう♪

              (・・・って酔って書くとイカんなw

 

 ――酷(ヒド)い……。

 

 と思う間もなく、奴隷メイド化された元・女子高生は背後に「S'il vous pl(どうぞ)ait」と小さな声をオズオズとかけた。

 毛皮をまとった高級公子(クルチザン)たちが、来客の人数分はいってくる。イツホクはメゾン・ドールの店長を「オマエは用済みだ」と言わんばかりにアゴで下がらせ、かわって少年たちに向かい愛想よく、

 

《さぁサァ。お好きな方に、ご奉仕しなさいョ?皆サマ地位のあるお方だ。選(よ)り取(ど)りみどり、スキになさい。そのかわりチャンと、お相手するんだよ》

《へへ、ボクこのヒト取っぴィ》

《じゃぁ……ワタシは、このお方に》

《えぇっ、じゃぁ……》

 

 残った一人が、オズオズと『リヒテル』の方に向かいかけるが、灰色羆(グリズリー)のひと睨(ニラ)みに足をすくめる。

 チッ、と鋭い舌打ちが小部屋にひびき、

 

《またオマエか、『竹丸(たけまる)』。毎回、毎回アブれやがって、これはあとでお仕置きが必要だな。それとも “下水口” に、いくかァ?ぇぇ?》

《イヤぁっ!ヤですぅ……お館(やかた)様ァ》

 

 とたん、小部屋に忍び込むシラけた気配。

 交錯する冷たい視線と小動物めいた哀願。

 

 あるいは半泣きのクルチザンに哀れを覚えたか。

 『リヒテル』は、鼻で大きくひとつ息をすると部屋を数歩あゆんで、クッションのついた肘掛けイスを軋(キシ)ませ己が巨体を収める。それを宥(ゆる)しの合図と受け取ったか、『竹丸』は泣き顔をホッとゆるめると、『リヒテル』が座るイスの脚にしなだれかかり、恭順(きょうじゅん)の姿勢(ポーズ)。

 ほかの少年たちも、思い思いのスタイルで賓客(おきゃく)のそばに侍(はべ)り、座はすこし和(やわ)らぎと落ち着きをみせた。

 カイゼル髭(ひげ)がきわめて興味深そうに、

 

《『土(・)鳩(・)』も――このようなコトをやるのかね?》

《いぇ男爵、めっそうもない。『成(・)美(・)』クンは、まだビェルシカですから。ただのお運びサンで。言ってみれば、お触(サワ)りアリのバニーガール、否(いや)バニーボーイ、かな?まぁ――稀(まれ)には、さっきのような踊り子のマネごともやりますが》

 

 イツホクの言葉に、赫(カ)ッと『成美』の全身が、羞ずかしさに。

 

 ――やっぱりアレを見られてたんだ。

 

 ガン!と頭にタライが落下してきたような感覚。

 奈落(ならく)があったら、速攻で隠れたいレベルだ。

 常連客にこそ喝采(かっさい)を浴びたが、修錬校のお堅い教官方には、どう受け止められただろうか。おそらく単なる醜態(しゅうたい)、あるいは重大インシデントと映ったのではないだろうか。

 

 自分たちの生徒が起こした、風俗的な不祥事(ふしょうじ)。

 始末書モノでは済まない、探査院きってのスキャンダル。

 

 しかしこの時どうしたことか、『成美』は夢の中で施術され・造られた女の秘部が、キュっと締まり、恥知らずにも潤(うる)んでしてしまうのを感じる。

 

 観られてしまった!という被虐感。

 

 乳枷(チチかせ)により縊(クビ)りだされた巨乳の、悩ましくも気怠(けだる)い重さ。

 ピアスを施(ほどこ)された乳首の疼(うず)きと、甘い恥辱も、併(あわ)せて。

 太ももを、無意識のうちにモヂモヂとすり合わせる。

 

「マネごとだなんてトンでもない!」

 

 テーブルの下で脚の間に正座される高級公子から、股間に軽い愛撫(あいぶ)を受けつつカイゼル髭が、

 

「アレはまさしく!――まさしく芸術だったじゃないか!」

 

 そう言ってから、スーツの男や『リヒテル』の冷たい視線に出会い、気まずそうに口をつぐむ。さらには、撫でさすられていた股間をビクビクっ、と僅(わず)かにフルわせて。

 

「彼は――いや“彼女”?は、どうしたいのかな?」

 

 沈黙を保っていた三つ揃えのスーツ(スリーピース)を着る中年が、イスに深く腰をかけ、脚をなかば投げ出す格好で指を組み、そのおくから『成美』を見据え、理知的な口ぶりで呟く。

 

「本(・)人(・)の(・)意(・)志(・)も、確認してみないことには」

「うッ。そ、そうだ――な……ゥクッ!」

 

 周囲から目の届かない影でズボンのチャックを開けられて、担当の公子にコッソリお(・)口(・)で後始末をされていたカイゼル髭は不明瞭(あやふや)な声で応えた。

 

「本人の意志は……だいじだな。ウン」

《実際のところ。彼は、この後どうなるんです?》

 

 スーツの男が、カイゼル髭を白い目で見ながら音声を注文(オーダー)モードに切り替え、『成美』の耳にも届くようにして、

 

《この子たちのように、奉仕用の高級公子にするのか、あるいは、なにか別の目的があるのか。“西”の贈答品とするには、あまりに値がハネあがっているようですが? “『世阿弥(ぜあみ)』グループ” のところにでも送って、さらに磨きをかけてもらう算段でも?しかしそれだと、かなりの物入りとなりますが……》

 

 イツホクは効果を高めるためか、微妙な一拍。

 そして、一団を見回してニヤリとするや、

 

《お分かりに、ならないと?》

《いえ、皆目(かいもく)》

《 “アイドル” にする!という選択肢もアリですよ、みなさん!》

 

 いきなりサテンドールのマネージャーは、高らかに宣言するような身振りで、

 

《この子の美貌(びぼう)、芸の吸収才能、身体能力の高さ。パフォーマーとしては、うってつけでサァ。修錬校には、ネコに小判かもしれませんゼ?(おっと、失礼)ちゃんと予算をかけたプロモートと、サポート。それにウチの後押しがあれば、それこそ “金貨に埋もれて目を覚ます” のも十分アリですなァ》

 

 呆気にとられる一団をよそに、イツホクは、かたわらに控えていた青髪メイドに棚からコニャックを取らせると、自分のスニフター・グラスに注がせて香りを愉(たの)しんだのち、気取った手つきでチン、とリッド(蓋)をしてサイド・テーブルにおく。

 

《偶像(アイドル)不在の不景気な、社会不安の横溢(おういつ)する時代閉塞(へいそく)のこの世の中で。パッと花がひらいたように、世間(せけん)を明るくするのも、文化事業としてアリですテ……売れますよォ?この子は。いやマジなハナシ。これは商売人としての、直感ですがネ……》

《はぁ……そんなものですか》

《舞台やシネマ。共感情報野にリンケージした露出とパフォーマンス。各方面ともコラボする、最高にリッチで、パワフルな展開をお約束、ってワケ。おたくの修錬校(がっこう)の名前を出してもいいスよ?最近はどこも、バジェット(予算)がキビしいって話じゃないですか……わ(・)た(・)り(・)に(・)舟(・)でしょうが》

《……》

《聞けば、粗末な扱いしてたらしいですねェ。訓練だ、試験だ、戦闘だと。なるほど “プチ家出” したくなる気持ちも、わかりますテ。カ(・)ワ(・)イ(・)ソ(・)ウ(・)に(・)》

 

 イツホクは、『成美』が身の上ばなしで喋(しゃべ)った情報(ネタ)を、針小棒大(おおげさ)にヒケらかす。

 

《おおかた、修錬校の格をあげる手駒と、ベンリに使ってたンでしょう》

 

 三人の男たちは虚を突かれたように、一瞬鼻白んだ。

 やがてスーツの男がふたたび『成美』の方を向き、改まって、

 

《キミは――どうしたいのかね?修錬校に戻るか、ココにいるか》

「……」

《この子たちのように、時には性的奉仕をする高級公子になって、一時的にでも優雅な生活をしたいと言うのかね?あるいは本気でアイドルになれるとでも?》

 

 男たちの、圧力をもった沈黙と視線。

 それが一身に自分に集まるのを感じ、『成美』は少したじろぐ。それにカイゼル髭のこちらを見つめる視線が、ピチピチなズボンの股間に集中しているので、いかにもやりづらい。

 

《航界士候補生がいいか。それとも、パピヨン候補生がいいのか……》

「ボクは――」

 

 またもや彼は入校試験の時、口頭試問官の前で感じた緊張を「心的構造」そのままに思い出しながら、いちど大きく息を吸って、

 

「ボクは――ただ。その、死(・)に(・)た(・)く(・)な(・)い(・)だ(・)け(・)です」

 

 その一言は、清澄な水面に放った小石が精密な同心円を描いてゆくような効果を、この古風な小部屋に与えた。

 

 男たちは、顔を見合わせる。

 スーツ姿が、またもヤンワリと、

 

《死にたくない、とは……どういうコトかな》

 

 

 

「――盟神探湯(くがたち)65B……」

 

 

 ボソリと呟いた、この一言。

 それは「小石」が「岩」になったぐらいの効果があった。

 ザワリ、と一団が動く。

 

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