※この作品はR-18です。

玲瓏の翼【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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056:        〃            (後【ちょいエロ版】

 広壮な館の入り口で、二個の人影は歩みを停めた。

 

「――ここなの?」

「さぁ?でもそうらしいよ。招待状には、少なくともそう書いてある」

 

 若い魔導師は、ボアがついた冬用のマントをゆすると、たもとから封蝋(ふうろう)のついた巻紙を取り出し、遠くの灯りに透かし見た。

 よこから、毛皮をまとう、金髪の可愛らしいニンフがのぞきこむ。

 鵞(が)ペンで書かれたような、仰々(ぎょうぎょう)しい書体と大きな朱印(しゅいん)。

 下の方に、判読不明なサインが二種。

 

「場所も――間違いない」

「それにしては人影が……ないわねぇ」

「たぶん、ぼくたちが遅れたからだろう――扉も閉まっている」

 

 魔導師は勇を鼓し、背丈(せたけ)の3倍は優にある両扉に近づく。

 中央部にある聖獣が咥える“いぶし銀”なノッカー。

 それを規定どおりに間を措いて鳴らした。

 

 待つこと暫(しば)し。

 

 やがて重々しい音をたて、片側が、ユルユルと開かれる。

 とたん「ヒッ」とニンフは毛皮のしたに纏(まと)う薄衣(うすぎぬ)を、ちょっと濡(ぬ)らす。

 なぜなら中から灰色のゴーレムが、迷惑そうな顔を(ヌゥゥッ……)と突き出したので。

 

「なんの――ご用ですかィ?」

「あの、ぼくたち。今日の夜会に招待されて来たんですが」

 

 ゴーレムは仏頂面(ぶっちょうづら)で、新参者ふたりを値踏みするように上から下まで睨(ね)め付ける。ややあって、

 

「もう、入場の刻限は――とうに過ぎております」

「特別招待状あるよ?ハイこれ」

 

 渡された巻紙をぞんざいに拡げたゴーレムは一瞥(いちべつ)し、すぐに突っ返すと、

 

「刻限は、とうに――」

「そんなこと言わずに。さぁ……ホラ」

 

 闇の中で、大ぶりの銀貨が擦(す)れる音。

 

「……こちらへ」

 

 しぶしぶといった風に、ゴーレムは扉を開けたまま背を向けた。

 魔導師とニンフは顔を見合わせ、フフッとわらう。

 

 灯の落ちた寂しいエントランスホールに靴音を響かせつつ、ゴツいテール・コート(燕尾服)を着た筋肉のかたまりについて歩いてゆくと、ようやく行く手から賑(にぎ)やかに談笑する気配が洩(も)れ聞こえてくる。管や弦の音色(ねいろ)も、同時に。

 

「どうぞ」

 

 宝石をはめ込んだ腕輪をひからせ、ゴーレムが扉を押し開く。

 とたん――。

 いきなりゲインを上げたように、圧力を持つ歪んだ騒々しさが、シャンデリアの眩(まぶ)しさと連れ立って、ワッと扉の向こうから押し寄せてきた。

 

 第一の間は、テニスコート6面分はあるだろうか。

 天井の高い広間に、様々な異形をした群衆。

 半獣神や女神。低いモーター音を鳴らしつつ絨毯(じゅうたん)を這(は)うヘビ女に、ハイレグ衣装の妖精。カボチャ提灯(ちょうちん)を小脇に抱えて闊歩(かっぽ)するホムンクルスも居れば、酒類のエリアに蝟集(いしゅう)する、中間管理職の気配が抜けぬドワーフたち。

よせばいいのに原価管理だ、受注予算だ、などと。

 

 老若の“騎士”や“戦士”。

 あるいは“巫女”や“魔女”。

 

 広大なホールの傍(かたわ)らでは、正装した少年たちが室内楽を奏でるが、それを圧する勢いで、威風(いふう)を払う者、猥(みだ)りがましい者、おどろおどろしい者等(ら)が渾然一体(こんぜんいったい)となり、狂乱の騒ぎを繰り広げ果てしがなかった。

 

「うわぁ……」

 

 ニンフが茫然としていると、入り口にいたバニー・ボーイ姿の少年たちが、エナメルの靴に付けられた鈴を鳴らして近寄るや、うやうやしく、そして優雅な物腰で、

「お待たせいたしました閣下。ならびに姫様(ひぃさま)。外衣(クライナ)を――お預かり致します」

 

 ふたりが身軽な姿に変じ、狂騒の会場をオズオズ歩き出そうとしたところで、緋色の肩衣(かたぎぬ)をイキにかけたローマ風の胴鎧(どうよろい)姿な一人の剣闘士が近づいてきた。

 

「よぉ、坊主(ボウズ)!遅かったやないかィ」

 

 初老の剣闘士は、若い魔導師のやせた肩を遠慮(えんりょ)無くバンバン叩きながら、すでにかなり“入って”いる赤ら顔で、

 

「開宴宣言の場に居ないよって、来んかと思とったぞ」 

「ヴォロネツ閣下!お久しぶりであります。遅刻して、危うく入れないところで」

「んう?入り口に、受付け居たやろ?」

「いえ、無愛想なゴーレムが――」

「あぁ!?オマエら正面から来たのか!良く入れたナ?」

「へへ、ちょっと握らせまして」

「プッ。アホやなぁ!」

 

 剣闘士は、ヤレヤレと言うように首をふり、

 

「今夜のような非公式な会合は、裏口が基本やぞ?覚えとかなアカン」

「そんな……ボクの20ソルド……うぅ」

「ところで――お連れの可愛いニンフは、どちら?」

「え、あぁ。シモーヌ・南部・マキシム嬢。あの“丘の上ホテル”の一人ですよ」

 

 これは!と剣闘士は、一度のけぞり、最敬礼。

 

「名だたる『財界の名花』のおひとりに拝謁(はいえつ)の機会を賜(たまわり)り、光栄至極」

 

 初老の剣闘士は、なぜか航界士流の挨拶で、魔導師の彼女を迎えた。

 

「そんな名花だなんて……」

 

 浮かびかかる微笑を必死に噛み殺しつつ、ニンフは、となりの魔導師に、

 

「ワタシに、この剣闘士サマは紹介してくださいませんの?」

「おっと、そうだった……こちらは“勇者”ヴォロネツ・ヴィエニャフスキ閣下」

「閣下は、よしてぇな。今宵(こよい)の興(きょう)が、醒めてまう」

「これは失礼、改めて――剣闘士“勇者”ヴォロネツ」

「ゆうしゃ?」

 

 ニンフの問いに、そうさ!と若い魔道士は、まるで自分のごとく自慢げに、

 

「省内でも有名なパワハラ上司が居てね?部下を鬱病(うつびょう)にしたり、セクハラの挙げ句、妊娠させて責任取らず自己都合退職させたり、気に入らない部下を閑職(かんしょく)にとばしたり、やりたい放題だったんだが、コイツを辞職に追いやって、全省から感謝されたんで、そう呼ばれているんだ」

 

 旧(フル)い話を、と初老の剣闘士は、剣の柄頭(つかがしら)を撫(な)でて苦笑する。

 

「あンときァ、若かっただけや。それより坊主の方が、最近は『稟議書(りんぎしょ)の魔術師』とか言われて、ノシてるらしいやんけ」

「ボクは、まだ若いですからね」

 

 ふんぞりかえる“魔術師”に“勇者”は哄笑(こうしょう)する。

 

「言うわ、ハハハハハ!!……よし!おいで。ここでの作法を、教えたる」

 

 室内楽の演奏が、熄(や)んだ。

 

 周囲(まわり)から、気の無い、短い拍手。

 タクトを振っていた少年が背骨の曲がったゴブリンに手伝われ、演奏ブースのとなりにある黒天鵞絨(ビロード)の覆(おお)いを外す。現れたのは、雛段(ひなだん)状に並べられた少年たち――の“首”だけ。

 傍らのパイプオルガンめく三段の鍵盤とストップが並ぶ演奏者席に、杖を突いた老人がヨロヨロと座ると、キーを二、三度おして。

 すると、視線を虚(うつ)ろにした少年たちの首が口をひらき、キレイな単音を発した。

 

 なんです、アレ、と魔導師。

 

「ん?あぁ、バイオ・オルガンや」

 

 勇者は、物の怪や天女、戦士たちがオルガンに集まり始める流れに逆らうように歩きながら、珍しくもなさそうに、

 

「余剰(あまり)モンの美麗な男児(ガキ)ィ集めて声帯(せいたい)、改良しぃ、首だけにして並べ、楽器にしとる。言うなれば生体、いや声帯オルガンやな。なかなかに――人気がアルで?」

 

 そのオルガンのほうで、ちょっとした騒ぎが起こった。

 

「お願いします!ボク、まだ声が出ますよ?ホラ、アーアー、あぁ……っ!」

 

 見ると、ひな壇から電球を抜くように生首がひとつ、交換されるところだった。

 何故(なぜ)か今度は周りから、やんやの拍手。口笛。

 

「お慈悲です!どうか。たまたまノドが……」

 

 あとは声にならない。

 送気パイプのコックを閉じられ、維持ユニットごと、絨毯の床に投げ出される美貌の生首。顔面を涙でクシャクシャにして。

 

 そのとき、一人の中世ドレスを纏った老婦人が、おもむろに生首へ近づくと、ゴブリンに合図。すぐさま犬の胴体を模した搬送装置が運ばれ、生首と接続される。

 生気を取り戻した少年の首は、しかし、新たな恐怖にゆがんだ。

 老婦人の従者にまくり上げられた、幾重にも襞(ひだ)のあるスカート。その中へ嫌々をしながら強制的に押し込まれて。

 やがておこる、老婦人の恍惚(こうこつ)たる呻(うめ)き……。

 

『では――ここでコノ仔たちの聲(こえ)を、お愉しみください。曲目は……』

 

 タクトを振っていた少年の合図で、老演奏者は骨張った指を、キーのうえに奔(はし)らせる。見かけによらず、敏捷(びんしょう)で、繊細(せんさい)な指づかい。

 少年たちの声帯が、美しいハーモニーを奏(かな)で始めた。

 

「……いろいろと、スゴいわね」

「まだまだ。こんなもンじゃないデ?たぐい稀(マレ)なるニンフさん」

 

 老“勇者”ヴォロネツはオルガンの声(・)から遠ざかるように、広間の中央でそびえる葡萄酒の噴水を迂回(うかい)して、なみ居る奇怪な者たちをよけながら奥へと向かう。

 

 次の間に近づくにつれ、ムチの鳴る音が、聞こえてきた。

 広間に入ると空気が、数度上がったような、感触。

 澱(よど)んだ熱気は、あつまった来賓(らいひん)たちのものだ。

 だが群衆の数にしては、すこし静かすぎる。

 薄暗い広間は、奇妙な緊張を内包して。

 

「なんですの?――コレ」

 

 叱(し)ッ!叱(シ)ッ!とニンフの声に、あちこちから諫(いさ)める声。

 よくみれば観客は、ほとんどが巫女や尼僧、女騎士にサキュバスといった、老若を問わずの女性ばかり。そんな群れの視線は一様に、奇妙な腕木をもつ柱が据えられた舞台の中央に集められている。

 薄地の黒いロング・グローブをはめられる両腕を、まとめて頭上で拘束され、ガーター付きストッキングの脚を拡げたかたちで「人」の字に固着されている、ウサ耳を付けられたひとりの少年。

 背後にはムチを握り、調教役の記号満載な衣装をつけた年増の女。

 

「ホラホラ、もっとイイ声で啼(な)いて御覧(ごらん)!」

「あぁっ!お慈悲(じひ)を!お慈悲をぉっ!」

 

 ボーイ・ソプラノな少年の顔が、せつなげに美しく歪む。

 

 一本ムチではなく、握りから枝分かれした、皮膚を傷つけ難(にく)いタイプのムチが振られ、ピンクに上気した少年の肌の上でハデな音を立てる。

 すでに前のほうも折檻(せっかん)されたらしく、ウェスト・ニッパーで括(くび)れる腰より上、それに薄い黒革のビキニ・パンツを履かされた股(また)は、みみず腫れで真っ赤になって。

 

 打たれ、身をよじるたび、首輪に付けられた鳴りものが触れ合い、涼(すず)やかな音をたて、それを佳(よ)しとするのか蝟集する御婦人たちの眼がギラギラと。ややもすれば濃い紅に彩られた口もとの端(はし)から、抑えようも無い嗜虐的な笑みが浮かんでいる。

 

「アヌスを見たいわ!その子のアヌスを見せて頂戴(ちょうだい)!」

 

 とうとう年増のエルフが、でっぷりした腹をゆすらせ、叫んだ。

 

 ステージ上の調教師は、髪を払って汗を耀(かがや)かせつつ、足もとにひれ伏す侏儒(こびと)の道化師(ピエロ)に命令し、絞首台にも似た柱の根本を思わせぶりたっぷりに回す。

 

 歪んだ劣情を孕(はら)む、中年婦(オンナ)たちの沈黙。

 ヒリヒリとした緊張が、暖房の効いた広間の空気に濃厚(たっぷり)と充(み)ちる気配。

 少年のうしろには尻を割ってリング状の道具がハメ込まれ、ア○スの具合を衆目に曝している。

 

「さぁ!週間奴隷(ウィークリー)に最適だよ。供回(ともまわ)りにするもよし、臥所(ふしど)で奉仕させるもよし!」

 

 ステージ脇にある、仮装大賞を思わせる表示版が、音と共にジリジリと上がってゆく。アッという間に最低落札価格を突破し、さらに高額に……。

 

「シモーヌ、まだ見てゆくかい?――ボク、お腹(なか)空いたよ」

「えぇ……先に行ってて。落札価格を見ておきたいの」

 

 気ぃつけるンやで?、と勇者がポツリ。

 

「オナゴ独りウロウロした挙句(あげく)、気付いたら“鑑賞する側”から“鑑賞される側”になっとったりするからナ?ここじゃ珍しくないコッチャで」

 

 えっ……?というニンフの不安そうな声。

 薄笑いを含んだ老勇者の言葉が、それにつづき、

 

「全身を革でコーティングされ、テーマ・パークに飾られて。彼氏は新しい彼女と目の前を通るケド、部屋を飾るディスプレイ人形にされたアホな元カノが必死にアピールしようとしても、彼は新しいお相手に夢中で気付かない……よくあるハナシや」

「……やっぱり一緒に行きます」

 

 色違いで統一された広間を二、三過ぎる。

 そこで若い魔導師は、今夜の隠されたテーマにようやく気付いた。

 エドガー・アラン・ポーの「赤死病の仮面」に準拠した部屋のつくり。

 鮮血にまみれた仮装をする幽霊役が、どこから出てこないかと注意しつつ。

 

 やがて三人は、山場を越えて一息ついたといった雰囲気のダイニング広間にたどり着く。

 

 その光景を見た魔導師とニンフは絶句し、思わず互いに手を取りあった。

 

 いくつもの大テーブル。

 中央には、決まってマイセン調の極めて大きな皿が。

 異様なのは、その上に目の周囲だけを隠すヴェネチアン・タイプのマスクをつけたギリシャ風に半裸の少年たちが、赤い玉の猿ぐつわを口にハメられ、ひくめのスケベ椅子にヒザをつけて座る格好でのけぞるように胸を反らせ、手枷を巻かれる腕を、背後に位置する大皿の固定環に金の鎖でつながれている……。

 

 肌の色も、髪型も、それぞれに異なる彼ら。

 

 そして、等しく生体手術で整えられたものか、少年たちには豊かな乳房が備わり、アヌスには、これも一様に蛇口付きの太いプラグが、ずっぷりとねじ込まれているのが痛々しい。

 

 若い二人が怖れおののくのをよそに、大テーブルをゆるゆると巡りつつ、黒いロングドレスと引っ詰め髪。それに角ブチメガネの『家令』然とした、肉体のメリハリも豊かな30手前とも看える女が、指揮棒の代わりとでもいうのか、恐ろしく長い銃剣(バヨネット)を振りまわしながら、配下のアラビア風な衣装をまとう酌女(しゃくめ)たちに檄(ゲキ)をトばしていた。

 

「さぁさぁ!オークションが一息ついたら、

   また御客サマが大勢いらっしゃいますよ?

     前菜(オードブル)の補充(ほじゅう)どぉ?ソース・サーバーの容量は?

       ポリアンヌ!シャンパン・グラスのタワーが少し歪んでますよ。

        セーラ!何しているの。早くマグナム・ボトル用のクーラーを!」

 

「精がでるの――バヨネッタ」

「……おやまぁ、ヴォロネツさま!」

 

 家令は剣闘士にイソイソと近づくと、優雅に一礼。

 男も胴鎧(どうよろい)の緋色な肩衣をうしろに撥(は)ね、鷹揚(おうよう)に応え、

 

「どうやら今夜も、繁盛(はんじょう)しとるようやな」

「おかげさまをもちまして……でもお珍しい。このような性肉(せいにく)市場の宴(うたげ)などに」

 

 家令は、次いでフィと声をひそめ、

 

「そういえば。よろしいのですか?初音(はつね)さまの事」

「なぁに。丁度いい余興(よきょう)やろ?果ての「黒の間」で、いいオブジェになっとる」

「おそろしい――御方ですこと」

 

 しばしの形式的な文句を交わした後、家令が仕事にもどり、ふたたび三人のパーティーとなった一行は、広間にある料理を物色しはじめた。

 今度も勇者が料理の選び方を指南する風。

 

「エェか?まず皿の状態を吟味(ぎんみ)する!好評だった皿は、周りに並べたオードブルも、ソースもすくない。補充されるイマが、見極めどきやで!」

「ソースが少ないって、どこにソースがありますの?」

 

 魔導師とニンフは、覚束(おぼつか)なげに周りを見回す。

 ダイニングの広間に残っていた来客が、そんな彼女の言葉を聞き、初々しい新参者ふたりに好ましげな微笑みを投げかけて。

 

 三人は、テーブルにひと皿ずつ据えられた大皿、さらにその上で、恥ずかしげに苦悶(くもん)する女性的な姿にされた少年たちを、ゆったりした足取りで広間をめぐりつつ吟味する。

 

「ほー。今夜の“儀豚(ギトン)”は、粒選(つぶよ)りヤのぅ。来てヨかったで」

「ギトン?」

 

 早くも皿の上の料理をソワソワと物色しながらニンフが尋ねる。

 

「せや。今夜のような宴(うたげ)に狩り出される儀式用の“いけにえ”やな。エゲつないコトを、ぎょーさんされるよって――見てみぃ」

 

 どこから取り出したものか勇者は、プレゼン用のレーザー・ポインターを手にすると、ひとりの少年を指し示し、輝点を浮かべる。

 

 まるで妊婦のようにふくらんだ腹。

 乱暴に扱われたあとのある乳房。

 少年の周りに残る、さほど手を付けられたとも思えない料理。

 マスクごしからも、涙にウルんだ眼が分かる。

 

「料理が残されとるやろ?不味かったんやな。スープもゼンゼン使われてナイ」

「あの……スープって?」

 

 ニンフの問いに、男は少年の股間に手をのばすと、尻にはまるプラグのコックを開いた。

 シャバシャバと、黄金色の液体が流れ出る。ボールギャグを銜(くわ)えさせられた少年の表情が、すこしホッとするように。

 かすかに漂う、オニオンを含んだコンソメの香り。

 しかし無情にも、すぐにコックは締められる。

 

「な?腹の中に、スープ仕込んどる。言うとくケド「直に」やないデ?ちゃァんと細長い大容量のビニールを肛門から十二指腸まで這わせ、その中に入れとるんや。そして――」

 

 勇者は、少年のオッパイを絞(しぼ)った。

 ラー油めいた香辛料オイルの滴(したた)り。

 

「さすがに胸は作りものや。けど見てみぃ?料理がイマイチなさかい、乳房も手荒く使われボロボロや。ちなみにこのチチは感覚素子が仕込まれてて、ちゃんと快楽なり痛覚(つうかく)なりをコノ仔の脳に送る仕組みになっとる」

「そんな――この子のせいじゃないのに」

「まぁ“儀豚”ちゅうんは、そう言うモンや。そしてソースやけどな……」

 

 勇者は、テーブルにセットされていたリモコンを押す。

 天を向いた少年の若々しいチンポから、緑の液体が流れ出す。

 ちょっと彼は手の甲に受けてそれを舐(な)め、

 

「サボテンソースや。ケド味が――こなれてナイ。不評を買うも道理や。おそらく皿ごとに作り手がチガうんやろナ……たぶん料理人の選定試験もかねとると診た」

「それも、ビニールが?」

「仕込まれてたり、仕込まれてなかったりや。コッチは、直(じか)の方が人気あるデ?」

 

 

 さて、そうなると一番の“当たり皿”は……。

 

 

 剣闘士は、マスクの奥から中に詰まった料理を排泄させてくるよう哀願する少年たちの視線を冷酷に無視して、眼をつけた中央のひと皿へと確信的な足取でむかう。

 

 まず大皿からして、美事だった。

 繊細な絵付けが施(ほどこ)され、しかも破綻(はたん)なくデザインされている。

 周囲の料理は、あらかた平らげられ、さまざまに並べられたソースをスプーンやパンで丁寧(ていねい)にすくった跡まで。

 その皿の上で拘束される少年といえば、キメの細かな褐色(かっしょく)の肌をもち、そしてお決まりでもある銀色の髪。共通の赤いボールギャグに、鼻輪まで着けられている。

 装(よそお)いは、ほかの少年と同じだが、ヘッド・ドレスの代わりに、ただひとりだけ、月桂冠(げっけいかん)。

 

 ニンフが、おそるおそる少年の乳房を揉む――何もでない。

 

 くぅぅぅ……と少年の切なそうな声。

 

 勇者が、大皿に備え付けのリモコンを押した。

 しかし――品よくそそり立つチ◎ポからは、ソースが流れることは無かった。

 そして、そんな少年のほうは、今度はリモコンが押されるたび、ビクン、ビクンと体をふるわせ、大ぶりのイヤリングを煌々(キラキラ)と揺らし、下半身をモジつかせて鼻声でイヤイヤをする。

 

「なんだ、ソースもカラかぃな――おーぃバヨネッタ!?」

 

 勇者が、とおくの家令に身振りで伝えると、やがて彼女に指示された酌女(しゃくめ)がふたり、大きなダイニング・ワゴンに料理数品を載せイソイソとやってきて、一人は大皿に料理をならべはじめる。そして、もう一人は――。

 

「よぉ見ててみい」

 

 男の言葉に若い二人が見守る中、酌女はダイニング・ワゴンの下段にあるタンクからホースを延ばし、アナル・プラグの蛇口にセット。その根元にある耐圧のガラス・タンクには、内側に湯気のしずくを浮かべた、どうやら粘性のあるらしい白いスープが見える。

 彼女は電動ポンプのスイッチを入れるや、移送コックをひねった。

 

「!!!!!!!」

 

 声帯に手を入れられているのだろうか。

 少年の甲高い、女性めいた鼻声の悲鳴。

 

 どぷッ、どぷッと音をたててダイヤフラムが動き、少年の体内に、温かい、ドロドロした液を吐き出してゆく。アナルプラグに繋いだカテーテルが、ビュルビュルと振(ふ)れうごいて。

 ボールギャグに口を塞がれた少年は、艶々(つやつや)した光沢のある赤い玉を口唇(くち)にメリこませ、さらに甲高い鼻声で苦悶(くもん)の悲鳴をあげた。

 

 ゆっくりと褐色の腹部がふくらんでゆき、スープを孕(はら)んだ身体は、遂(つい)にはまるでホンモノの妊婦のように。

 はげしく身をよじり、単なる「料理の容器」と仕立て上げられた少年は、快楽とも苦悶ともつかぬ感覚に翻弄(ほんろう)され、褐色の肌に脂汗をうかべつつ、幅広な首輪につけられた黄金色(きんいろ)の鈴を、コロコロと涼やかに鳴りひびかせる。

 

 ついで、乳房にも薬味が補充され、妊婦としてリアルさを増すと、最後にこの酌女(しゃくめ)は、1000mlの巨大なシリンジを、ある種の微笑と共に、ワゴンの保温部からとりだした。

 

 顔色を変える魔導師。

 ニンフの眼の輝き。

 そんな若いふたりを見る勇者の微苦笑。

 

 だがその時、胴鎧をまとうこの初老の剣闘士は、ふと酌女の肩越しに誰かを認めたらしく顔色を変えた。

 相手の様子に気付いた魔導師が視線を追うと、弓を背に負う女神が、大皿に拘束され、盛り付けられた少年たちを、ひと皿――ひと皿。マスクに隠された顔も含め、吟味して回っているような姿が。

 

 大皿の傍(かたわ)らをいそいそと離れた勇者は、相手に近づき、失礼ながら、と言葉つきも改めて、

 

「誉れ高き第三王女の専属秘書官殿と、お見受けいたしますが――」

 

 かしこまった様子で、女神に、悠揚(ゆうよう)せまらず一礼。

 狩りの女神は、いくぶん硬い顔で、それに応じる。

 

 二人が、何ごとか話しながら大皿に戻ってくると、酌女が、ちょうどシリンジをカテーテルに連結し、もう片方の先を、少年の鈴口に埋め込まれたネジ山へ取り付けるところだった。

 その刺激が生殺しなのか、美少年の甘えたような鼻声。トロンとした目つき。

 

「珍しいですな。こんなところに御光臨(こうりん)とは」

「知(・)り(・)合(・)い(・)の(・)子(・)が、まさか出ていないかと……心配になって」

「うへぇッ!いや失礼。まさか“儀豚(ギトン)”ではないでしょうナ?」

「さすがにちがう……とは思いますが」

 

 そんなやりとりの傍ら、シリンジの用意を終えた酌女が「宜しいですか?」とでも言うように、小首を傾げ、装身具を鳴らす。

 

「ドャ――いや、どうだねシモーヌく(・)ん(・)、やってみては」

「いいんですか!?」

 

 ニンフの顔が、冥(くら)い悦(よろこ)びに輝いて。

 

 やがて、酌女から渡された真紅のソースが充ちるシリンジの重さと、何よりその熱さに驚きながら、彼女は教えられたとおりプランジャーを押し、ドロドロとした濃厚なソースを、非情にも強制的に屹立させたシンボルをへて、少年の膀胱(ぼうこう)へと、送り込んでゆく。

 

 撃たれた仔鹿のような――哀(あわ)れな悲鳴が、ひと声。

 

 少年の腰が、まるで射精するがごとく、スケベ椅子の上で前後に激しく動いた。

 ボールギャグに縛められ、のけぞらせた顔が、苦悶に震える。

 

 しかし――ニンフは、無情にも手を緩(ユル)めない。

 

 教わったよりも幾分早めに、プランジャーを押し続けて。

 600mlを超えたあたりで、さすがに酌女は制止した。

 それでもニンフは手を止めず、あろうことかプランジャーの勢いを増す。

 少年(容器)の身もだえを見た魔導師が、あわてて彼女の手を抑えた。

 異様な輝きをみせるニンフの目と、かすかにヨダレの滲(にじ)む口もと。

 

 魔導師とニンフの間で、ちょっとした諍(いさか)いがおこる。

 それを勇者は年かさの落ち着きをもって、まぁまぁとなだめながら、

 

「いいかね?まずはギトンを――少しラクさせてやろう」

 

 そう言うや菜箸(さいばし)をつかい、並べられた料理を小皿の上に少しばかり取ると、勃起する少年のチ○ポから、リモコンで真っ赤なソースを流し出す。そして、ホレとフォークを添えて、魔導師に差し出した。

 

「さて、次はワシ――わたしの番だ」

 

 そういうや、皿の横に鵞ペンよろしく立てられていた大きな鳥の羽根を、少年のアソコにそよがせる。

 魔導師に怒られ、ふて腐れていたニンフの眼が、ふたたび輝きだす気配。

 鈴口やカリ首をいぢめていると、当然ながら、少年がせつなげに、腰をモジモジさせて。だが尿道に仕込まれているストッパーは、そんな勝手を許さない。

 ついには乳房をゆらし、甘い鼻声をあげ、媚態(びたい)をさらすようにおねだり。

 

 頃はよし、と看たか勇者はリモコンを操作する。

 一度、二度――そして三度。

 少年の腰が、ガクガクと震え、やがて穂先からは、薄ピ(・)ン(・)ク(・)色(・)のソースが、びゅるっ、びゅるっ――と、ほとばしった。

 

「コレやがな!――通は、このソースをイワさなアカん!」

「――では、みなさん。どうぞお愉(たの)しみを」

 

 少年が汗を流しながらグッタリとうなだれるのを横目に、冷酷な眼をした女神は、背負う弓の位置を直しつつ美麗な大皿を離れる。

 

「や、もう行かれますか?」

「もしや、この子かと思いましたが違いました。人前で粗相(そそう)をするような情けないタイプではありませんもの。それに――」

「それに?」

「なにより捜す相手は、褐(・)色(・)の(・)肌(・)で(・)は(・)あ(・)り(・)ま(・)せ(・)ん(・)わ(・)」

 

 優雅に一礼し、宮廷秘書官は去ってゆく。

 その背を見送りながら勇者は(……ッハ!)と密かに嘲りめいた嗤いをみせ、

 

「宮廷秘書官でございとは言うても、まだまだアオいのォ」

「……どういうことです?」

 

 魔導師の問いに、勇者は「見てみぃ」とレーザー・ポインタを、大皿でうなだれる少年、その耳の後ろにあてる。

 

 わずかに染め残した白い部分が――そこにはあった……。

 

 

 

 

 




ー次回予告ー    (ナレーション:千葉繁さん希望)

ムチの唸りが、炎呼ぶゥゥゥ!
ついに!最終のメス化調教を受けるに到った主人公。
嬲られ、責められ、己を見失い、情欲に彷徨う魂。

だが!そこに現われた事象面の扉。
果たして!彼の行く末はぁぁぁッッ!

次回!『玲瓏の翼』(18禁版) 第057話!
「最終調教のこと、ならびに航界士『ホスロー』のこと」

――あらためて少年は問う。
『成美』?『九尾』?Qui suis-je?(ボクは、誰?)
                  
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