※この作品はR-18です。

玲瓏の翼【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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063:裏切りの翼のこと、ならびに航界士たちの復讐のこと(前【チョイ18禁版】

 

 

 管制塔(コントロール)より離陸許可のコール。

 ブラン・ノワール組たちを喪った、運命の雲海戦。

 もうあれから気の遠くなるような年月(としつき)がたったように思える。

 

 ――現実は……まだ半年と過ぎていないのに。

 

 跨乗コクピットからの刺激が悩ましい。

 アヌスが太めな排泄処理器具を、ズップリと銜(くわ)えこんで。

 あるはずのない膣(ヴァギナ)がうずき、仮想設置の子宮口がジンジンと痺(シビ)れるよう。

 片手を操縦桿からはなして、薄くなってしまった胸をまさぐる。乳首ピアス痕(あと)の、甘い疼(うず)きといっしょに快感がジワジワとよみがえってきた。

 天蓋付きのベッド。ピンクなサテンが艶やかに光沢を走らせるなか、許婚(フィアンセ)に優しく支配され、躾(しつ)けられ、調教され。前と後ろに辱めをうけ、加えてお口を烈しく犯される光景。

 全身を拘束され、洗脳され、“婦(おんな)”としての仕上げを施(ほどこ)されるひと幕……。

 

 結婚、そして妊娠――出産。

 自分の匂いのする、小さな生き物。

 やわらかく、暖かく。なにより生命(いのち)にあふれて。

 小さな爪の生えそろった手が、自分の小指を握りしめる。

 ふと、世界にデビューしたての幼子は、生意気にもあ(・)く(・)び(・)などして。

 

 ――赤ちゃんにオッパイ、あげたかったな……。

 

 心のどこかで、そんな『成(・)美(・)』の最後の意識が。

 

《奉天――奉天!?離陸準備よろし?》

「ウ、Oui, mon capitaine!!」

《……》

 

 不意をつかれ、思わず大声になる。

 妄想から『九尾』はいきなり現実に引き戻された。

 おまけにどうしたはずみか、メス奴隷の服従文句が出る始末。

 しかし“航界士・候補生”にもどった彼は、キリッ、と意識を改める。

 

 ――そう、前回はここで推力全開だったわ(・)ね(・)……気をつけなくちゃ。

 

 彼は前傾姿勢にグッと力を込める。

 豊満な下半身が、肉感的にシートをほおばって。

 G・スーツが、そんな彼の半ば女体化した身体に律儀(りちぎ)な反応。

 シートに備わる拘束具も緩やかにバイブしながらゲル状のアブソーバーを最大拡張。

 くびれ気味のウエストとムッチリ張り出したヒップをガッチリ抑え、ピッチリとホールドする。

 

 《――諒解。滑走・開始》

 

 だが、彼の警戒をよそにVTOL機は事務的にスタートを告げるや、徐々に――徐々に――きわめてゆっくりと、模範的な滑走をはじめた。

 モーターのような滑(なめ)らかさ。シルクのような加速度。

 ほどなくフワリと二機は大地をはなれ、上昇を開始する。

 ゆるやかに高度をとったあとは、軽くバンクして世界を傾かせる。

 陽光の鋭角な影が、ジリジリとコクピット内を移動して、なじみの気配を加速する。

 

 しばらくぶりの飛行だった。

 

 地面から機体が離れてゆく時の、気持ちよさ。

 まるで汚穢(おえ)の地から、遠ざかってゆくように。

 午後の太陽が、そんな牽引索で繋がれたニ機を祝福するように輝かせている。

 

 ――還(かえ)ってきたのね……。

 

 『九尾』は実感する。

 

 “還(・)っ(・)て(・)き(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)”とも思うが、くぐり抜けてきた状況を考えてみれば“還(・)っ(・)て(・)こ(・)れ(・)た(・)”のほうが正しいのだろう。ヘタをすれば、いまごろハーネースに縛め(いまし)られ、ピアスされた小陰唇(ラビア)から淫汁(ラブジュース)垂れ流しなまま、花嫁衣装のサイズ合わせをしていたかも知れない……。

 

 地平の彼方に浮かぶ首都圏のメガ高層タワー群。

 少し離れたところに、暗渠(あんきょ)となった隅田川に立つ第四電波塔(メガ・スカイラダー(天のはしご))。

 べつの位置に、洒落(シャレ)た形で浅草120階。

 ちょうど一塊(いっかい)の雲が影をおとし、群青色な街並みが大地にカビのように拡がるその場所では、今この時も、異形の性癖と情欲とを求めるエスタブリッシュメントの一群が、そしてそれらを鬻(ひさ)ぐべく改変された“人形たち”が、相手の歪んだ性癖のもとめに応じるまま、淫(みだ)らに蠢(うごめ)いていることだろう。

 

 ――思い出しちゃう……。

 

 路地裏の下水臭さ。

 キラめくネオンと扇情的なコピー。

 街頭スピーカーからむなしく響く風俗店の宣伝。

 艶かしいピンクの照明にうかぶ、性的な、破廉恥な衣装。

 被虐の欲望に上気した肌がはこぶ、愛液と化粧。それに媚薬(びやく)の臭い。

 思わせぶりな視線と口唇(くちびる)。そこから紡(つむ)がれる情欲と金銭の駆け引き……。

 成長抑制剤(クロノス)により時を止められた、ロリータ服な少女の微笑。思わせぶりな宗教の街宣車。

 

 意識を現実にもどし、転じてコクピットの周囲をみれば、ここはそういったドロドロしたモノとは隔絶された世界だ。

 

 喜悦(よろこ)びも――

 悲しみも――

 憎しみも――

 憂欝(うれ)いも――

 そして望みすらもない。

 

 生半可な人間の営みを拒絶する空間。

 峻厳で、純粋で。そして永遠に静謐(せいひつ)な世界。  

 

 ボンヤリ呆けていると、曳航するVTOLから入電。

 

 《こちら探査院・強攻探査師団所属SRV-Ⅳ『カロン』、只今より試験空域に移動する。機内レコードをチェック。チャートI/P(インプット)》

 「こちら『ポンポコ』――了解ですわ」

 

 何気にそう応えてから気づき、

 

 ――やだ!ア(・)タ(・)シ(・)ったら……。

 

 しかし相手方からは何の反応もない。

 とうやら勘案してくれたらしかった。

 

 ク(・)セ(・)は恐ろしい。しばらく使っていなかったW/N(ウィング・ネーム)がスルッと出てくる。

 そういえば『九尾』なんてコールサインを使うのは初めてのことねと思う。『成美』と応えなかっただけでも良しとしましょう、と彼は自分をムリに慰めて。

 

 沈黙のまま、曳航索でつながれた二機は、高度を稼(かせ)いでゆく。

 

             ――――――――

 

「――聞いたか?『ポンポコ』だと。

「カワイイ声で。いつまでも初年時の気分が抜けないらしい」

「女体化(T S)の進行は順調に進んでいるのだろう?勿体(モッタイ)ないな……」

 

 機内には一瞬、同意するような沈黙。

 やがて周りの意思を代表するように、

 

「宜(よろ)しいのですか?本当に――あれだけの逸材を」

「案ずるな。“蘭(ラン)のお方”からも、投棄の許可は頂いている」

「西の方との手打ち、機体の廃棄、流出情報の始末、一石三鳥ですな」

「我々に口出ししてきたネイガウス上級大佐への見せしめのもある。四鳥だ」

「否、あのクソ生意気な“百合”にも、ひと泡ふかせてやれるのだから、五鳥だて」

 

 ここでふと、隙間が生まれ、おずおずとした声が、

 

「あのダイヤ……作戦終了後に回収して宜しいですね?ウチの部署(セクション)の予算に」

「映像の版権は、こっちのものだよ?“店(メゾン)”とも話がついている]

 

 静かなしゃがれ声が、これら打算ずくな会話を圧し、

 

「ぬ(・)し(・)らも――悪役(ワル)よの」

 

 それに対し、いかにも太鼓もちのような甲ン高い声が応えて

 

「いえいえ、パウヱル次官補どのには、とても。とても」

 

 せまい機内に響く、密やかな笑い声……。

 

             ――――――――

 

 『九尾』は目を凝らした。

 レーダーを確認。彼方に細身の戦略爆撃機が単機。

 どことなく不吉なものを漂わせ、等速で移動している。

 曳航役のVTOL機に連絡。

 

「『九尾』より『カロン』――同高度で平航する爆撃機(ツポレフ)はナンです?」

《こちら『カロン』。今回の監督機だ。これから君には、演技2種を行ってもらう。腕がサビついていないか技(・)量(・)審(・)査(・)だ》

 

 そんな!と九尾は、またも涙目。

 今回は“飛ぶだけ”だと聞いていたのに。

 また「大人のペテン」に引っかかった予感。

 

 ――コレがあるから、探査院なんてものを完全に信用できないのよ!

 

 思わずVTOL機に文句のひとつでも言ってやろうと思ったが、辞めた。

 

 因縁(いんねん)のインメルマン・ターンを含んだ演技2種。

 前回は、この起動をミスって雲海に墜ちかかったのだ。

 今日、奇しくも同じ演技であるこの機動をクリヤすれば、ポイントの切り替えを通過して、同じところの堂々巡りから離脱できる……ような。

 

 ――大丈夫。自(・)分(・)の(・)方(・)か(・)ら(・)リ(・)ム(・)ジ(・)ン(・)を(・)離(・)れ(・)た(・)んですもの。

 

 あれがキッカケになればいい、と『九尾』は希(こいねが)う。

 

 上は蒼い空。

 下は一面の白い海。

 前方にVTOL機。

 すこし離れた位置に、4発の二重反転ペラを回す細身の高速爆撃機。

 そして――自分。

 

 世界の要素(エレメント)は、これだけ。

 目の前に浮かぶ3D計器やHUD。そんなものすら不要に思えるほどの、簡潔な、そして純粋な世界。

 全神経が己を“実存”させるための本能的な緊張。

 アドレナリンを放出する音まで聞こえるようで、気持ちいい。

 

 頭が――身体中が。

 スキッ、と研ぎ澄まされる感覚。

 

 上空をぐるりと見まわした時とき、月が、はるか高空に架かっているのを見る。

 

 ――あぁ……。

 

 角を持つ、鬣(たてがみ)を風にゆらした白馬たち。

 見慣れぬ形をした薫(かお)り高い草花。

 上空に浮かんでいた二つの衛星……。

 

 ふと、曳航役VTOL機の所属を思い出した『九尾』は仕返しとばかり、

 

「候補生『ポ……『九尾』より『カロン』へ!質問があります!」

《……『カロン』より『九尾』――質問を、許可する》

「質問!『第47強行偵察師団』ってご存知ですか?」

 

 沈黙があった。やがて、

 

《かつて存在した、特殊偵察航界グループの一派だ……いまは存在しない》

「部隊が発展・改変されたんですか?」

 

 また、沈黙。

 そしてイヤイヤながらといった風に、返答がやってきた。

 

《……部隊は“消滅”した。以上だ、『九尾』》

 

 無味乾燥に無線が途切れる。

 

 ――ちぇ、なによ。

 

 消滅した、って何のこと?と、彼は小首を傾(かし)げる。

 部隊は結局どうなったのか。ワケが分からない。

 このぶんでは『ホスロー』上級大佐のことなど、知っていても答えてはくれないだろう。

 ナニかあるわネ?とキナ臭い気配を感じつつ、キッ、とツポレフの方を見やる。

 

 VTOL機と、そのツポレフの交信が激しくなった気配。

 おそらく違法なものだろう。“奉天”に備え付けられた後付けチックな、古風ともいえる指針付きアナライザーが反応する。

 スケルチと操作ダイヤルを組み合わせれば盗聴できるのだろうが、雲海戦の前夜、あの一夜漬けで“奉天”のマニュアルを覚えた時、この機能は使わないだろうと判断して暗記をトバしたのだ――残念。

 

沈黙のうちに、小一時間がすぎた。

チャートでは、最大防衛識別ラインのはるか彼方まで来ている。

この先は、いくら飛行しても何もない。

白と青の、永遠の広がりがあるばかり。

 

 ややあって『カロン』から入電。

 

《『カロン』より『九尾』――演習空域到達。これより曳航索を解除する》

 

 『九尾』が諒解(りょうかい)、というのも待たず、VTOL機は索をパージした。

 ブースターに点火してあっという間に加速・上昇し、何かに警戒するように高度と距離をとる。

 

《よし、『九尾』。基礎演技2種――始め(ナウ)!》

 

 指令を聞き、彼は大きく一つ、深呼吸すると還元(リダクション)MODE・1へ。

 とたん、おぼえのある感覚。

 身体に浸み入るガラスの破片。

 キシキシ・ズキズキと体内神経を蹂躙(じゅうりん)する。

 

 しかし――どうしたことか。

 

 『ゾーロタ』と『シリブロ』のムチをおもえば、今回はそれもずいぶんとマイルドに思える。

「マゾヒスティックなメス」という人造の状態に変容した今、痛みは快楽に窯変(ようへん)し、以前と比べて積極的に被虐(ひぎゃく)を受け入れることができた。

 

 ――いいわ……イケる!

 

 さらに還元(リダクション)MODE・2へ移行するため、龍ノ口(センパイ)から直々に譲られた移行文言(コード・パス)をきれいなソプラノで叫ぶ。

 

 とたんに消える、ガラスのイガイガ感。

 

 粉砕され、皮膚を内側から突き破らんばかりだった破片は、スッ、と液状化し、身体は機体と同一になった。

 肉体の感覚が希薄化し、自身が浄化され――そして離脱する。

 

 視点が幽体離脱をするように、ゆっくりと移動。

 

 やがてガックリとうなだれ、G・スーツと自在アームでホールドされた自分の肉体を見下ろす位置に。

 あんな穢(ムサ)い容れ物に入っていたのか、と心ひそかにゲンナリ。

 解脱状態で自己(エゴ)をみれば……。

 

 ――なによ!……コレ!

 

 まるで小腸のデキ損ないを想わせる、腔腸動物めく生物。

 身体一面に取り憑いて、ウネウネと蠢き、すきあらば彼の自我に食い入り、侵食しようとする。

 おぞけをふるった『九尾』は、あわててパタパタと己(おのれ)をはたいた。

 

 すると――どういう具合だろうか。

 

 小腸を思わせるその存在は、雲母(うんも)のように硬化。

 キラキラと、脆(もろ)くもはがれ落ちてゆく。

 陽光の助けもあるのか、ひび割れ、剥落し、粉砕される“寄生存在”たち。

 叩けば叩くほど、細かい硝子(ガラス)のホコリのように、濛々(もうもう)と雲海に舞い落ちて。

 

 ――いやぁっ!気持ち悪ィ!ナンなのよコレ……。

 

 必死に自身を叩くうち、粉々となった蟲(むし)を、あらかた砕き堕とした。

 

 ――畜生……こんなのがまとわりついてたのか、クソったれめ!

 

 《『九尾』なにをしている。界面翼を展開――硬翼収納せよ》

 

 言われて我に返った彼は、ようやくあらかた寄生小腸をはたきおとして一息ついてから、ウン、と自己をもう一段希薄化する。

 

 周囲に認識を展開。

 

 事象劈開(へきかい)面をさぐり、自分の認識で、機体を支えようとする。

 ここら辺は事象面がおそろしいほどフラットで、なかなか歪(ひずみ)が見つからない。

 

 ――あった!でも……モロいなこれ。

 

 九尾は事象面のヒビにそって、自分の意識をのばす。

 いってみれば、それは岩登りをするときに適当な割れ目をみつけ、そこで自分の体をホールドして浮かせようとするようなものだ。

 違うのは、身体を浮かせるものが腕力や脚力ではなく、意思と認識力であるかの差に他ならない。

 

 ヨイせ!と、もうヒトガンバり。

 力みすぎて視界が赤く、頭がズキズキと痛んだ。

 

 感覚で、界面翼が3枚しか出せていないのが――何となく分かる。

 これでは巨大な“奉天”の機体を支えるにあたって、とても足りない。

 

 ――くそっ!せめて、あと一枚……。

 

 《『カロン』より『九尾』。翼(よく)の展開を急げ!2枚と半分しか出ていないぞ》

 

 ――うそぉぉぉ!3枚出てると思ったのに!

 

 いっぱいいっぱいになりながら、彼は認識力を広げようとする。

 どうにか形だけでも4枚だせたところで、すでに脳疲労がMAX。

 ヘロヘロな意識操作で“奉天”の硬翼を後退させ、可変翼めく動きでウィング・ベイに収納。

 界面翼だけとなった機体の動きが、さらにフラフラと心もとなくなって。

 

             ――――――――

 

「大丈夫なのかな、コイツは……“1級”ってホントか?」

 

 機内から、低く失笑する気配。

 

「なんだ?なにか――わたしは可笑しいコト言ったかね?」

「……そうか、君は“あの映像”を観ていないのだったナ」

「と、おっしゃいますと?七つのヴェールの舞いなら……」

「ちがぁう。9.10雲海戦の映像だよ」

「まぁご覧アレ、だ。面白いコトになるから」

「しかし、キミ。それでは当初の目的が……」

「大丈夫。界面翼システムには手をいれてある。翼(よく)は、形成されない」

「万一にそなえ、先導機にも武装をさせておるぢゃないか」

 

 まぁ見ていたまえ、と座を取り仕切るきわめて高齢の事務次官補は、ふたたび機外の外へまぶしそうに眼差(まなざ)しをむけた。

 

             ――――――――

 

「こちら『九尾』。ただいまより規定機動を開始する」

《『カロン』諒解。機内時間1505、レコード開始……》

 

 ふぅ、と彼は機体の外で意識体のまま、息をつく。

 

 ――よぅし……やるか!

 

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