その『アリス』も便意のガマンが、もう限界らしい。
ボールギャグを噛みしめた唇をわななかせ、全身に脂汗をかいて、いやらしいボンデージ・スーツに拘束された腹ボテ気味の身体をブルブルと震わせている。
『成美』の方は、ハリもツヤも最高な己の豊かなオッパイを金髪がやさしく愛撫し、首筋をレスボス特有の調子で甘噛みされていた。銀髪のほうは、前後を責められる彼女のエッチなツボを、ペンシル型の高圧パルスでリズミカルにいぢめて果てがない。
女のツボを
もはや完全に“『成美』”となった『九尾』の中で、最後のタガがはずれてしまう。
「シテッ!――お姉ェさま!『成美』を!……恥知らずな淫乱人形に……してぇぇぇぇぇぇぇえッ!」
ついに『九尾』は……堕ちた。
愛液のほとばしりが飛沫き、ガクガクと“彼女”の身体が震える。
同時に『成美』の胎内で金と銀とのディルドーに仕込まれた擬似精液が放たれた。
身体のなかを無情に、そして暖かく犯してゆく罪の意識――
ホホホホホホホホ………ホホホホホホホホ…………。
手の甲に口をあて、哄笑も高らかに黒髪が勝利宣言めいて身をのけぞらす。
「イったわね?それじゃ、バツとして、この『
「イヤッ!ウンチは嫌ァァア――!!!」
お慈悲を!と叫ぶ『成美』にはお構いなく“彼女”の全身にハーネス状の拘束具がヒシヒシとつけられてゆく。そして最後にはアリスのひりだすであろう予測放物線上に、金銀は両脇から『成美』を押さえ込んだ。
「さァァて!It’s show time~♪」
黒髪は『アリス』のおまたに食い込んでいたボンデージ・スーツのクロッチ部をはずす。そしてシュウっ!と、彼女の肛門のなかで広がっていたバルーンの空気を抜いた。
元・OLの顔が絶望に染まり観念したように目が閉じられる。
ぬぬぬぬぅぅぅぅっッッ……!と彼女の肛門から、プラグがゆっくりと引きぬかれて。
それを待ちきれぬように、プスッ……シューッ……と注入された空気が自由の喜びをあげる。
「そら、ハデにヒリだしちゃいな!」
プラグの末端がヌプッ!と抜かれるや、一呼吸おいたあと、
ビチッ!!ビジジジジッ!ぶりゅりゅりゅ!……ぷすーぅぅぅ……びちちちちchしちち!!ィィィッ!!!!
茶色い
「いやぁぁぁぁぁあっぁ!!お食事中の皆様すみませぇぇえん!」
汚物を浴びて絶叫しながら身もだえする『成美』。
両側からクスクスと金銀がそれら黄金シチューを彼女の体に塗り伸ばし、あろうことか自分たちも汚物をすくってペチャペチャと食べている。そして直接アリスの肛門からすくい取ったシチューを、『成美』の口に押し込んだ。
――イヤぁッ!汚い!あたし、とうとうウンチを食べちゃうなんて……なんて屈辱なの!?こんな甘くてホロ苦……い?
ホホホホホホホホ………ホーホホホホホホホ…………!
またも勝ち誇ったような黒髪の哄笑。
「驚いた?コレは
「ヒャッハー!ダマされてやんの」
銀髪が茶色い指をしゃぶりながら嬉しそうに。
金髪も、妹分のほおについた煮物をなめ取りながら、
「いくら私たちでも、モノホンの
「そんな……またムダな知識が……って、そもそもこんなの書いたら、作者の
珍歩(そーだ!そーーだ!!)
「アラ!あたし達だって、本当はこんな事、したくありませんのよ!?だいたい大学の授業料払うためにしかたなく“珍歩意地郎”なんてフザけた
「イイかげんつかれるンだよねぇ……キチ○イのフリもしなきゃなンないしさぁ……」
作者!時給あげてよね、と調教役の
「ハイハイ!あなたたち!」
黒髪がパンパンと手を叩きながら、
「お話進めるわよ?だいたい作者は今日だって休日出勤してヘロヘロで、ようやく帰宅したと思ったら、シャンパンとブランデーの勢いで、こんなワケわからない展開になってるんだから。これ以上ワガママ言ったら、あたしたちまで
すると、銀髪がスネたような口調で、
「……いいよなぁ、おネェさまは新婚で」
つづいて金髪も自分と『成美』から
「ラブラブなんですってねェ?夜のご奉仕は
なっ――バカ言いなさい!と顔を赤くしながら黒髪は、ヒュパァン……ッ!とムチを鳴らす。
すると、その音に導かれたかのように、フロアのうす暗い方から、いやに大型の楽器ケースが、キリ……キリ……キリ……とジョン・カーペンターの映画よろしく自走してきた。
「さ、お話を進めますよ!?早く『
ヤレヤレ、という顔で金髪と銀髪は拘束をといた元・OLを両側から抱え込む。
悪夢の器械じみた、
『アリス』の顔から血の気が引く。
無理もなかった。
なかにはひとがたにくり抜かれた狭い空間に、ビッチリとしつらえられたカテーテルやバイブ付きのパッド。淫猥な色合いをした数々の責め具。黒く凶々しいフレキのホースやサージカル・ステンレスの
それらが哀れな犠牲者を今や遅しと待ちかまえている。
ヒトを単なるメスに。
それも淫らきわまりない、
快楽のことしか頭にうかばない、
ただの哀れな奴隷人形にしてしまう繭……。
「
しかし金と銀とは容赦をすることがなかった。
『アリス』を拭き清めてM字開脚に拘束しなおすと、その豊尻を、仕掛け等が満載なコンバス・ケースの座部にある、さらに太いアヌス・プラグへ導いて、ぬぬぬぬぅぅぅッ……と安置する。
ゆるみきった彼女の肛門は、すんなりそのプラグを呑み込んでしまい、尻は底部の拘束バンドに固定された。
「ふんぐぅぅぅっ!」
カチャカチャと拘束されてゆく脚と足首。腰まわり。
(んぅぅぅぅ――ッッッ!!)
鼻声をつかった弱々しいアリスの抗議と悲鳴。
最後にビクンっ!とからだが震えて。
おそらくバルーンがそのとき
だが、彼女の身もだえなど意に介さず、黒髪、そして金と銀との悪魔トリオは、
拘束した両腕をコンバス・ケースの所定場所に収めるや、次にゴム手をハメた指に同じゼリーをなすりつけた銀髪の指が、苛々とアリスの前を襲う。
「!!!!――!!」
抵抗するものの、たちまちクスリの効果で、二本の指の蹂躙にされるがままとなる元・OL。は腰を振って逃れようとするが、コンバス・ケースの座面に固着された豊尻は、ピクリとも動かせない。
「調教場に行ったら、ここもレーザー脱毛しようネェ」
飾り毛をグイと引っ張る銀髪が、手ひどく栗色の茂みをひっぱった。
「
乳輪と乳首を弱電流とともに
やがて――すこし前までごく普通のOLだった彼女は、非情にも
(アナタはマゾ……マゾ……マゾ……)
(虐められて“おまた”を濡らしてしまうヘンタイ女……)
(うゥぅン?もはや女ですらないの……そう、人間ですらない……)
(たんなるマゾの奴隷人形。ご主人様専用の哀れなオナニー・ドール……)
(イヤらしいオ〇ンコ穴とオシリの穴に、いつも何か容れていたくて仕方ないメス奴隷……)
眼球にモニター型コンタクト・レンズを載せられた彼女は、のど奥まで呼吸用のホースが差し込まれ、声を封じられる。腕のつけ根の拘束がコンバス・ケースの背面に上半身を固定し、首輪がダメを押して。
そしてとどめには、コンバス・ケースの車輪にクランク仕掛けで連動するディルドーが、彼女の膣に収められる……。
そんな、次々とヒワイな装具が元・OLに襲いかかる光景を目の当たりにして、黒髪にボンデージ・ハーネスを付けられつつある『九尾』は、かつて
すべての支度が終わると金髪は、ピン・マイクを手にニンマリとした笑みを浮かべて、
「それじゃぁ、しばらく我慢してね?このフタがもういちど開いたとき、
「おごぉぉほぉぉ――!!」
ズッ、とパッキンのついたケースの蓋が重々しく閉ざされた。
バチン、バチン!と音高くリッドが閉じられ、呼吸用のファンがスタート。
『成美』のほうは、改めてヴァギナとアナルに性具を深々と挿入され、金属の貞操帯でその上から固定された。さらに後ろ手に手錠をつけられ、全裸にボンデージ・ハーネスといった姿を、ふんわりと毛皮のコートを羽織らされて、みじめに歪んだ淫らなボティを人目から隠される。
「はいコレ」
アリスが付けられたデイルド―状のボール・ギャグと同じものを『成美』も
「これはアリスちゃんの首輪につけた
コクリ、とうなずく『成美』の耳に『アリス』の声。
(ふーッ……ふーッ……おシリが……おマ○コがアツいよう……あぁイクッ!またイッ、ちゃぅ!ぅぅゥゥゥゥ……ッ!!)
出発の準備は整った。
『成美』も首輪を付けられ、下腹部の振動に耐えつつピンヒールでヨロヨロと歩き出す。
コンバス・ケースも三人に合わせて自律モードで動き出した。車輪の動きに連動するディルドーの責めに耐えかねて(うんッ……うんッ……くふぅ……ッ!)と『アリス』のよがり声もイヤホンから。
一団がエレベーター・ホールに出たとき、一基の扉が開いて、中からビジネス・スーツをピシリと着込んだ女性が箱からでてきた。
洗練された、冷たい都会の女の印象。
品のいい
そこにはいつぞやVIP席で泣きうなだれていた弱々しい印象はない。
――涼子さん!
責め具に苛まれながら、『成美』は心の中で叫ぶ。
メゾン・ドールで接待した三十路の美女。
表面は気を張っているが、そのじつ弱いメンタルをもつ女社長。
だがいま向かい合った彼女は、『成美』からただよう“女の
次いで毛皮を羽織らされた『成美』の下が黒革のハーネスで縛められた全裸であることを、コートの合わせ目のわずかな隙間から見て取ったらしい。それでなくても首輪からのびたリードを黒髪に
(あぁッ、社長!……アタシはココです!助けてください……アタシ、誘拐されちゃいます……助けて……ッ!メス人形にされちゃうゥゥ!あッ!いやッ!……オッパイが――オッパイが、気持ち――イイィィっッ!)
コンタクトレンズ型のモニターから外の映像を見たのか、ケースの中で『アリス』がはげしく
涼子社長の眼は『九尾』と扇情的なボンデージ・スーツを着た三人に、等分な形で注がれるや、
「――下品ね」
吐き捨てるようにそう呟きつつ、彼女は香水の匂いをフワッ、と引きながら一団のわきを通り過ぎてゆく。自分の会社の社員が目の前の大きな楽器ケースに格納され、調教を受けながら喘ぎつつ、助けを呼んでいるのも知らずに……。
その後姿を見送りながら、エレベーターに入ると、黒髪が、
「あの子もイイわね……ひとつ、段取りしましょうか……」
一行は狭いエレベーターにギュウギュウとなって入る。
チン、と音を立て、箱の扉がユックリとしまった……。
…………。
※
「あの――なにか?」
ハッ、と『九尾』は気づいた。
あたりを見回せば、そこは前と変わらぬ、古ぼけたオフィスビルのフロア。
我にかえれば、自分は航界士候補生の制服を着たまま、相手から差し出された名刺を手にボンヤリと佇んでいるのである。
「――あ……ぃぇぃぇ」
『九尾』はハンカチを取り出し、汗をぬぐった。
ほんのひと時のあいだ、因縁のおんなたちに女性化され、なおかつ目の前のOLを奴隷人形に調教していた、などという妄想が恥ずかしく、いたたまれない。
なにやらショーツ……ではない、パンツも濡れている気配。
――まだ洗脳の効果が残っているのかな……いやらしい!
『九尾』は、そう考えつつ受け取った名刺をしまった。こうなれば自身の方も、覚悟を決めて出さねばならない……。
彼から名刺を受け取った女性社員は、
「瑞雲校・航界士候補生、しかも[一級]でいらっしゃる……『九尾』さま?当社の社長にご伝言でしたら、何か申し伝えましょうか?」
彼はもう一度、ブラインドの隙間から忙し気に働く人々を眺めた。
いや――もう十分、と彼は思う。
――みんな、精いっぱい頑張って、なんとか生きてる。
普通の人が見れば、たんなる年末の修羅場だが、そのときの彼には、何か
「死人が、生きてる人の邪魔をしても悪いし、ね……」
「なにか――?」
相変わらず妙な顔をする女性社員に、
「涼子さん――社長
「……ありがとうございます。伊都宇もきっと喜びますわ?」
では、と『九尾』は、ビシリ!
一分のスキもない敬礼をして相手の女性と別れる。
静かなフロアをエレベーター・ホールに向けて歩いてゆくと、行く手から女性が秘書兼カバン持ちとも見える少女を伴い、何事か
(やりましたね!融資の件)
(アナタを連れてってよかったわ、あのロリ信金屋が)
(わたし、ガンバりました!オッパイ大きいのが役に立ったの初めてです!)
(よく
明るい顔でそこまで言ったとき、シャネルのスーツを着るその女性は、行く手の『九尾』に気づくと、決まり悪げに口を閉じる。
――涼子さんだ……。
驚いた。
先ほどまでの妄想で見た通りの姿が、少女といってもいいくらいの部下をしたがえて通路からやってくる。
五色鶸で泣いて
やがて
(カワイイ子ですね♪社長)
(――
そんなやり取りを背後で聞きながら、『九尾』は二人が乗ってきたエレベーターで降り、雑居ビルを後にする……。
――――――――
「ダメぢゃないの
「てへへ……」
ちょうど奥から疲れた顔をした“玉ナメ
「あぁ、社長!ちょうど良かったですね。お会いになりました?いまのカワイイ候補生さん」
「え……あの子ウチに用があったの?何も言わなかったけど……」
眉をひそめた社長は、渡された名刺をみて二度ひそめる。
「――航界士・候補生……それも「一級」?あのコが?」
「ご存知の方じゃないんですか?社長を名指しで“応援してます”って」
知らないわ?と渡された名刺をしまいながら、でもヘンね?と首を傾げ、
「どこかで会ったような気が……しないでもないの」
しばらくそのまま考えていたが、やがて吹っ切るように、
「マァいいか!さ、仕事・仕事!――もうひと頑張りよ!?」
――――――――
自販機で飲み物を買い、『九尾』は往来にほど近い公園のベンチに腰を下ろした。
都会の騒音が「ゴウッ」という一大混成となって、たそがれの候補生を包む。
先ほどのアヤしい幻想の印象は、彼のなかで無水エタノールが蒸発するように退いてゆき、もはやあとかたもない。いまは幾分はだ寒い夕暮れの景色の中で、ポツンと孤独を感じるだけである。
――いよいよ“銭ゲバ”どもの世界を守るために犠牲となるか……。
いままで通り過ぎてきた試練が、
メゾンでみた権力者や成金どもの風体。
少年を食い物とする婦人や年若い淑女。
ふつうの人間を奴隷人形と化す調教師。
己の歪んだ妄想を嬲る特権階級の人々。
――あんなヤツらのために……。
冷えた手を硬くにぎりしめ、彼はこころざし半ばで散っていった者たちのことを想う。
いまさら身を犠牲にするのに文句は言わない――というか、もうあきらめている。ただ、贅沢な晩餐で肥え太り、唇を脂でツヤツヤさせるブタどものために死ぬのは、残念だった。せめて“死にがい”のある舞台が用意されていれば、少しは違うのだろうが……。
航海士たちの守るものが、命をかけるに値しないクソ社会と分かったいま、味気ない想いを抱えて死んでゆくのかと憮然としつつ、彼は虚ろな眼で公園に沿う通りをながめた。
さまざまな人々が、目の前を通り過ぎてゆく。
学生。
若夫婦。
リーマン。
こども連れ。
早足の若い女性。
ジョギングする中年。
携帯で痴話ゲンカのチャラ
そして形を変え老人――老人――老人。
いろいろな人が、いろいろな姿で通り過ぎる。
思い思いの顔つきで。そして思い思いのスピードで。
自分が雲海に消えても、この営みは変わらずに続くだろう。
まるで『九尾』などという存在は、最初から居なかったかのように。
(あ、ひこーきのりの
ふと甲高い声が呆然とした『九尾』の横顔に突き当たった。
声の方を見ると、母親に手を引かれた幼稚園児が、ニコニコしながら彼の方を指さしていた。
(ユーくん、ひとを指さしちゃいけません。お兄ちゃんかもしれないでしょ?)
(え~おネェちゃんだよぅ!)
おぼえず『九尾』は『成美』の
脱洗脳を受けたとはいえ、抜き去りがたく身体に刷りこまれた蠱惑的な牝の風情。
(――ほらぁ!おネェちゃんだァ!)
幼稚園児は、そのままトタトタと公園の茂みに近づくと、小さな花をひとふさ折りとり、失意の候補生に走り寄るや、
「おネェちゃん!――ハイ!」
「まぁ……ありがと、ぼうや」
おどろいたことに、フツーに女声が出た。『成美』の声そのままに。
“彼女”は子供の頭をやさしくなでる。
「お名前は?なんていうの?」
「さとうゆーご!すずらんぐみ!ろくさいです!」
「まぁ……おりこうさんねぇ」
幼稚園児は褒められたことに照れたのか、ペコリとあたまを下げ母親のもとに去ってゆく。母親も『成美』にむかい一礼し、やがて親子は連れ立って公園を出ていった。
手もとにのこる小さなひと房が無ければ、いまの出来事がまた自身の妄想によって作り出した幻覚と『九尾』に戻った彼は考えただろう。
小さな花は、かぐわしい香りを放っていた。
――沈丁花……。
ひめやかに、寄り添うような匂い。
金木犀のような押しつけがましい下品な臭いではなく、あくまでも涼やかな気配。それが彼の硬くしびれたような胸を
――そうか……。
じんわりと『九尾』は悟った。
――なにもこの事象面を守るのは“ゼニゲバ”たちのためじゃない。ああいった無辜の親子を救うために己の命を犠牲にすると考えれば、それでイイじゃないか。どうせ人間なんで100年も生きないんだ。次から次へと現われ――そして、どこかへと消えてゆく。ホンのひとときの時間。むしろ命の使いどころがあるだけマシさ……。
ふいに彼の胸はひろびろと清々しくなる。
どうやら自分は世界の汚い面ばかり観すぎたようだと悟った。いつのまにか、視野がせまくなっていたようでもある。ベンチの背もたれを利用して背骨をのけぞらせ、夕暮れの空を視界いっぱいに見上げて彼はいくぶん早めに“消えてゆく番”となった自分の身を想う。
それは――不思議な感覚だった。
それまでの
もっと透明で、
この世の務めを終えて消えてゆくということが、
ポケットに入れたプレゼント。その艶やかな包みをコートの中で
ただ、自分が死んだら、ぜんぶ貯金は国庫に収納されてしまうだろう。それぐらいなら、やはり全財産を“意中の”相手に渡したほうがいい。
このように考えれば、やはり今回の行動は正しいワケだ。いや、もしかしたら、心のどこかでは最初からそれを目的としていたのかもしれない。
――16年という人生だったけど……。
まぁ、いいかと彼は思う。
「勝ち組」人生とか「負け組」人生とか、そんなものはない。
ただ“人生”があるばかりさ。
『九尾』は航界士用の腕時計を見る。
複雑なダイヤルは、夜の始まりを示していた。
「……いい時間だ」
彼はそう