※この作品はR-18です。

玲瓏の翼【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

87 / 117
065:光散乱めいた間奏曲(Ⅰ)-β/Ver.Ⅱ【楽屋落ちエロエロ18禁版】後

 

 

 その『アリス』も便意のガマンが、もう限界らしい。

 ボールギャグを噛みしめた唇をわななかせ、全身に脂汗をかいて、いやらしいボンデージ・スーツに拘束された腹ボテ気味の身体をブルブルと震わせている。

 

 『成美』の方は、ハリもツヤも最高な己の豊かなオッパイを金髪がやさしく愛撫し、首筋をレスボス特有の調子で甘噛みされていた。銀髪のほうは、前後を責められる彼女のエッチなツボを、ペンシル型の高圧パルスでリズミカルにいぢめて果てがない。

 女のツボを識(し)りつくした金銀から嬲られることしばらく。

 もはや完全に“『成美』”となった『九尾』の中で、最後のタガがはずれてしまう。

 

「シテッ!――お姉ェさま!『成美』を!……恥知らずな淫乱人形に……してぇぇぇぇぇぇぇえッ!」

 

 ついに『九尾』は……堕ちた。

 

 愛液のほとばしりが飛沫き、ガクガクと“彼女”の身体が震える。

 同時に『成美』の胎内で金と銀とのディルドーに仕込まれた擬似精液が放たれた。

 身体のなかを無情に、そして暖かく犯してゆく罪の意識――悖徳(はいとく)の想い。

 

 ホホホホホホホホ………ホホホホホホホホ…………。

 

 手の甲に口をあて、哄笑も高らかに黒髪が勝利宣言めいて身をのけぞらす。

 

「イったわね?それじゃ、バツとして、この『アリス(メス)』のウンコを浴びてもらいましょうか……」

「イヤッ!ウンチは嫌ァァア――!!!」

 

 お慈悲を!と叫ぶ『成美』にはお構いなく“彼女”の全身にハーネス状の拘束具がヒシヒシとつけられてゆく。そして最後にはアリスのひりだすであろう予測放物線上に、金銀は両脇から『成美』を押さえ込んだ。

 

「さァァて!It’s show time~♪」

 

 黒髪は『アリス』のおまたに食い込んでいたボンデージ・スーツのクロッチ部をはずす。そしてシュウっ!と、彼女の肛門のなかで広がっていたバルーンの空気を抜いた。

 元・OLの顔が絶望に染まり観念したように目が閉じられる。

 ぬぬぬぬぅぅぅぅっッッ……!と彼女の肛門から、プラグがゆっくりと引きぬかれて。

 それを待ちきれぬように、プスッ……シューッ……と注入された空気が自由の喜びをあげる。

 

「そら、ハデにヒリだしちゃいな!」

 

 プラグの末端がヌプッ!と抜かれるや、一呼吸おいたあと、

 

 ビチッ!!ビジジジジッ!ぶりゅりゅりゅ!……ぷすーぅぅぅ……びちちちちchしちち!!ィィィッ!!!!

 

 茶色い飛沫(しぶき)が『成美』の胸に、首筋に、腹に、襲いかかった。

 

「いやぁぁぁぁぁあっぁ!!お食事中の皆様すみませぇぇえん!」

 

 汚物を浴びて絶叫しながら身もだえする『成美』。

 両側からクスクスと金銀がそれら黄金シチューを彼女の体に塗り伸ばし、あろうことか自分たちも汚物をすくってペチャペチャと食べている。そして直接アリスの肛門からすくい取ったシチューを、『成美』の口に押し込んだ。

 

 ――イヤぁッ!汚い!あたし、とうとうウンチを食べちゃうなんて……なんて屈辱なの!?こんな甘くてホロ苦……い?

 

 ホホホホホホホホ………ホーホホホホホホホ…………!

 

 またも勝ち誇ったような黒髪の哄笑。

 

「驚いた?コレは擬似(ダミー)ウンチよ!カボチャの煮物にココア・パウダーを混ぜて作ってあるの。スカトロAV撮影などで使われるのと同じものなのよ」

「ヒャッハー!ダマされてやんの」

 

 銀髪が茶色い指をしゃぶりながら嬉しそうに。

 金髪も、妹分のほおについた煮物をなめ取りながら、

 

「いくら私たちでも、モノホンの雲古(うんこ)を浴びたくはありませんわ?それに今日の昼、この女に支給された仕出し弁当にグリセリンを混ぜてさんざん下痢(ゲリ)をさせておいたの。ですから腸のなかもキレイさっぱり、というわけ」

「そんな……またムダな知識が……って、そもそもこんなの書いたら、作者の性癖(せいへき)が疑われるんですけど!?」

 

 珍歩(そーだ!そーーだ!!)

 

「アラ!あたし達だって、本当はこんな事、したくありませんのよ!?だいたい大学の授業料払うためにしかたなく“珍歩意地郎”なんてフザけたPN(ペンネーム)の作品に出てるんですから!」

「イイかげんつかれるンだよねぇ……キチ○イのフリもしなきゃなンないしさぁ……」

 

 作者!時給あげてよね、と調教役の金髪(ゾーロタ)と銀髪(シリブロ)は画面の向こうからキッとにらむ。

 

「ハイハイ!あなたたち!」

 

 黒髪がパンパンと手を叩きながら、

 

「お話進めるわよ?だいたい作者は今日だって休日出勤してヘロヘロで、ようやく帰宅したと思ったら、シャンパンとブランデーの勢いで、こんなワケわからない展開になってるんだから。これ以上ワガママ言ったら、あたしたちまで人形(ドール)にされてしまいますよ!?」

 

 すると、銀髪がスネたような口調で、

 

「……いいよなぁ、おネェさまは新婚で」

 

 つづいて金髪も自分と『成美』から擬似(ダミー)ウンチをぬぐいつつ、

 

「ラブラブなんですってねェ?夜のご奉仕はラノベ(ここ)での知識、生かしてるのではなくて?」

 

 なっ――バカ言いなさい!と顔を赤くしながら黒髪は、ヒュパァン……ッ!とムチを鳴らす。

 

 すると、その音に導かれたかのように、フロアのうす暗い方から、いやに大型の楽器ケースが、キリ……キリ……キリ……とジョン・カーペンターの映画よろしく自走してきた。

 

「さ、お話を進めますよ!?早く『アリス(その子)』を格納なさい!」

 

 ヤレヤレ、という顔で金髪と銀髪は拘束をといた元・OLを両側から抱え込む。

 悪夢の器械じみた、あ(・)の(・)コントラバス・ケースが口をあけた。

 『アリス』の顔から血の気が引く。

 無理もなかった。

 なかにはひとがたにくり抜かれた狭い空間に、ビッチリとしつらえられたカテーテルやバイブ付きのパッド。淫猥な色合いをした数々の責め具。黒く凶々しいフレキのホースやサージカル・ステンレスの冽(つめ)たい輝き。

 それらが哀れな犠牲者を今や遅しと待ちかまえている。

 

 ヒトを単なるメスに。

 それも淫らきわまりない、

 快楽のことしか頭にうかばない、

 ただの哀れな奴隷人形にしてしまう繭……。

 

「おごぉっ(いやぁッ)!?」

 

 しかし金と銀とは容赦をすることがなかった。

 『アリス』を拭き清めてM字開脚に拘束しなおすと、その豊尻を、仕掛け等が満載なコンバス・ケースの座部にある、さらに太いアヌス・プラグへ導いて、ぬぬぬぬぅぅぅッ……と安置する。

 ゆるみきった彼女の肛門は、すんなりそのプラグを呑み込んでしまい、尻は底部の拘束バンドに固定された。

 

「ふんぐぅぅぅっ!」

 

 口枷(ボールギャグ)の奥で『アリス』が悲鳴をあげたのは、またもアヌス・プラグが直腸の奥でひろがった証だろうか。

 

 カチャカチャと拘束されてゆく脚と足首。腰まわり。

 

 塩酸リドカイン(麻酔)のゼリーを塗ったバルーンつき・カテーテルが、滅菌済みの手袋をつけた金髪によって、彼女の肉芽の下あたりにある小さな穴に、クイクイと吸い込まれてゆく。

 

(んぅぅぅぅ――ッッッ!!)

 

 鼻声をつかった弱々しいアリスの抗議と悲鳴。

 最後にビクンっ!とからだが震えて。

 おそらくバルーンがそのとき膀胱(ぼうこう)で膨(ふく)らまされ、バイブの振動が始まったのだろう。

 だが、彼女の身もだえなど意に介さず、黒髪、そして金と銀との悪魔トリオは、鬼畜(きちく)の所業(所業)をゆるめない。

 拘束した両腕をコンバス・ケースの所定場所に収めるや、次にゴム手をハメた指に同じゼリーをなすりつけた銀髪の指が、苛々とアリスの前を襲う。

 

「!!!!――!!」

 

 抵抗するものの、たちまちクスリの効果で、二本の指の蹂躙にされるがままとなる元・OL。は腰を振って逃れようとするが、コンバス・ケースの座面に固着された豊尻は、ピクリとも動かせない。

 

「調教場に行ったら、ここもレーザー脱毛しようネェ」

 

 飾り毛をグイと引っ張る銀髪が、手ひどく栗色の茂みをひっぱった。

 

「膣(ヴァギナ)もいろいろ手術して“名器”にしなきゃ」

 

 乳輪と乳首を弱電流とともに苛(さいな)むイボ付きの回転ローターが双の丘の頂に接着され、勃起チクビを責め立てる。

 やがて――すこし前までごく普通のOLだった彼女は、非情にも恵まれた体(ワガママ・ボディ)をコントラバス・ケースのなかで完全に拘束される。耳には、洗脳・誘導音声が静脈に点滴される薬液効果とシンクロして流れるイヤホンを挿入され、その上から脳波をコントロールするヘルメットがきつく被せられた。

 

 (アナタはマゾ……マゾ……マゾ……)

 (虐められて“おまた”を濡らしてしまうヘンタイ女……)

 (うゥぅン?もはや女ですらないの……そう、人間ですらない……)

 (たんなるマゾの奴隷人形。ご主人様専用の哀れなオナニー・ドール……)

 (イヤらしいオ〇ンコ穴とオシリの穴に、いつも何か容れていたくて仕方ないメス奴隷……)

 

 眼球にモニター型コンタクト・レンズを載せられた彼女は、のど奥まで呼吸用のホースが差し込まれ、声を封じられる。腕のつけ根の拘束がコンバス・ケースの背面に上半身を固定し、首輪がダメを押して。

 そしてとどめには、コンバス・ケースの車輪にクランク仕掛けで連動するディルドーが、彼女の膣に収められる……。

 

 そんな、次々とヒワイな装具が元・OLに襲いかかる光景を目の当たりにして、黒髪にボンデージ・ハーネスを付けられつつある『九尾』は、かつて己(おのれ)が“繭(コクーン)”に封入されたとき受けた拘束が、自分の考えていたよりも相当きびしく、そして容赦の無いものであったことを、このときマザマザと思い知る。

 

 すべての支度が終わると金髪は、ピン・マイクを手にニンマリとした笑みを浮かべて、

 

「それじゃぁ、しばらく我慢してね?このフタがもういちど開いたとき、貴女(あなた)は立派なマゾのメス人形よ……?」

 

「おごぉぉほぉぉ――!!」

 

 ズッ、とパッキンのついたケースの蓋が重々しく閉ざされた。

 バチン、バチン!と音高くリッドが閉じられ、呼吸用のファンがスタート。

 『成美』のほうは、改めてヴァギナとアナルに性具を深々と挿入され、金属の貞操帯でその上から固定された。さらに後ろ手に手錠をつけられ、全裸にボンデージ・ハーネスといった姿を、ふんわりと毛皮のコートを羽織らされて、みじめに歪んだ淫らなボティを人目から隠される。

 

「はいコレ」

 

 アリスが付けられたデイルド―状のボール・ギャグと同じものを『成美』も咥(くわえ)えさせられ、上からマスクで覆われた。そのあとはイヤホンを耳に装着。

 

「これはアリスちゃんの首輪につけた喉頭(こうとう)マイクと繋がってるわ、猿轡をハメられてもAIが自動翻訳してくれるから、言ってることは分かるハズよ?あの子が苦しそうにしてたら、教えて頂戴(ちょうだい)」

 

 コクリ、とうなずく『成美』の耳に『アリス』の声。

 

 (ふーッ……ふーッ……おシリが……おマ○コがアツいよう……あぁイクッ!またイッ、ちゃぅ!ぅぅゥゥゥゥ……ッ!!)

 

 出発の準備は整った。

 

 『成美』も首輪を付けられ、下腹部の振動に耐えつつピンヒールでヨロヨロと歩き出す。

 コンバス・ケースも三人に合わせて自律モードで動き出した。車輪の動きに連動するディルドーの責めに耐えかねて(うんッ……うんッ……くふぅ……ッ!)と『アリス』のよがり声もイヤホンから。

 

 一団がエレベーター・ホールに出たとき、一基の扉が開いて、中からビジネス・スーツをピシリと着込んだ女性が箱からでてきた。

 

 洗練された、冷たい都会の女の印象。

 品のいい化粧(メイク)と装身具――香水。

 

 そこにはいつぞやVIP席で泣きうなだれていた弱々しい印象はない。

 

 ――涼子さん!

 

 責め具に苛まれながら、『成美』は心の中で叫ぶ。

 メゾン・ドールで接待した三十路の美女。

 表面は気を張っているが、そのじつ弱いメンタルをもつ女社長。

 

 だがいま向かい合った彼女は、『成美』からただよう“女のモノ(愛液)”の気配を嗅ぎ取ったのか、かすかに鼻をひくつかせ、その美しい眉をひそめる。

 次いで毛皮を羽織らされた『成美』の下が黒革のハーネスで縛められた全裸であることを、コートの合わせ目のわずかな隙間から見て取ったらしい。それでなくても首輪からのびたリードを黒髪に曳(ひ)かれているのだ。そしてホンの数mへだてた黒い大型楽器ケースの中では彼女の部下が、全身の穴という穴に淫らな装具を挿入され、性をむさぼることしか出来ない恥知らずの肉人形に、いましも改変されている最中なのである。

 

(あぁッ、社長!……アタシはココです!助けてください……アタシ、誘拐されちゃいます……助けて……ッ!メス人形にされちゃうゥゥ!あッ!いやッ!……オッパイが――オッパイが、気持ち――イイィィっッ!)

 

 コンタクトレンズ型のモニターから外の映像を見たのか、ケースの中で『アリス』がはげしく悶(もだ)える気配。だが、防音と振動遮蔽、なにより調教拘束が完璧なので、彼女の煩悶が楽器ケースのそとに洩れ伝わることはなかった。

 

 涼子社長の眼は『九尾』と扇情的なボンデージ・スーツを着た三人に、等分な形で注がれるや、

 

「――下品ね」

 

 吐き捨てるようにそう呟きつつ、彼女は香水の匂いをフワッ、と引きながら一団のわきを通り過ぎてゆく。自分の会社の社員が目の前の大きな楽器ケースに格納され、調教を受けながら喘ぎつつ、助けを呼んでいるのも知らずに……。

 

 その後姿を見送りながら、エレベーターに入ると、黒髪が、

 

「あの子もイイわね……ひとつ、段取りしましょうか……」

 

 一行は狭いエレベーターにギュウギュウとなって入る。

 

 チン、と音を立て、箱の扉がユックリとしまった……。

 

 

 …………。

 

※

 

「あの――なにか?」

 

 ハッ、と『九尾』は気づいた。

 あたりを見回せば、そこは前と変わらぬ、古ぼけたオフィスビルのフロア。

 我にかえれば、自分は航界士候補生の制服を着たまま、相手から差し出された名刺を手にボンヤリと佇んでいるのである。

 

「――あ……ぃぇぃぇ」

 

 『九尾』はハンカチを取り出し、汗をぬぐった。

 ほんのひと時のあいだ、因縁のおんなたちに女性化され、なおかつ目の前のOLを奴隷人形に調教していた、などという妄想が恥ずかしく、いたたまれない。

 なにやらショーツ……ではない、パンツも濡れている気配。

 

 ――まだ洗脳の効果が残っているのかな……いやらしい!

 

 『九尾』は、そう考えつつ受け取った名刺をしまった。こうなれば自身の方も、覚悟を決めて出さねばならない……。

 彼から名刺を受け取った女性社員は、

 

「瑞雲校・航界士候補生、しかも[一級]でいらっしゃる……『九尾』さま?当社の社長にご伝言でしたら、何か申し伝えましょうか?」

 

 彼はもう一度、ブラインドの隙間から忙し気に働く人々を眺めた。

 

 いや――もう十分、と彼は思う。

 

 ――みんな、精いっぱい頑張って、なんとか生きてる。

 

 普通の人が見れば、たんなる年末の修羅場だが、そのときの彼には、何か生命(エネルギー)にあふれた、とても好ましい活動(もの)に思えた。そして自分は、そんな営みからも完全に孤絶してしまったことを、この時はっきりと思い知る。

 

「死人が、生きてる人の邪魔をしても悪いし、ね……」

「なにか――?」

 

 相変わらず妙な顔をする女性社員に、

 

「涼子さん――社長殿(どの)に『頑張って』とお伝えください。応援してます、と」

「……ありがとうございます。伊都宇もきっと喜びますわ?」

 

 では、と『九尾』は、ビシリ!

 一分のスキもない敬礼をして相手の女性と別れる。

 

 静かなフロアをエレベーター・ホールに向けて歩いてゆくと、行く手から女性が秘書兼カバン持ちとも見える少女を伴い、何事か喋(しゃべ)りながらやってきた。

 

 (やりましたね!融資の件)

 (アナタを連れてってよかったわ、あのロリ信金屋が)

 (わたし、ガンバりました!オッパイ大きいのが役に立ったの初めてです!)

 (よく我慢(ガマン)したわね?とりあえずコレで一息つけそう。アトはあの案件が……)

 

 明るい顔でそこまで言ったとき、シャネルのスーツを着るその女性は、行く手の『九尾』に気づくと、決まり悪げに口を閉じる。

 

 ――涼子さんだ……。

 

 驚いた。

 先ほどまでの妄想で見た通りの姿が、少女といってもいいくらいの部下をしたがえて通路からやってくる。

 

 五色鶸で泣いて絡(カラ)んだ女性の面影は現実の彼女にも見当たらず、ピシリとキメたスーツで戦闘態勢を整えた、やり手のビジネス・パーソンという雰囲気を、全身から発散して。

 

 暫(しば)し、二人の視線が絡み合う。

 やがて互(かた)みに目礼しながらこの時、すれちがった。

 

 (カワイイ子ですね♪社長)

 (――叱(シ)ッ!!)

 

 そんなやり取りを背後で聞きながら、『九尾』は二人が乗ってきたエレベーターで降り、雑居ビルを後にする……。

 

             ――――――――

 

「ダメぢゃないの麗(れい)、聞こえてたわよ?きっと」

「てへへ……」

 

 ちょうど奥から疲れた顔をした“玉ナメ姐(ネェ)さん”が出てきて、

 

「あぁ、社長!ちょうど良かったですね。お会いになりました?いまのカワイイ候補生さん」

「え……あの子ウチに用があったの?何も言わなかったけど……」

 

 眉をひそめた社長は、渡された名刺をみて二度ひそめる。

 

「――航界士・候補生……それも「一級」?あのコが?」

「ご存知の方じゃないんですか?社長を名指しで“応援してます”って」

 

 知らないわ?と渡された名刺をしまいながら、でもヘンね?と首を傾げ、

 

「どこかで会ったような気が……しないでもないの」

 

 しばらくそのまま考えていたが、やがて吹っ切るように、

 

「マァいいか!さ、仕事・仕事!――もうひと頑張りよ!?」

 

            ――――――――

 

 自販機で飲み物を買い、『九尾』は往来にほど近い公園のベンチに腰を下ろした。

 都会の騒音が「ゴウッ」という一大混成となって、たそがれの候補生を包む。

 先ほどのアヤしい幻想の印象は、彼のなかで無水エタノールが蒸発するように退いてゆき、もはやあとかたもない。いまは幾分はだ寒い夕暮れの景色の中で、ポツンと孤独を感じるだけである。

 

 ――いよいよ“銭ゲバ”どもの世界を守るために犠牲となるか……。

 

 いままで通り過ぎてきた試練が、輪索(ワナ)が、危機が。夕暮れの風とともに肩の上を通りすぎてゆく。

 

 メゾンでみた権力者や成金どもの風体。

 少年を食い物とする婦人や年若い淑女。

 ふつうの人間を奴隷人形と化す調教師。

 己の歪んだ妄想を嬲る特権階級の人々。

 

 ――あんなヤツらのために……。

 

 冷えた手を硬くにぎりしめ、彼はこころざし半ばで散っていった者たちのことを想う。

 いまさら身を犠牲にするのに文句は言わない――というか、もうあきらめている。ただ、贅沢な晩餐で肥え太り、唇を脂でツヤツヤさせるブタどものために死ぬのは、残念だった。せめて“死にがい”のある舞台が用意されていれば、少しは違うのだろうが……。

 

 航海士たちの守るものが、命をかけるに値しないクソ社会と分かったいま、味気ない想いを抱えて死んでゆくのかと憮然としつつ、彼は虚ろな眼で公園に沿う通りをながめた。

 

 さまざまな人々が、目の前を通り過ぎてゆく。

 

 学生。

 若夫婦。

 リーマン。

 こども連れ。

 早足の若い女性。

 ジョギングする中年。

 携帯で痴話ゲンカのチャラ男(お)。

 そして形を変え老人――老人――老人。

 

 いろいろな人が、いろいろな姿で通り過ぎる。

 思い思いの顔つきで。そして思い思いのスピードで。

 

 自分が雲海に消えても、この営みは変わらずに続くだろう。

 まるで『九尾』などという存在は、最初から居なかったかのように。

 

(あ、ひこーきのりのお(・)ネ(・)ェ(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)だ!)

 

 ふと甲高い声が呆然とした『九尾』の横顔に突き当たった。

 声の方を見ると、母親に手を引かれた幼稚園児が、ニコニコしながら彼の方を指さしていた。

 

(ユーくん、ひとを指さしちゃいけません。お兄ちゃんかもしれないでしょ?)

(え~おネェちゃんだよぅ!)

 

 おぼえず『九尾』は『成美』の貌(かお)で微笑した。

 脱洗脳を受けたとはいえ、抜き去りがたく身体に刷りこまれた蠱惑的な牝の風情。

 

(――ほらぁ!おネェちゃんだァ!)

 

 幼稚園児は、そのままトタトタと公園の茂みに近づくと、小さな花をひとふさ折りとり、失意の候補生に走り寄るや、

 

「おネェちゃん!――ハイ!」

「まぁ……ありがと、ぼうや」

 

 おどろいたことに、フツーに女声が出た。『成美』の声そのままに。

 “彼女”は子供の頭をやさしくなでる。

 

「お名前は?なんていうの?」

「さとうゆーご!すずらんぐみ!ろくさいです!」

「まぁ……おりこうさんねぇ」

 

 幼稚園児は褒められたことに照れたのか、ペコリとあたまを下げ母親のもとに去ってゆく。母親も『成美』にむかい一礼し、やがて親子は連れ立って公園を出ていった。 

 

 手もとにのこる小さなひと房が無ければ、いまの出来事がまた自身の妄想によって作り出した幻覚と『九尾』に戻った彼は考えただろう。

 小さな花は、かぐわしい香りを放っていた。

 

 ――沈丁花……。

 

 ひめやかに、寄り添うような匂い。

 金木犀のような押しつけがましい下品な臭いではなく、あくまでも涼やかな気配。それが彼の硬くしびれたような胸を搏(う)つ。

 

 ――そうか……。

 

 じんわりと『九尾』は悟った。

 

 ――なにもこの事象面を守るのは“ゼニゲバ”たちのためじゃない。ああいった無辜の親子を救うために己の命を犠牲にすると考えれば、それでイイじゃないか。どうせ人間なんで100年も生きないんだ。次から次へと現われ――そして、どこかへと消えてゆく。ホンのひとときの時間。むしろ命の使いどころがあるだけマシさ……。

 

 ふいに彼の胸はひろびろと清々しくなる。

 

 どうやら自分は世界の汚い面ばかり観すぎたようだと悟った。いつのまにか、視野がせまくなっていたようでもある。ベンチの背もたれを利用して背骨をのけぞらせ、夕暮れの空を視界いっぱいに見上げて彼はいくぶん早めに“消えてゆく番”となった自分の身を想う。

 

 それは――不思議な感覚だった。

 

 それまでの離人症(りじんしょう)的な、あるいはケチな疎外感とは違う。

 もっと透明で、静謐(せいひつ)で、穏やかな。そして神聖な感じ。

 この世の務めを終えて消えてゆくということが、何故(なぜ)かとても有難いような……。

 

 ポケットに入れたプレゼント。その艶やかな包みをコートの中で撫(な)でさする。最初は、この世に繋(つな)がりを求めるため百貨店で品物を選んだのだが、モウなんだかどうでも良いような気がしてきた。

 

 ただ、自分が死んだら、ぜんぶ貯金は国庫に収納されてしまうだろう。それぐらいなら、やはり全財産を“意中の”相手に渡したほうがいい。

 このように考えれば、やはり今回の行動は正しいワケだ。いや、もしかしたら、心のどこかでは最初からそれを目的としていたのかもしれない。

 

 ――16年という人生だったけど……。

 

 まぁ、いいかと彼は思う。

 

 

 「勝ち組」人生とか「負け組」人生とか、そんなものはない。

 ただ“人生”があるばかりさ。

 

 『九尾』は航界士用の腕時計を見る。

 複雑なダイヤルは、夜の始まりを示していた。

 

 「……いい時間だ」

 

 彼はそう呟(つぶや)くや、大通りに出ると最優先MODEで自動タクシー(オート)を呼ぶ……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。