※この作品はR-18です。

玲瓏の翼【18禁版】   作:珍歩意地郎_四五四五

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BGMは
【Jean-Baptiste Lully 『Ballet de la nuit』】 をggったあたりで。

You tubeなどで聴きながらお読みください。



077:叙勲式のこと、ならびに園遊会のこと

 

 19世紀に描かれた“歴史画”とよばれるジャンルの大作。

 その大判な絵画とよく似た壮大な光景を『九尾』は目の前にしていた。

 

 豪華、広壮きわまりない宮殿。

 古風な衣装にて着飾った、王宮の人びと。

 凱旋(がいせん)の報告を、王と臣に披露する遠征軍の司令官……。

 

 ちがうのは自分がその画面の中に入り込み、勲章だらけの豪奢な殿上服を纏(まと)って陪席する錚々(そうそう)たる大臣や高官たち、あるいは高級秘書官や小姓などといった人々で構成される万座の注目をあびつつ、王女の前から伸びる緋色のじゅうたんを、規則にのっとった歩調であゆむ登場人物(主人公)そ(・)の(・)も(・)の(・)となっていることだった。

 

 大礼服と呼ばれる、仰々しさここに極まれりといったデザインの礼服。

 三流校である瑞雲では、いまだかつて誰も纏ったことがない衣装と聞いている。

 

 その暑さと堅苦しさ、なにより重さに耐えつつ、三歩――また三歩。二歩――また二歩。

 礼法にのっとり、面を伏せたまま、静々(しずしず)と王女のもとへ歩みゆく。

 

 うつ向いたまま背後の気配をさぐれば、担当の護衛が部下とともに、これまた随行役の重々しい宮廷服を着せられ剣をささげつつ、仏頂面(ぶっちょうづら)で自分の斜めうしろに付き従う空気が。ザマミロ、と悪戯(いたずら)っぽく『九尾』は胸のなかでクスッとして。

 

 だが、このとき居ならぶ大勢の人びとのなかで、抑えきれぬヒソヒソ声。

 

 (……『成美』?

 

       ……『成美』!?

  

             ……『成美』!!)

 

 ザワザワとした声が、次第に大きくなってゆく。

 

 ――やばい……。

 

 『九尾』は首すじに冷や汗。

 

 もしや“七つの舞い(あのとき)”の映像が、すでに公然と出回っているのでは……。

 瑞雲校の仲間たちにバレたらイヤだな、とも思う。

 フルチ〇のまま、ステージでドヤ顔する自分を知られるのは、なんとしても。

 だが、シモーヌたちの口が軽ければ、もう知れわたっているやもしれない。

 

 そんな彼の逡巡(とまどい)を払うがごとく、床に打杖(だじょう)の音が三度(みたび)。

 時を同じくして、謁見する広間が述べられた建屋の両隣なる鐘楼から、高らかに澄んだ音が響きだした。

 慰霊大聖堂の陰々たる響きとはちがい、明るく、華やかな音色が、冬の名残を雲の形に残す青空に吸い込まれてゆく。

 

 ――いけない。集中しなきゃ……。

 

 規定に従い、拝謁者たちは歩みをとめて片膝立ちに平伏する。

 

「栄(は)えある修錬校――“瑞雲”!……斯(か)かる錬成校の所属なるゥゥ、一級・航界士候補生『九尾』ィィィ!――立ちませぇぇぇい……!」

 

 遠方から、王女の傍(かたわ)らに立つ老侍従が節(ふし)をつけ高らかに叫んだ。

 

「苦しゅうない――近(ちこ)ぅ」

 

 王女の静かな声が、儀典用の指向性・音響波にのってやってきた。

 あれ、と『九尾』はうつ向いた面(おもて)に失望を浮かべる。

 

 ――この声は……。

 

 背後につきしたがう随行役を礼法どおりその場に置き去りにして、彼は単身、玉座の前で佇立する王女の御許へとちかづく。

 

「面(おもて)をォォ……上げませぇぇェェェ……い!」

 

 朗々(ろうろう)たる老侍従の声が天井のホコリを吹っ飛ばすいきおいで。。

 おそるおそる顔を上げると……謁見用ドレスをまとった“蘭の王女”のやわらかい微笑。

 『九尾』は教わった通り、すぐに顔を伏せてイヤイヤをした。

 この礼法に彼は助けられた。

 なんとなれば失意の表情(かお)を、すぐに伏せることが出来たからである。

 

 ふたたび顔を上げろとの老侍従の声。そのたびに、

 

(なりませぬ!あまりに恐れ多く、お顔(かんばせ)を拝見できませぬ。どうか――どうか、ご勘弁を!)

 

 という大仰な身振り。

 決まりどおり、都合(つごう)三度目に王女が、

 

「宜(よ)い――苦しゅうない。面をみせい」

 

 このように声がかかった時には彼も心の準備ができ、失望を注意深く隠すことができるようになっていた。

 

 あいも変わらぬ柔和(にゅうわ)な第二王女の表情。

 頤(おとがい)の二重あご。そして福耳ともあって、平安美人の目もとがパッチリしたVer(ヴァージョン).か東南アジア事象面の石窟寺院に残る壁画を想わせる。

 

 柔らかな声音(こわね)が緊張する航界士候補生の耳をくすぐった。

 

「そち、変わらず息災そうじゃの。こたびの帰還、なによりである」

「は、殿下のおかげさまを持ちまして――」

 

 決まり切った向上をのべながら、彼は不意に気づく。

 

 目のまえに威風堂々、佇立する第二王女。

 

 顔は穏やかにほほ笑んでいるが――眼が笑っていなかった。

 肩から背後から、厳しい気配をオーラのように煮えたたたせて。

 顔つきは以前と同じなのだが、受ける印象が異なるのは……何故(なぜ)か。

 

 相手から漂う雰囲気。そこには優しさなどない。

 あるのはただ、

 

 冷徹。

 峻厳。

 荒涼。

 尊大。

 

 そして――酷薄(こくはく)。

 

 『九尾』は、そこにまぎれもない“大きな手”を看(み)てとった。

 妥協のない、数理学的に一本の鋼線めく緊張で成り立つ公式のような。

 だが相手は、そんな彼の印象を祓うかのように、いかにも優しげな声音で、

 

「こたび、そなたに褒賞(ほうび)を授けるは、我らとして欣快(きんかい)のいたりである。東宮も、そなたの更なる精進を期待いたしておると、左様しかと心得よ」

 

 考え事をしていた『九尾』は一拍おくれる。

 

「――ハッ!ありがたき……幸せ。御意、肝(きも)に銘じましてございまする」

 

 儀典長の合図により、宮殿礼奏隊が祝典序曲を。

 

 王座の奥から、巫女のローブを着た三人の女官があらわれた。

 それぞれ天鵞絨(ビロード)のクッションを恭(うやうや)しく捧げつつ、歩みも静々と入ってくる。

 

 一(いち)なるクッション上には、長剣。

 一なるクッション上には、巻紙。

 一なるクッション上には、小箱。

 

 演奏が歇(や)んだ。

 森、とする中、あけ放たれた大窓のならびから、春の鳥の声が。

 

 巻紙を載せた巫女が老侍従の面前にすすむと、この名誉職の老人は封蝋を折り破り、おもむろに巻紙をひろげて年寄りにしては驚くほどよく響く声で、

 

 ・目の前の航界士候補生に[金枝付(王賜)翼十字章]を授けること。

 

 ・候補生のうちでこれを授けられるのは稀有(けう)であり、非常にめでたいこと。

 

 ・東宮における吉祥であり、王宮における今後の政務の弥栄を予見させること。

 

  ――等々が縷々(るる)述べられる。

 

 やがてふたたび礼奏隊が短く一奏して収まりかえる。

 

 『九尾』は侍従長にうながされ、王女の面前にすすみ出た。

 小箱を載せたクッションを捧げ持つ巫女が近づく。

 第二王女は、彼だけに聞かせるようなささやき声で、

 

「サー『ドラクル』のことは残念でした……貴殿だけでも帰投が叶(かな)い、嬉しく思います」

 

 特定シナプス促進波の効果だろうか。

 グッ、と『九尾』の胸が圧搾されたように詰まる。

 彼は(その手に乗ってタマるか!)と全身全霊をかけて踏みこたえ、

 

「お言葉を賜り、恐悦至極であります。“故翼(亡き者)”も泉下で喜ぶかと存じます」

 

 『九尾』の応(いら)えに第二王女は莞爾(ニッコリ)とほほ笑んだ。

 だが笑っていない目が、仮面の奥からのぞくように彼を観察する。

 『九尾』は、まるで丸裸のまま検査機器のまえに立っている心象。

 

「たくましくなりましたね――貴官(あなた)は」

 

 小箱がひらかれ、むっちりと、それでいて象牙のように白々とした手がリボンを広げると、華やかな勲章が下がるその輪を、頭(こうべ)を垂らす『九尾』の首に下げた。

 

 首の後ろの重み。

 

 それが『九尾』には、先輩の命と引き換えにして得た重さのような気がして仕方がない。あるいは、ややもすれば「自分だけ還ってきた」という“卑怯者の証”めいた重さにも。断頭台の刃が、自分のうなじにのしかかる印象がうかぶのは、そのせいだろうか。

 

 結びに、長剣を捧げ持つ巫女が近づく。

 

 王女は鞘(さや)から刃を抜きはなつと、『九尾』の首、左右の頸動脈あたりに押し当てる。

 冷ややかな鋼(はがね)の感覚がギロチンの印象をつよめて彼をおののかせたのち、ふたたび納刀されると、王女から長剣を受け取った巫女が優美な手つきで彼の腰に佩(は)かせた。

 

 巫女が王女の傍らに下がるのをまち、やがて頃(ころ)は佳(よ)しと件(くだん)の老侍従長が、

 

「事(コト)ハ――成就セリ!」

 

 外象人の古語で叫ぶや、ふたたび礼奏隊の演奏がはじまった。

 楽(がく)の音(ね)に乗じ、『九尾』たち一行は、謁見の間からゆるやかに歩みさる。

 

 次の謁見者と入れ替えに、四人の背後で大扉が鎖(とざ)されたとき、はぁっ、と彼らは詰めていた息をはいた。

 「謁見の間」の外で控える大勢の者たちに気づかれぬよう、ヒソヒソ声で、

 

「汗ビショビショだよぉ……」

「それはこっちも同じだ。候補生『九尾』!」

「まったくキミってヤツぁ、ひとを巻き込まずには措(お)かないな!」

「だが、おかげで先日の失態がチャラになったんだ。文句も言えまい」

 

 

 最後の一人は、『九尾』が西の工作員におそわれかけた事案が、かえって工作員を炙(あぶ)りだせたという結果オーライな功績のおかげで、護衛三人の首のつながった事を話題にした。

 

 ここには盗聴システムが無いのか、普段ぶっきらぼうな大人たちの口が軽い。

 

「上層(うえ)の怒りときたら、それは凄かったからな」

「あやうくアリューシャン事象面に左遷(させん)のところだった」

「海霧と寒さにまみれながら、昆布と鰊の漁獲高を報告するだけの日々なんだぞ?わかるか『九尾』クン?しかも暖房手当なしで!」

「まったくな。おまけに水揚げがへったら、コッチの責任になるらしい。そんなに“数字”が欲しけりゃ自分で漁に出てみろと!営業マンじゃあるまいし!!」

 

 護衛たちは口々に文句を言う。

 

「――さ、この後は園遊会だ。われわれも会場に行って、準備しないと」

 

 最後に『九尾』の身辺を警備する護衛が、配下をひきしめる。

 

「おエラいさんたちに混じっての警備だ。難しくなるぞ」

 

 配下の二人は、いったんくつろげた首もとをなおしつつ、そのうち片方が、

 

「知ってるか『九尾』クン」

「なんです?」

「園遊会でな」

「はぁ」

「キミに女神か、ニンフのコスプレをさせて撮影会する予定があるとか」

「――は?」

「キミのファン、なまじ力持っているから、宮殿の儀典部も文句言えないらしい」

 

 えー、と九尾は絶句する。

 

 ――また女装ですか……。

 

 『九尾』はゲンナリする。

 メゾン・ドールと縁を切って、そういった色モノとは関係が無くなったと思っていた。しかし“成美”という鏡像(アイドル)は、一部の界隈に自分でも知らぬうち相当の衝撃(インパクト)を与えたらしい。おまけに女らしい体つきにしたクスリの効果はなかなか抜けず、いちど思い切ってスーパー銭湯に行ったが、周りからジロジロみられ、おまけにウッカリ入ったサウナの上段で、周りをタオルの下で勃起させた兄さんたちに囲まれてしまい往生したのだ。

 

「西側からも、来賓が来ているらしいな。本院の警備連中もピリピリしてる。これもどうやらキミが目当てらしい。向こうの大僧正はじめ、[存技研](存在技術研究院)はもちろんの事、さる華族の名門まで……」

「もー、あっタマきた」

 

 『九尾』はガン!と儀典用長靴(ブーツ)を踏み鳴らし、

 

「こーなったら、いっそのコト、バックれちゃいましょう!」

 

 よし!決定!※と加藤武の身ぶりで力(りき)みかえる『九尾』に、

 勘弁してくれ、と護衛たちのウンザリ顔。

 

「そうなったら、こんどこそ我々はクビだよ。しかも懲戒(ちょうかい)扱いで……」

                  

 

 春も間近ではあるが、陽が雲にかくれるとまだまだ寒いこともあり、老人たちの体調をきづかって、王宮に隣接する広大な温室庭園での園遊会となる。

 

 それはさながら、ちょっとした「宮廷絵巻」めいて、見る者の眼前に繰り広げられた。

 

 数百人は臨席するだろうか。

 制服や礼服、あるいは古風な衣装をまとった人々。

 周囲を警戒する騎馬衛士。

 手回しオルガンや、風船売り。

 道化のジャグリングなども交わって。

 

 子供らはコーギーやテリアといっしょに芝生を駆けまわり、大人たち――とくに高官たちや権勢者は――紅茶茶碗やシャンパンを満たしたフルート・グラス片手に、テラスや東屋(あずまや)での名刺交換や談笑、あるいは生臭いウラ取引などを繰り広げている。それは『九尾』の叙勲祝賀会にかこつけて行われた、東と西との非公式な外交会議といってもよかった。

 

 ドレスをまとった老嬢に“引っぱりだこ”となりながら、またもや『九尾』は、アカデミー派の大作絵画に入り込んだ気分を味わう。あるいは20世紀初頭のポショワールか。

 

 おだやかな賛辞と微笑。

 女性たちの人気者になった彼を見る、青年紳士たちの妬(ねた)み混じりな表情(かお)。

 “お行儀”のよい雰囲気に、様々な質問と、当たり障りのない答え。

 

 そして――

 

 あちこちからカメラ越しの視線や、3D撮影機材の気配。

 

「候補生『九尾』どの――恐れ入りますがまたコチラに……」

 

 民間の権力者や、政府高官、制服組への挨拶と愛想笑いに疲れ果て、いいかげん腹の減ってきた『九尾』が、古風な装束をまとう給仕が捧げ持つトレイから、焼きたてのスコーンをツマもうとしたとき、またもや彼は呼び止められる。

 

 見れば、三段に並んだ宮中の人々が古めかしい大判カメラをまえに、中央を空けて待っているのだった。

 しかし、彼は嫌な顔一つせず、園遊会まえに中年の儀典長から鏡をまえにして叩き込まれた“品のある微笑”をうかべ、あちこちからの要求に応える。護衛役の三人は、そんな彼に付かず離れず、さりげなく身辺をガードして。

 

 とくに“西ノ宮の大僧正”が『九尾』にみせた執着ぶりは半端ではなく、彼はいくども礼服の上から、さり気ないそぶりでチソチソを触られる。それを他の者たちまでもが、我も我もと。まるで、ビェルシカに逆戻りしたかと思われるほどに。

 蘭の王女は、男たちに貸しでも作るつもりなのか、そんな状態を微笑み混じりに見て見ぬふりで。

 

 酒もひとしきり行きわたり“ご歓談”もたけなわとなったころ、西ノ宮の大僧正から“一風変わった趣向”として、『九尾』に仮装させるという、気まぐれをよそおった提案が出された。

 

 この提案は、着かざった会場の来賓からから拍手喝さいをもって迎えられる。

 満座が注視する中、不可(いや)とは言えない『九尾』だった。

 

 室内庭園のはずれに設けられた着替え室にゆき、用意された衣装をみたとき、

 

 ――あぁ……また……。

 

 脱力が『九尾』の肩に、のしかかってきた。

 ビェルシカの奉仕着と変わらない、煽情的な装い。

 悪夢の夜会での記憶がフラッシュバックする。

 ちょうど、ミラ秘書官の姿を思い出して。

 

 しかし、そんな彼の落胆をよそに、スゴ腕と見えるふたりの着付け係とボディ・メイク担当、それにスタイリストとメーキャップ・アーティストたちは、寄ってたかって『九尾』を『成美』に、いやそれ以上の美女に仕立て上げてしまった。

 

 バイオ・パーツによる人工の隆起(メリハリ)。

 女体を厳しく縛(いましめ)るボンデージ・ハーネス。

 からだのあちこちに装着された多種多様な性具。

 肌の透けるピンク色薄物をまとい、各種のアクセサリー。

 ペディ・キュアを塗られた脚には編み上げサンダルをはかされて。

 豊かな赤毛のヘアピースを被せられた上からオリーブの冠。背には短弓。

 おまけに喉頭鏡を挿入され、簡易的な手術で、またも声を高音にされてしまう。

 

「さぁ、お尻を出して?」

「え、あの――また貞操帯を?」

「このヒヒ爺ィの群れに貴女(あなた)のようなコを無防備で?」

「自衛のためもあるのよ?なにかあってからでは遅いんだから」

 

 女たちは『九尾』の後ろにアナル・プラグをハメこみ――

                前は女陰(おマ○コ)を模したバイオ・パーツを装着する。

 最後に品のある化粧を刷(は)かれ――

    “彼女”の出来栄えを看たスタイリストたちは声も出ない。

 

「いいこと? 貴女(あなた)はこの園遊会のひととき“狩りの女神”なんですからね?」

 

 ココ・シャネルめく初老の監修者が出口に向かう“女神”を呼び止め、耳の後ろに軽く香水をなすりながら、おしまいにひとこと彼に助言を与える。

 

「媚(こ)びず、引かず、顧みず。隆(りゅう)として、あくまで堂々とふるまいなさい。相手が王女とて、容赦をしてはなりません」

 

 ○斗の拳のような励(はげ)ましをもらい“美女”となった『九尾』は勇躍、おもてに出た。

 控え室の外では、護衛の三人が所在なげに佇んでいた。いつものメインな一人は、彼に背を向け、どこかに定時連絡をとっている様子。

 

 悪戯(いたずら)心をおこした彼は、

 

「――まえを、ゴメンなさい?」

 

 そう言い放ち、配下二人の目前を、堂々と通りすぎる。

 やはり。彼等は目の前を通り過ぎる人物が『九尾』だとは気づかない。

 その片方が長い口笛で、短い薄物からチラ見えする彼の○○を冷やかして。

 男たちの熱い視線を背中にあびつつ、即席の“女神”も、まんざらではない気分。

 

 芝生の上を単身征(ゆ)けば、自分の衣装があまりに軽やかで心もとなかった。

 

 ――温室が園遊会の会場でよかった……。

 

 肌の透ける薄物ごしに、自分の肢体を診て『九尾』は思う。

 この格好で外の庭園は、ちょっと寒い。

 腕輪。ブレスレット。耳飾に、アンクレット。

 これら装具を閑雅に鳴らしつつ、歩みも静々と会場のほうに向かいながら、

 

 ――それとも……これも、織り込み済みなのだろうか。

 

 “大きな手”による支配。

 逃れようとした者は……どうなる?

 

 第47強行探査グループ・第3大隊。

 『ホスロー』上級大尉殿の声が耳に残る。

 部隊は“消滅”したと伝えた『カロン』の通信。

 もしや、あの探査ユニットも“大きな手”に……。

 

「いかが致した――そのようなところで」

 

 急に声をかけられ、いつのまにか室内庭園で根を張った大樹の陰で足を止めていた『九尾』は、われに返った。

 

 




※オリジナルは、もちろん「よし!分かった!」です。

これも当初の予定にはないパートで難渋しております。
次から次へと作者も知らない登場人物が勝手に……。
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