※この作品はR-18です。

全て淫魔の仕業   作:ぐうたら怪人Z

3 / 3
③

 

 

 

「……もう、いいかな」

 

そんな様子を見て、アルスは中へ入ることに決めた。扉を開けて、キッチンへと踏み入る。幸いなことに彼が現れても、ラングルは寝入ったままだ。

 

「さて――シスターサラ?」

 

「……あ、あ」

 

呼びかけると、弱々しい反応が返ってきた。彼女がこちらを認識できていることを確認したアルスは、言葉を続ける。

 

「もう、大丈夫ですか(・・・・・・)?」

 

「は、はい……いけます」

 

小さく頷いたサラは身を整え、手と手を合わせて祈りの姿勢をとる。そのまますっと目を閉じ、瞑想を始めた。

変化は、すぐに訪れる。

 

「うっ――くっ――ぐぅっ――あああっ!」

 

苦悶するシスター。その周囲に、白い“靄(もや)”が現れる。“靄”はだんだんと濃さを増していき、さらには人のような形へと変化していった。

 

「おー、いい感じいい感じ」

 

呑気な声を出すアルスの前で、“何か”が産まれようとしている。“靄”の濃度は増加し続け、物体と呼んでいい代物にまで成り上がる。

ついには、人型の魔物――としか表現できない――存在が現出した。

 

『お――お――お――?』

 

人にはとても出せそうにない、不可思議な声を出す“魔物”。奴は自分の身体とその周囲を何度も見回してから、

 

『まさか――まさか、こんな形で実体が手に入る(・・・・・・・)とは。く、くくく、お礼を言っておこう、人間よ』

 

「そいつはありがとう。そしてさようなら」

 

『へ?』

 

こちらに対して何か言ってきたソレ(・・)に対し、アルスは拳をお見舞いした。

 

『あふん♪』

 

実におかしな断末魔。神父の一撃で、あっさり魔物は消滅したのだった。合掌。

 

「はい、“淫魔”討伐完了、と」

 

満足げな笑みを浮かべて、アルスはそう宣言した。

 

 

 

――淫魔。

それは<悪魔>の一種。

人に憑りつき淫らな行動を助長させる、教会が認めた神敵である。

アルス達の使命は、この淫魔の討伐であった。

この家には、旅の途中で立ち寄ったのではない。この場所こそが――正確には、ここの住人たるラングルこそが、彼等の目的だったのだ。

 

淫魔は<悪魔>の中でも弱い部類で、大した力を持たない。代わりに実体を持たず、通常の手段で倒すことができない存在だ。神への信仰、或いは憑依した人物の殺害によって追い払うことはできるものの、死ぬ訳では無いので結局別の場所で悪事を働き出すだけ。

そこで、シスターサラのような“対魔聖女”が必要となる。彼女は性行為を介して淫魔を己の身に移し替え、実体を与えることができるのだ。そうなってしまえば、後は物理的手段での排除が可能となる。ちょうど今、アルスがやったように。

 

さらに追記しておくと、“対魔聖女”をはじめとする<悪魔>討伐の使命を負った信徒の存在は秘匿されている。<悪魔>は例外なく高い知能を持っているため、彼等の動きがバレれば逃亡される恐れがあるからだ。

 

 

 

何はともあれ。

こうして神父アルスとシスターサラは、今回の使命を全うしたのであった。

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

「あー、終わった終わった。神命を果たした後の充実感は格別ですねぇ!」

 

ニコニコ笑顔のアルスである。昨日はあのままラングル宅で一泊させて貰った。

“あんなこと”があって気まずい思いは勿論あった。しかしその場を去ろうにも、正気に戻ったラングルが気を動転させてしまい、それを宥めねばならなかったのである。

 

 

『じ、自分は何と言うことを!! シスターにあのような不埒な真似をしてしまうとは!? あああああ、偉大なる主に、愛する妻に、合わせる顔が無い!!! も、最早、命を絶ってお詫びをするしか――!!』

 

『落ち着いて下さい! 貴方には淫魔が憑りついていたのです! 全て淫魔のせい! 淫魔のせいですから!!』

 

 

とまあ、こんな具合に。アルスにとって、寧ろこちらに費やした体力の方が多かったかもしれない。

 

「さーて、晴れてフリーになったわけですし?」

 

神父の青年は、意味深な視線を隣の女性へと送った。

 

「どうしました?」

 

首を傾げるサラ。あれだけの痴態を晒しながら、彼女は平然としていた。いつもの冷静な彼女のままだ。その胆力には感服するしかない。

それはそれとして、アルスは顔をにやけさせながらサラへ近づくと、

 

「いや何ね、今度は僕ともエンジョイして欲しいかなー、なんて――って痛ぁ!?」

 

すすすっと腰に回そうとした腕を、全力で払いのけられる。割とかなり痛い。

 

「な、何故に!? ラングルさんの前ではあんなに蕩けていたのに! 僕にもあの雌犬っぷりを見せて下さいよぉ!!」

 

「本人を前にしてよくそこまで言えますね。とにかく、駄目です」

 

「そんなあっさりと!? どうしてです! 理由を教えて下さい!」

 

「理由、ですか?」

 

そこで、一拍の間が空いた。ふと、彼女の表情が変わっていることに気付く。ラングルの前では最後まで見せることの無かった、魅力的な笑顔(・・)。

サラはアルスに微笑みかけながら、

 

 

 

「――全て、淫魔の仕業なのですよ♪」

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