彼とは物心つく前からの付き合いだ。
家族ぐるみで仲が良く、お互いの家で何度もお泊りしたことがある。
いわゆる幼馴染という関係だった。
小さい頃は彼のことを異性として意識したことはなかった。まあ、私が恋愛に興味がなかったのもあるんだけど。
背は私より小さかったし、中性的な顔だからみんなに女子と間違われることもあったし、鼻水もよく垂らしていた。はっきり言って男子としての魅力はなかった。
私と彼の関係に変化が訪れたのは小学四年生の時だった。
彼と一緒に下校中に近所の家から脱走した土佐犬が私に襲い掛かってきた。
私はあまりの恐怖で動けなくなってしまった。
近くにいた大人たちも突然の出来事で動けずにいた。
そんな私を身を挺して庇ってくれたのが彼だった。
土佐犬は凶器ともいえる鋭利な爪で彼を容赦なく引っ掻いた。
彼が負傷してすぐに飼い主がやってきた。
土佐犬は飼い主の言うことは聞くようで、すぐに大人しくなった。
この事件がきっかけで、私は彼とのことを異性として意識するようになり、すぐに好きになってしまった。
我ながらチョロい女だと思う。
でも仕方ない。
だって私より小さい身体で、私を守るために、命がけで土佐犬に立ち向かってくれたんだもん。
惚れないほうがおかしい。
彼は前から私のことが好きだったようで、私の告白を受け入れてくれた。
こうして私たちは、幼馴染から恋人へと関係が変わった。
恋人になった私と彼は小学生らしからぬ行為に及んでいた。
毎日、どちらかの部屋で、抱き合ったり、キスしたり、彼の傷跡を愛でたりした。
セックスにも興味はあったけれど、まだ小学生だったので、中学に上がるまではオナニーで我慢しようと思い、彼を押し倒すことはしなかった。
彼との愛を育む日々は幸せだった。
そんな幸せな生活は一年で終止符を打つことになった。
彼が父親の転勤で北海道に引っ越すことになったのだ。
私は彼が引っ越さぬよう、必死に抵抗した。
けれど小学生の私にそんな力はなく彼と別れることになった。
彼と別れてからの私は自分が崩壊していくのがわかった。
私は心理的な苦痛を和らげるため、自傷行為に走った。
リストカットをしたり、父親の煙草を腕に押し付けたりしたけれど、あまり効果はなかった。
自傷行為をやめた私は、彼を思いながら毎晩自分を慰めるだけの日々が続いた。
彼と別れてから一年後。
私は、両親の勧めで、地方にある私立の中学校に進学することになった。
生きる屍状態が一年続いた私を見かねた両親が環境を変えてみては、と提案してきたのだ。
中学に上がった私はようやく心理的な苦痛を和らげる方法を見つけた。
それは――――『承認欲求』を満たすことだった。
私は誰よりも好かれることで彼がいない寂しさを紛らわすことにしたのだ。
見るのも嫌な気持ち悪い男子に手を差し伸べたり、腸が煮えくり返るほどのブスにも手を差し伸べたりした。
そして私は人気者になった。
毎日友人たちとの付き合いで忙しかったけれど、それが彼がいない寂しさをより紛らわしてくれた。
ストレスも溜まることもあったけれど、彼を思ってオナニーをしたり、ブログに愚痴を書き込んだりして、解消していた。
中学二年の夏休み。
実家に帰った私は、再び彼と一緒にいれるよう計画を立てた。
計画といっても、私と彼が同じ高校に進学するため、外堀を埋めただけなんだけど。
私は母親を通じて、彼の母親に連絡を取り、お願いをした。
彼を私と一緒の高校に進学させてほしい、と。
もともと私を娘のように可愛がってくれた彼の母親はすぐに承認してくれた。
また、彼を驚かせたいので、このことは彼には言わないようお願いもした。
彼の母親は仕事が早かった。
お願いをした翌日に、私と彼の偏差値に合わせた寮付きの高校をリストアップしてくれた。
二人で検討した結果、第一希望は高度育成高等学校、第二希望は東京の私立高校となった。
進学希望先が決まった私はより一層勉強に力を入れた。
幸い、彼も勉強ができる方だったので、国立である高度育成高等学校は落ちても、私立高校は受かるレベルの学力を持ち合わせていた。
彼と一緒に過ごす日々を夢見ながら邁進していた私だったけれど、中学三年時に事件を起こしてしまった。
私が愚痴を吐いていたブログがクラスメイトに見つかってしまったのだ。
翌日にはクラス全員に拡散していて、みんなが私を責め立てた。
私に告白した男子が突き飛ばしてきたり、彼氏に振られて慰めた女子が机を蹴飛ばしてきたり、数々の暴力が私を襲ってきた。
私は傷つくわけにはいかなったので、真実を振りかざし――――クラスを崩壊させた。
ブログにも書いていない真実を話しただけで、クラスメイト達は、元凶である私を忘れて、争ってくれた。
その光景は滑稽に見えた。
あまりにも滑稽に見えて、笑いを堪えるのに苦労した。
そして私は再認識した。
友人たちは私の『承認欲求』を満たすためだけの道具に過ぎなかった。
私にとって大切なのは彼だけだ。
彼がいれば、『承認欲求』を満たさなくても私は私でいられる。
彼のことを思い。
彼のことを愛し。
彼のために生きる。
そんな『櫛田桔梗』でいられるのだ。
問題を起こした私だけれど、停学処分を喰らうことはなかった。
むしろ保健室登校になったことで、受験勉強に集中できるようになった。
結果、私は高度育成高等学校に合格した。
彼の母親にもすぐに連絡し、彼も無事に合格したことを確認した。
私は歓喜に震えた。
やっと彼と一緒になれる。
昔みたいに彼との愛を育む日々が始まる。
そんな期待に胸を躍らせ、私は中学を卒業した。
☆☆☆
入学式当日。私は彼と再会できるのが楽しみ過ぎて、朝の6時半には学校に到着していた。
当然、教室には誰もいなかった。
私はすぐに彼の座席を確認し、彼の座席で居眠りすることにした。
この机と椅子が、彼がこれから一年間使うものだと思うと、とても愛おしく思えた。
一時間ほど経って、私はお手洗いに向かった。
私は個室で、彼と再会したときにパニックにならないよう、彼とのやり取りをシミュレーションした。
シミュレーションしているうちに、妄想が酷くなり、気づくと集合時間ぎりぎりになっていた。
私は駆け足で教室に戻った。
そして―――彼を見つけた。
私は近くの席の子たちに挨拶をしながら、彼に熱い視線を送り続けた。
彼は担任の先生が来るまで居眠りをしており、私に気付くことはなかった。
担任の先生が教室から出ると、彼もそそくさと教室を出て行った。
私はすぐに彼の後を追って、声を掛けた。
四年ぶりに見る彼は、とてもカッコよくなっていた。
身長は私より15センチほど高く、中世的な顔は変わらなかったけれど、以前より男らしさを感じる顔つきになっていた。
彼も私以上に魅力的な異性に成長していたのだ。
彼との再会に喜びが隠せない私だったが、彼に名字で呼ばれてしまい、少しだけ傷ついた。
でも仕方ないと思う。
だって四年ぶりに会うんだもん。
わかってるから。
要も四年ぶりに見る私に見惚れて、昔みたいに桔梗って呼べなかったんだよね。
照れ屋なのは相変わらずなんだから。
そんな要と再会した私は、空白の四年間を埋めるべく、なるべく彼と一緒に行動するようにした。
入学式が終わり、私は要と一緒にクラスメイトとファミレス、カラオケで親睦を深めた。
カラオケでは、松下さんと佐藤さんが要に付きまとっていて殺意が沸いた。
私の要に馴れ馴れしく接しないで欲しい。
もちろんそれを口に出すことはなかった。
私が女子に嫌われるのはいいけれど、それが原因で要の立場が危うくなるのは避けたかった。
カラオケでみんなと別れた私は要の部屋に行った。
そして四年ぶりに、私と彼の愛の証である傷跡を愛でさせてもらった。
傷跡はだいぶ薄くなっていたけど、消えることはないだろう。
私は四年間も溜め続けた愛を傷跡に注いだ。
気分が高揚した私は上着をはだけさせ、要に密着し続けた。
すると要のあそこが反応した。
嬉しかった。
成長した私を女として感じてくれたのだ。
そして私は―――彼に処女を捧げた。
私たちは理性が崩壊するまで交わり続けた。
彼の肉棒に貫かれたときは痛かったけれど、それ以上にうっとりするほどの幸福感に満たされていたので問題はなかった。
ようやく私を傷物にしてくれた。
私は彼以外に傷つけられなくなかった。
だから中学で事件を起こした時も、自分が傷つかないよう、自分で自分の身を守った。
処女を失った痛みはすぐに快感に変換された。
要とのセックスは、オナニーの比じゃなかった。
あまりの気持ちよさに私は下品な声を上げ続けてしまった。
本当はもっと可愛らしく喘ぐつもりだったのに……。
けれど要もそんな私に興奮してくれたようで、私の中にたくさん子種汁を出してくれた。
初めてのセックスを終え、繋がったまま要と抱き合ってる時に悟った。
私は要に抱かれるために女として生まれたのだ、と。
本当の女としての悦びを知った私は愛する彼の腕の中で気絶するように眠りについた。
☆☆☆
要と結ばれた私の朝は早い。目覚まし時計と携帯アラームが5時に鳴る。
まずはシャワーを浴び、お互いの体液だらけの身体を綺麗にする。
そこから二人分のお弁当を作る。彼に美味しく食べてもらうために手抜きは一切しない。
要はいつも美味しいと褒めてくれる。
特に大好物の卵焼きは絶賛してくれる。
当然だよね。
だって隠し味に―――私の血を染み込ませているんだから。
卵を畳む直前に、包丁で指を切って、血を垂らして沁み込ませるのだ。
おかげで左手の人差し指の絆創膏が貼りっぱなしなるけど仕方ない。
だって私を細胞レベルで愛してもらいたいから。
私に通ってた血が、彼の血肉となる。
なんて素敵なことだろう。
「今日は多めに沁み込ませようかな」
彼は今日も笑顔で美味しいと言ってくれるだろう。
彼の笑顔を見るためなら、いくらでも血を捧げられる。
いつか彼が隠し味を訊いてきたら答えようと思う。
普通の男子なら引くだろうけど、彼なら受け入れてくれる。
だって要は私のことを愛してくれてるから。
私は自分が面倒で、重たくて、メンヘラであることを自覚している。
私の本性を知ったらみんなは気味悪がるだろうね。
でも彼はみんなとは違う。
要はこんな私を愛してくれる。
私には要しかいない。
要にも私しかいない。
私たちは二人じゃないと生きていけない。
「朝食は何を作ろうかな」
お弁当を作り終えた私は朝食作りに取り掛かった。
もう彼の部屋のキッチンは私専用のものになった。
入学して二日目から私は彼の部屋に入り浸っている。
歯ブラシ、マグカップ、食器など二人分揃っており、同棲感満載だ。
「あ、洗濯物を干さないとっ」
私は高校生になったばかりなのに、まるで主婦のような生活をしている。
なんて幸せなんだろう。
こんな生活がずっと続けばいいのに。
ううん、絶対続けさせる。
私は要と一生を添い遂げるのだ。
結婚も早くしたいけれど、それは要の進路次第だ。
大学に進学するなら大学卒業後に、就職するなら高校卒業後に、入籍するつもりだ。
要の両親も私が嫁ぐことを歓迎してくれており、未成年で結婚した場合は経済支援してくれることを約束してくれた。
私と要の結婚に障害はない。
あとは彼が私にプロポーズをしてくれるだけ。
早く、『桜庭桔梗』になりたい。
子供は二人欲しい。女の子一人、男の子一人が望ましい。
美男美女の夫婦だから、どちらに似ても可愛い子供が生まれてくると思う。
名前もそのうち考えよう。
「うーん」
そんな将来設計をしていると、要が目を覚ました。
「おはようっ」
「おはよう。ふぁ……」
要は眠たそうに目をこすりながら大きなあくびをした。
昨日も深夜までセックスに明け暮れたから、寝不足なのは仕方ないね。
「要、今日も抜いてあげるね」
彼が起きてすぐに私は奉仕をする。
朝勃ちしてる時も、していない時も、毎日奉仕をする。
朝食前に彼の新鮮なザーメンを頂くのが私の日課だ。
「シャワー浴びてくるね」
「げほっ、ごほっ、い、いってらっしゃい……」
彼は私がザーメンを飲み干すのを確認してから浴室に向かう。
最初は飲み込むだけだったけど、今では時間をかけて咀嚼して精液を噛み締めたり、一度精液を手のひらに出して指で弄ってから口に戻したり、大きく口を開けさせられたり、いろいろな方法で精液咀嚼をしている。
「うがいしないと」
彼の精液は大好きだけれど、そのまま朝食を食べるのは厳しい。
要がシャワーを浴びてる間に朝食を作り終える。
この後は二人で朝食を食べて、朝の情報番組を見て、登校するだけだ。
要とは毎日一緒に登校している。
おかげで私と要は一年の中で名前が知れ渡るようになった。
ちなみに私たち以外に一年でカップルはいないらしい。入学して一週間ちょっとしか経ってないので当たり前だけど。
「それじゃ行こうか」
「うんっ」
登校する時間になり、私たちは手を繋ぎながら愛の巣を出る。
「今日も温かいねっ」
「だね」
私は彼と離れてから過ちを繰り返した。
自身の心と身体を傷つけ、家族に迷惑をかけ、人間関係も失敗した。
けど後悔はしていない。
彼と一緒になるために、私は間違いだらけの道を歩いてきたのだ。
だから今日も私は笑顔でいられる。
私の大好きな『櫛田桔梗』でいられるのだ。
「要」
「なに?」
「今日も大好きだよっ」
彼と離れ離れになってから四年。
やっと彼の隣にいられるようになった。
私と要の物語は再開したばかり。
ここから二人きり、心を寄せ合って、人生を歩んでいくんだ。
少しは櫛田をヤンデレと思えるようになったと思います!
次回は小テストにクラスポイント発表回です!