勉強会を始めてから一週間が過ぎた。
僕と桔梗の力により三馬鹿+博士の学力はぐんぐん上昇している。
テスト範囲の変更は茶柱先生から報告があった。原作では黙っていた先生だったが、Bクラスに上がったことにより、やり方を変えたらしい。
原作ヒロインたちとも進展があった。
堀北は以前より話しかけられるようになったが、僕と綾小路以外とは一切絡まない。
佐倉は毎日挨拶をしていたおかげで、軽く世間話は出来るようになった。
軽井沢とは廊下でぶつかって転倒させてしまい、赤色の派手なパンツを披露してもらった。
なお、ほかのクラスの女子とは一切絡んでいない。
桔梗とは毎日交わっている。
さすがに早朝セックスはあれ以来していないが、夜になると獣のようなセックスをしている。
ほかのヒロインと仲良くしているのが気に入らず嫉妬しているのだろう。
だから激しく求められる。
予知夢で悲惨な目にはあっていないので、現状は問題ないと認識している。
中間テスト五日前。僕は桔梗に過去問を入手するようお願いをした。
僕でも問題ないだろうけど、美少女で愛嬌がある桔梗の方が効率がいいだろう。
予算は2万ポイントだったが、桔梗は1万ポイントで入手してきた。昨年実施された小テストの解答用紙付きで。
「凄いね桔梗は」
放課後。僕は期待以上の成果を上げた桔梗の頭を撫でていた。
「えへへ。だって要にお願いされたんだもん」
「お礼に今夜はいつも以上に可愛がってあげるね」
「うんっ」
ちなみに場所は人気のない体育館裏だ。
いくら僕たちがバカップルでも、人前でここまでいちゃつきはしない。
「それでいつ教えるの?」
「前日かな」
「なんでそんな遅くに?」
「早く教えると勉強しなくなってしまうからね」
「……なるほど」
三馬鹿と博士は過去問を入手しようと勉強は続けるだろう。
なぜならCクラス女子とのお食事会がかかっているのだから。
彼らには平均60点以上取れば、お食事会に参加できると伝えてある。
心配なのは平田が教える勉強会に参加している生徒だ。
おそらく半数以上は平田目当てだろう。
過去問があるとわかれば、勉強ではなく平田に熱い視線を送ることに集中しそうだ。
「それじゃそろそろ図書室に行こうか」
「うん」
桔梗と二人で図書室に向かう途中で、一人の美少女とすれ違った。
その美少女は、すれ違う僕に意味ありげに微笑した。
恐らくターゲットとしてロックオンされたのだろう。
その美少女の名前は―――坂柳有栖。
原作の主人公である綾小路に執着する天才だ。
それにしても美しかった。
それは見た人の心の中の最もデリケートな部分にまで突き通ってしまいそうな美しさだった。
巨乳派の僕でも見惚れてしまうほど綺麗だった。
「今のAクラスの坂柳さんだよね?」
「うん。どうやら僕たちは目をつけられたみたいだね」
「目をつけられたのは要だけだよ」
気を遣って言ったが、桔梗も気づいてたらしい。
近々、彼女と接触しそうな気がする。
僕の第六感がそう告げていた。
図書室に入るとCクラスとDクラスの男子が揉めていた。
それを遠巻きにして見る須藤たちが「図書室では静かにしてほしい」と言っていたので、腹を抱えて笑いそうになってしまった。
二人の男子はヒートアップしていったが、一之瀬が仲裁に入り、場を収めてしまった。
僕としては殴り合いになるまで発展して、互いのクラスポイントが引かれるのを期待したのだけれど、そう上手く事は運ばない。
「残念」
「要、また悪い顔してるよ」
「おっと」
桔梗は僕のことをよく見ている。
よくできた彼女に注意された僕はすぐにいつもの顔つきに戻した。
「桔梗ちゃん、騒がしてごめんね」
直後に、一之瀬が桔梗のもとにやって来た。
「ううん、大丈夫だよ」
「そう言ってもらえると助かるよ~。あっ、桜庭くんだよね」
「うん、初めまして」
「初めまして。私は一之瀬帆波。君のことは桔梗ちゃんからよく聞いてるよ」
「やめてよ、帆波ちゃんっ」
桔梗は僕の指示で一之瀬と友達になっている。
それにしても、もう互いをちゃんづけで呼んでいるのか。
二人のコミュニケーション能力の高さに僕は敬意を表した。
「桔梗ちゃんから聞いてると思うけど、今度の食事会、楽しみにしてるからねっ」
「僕もだよ。お互い中間テスト頑張ろう」
「うんっ。それじゃまたねっ」
一之瀬は微笑みながら自身のクラスメイトのもとに戻っていった。
「今のがCクラスの一之瀬帆波か」
「可愛いな」
「美少女過ぎて驚いたでござる」
「流川は洋楽を聴いてるのか。俺も聴いてみるか」
我がBクラスにも一之瀬帆波の名前は知れ渡っていた。
池、山内、博士は初めて間近で見た一之瀬に見惚れているようだ。
須藤は漫画じゃなくて教科書を読みたまえ。
☆☆☆
「綾小路くんは一之瀬さんのことどう思う?」
勉強会終了後。僕は珍しく綾小路と二人で帰路につく。
桔梗はみーちゃんから相談事があるらしく、一足先に寮に帰ってしまった。
「どうとは?」
「可愛いと思うかってことだよ」
綾小路は堀北と桔梗以外の女子とまったく絡んでいない。
いくら根暗とは言え、イケメンランキング6位の逸材だ。ちなみに僕は平田を抑えて2位だった。
原作で桔梗もイケメンと評していたし、女子たちが放っておかないと思うんだけど。
「そうだな。容姿は優れていると思う」
「彼女にできるならしたい?」
「わからない。一回も話したことないからな」
「そっか」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「以前に彼女が欲しいと言ってたからだよ」
「……そんなことも言ったな」
綾小路と一之瀬が付き合ったら面白い展開になりそうだ。
原作では軽井沢と付き合うことになったけれど、原作と同じじゃつまらない。
僕は転生してからずっと考えていた。
転生したこの世界でどう生きていくか。
原作をなぞって、知識を活かしつつ、イベントをこなしていくか。
原作の流れを壊して、自分のやりたいように進んでいくか。
僕は―――後者を選んだ。
せっかく第二の人生を与えてもらったんだ。
やりたいようにやる。
原作と違う選択肢を選んで、新しいよう実を楽しんでいく。
だから僕はDクラスをBクラスに引き上げた。
須藤たちを育成することにした。
堀北の成長イベントを潰した。
この先どうなるかわからない。
予知夢でわかってしまう未来もあるけれど、神様にもらった特典なので、割り切って利用させてもらう。
「桜庭はどうなんだ?」
「僕には桔梗がいるから」
僕を病的なまでに愛する桔梗と付き合っていくには予知夢は必要だ。
今は順調に交際しているけれど、いつ地雷を踏むかわからない。
原作イベントには最小限、桔梗には最大限に予知夢を利用する。
「そうだな。彼女がいるならほかの女子に手は出せないな」
「そうだよ。綾小路くんはフリーなんだからどんどん手を出さないと」
「その言い方だとオレが女好きに聞こえるんだが……」
「言い方が悪かったかな、ごめんね。でも彼女が欲しいなら自分から動かないと駄目だよ」
「……善処する」
「うん」
きっと綾小路が自分から動くことはないだろう。
動くとすれば一之瀬を利用できる駒として判断したときだけだ。
そして利用価値がなくなれば、容赦なく切り捨てる。
予知夢がなくても、綾小路とヒロインの未来は簡単に想像がついてしまう。
「とりあえず中間テスト頑張ろうね」
「そうだな」
☆☆☆
木曜日の放課後。いよいよ明日は中間テスト本番だ。
ホームルームを終え茶柱先生が教室を出た後、僕と桔梗は教壇に立った。
そしてクラスメイトに過去問を入手したこと、毎年ほぼ同じ問題だったことを説明し、全員にプリントアウトした過去問を渡した。
もちろん全員が僕と桔梗に感謝した。
「ちょっといいかしら」
プリントを配り終え自席に戻ると堀北が声をかけてきた。
「なにかな?」
「過去問を入手したのはあなたの考え?」
「そうだけど」
「……そう。私にはそういった考えはなかったわ」
「堀北さんの実力なら過去問は不要だからね」
「よくわかってるじゃない」
堀北の辞書に『謙虚』という言葉はないのだろうか。
「でもみんなをAクラスに上げるには、その考えに至らなければならなかった」
「……そうだね」
「だからその点はあなたのこと認めてあげるわ」
「ど、どうも……」
どこまでも上から目線だなこの子は。
「それと須藤くんたちは赤点をとらずにすみそうなのかしら?」
「もちろん。過去問がなくても40点以上は取れたはずだよ」
「すごい自信ね」
「威張れる点数じゃないけどね」
二週間猛勉強して最低ラインが40点以上なのは情けないことだ。
これまでどれだけ勉強していなかったかよくわかる。
「中間テストが終わったらあなたに話があるの」
「交際の申込ならお断りするよ」
「殴られたいの?」
「これぐらい冗談で返せないと社会で通用しないよ」
「殺されたいのね」
「生きたいです」
コンパスを手にした堀北を見て、僕は後ずさりした。
「まったく……。それじゃありがたくこれは頂いていくわ」
「うん。明日はお互い頑張ろうね」
「ええ。それじゃまた明日」
先ほど受け取った過去問のプリント用紙を片手に堀北は教室を後にした。
(桔梗はみーちゃんたちに捕まってるか)
おそらく直接感謝の言葉を頂いてるのだろう。
解放されるまで教室で待つか考えていると、今度は松下と佐藤がやって来た。
「桜庭くん、過去問ありがとう」
「これのおかげで明日何とかなりそうだよ」
実はハイスペックの松下は必要なかっただろうけど、お馬鹿の佐藤には天の恵みになっただろう。
「ううん。クラスの平均点が上がればクラスポイントも上がる可能性もあるから頑張ろう」
「うんっ。それじゃ私はこれで」
暗記するためか、佐藤はすぐに去っていった。
「桜庭くん、一つ聞いてもいいかな?」
「なんだい、松下さん」
「これのことはいつ思いついたの?」
松下は見定めるような目で僕を見つめてくる。
「一週間前かな。最初は参考程度になればいいと思ってたんだけど、小テストが全く同じ内容だったから、これをくれた先輩に中間テストの問題構成も聞いてみたんだ」
「それで毎年ほぼ同じ問題だってことに気づいたんだ」
「うん、ラッキーだったよ」
僕にとってラッキーだったのは桔梗のおかげで苦労せずに過去問を入手できたことだ。
「そっか。……桜庭くんがいるならAクラスに上がるのも時間の問題かな」
「僕だけの力じゃ無理だと思うよ。みんなが力を合わないとね」
「……そうかもね」
これは事実だ。いくら僕が一人で頑張ってもAクラスに上がるのは容易じゃない。
だから僕は須藤たちを育成している。
「それじゃ私も帰るね。また明日」
「うん、またね」
そう言って、松下は篠原を連れて帰っていった。
今日はいろんな女子に絡まれる。
「要」
みーちゃんから解放された桔梗が駆け足で来た。
「桔梗、話は終わったの?」
「ううん、もう少しかかるから先に帰ってていいよ」
「わかった。相談事?」
「うん。心ちゃんが明日のテスト不安らしくて、少しだけ勉強を見てあげることになって」
「そっか。それじゃ先に帰るよ」
「帰ったらすぐに夕食作るから」
「わかった。風呂は沸かしておくね」
「お願い」
桔梗に別れを告げ、下駄箱で靴に履きかけていると、今度は違うクラスの女子に声を掛けられた。
「やっほ、桜庭くん。今から帰り?」
1年Cクラスの一之瀬帆波だった。
桔梗がいないから、堂々と見惚れることができる。
「うん。一之瀬さんも?」
「そうだよ。桔梗ちゃんは一緒じゃないの?」
「友達の勉強を見てあげるんだって」
「そうなんだ。よかったら一緒に帰らない?」
「いいよ」
本当に今日はいろんな女子に絡まれる。
「またね、一之瀬さん」
「一之瀬、お先」
帰路につくと、生徒たちに次々と声を掛けられる一之瀬。
「大人気だね」
「そんなことないよ。挨拶されるのは当たり前でしょ」
「最近の若者は挨拶がなってないから」
「にゃはは。桜庭くんも若者でしょ」
ぽんぽんと肩を叩かれる。
ナチュラルにボディタッチするあたり、天然ビッチの素質が垣間見れる。
「桜庭くんは中間テストでクラスポイントがどれくらい動くと思う?」
「入学して最初のイベントだからね。そこまで影響はないんじゃないかな」
「そっか。でも少なからず影響はあると思ってるんだね?」
「少しはね。もちろんこれからたくさんのイベントが待ち受けてると思うよ」
「じゃないとAクラスに追いつけないもんね」
「そういうこと」
僕としては夏休みの試験でAクラスに上がりたいところだ。
「それより食事会なんだけど、大丈夫なの?」
「なにが?」
「ほら、僕たちって一応敵でしょ。それに一之瀬さんたちは僕たちにクラスポイントが抜かれたわけだし」
「あー、そういうこと。大丈夫だよ」
「そうなの?」
「Cクラスに落ちて少なからずショックを受けてる子もいるけど、まだ始まったばかりだからね」
確かにまだ三年近く時間はある。
僕たちBクラスとの差もわずかだし、悲観的になる内容ではない。
「それに基本的に学校生活を楽しむのをモットーにしてるから」
「そっか。なら気にしないでおくよ」
「うん。私たちもほかのクラスとの交流を楽しみにしてるから」
もしかしたら平田狙いの子がいるのだろうか。
だったらごめんね。フリーのイケメンは綾小路しかいないんだ。
「一之瀬さんも?」
「うん。あ、よかったら連絡先交換しない?」
「もちろん」
「ありがとう。……でも、桔梗ちゃんに怒られたりしない?」
「報告すれば問題ないよ」
「ならよかった」
こうして僕は一之瀬の連絡先を入手した。
本当は食事会の席で入手する予定だったので、思ったより早く入手できたことに内心微笑んでしまう。
一之瀬と連絡先を交換することは必須だった。
なぜなら、食事会の後で一之瀬は僕に連絡をすることになるからだ。
☆☆☆
中間テストは無事に終了した。
僕たちBクラスは、赤点の生徒を出さなかったのはもちろん、一教科の平均が70点以上と好成績を残した。
僕と桔梗は全教科満点だった。三馬鹿と博士は全教科60点以上と予定通りの成果をあげた。
「それで僕に話ってなんだい?」
放課後の図書室。
僕は堀北に呼び出されていた。
「桜庭くんにお願いがあるの」
「お願いって?」
「私はこのクラスをAクラスに上げさせないといけない」
上げさせないといけない、か。相変わらず上から目線だ。
「そのために桜庭くんに協力してもらいたいの」
「僕に?」
「ええ。あなたは須藤くんたちに勉強を教えて、中間テストで結果を残した」
「僕だけの力じゃないけどね」
「でもあなたがいなければ彼らは退学していたかもしれない」
原作だと君が彼らを助けるんだけどね。
「私はあなたの力を評価している」
「それはどうも」
「だから私の力になってほしいの」
原作の綾小路ポジションを僕が担うということか。
「……それはできない」
僕ははっきり断った。
「っ……。な、なぜ……?」
「なぜって自分より下の人間につきたくないもの。堀北さんだってそう思うでしょ?」
「私があなたより下だと言いたいの?」
「そうだよ」
「自分を過大評価しているようね。中間テストの成績は同じだったはずだけれど」
堀北も僕たちと同じく全教科満点だった。
「そうだね。でも堀北さんは何をしたんだい?」
「……なにを?」
「そう。堀北さんは勉強をして好成績を残しただけ」
「だから何を言いたいのっ!?」
僕の意図がわからず声を荒げる堀北。
「だから堀北さんはクラスのために何もしていないってことだよ」
「……っ」
「堀北さんほどの勉強ができる人なら平田くんや僕たちみたいに勉強会を開くことも出来たはずだ」
ちなみに幸村も勉強会を開いていた。
平田ハーレムの勉強会に参加しづらかった生徒たちにとって救いの神だったと思う。
「そ、それは……」
「堀北さんはみんなのことを見下してるでしょ」
先ほどの発言が証拠だ。
自分がクラスメイトをAクラスに導いてあげなければならないと言ったようなものだ。
「勘違いしてるようだから言っておくね。勉強と運動しかできない堀北さんが一番下の存在だよ」
「なっ……」
僕の評価に目を見開き絶句する堀北。
「だから僕は君の下につくつもりはない」
「……」
「でも君が僕の駒になってくれるなら考えてあげてもいいよ」
「あ、あなたねっ……!」
今の言葉で切れた堀北が僕の胸倉を掴んできた。
「こうやってすぐに手を出すのは兄貴譲りかな」
「兄さんは関係ないでしょ!」
「落ち着きなよ。ここがどこだかわかってる?」
「あっ……」
ここは図書室だ。いくら人が少ないとはいえ声を荒げれば目立つ。
「君がお兄さんに言われたこと、孤高と孤独をはき違えている。よく考えた方がいいよ」
僕はそう言い残し堀北のもとを去った。
彼女は何か言いたげな顔をしていたが、黙って僕を見送った。
「うーん、美少女に怒られるのは嫌なもんだな」
堀北の意識改革をするために僕は彼女を精神的に追い詰めた。
これで少しでも変わってくれれば有り難い。
もし何も変わらなければ―――僕は堀北を見限る。
いつまでも堀北に構っていられない。
すでに次の獲物は決まっている。
一之瀬帆波。
次は彼女を精神的に追い詰めさせてもらう。
次回は過去改変注意です!