最後の方だけ注意して見てくださいね!
「かんぱーい」
桔梗が音頭を取りドリンクバーで乾杯をしている。
僕たちは金曜日の放課後、ファミレスに来ていた。
面子は僕、桔梗、綾小路、池、山内、博士、一之瀬を含むCクラスの女子4人。
以前から約束していたCクラス女子との食事会である。ちなみに須藤は部活のため欠席だ。
「とりあえず自己紹介から始めようか」
一之瀬の提案により僕たちは自己紹介を始めた。
池たちは入学日と違って相手に好印象を与えれるようになっていた。
これも僕のアドバイスのおかげだ。
それにしてもCクラスの女子4人は全員が美少女だ。
「ねえねえ、桔梗ちゃんと桜庭くんはいつから付き合ってるの?」
自己紹介を終えるとすぐに網倉が訊いてきた。
「小学5年生の頃だよ」
「彼氏作るのはやっ!」
桔梗の答えに網倉が衝撃を受ける。
「もう5年も付き合ってるんだ。長いね」
「麻子ちゃんは彼氏いないの?」
「いないよ~」
桔梗と網倉が盛り上がっている。
隣に座る男子たちを見ると綾小路以外は緊張しているようで顔がこわばっていた。
僕は池になんでもいいから会話をするよう耳打ちをする。
すると池は持ち前のコミュニケーション能力で会話を盛り上げてくれた。
「過去問入手したの?」
「うん」
いつの間にか僕は一之瀬と二人で話すようになっていた。
「そのおかげでうちのクラスはみんな高得点だったよ」
「にゃはは、私は過去問を入手するなんて考えもしなかったな~」
恐らく過去問を入手する考えに至ったのは龍園くらいだろう。
一之瀬はハイスペックだが性格がまっすぐだ。
「入手できたのは桔梗のおかげなんだけどね」
いまだに網倉と恋愛トークを繰り広げている桔梗を横目で見る。
「桔梗ちゃんの?」
「男子より女子からおねだりされたほうが嬉しいでしょ?」
「なるほどね。桜庭くんはなかなかの策士だね」
「これくらい誰でも思いつくでしょ」
桔梗の本性を知っているのは僕だけだ。
僕以外の生徒は桔梗のことを絵に描いたような優等生だと思っているだろう。
「私がどうかしたの?」
自分の名前が聞こえた桔梗が会話に混じってきた。
「桔梗ちゃんは可愛いって言ってたんだよ」
「ちょっと、帆波ちゃんからかわないでよ~」
「からかってないよ~」
桔梗と一之瀬の和気あいあいとした会話に男子たちはにんまりとしている。
それから二時間ほどして場所をカラオケに移すことになった。
池たちは美少女たちにアピールするために流行の曲を熱唱しだす。
「綾小路くんは歌わないの?」
「カラオケは初めてなんだ」
「そうなの?」
「ああ」
予想はついていた。
ホワイトルームでカラオケの実習があるわけない。
「歌は興味ない?」
「いや、それなりにあるぞ。CMで聴く程度だが」
「それは聴いたうちに入らないと思うよ」
今度おすすめのアニソンを教えてあげよう。
綾小路なら凛として時〇とか好きそうだ。
「池くん、上手いねっ!」
「マジ? ありがとう!」
気づくと池と網倉が仲良くなっていた。
どうやらお互い好きなアーティストが一緒だったようで一気に距離が近づいたらしい。
まさかこのまま付き合ったりしないよね?
「博士、その曲は入れちゃいけないよ」
博士が『DT捨テル』を入れようとしていたのでやめさせた。
こんな曲を歌われたら、女子たちに引かれてしまう。
「せ、拙者の十八番なのに……」
「女子に嫌われてもいいならどうぞ」
「ぬほーん!」
奇声をあげた博士はしぶしぶ違う曲を選んだ。
ちなみに山内は音痴、博士は普通だった。
「桜庭く~ん」
ドリンクバーでオレンジジュースを注ぎ込んでるとコップを片手に一之瀬が来た。
「今日はありがとうね」
「いきなりどうしたの?」
「こんな楽しい場を設けてくれたからそのお礼だよっ」
「礼を言うのはこっちだよ」
一之瀬たちと遊ぶのを目標に池たちはテスト勉強を頑張ったのだ。
いい餌になってくれた一之瀬たちには感謝しかない。
「よかったらまたみんなで遊ばない?」
「そうだね」
「約束だよ?」
「うん」
なんて眩しい笑顔を向けてくるのだろう。
おそらく桔梗がいなければ僕はその笑顔に心を奪われていただろう。
それほどまでに一之瀬の笑顔は素敵だった。
けれど僕は今から壊す。
その一之瀬の笑顔を。
「前から一之瀬さんに聞きたいことがあったんだけどいいかな?」
「うん、なんでも聞いて」
「ありがとう。……一之瀬さんって中学で生徒会長をしてたよね?」
「っ……」
刹那。一之瀬の顔がこわばった。
「う、うん……。誰かから聞いたの?」
「僕のいとこが一之瀬さんと同じ中学だったんだ」
「……っ!?」
一之瀬の目は驚愕のために大きく見開かれていた。
「わ、私と同じ中学……」
「うん、前から一之瀬さんのことは知ってたんだ」
「私のことを……」
「だからこうして話すことができて嬉しいよ。そろそろ戻ろうか」
「あっ……」
僕は不安と恐怖で青ざめている一之瀬を置いて部屋に戻った。
一之瀬が戻ってきたのはそれから10分後のことだった。
☆☆☆
「池くん、網倉さんと二人でカラオケに行くらしいよ」
「やるね」
「ちなみに誘ったのは網倉さん」
「肉食系女子か」
てっきり池から誘ったと思ったのに。
しかしまいったな。
池を成長させたのは原作より早めに篠原と仲良くさせるためだった。
そうすれば無人島試験で男女間の言い争いが減ると思った。
だがこれはこれで面白い。
また一つ原作とかけ離れたわけだ。
「桔梗」
「ん?」
「この後、僕は一之瀬さんから呼び出されると思う」
「帆波ちゃんから?」
一之瀬は間違いなく僕に問うつもりだ。
自分の過去をどこまで知っているのかと。
「うん。おそらく二人で会うことになると思う」
「二人きり……」
「でも安心して。僕には桔梗だけだから」
「それはわかってるけど……帆波ちゃんは要に何の話があるの?」
「それは聴いてからのお楽しみだね」
「要のけちっ」
頬を膨らませ不満を示す桔梗。
そんな桔梗に悪戯しようと思った瞬間、僕のスマホが鳴った。
「帆波ちゃん?」
「だね」
一之瀬からのメッセージは簡潔なものだった。
『今から二人で話せないかな?』
僕はすぐに返信した。
『いいよ。どこで会う?』
『私の部屋でいい?』
『わかった。もう行っていいの?』
『いいよ。部屋は〇〇〇号室だから』
数回程度しか話したことがない男子を部屋に上げるのはどうかと思うけど、それほどまでに一之瀬は切羽詰まっているのだろう。
「それじゃ行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
桔梗に軽く口づけを交わし部屋を後にした。
僕は一之瀬の階へ行き、ドアの前に立ち、チャイムを鳴らした。
「急に呼び出してごめん。入って」
「お邪魔します」
扉を開けた一之瀬は先ほどと同じ制服姿だった。
緊張しているのか手が震えている。
僕は案内された客用のクッションに座った。
そして画面を下に向けた状態でスマホを床に置いた。
「えっと……」
テーブルを挟んだ向かいに座る一之瀬が言いよどむ。
「桜庭くんのいとこが私と同じ中学なんだよね?」
「そうだよ」
「うん……。それで、その……私のことも知ってたわけだよね?」
「うん」
もちろん僕のいとこが一之瀬と同じ中学なのは嘘だ。
原作知識があるから一之瀬の過去を知っているだけだ。
「全部知ってるよ。一之瀬さんが半年も学校を休んだことも、万引きを犯したこともね」
「……そっか……」
僕の答えを聞いて一之瀬は俯いてしまった。
震えも先ほどより酷くなっている。
「どうしよう……どうしよう……」
中学で過ちを犯してしまった一之瀬。
一から――いや、ゼロからやり直そうと思って、自分の過去を誰も知らないこの学校に入学した。
新たな友人に囲まれ、学級委員長としてみんなを引っ張っていた一之瀬。
だがそれらはもうすぐ終わりを告げようとしている。
なぜなら自分の過去を知っている人物が現れたから。
「一之瀬さん、安心して」
「………………え?」
「僕は誰にも言うつもりはないよ」
僕の言葉を聞いて一之瀬が顔をあげた。
その顔つきにCクラスの学級委員長としての面影はなかった。
不安。悲しみ。恐れ。そうした押し隠すことのできない幾つもの感情が混ぜこぜになって、べったりと顔に張りついていた。
「……本当に?」
「うん」
「でも……」
「僕は事実を確認したかっただけだから」
僕は万引きを犯した過去を材料に一之瀬を脅すつもりはない。
「よかったら聞かせてくれない?」
「なにを……?」
「一之瀬さんが過ちを起こした経緯を」
「……」
「僕は君が理由もなく万引きをするとは思えないんだ」
思えないんじゃない。僕は確信している。
「それは……買い被りすぎだよ……」
「そうかな?」
「そうだよ。私は……犯罪者なんだから……」
自らを嘲るように目から口へかけて冷たい笑いが動く。
「……やっぱり脅そう」
「え…………?」
「君が万引きをした理由を教えて。じゃないとみんなにばらす」
「……それは卑怯だよ」
「僕は卑怯な男なんだ」
ここで理由を言ってもらわないと先に進めない。
原作でも思ってたけど、一之瀬って面倒な女なんだと再認識した。
「……わかった、言うね」
一之瀬はすべての過去を話し出した。
母親と妹と三人で質素に暮らしていたこと。高校に進学するために特待生になれるよう努力したこと。中学3年時に生徒会長に選ばれたこと。その夏に母親が過労で倒れたこと。それにより妹の誕生日プレゼントが買えなくなったこと。
そして―――妹の笑顔を守るために万引きを犯したこと。
結局、妹はヘアクリップを母親に見せびらかせて一之瀬が万引きしたことが明るみになる。
それが僕の知る一之瀬の過去だった。
けれど違ったのだ。
この世界で彼女の過去が改変されていた。
一之瀬が万引きを犯したことを最初に知る人物は母親ではなく―――同級生だった。
たまたま買い物に来ていた同級生に一之瀬は万引きを犯すところを見られてしまった。
そして通報されてしまった。
それも最悪な形で。
一之瀬の万引きを目撃した同級生は話したこともない男子だった。
その男子は店を出た直後に一之瀬に声を掛け―――脅迫した。
一之瀬は頭が真っ白になった。
万引き行為が明らかになればすべてが終わると思ってしまった。
母親と妹が悲しむ。同級生からの信頼が失われる。特待生の話もなくなり高校に行けなくなる。
最悪の未来がよぎった。
パニック状態の一之瀬は男子に言われるがままに彼の家についていった。
家についていけば何をされるかわかるはずだ。
けれど正常な判断能力を失った一之瀬はその考えに及ばなかった。
案の定、一之瀬は家に上がった直後に襲われた。
男子のどす黒い欲望が一之瀬に襲い掛かった。
押し倒されてようやく一之瀬は自分が何をされているのかに気付いた。
不幸中の幸いか、体格差があまりなかったため、必死に抵抗した一之瀬は何とか彼の家から逃げることができた。
怒りに狂った男子はすぐに警察と学校に通報した。
そのあとは原作と同じ。
家族を裏切り、学校に居場所を無くし、自責の念にかられた一之瀬は半年間も引きこもった。
その後、担任からこの学校の存在を知らされ、一之瀬はリスタートすることにした。
「……これで私の話終わり」
原作よりハードな展開に僕は驚きを隠せないでいた。
「あ、あのさ……」
「なに?」
「その……君を襲った男子はどうなったの?」
「それは……」
強姦未遂は立派な犯罪だ。
いくら一之瀬が万引きを犯したからと言って、彼女を傷つけていい理由にはならないだろう。
「なんもないよ」
「…………は?」
それはどういう意味だろう。
罪に問われなかったということだろうか。
「……もしかして黙ってたの?」
恐る恐る問うと、一之瀬はゆっくりと頷いた。
「なんで……?」
「……罰だと思った。罪を犯した私への罰」
「罰って……」
「もちろん襲われた直後は思ってなかったよ。でも逃げてる途中で思ったの……これは私への罰なんじゃないかって」
「そんなことは……」
「うん、ないと思ってる。でも私はそう思わないと自分がどうにかなりそうだったの……」
もしかして手が震えていたのは僕への恐怖心だったのかもしれない。
ファミレス、カラオケ、二人で帰った時はそんな様子はなかった。
異性と室内に二人きりでいると恐怖を思い出してしまうのではないだろうか。
「一之瀬さん、僕の手を縛る?」
「……いきなり何を言ってるの?」
涙目の一之瀬が汚物を見るような目で僕を見つめる。
「男と二人でいるの怖いんじゃない?」
「っ……」
「だから手を縛っておけば少しは安心できるでしょ」
「い、いいよっ! 友達にそんなことできないよっ!」
「でも……」
「大丈夫だから!」
「……ならいいけど」
「うん。……それよりよくわかったね。私が男性恐怖症だって」
「そりゃ手の震えと、あんな話を聞かされたらね」
「……そっか。でも軽度なんだよ。部屋で二人きりじゃなければ問題ないから……」
確かに症状が酷ければ共学の学校なんて通えないだろう。
「桜庭くんって優しいね」
「そうかな?」
「そうだよ。……桔梗ちゃんが羨ましい」
「それは買い被り過ぎだよ」
「ううん」
急に甘酸っぱい雰囲気になってきた。
僕の縛りプレイ要求で場が和んだのかもしれない。
「あの、それで、みんなには……」
「うん、約束通り誰にも言わないよ」
「ありがとう」
「よかったら誓約書でも書こうか?」
「大丈夫。私は桜庭くんを信じてるから」
いくら過去話を聞かせたからと言って、会って間もない異性を信じちゃだめだと思う。
でも信じてくれるならありがたい。
遠慮なくその純粋な心を利用させてもらう。
「一之瀬さん、一つだけアドバイスさせてもらうね」
「うん」
「おそらく君は自分の悩みを他人に打ち明けるのが苦手なんだと思う」
「……そうかもしれないね」
「だからなんでも打ち明けられる存在を作った方がいい。時間をかけてもいいから」
「なんでも打ち明けられる……?」
「そう。親友でも、恋人でもいい。君の悩みを共有してくれる存在がいれば少しは楽になると思う」
個人的には綾小路がおすすめだよ。
「……ありがとう。できるかわからないけど……頑張ってみるっ」
「うん」
一之瀬の涙は完全に止まっていた。
これでしばらくは大丈夫だろう。
「あ、あのさっ」
「ん?」
「私に悩みを共有してくれる人が見つかるまでで……桜庭くんに相談してもいいかな?」
つまり綾小路と付き合う前での代役か。
桔梗の嫉妬が気になるけど、ここは了承したほうがいいだろう。
「いいよ」
「ありがとうっ」
いつもの無邪気な笑みを浮かべる一之瀬。
そんな彼女に見送られ僕はスマホの通話を終了して部屋を後にした。
☆☆☆
「おかえり、要」
「ただいま。ちゃんと聞こえてた?」
「ばっちりだよ」
桔梗はスマホをかざしながら答える。
僕は一之瀬の話を桔梗に聴かせるために桔梗と通話状態にしていたのだ。
「それより要は酷いね。帆波ちゃんに誰にも言わないって約束したのに」
「僕は誰にも言ってないでしょ」
「そうだけど……」
「ろくに確認もしないで過去を打ち明けた一之瀬さんが悪いんだよ」
僕は桔梗に隠し事はしないと決めている。
だから一之瀬との会話も桔梗に聴かせた。
「それでこれからどうするの?」
「一之瀬さんのこと?」
「うん。本当に脅したりしないの?」
「しないよ」
「ならなんで帆波ちゃんの過去を聞いたわけ?」
僕は一之瀬の過去を聞いた理由。
それは単純な理由だ。
「自分の過去を知る人物が学校にいることを知らせたかったからだよ」
「つまり?」
「これで一之瀬さんは不安を抱えて学校生活を送ることになる」
自分の過去をみんなに暴露されるんじゃないかという不安と恐怖だ。
「でも帆波ちゃんは要のことを信じるって言ってたでしょ」
「そうだね。でも本当に僕を信じるのなら言葉に出さないと思うんだ」
「……確かに私は要のことを信じるって言ったことないかも」
「でしょ。一之瀬さんは僕を”信じたい”んだよ」
そもそも数回しか話したことがない異性を信じるなんてありえない。
「そういうことか。……要はやっぱり悪人だね」
「僕は善人でも悪人でもないよ」
原作の一之瀬と同じ台詞を言ってしまった。
「それに一之瀬さんは敵だからね。もし彼女が脅威になるなら……」
「なるなら?」
「その時は徹底的に潰すよ」
この時、僕は一之瀬を見誤っていた。
一之瀬帆波は僕が思ってた以上にか弱い女の子だった。
そして――――精神的に脆い人間だった。
☆☆☆
たった一度の過ちで私は大切な家族の笑顔を奪ってしまった。
私は取り戻さなきゃならない。
そのためにこの学校に入学した。
私の過去を誰も知らないこの場所でやり直そうとした。
けれどそれはすぐに崩れ去ってしまった。
桔梗ちゃんの彼氏である桜庭くんが私の過去を知っていたのだ。
名前は聞かなかったけれどいとこが私と同じ中学だったらしい。
私は頭が真っ白になった。
こんな状態になるのは〇〇くんに犯されそうになった時以来だ。
あの時と同じように最悪の未来が私の脳裏によぎった。
この学校でも私の居場所がなくなってしまうかもしれない。
クラスメイトの笑顔を奪ってしまうかもしれない。
桜庭くんに身体を要求されるかもしれない。
だったら―――要求される前に私から身体を差し出せばいいのではと思ってしまった。
そうすれば居場所もなくならない。
クラスメイトの笑顔も守れる。
乱暴されないですむかもしれない。
今思うと愚かな考えだと思うけど、さっきの私は本気で考えていた。
でも私の愚かな考えは消え去った。
桜庭くんは誰にも言わないことを約束してくれた。
条件として私が万引きを犯した経緯を説明したけれど仕方ない。
何も言わずに黙ってもらうなんて虫がよすぎる。
私の過去を聞いた桜庭くんは優しい目で私を見てくれた。
それだけじゃない。
私が男性恐怖症であることも気づいてくれた。
手を縛るか聞かれたときは引いてしまったけど、あれは場を和ますために言ってくれたんだと今ならわかる。
なんて優しい人なんだろう。
それに私の欠点にも気づいてくれた。
確かに私は他人に悩みを打ち明けられず一人で抱え込んでしまう。
だから半年間も引きこもってしまった。
母親にも、友達にも相談できずに、ずっと自責の念に駆られていた。
この学校は普通の学校じゃない。
これからクラス同士の争いが増えていくだろう。
現にDクラスからは何度もちょっかいを出されている。
そのたびに私は悩みを抱え込んでいくと思う。
それが私の容量を超えてしまったら――私はまた壊れてしまうだろう。
だから私は桜庭くんにお願いをした。
私と悩みを共有してくれる存在ができるまで相談に乗ってほしい、と。
彼はすぐに了承しれくれた。
もちろんずっと彼に甘えるつもりはない。
私が危うくなった時。
その時だけでいいから―――私を支えてほしい。
話して数回の人にそんな想いを抱くなんて自分でもおかしいと思う。
桜庭くんは不思議な人だ。
彼には私の全部を見透かされているように思えてしまう。
桔梗ちゃんはそんなところに惹かれたのかもしれない。
「羨ましい……」
桔梗ちゃんは彼とは幼馴染だと言っていた。
私にも彼がいたら。
桜庭くんが私の幼馴染だったら。
「万引きなんてしなかったのかな……」
過去を取り消すことは出来ない。
私は一生犯罪者として生きていかなければならない。
「そうだよ。私は犯罪者なんだから――――罰を受けなきゃ」
私は裁縫箱から針を取り出す。
そして―――左腕に突き刺した。
「っ……」
鋭い痛みが左腕から全身に伝わってくる。
針を抜くと針の跡から赤い血がにじみでてきた。
「あっ」
これは罰だ。
私は過ちを犯してから何度もこうして自分を罰した。
「ふぅふぅ」
こうすると少しだけ自分が許されたような感覚に陥る。
自傷行為なんて愚かなことだってわかってる。
でもこうしないと私は壊れてしまう。
もう壊れるわけにはいかない。
私は学級委員長なんだ。
クラスメイトや先生からも信頼されてみんなを引っ張っていかないといけない。
「悩みを共有してくれる人ができたら……こんなことしなくてもすむのかな……」
そう思いながら、私は腕から床に垂れる赤い血を見つめていた。
次回は佐倉の出番です!