※この作品はR-18です。

役満で上がると惚れられる   作:黒岩

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ネット麻雀

 春といえば、日本で言えば新年度。新たな生活が始まる季節だろう。

 俺にとっては従姉妹の名前でもあるが、それは今はどうでもいい。

 まあ春ってのは基本的に年度が更新されるため、学年が一つ上がったり、小学校から中学、中学から高校、高校から大学や社会人など、まぁ日本人の生活に変化が訪れる季節だと思う。

 だから出会いと別れの季節だとかよく言われるよな。別にそんな尊い物みたいに言われまくるのもどうかと思うが。悪い出会いや良い別れだってある訳だし。……とかまぁ、何でも良い方向に考えることは出来ない。どちらかと言うと悪い捻くれた考えをしてしまう俺である。

 ぶっちゃけどうでもいいんだけどな。俺にとっての春はイベント事だらけで面倒だし、そんなに好きではなかったりする。

 それに生活の変化云々も関係ない。なにせ、今の俺は──

 

「あー……………………暇」

 

 ──約二ヶ月前にプロをクビになり、無職だからだ。

 

 俺はTシャツと短パンでソファーに寝転がり、ゴロゴロとしている。

 ……いや、人としてどうかと思うとか、社会的責任を果たせとか色々思うことはあるが、まぁ実際問題、若くしてプロ雀士をクビになった俺がいきなり就職するってのも酷な話だ。

 ただ一応、麻雀の指導対局を請け負ったりしてるし、税金だって払ってるし、自分の貯金で生活してる。別に親の脛を齧ってる訳でもないから許して欲しいところだ。そもそも面倒見てくれる親なんていないしな。

 ともあれ、差し迫った危機がないってのは中々人間を堕落させるものだ。そのうちなんとかしないとな、と思うが、今はとりあえずオカルトを活かして美少女とエッチなことがしたい……なんてクズなんだ。字にするととんでもないクズになる気がする。

 だがしかし、俺だって毎時間毎時間、ヤりたいヤりたいって勃起させながら苦しんでいる訳ではない。

 人間なんだから眠るし腹も減る。一日の時間は結構多い。プロの時は時間が少なく感じたが、こうやって無職になってみると時間があり余ってしまう。

 

「……飽きたな……」

 

 規則正しく朝7時に起きて、朝飯を作って食べた──そうしてちょっと洗濯したり、漫画を読んでみたり、録画してたバラエティ番組を消化してみたり、積んでたゲームをやるかと思って埃被ってたコントローラーを引っ張り出して……しかしゲームのアップデートが云々とかで出来ずにしばらく海外のスポーツ中継や……後一応、麻雀中継を見たり……ああ、プロなら今頃、リーグ開幕で忙しい頃だよな、と思う。高校生だって春の大会があるしな。結局今年はどこの地方予選にすら呼ばれなかった。去年は一応呼ばれたってのに。テレビだと、はやりさんや良子、琉音や栞など俺が知ってるプロ雀士の様々な試合が映っている。期待の新人である栞も結構注目を浴びてるし、プロ二年目の良子と琉音。何気に同期である二人は、ルーキーオブザイヤーとシルバーシューターを取った良子が物凄く注目され特集も組まれる一方で、琉音も負けてはいない。若手の中ではそれなりの活躍をしている。というか、良子が同期なのが運が悪かったか。良子がいなけりゃルーキーオブザイヤーもあり得た。言ってもしょうがないことだが。

 なんというか、つい2、3週間程前は一緒に遊んだり、エッチしたりしてた栞。それに馬鹿みたいに騒いでた琉音がここまで活躍してるのを見ると何とも言えない気持ちになるな。活躍自体は嬉しいんだけど、自分が惨めに感じなくもない。遊びに誘ったら喜んでついてくるあいつらを既に懐かしく感じる。暇だ。

 そうしてると一応、アップデートが終わったので1時間ほどゲームをして、久し振りにやってみると当時は最強だった装備が最強でなくなっていたり、当時俺が刀装備で挑んだボスソロタイムアタックのまぁまぁいいタイムが抜かれてて微妙に癪だったが、やってない期間が長すぎて今からやり直す気にもならなくて、結局ゲームも止めた。

 そしてちょっと嵌ってた昔のアニメを見直して……微妙な話を見ている最中にそれが飽きて、今はなんとなく家の掃除をしている。朝に調子に乗って食べ過ぎたので昼飯はゼリー飲料飲んで終わり。

 

「あぁ、くそっ、邪魔なもん多いな……捨てるか」

 

 家の押入れを開けて掃除を試みるも、古いものやいらないものが多いなと感じたので捨てることをその場で即断する。学生時代に使ってたノート、捨てる。古い雑誌、捨てる。お気に入りだったスポーツチームのユニフォーム。ただしちょっと破れてる……捨てる。古いUSBケーブル、捨てる。遊○王カード……懐かしっ、残す。ユスノキ……残す。コロコロバ○ル鉛筆……って、これもクソ懐かしいな……一応残す。ビー○マン……って、さっきから懐かしいの多すぎない? 一応残す。はやりさんに似た女優のAV……うーん……迷うが、捨て……る。なんか実際にやった後だとパチもん感凄いというか、あんまり魅力的に感じないしな……まぁ残りも適当に仕分けして。

 

「終わったな……」

 

 と、あっさり掃除も終わってしまう。やっぱ時間があると違うな。面倒な掃除も、やろうと思えば意外と早く終わるものだ。

 マジで暇すぎる。東京から帰ってきてからというもの、マジでやることがない。麻雀の依頼も、年度が変わって4月からってのが多いしな。今は春の大会もあるし。というかナチュラルに遠方からの依頼も多いのがヤバい。君等俺の所在地ちゃんと見たの? って。まあ詳しく書いてない俺が悪いにしてもだな、岩手とか奈良とか……うん、北海道に行った俺が言っても説得力ないけど。

 ともあれヤって性欲を解消することも出来ないし、何か暇を潰さなければならないのだが、

 

「……まー、やるか」

 

 しゃーない、とこういう時にやってしまうのはやっぱり──麻雀だ。

 俺は寝室のパソコンの前に座ってパソコンを起動。しばらく待ってからブラウザを起動してネト麻をすることにする。

 俺はプロ……元プロだが、一応ネット用のアカウントも持っている。学生時代から同様のを使っていた。アカウント名は“ヤクマル”。なんだかヤ○中みたいだが、別にそういうんじゃない。名前の理由は割愛だ。

 とりあえずログインして適当な部屋に入ってまずは挨拶──対局よろしくおねがいします。まぁネットだろうがなんだろうが、礼儀ってのは大事だ。まあ勝負の挨拶ってのは俺はどうにも苦手なんだが、さすがに俺もいい大人だ。プロ時代に何度も挨拶くらいしてるし、挨拶の大事さは身についている。特に気持ち悪さは感じない。

 同じ様に挨拶が帰ってきたりして、そのまま適当に打つのだが……うん、まぁ、クソみたいに弱い。数分後、俺は他家を飛ばして1位になっていた。

 対局ありがとうございますと言って部屋を出る。……当たり前だが、適当な部屋に入るのはよくなかったか、と俺は自分のレートを見て思う。

 実は俺はネットだと最高段位持ちの有名雀士だったりする──のだが、こんなのは自慢出来るものじゃない。このサイトにいる99%の奴はアマチュア雀士。ひょっとしたら俺のように元プロ、プロが紛れ込んでる可能性もあるが、そんなのは上位1%にしか可能性がない。

 だからまぁ、俺がどんなにプロをクビになったゴミプロだと言っても、おおよそ殆どの雀士と比べたら勝率は段違い。鬼のように強い。というか、オカルトが介在しないであろうネット麻雀だと、正直プロ独特の緊張感とか、場の支配とかがないため、めちゃくちゃやりやすい。

 それに牌効率とか、そういうので打っていけばいいネット麻雀は割と得意な方だ。実際の対局だと雰囲気とか流れとかオカルトがあるから、牌効率だけ考えればいいってものじゃないんだが、これはそうではない。これは大きな違いだ。

 余談だが、素人が麻雀を始めるなら、まずネット麻雀をお勧めする。ネット麻雀だと実際の麻雀の流れの殆どを自動でやってくれるし、点数計算やらもしなくていいし、副露だって出来る時は通知してくれるし、立直も同様だ。だから単純に牌を揃えて相手を見ることだけに集中出来る。そうやって麻雀の楽しさを先に味わってから、細かいところに手を伸ばしていくのが良いかもしれない。リアルで先に憶えた方が後々の為になるし、麻雀本来の魅力を味わえるって言うプロも多いんだけどな。ただ最初の敷居は低い方が良いに決まってる。門戸は広くした方が良い──と俺は思っている。

 まあ実際のプロの興行、子供に教える麻雀教室みたいなのをやる時はそうも言えないので、丁寧に教えてやるしかないんだけどな。こういうのははやりさんが一番得意だ。何と言っても牌のお姉さんだし。初心者から上級者まで、幅広い雀士に教えることが出来る。何気にはやりさんもネト麻強いんだよな。確か。対局したことないけど、前にそんな話を聞いたことがある。

 ともあれ、俺はネットだとそこそこ出来る──いやほんと、これでプロの試合やってくれないかな。それなら多少は可能性が……あればいいなぁ。

 まぁとにかく、対局を適当に進めていく。今日は日曜日だし、人も多い。それなりの段位の奴も多いが……適当に蹴散らしていく。

 とはいえ負けることだってあるのが麻雀だ。しかし、こういう時の負け方だって重要。負ける時、どんなに酷くても三位。出来ればニ位を取っていけば、自ずとレートも上がっていく。

 駄目な時は駄目と切り替えてニ位狙い、三位狙いとかしてしまった方が結果的に上手くいく。まぁトッププロとかだとね、勝率5割超えなんて当たり前だし、勝率8割、9割とか、はたまた国内無敗とかいう訳わからんのもいるし、常識が基本的に通用しない麻雀界だが、ネットは比較的平和だ。

 本来、これが普通の麻雀って気もするが、現実がああな以上、あれが麻雀なのだ。ネットの方が異端。世の殆どの奴らはオカルトなんて信じてないみたいだが、ちょっと疑問に思った方がいい。国内無敗とか、毎局7連続、8連続和了とかするような奴らがいるんだぞ? 偶然な訳あるか。あんなのは全部能力だ能力。運が良いで済んだらオカルトなんていらない。この世は思ったより常識が通用しないんだ。ほんと、マジ魔境だわ。

 ……考えてると段々イラッとしてきたな。いや、まぁある意味ストレス解消になるからいいんだけどな。

 ネット麻雀は俺も無双出来る戦場。趣味は悪いが、雑魚を蹴散らして俺ツエーするのは気分が良いことには違いない。

 

「っと、次のカモが……」

 

 一応雑魚狩りみたいなみっともない真似をするつもりはないので、部屋を立てて高段位以外を弾く設定で待っていると、部屋に新しい人が入ってきた。俺と同じ最高段位だ。名前は……“のどっち”? あれ、どこかで聞いたことあるような……。

 

「あー……思い出した。連戦連勝で噂の“のどっち”か」

 

 ネット麻雀だと都市伝説みたいな感じで噂されてるプレイヤー、のどっち。なんでも滅茶苦茶強く、運営が用意したプログラムって噂もあるほどの雀士らしいが……まさかここで当たるとはな。

 ここに二年程で格段に有名になったこともあって、俺は対戦経験がない。プロ生活中は殆ど、やっても一ヶ月に一回とか、それくらいの頻度でしかやってなかったしな。

 だけどまぁ、最高段位とはいえ実力はたかが知れてる。先程から同じ様な相手と対局してきたが、特に他の奴らと変わらない。アマチュアに毛が生えたくらいのアマチュアだ。俺はそれで例えるなら、そこから数本は毛が生えたくらいの実力なので、負け越すことはないだろう。プロの世界に比べればこんな戦場は甘っちょろい。

 なんだか可愛らしい天使のアバターから、『対局よろしくおねがいします』──と挨拶。こちらも同様に挨拶。何気に中途半端に強い連中だとマナーが悪い奴も多く、暴言なんかが飛び出てくることもあるのだが、のどっちはそういうタイプではないか。

 とはいえ、負けた時になんて言うかが見ものだな──と、俺は対局を始めたが、

 

「──う、嘘だろ……マジか……?」

 

 俺は……負けていた。しかも連戦連敗。

 ニ位に位置することは多いが、トップは常に“のどっち”。俺が一位になれた局はない。

 とんでもない化け物だった。なるほど、これなら運営が用意したプログラムと噂されるのも頷ける。というか、そうであってほしい。もしそうでないとしたら……、

 

「ああああっ、クソっ! もう一回だ! もう一回!」

 

 まるで現実のプロと対局するかのような理不尽さ。それをアマチュアから感じて、しかし俺はイラッとしてそれを認めきれず、何度も対局を挑む。

 他の対局者がのどっちの強さに折れて部屋を退出し、別の者が入って再び対局──そして負ける。それを何度か繰り返す。

 だが俺は現実とは違い、勝算があった。それはネットだからこそだ。

 

「連戦連勝なんてありえねぇ……どこかで絶対綻びが、隙があるんだよッ! どんだけ早いつっても毎局毎局和了れる訳じゃねぇだろうが!!」

 

 そう、オカルトがないのであれば、全ては偶然だ。

 ならば勝機はある。今は偶然、俺が負けているだけ。俺が負ける番が、偶然多めに来ているだけ。

 一回も勝てないなんてあり得ないのだ。あるとしたら、それはもうオカルトだ。電子の世界にもオカルトが存在することの証明となる。

 それがそうであれば諦めもつくが、この段階ではまだ違う。オカルトでない可能性だってある。俺はオカルトがあると知っている身だが、だからといってこっちはまた別問題だ。ネットでオカルトが作用するなんて聞いたことがない。

 むしろ場の支配なんかで滅茶苦茶なことをするオカルトも、ネットだとそれが出来ないという話も聞いたことがあるのだ。

 だから電子でこれだけ強いということは……それこそ、現実でも化け物の可能性がある。

 その可能性を考えて少し身震いするが……まだだ。まだそうと決まった訳ではない。

 諦めるのはもう少しやってからだ。俺は対局者がいなくなって、また集まるのを待ち、対局に備える。

 願わくば、のどっちが飽きてこの部屋から退出しないことを祈るのみだが……まだやるつもりではあるらしい。俺と二人だけになってものどっちは部屋を退出する気配を見せない。

 だがそれでいい。タダでは帰らせねぇ。ここは俺の最後の戦場だ。

 プロの世界を追われた俺が、心の安寧を保てる最後の地。謂わば心の支柱。精神を守る大事な砦の一つだ。

 ここでも完膚なきまでに負けでもしたら精神が崩壊──はさすがにしないが、まあ、ちょっと泣くかもしれない。みっともなく喚くかもしれない。漫画じゃないんだし、心が壊れるは言い過ぎたかもしれないが、少なくとも気分が悪いことは確かだ。

 

「よし……もう一回だ……!」

 

 俺は次の対局へと進む。これで10局目。絶対、絶対一回は一矢報いてやる。一回だけというのが俺らしくて何とも情けないが、逆に言えば一回で十分だ。一回でも勝てたなら、それで心は保てる。一回勝てたなら、無敵ではない。次も勝てるのだから。

 だから俺はじっと耐えて、その機を窺う。もうどれだけ負けようと関係ない。負ける度に俺のレートは下がって、のどっちに吸われ続けているが、構わない。幾らでも貰ってけ。こんなのはそこらのゴミ共から集めた塵屑みたいなもんだ。別にいらん……って、吸われすぎて段位下がりそうじゃん。やっぱ止めて? のどっち、俺のレートちゅーちゅーするのやめて? ねぇ聞いてるのどっち? レートちゅーちゅーやめてくんない? ぬわああああんもおおおお!! 段位下がるの嫌ああああああ!! 

 レートくらいならともかく、段位下がるのは嫌っていう感覚分からない? 俺はそうなる。いやちょっと、ほんとに勘弁してくれませんかね……? 

 とか思っても対局は進む。切断したらどっちみちレート下がるし、どんなに嫌でも対局を進めるしかないのだ。

 だが、そんなこんなで頭を悩ませていると──

 

「お……これ、四暗刻行けるのでは?」

 

 役満、四暗刻。役満の中で最も出やすい、暗刻を四つ揃えるだけで成立する役だ。

 他の特定の牌を使わなければいけない役満と違って、34種ある牌のどれを使っても成立させることの出来る自由な役満。

 簡単に言えば、同じ絵柄を三つずつ集めればいい。3つで一つの1セット。4つ集めて残りは2つの同じ絵柄、対子があれば四暗刻だ。

 まだ出やすい上に役満だとバレにくい役満でもある。プロや学生の試合でも、出ないことはない役満だ。

 だからそこまでの驚きではないにしろ、のどっち相手の役満ともなれば、勝ちの目が出てくるため、悪くはない。シャンポン待ち──対子が二つではなく、単騎待ちではあるが、四暗刻はシャンポン待ちだとツモ和了りのみで、確定単騎待ちであればツモでもロンでも構わない。

 つまり、のどっちにぶち当てて最下位に落とし、俺がトップになることも可能だということだ。

 

「よし……振り込め……振り込め……」

 

 単騎であれば、待ちはこっちである程度操作可能だ。フリテンにだけ注意して、河を見ながら適当に……そうだな、この辺りで……。

 俺はそうして後はただツモ切り。和了り牌が来るのを待つ。理想はのどっちに直撃だが、別にそうでなくともトップは確定だしな。ただ点差的にまくられる可能性を考えると、一応ロン和了りで誰かを飛ばしてしまった方が勝つには確実だ。

 まぁ役満なんて事故みたいなものだが、勝ちは勝ち。それこそ、野良犬に噛まれたとでも思って諦めて貰おう。

 というわけで、待つ。ひたすら待つ。こうなったら麻雀は祈ることしか出来ない。ただ祈って待つのみだ。

 そうしていると、遂にそののどっちから──

 

「っ! 来たあぁっ!!」

 

 ロン、とクリック。音声が流れて、役満、四暗刻という表示。親は俺。親の役満なので48000点だ。

 のどっちの点数がマイナスになり、のどっちが飛ぶ。結果は俺がトップで、最下位がのどっち。対局は終了。

 

「やったぜ……! イエス! イエス! イエス!」

 

 ネット麻雀なのに久し振りに滅茶苦茶熱くなってしまう。現実でガッツポーズ。誰かとリアルでの対局ではない。現実で1人であるため、何をしても何を言っても問題ないのだ。俺は面白外人のように何度も勝利を喜ぶ。これはボブがやってたのがちょっと伝染っただけだ。ゲームとかだとこんな感じで喜ぶ。

 だが見れば画面上では、のどっち以外の他二名が『役満とかつまんね。抜けるわ』。『チート乙』とか言って抜けていった。は? 君等何言ってんの? 弱すぎなんだけどマジで! 役満出たくらいで暴言とかチート扱いとかこのゲームやめたら? お前らの頭はハッピーセットかよ。

 ──なんて酷い煽りを頭の中で思い浮かべたが、実際には書き込むことはない。書き込む必要なんてないのだ。煽ったところで面倒にしかならないし、そもそもマナー的にどうなのよって。ネットだからってそんな暴言とかさぁ、いい大人ならしないと思います! 

 とりあえず、対局ありがとうございましたと打ったところで、どうするかと迷う。もうちょっと対局していってもいいけどな。一応、今のでちょっとレートは取り返したし、まだ少し余裕はある。

 だからまだリベンジするかどうかを、のどっちのアバターを見ながら考えていたのだが──って、ん? なんかチャットが……。

 

『対局ありがとうございました。役満、凄いですね』

 

 おお? さっきまでは普通に対局時の挨拶と終了時の挨拶。二種類しか書き込むことがなかったので、本気でプログラム説を考えてたところだったんだが、どうにもそうじゃないっぽいな。普通に話しかけてきた。

 何いきなり話しかけてきてる訳? と返してもいいが、さすがに失礼だ。俺は無難に書き込む。

 

『それほどでもないです』

 

『私、役満なんて久し振りに直取りされました』

 

 私、か。結構丁寧な人なんだな。ネットの一人称ってリアルと違って丁寧寄りではあるから特におかしなことじゃない。

 

『まぐれですよ』

 

『それはそうですが、それでも凄いと思います。役満の確率は僅か0.049%。約2000局に1回しか出ません』

 

 いや、それはそうですがって、まぐれであることは何気に否定しないのはなんなんだ? 褒められてるのかそうじゃないのか……あ、いや、これ単純に役満が出たことを凄いって話題に出してるだけか。

 ということはお喋りでもしたいのかな? まぁ、ネットだとそういうのも醍醐味の一つだ。マナーを守ってやる分にはこういった馴れ合いだって立派なコミュニケーションの一つ。普通に楽しめる。別にネットだからと馬鹿にすることも否定することもない。

 

『そうですね。役満は珍しいです。ただ最近はちょっと、役満で和了る確率も前よりは高くて、自分でもびっくりなんですけど……』

 

『それは凄い偶然ですね。偶然とはいえ……あ、いえ、すみません。別に偶然偶然と、ヤクマルさんの実力を否定している訳ではないんですが……』

 

『大丈夫ですよ、気にしなくても。偶然であることは自分が一番よく理解していますから』

 

『そういう風に聞こえたのなら申し訳ありません……』

 

 ん、なんだ。今更気づいたのか? いやまあ別にいいけど、どうにも……なんだろうな。多分、デジタル派でオカルトのことを微塵も信じてない感じがする。

 役満なんて、オカルトを使用すればバンバン上がってくるやべー奴もいるくらいなんだが……まぁ、それを言ってもしょうがない。実際俺のは偶然だしな。腕とか関係ない。

 ただこの“のどっち”は今の一連の発言を少し申し訳なく思ったみたいだ。いやほんと、別にいいんだけどな。なんかこうなると変な感じだから俺の方から話題を変えてやろう。

 

『そんなことより、のどっちさんって凄く強いんですね』

 

『いえ、それほどでも……』

 

『最後に役満で一位を取ったとはいえ、完敗でした。自分も、もうちょっと精進しないと駄目ですね』

 

『ヤクマルさんは強いと思います。打ち方も凄く合理的でしたし、今まで相手にしてきた人達の中でもかなり手強かったですよ』

 

 うん。それはいいんだが、なんか全部上から目線だなって。こっちが下だから当然なんですけどね! 

 だがまぁ、謙虚に行くしかない。俺はこういう人前では良い人振りたくなるのだ。馬鹿にしたり、嫌味な事は心で思うだけで十分だ。直接、つい口にでちゃう奴らよりは大分良心的だと思う。

 

『のどっちさんにそう言われると嬉しいですね。ありがとうございます』

 

『────』

 

 あれ? 返事が来ないな。チャット欄は俺のチャットを打った時点で中々返信が来ない。

 まぁネットだし、相手にも色々あるんだろうけどな。親や友人が来たとか、電話が来たとか、トイレに行きたくなったとか色々。別にこれくらいでどう思うでもないが。なんなら切断されたところで、回線が切れたのかな、くらいにしか思わない。

 とか思ってなんとなく携帯でも開いて時間を潰していると、しばらくしてチャット欄が動いた。なになに──

 

『ヤクマルさん。私と、フレンドになってくれませんか?』

 

「んー……?」

 

 現実で首を傾げて唸る。フレンドねぇ……別にいいんだが、なったところでどうだと言うのかってのがある。

 まぁのどっちといつでも麻雀が打てるのがメリットと言えばメリットか。普通に交流出来るってのもあるが、俺はそもそも、そんなに交流して楽しむ方じゃない。オンラインゲームとかならともかく、麻雀だしな。別にギルド作ったり、フレンドだからってパーティを組めたり、結婚出来たり、何か恩恵がある訳ではないのだ。別に何か恩恵がないと駄目って訳でもないんだけれども。

 ……ま、いいか。どっちみち暇だし、別にフレンドになったところで交流する義務が発生する訳ではない。なので俺は軽い気持ちでキーボードを叩いた。

 

『いいですよ。それじゃあフレンド依頼、送りますね』

 

『はい! よろしくお願いしますね、ヤクマルさん!』

 

『こちらこそ、よろしくお願いしますのどっちさん。暇があればまた対局しましょう』

 

『私は主に、平日の夕方から夜0時まで。土日祝日は今日みたいにお昼からインしてる時もあります』

 

 なんか結構前のめりというか、グイグイ来るな……そんなに俺というカモをボコボコにしたいのかな? 

 ただのどっちくらいの強さだと、全員カモみたいなもんだし、ぶっちゃけ誰だろうと変わらんだろうな。だからそういう訳ではないんだろう。

 というかこれ……俺もいつログインしてるかとか言わないといけないんだろうか。えー、俺今無職だし……いつインするかとか気まぐれでしかないんだよなぁ……逆に言えばいつでもいいんだけど、とはいえ俺にも最低限の見栄ってもんがあるしな。ええと、

 

『自分は仕事によっては一日中家にいない時もあるんですが、休日などは暇なのでお昼とか、あと夜も平気ですよ』

 

『わかりました。憶えておきます』

 

 いや、別に憶える必要はないんだけどな。毎回その時間に来るって訳じゃないし。

 というかのどっち……平日の夕方からで土日祝日は休みって、結構まともなとこで働いてんねぇ! それとも学生かぁ? どっちにしろ俺からすれば眩しい奴だなぁおい! 

 

『今日はこれからどうするんですか?』

 

 いや、何いきなり聞いてきてる訳? まだ対局するかってこと? リアルなこと聞いてきてるみたいで怖ぇよ。まさかとは思うが、ホモ野郎じゃないだろうな。

 同性愛者も多いからなぁ……特に、IPS細胞やら妊娠やらの技術が向上して同性でも子供が作れるようになったりしてから多くなったと聞く。

 その関連技術のおかげで中出ししても避妊は容易になった訳だが……って、こんなこと考えてる場合じゃない。まあのどっちは微妙に変な奴な可能性があるとして、とりあえず返信を返そう。

 

『そうですね……もう少し、打っていこうかと』

 

『なら私も打ちます』

 

 なんか反応早くない? 圧が凄い。“なら”ってどういう意味だよ。深い意味はないんだろうな? 意味深、とかだったら俺は即フレンド解除するが。

 

『そういえば、先程あれだけ負け続けていたのに、どうして私の部屋から出なかったんですか?』

 

 ──いや、ここ、ワイの部屋や。思わずツッコミそうになる。いい加減にしろよハゲ! 自然に乗っ取ろうとしてんじゃねぇよ! 

 まぁこの作った部屋を放置して、残った人に権限を渡して、俺がまた別のところに部屋を作ることも当然出来るので、それ自体はまだしも……もうちょっと気を使え。あれだけ同じ相手ボコしてレートちゅーちゅーする奴なんてそうはいないぞ。俺でも、数回やって一位取りまくってたら別の部屋に行く。部屋主じゃければな。マナーっていうか、暗黙の了解って奴だ。守らない奴も腐るほどいるし、俺も普段は気にならないが、自分の部屋のように言われるとそれはそれで気になる。

 だが意味は理解る。多分、どうして自分との対局を止めなかったのかを聞きたいのだろう。確かに、のどっちとの対局で他の奴らは全員心が折れて退室していったしな。

 ひょっとしたらのどっちはそういうことばかり起こしてきたため、全ての部屋を自分の物だと思ってるのかもしれない……いや、ねーよ。どんな暴君だそれは。滅茶苦茶すぎる。多分言い間違いというか、ちょっとしたうっかりだろう。気にしないことにする。

 だがまぁ、一応返信するか……んーと、ちょっとオブラートに包んでやろう。

 

『のどっちさんの闘牌がとても魅力的で、なんというか、麻雀が好きだって気持ちが伝わってくるような、凄くいきいきした打ち方をしてると思ったので、もっと対局したいなって思ったんですよ。勿論、勝ちたいって気持ちもありましたけどね。自分ものどっちさんと同じで、麻雀が好きですから』

 

 こんなところか。意訳すると……“てめぇ、俺のことボコボコにしやがって、調子に乗ってんじゃねーよ。そんなに弱者を甚振るのが好きか? なんかすげームカつくからどうにかボコってやれないかと思ったけどな。俺もお前と同じで、自分のこと強いと思ってる奴をボッコボコにするのが大好きだからよぉ。……でもやっぱ無理でしたすみません”ってことだ。最後の謝罪が訳されてないのは、俺のプライド的に負けを認めるのがなんとなく癪だったという気持ちが隠れてる。意訳だと、それが現れる。はい、ここテストにでまーす。

 ここまで褒め殺しだと、さすがに皮肉だと気づかれるかどうか。素直に受け取ったなら受け取ったで笑ってやろう。

 

「……って、また返信来ねぇ」

 

 それに人も来ない。さすがにボコりすぎたか? 部屋を作り直さないと人が来ない気がする。ここは悪名高き部屋だと殆どの高段位の奴らにバレてるだろうし。

 でも放置するのもなぁ……って、やっと来た。遅いんだよ。えーと、

 

『そうなんですね』

 

 質素な感想過ぎてなんも言えねー。さっきまで前のめりだった癖になんだ? もしかしていっちょ前に照れてやがんのか? だとしたら随分と可愛らしい性格してんじゃねぇか。どうせおっさんの癖によ。

 可愛いアバター使ってる奴が可愛い美少女の筈がない。いや、可能性としてはあり得るんだが、ネットだとネカマの可能性の方が高すぎる。いや、ネカマっていうか、単純に女キャラクター好きで使ってる率とかもな。別に女を装ってる訳じゃなくても、そういう奴って多い。のどっちも、おそらくそうだろうと、

 

『すいませんヤクマルさん。急用が出来たので失礼します』

 

『あ、はい。分かりました』

 

『また必ず打ちましょう』

 

 って、今度はいきなり急用って……まぁ急用ならしょうがない。そこに文句を言ってもしょうがないのだ。相手の事情が分かる訳でもないしな。もしかしたら本当に緊急事態である可能性もあるし、大した用事でもない、極端な話、抜けるための建前や嘘だったところで、こちらが何か言えることはない。浅い付き合いだからこそのコミュニケーションだ。

 だから特に含むところもなく、俺もログアウトしようかなーと思っていたのだが、

 

『私も、ヤクマルさんともっと打ちたいです』

 

「……ん?」

 

 え、何? その何とも言えない一文。ちょっと怖いんだけど。いや、文章だから多少素っ気ないというか、ちょっとマジに見えるのは仕方ないのだが、それにしてもなんかやべー奴みたいな淡々とした文だから怖く見える。

 おそらく深い意味はないのだと思われるが、なんかなー……いやいいんだけどさ。別にネットで厄介な奴に遭遇したところで、いざとなったらブロックなりなんなりすればいいしね。リアルで会うことなんてないんだからどうだっていいし、どうとでも出来る。

 

『それではまた』

 

『はい、また』

 

 ……大丈夫だよな? 一応返事も返したけど、リアル特定されて凸とかしてこないよね? ないとは思うし、警戒し過ぎだとは思うが、ネットでそんな真っ直ぐな言葉を伝えられると疑心暗鬼になってしまう。

 いや、もしかして俺みたいに裏の意味を隠してんのかな? もっとボコボコにしてレート吸いたい、みたいな。よくも私の無敗伝説を役満で阻止してくれやがったな、フレンドにして何度でもボコってやるから覚悟しろ、みたいな。やだ怖い……確かに、そっちの方がありえるかも。負け越すのは確実だし。懸念は解消されたが、ちょっと別の意味で不安だ……もうちょっと練習しとこ……。

 俺はしばらく、ネト麻で練習がてら、下がったレートを元に戻していく作業に没頭した。

 

 

 

 

 

 ──とある県のとある一軒家。その一室。

 

「……ヤクマルさん……」

 

 はぁ……と、熱い息を漏らしたその人物は、胸に抱いていたぬいぐるみに力を込め、自室のベッドへと寝転んだ。




のどっちが完全にやべー奴になったなって()。一体何者なんだ……?
次回はエロエロイベント。久し振りにプロ二人が登場します。
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