とりあえず、まずは何にしても対局だ。
「それじゃ東郷さん、よろしくお願いしますね」
「……よろしくお願いします」
「…………」
「華菜? 駄目よ、挨拶はちゃんとしなきゃ」
「……よろしくお願いします……」
「……おお、よろしくな」
自動卓に並んだ俺を除く3人が挨拶をする──池田ァ! 挨拶も出来ねぇのかァ!! ……と、声が飛んできたりはしない。
やはり部員が80名もいると指導の手を行き渡らせるのは大変だろう。久保コーチは幾つかの卓を見て回りながら、時折大きな声で部員を叱咤している。室内の緊張感は中々のものだ。
だがこちらの方はそうでもない。ただ、別の意味で緊張感は持ってるようだ。
一応元プロの俺と対局するってんだから無理もない話だが……久保さんじゃないことにほっとしてもいるし、池田の反応にひやひやしてるようにも見える。
まあその池田はこちらをずっと見て──睨んでいる。いやいや、そんな見られても困るんだけどな……さっさと対局しようぜ。
別に俺は福路に直接アプローチをする訳ではない。真っ向から口説いて上手くいくなら口説いてる。上手くいく訳ないから、オカルトに頼っているのだ。
だから俺が福路に近づくかどうかを見ていてもしょうがない。……まぁ、その時が来れば接触はするが。
とはいえ麻雀の方もおろそかには出来ないんだよなぁ。とりあえず、最初の試合は役満狙いで行きたいが、この面子は……、
「……池田もランキング上位なのか?」
「華菜は2位で去年の特待生なんです」
「そうだ! 馬鹿にすんなし! お前に比べたら──」
「華菜?」
「と、東郷……さんに比べたらあたしの方が凄いんだからな!」
「ほー……」
強豪校だと麻雀特待生の枠で推薦で入れたりするのはよくあることだ。……というか池田。多分、福路は呼び方もそうだが、その後の言葉にも注意しようとしてたと思うんだが……。
だがまぁそうやってマウントを取ってくるなら好きにすればいい。その類なら逆に取り返すことも出来るのだ。
俺は何気ない感じで言ってやる。席に着きながら、
「奇遇だな。俺も高校は特待生の枠で入ったんだ」
「まぁ、そうなの? なら私や華菜とは特待生仲間ですね!」
「ふ、ふん。どうせ大したことない学校だし」
「一応、白糸台なんだけどな」
「えっ」
池田が間の抜けた声を出す。何気に会話を聞いていた他の部員も驚いていた。福路も手を叩いて、
「まぁ、あの白糸台で特待生なんて、東郷さんは凄いのね!」
「つ、強くて有名なのは女子だけだし……」
池田ァ!! 声が震えてるぞォ!? ははは、さっきまでの勢いはどうした?
ま、俺に入った高校でマウントを取ってきたのが間違いだったな。麻雀をやってる女子高生で白糸台の名を知らない者はいない。白糸台に特待生としてスカウトされて入った俺は、このことを言うだけでそれはもう尊敬される。以前、キャバクラでこれを言ったら同席していたキャバ嬢が中高と麻雀をやっていたようで色々と話を聞かれた。
だが何気に池田の言葉も間違いではないというか、男子はそれほど有名というわけでもない。それでも、俺がいた3年間は毎年全国には行ってたけどな。そういう意味では俺の白糸台の看板も、虎の威を借る狐という訳でもない。虎姫だけに。やかましいわ。
しかし池田が2位ってのはちょっと心配になるな……本当に強いのか? 風越女子……ランキング上位の面々もぱっとしないというか、2年生が多いのが何とも悲壮感漂うというか……3年はどうしたんだろうな。こういってはなんだが、不作の年だったのだろうか。
俺と最初に対局する面々も、福路、池田、名もなき2年生だ。いや、名前はあるだろ。名もなきファ○オだって名前あったし。だがちょっと分かんない。凄い太ましくて、ランキング4位らしいが……まあドムでいいや。ガン○ムほぼ分かんねぇけど、足太いし。
一応ランキング上位の面々だが、さてどうなるか。……というか、この面々だとツモ和了りだとちょっとキツい……ツモ和了りのオカルト効果はなんとなく不安定とはいえ、もしこの席の3人が惚れるとなると、福路はともかく、池田やドムがついてくる。いらないセットだ。単品でくれ。
いやまぁ、池田はよく見れば美少女なんだけど……ちょっとさっきから印象が……うん、なんとも言えない。
福路に直撃させれればいいんだが、なんか普通に強そうなんだよなぁ。どうしたものか、と対局が始まる訳だが、すると案の定、福路が、
「ツモ!! 1500・2900だし!!」
って、池田ァッ!! お前かよ! 後なにげに高ぇ!!
いやいや、俺は親じゃないし、この和了りで俺に親が回ってくるから別にいいんだが……福路の立ち上がりは大人しいな。やべー奴だと東1局からヤバかったりするんだが、福路はそういうタイプではないらしい。それは朗報だな。後半爆発するタイプなら、前半にどうにか出来れば……出来れば苦労しないんだがなぁ……。
とりあえず、対局を長引かせるに越したことはない。役満を狙えるなら狙うが、可能性を高めるために親の時は連荘しておいた方がいいのだ。
「ツモ。発のみ、500オール」
「──ロン。ダブ東、一本場で3200」
よしよし、まあこんな感じで……まぁ、普通の麻雀ならこれでいいんだけどな……そうじゃない。全然よくない。俺は役満を和了らなければいけないのだ。
それをどうにか福路にぶち当てなければならない。こんないい女を捨て置く訳にはいかないのだ。
そういう使命感で二本場。俺はドムから受け取った点棒を収めつつ、次の自分の配牌を見て思う。
字牌多っ……これなら字一色か、場合によっては四暗刻も狙えるか……?
手牌に東、西、北が2つずつ、発が3つ、中が1つ。他は六索、一筒、八筒だが、一応、字一色が狙えなくもない。
役満、字一色ってのは、そのまんまの通り、字牌のみで作る役満だ。
手牌を字牌で染めればいい。染めれるなら対々和だろうと2枚ずつの七対子でも構わない。七対子だと副露出来ないが、逆に言えば他は副露したっていいのだ。
だが字牌ばっか鳴いてると警戒されそうでなんともなぁ……別にツモればいいって考えもあるが、それだとセットで池田とドムが……くっ、悩ましい……!
好きなおかずが入った弁当に嫌いな副菜が入ってる時の気分だ。自分で買った以上は、なんとなく全部食べないといけない感じがするので困る。お残しは駄目だ。何か理由があるならともかく食べ物を粗末にするのはいけない。
いや、マジでどうしよう……据え膳食わぬは男の恥とは言うが、嫌いな物が出てきても食べなきゃいけないのか? しかし放置するとそれはそれで厄介な事になりそうだしな……あー、どうしよう。
しかもそんなこと言ってる間に綺麗に東、西、北をツモって……って、これルールによっちゃあ字一色、四暗刻のダブル役満じゃねーか……! おいおい、ダブルとか食らわせたらどうなるんだ……?
今年の高校のルールにダブル役満はないし、普通の役満と変わらないだろうが、いや、マジで来たのはいいが、これを福路が振り込む確率はあるのか……? いや、残りは中だし、放銃する確率はあるな。鳴いてもないから情報も少ないし、全然あり得る。
だがそれは他の奴にも言えることだ。何気に単騎待ちってのが痛い。もし一巡以内に福路以外の……池田からの捨牌を見過ごせば福路からはフリテンになって和了れないしな。他の字牌をツモれば待ちを変えることも出来るが……出来ればさっさと福路が振り込んでほしい。
と、俺は福路をチラッと見るのだが──あれ、なんか右目開いてる……って、オッドアイ!? え、なにそれ? 自前? それともカラコン? いや、カラコン入れるタイプには見えないから自前だとは思うんだが、だとしたらそれ完全にオカルトじゃねぇかよぉ!?
右目は青く、左目はブラウン。いや、オッドアイは一応、先天的に現れる珍しいが普通の症状だし、オカルトがあるとは限らないのだが……俺はそうは考えない。麻雀やってて、そういう分かりやすい特徴があるなら十中八九オカルト持ちだと考えた方がいい。
ってなると福路は既に何らかのオカルトを発動してると仮定すべきだが……。
「…………」
「!」
目が合って、ニコッと微笑み掛けられた。可愛い。可愛いけどなんだ? どうせオカルト使ってんだろぉ!? そういう感じの笑顔はいらねぇんだよ! 可愛いけども!
くそっ……絶対落として後でめちゃくちゃに可愛がってやる……一応、こっちの方が有利の筈だ。
中はまだ場に出てない。どこかには眠ってるはず。抱えられてたらちょっと困るが、それでも可能性はある。
さあ、振り込め……! そう思った矢先のことだ。
「立直だしっ!!」
ビシッ、と牌を横に捨てて立直宣言。しかもそれは中だ──って、お前じゃねぇぇんだよ池田ァッ!! 俺の邪魔してんじゃねぇ!!
ぐっ……池田、池田か……くそ……これが福路なら迷わずロンなんだが、池田を落としても……あ、いや、先に池田を落として言うことを聞かせれば福路への妨害札が1枚減るのでは……?
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、という言葉もある。先に池田を落として──って、ああっ!? そんなこと考えてる間に場が進んでるじゃねーか!? ああ、くそ、良かったような良くないような……。
だがこれでフリテンだし、これでは和了れない。と、俺はそのまま対局を進める……何気にその後すぐに福路も中を捨ててたのが何とも言えない。池田ァッ!! お前が先に捨ててなければ直ぐにでも終わったのによぉ!!
とりあえず、待ちを替えて四暗刻単騎を狙ってみるも、ぬるりひらりと躱され続ける。全然当たんねぇ……ツモった白で再び張ってみるも結局、
「テンパイ」
「くっ、和了れなかったし……」
と、俺や池田がテンパイで流局。そのまま次の局に移ろうとするのだが、福路が俺の方を見て目の色を変えると、
「……東郷さん、その手牌……」
「ん……ああ……これは──」
って、あっ。やべぇ、そうだ。
「つ、字一色テンパイ!?」
「うわっ……」
池田の驚きの声が響く──いや、まあそうだよな、バレるよな、手牌晒すし。
しかも何がマズいって、見逃したのがバレることだ。当然だが、福路はそれを見逃していないようで、
「……東郷さん。どうして華菜から直撃を取らなかったんですか? 立直宣言の時に出た中は貴方の和了り牌ですよね?」
「って、あっ、本当だし!?」
いやまあ、そうなるよな。なんで見逃してんのって。
さて困った。いや困った……どうするか。どうにか適当な理由をでっち上げないといけない。くそっ、こんなんばっかだな。なんかそれっぽく──
「……まだ試合は始まったばかりで、それも東2局の2本場だ」
「はい。でも、それが……」
「俺はお前達の実力を向上させるためにここに来たんだ。いきなり役満ぶち当てて試合終了ですぐに交代じゃあお前達の腕を見ることも出来ないだろ? だから見逃した」
「! なるほど……私達の腕を見るために……」
「て、手加減なんて、なんかズルい!」
うっさい、黙ってろ池田。何もズルくない。いやまあプライド的にはアレかもしれんが、一応筋は通ってるはずだ。
「もう少し、俺にお前達の実力を見せてくれ。話はそれからだ」
「……分かりました東郷さん……! なら、ここからは全力で行かせて貰いますね!」
「お、お前なんかには負けないし!!」
あっ、なんかヤバそう……福路さんの目がキラキラしてる……。
どうにも火を付けてしまったらしい。池田の方も対抗心を向けてきている。
ああ……しかしどうしよう。これじゃあオーラスにでもならない限り、役満張っても見逃すしかないような気がする。いや、この場をやり過ごせたことに喜ぶべきか? 半荘一回で役満出ただけでも御の字だ。
「ロンです。7700」
「ツモです。1300・2600」
「ツモです。4000オール」
待て待て待て。福路さん待って。本気出しすぎィ!?
え、なにこの子、めちゃ強ぉ……さすが長野県1位。いや、感心してる場合じゃないんだよなぁ……。
気がつけば福路さんの親番で連荘。何気にドムが飛びそう。俺は池田に僅差で負けてるし……ちょっとヤバい。役満とか言ってる場合じゃねぇ。
「……ロン、1000」
「なっ、まくられた!?」
いや、一々声に出さなくていいから。池田はうるさいな……いや、俺にだけか? 普段からこれなら久保コーチにボコボコにされてそうだし。久保コーチが見てなくて助かったな。多分、耳では聞こえてるかもだし、対局が終わった後が地獄な気がするが、頑張れ。
とりあえずなんとかゴミ手で福路の親を飛ばしてみるが……なんかすっごいニコニコしてる。なんなんだ。まさかもう俺に惚れて──る訳はないが、なんかプレッシャーというか期待が凄い気がする。まさか今さっきのやりとりでちょっと尊敬されてたりするんだろうか。なんかありえそうだな……人を疑わなさそうな感じあるし。
ともあれ、そこからもまた福路さんがオッドアイモードでめちゃくちゃ和了った。結果、福路さんがトップ。俺は2位。池田が僅差で3位。ドムが最下位だ。
「どうですか、東郷さん。貴方のご期待に、私達は応えられましたか?」
「お……おう、そうだな。悪くない」
「くっ……もっかい! もっかいだし! キャプテンを除いてタイマン勝負を挑む!」
「華菜ちゃん……麻雀にタイマンなんてないよ……?」
そうだぞ、池田ァッ!! そこの眼鏡ちゃんの言う通りだ。名前は分からんけど、ランキング上位のメンバーで池田の友達っぽい。それにこの中だと結構可愛いな。まあこの子なら、ツモ和了りでついでに落としてもまぁ……しかしもう1人、選ぶとしたら池田になるのがなんとも……風越女子、こんだけ部員いるのに容姿のレベルは……うん、麻雀もだが、福路が1人飛び抜けてる感じがするな。
「ふふ、それじゃ次は吉留さん達とお願いします」
「あっ、はい! よろしくお願いします、東郷さん!」
「……ああ、ならどんどん行くか」
福路さんの指示でメンバーが入れ替わる。先程の眼鏡っ娘と他2名……なんかパッとしないな。眼鏡っ娘は吉留って言うのか。他は名もなき2年生2人。いやだから名前あるっつーの。俺が知らないだけで。
さっさと回してまた福路と打たないと意味がないし、スピード勝負だ。でも最初の1局は手加減しないと、さっき言ったことと辻褄が合わないし、最初はゆっくり目に。この場には10人だから、福路と打てるのは4局に一回くらいか。それでもまぁまぁキツいな……出来ればぶっ通しで打ちたい。他の卓で役満張ってもしょうがないし。
「なら、次はまたあたしが打つ! この悪い男を──」
「──池田ァァッ!! 聞いてたぞ! 目上への言葉遣いはどうしたァ!!」
「ひっ、コーチ!?」
あっ、池田がこっちに指差したと思ったら捕まった。今度は助けないぞ。タメ口くらい許してやってもいいが、池田の場合は調子にノリそうだからちょっとは痛い目見た方がいいと思う。
それに風越側からするとやっぱ失礼だしな。そりゃ教育するだろ。久保さん、上下関係に厳しいっぽいし。
「てめェ、名門風越の顔に何度も泥を塗りやがって! 敬語の一つも使えねぇのか、池田ァッ!」
「うっ、うぅ……」
うーん……泣くくらいなら俺にああいう態度取るなよ……分かりきってただろ? というか福路さんがまた止めようとしてるし……福路さん、毎回ああやって止めてるんだろうなぁ。
「コーチ。彼女の言葉遣いはキャプテンである私の責任でもあります。殴るなら、私も殴ってください」
って、止めてねぇ!? ああ、そういう……明らかに悪くないのに自分にも責任があるとか言って、相手に躊躇させる感じか。でも殴られそうだな……えぇ……どうしよう。他の奴なら止める気はないけど、福路さんが殴られるのはなぁ……うーん、人を選ぶとかさすがにクズい感じがするな……。
「よぉし! よく言った福路ィ!! 歯ァ食いしばれェ!!」
「っ……」
「キャプテン!?」
って、やっぱ殴るんかーい! いやー……体育会系って凄いよなぁ。最近は体罰ってバレたら死ぬほど怒られるけど、こういう勝負の世界だと横行してるのよね、実は……まあやりすぎるとテレビとかで問題になるってくらい。ビンタくらいならちょいちょいあるんだよな。俺としても、ビンタくらいなら軽いな、と思ってしまうのは時代とか生まれの所為だろうか。
「……大丈夫か?」
「……はい! 大丈夫です! 皆、練習を続けましょう」
「きゃ、キャプテン……」
一応久保さんが戻っていった後に大丈夫かと聞いてみたのだが……頬を赤く腫らし、それを全く感じさせずに微笑んで練習を続けようと言う福路。この聖人感である。部員から滅茶苦茶慕われてるのを肌で感じられる。池田も一緒に殴られてるし、泣きべそ掻きながら練習に戻ろうとした。
そんでまあ、ふと思ったんだが……風越が殆どプロではなくOGばかり呼んで練習試合してる理由が分かった。俺は平気だが、この空気はいたたまれないよね。普通の麻雀部や実業団なんかで過ごしてきたプロからしたら居心地悪いだろうし。さっきも言ったが、普通は体罰はご法度だ。
──と、そんな感じで風越のレギュラー陣と打ちまくったのだが、
「本日のご指導、ありがとうございました!!」
「よぉし! 解散! 1年は部室の片付けだ!! ──では、東郷さん」
「あ、はい」
結局、その日の練習は何事もなく終わり、俺は久保さんと一緒に部室を後にした。……結局、役満は一回っきりだったしな。しかも未遂だし。ありえないし。池田の口調が移るくらい、池田が邪魔だった。俺が福路に話しかける度に割って入ってきてたしな。敬語だったけど。さすがに懲りたのだろうか。でもあの分だとまた怒られそうだけどな。練習の妨げになってるし。
「……どうでしたか? うちの生徒は」
「うーん……そうですね。まず、福路はさすがの全国区といったところですか。自分も結構凹まされてしまいました。正直、1人だけレベルが違うと言いますか……」
「……そうですね。あまり言いたくはありませんが……福路の代、今の3年生は、福路以外の成績は正直……」
別室で久保さんと今日の総括をするが、まあそうだろうな、と思う。
ぶっちゃけ福路さん強すぎ問題。逆に他が弱すぎる。名門校のレギュラー陣なら、正直俺より強い奴なんてザラにいたりするもんだが、風越女子は精々、福路さん以外は池田くらいか。後は五十歩百歩だ。到底全国区の打ち手とは言い難い。
「それ以外だと、池田もレベルは高いと思います。特待生と聞きましたが、それも納得ですね。……まぁ、素行はアレですけど……」
「申し訳ありません……池田には、もっと強く、言い聞かせておきますから……」
いや、それ絶対殴られるやつやん。言い聞かせるっていうか、殴って聞かせるやつやん。えぇ……別にいいんだけど、まるで俺がやらせたみたいでなんとも言えん気持ちになるし、一応フォローしとくか。
「いえ、まぁ……ですがあの負けん気が強さの原動力とも言えますし、あまり矯正しすぎない方がいいかと……麻雀で大成する者には、生意気な者も少なくありませんしね。かく言う自分も、学生時代の素行はあまり良くありませんでした」
「ん……そうですか。まぁ、東郷さんがそう仰るなら、多少は大目に見ましょう……ですが池田はあまり調子に乗らせ過ぎるのも──」
ああ、うん。確かに、調子に乗りすぎてもダメそうな雰囲気はある。程々に調子に乗れれば良さそうだが、その加減が難しいな。ああいうムラのある打ち手は精神状態が一番の肝だったりするし、指導者の素質が問われるだろう。お、なんかそれっぽいな、俺。指導者っぽいこと言えるなら指導者に向いてるんじゃね? それが的確かどうかは分からないが、それっぽいこと言えるなら指導者にはなれるだろ、うん──指導者の方に謝った方がいいな。
「うちは去年のインハイで龍門渕に負けて切符を逃してます。今年こそは、なんとか雪辱を晴らしたいのですが……」
「新1年生に良さそうな生徒はいないんですか?」
「……一応、ランキング戦で見てはいますが、1年の時の福路や池田ほど飛び抜けている者はいませんね」
あー、なんというか、ここもここで厳しそうだな。まあ強豪校とはいえ、現実なんてこんなもんだとは思うけど。
地区予選で決勝までは確実に行けるけど、いつもそこで負ける高校──というのも珍しくはない。麻雀に限らず、野球やサッカーなどのスポーツでもよくあることだ。
その地区にライバル校──それも相当強い学校があったりすると、チーム自体は全国レベルなのに、全国に行けないなんてこともよくある。
出場出来る高校は各地区で一校のみだしな。これが中々厳しい。麻雀は運も絡むし、4つのチームが競い合う競技であるため、ちょっと間違いが起こったり、運が悪かったりするだけであっさり敗退することもある。
まぁ、それでも強いチームは毎年、ちゃんと全国への切符を手に入れて良い成績を残すもんなんだがな。麻雀が運ゲーではない証拠だとも言える。完全な運ゲーなら、毎年毎年勝ち進める筈もない。
つまり麻雀には流れやその場の空気──オカルトなどが絡んでいる。強い学校のエース級はマジで全員化け物じみてるからな。そしてそういう奴がプロに行く。だからプロの試合は魔境なんだが……観客も気づかないんだよな、意外と。あんな派手な展開が何度も続くのに、オカルトが存在しない訳ないんだが、ファンや記者の連中は全く信じてないみたいだし。
まあそれはいいとして、風越女子高校にとっての救いは、福路美穂子という全国的に見ても上位の打ち手がいること。後一応池田も。福路は支配系の様な死ぬほど強力なオカルト持ちという訳ではないが、それでも本人の技量もあってかなり強い。ユキに少し近いか。オカルト自体はそこそこだが、本人の技量も相まって全国レベルの実力を持つ雀士。
ただそれでも本物の怪物──宮永照や神代小蒔、最近だと千里山に未来が見えるエースとか……未来が見えるとかふざけてるが、マジっぽいからしょうがない。後は獅子原も今思えばそれに並ぶ化け物だな……あいつは何気に普通に打っても強かったりするし、オカルトを使いこなしてる。個人戦に出れば怪物連中に並んで結構いい勝負をしそうだな。
後は姫松の愛宕……愛宕選手。またど忘れした。絶対憶えてるんだけどな……とにかく福路は、愛宕選手と同等かちょっと劣る程度で強いかもしれない。あの愛宕選手も、オカルト持ちっぽい感じはしないんだけどな……それであれだけ強いんだから羨ましいというか、むしろオカルトがないのにあれだけ強いってのが逆にオカルトだ。たまにそういうタイプもいるが、分かりやすいオカルト持ちよりそういう奴の方が怖かったりする。
というかな……ぶっちゃけ団体戦なんて1人他校を圧倒できるエースがいれば逃げ切ることも可能なんだけどな。他の学校にそれを上回る化け物さえいなければ。
「……うーん、龍門渕の団体戦メンバー去年、全員1年生でしたから今年も健在。それどころか、更に強くなってる筈ですし、確かに厳しそうですね」
「……そのために、練習をこれまで以上に厳しくしています。私もそのために呼ばれましたからね。こう言ってはなんですが、龍門渕が現れるまで、地区予選はうちの一強状態でしたから、少しそれに甘えていた部分があると思いますし」
あっ、そうなのか。いや確かに、長野県の女子団体とか風越女子と……後なんだっけ、城山? 確かそんな感じの名前の高校くらいしか聞かない。
龍門渕が現れるまでの長野県予選は風越女子にとってはイージーステージで、本番は全国だったのだろう。そういや久保さんは俺の一個上で大学も出たばかりだし、何気にコーチに就任して間もないのか。龍門渕っていうやべー高校が出てきたからこそ、久保さんが呼ばれたと。
……どうしっよっかなー……俺、何気に風越の次は龍門渕行くんだけど、それ言わない方がいいかな……。
それに合わせて、実は龍門渕についても色々と調べた。まぁ、天江衣っていう魔物の疑いがある子を中心に。ちょっと実際に見てみないとヤバさってのは分からないが、牌譜や成績を見る限り、それでも福路よりも化け物っぽいので団体戦、エースでゴリ押し戦法は使えないだろう。
……とまあ真面目に風越女子の為に頭を悩ませてみたが、やっぱり7:3ってところか。風越では、龍門渕相手が分が悪い。
どんだけ部員がいようと、団体戦に出れるのは5名。極論、その5人にタレントが揃っていれば、部員の数なんてものは意味をなさない。
龍門渕は正にそのパターンだ。5名全員がそこそこ麻雀が打てる。化け物もいる。幾ら福路1人が強くて、池田が多少頑張ったとしても難しい。
「そうですね。明日からはもっと集中的に鍛えていきましょうか。福路は普通の雀士に持っていないものを持っていますし、自分と福路を常に置いて、ランキング上位の生徒と回し打ちをすれば、福路とランキング上位の生徒、その両方にとって良い練習になるでしょう」
「……強い相手と、とにかく打たせまくるってことですか」
「まあ、そうですね。風越で1番実力のある福路との対局が、他の部員にとって1番の練習になる。レベルの高い打ち手との対局に慣れれば、レベルを引き上げることも、また勝てずとも、その躱し方を身体で憶えることが出来るでしょう」
「ええ、確かにそれはそうですね。ふむ、でしたら明日はそのように練習してみましょうか」
よっしゃ! 来たでこれ! 福路さんとずっと打てるという大義名分を手に入れたぞ!
ぶっちゃけ他の面々の強化とかより、福路に役満ぶち当ててオカルト発動することが大事。今言ったことも嘘ではないが、他の奴らはついでに過ぎないのだ。一応仕事はやってるし問題ないな。
これで邪魔は最小限に──
「それと、出来れば池田も重点的に見て頂けませんか?」
って、池田もかーい! えぇ……いや、別にいいけど……というか断れないし。でも久保さん、あんだけ怒ってたけど、実は池田のことを特別目に掛けてるんじゃ……。
「……分かりました。まぁ、彼女が自分の言うことを聞くかどうかは不安がありますけど……」
「申し訳ないです。その点だけは、きっちり、言って聞かせておきますので、存分に指導してやってください」
あれ、なんだかツンデレに見えてきたな、そうなると。実は池田が1番のお気に入りなのか? ──やべぇ、超面白い。池田の事、気に入ってるんですね? とか言ってみようかな。いや、なんか俺がビンタされそうだしやめとこ。俺、一応年下だし、東郷ォッ!! ってされる可能性もなくはない。元プロの先生ってことで来てるから丁寧に接してるだけな気がするし。
「──すいません。コーチ、少しいいですか?」
「あぁ? 福路か? 入れ」
「はい。失礼します」
とかなんとか考えて、そろそろ帰るかと思っていると、福路がドアをノックして声を掛けてきた。なんだろう。いやまぁ、俺はもう帰るんだけどね。美少女と交流出来るなら残る。当たり前だよなぁ。
「今日の牌譜の整理が終わったので提出しに来ました」
「ああ、そうか、ご苦労。……また雑用か? 1年はどうした?」
「はい。1年生の子達が整理してくれたものを、キャプテンの私が代表して提出しに来たんです。──いけませんか?」
「……チッ、そうか。ならさっさと帰って休め」
「はい。それでは──あっ、東郷さんももうお帰りですか? それなら、少し今日の事で相談があるんですけど……」
「えっ? ああ……別にいいが……」
「あまり迷惑を掛けるなよ。……東郷さん、すみません。お願いします」
「ああ、いえ、大丈夫です。それでは今日のところはこのまま帰りますね」
「ええ、明日もよろしくお願いします」
なんだか微妙に違和感のあるやり取りを見て、俺は福路と共に部屋を出る。いや、多分だが、そういうことなのだろう。なんか久保さんの方はちょっと気に入らない感じが出てたし、俺は聞いてみることにする。
「……雑用を1年の代わりにやってるのか?」
「……いえ、ちょっとお手伝いをしただけですよ。手が空いていたので」
やっぱり雑用してたのか。なぜ3年でレギュラー、キャプテンの福路が、と思うも、なんかそういうのが好きだったりするんだろう。お世話好きというか、人の役に立つのが好きというか。めっちゃ聖人だな……そうだとしたら。俺の勝手なイメージだが、あまり間違ってないと思う。エプロンとか似合いそう……想像したらめっちゃ良いな。落としたあかつきには……。
「そうか。それで、相談だったか?」
「あ、はい。今日はご指導、ありがとうございました」
深々と腰を折ってお礼を言う。お辞儀の際の手が綺麗だな。手を前にして女の子らしい。笑顔だし。ほんと品のある美少女だな。
え、というか……なに?
「…………んんっ!? それだけか?」
「いえ、それと、苦手な物を聞いておこうと思って」
「……苦手なもの?」
「はい。食べれない物とかありませんか?」
ん、それは意味がよくわからん。咄嗟に、池田って答えそうになったのは内緒だ。
苦手な食べ物か……いや、実は結構あるけどな。
まさか弁当でも作ってくれたりするんだろうかと思うも、さすがにそれはないと思う。初対面の人間の為に態々お弁当を作るような聖人なんて……いや、あり得るか? 何気に明日は休日だし。……まさかとは思うが、聞いておこう。冗談めかして、
「……ははは、まさか弁当でも作ってくれるのか?」
「はい。いけませんか?」
「えっ」
えっ、なにこの子……マジ? 聖人っていうか、どういうこと? なぜ弁当を?
まさか普段からこんなことでもしてるのだろうか。よく分からない。いや、まぁありがたくはあるけどな。理由が分からんから困惑してしまうってだけで。
「……べ、弁当か。いや、いいんだが、なんでだ?」
「お休みの日は一日中私達の練習を見てくれると聞いていますし、お昼になったらお腹が空きますよね? ですから、せめてお弁当くらいはと」
「お、おお……そうか」
あらやだ、この子クソ可愛い……嫁力高い……。いや、まあこれでメシマズだったりしてオチがつきそうでもあるんだが、態々料理を作ってくる子がメシマズなんてことはない。ないと信じたい。
「ご迷惑でしたか?」
「ああ、いや、作ってくれるならありがたいな。それじゃあ材料費を……」
「くす、お気になさらないでください。好きでやっていることですし、大した金額ではないですから」
と、財布を取り出そうとした俺を優しく嗜める福路。よ、嫁や……! 嫁力高すぎてもう嫁に見える……!
JK新妻か……ありだな。というかなしの奴とかおんのけ? いやいない。
「あ、それと嫌いなものは特にないから大丈夫だ」
「分かりました。それじゃまた明日、よろしくお願いしますね、東郷さん」
「おお、気をつけて帰れよ。明日はもっと厳しいからな。今日は負けたが、明日は凹ましてやる」
「……はい。お気遣いありがとうございます。ですが……ふふ、私も、負けませんからねっ?」
と、最後まで丁寧な柔らかい対応で福路は去っていった。
そして思った。──は? なにあの子、相当良い子じゃない?
しかもちょっと茶目っ気があるのがヤバい。甘えたら延々と甘やかしてくれそう。いや、もしかしたらあしらわれそうだけど、それも悪くないな。というか常にウィンクしてる感じなの卑怯じゃない? それと、逆に困らせてみたくもある。
これは落とした時が楽しみだな……もっとも、今日の感じを見るとかなりキツそうではあるが、これはやる気が出る。新妻JKプレイとかしたい。あなた、とか呼ばせたら捗りそう。
「ヤバいヤバい……自重しろ」
ちょっと興奮しかけたが抑える。まだ慌てるような時間じゃない。そういうのは落としてからだ。
とりあえず、今日のところは帰るとしよう。今日は福路の夢を見そうだな……エッチな夢だとなおいい。頼むから見せろ。
池田ガードが発動。さらにドムトークンがフィールドにいるせいで全体魔法が使えない。キャップはやっぱり難関だなって。
明日は18時投稿が出来なかったら次の日になるかな。夜は忙しいので
皆の熱い感想、待ってる。