「──ツモ。1200、2300」
「あっ」
「ちぇっ、オレ達の負けか」
「…………」
龍門渕高校麻雀部との最初の対局。オーラスを俺のツモで終えると、順位は俺がトップだった。
なんとか元プロとしての面目を保てたか、と内心で安堵する。……正直、中々やる連中だったのでちょっと怖かったが、まーなんとかなった。
「ふむ、一応、元プロとして一定の実力はあるようですわね」
「うん。……デジタル寄りの打ち方というか、ちょっとだけ、透華に似てるね」
「いや、それだけじゃなくて流れを見てる感じもしたぜ? どうなんだ、そこのところ」
「……プロの打ち方」
その場の面々が俺に対する評価を口にするが、褒められてんのか微妙なところだな……悪くはないってところか? 別に褒められたからどうってのもないが……。
「別に普通に打ってるだけだ。麻雀には牌効率などのデジタル打ちも欠かせないが、それだけじゃない。それ以外の要素だって存在する。それを考慮して打つのが……一応、俺の打ち方だ」
と、俺は一応それっぽいことを語ってみせる。別に打ち方に信念も何もないんだけどな。強いて言うなら今は役満狙いの打ち方だけど、今回はチャンスは無かったし。なので勝ったことを良いことにプロとしての威厳を演出してみたのだが、
「へぇ、やっぱプロにもなると凄いんだね……」
「まあ普通に腕はあったな。──地味だけど」
「普通の打ち方だけど強い……」
「確かに地味ですが、麻雀の強さというのはそういう細かい基礎の部分も大事ですわ。ええ、地味ですけども」
「…………俺、ひょっとして馬鹿にされてるのか?」
「と、透華流の褒め言葉だよ」
「なら目を逸らすなよ」
「あ、あはは……」
国広が俺に対しての気遣いというか、皆のフォローをするも、目を逸らして苦笑いをしたので、多分国広も同じように思った可能性が高い。ちくしょう、終いには帰るぞこの野郎……しかし金払いはいいから帰りたくねぇな。うん、しばらくはいよう。金には弱い。大人の悲しい性だ。
「ということで、次はわたくしが入りますわ!」
「なにがということなのか分からないが、好きにしたらいい……後の面子は?」
「それじゃあオレはもっかいやらせて貰うぜ」
「んー、ボクはどっちでも……ともきー、どうする?」
「……私が一度抜ける」
「わかった。それじゃあボクがもう一度入るね」
と、沢村と交代して龍門渕が席に着く。どうでもいいが、龍門渕って呼ぶと紛らわしくなりそうだよな……他の龍門渕も居そうだし、内心では透華って呼んでやろう。中々に生意気だし。
まあ自信過剰と言うべきか。しかし実力的には龍門渕のNo.2ということで、あまり甘く見ない方が良い筈だ。
「さあ……元プロの力、見せて貰いますわっ!」
「……いいから黙って打てよ……」
「透華は目立ちたがりだからなぁ。公式戦ならともかく、こういう時に黙るのは無理だ」
「透華だからねぇ……」
「当・然! 目立ってなんぼですのよっ!」
なんぼて。お嬢様なのに関西弁が混ざって変な口調に聞こえるが……まぁ、嫌いじゃないので良しとしよう。
それよか、この目立ちたがりの性格はどうにもプロ向きだな。麻雀の方も……なんというか、似てると言われるだけはある。かなりのデジタル雀士だ。
この場の面子だと、堅実に強い国広。流れを重視した打ち方をする井上といるが、その中でも龍門渕透華はデジタルもデジタルだが、どちらかと言うと攻めっ気が強いデジタルという感じだ。
実際に打って、その打ち方を見ても特に言うことが無いレベル。引く時は引く。だが、押せる時は押していく。
「リーチですわっ!」
「! ポン」
龍門渕透華の親リー。その捨牌。立直宣言牌を鳴いて一発消しをすると、手番が回っていく。
……まぁ、こういう勢いがあって前向きな雀士には牌が応える……とはよく言うものだ。仮に一発を消してツモ巡をズラしても──
「いらっしゃいまし! ──ツモ! 2600オールですわ!」
「……ほら」
「って、無反応ですの!? もっと悔しがったらどうです!?」
「いやなんでだよ……まだ一回上がっただけで……」
……ただなんだ。デジタルかと思ったが、それだけでもないか。
目立ちたがりな所為なのか、どうもデジタルを逸脱してノリに合わせるような部分が透華にはある。立直しなくてもいい場面で立直したりとかな。初心者なら聴牌即リーなんて珍しくもないが、上級者ならその状況によってダマに取ったり、高めを狙って手を組み替えたりするなんて普通の事だ。
言った通り状況にも寄るが、例えばネットだと闇聴が多い気がする。まあ立直ってのは相手に警戒されるからロンする確率も低くなるし、ツモ切りしか出来なくなるってのもデメリットだからな。雀士によっては全く立直しない奴もいるくらいだ。
まあ俺もどっちかっていうと防御寄りだからな……とはいえ、役満狙いともなるとそうもいかないのだが……中々良い手牌が来ない。今回も無難に対局を終わらせるしか無さそうだな。
「わたくしが1位ですわ!」
「あー、また勝てなかったか」
「純君はまだ良いよ。ボクなんて最下位だし……」
というわけで対局が終わって、順位は透華が1位で俺が2位。井上が3位で国広が4位だった。
まぁ、地味に負けたがそういうこともある。元プロとはいえ、常に1位を取れるような雀士ではないからな。
「…………」
「……なんだ?」
だというのに、この雇い主のお嬢様は俺をじーっと訝しむように見つめていた。
なんだ? と思い、口に出したのも束の間、透華は立ち上がり、俺に向かってビシッと指を突きつけると、
「やはりあなたは……
「っ!」
……は? えっ? ん? いや、なんで気づかれた? なんでバレた?
まさかの言い当てられ、俺は声に出ない驚きを見せてしまう。いや別にバレたからどうってこともないのだが、一応、
「……どうしてそう思ったんだ?」
「ふっ、実はわたくし、前々からあなたの打ち方とネット雀士、ヤクマルの打ち方が似てると感づいていましたの!」
「あー、いつもの牌譜研究とかでか。好きだよなぁ、透華はそういうの」
「ネット麻雀の強豪とかの牌譜は大体チェックしてるもんね」
そういうことか。こいつ、デジタル打ちの中でもデータとか集めて研究するタイプか。珍しい方という訳でもない。俺も一時期やっていたことがある。強い奴の牌譜は見るだけで勉強になるからな。自分の打ち方と違うところを研究、考察するだけでも腕は上がる。
この龍門渕透華はそういうことで、俺のネットでの名前を見破ったのだろう。……にしても、そんな核心に迫るほど特徴的な打ち方をしてはいないはずだが……。
「プロとしてのあなたとヤクマルには、放銃率が異常に低いという共通点がありますわ!」
「!」
「そうなの?」
「はい。かなりの防御寄りの打ち手で、調べたところ、意図的なものを除けばほぼ振り込んだことのない……躱すのが異常に上手い打ち手……! ただ、プロだと攻めることが殆どないせいで、稼ぎ負けて成績を残せないようですが、防御率だけなら二軍プロどころか一軍での数字に引けを取りません」
「へぇ、なのにクビになったんだな」
「うっ……」
「ちょ、ちょっと純くん。言葉に気をつけようよ」
「あ……悪い」
いやほんとだよ……くそっ、この男勝りの井上め……今のは中々効いたぞ……かなりグサッときた。微妙に褒められてから落とされるのは効く。直ぐ謝る辺り悪気はない正直に思ったことを口にしただけなんだろうが、それでも効くものは効く。というか、その話は止めて欲しいんだがな……透華の方が止める気配がないというか。
「純の言う通り、確かにその部分は解せませんけども……まあ、何か事情があったのでしょう。──しかし! これで確信しましたわ! あなたは麻雀への理解も色々な意味で深いようですし、こうして雇ったことに間違いはないと!」
「……まぁ、評価してくれるのは有り難いが……色々な意味でってどういう……」
「ふふん、わたくしには分かっていますのよ? あなたは、デジタル一辺倒の雀士ではない。デジタルはデジタルでも……
「……プロなら当然の事だ」
こいつが言っている意味は分かる。特殊な力──つまり、オカルトのことだ。
オカルトを考慮して打つデジタル雀士というのは、意外にも少ない。そもそもプロや一部、強豪校の学生でオカルトをある物として捉える奴らだけが、それらを考慮した打ち回しを行う。
オカルトとて傾向や条件があるのだから対策は出来るし、対策をしなければ好き放題されるだけだ。……対策しても意味のないオカルトとかもあるけどな。そもそも支配系のオカルトとかだとあんまり意味ないというか、マジでボコボコにされたりするし。
しかし透華がこう言うということは、龍門渕の連中は皆、一応それらのことを知っているらしい。
そしてその理由はやはり、この場にいない最後の1人が担っているのだろう。
「麻雀の実力は最低限持ち合わせていて、オカルトに理解が無ければ練習相手になることも難しいのですが……それらがクリア出来ているのであればもう勿体ぶる必要はないですわね」
「って、透華!? まさかもう──」
「あ、あー……まさか、もう行くのか?」
「……立ち上がったってことは……」
国広を初め、井上、沢村と、透華の言葉と行動にこれからの流れを察する。俺の方も、なんとなく分かった。テストは終わり、これからが本番なのだと。
透華は言う。部室代わりに使っている練習部屋の扉を控えていたハギヨシに開けさせ、外へと誘いながら、
「──衣と合流しますわよ。さあ、行きましょう」
龍門渕の屋敷は広い。山の中に建てたその邸宅は何百坪あるのか。とにかく広い。
周りに他の家が見えない辺りヤバいと思う。俺もこんな家に──いや、別に住みたいかって言うとそうでもないか……広い屋敷くらいならまあいいが、ここまで広いと逆に不便そうだ。もうちょっとくらい狭くてもいい。
移動にも時間が掛かることだしな──というわけで、俺は透華や龍門渕の面々と一緒に数分程歩いたところで、何故か外に出た。するとそこに見える建物を差して透華が、
「あそこですわ」
「あれは……」
「龍門渕の敷地内に建てられた別館。あそこに、わたくしの親戚である衣が住んでいますの」
「親戚……親戚と一緒に住んでるのか」
「ええ、まあ。色々ありまして、衣は両親がいないので家で暮らしてますの」
ほーん。いやまあ、それを聞かされても俺は何とも思わないけどな。同情することもない。なんでかって言うと、そういう他人から見れば不幸っぽい境遇も、本人からすれば大したことないと思っていたり、そこまで気にしてなかったりすることもあるからだ。何とも思ってないのに、気を使われる方が気になる奴だって当然いる。
まあだからといって全く気を使わないのも地雷を踏む可能性があるので、特に何も言わない。触れない。どっちにしろ俺には関係のないことだ。踏み込むこともない。
ただほんの少し気になったのが、
「……態々別邸なんだな」
「ええ、おかしいですわよね。わたくしのお父様の所為ですわ。お父様は衣を相当に怖がってますので。大の大人がちゃんちゃらおかしいと、大爆笑してもいいですわよ?」
「なんで大爆笑……?」
「それ、昔ボクも言われたなぁ……」
国広が少し懐かしむような声色で言う。うん、なんだろう。透華の父親が天江衣を怖がってる理由は分かるような分からないようなって感じだが、透華がおかしいことは分かる。このお嬢様、やっぱりちょっと変な言葉使いたがるよな……。
そんなことを思っていると、後ろの井上が、
「でも麻雀に関しては明らかにヤバいからな。恐れるのもしょうがないというか……」
「……衣は特別」
「今はもうじき夕方ってところだからマシだけど、夜はちょっとヤバいよね……」
「麻雀に関して言えば、怖がる思いも理解出来ますわ。衣と打った相手は皆多かれ少なかれそうなりますから。一なんて、頬に貼ってた月模様のタトゥーを星に変えるくらいは怖がってますし」
「そ、その話は止めてよ。もう、透華のいじわるっ」
深刻なのかそうじゃないのか。もっとも、この場にいる面々は軽口を叩けるくらいにはその天江衣に対する耐性が出来ているらしい。
麻雀に関して怖いというのも確かな様だけどな。確かに、ここからでもちょっとヤバい気配を感じるし……これはマジで魔物か。魔物ってヤバいもんなぁ……魔物と打ってしまった為に麻雀辞めてしまう奴なんて掃いて捨てるほどいる。そうじゃなくても酷いショックを受けるものだ。
そして俺は今からその魔物と打つんだよな……うん、帰っていいかな、やっぱり。
なんというか、ここに来て報酬が高かった理由に納得が行く。天江衣の異常さを理解しているからこその金額の高さという訳か。
俺は内心でちょっと悩んだが、もう別館の眼の前。透華が扉を開けたことで、もう俺はそこから逃げられないことを悟ってため息を吐いた。はいはい、魔物特有の気配気配。うんざりするやつだ。
「衣! 今日は元プロを連れて来ましたわ!」
透華の声が室内に響く。すると、その奥。闇の中から月のような僅かな明かりが差し込み、同時に幼い声が聞こえた。
「ほう、今度は
「……お前が、あの天江衣か……」
室内にある麻雀卓。そこに座っていたのは、幼い子供だった。
身長は130にも満たない子供──に見えるが、彼女はこれでも高校2年生であり、麻雀の実力で言えば全国の高校生でトップ10には必ず入るレベル。
長くてサラサラの金髪を持ち、頭にまるで兎のように枝分かれした赤いリボンを身に着けた美少女は、俺を見て不遜な笑みを見せ、古風な難しい言葉で話しかける。
「如何にも。……だが、
「……いやまあお前の親戚に呼ばれたからな。悪いが相手してくれ」
「ふ、衣の
……え、なに言ってんのこいつ。言ってる意味が半分くらい? なんとなくでしか理解出来ないんだけど?
あれかな、難しい言葉を使って大人っぽく見せてるとかそういう感じか? もしくは……、
「なんか難しい言葉ばっか使って訳分からんが、中二病なのか? そういうのは早く卒業しといた方がいいぞ」
「ちょ、ちゅうに病!? 衣は中二病じゃないっ!」
お、ようやくなんか分相応な感じになった。やっぱり中二病なのかな?
まあそういう時期って誰しもあるし、俺は気にしない。うん、ちょっと恥ずかしい奴だなとは思うけど、大人として生暖かく見守ってやろう。一応注意する感じで、
「まぁ、難解な言葉だと格好良く見えたり大人っぽく見えるもんな。だがまぁ、相手が分からない言葉を使ってドヤ顔決めるのは恥ずかしいから止めておいた方が良い。──というわけで、元プロの東郷仁だ。よろしくな」
「……ふ、ふんっ。元プロなんて三流雀士では衣の言葉を理解出来もしないか。正に三流に相応しいおめでたい脳みそ。片腹大激痛」
「はいはい。片腹大激痛片腹大激痛。難解な言葉で大人っぽく見せたいんだよな? でも本当に大人なら相手が理解出来るように言葉を使うもんだ」
「な、生暖かい眼で諭すな──っ! 衣の言葉を理解出来ないのはお前がアホなだけだこのアホ雀士~っ!」
「はいはい、俺がアホなんだよなー? それは良いから早く打つぞ」
「ぐ、うぐぐぐぐっ……このっ……ボコボコにしてやるっ!」
おっと、微妙に機嫌を損ねたみたいだ。
だがまぁ、子供っぽいしそういうこともあるだろう、うん。まあ直ぐに機嫌は直るだろう。後で土産のお菓子でもくれてやるか。
「……どうやら打ち解けたみたいですわね。いい傾向ですし、早速始めますわ」
「打ち解けてないっ! こんな奴嫌いだっ!」
「子供はそんなに嫌いじゃないからな。プロとしての仕事で子供に良く麻雀を教えてたし」
「子供じゃない! 衣だっ! くっ……ふんっ、そんなことを言ってられるのも今のうちだけだゴミ雀士。衣の力に怯え、己の迂闊を呪うが良い……!」
その瞬間、天江衣から何かが発せられた気がした。井上や国広といった面々が僅かに顔色を変える。……なるほど、麻雀の実力は大人顔負けだな、これは。
「ではわたくしと、後1人は……智紀! 入りなさい」
「えっ」
「……まぁ、さっき1人外れてたもんな」
「災難だねともきー……頑張って」
「……善処する……」
俺と衣、透華に、最後の1人は沢村が入るらしい。うん、確かにこの衣の相手はキツそうだよな……分かる分かる。ついでに俺とも誰か交代しないかな……いや無理か。
というわけで麻雀の時間だ。しかも相手は魔物。去年のインターハイで全国にその名を轟かせた魔物、天江衣。
こうして席に座って対峙してみると……まぁ、圧が凄い。紛れもない魔物級の圧。同席した雀士だけでなく、周囲のある程度オカルトを察知出来る雀士を震え上がらせるだけの力がそこにはある。
こういう奴はさっさとプロに行け、と思う。なんというか、これと同年代の面々が可哀想というか、池田は去年、これと戦ったんだよな……そりゃ負けるわ。プロ相手でもどうにか出来そうな奴だもん、これ。
その証拠に、対局が始まって直ぐに異変は起きる。正確には一局目が少し進んで、
……手が進まない。
配牌から一向聴。直ぐに聴牌というとこまで来て、全く手が進まないのだ。
まあ麻雀だとちょいちょいあることではあるが……他の面々も険しい顔をしているところを見ると、衣以外の他家は皆、俺と似たようなことになってる可能性がある。
鳴けないし、和了れない。というか、聴牌すら出来ない。なるほど、これが魔物の力か。
「やはりな。力が充盈でない衣を相手にしてこの程度……懦弱な。これで衣の相手をしようと息巻いて来たのか」
ふっ、と不敵な笑みを浮かべる。その目に炎が宿ったような気がした。
そして流局が近くなると、衣の力が急激に増す。山から最後に引くのは衣。それを引いて捨てて、流局ではあるのだが、流局にはならない。
衣はそれを確信を持って引くと、そのまま牌を見ること無く表にして卓に打ち付けると、
「──
「!」
最後の牌で和了ると、役が付く。
中々見ることの出来ないその役の名前こそが、海底撈月。
海底牌……最後の牌を引いて和了ることで成立する役は、その性質上、和了ることが非常に難しい役だ。
しかし、この天江衣はそれを可能とする。
海底牌を引く相手を自分にして、その牌を自分の和了り牌にする。更には、他家を水底に引きずり込むかのように、聴牌すらさせない。
明らかに支配系のオカルト。卓を、牌が積もった山を支配する厄介な力だ。
「絶念したか? お前には和了らせない。心が拉ぎ折れるまで、存分に戯れてやる……!」
「……そうか」
なるほど。これは怯える訳だ、と俺は納得する。こんなのを続けられれば心は折れるだろうしな。
しかもこれで全力ではないと言う。さっきちらっと聞いたが、夕方はマシで、夜はヤバいと言うからには、夜が更けるほどに力が増すのかもしれない。こうなると月も関係してくるか? 海底摸月って月の字も入ってるし。オカルト持ちってこういう関連付けが重要というか、そのまま特徴が正解に繋がっていたりするし、あながち間違ってないだろうと俺は予想する。
その後、しばらく打ち続けるが──
「ツモ──海底撈月」
「海底撈月」
「海底撈月」
「ロン! 18000!」
わー、一瞬で飛ばされたー……うっわというかこいつ、明らかに俺を狙ってきやがったし……そんなにさっきのが気に障ったか? やはりお菓子で手加減して貰うか。
ぶっちゃけ支配系オカルト相手に出来ることは少ない。こちらに対抗出来るオカルトがない以上、精々鳴いてズラしてみたりとかくらいだが、それでようやく聴牌したらそれで和了られるとかいうやつな。
さっき異様に放銃率が少ないとかで褒められた直後に放銃する辺り、俺ってやっぱ持ってない。しかしこれで、天江衣からはさっさと見限られたか──
「……っ! お前! 何故衣に恐怖しないっ!?」
「……は?」
と思っていたら急に衣が俺に向かって檄を飛ばした。え、なに? 急に……恐怖しないって言われても……。
「……いや、怖いけどな……お前の強さ、その特異性は」
「どうかしましたの衣? 東郷さんが恐怖してないというのは……こう言ってはなんですけど、にわかには信じられませんが……」
「いや、衣には分かる!! 貴様、何故恐怖しない!? どんな絡繰だ!?」
「絡繰って……まぁ、衣に恐怖しないって聞いたら種や仕掛けを疑いたくなるのも分かるけどね……」
衣が俺に向かってなおも問い詰めてくる。……まぁ、その様子は怖くはないが、対局の時の衣は普通に怖かったし止めたかったんだけどな。何を勘違いしてるのか……。
「……別に絡繰なんてない」
「空言を! お前のような
「いやだから恐怖してるっての……」
しかし衣は聞く耳持たないと言った様子で納得してくれない。……仕方ない。まあ一応、そう見えない理由を話すか。
「……反応しにくいのは、俺がお前みたいなヤバい打ち手との対局に慣れてるからな。多少は耐性があるというか、怯えてないように見えるだけで、心の中は恐怖でいっぱいだよ」
「……解せん。奇々怪々……東郷と言ったか。お前、本当に死者ではないのか? 根堅洲国から来た彼方物じゃないのか……? 衣に恐怖しないとは、まるで──」
「死んでねぇよ。クマが酷いからってさっきから死人扱いするな。怖いは怖いけど、それが表に出にくいってだけだ」
「……そう、か……」
衣はまだ納得しきってはいないようだったが、一応頷いてはみせる。何かを考えているようだったが、ぶっちゃけ俺には何もないんだから考えるだけ無駄だ。強いて言うなら、役満を和了れば相手を惚れさせるとかいう、怪しいオカルトがあるくらいだが、それは関係ないだろうし、いやほんと止めてほしい。
「納得したなら、俺は一回休憩させてもらうか。今のは結構心に来たからな」
「まあ衣相手だと体力を消費するのは確かだよな」
「ええ、構いませんわ。それじゃあ次は──」
「……いや、もう一度だ」
と、休憩しようと思ったらまた衣が不穏な事を言い出す。意味は分かるがマジで言ってんのか? 他の面々もちょっと驚いているが、
「いや、疲れたって言ってるだろ。後でまた打つから少しは待て。大人なら待てるだろ? それとも待ちきれないほどに子供なのか?」
「衣はこどもじゃないっ! ええいっ、調子が狂う……なら後でまた、衣の相手をしろっ!」
「期待には応えられないと思うが……まぁ、どっちにしろ雇われて来てるから打つは打つけどな……はぁ」
「えっと……よく分からないけど、衣に気に入られて、ご愁傷さま……?」
「……? まぁ、いいですわ。よく分かりませんが、練習を続けますわよ」
透華の一声で再び練習が、対局が始まる。やはり魔物と言えど、一応日々の練習は欠かさないというか、この面々は天江衣との対局には一応慣れているので問題ないのか。俺が休んでも練習は続く。
俺は少し後ろで一息付いて、その魔物の対局を眺めた。……まったく、何を思ったんだかな……。
ころたんの難解漢字、言い回しを調べるのに時間が掛かるやつ。さすがSS作者殺しだなって。
皆の熱い感想、待ってる