※この作品はR-18です。

役満で上がると惚れられる   作:黒岩

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団欒

 日が沈み、夜の帳が下りる。

 一般的には夕方5時か6時も過ぎれば子供はお家に帰って大人しくするのが普通だろう。小さい子なら遊び疲れておねむになるかもしれない。

 だと言うのにだ。この子供は、

 

「──海底撈月」

 

 ──夜になればなるほど、その力が増している。

 最初はまだ少しの隙があった。牌の支配は盤石ではなく、こちらも何度か聴牌し、和了ることだって僅かだが存在した。

 だが日が沈んで月が出てからの天江衣は、正に魔物の名に相応しい圧倒的な支配力を卓上に行き渡らせている。

 

「ふふ、どうした? 淵底(えんてい)に沈み、啾啾(しゅうしゅう)と泣き喚く声が聞こえるようだ。やはり衣は無謬(むびゅう)。お前も、衣の力に恐れをなし──」

 

「あー、怖い怖い。怖いなー。凄い怖くて腹が減ってきたし、ここらで休憩にしたいなー……ということで、どうだ?」

 

「むーっ! 巫山戯るな~~~っ!! お前、なんで衣に恐怖しないんだ!?」

 

「いやだから恐怖してるって言ってるだろ。和了るどころか聴牌すら出来ないとか超怖いっつーの。夜になればなるほど力も増してるしな。あー、こわっ」

 

「この昼行灯め……! その程度で衣の炯眼を誤魔化せると思うなよっ!」

 

 ……しかしまぁ、本人の力とは裏腹に、その容姿や振る舞いは別に怖くも何ともない。その顔で凄まれても……なぁ? むしろ可愛いまである。微笑ましいと言うべきか。子供が怒っているようにしか見えないしな。俺はポケットに手を入れながら、

 

「……ほう。よく気づいたな」

 

「……む? やはり、何か奇怪な何かが──」

 

 俺はポケットから取り出した物を手に、怪訝な視線を向ける衣に差し出すと、

 

「──ほら、お菓子だ。パ○の実だ。甘くてサクサクで美味しいぞ」

 

「ぐ……また飄々と……ん、だが一応貰ってやろう……はむっ」

 

 隠していたお菓子を衣に差し出すと、一瞬眉根を寄せたが、それはそれとして受け取って口にする。俺はお菓子を口に入れた衣に向かって問う。

 

「どうだ? 美味しいか?」

 

「うんっ! 甘くてサクサクだ!」

 

「ははは! やっぱガキじゃねぇか!」

 

「なっ……貴様ぁ──っ! また馬鹿にして……衣はこどもじゃないっ!」

 

 衣はからかうとそれだけ反応を示すので中々面白い。怖さなど皆無だ。

 もっとも、その力は皆恐ろしいと思うだろうけどな。池田が天江衣の名前を出すだけでビビっていたが……ちょっと後で写真でも送ってやるか。飛び跳ねて喜びそうだし。ついでにボブ辺りにも。こっちはまた別の意味で喜びそうだ。

 だがまぁ、結構良い時間であることは確かだ。俺だけでなく、他の面子も軽く伸びをしていたり息を入れていたりする。結構打ったしな。それを見て透華も、

 

「そろそろ夕食の時間ですし、練習も切り上げることにしましょう。──ハギヨシ」

 

「はい、透華お嬢様。本日は東郷様がいらっしゃるとのことで、シェフが腕によりをかけて夕食をご用意させて頂きました」

 

「ということですわ」

 

「ああ、それは態々どうも……」

 

「ふん……こんな輩、歓待せずとも──」

 

「衣様の好きなハンバーグとエビフライもご用意してあります」

 

「! ハギヨシ、絢爛豪華! 今日はお祝いか!?」

 

 好物まで子供っぽいな……言ったらまた怒りそうだし、そもそも俺もあまり人のことは言えないから言わないけど。子供の好きな食べ物って普通に大人も好きだからな。子供があまり食べない物も好きだったりするっていうのが、いわゆる大人ってだけで。単純な好物の数の差が大人と子供の差だと思う。食べたことのある物だって大人と子供では生きてきた年数で差があるだろうし、それはしょうがない。

 とはいえこの衣も、俺と4つしか歳変わらないんだよな……そう考えるとヤバい。全然そうは見えないって言うか……何を食べたらこんな小さくいれるのか。やっぱり少食なんだろうな、と思う。

 というかシェフが腕によりをかけてハンバーグとエビフライを作るって、逆に気になるというか、俺も食べたくなる。そもそも、なんだ。メニューは色々あるってことか? ビュッフェスタイルとかだったりするのか、もしくは満漢全席みたいな感じなのか。屋敷的には前者が似合いそうだが。

 

「メニューとか聞いていいのか? ……まぁ、ハンバーグとかエビフライがあるくらいだから、多分洋食──」

 

「はい。本日は東郷様の好物である穴子を中心にした料理をお出しする予定です」

 

「まさかの和食!?」

 

 ハギヨシから返答に俺は驚く。いや、ちょっと予想外。嬉しいけども。というか、なんで俺の好物知ってんだよ。怖えーな。……でもよく考えたら普通に載ってそうだな。俺、雑誌のインタビューとかの好きな食べ物でも答えた憶えあるし。結構前にだが、SNSやブログにも書いたことがあるような……うん、多分おかしくねーわ。検索したら普通に出てきそうだし、予め調べておいたんだろうな。ご苦労なことで。

 しかし食べ合わせとか考えないんだろうか。それとも、衣だけ特別に別メニューとかか? なんか満漢全席みたいに色々出してくるスタイルっぽいな……というか、型に嵌まらなそう。龍門渕家って金持ちだけどその一人娘の透華がこんなんだし、深く考えず好きな物全部出してしまえって感じかもしれない。形式とかどうでもいいって感じで。

 

「──というわけで、1名様食堂にご案内ですわ」

 

「というわけで、って時間じゃないけどな……屋敷広すぎだろ……」

 

 そんなこんな考えながら屋敷の本館に戻り、食事用の食堂へ。移動に時間が掛かるし、食堂はめちゃくちゃ広いしでもう何とも言えない。お金持ちってヤバいわ。

 そして何気に衣もついてきている。……いや、悪いとかそういうんじゃなくて、さっきの説明を聞く限り、別館で軟禁でもされてるのかと思ったから、普通に来ていいんだ……って、思っただけだ。そういうブラックな事情でないことにホッとする反面、別に行き来が自由なら一々別館に住まわせる意味もないよなって思ってしまう。

 そうして席に着き、俺は周囲を見回しながら口にする。

 

「……お前らっていつメイドの仕事するんだ……?」

 

「えっ……あー……いやほら、今日は……」

 

「きょ、今日はオフなんだよ。普段は働いてるから……平日の朝とか昼とか、練習が無い時とか……」

 

「今日は休日だから……」

 

「──平日の朝と昼は学校だろうが」

 

 バツが悪そうに視線を反らしたメイド3人に即ツッコミを入れる。いや、それじゃあマジでいつ働いてるんだよ。こういう時こそ給仕はメイドの出番っぽいのに、それどころか普通に席に着いてるのは何なんだ。

 

「金持ちの家って普通、メイドが主人の食事の席に同席したりしないよな……?」

 

「メイドである前に部員で友人で仲間なのですから同じ釜の飯を食うのは当然ですわ!」

 

「食堂もありえないくらい広いし……」

 

「? 食堂は一応、狭い方を選んだのですが……」

 

「──マジかよ」

 

「マジだよ。こっちは私用というか、ボク達も同席する時用の小さい方で、大きい方はもっとちゃんとした……えっと、なんて言えば良いんだろう」

 

「ああ、アレだよな。有名なファンタジー映画みたいな……なんだっけか……」

 

「……ホグ○ーツみたいなの」

 

「「ああっ、それだ!!」」

 

「えぇ……」

 

 透華の相変わらず江戸っ子みたいな言葉選びとズレた回答に驚く中、国広や井上、沢村達の例えとやり取りに渋い顔をしてしまう。いや、分かる。分かるけどな……そうか、ホグ○ーツ並か……そりゃ広い。って、それは広すぎだろ。家にあれくらいの大きさの食堂があるとかドン引きだわ。いやまあアレ、天井とか馬鹿高かった気がするし、ここは普通に屋敷だから、あくまでもあんな感じってだけだと思うけど……いや、ないよな? さすがにマジであんなのがあったら引くんだが……うん、気になってくるから考えないようにしよう。

 

「しかし、夕食まで少し間がありそうだな……よし、衣。10文字以上、日本にはないもの、子供が好きなもの禁止でしりとりをしよう。まず俺からな──ンゴロンゴロ保全地域」

 

「ふっ、衣にしりとりを挑むとは無謀な──って、テーマが難解な上に最初から“ん”で来るのか!? ……いや、そもそも子供が好きなものの定義が曖昧で……」

 

「暇潰しなら一が面白いことを今からしますわ」

 

「え、えぇ……なにその無茶振り……ボク、手品くらいしか出来ないんだけど」

 

「出来ることがあるだけ十分じゃねぇか。名指しされるの、オレじゃなくて良かった……」

 

 というわけで衣をからかって遊ぼうとすると、透華がいきなり無茶振りをする。名指しされた国広が前に出て、他の2人……井上に、沢村も首を縦にコクコクと振って安心しているが……ああ、なるほど。多分、透華専属のメイドとかだったりするんだろうな。距離は近いが、他の仕事は他の使用人に任せてる感じがするし、あくまでも麻雀部としての活動や他の事を優先していたりするのだろう──と、勝手に納得しておく。

 しかし、それにしても手品か……うーん……。

 

「あら、浮かない顔ですのね。手品は不評ですか?」

 

「えっ、まさかのやる前から不評?」

 

「ああいや……そういう訳じゃない。悪いな、続けてくれ」

 

「……? うん、それならいいけど……それより透華。手品やらせるなら手錠外してよ」

 

「ああ、忘れてましたわ。それじゃあ──はい、どうぞ」

 

「ん……ありがとう」

 

 ……これは何か言うべきなのか? ツッコミどころ満載というか、さっきから気になっていたことではあるが……なんか特殊な趣味だったりすると悪い気がして聞きにくい、が、一応聞くだけ聞いてみるか……。

 

「……さっきから気になってたんだが、国広はなんで手錠を付けてるんだ? ……趣味か?」

 

「ぷっ、国広君の趣味……くく」

 

「ぼ、ボクの趣味じゃないよっ! というか笑わないでよ純くん!」

 

 国広が恥ずかしそうに顔を赤くして否定し、小さく吹き出して笑い出す井上に怒る。

 ということは何か事情があるらしい──と思っていたら、横から透華が口を挟んだ。

 

「一の手錠はすり替えなどのイカサマ防止用ですわっ」

 

「……まぁ、そういうことだね」

 

「イカサマ? なんだ、経験でもあるのか?」

 

「……小学生の時にちょっと……」

 

 イカサマとは穏やかじゃないな。元プロとしては。まあだからと言って責める気もなければ、どうこう言う気もない。極めてフラットな状態でそれを聞く。

 

「一の父親はマジシャンで、一も父親譲りの手品が使えるのですわ。それで、手癖で手品を使わないようにと手錠を掛けていますの」

 

「はぁん、なるほどな。と言っても、今どきイカサマなんてすぐバレるだろ。公式試合は全て全自動卓だし、カメラも腐るほどあるからな。……もっとも、手積みでカメラも少なかった時代だとプロでもやる奴がいたとかは聞いたことがあるが……」

 

「だからやる訳ないのに。やった瞬間バレて失格になるんだから」

 

「透華は心配性だから未だに疑ってるんだよ。仲間なのに酷いよなー?」

 

「なっ──べ、別に信じてない訳ではありませんのよ? た、ただ、万が一ということもありますし……子供の頃から習っていた親譲りの技術ですから、その気はなくても、手癖でやってしまう可能性も0ではないでしょう?」

 

「ふーん……子供の頃から手品を習ってたのか」

 

「……うん、まあ……確かに染み付いてはいるけどさ。手癖ではやらないよ、さすがに……」

 

 親譲りの技術でイカサマねぇ……俺はイカサマなんて出来もしないし、やろうと思ったこともないから分からないが、良し悪しは別として凄い技術だとは思う。

 まぁ殆どは下手くそだからすぐ分かるけどな。たまーに、賭場の雀荘なんかで見かけるが、見破った瞬間、相手が破滅するから困る。自業自得ではあるが、黒服なんかに連れて行かれるところを見ると、あの後どうなったんだろう……って、考えていたたまれない気持ちになるからな。

 俺は一応プロだったからそういうのは考えたこともないが……やるやらないはともかく、本当に出来るならそれだけ手先が器用ってことだし、ある意味凄くはある。この国広は微妙にそれを、文字通り、枷と思っているようだが……。

 

「……でもまあ、手品ってのは人を楽しませる技術だろ? それを子供の頃から習って、手癖になってると思えば誇らしく思えるんじゃないか?」

 

「まぁ、確かに手品は嫌いじゃないけどね……それでも今はちょっとだけ複雑な気分だよ」

 

「衣は一の摩訶不思議な手品、好きだぞ。透華は心配し過ぎだ」

 

「む、むぅ……皆してわたくしを責めて……これではわたくしが悪者みたいですの」

 

「ははは、透華は悪役とか似合いそうだもんなー」

 

「純っ! あなただけ夕飯抜きにされたいんですのっ!?」

 

「冗談だから許して下さい透華お嬢様」

 

「一瞬でメイドらしくなった……」

 

「あはは……それじゃあ、気を取り直して軽くやってみるね」

 

 話が一段落ついたところで国広が前に出てテーブルの上で軽く手品をやり始める。……まぁ、イカサマ云々の方は、皆そこまで重くは捉えてないというか、国広がちょっと思うところがあるくらいで、冗談に出来るくらいには風化してるのか。なんだかんだで仲が良いからこそとも言える。

 それはともかく、国広の手品を見るのだが──

 

「──はい。コインは逆さまになったグラスの中に現れました」

 

「凄い凄い! 摩訶不思議!」

 

「はい。今度は反対側のポケットに」

 

「んー、相変わらず、種も仕掛けも分からないな……」

 

「純くん。そういうのを見破ろうとするのは野暮だよ。分からせるつもりはないけど、分かったとしても言わないでね。……はい。そんな純くんのポケットにさっき選んだトランプのカードが」

 

「うおっ!? いつの間に……」

 

「はい。それじゃあお次は東郷さん、好きなカードを引いてくれる?」

 

「……それじゃあこれで」

 

「はい。それじゃあ皆、そのカードを確認して、憶えててね。そのカードをボクに見せないように混ぜて……シャッフル。はい、ここでカードを開いてみると、さっきのカードがこんなところに!」

 

「わぁっ! 一、凄い! 奇々怪々!」

 

「うーん、やっぱり分からん……」

 

「……検索しても出てこない……」

 

「って、ともきー? ネットで調べるのも駄目だよ。多分、出てこないとは思うけど……というかなんで皆種を見破ろうとするのさ。少しは衣を見習ってよ」

 

「見慣れてますから自然とどうやってやるのか? に見る目的がシフトしてますわね」

 

「やりにくいなぁ……って、東郷さん?」

 

「……ん? ああ、どうした?」

 

 国広の手品を黙って見ていると、不意に話しかけられる。何やら首を傾げており、

 

「……もしかして、面白くなかった?」

 

「あら、まさかの不評ですの?」

 

「あー……いや、そんなことはない。反応が薄くて悪いな。凄いと思うし、ちゃんと楽しんでるぞ、うん」

 

「そう? それだったらいいけど……あまり驚いてないように見えたから……もしかして、見慣れてるとかだったり……?」

 

「いや、そういう訳では……なんだ、面白さより、単純に感心してたからか。普通に見入ってしまった」

 

「ああ、確かに、感心しますわよね。一の手品は中々本格的で」

 

「だよなぁ。これはイカサマしてもしょうがないっていうか」

 

「本格的……」

 

「そ、そう? そう言われると照れるんだけど……って、純くんのそれは褒めてないよっ!」

 

 国広の手品を皆で楽しみ、軽く褒める……ちょっとぎこちなくしてしまったのが悪いと思ったが、なんとか持ち直せたようで良かった。

 俺がほっと一息つくと、そのタイミングで声が掛かる。

 

「──ご歓談中失礼致します。ご夕食をお持ち致しました」

 

 お、来たか……さすがに夕食を運んで瞬間移動染みたことはしないか。物理的に無理そうだし。普通に……ああいうのってなんて言うんだ? トレーカート? みたいな料理を乗せた台車を押してハギヨシが現れる。

 やはり豪華過ぎるな、と俺は賑やかな龍門渕の面々とそのまま夕食を囲んだ。

 

 

 

 

 大いに食べて飲ん──ではいないが、俺の好物を中心に飯を食べまくると、俺は客室へと案内された。

 

「広いな……」

 

 そこらのホテルのスイートルーム……は言い過ぎだが、そこらのホテルの一般的な客室と比べると断然、こちらの方が広いし、ベッドやソファーなどの家具も高級そうだ。

 飯も美味かったし、この部屋に泊まれるだけでも大分お釣りが来るレベル。うーん、確かに、これならマジで屋敷で活動した方が良いよな……他の部屋がどうなってるかは知らないが、快適過ぎるし。

 

「部屋に風呂も付いてるのか……マジでホテルだな」

 

「ご満足頂けましたか?」

 

 と、背後からハギヨシが話しかけてくる。いつも突然なのは止めてほしいが、親切だからなんとも言えない。

 

「ああ。いたれりつくせりとはこのことだな」

 

「それは何よりです。それと、ご入浴には大浴場もありますので、よろしければそちらもご自由にお使い下さい」

 

「大浴場もあるのか……ならそっちに行ってみるか。案内してくれるか?」

 

「はい。ではこちらへどうぞ」

 

 と、ハギヨシが先導してくれる。いやほんと、こうやってると自分が偉くなったように感じるが、気の所為だ。ただ麻雀しに来ただけなのに物凄い高待遇で逆に申し訳なくなるほど。

 ……ただまぁ、魔物と打つことを考えると体力的に消耗するのは事実だし、それを慮ってくれてるのかもしれないな。

 何気に、夜も暇があれば打つかもしれない──衣の方も地味にそれを望んでるっぽいし、屋敷にいる間は麻雀漬けになりそうな気がする。

 とはいえ面子が軽いというか、結構息抜きもするのでキツくはないか。

 

 ──と、そんなことを考えながらハギヨシに大浴場まで案内されるのだが……。

 

「また、めちゃくちゃ広いな……」

 

 マジで高級ホテルの大浴場。大理石の床を踏みしめながら周囲を見渡し、改めて龍門渕の財力をその身で実感する。ここまで来ると一周回って馬鹿なのかと思ってしまう。この場合の馬鹿は褒め言葉だ。

 俺は風呂が好きなので有り難い限りだ──というか貸し切り状態だし、贅沢過ぎる。

 強いて言うなら、ここに俺の女を呼んで身体を洗ってもらったり出来れば最高なのだが……それは叶わないので自重する。こんなとこでムラムラしても──ん? 誰か入ってきたか? 

 背後の戸が開く音を聞いて、まさか、と思う。まさか、誰か入ってきたのか? 

 ここで俺の頭の中には幾つかの予想──もとい、妄想という名の選択肢が。

 龍門渕高校の面々。その誰かが入ってきたのではないかという推測だ。

 そうだとしたら一体誰だろう。メイドの誰か……沢村なら巨乳疑惑もあるし、中々凄そうというか、脱いだところを見たい。そして身体を洗って欲しいところ。国広は普通に可愛いし、普通に有りだ。背中を流してもらえると嬉しいし、むしろこっちから洗って反応を楽しみたい。井上は……入ってきてもぶっちゃけ、一瞬男だと勘違いしそうだから困るな……。

 それとも大穴で、龍門渕透華か? まあなんか逆に男らしいところがあるので、全く気にせず入ってくるところも想像出来るのがまた……でもさすがにないだろう。むしろ、衣の方があり得る……というか、1番可能性が高いかもしれない。なんと言っても子供だし……ただあれだな。衣で反応したらそれはそれで新たな扉を開きそうで怖いような……ボブとは美味い酒が飲めるようになるかもしれないが、俺のクズ度が更に上昇してヤバい。大人として躊躇する。ないとは思うが、要警戒だ。

 そんな感じで幾つかの選択肢を頭で考えたところで、その相手が俺の前に姿を現す。声を掛けてきた、その相手は──

 

「──東郷様。良ければ、ご一緒してもよろしいですか?」

 

「──知ってた」

 

「?」

 

 ハギヨシだった。うん、マジで知ってた。そりゃそうだろ……女の子が間違って入ってきたりご奉仕してくるとか夢見てんじゃねぇよ……もう入ってきた時点で、どうせハギヨシだろって思ってたし、なんならシルエットで分かったけど、ちょっと現実逃避してみたかったんだ……。

 というわけで、ハギヨシと一緒に風呂に。正確には、先に身体を洗うのだが、

 

「……東郷様は、良い身体をしていますね」

 

「……背中を洗いながらそう言うこと言われると微妙に寒気がするんだが……いや、この際だから聞いておくが、ハギヨシ。お前、まさかそういう──」

 

「ふふふ、実は……」

 

「やっぱやめろ。聞いておいてなんだが、聞きたくない」

 

「いえ、冗談ですよ。東郷様が想像しているような趣味ではありません。私は普通に女性が好きです」

 

「そ、そうか……それなら良かった」

 

 ふぅ、驚かせやがって……一瞬、マジでそういう趣味なのかと思って酷い寒気がした。ぶっちゃけ俺史上1番の恐怖を感じたかもしれない。同性愛者と一緒に風呂とか、衣よりよっぽど恐ろしいわ。

 

「ただ、良い身体をしてると思ったのは本当です」

 

「そういう勘違いしそうなことを言うのは止めて欲しいんだが……」

 

「すみません。ですが私も身体を鍛えている身として少し気になって……東郷様は、何かスポーツをやってらしたのですか?」

 

「……いや、特にはやってないけどな」

 

「それにしては筋肉の付き方、そのバランスが素晴らしいですね。特にこの、広背筋から僧帽筋の発達が……一見細く華奢に見えますが、その実、いわゆる細マッチョとは……こう言ってはなんですし、少し下世話な話になりますが、さぞ女性におモテになるのではありませんか?」

 

「はっ、お前に言われると嫌味にしか聞こえないな。ぶっちゃけモテないし。俺なんかよりハギヨシの方が相当モテるんじゃないのか?」

 

「いえ、私は身も心も龍門渕家に捧げておりますので、そういったことは……」

 

「ない、とは言わないってことはモテるんだな?」

 

「……まぁ、そういったことも、0とは言いませんが……」

 

「やっぱモテるんじゃねぇか」

 

 珍しく言葉を濁して言うハギヨシに軽くイラッとする。まったく、これだからイケメンは……どうせ学生の頃は告白されまくったりしたんだろうな。いや、もしかしたら今でも同僚のメイドとかから想われてたり……? 

 

「何を考えているか大体想像は付きますが、言った通り、私は身も心も龍門渕家に捧げておりますので、恋愛事にうつつを抜かすようなことはしませんよ。私はまだまだ、執事として未熟者ですしね」

 

 とか考えていたら釘を刺された。いや、お前で未熟者って、一人前とかどうなるんだよ。完璧超人の癖に……せっかくだから何かボロを出させたいな。こいつも男だし、そうだな……。

 

「どういう女性が好みとかあるのか?」

 

「……そうですね。強いて言うなら、芯のある女性が好ましいでしょうか」

 

「……ああ、うん。そんな感じの事言う気はしたけどな……」

 

「仰りたいことは分かりますが、性的なフェティシズムを抱えていたりはしませんよ。容姿に拘りはありません」

 

 うわっ、マジでこいつ漫画とかでよく見る聖人君子みたいなイケメンじゃねぇか! ふざけやがって。見た目もイケメンなら中身までイケメンかよ。はー、マジで勝ち目ない。劣等感はんぱねー。でも良い奴っぽいから変に嫌うことも出来ねぇし、邪険にすることも出来ねー。無敵型のイケメンかよ。これで性格悪い奴とかならめちゃくちゃ嫌いになれるのに良い奴だとなんなら友達になれそうだから困るんだよなぁ……。

 

「……話は変わりますが、衣様が、後でまた打ってほしいと……」

 

「マジか……いや、まぁ、拒否権はないけどな……」

 

「衣様は随分と懐いておられるようですので。大変かとは思いますが、衣様のこと、よろしくお願い致しますね?」

 

「懐いてるか……? むしろ嫌われてるような……というか、その言い方は執事としてどうなんだ?」

 

「ここだけの話ということで、内密でお願い致しますよ。……自分に恐怖しない相手は、衣様にとって貴重ですからね。出来れば東郷様には出来る限り相手をして欲しいのです」

 

「……恐怖ね……つっても子供だからな。恐れるも何も……つーか力に関しては俺も怖い」

 

「ふふ、そうは見えませんが……まあそれは良いでしょう。まだ子供──いえ、幼い容姿であるとはいえ、己の理解できない力。自分ではどうしようもない力に、人間は恐怖するもの。龍門渕の当主様を始め、周囲の者達が恐怖するのは致し方ないことです」

 

 ……なんか引っかかる言い方ばかりするが、まぁ、要は衣には遊び相手が少ないから相手をしてあげてって言われてる感じだ。

 別にそれは構わないんだが……正直、さっきも言ったが懐かれてる気はしないが。

 

「それと、他の皆の指導もきちんとお願い致します」

 

「めっちゃ頼んでくるな……まぁ、そっちは言われずともやるが……」

 

「ふふ、透華様が随分と東郷様に期待しておりますので、私も期待してしまうと言いますか。……それに不躾ながら、東郷様とは、少し気が合いそうな気がしまして……つい口が軽くなってしまいました。気に障ったのなら謝ります」

 

「今更だな。気に障ってたらもっと早く怒ってるし、気にしなくていい。これくらい普通に喋ってくれた方が気楽だからな」

 

「……そうですか。それならお言葉に甘えさせて頂きます」

 

 ──と、まあそんな感じでハギヨシと風呂場で親睦を深めた。……いや、なんでハギヨシと仲良くなってんだ? 良いんだけど、そんなことより女の子の方が重要の筈。役満で上がって女の子を堕とすのが目的だ。

 とはいえ衣のあの支配力だとなぁ……役満張れないし、張ったとしても和了れる気がしないからどうしようもないんだよなぁ……。

 俺はどうしようもなさを感じながら、龍門渕での1日目を終えた。──ちなみに、風呂を出た後の対局は夕方以上にボコボコにされた。ころたん強すぎぃッ!




これってR-18だよね……? って自分が1番首を傾げている。そろそろおもちが欲しい。おもち欠乏症になりそう。のどっちー! 早く来てくれー! このままでは健全な咲作品として普通に評価されてしまうぞー!
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