龍門渕での日々も、マジで健全かつ何事もなく終わろうとしていた。
ひたすらに麻雀打って、ちょっとアドバイスしたり、息抜きで遊んだり、美味い飯を食ったりと、ある意味で充実しているが、肝心の事は成し遂げていない。
……というかもう最終日なので今から役満ぶち当てたとしてもヤることは難しい。そもそも泊まれないしな。今日からはまた別の宿に行くことになる。はぁ、いざ離れるとなると憂鬱だな……居心地が良いのもあってまだ泊まりたくなる。
だが現実的にそれは無理だし、今のうちに次の学校へと連絡しておくか。GWが明けてからにはなるが、一先ずメールを送信。指定日時の何時に伺いますという当たり障りのない連絡だが、こうやって数日前くらいに連絡しとくのがマナーだし、個人の依頼というのもあって本当に来るのかと向こうも不安になってるかもしれないので、ちゃんと行くよって連絡しておくのは大事だ。
なので朝からいそいそと出立の準備を進めつつ、最後の練習に向かったのだが……そこで俺は予想外の事を言われてしまう。
「──合格ですわ」
「……は? 何がだ?」
開口一番。龍門渕透華にそう言われたのはいつもの練習部屋ではなく、少し離れた場所にある応接間のような部屋であった。
格式高く、高級な家具だらけの室内。まあそれには慣れはじめているが、客を出迎える応接間だけあってそこらの部屋よりも更にワンランク上質であるようにも感じるのは気の所為か。
なんで態々こんな場所に……と思いつつ透華の言葉に疑問を挟むと、透華は告げた。指を鳴らし、
「ハギヨシ。書類を」
「はい。──東郷様、こちらを」
「ん……? これは……」
俺は透華の背後に控えていたハギヨシから渡されたその書類に目を通す。通すのだが……ん? 雇用契約書? ……えっ。
「お前、これは……」
「気づいたようですわね。龍門渕高校、麻雀部コーチの正式な就任に当たっての雇用契約書ですわ」
「……マジで言ってんのか?」
「冗談でこんなもの持ち出しませんわ。理解したのなら話を進めますわよ。期間と報酬ですが、まずは──」
「いやいや、待て待て待て。理由を聞かせろ理由を。なんで一々俺を雇う?」
「優秀な人材は即、スカウトするのがわたくしの流儀ですの。もたもたしてたら他所に掻っ攫われてしまいますわっ!」
……駄目だ。全然話が通じてない。
俺が聞きたいのはそういうことじゃ……いや、ある意味では答えになってるのかもしれないが、それでもそういうことじゃないし、そんな訳がない。あまりにも不可解過ぎる。俺を正式採用なんて馬鹿げた話だ。
「……俺が優秀? ……はっ、冗談が上手いな。俺なんかよりもっと優秀な奴は幾らでもいる。それこそ、本物のプロを雇うことだって可能だろ」
龍門渕の財力ならぶっちゃけどうにでもなるはず。プロをコーチや監督に採用している学校は他にもある。そういうところのように本物のプロを呼び寄せればいい。
だから冗談だと思ったのだが、透華の表情は冗談という感じではない。……いやまぁ、いつもの自信満々な表情なだけなんだが……。
「あなたの仰りたいことも分かりますわ。あなたのプロとしての経歴は、お世辞にも良いとは言えない。ですが、名選手が必ずしも名監督になるとは限らない。逆に選手として活躍出来なかったとしても、名指導者として活躍することだってありますわ」
「……俺がそうだと?」
「ええ。あなたの指導力はそこらのプロよりも上だと、わたくしは確信していますの。麻雀への理解も深く、個人だけでなくチームとしての戦い方、戦術にも通じていますし……何より、特殊な力に対する理解力を持った人材は中々いませんわ」
「……オカルト──いや、そうか。衣のことか」
俺はそこまで話を聞いて、ようやくほんの少し、俺を雇いたがってる意味を得心する。
天江衣。言うまでもなく、強力なオカルトを持った、牌に選ばれた者の1人で、常人の理解の外にいる魔物。
確かに、デジタルだけに通じる雀士、指導者では天江衣を指導することは出来ないだろう。天江衣を指導するならば、オカルトに精通している者でなければ難しい。
そういう意味では、俺は確かに常人以上にオカルトのことを知っている。……だが……。
「腑に落ちた、といった表情ですわね。それならこの話を受けてくださると助かりますわ」
「……俺なんかを雇っても効果があるとは思えないがな」
「それを決めるのはあなたではなく、わたくし達です。……どうでしょう。今なら報酬にもう少し色をつけても構いませんのよ?」
「……というか、今更なんだが、コーチの就任とか報酬とか勝手に決めていいのか?」
「お父様からある程度委託されていますので問題は皆無ですわ。まあ、あなたを雇うことはまだ言っていませんけど、特に問題はないはずです。報酬もきちんと予算内から割り振っていますしね。元プロであることや、過去の経歴から考えるに、それなりに色をつけてもおかしくはないでしょう?」
「……そうか」
全く、金持ちってのは非常識にも程があるな……めちゃくちゃ強引なスカウトだ。国広達もこんな風に強引にスカウトされたのだと思うとちょっと同情する。ありがたい話ではあるが、強引かついきなり過ぎて戸惑うだろうしな。
俺はそのスカウトについて考えるが……確かに、俺にとっても悪くはない話だ。
今の俺は実質無職で、プロとして稼いだ貯金と、こうやって日銭を稼いで生活している身。早く定職に就くに越したことはないだろう。
それに、俺を評価して雇ってくれるところが他にあるのかと考えると、破格と言える高待遇で迎えようとしてくれている龍門渕は正に、渡りに船だ。都合が良すぎるほどに。
ここで断るなんてことは、普通ならあり得ない。だから、俺は言った。ため息を1つ入れて、
「……悪いが、断らせてくれ」
「何でですのっ!? 今のは頷く流れですわ!」
いや、流れとか知らんし……そんなびっくりされても……いや、驚くのも無理もないか。普通ならこの話を断るなんてあり得ないからな。
ただ俺は普通じゃないし、目的だってある。最低な目的だけど。
それに一応、ちゃんとした理由だってあるのだ。それは、
「ありがたくはあるんだけどな……他の学校からの依頼もまだ残っているし、そちらを放置する訳には……」
「……なるほど。それなら、その依頼が終わってからでも構いませんわ。いつ頃に終わりますの?」
「そう急かすな。……はぁ、そうだな……夏が終わる頃までにはどうするか考えとく」
「遅すぎますわっ! 夏の大会は終わってしまうじゃありませんか!」
「だがまだ1年あるだろ。まぁ、その頃には俺への依頼も一通り捌けて落ち着いている……筈だし、その時にも気持ちが変わらなかったらまた誘ってくれ」
「……曖昧ですわね。ですが……分かりましたわ。そういうことならこの話は一旦保留に致しましょう」
取り消しはしないんだな……さてはこいつ、欲しいものは何がなんでも手に入れるタイプか。
「本当ならこの後、最後の練習の時にコーチとして正式採用した旨を皆の前で発表しようと思っていたのですが……まぁ、無しになったのなら仕方がありませんわ。最後の練習も、きっちりみっちり付き合って貰いますわよ?」
「ああ、それは勿論だ」
依頼だし、仕事だしな……いやぁ、随分と評価されているが、その実、俺は女の子をオカルトで堕とすために色んな学校に行きたいだけってバレたら幻滅されそうだよな。考えたいのは嘘じゃないし、夏くらいまでには俺の将来についてどうするかを決めようとは思っているので、そこも嘘って訳でもない。
──とまあ、そんなことがあってから、俺は最後の練習に付き合おうと練習部屋に向かったのだが、
「……とーごー、ここを去るのか?」
……今度は衣が話しかけてきた。
いきなりそんなことを聞いてきて何だという感じではある。日程は聞いていた筈だし、そもそも衣は俺を嫌ってる筈だ。
だがまぁ……何でそんなことを聞いてくるのか、理由は分からなくもない。こいつは事情というか、境遇が境遇だしな。俺に対して変な縁を感じていても不思議ではない。
はっきり言って、俺にこだわる必要はないと思うが、それでも会話には付き合ってやろう。一応今は指導者だしな。
「……ああ、まあな。今日が最後だ。だけどせいせいするだろ? 子供扱いしてくる鬱陶しい大人がいなくなって」
「そ、それはそうだ! 衣を子供扱いするなんて許しがたい! 不届き千万!」
「ならいいだろ。今日で最後なんだからな」
と、俺はその答えに頷いて練習部屋に向かおうとする。……が、その前に、
「……だが、衣と打てる……いや、衣と打って恐怖を感じない奇幻な打ち手は滅多にいない」
「……そうか? そうでもないと思うけどな」
「寝言を。お前には分かっているだろう。衣は特別で、衣は……孤独だ。周囲の人間は衣を恐れて近づかない。衣はいつも独りぼっちだ」
衣は僅かに顔を下に向けてそう告げるが……俺からすればよく分からない。その理由を口にする。
「……いや、学校とか他の連中は知らんが、透華達がいるだろ。4人も友達がいれば十分だ。俺なんかそれより少ない」
「……皆は、トーカが衣の為に集めた友達で……仲良くさせられているだけだ」
「はぁ? そんなの、お前が勝手に思ってるだけで聞いてみないと分かんねぇだろ」
俺が見た感じ、親戚で気にかけている透華は勿論、井上や国広、沢村もそんな無理くり仲良くしている感じはしない。
無論、麻雀を打つ時の……特異な力を振るう衣を恐れてはいるが、それは衣個人を恐れているものではなく、あくまで麻雀のスタイルそのものを恐れているだけだ。
だから衣は別に孤独ではない。そう思ったのだが、どうやら衣の方はそうは思えないらしい。
「……無理だ。もし、断られたら衣は……」
「……そうか」
……ああ、なるほど。衣はそっちを恐れているんだな。
曖昧にしていたことを明るみに出したくない。元から期待していなければ、悩み苦しむことはない……が、それでも心のどこかでは期待してしまっている。
その気持ちはよく分かる。分かるが……衣。お前はそうじゃない。
「……ま、無理に聞かなくてもいいけどな」
「……うん……って、そうじゃない。衣はお前が残るかどうかを聞きに来たんだっ!」
「その話か……一々俺にこだわる必要もないだろう。何で俺にこだわる?」
「それは……衣も、確かに未だ腑に落ちていない部分はある。最初に感じた印象から、まさか衣がこんなことを口にするとは慮外なものだ」
しかし、と衣は一旦言葉を区切って、迷いながら続きを口にした。
「だが……お前と打ち続けるに連れて、衣は不可解だが、ある感覚を得た。お前は、衣と似ていると」
「……それで?」
「麻雀の実力は多少は出来るとはいえ、凡人の域を出ない……普通の打ち手に感じる……筈なんだ。だというのに、同時に衣の感覚がお前に同じ様な匂いを感じてしまっている。衣と同じ、人外の領域に足を踏み入れた者の匂いだ」
「……はっ、お前の目は節穴か? こんな雑魚がお前みたいなプロ顔負けの打ち手と同じな訳ないだろ」
「衣もそう思う……だが、お前と打っていて、不思議と落ち着くのも確かだ。それと同時に……何か違和感もある。衣はそれが気になってしょうがない」
……また随分と買いかぶられたし、興味を持たれたもんだな……。
衣の口ぶりは、自分でも確信に至っていないかのようなものだった。
ただ衣の鋭敏な感覚が、俺を捉えているのだろう──俺の本質を。
……これ以上は……なんだ。オカルトのこともバレそうだし、そろそろ切り上げるか。
衣の感覚なら俺の不純過ぎるオカルトに気づいてもおかしくないしな。ある意味、今日でここを離れるのは正解かもしれない。危ない危ない……ある意味、オカルトが発動しなくて良かったのかもな。
ただ最後にアドバイスはしてやろう。指導者としてだ。俺の言葉に説得力はないだろうが、一応だ。俺は少し屈んで衣と目線を合わせ、
「……まぁ、俺なんかに拘らずとも、お前と遊べる友達なんかこれから幾らでも出来るだろ。お前は可愛いしな」
「可愛っ……それは関係ないっ! お巫山戯が過ぎる! それに衣は可愛くないっ! 衣は恐ろしいんだ!」
「可愛いことを否定するのか……いやまぁ、お前の自己評価はさておきだ。麻雀だけに絞っても、お前と打ちたいって思う奴は腐るほどいると思うぞ」
「……噂に聞くトッププロであればそのような者もいるか」
「違う。トッププロとかじゃなくてもだ。お前みたいなちょっと人より優れた感覚と能力を持つ者じゃなくても、お前と打つことが楽しいって言う奴はいるだろうよ」
俺は確信を持って言う。それは断言できる。同年代に絞っても、今まで指導してきた奴らは良い子ばっかりだし、麻雀を純粋に楽しんでる奴らばかりだ。ぶっちゃけ俺なんかよりそっちと知り合った方が良い。
だが衣は疑わしいといった顔をしてるな……いや、そもそもお前の周囲の連中もそうなんだけどな。あんだけ仲良くしといて友達じゃないってのも無理があると思うんだが……。
「……そんな奴等がいる訳ない。お前が特別だ」
「だから俺は特別でも何でもないっての……それが証拠にもなるんだが……まぁいい。どの道、今日が最後だ。縁があればまたここに来るかもだけどな」
「! それは、いつ頃だ……?」
「分からん。ただ、夏を過ぎる頃には来るかもな。透華にコーチにならないかって誘われてるし。だからそれまで適当に頑張っとけ」
「なら今直ぐなれ! お前は衣の感覚だと──」
「……はぁ、感覚に頼りすぎるのもお前の悪い癖だな……まー、その辺りはそのうち痛い目見て治るだろうが……」
「むっ、感覚に頼って何が悪い」
「全部が悪いとは言ってねぇよ。それだけに頼るのが……あー、もういいや。面倒くせぇ。とりあえず、練習場行くぞ。ちょっとだけ普通の打ち方も教えてやる」
「なっ──」
と、そう言って俺は衣を抱えた。そしてそのまま運んでいくのだが──うわっ、軽っ。こいつ、何食べたらこんなに軽く小さく育つんだ? もっと食べた方が良いだろ。今度デフォで結構大盛りの店でも連れて行ってやるか……って、今日で最後だったわ。ま、それは縁があったらだな。
「こ、衣を抱きかかえるな~っ! みゅーっ、離せ~~~っ!」
「おっと、はいはい。それじゃあここからは歩いていけ」
「あっ……」
衣が抗議の声を上げたので離してやる。というか、あまりこういうことすると事案だしな……JCとかJK抱いてる俺が今更気にすることではないけど。ご、合意だからね。まあ合意ならギリギリセーフ……ということにしておこう。
というわけで衣を下ろして廊下を歩いていく。衣は少し立ち止まって、歩いていくこちらの背後で、
「……もし、衣に血の分けた兄がいれば、このような……」
「……何してんだ? いいから行くぞ。今日はお前の調子も悪そうだし、せっかくだ。最後にボコってやる」
「! わ、分かってる。ふんっ、このアホゴミ雀士め。衣が負けるわけないだろう。片腹大激痛」
俺が敢えて聞こえない振りをしつつちょっと煽ってやると、衣が普段通りの得意げな様子に戻ったので、俺は息を入れる。……全く、最後に可愛いこと言われると調子狂うよな……。
──それから、俺は龍門渕での最後の練習に参加し、いつも通り指導したり、衣にボコられたりして過ごした。
何気に皆も俺との別れを惜しんでくれているようで、指導者冥利に尽きる。いや、別に正式な指導者職に就いてる訳じゃないけどな。ちょっと麻雀が出来る根無し草のお兄さんだ。……言ってて悲しくなるから止めるか……。
とにかく、皆と最後の交流を深める。なんだかんだで連絡先を交換したり、雑談をしていると、
「後1か月近くはこっちにいるの?」
「そうなるな。他の学校からも依頼が入ってるし、5月いっぱいまでは長野県内をうろうろしてる」
俺は国広のその確認の言葉に詳しい補足を入れる。俺がまだしばらくこっちにいる旨を口にしたからだ。
そして、それを聞いた透華が言う。いつも通り、自信有りげに、
「なら、もう少し期間を伸ばして県予選を観戦していくといいですわ! わたくし達、龍門渕高校が長野県代表となり……そしてわたくしが大いに目立って活躍し、アイドルとして輝く日を!」
「……こいつはアイドル志望なのか?」
「単に目立ちたいだけだよ……でも、確かにそれはいい考えかもね」
「だな。せっかくだし見に来いよ。もっとも、あっさり勝ち上がるだろうから見どころはそんなにないかもだけどな」
「県内だと、風越女子と城山商業が強豪……」
「ふんっ、有象無象の塵芥共が衣に勝てるわけない。どれだけ修練を重ねようが衣と同じ地にいる時点で敗滅は決まっている」
「県予選か……いつなんだ?」
「6月4日が予選で準決勝まで。6月5日が丸一日使って決勝戦だね」
県予選を見に来いと皆が言うので日程を聞いてみると、国広が日にちを教えてくれる。県予選か……確かに、見に行ってもいい。風越の連中とこの龍門渕……どっちが勝つかは興味がある。一応知り合って、麻雀をちょっとだけ教えた者としてな。
「5日は満月……」
「あ、そうなんだ……ということは……」
「マジか。相手はご愁傷さまだな、こりゃあ……」
「ふふふ、衣の独壇場だ。決戦の日は他校が衣に生贄を捧げる日になる。今から楽しみにしておくといい」
あっ……こりゃ無理だわ。グッバイ池田。風越ェ……どんだけ運が悪いんだ。衣が最も強くなる満月の日と県予選決勝の日程が重なるとか……これ、見に行く意味あるか? 風越には悪いが、龍門渕の圧勝で終わる気が……いや、意味とかじゃないか。一応、応援で行ってやってもいいし……。
「……ま、それなら一応見に行ってやるよ。俺も関わった連中がどこまで進むかは気になるしな」
「あ、そっか。東郷さんは他の学校にも行くんだもんね」
「とはいえ、悪いですがわたくし達は手加減しませんわ! 如何に東郷さんの指導を受けようとも、勝つのはわたくし達ですのよっ!」
透華が自信満々に言うが、そうだろうなぁ……としか言えない。風越が辛うじて可能性はあるくらいか。残り2校の指導校が龍門渕や風越に匹敵するレベルで強ければ別だが、そんな可能性は、ほぼあり得ない。ということで風越、特に美穂子と池田に懸かってる……美穂子はともかく、池田か……どうしてだろうな。実力は文句なしの全国レベルで、衣と美穂子を除けば、1、2を争う選手だってのに、妙に不安になるのは……とにかく、頑張れと連絡しておこう。死ぬなよ池田……と。──お、一瞬で返信きた。なになに……『よく分からないけどあたしは死なないし!』……おお、ボジティブだ。その調子で頑張れ──なんか俺、美穂子に連絡するより池田の方が連絡頻度高い気がして嫌になるな……美穂子にも連絡しておこう。こっちには普通のチャットで。そうして俺は携帯をしまうと、
「──さて、それじゃあそろそろ行くぞ」
「ええ、ではまた会いましょう。──ハギヨシ、外まで送って差し上げなさい」
「承知しました透華お嬢様。では東郷様、こちらへ」
「ああ。それじゃあな」
「ばいばい東郷さん。また会おうね」
「今度会う時はもっと強くなってるぜ」
「……またね」
「……とーごー! また、その……今度も、衣がボコボコにしてやるからなっ!」
「……ああ、期待してる」
──と、俺は皆に別れを告げて部屋を後にする。なんというか、いつもながらちょっと惜しい気持ちになる。
ただまぁ、これくらいがちょうどいいだろう。エロいことも出来なかったしな……結局、役満は和了れなかったし。三倍満をツモるのが限界だったが、まさかあれで惚れてくれる訳もない。結局衣には負けたしな。うん、なんかやっぱ溜まってる感じがするな……でも次の高校に期待するしかないか。
そう思って、俺は長い長い龍門渕の廊下を歩く。……相変わらず広いなぁ。人が俺とハギヨシ以外いないのもあってめちゃくちゃ広く感じる。こことももうお別れか。居心地良かったんだが、強いて言うならセックスどころか自家発電も出来無さそうなのがキツかった。いや、するつもりはなかったけど、出来ないってなるとちょっとしたいような気がしてくるから困る。実際、堕とせてもヤれなかったろうしな。
「……東郷様。数日間に渡るお勤め、お疲れ様でした」
「お前もな。なんだかんだ俺の身の回りの世話は手間だったろ」
「いえ、そんなことはありませんよ。東郷様と親睦を深められて、私の方も楽しかったくらいです」
道中、ハギヨシに話しかけられたので応じる。こいつはずっと超人だったな……ぶっちゃけ、麻雀もそれなりに強かったし。いまいち実力は掴みきれなかったが、それでも並以上の打ち手ではあった。というかある意味で、衣よりもオカルトかつ化け物だったと思う。
「……それにしても、東郷様は本当にお強いんですね」
「……はぁ? いやお前、ちゃんと見てたのか? 衣にはずっと負けっぱなしだったぞ」
いきなり謎な事を言い出したので眉をひそめつつ軽く言い返す。皮肉かな? いやでもハギヨシはそういう性格じゃないしな……まぁ、他の連中には勝ってたし、そういう意味では強いのに間違いはない。とはいえ、透華にはそれほど……うーん、俺の雑魚っぷりが分かるな。やっぱり嫌味かな?
「ふふ、まぁ、良いでしょう。私としては、そちらも気がかりですが……」
「……? 何の話だ?」
「いえ、こちらの話ですよ。……それはそうと、東郷様がここを離れるのは嬉しいやら悲しいやら……」
「おい。やっぱりからかってるのか? 悲しいはともかく、嬉しいはおかしいだろ」
笑みでそう言われて反射的にツッコむ。こいつ……やっぱり遊んでやがるのか。まあそれくらい打ち解けたということでもあるし、こちらもそれくらいの発言を気にすることもないが、ハギヨシにしては珍しい類の冗談にも思える。気の所為か? ……気の所為だな。ハギヨシは変わらず笑みを浮かべている。その口から何が飛び出すか分からないが、別に何を言われてもどうということはない。だから肩の力を抜いていると、ハギヨシは続けた。俺のツッコミに対して、
「いえ、本心ですよ。東郷様とは仲良くなれただけにここを離れるのが悲しくもあり……仕事が楽になると思えば、嬉しくもある。それだけのことです」
「ああ、そういうことか。まぁ、それなら分かるが……意外だな。お前も仕事について大変だと思うんだな」
ハギヨシにも仕事が楽とか、大変とかそういう概念は残っていたんだな、と微妙に安心する。こいつ、マジで龍門渕家に仕えることが使命って思ってそうだしな。ちょっとだけ人間らしいところが見れたし、その発言の意味も汲み取れたから良しとする……のだが、ハギヨシは何故かそこで立ち止まった。少し歩いてから俺も立ち止まり、ハギヨシを見る。一体どうした? トイレか──
「通常の業務であれば慣れていますので問題はありませんが……東郷様の監視ともなると、中々に骨が折れる仕事でしたので」
「──あ?」
俺は呆気にとられる。え、は? 意味が分からない。こいつは何を言って──
「おや、気づいていない振りがお上手ですね。あるいは本当に気づいていないのか……それでしたら、態々、
「! ……身辺、調査だと……?」
俺はその発言に反応する。こいつ、今なんて言いやがった?
俺が目を細めてハギヨシを見ると、ハギヨシは変わらない笑みのままで更に続けた。互いの距離を開いたまま頷いてみせる。
「はい。とはいえ、当たり前のことです。龍門渕家で採用される者……透華様がスカウトしようとした人材は勿論のこと、龍門渕高校の入学志望者、その親族。龍門渕家に関わる者は全て、その経歴や身元を一度は調査します。……とはいえ多くの者は特に問題なしと判断されます。危険人物など日本は諸外国ほどに多くはないですからね。些か過剰ではありますが、これも龍門渕家の皆様の安全の為」
「……それで……俺の身元も調べたのか?」
「ええ、まあ。それは勿論。ですが……」
と、ハギヨシはそこで笑みを消して、真顔になって告げた。一度言葉を区切った上で告げるのは、俺にとっては何とも言えない言葉だ。
「率直に、結論から申しますと……東郷様。あなたからは──
「……そうか。それなら……俺は問題ないってことか?」
自分でそう言いながらも、ハギヨシの顔にそう書いてないことを読み取り、辟易とする。──まるで、それこそが怪しいのだ、と言っているように。
「いえ、何も出てこない、というのは問題が無いことの証ではありません。むしろこの場合は……隠された。もしくは、知ることが出来なかった、ということになります。そしてその結果は、問題がないことと同義ではありません」
「……当然、だな。普通の人なら探られて痛い……とまではいかないが、恥ずかしい腹の1つや2つ、持ってるものだしな。……とはいえ、俺にもそういう過去は色々あるはずだが?」
「ええ。確かに、東郷様の過去……学生時代の活躍については色々出てきました。小学4年生の時に初めて参加した全国小学生麻雀選手権大会にて初優勝。それから小学6年生まで怒涛の3連覇を達成し、鹿児島の名門、千石中にスカウトを受け、そこでも不動のエースとして活躍。更には世界ジュニア、13歳以下の部では大会の記録を塗り替え──」
「──その辺にしてくれよ。過去の事を言われるのは……あまり好きじゃない」
「……まぁ、そこは良いとして……確かに、過去の事が全く出てこなかった訳じゃない。ですが……知ることが出来たのは、あなたの記録、公的な活躍だけでした。……この意味が分かりますか?」
分かる──が、俺は首を振る。親切に頷いてやることはない。
「……さあな。俺は情報の専門家でもないから分かんねぇな。大卒の偉い先生にでも聞いてくれ」
「……分かりませんか。普通の人なら出てくるはずの──家族構成。そして家柄は勿論のこと……龍門渕の情報網であれば、その生い立ちから今に至るまでのあらゆることが情報として出てくる筈。──だが、あなたにはそれはない」
ハギヨシは言外に眼で言う。それこそが、俺を不審に思う理由だと。
しかしそれに対しても、俺は呆れるように息を吐いた。とんだ勘違い野郎だと、
「……プライバシーの欠片もねぇな。それで? 人の個人情報を赤裸々に明かそうとしてそれで満足か? 言っておくが、俺にそんな大それた秘密なんてねぇぞ。俺には普通のどこにでもあるような生い立ちしかない。調べられなかったのは、その調べた奴がいい加減な仕事でもしたんじゃねぇか?」
「……龍門渕の情報部門は優秀ですよ。ましてや、調べたのは私の師でもある──いえ、まあそれは良いでしょう。では、問いますが……家柄と家族構成。父親と母親の職業を教えてくださいますか?」
「家柄は知らねぇ。多分、ごく普通の家だ。親父は外資系の企業に務めてて海外に出張を繰り返していて、お袋もそれについて行っている。お袋は元巫女だ。後は妹がいる。まだ学生のな。……これで満足か?」
「ええ、まるで普通を演出するかのような回答をありがとうございます。色々と分かりましたよ。本当の事を話す気がないこととか」
ハギヨシの笑みの皮肉に、俺はため息を漏らす。肩を竦めて、
「信じる気がない奴には何を言ったって信じない。一応、本当の事を言ってるんだけどな。インタビューでも家族の事は話さないからこれでも特別なんだぜ?」
「……まぁ、その情報の真偽はまた後で精査致します。それと、誤解してほしくはないのですが……龍門渕家は東郷様を害しようとか、秘密を暴いて赤裸々にしてやろうとか、そういう悪意をもっての行動ではないことはご理解ください。私自身も、東郷様とはこれからも……不躾ながら、友人として、仲良くさせて頂きたいと思っております」
「……よく言うな。それならこんなことは止めてほしいもんだが」
「いえ、そうはいきません。私は龍門渕家に仕える人間として……当主様や透華様の身の安全と利益を何よりも優先とします。その為にやるべきことは、絶対にやらねばなりません」
ハギヨシのその言葉は本気のものだった。口は苦笑気味に笑ってはいるが、目は笑っていない。
ハギヨシは本気で、俺に悪意がある訳でもなく、むしろ仲良くしたいと思っているが……龍門渕家の為に、俺に探りを入れているのだ。……まったく、迷惑な。悪意がないだけたちが悪い。俺は心底呆れ果てて、もうこのまま帰ろうかと思うが、ハギヨシの話は終わっていないのか、続けて口を開いた。それは、
「……そこで、東郷様の過去を調べた代わり……という訳ではございませんが、少し私の身の上話も聞いては貰えませんか?」
「お前の身の上話?」
「ええ、どうでしょう。興味はありませんか?」
ハギヨシの身の上話と言われて、興味は……少しある。
この完璧超人がどのようにして育ったかを聞けるのだろうかという好奇心がある。人の過去に無闇に立ち入るなどあり得ないことだが、ハギヨシはその代わりと言ったし、確かに、先に探ってきたのは向こうである。俺があまり話したくないことも、ある程度は知られてしまった。
だから、俺も少しは相手のそれを知ってもいいと思ってしまう。……別になんの等価交換にもなっちゃいないが、俺の気を晴らすために、俺は渋々と頷いた。
「……簡潔に言え。あんまり長かったり、面白くなかったら帰るぞ」
「ええ、留意しましょう。それでは……そうですね、まず私には、親がいません」
話が始まっていきなり、まぁまぁ重いことを言われる。だが、俺は気にせず先を促す。
「それで?」
「……眉1つ動かしませんね。大抵、これを口にすると聞いた人は少しバツの悪そうな顔を浮かべるというのに」
「先に俺の事を調べられたしな。悪いと思う気持ちは今に限ってない。ほら、さっさと続けろよ」
「……そうですか。ならば続けましょう。……まあ、両親は……私が子供の頃に事故で亡くなりました。物心ついてすぐの出来事でしたが、それなりに鮮明に憶えています。両親が死に、施設へ預けられた日。私の人生の始まりとも言える日のことは」
続けて重いことを言われる……が、まあそういうこともあるだろう。
世の中、普通のありふれた家庭環境ばかりだと思ったら大間違いだ。世の中には、普通に生きる人々では想像もつかないような――までは言い過ぎかもしれないが、それでも、ドラマや漫画で見るような特殊な家庭、不幸な生い立ちなどは沢山ある。
親がいない、なんて比率で言えば珍しいかもしれないが、それでも確かに、親のいない子は現実に一定数存在する。
それらは比率として珍しい……つまり普通ではないからこそ、普通の人が聞けば気の毒なことだ、可哀想に、とその境遇に同情する。
だが、それを実際に体験している者にとっては、それこそが当たり前の自分の環境である。必ずしも、それが不幸とは限らない。
貧乏人が金持ちの生活を、金持ちが貧乏人の生活をリアルに想像出来ないように、普通の人間にその状況に置かれている者の本当の気持ちは理解出来ない。それを理解出来るのは同じ様な境遇の人物だが、それでも本当の意味では理解出来ない。同じ様な境遇と言ってもそれぞれ違う。ほんの僅かでも差異があるのならば、真の意味での同情は不可能だ。相手の悲しみは相手にしか、その当人にしか知り得ないもの。実際のところどんな感情を抱いているのか、他者には分からない。分かると言ってるのは似たような境遇の人間……もしくは、話で聞いただけで悲しんで、分かった気になっているだけの人間である。
故に俺は……その話を黙って聞いた。黙ることで続きを促すと、やや間を置いてハギヨシも口を回した。
「ですが私が施設で生活することにはなりませんでした。私を、養子として迎え入れてくれた人がいたからです」
「……つまりそれが……」
「ええ。この龍門渕家の関係者で、現当主様の執事……私の師でもある御方です」
「お前の師か……さぞ凄い……いや、ヤバい人物なんだろうな」
「ははっ……確かに、言葉を選ばずに言えば、ヤバい人物には違いありませんね」
俺がそう言うと、ハギヨシは珍しく、不意を突かれたというように破顔した。変にツボに入ったようだ。
だが、ハギヨシの師で、ハギヨシがヤバいという人物か……とんでもない化け物が頭に浮かんでしまうが……ともかく得心した。なるほど。それでハギヨシは執事になったという訳だな。
俺が勝手に納得していると、ハギヨシは更に続けて口にした。懐かしむように、
「ただ、かけがえのない恩人ではあります。あの方は私を育てました。ただ子供としてというだけではありません。私が執事になると志願したからこそ、あの方は私に執事としての全てを叩き込むことを決めたのでしょう」
「執事としての全て……嫌な予感しかしないな」
「ふふ、執事は主に尽くすため、万事に通じていなければならない――師の言葉ですが、まさにその通りに、師は私を鍛え上げました。礼儀作法は言わずもがな。一般的な学校で習う学問だけでなく、あらゆる知識を学び、それを実践し、プロフェッショナルなレベルで行使出来るまで。例えば――料理」
そう言って、ハギヨシは手元にフライパンを出してみせる。……いや、それは手品だ、とツッコミたいがツッコミはしない。話の腰が折れる。
「料理であれば世界各国のあらゆる料理を学び、その調理法を実践出来るように。おかげで和洋中、何を作ってもプロの料理人が作った物と遜色のない料理が作れると自負しております」
「……ちょっと待て。そういや、度々飯の用意を、とか言ってたが、あれは……」
「そうですね。毎回ではありませんが、私も参加する時はありますよ。私の料理は皆様にも好評を頂いておりますので」
……やっぱり化け物だな。あれをまさかハギヨシが作ってたとは。
しかも他の仕事をしながらだ。それを示すような、ハギヨシの自慢のような話は続く。お次は、
「例えば、お裁縫。それであれば、ただの裁縫には留まらない……デザインを描き下ろし、型紙を引いて、実際に裁断、縫って衣服を作れるところまで鍛えられました」
「今直ぐパリにでも行ってデザイナーにでもなったらどうだ?」
「パリには修行の為、一時期滞在していましたが、さすがにデザインや……これはまぁ、他の芸術分野にも言えますが、本人のセンスが色濃く出るものは超一流と呼ばれる方々には敵いませんよ。技術で補える型紙などは才能があると褒められたこともありますが、デザイン画も型紙も何もかも超一流の師にしてみれば、私など、どこにでもいるただの凡夫でしかありません」
いやいやいや……ハギヨシの基準はおかしい。いや、真におかしいのはハギヨシの師匠だが……もうそれはただの化け物なんじゃないか? オカルト持ってるだろ。もしくは存在がオカルトだ。フィクションの中でしか聞いたことのないぞ、そんなの。
ハギヨシが凡夫なら、俺はゴミクズだな……と、俺は少し落ち込み引いていたが、俺が普通に思考出来たのはそこまでだった。
――ハギヨシが、自分の生い立ちを語った真意を、俺はようやく理解した。
「あらゆる分野に精通し、透華お嬢様……ひいては龍門渕家にお仕えし、その利益となること。そのためだけに、私は幼少期から修行を重ね、今に至る訳ですが……その中でも、最も力を入れて身に着けた者が、何か分かりますか?」
「……いや」
俺が首を振ると、ハギヨシは一旦溜めて頷き、答えを告げた。
それは確かに執事として――いや、従者として、必要と言えるものだった。
「透華お嬢様や龍門渕家の方々を守るための技術……戦闘訓練や警護訓練です」
「!」
ハギヨシはそう言って、軽くその場で構えてみせた。それを見て俺は驚き、目を見開く。素早く、堂に入った動きだった。
「師は私に……あらゆる武術を叩き込みました。空手、柔道に始まり、古武術に中国拳法、システマやクラヴ・マガといった軍用格闘術なども……他の分野でやったように、世界中の様々な技術を学び、身体に叩き込んでいったのです」
「……武術や格闘技なんて習ってどうするんだ? そんなものより、銃の訓練とかしたほうがいいんじゃねぇのか? 今時、格闘技なんて流行らねぇし、銃の方が強いだろ」
「さて……確かに現代の戦闘は銃ありきのものと言っても過言ではありません。日本はともかく、海外では銃なんてさほど珍しくもない。確かに私も海外などでは環境に対応するため、射撃訓練は受けていますが……戦闘は銃が全てという訳ではありません」
と、ハギヨシは懐から一振りの得物を取り出してみせた。
それは――明らかに包丁とは違う、戦闘用の刃物。刃渡り10センチを越える戦闘用ナイフだ。
それを軽く見せつけるように振りながら、ハギヨシは言う。
「近距離において、有用なのは銃ではなく、近接格闘術。武器であればナイフなどが有用です。近距離で戦うケースが想定される以上、武術、格闘技のスキルはいつの時代も戦う者の必須スキル。単純に素手同士でも、何も習っていない者よりは技術を持った方が強く、そもそも武術には恐怖を克服する術ともなり得る。一般人であれば、いざ鉄火場に遭遇した時に何も出来ず動けないといったことが多々あり得ますが、訓練を受けた者であればそういう時の対処法、動き方というものを知っている。単純に慣れるという意味でもそうですが、声を出すことで身体の強張りを解放する術も、元は武術から来たもの」
「……良く喋るな。お前が格闘技オタクなのは分かったからそろそろ終わっとけ。話もそろそろ聞き飽きたしな……というか、そんな刃物持ってたら普通は通報だぞ。通報していいか?」
「それはご勘弁を。……ですがその各国の警察、軍隊も、必ず何らかの戦闘術を習っています。それは何故なら……必要とされているからです。必要のない技術であれば習う必要はない。だからこそ、私もあらゆる障害、危機から透華様をお守り出来るように、あらゆる戦闘技術を学んできました」
「……しつこいな。結局何が言いたいんだ? 俺は強いです自慢か?」
付き合ってられないな、と俺は踵を返し、その場を立ち去ろうとする。道筋は憶えている。外までは難なくたどり着ける。
そう思ったのだが――背後からの言葉に、俺は立ち止まらざるを得なかった。
「東郷様……私は、あなたを知っている。たった一度ですが……ある場所で、あなたを見たことがある」
「――――」
「おそらく、ですがね。それに、そうだとして龍門渕の情報網に引っかからない意味が、私には完全にまだ理解出来ていません……ですが、もしそうだとしたら……」
と、ハギヨシはそこまで言って、悩み、首を振る。そして、
「……いえ、だとしても私は東郷様を信じていますよ。あなたは龍門渕家や透華様、衣様にとって……良い影響を与えてくれましたしね」
「…………そうか」
俺はその言葉に迷いながら、内心で困惑しながらも頷く。そしてそのまま帰ろうとしたが、ハギヨシがそれより先に頭を下げた。それは俺に対する謝罪で、
「……色々と立ち入ってしまい、申し訳ございませんでした。不躾ですが、私としましても、東郷様とは今度とも良い付き合いをさせて頂きたいと思っています」
「……はぁ、ほんと良く言うな……別に良いが、一々人の過去を探りまわるのはやめろ。俺は別に……大した人間じゃない」
「そのようですね」
「……頷かれるとそれはそれで腹立つな」
「冗談です。東郷様は優秀だと思いますよ」
「それはそれで……ああ、もういい。俺はもう行くからな」
「はい。お気をつけて。また会いましょう」
ああ、と頷き、俺は車に乗り込んで次の目的地に出立する。……まったく、最後にちょっとモヤモヤしちまったな。
発進し、少し離れたところでの信号待ち。車中で俺は先程言われた言葉を思い返し、何とも言えない気分になってしまう。
「どいつもこいつも……俺なんかに拘りやがって……」
まるで悪態をついているような独り言。それを口にする理由は──つまるところ不可解。自分で自分の評価に関する答えを出しているからこそだ。
「俺なんかの何が良いのかね……」
正直、俺は皆が言うように良い人ではない。
むしろクズ。人間のクズだ。普通の人間とは程遠い人物が俺。
だからこそ俺が人に好かれるには……オカルトが必要不可欠なのだ。
……はぁ、次は清澄高校か……良い女がいるといいけどな……。
俺は吐息混じりにそれを思いながら、胸の内に燻るモヤモヤを再び閉じ込めた。
というわけで健全回終わり。次回からまたエロエロ……まあすぐには入れないけど、エロエロ期待しといでください。ハギヨシの設定は独自。二次創作にはよくあること
どうでもいいけど、最新話の霞さんとのどっちのおもちが素晴らしかったおっぱい。
皆の熱い感想、待ってる