※この作品はR-18です。

役満で上がると惚れられる   作:黒岩

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見える人

 人にとって必要不可避なモノの1つに、コミュニケーションというものがある。

 原語は日本語ではないが、もはや日本語として受け入れられている言葉の1つで、一応日本語に翻訳するなら交流や通信、意思疎通といった意味になる。

 だがこんな説明をしなくても誰しもが分かるだろう。なにせコミュニケーションという言葉は現代社会で生きる自分達が、子供の頃からずっと言われ続けている言葉だからだ。

 別に現代人でなくとも人であるなら、もっと言うなら動物であるならコミュニケーションというものなくして生きることは成り立たないが、特にヒトの現代での生活は人と人のコミュニケーションが盛んかつ重視されている。

 幼稚園、小学校、中学校、高校、大学──物心がつく前からおおよそ殆どの人間が行くことになるそのレールも、対人関係の練習の効果が見込めるんじゃないかということは、誰しも思うことであると思う。

 実際、誰かと関わらざるを得ない狭いコミュニティの中では、否が応でもコミュニケーション能力──いわゆるコミュ力が鍛えられる。

 実際、幼稚園よりは小学校。小学校より中学校。中学校よりは高校。高校よりは大学。大学より社会人と、確実にコミュ力は誰しも上がっている筈だ。

 子供の頃であれば些細なことで喧嘩したり、行き違いがあったりしたが、大人になればなるほどその対処法、適切な距離の取り方や、無駄な軋轢を生まないためのコミュ力が鍛えられ、コミュ力によって解決していったり成長していったりするものである。

 まあ中には小学校とか中学校くらいの頃の方が対人関係が上手だったとか、友達が多かったとか、そういうこともあるが……悲しくなるのでその話題は避けた方が懸命だ。傷を抉ることになる。

 しかしまあ、良くも悪くも大人になればコミュ力は一定水準以上は持つものだ。

 少なくとも、俺はそうだ。俺は子供の頃に比べて確実にコミュ力が上がっているし、その重要性も理解している。子供の頃の俺は酷かったからな……うん。あまり思い出したくない過去ではある。

 俺はコミュ力の重要性を大人になるに連れて知った。子供の頃は下らないと切り捨てていたものだが、社会に出ればそれは間違いなのだと分かる。

 社会ではコミュ力がコミュ力がと、狂ったようにコミュ力を求められるからな。いや、俺はまあいいんだが、企業、会社に勤める方々はさぞ苦労していることだろう。

 そもそもコミュ力と一口に言うが、その方法は様々だし……後、生まれついての容姿や雰囲気なんかも関係してくる気もする。

 抽象的かつ曖昧、客観性のない主張かもしれないが……人間の第一印象は見た目で決まると言われるように、生まれ持った容姿などでコミュニケーションを取るかどうかの是非や、どれくらい手を抜いていいかなどを見られたりもする。

 きっと誰しも経験があることだろう。

 ぞんざいな扱いを受ける。いや、そもそも相手にしなくていいものとされ無視される。いや、更に下に見られ、虐げられたりすることだってある。

 誰しも見た目が好ましい異性や、見た目が怖い者をぞんざいに扱う人などいない。黒人のマッチョを夜道で襲う日本人がいないように、人は見た目で対応を変えることもある。

 それが好ましいものであれば良いが、多くの人はそれによる被害を受けていることだろう。いや、誰しもが受けていると言っても過言ではないし、もっと言うなら誰しもが被害を与える側にもなっているかもしれない。

 昨今のネットやSNSを通じたコミュニケーションなどを見ればよく分かるが、人にマウントを取ってる人の多いこと多いこと。無意識か悪気がないのかもしれないが、人ってのは自分より下の人間を見て安心するものだからな。別にそれが悪いとは言わないが。というか、その善悪はどうでもいい。程度の差はあれ誰だって、俺だってやってることだ。

 大事なのは、人によって対応を変えるのは仕方ないとはいえ、それがマイナス方向の変え方でないことを心がけるのが良いだろう。少なくとも、相手側からマイナスが発信されなければ。

 ……まあなんだ。結局何が言いたいのかと言うと──。

 

「…………」

 

「ねぇ、あの人……」

 

「1人とかチョーウケル」

 

 ……うん。要は、見た目とか性別とか1人で来てるからって差別しないでほしいってことだ。

 

「……来るんじゃなかったな……」

 

 思わず人に聞こえない程度の独り言を呟く。周囲には人も多いし、変な行動を取ることは出来ないしな。

 というのも俺が今いるのは、長野県にあるとある有名タピオカ店。そう、あのタピオカ店だ。

 あの女子ウケが良すぎる食品。とりあえずタピっとく? とか訳の分からないことを言いながらつい並んじゃうあのタピオカである。

 正直、たかがデンプンにそこまで執着する奴の気がしれないが……いやまあ好みは人それぞれだけどな。個人的にはそこまでじゃないというだけで。うん。口に出したり発信しないだけ俺は大人だ。

 それに実際店にやって来ている今の俺に言えることではない。……そして、周囲からやたら見られたりヒソヒソとこっちを見てなんとも言えないことを言っていたりするのが面倒だ。

 まあ女子ウケが良いとはいえ、今時男でもタピオカの1つや2つは嗜むだろう。だからそこまで奇異の目で見られることはないと思ったんだが……如何せん、ここは例外だった。

 店の外にまで並ぶ行列。ここに並んでる間にスマホで検索して分かったのだが、ここは長野市内じゃ知らぬ人がいないほどの有名店であり、なおかつカップル向けのタピオカミルクティーのお店らしいのだ。

 まあカップル向けとは言っているが、女の子の友達同士で来る奴が大勢だけどな。……いや、でも同性愛くらい今時珍しくもないし、ひょっとしたらカップルの可能性はある。俺が分からないだけで。

 とにかく、俺は失敗したのだ。暇潰しがてら、ちょっと並んでみようと思ったのが間違いだった。俺は並ぶのはそこまで苦じゃないとはいえ、軽率な判断だった。それは並んでからすぐに気がついた。

 並んでる人はその殆どが女子で、それ以外でいる男は全員女子が隣にいる。つまり、カップルである。男1人客は俺だけ。

 

「ひそひそ……」

 

「チョーウケル」

 

 そう、そのため俺は針のむしろ状態なのである。お店から出てきたカップルが俺の方を見て何やら話している。何がウケるだ。ウケねぇよ死ね。

 ただほんとまいったものだ。なんだこの状態は。

 まるでラーメン食べようと男だらけの列に並んでたら、いきなりタピオカ店の行列に異世界転生した感じになっている。異世界でも転生でもないけど。タピオカ店は異世界だった……? 

 

「しかもそこまでだな……つーか飽きた……」

 

 しかも更に不幸なことに、味は普通だった。いやうん……タピオカだ。タピオカミルクティーだ……って感じ。

 前に飲んだ時ははやりさんと一緒に行って、しかもそれが結構美味かったのでちょっと期待したのだが、久し振りに飲むと普通だ。いや、不味くはないが、途中で飽きる。一個丸々飲むことは不可能だ。

 おすすめであり定番セットであるカップルセットを頼んだのだが、もう一個はとてもじゃないが飲む気になれない。何でも、異なる味のものをカップルで飲み比べするように2つセットで売ってるらしいが……単品で頼むべきだったな。勿体ないことをした。どうせなら俺の女の誰かにあげたいところだが、生憎と和も美穂子も長野県では南の方に住んでおり、俺が今いる長野市内からはちょっと遠い。近ければデートと行きたいところだけどな、それはちょっと厳しい。

 全く、土曜日の朝から俺は何をしてるんだと自分で自分に呆れてしまう。そんなに腹減ってないからって適当なモンで腹を満たそうとしたのが間違いだったな……。

 ただまあ、やっちまったものはしょうがない。残ったタピオカはこれから行く学校への差し入れにしてやろう。男子部だったらお察しだが、多分女子だろう、多分……いや、女子であってくれ、マジで。

 そうして俺はさっさとタピオカ店を後にしようと──って、お? 

 

「…………はぁ」

 

「ここ、ここ! ここ、前から行きたかったんだよねー」

 

「わかる! 早く並ぼ!」

 

 ……え、えー……さすがにマナー違反過ぎだろ……いや、マナーとかそれ以前の問題だよな、横入りは……。

 俺は車に戻ろうと行列の最後尾の方へ歩いて行こうとしたのだが、途中で列に横入りする連中を見かけてしまう。いやマジ……あんなさも当然のように横入りする奴、初めてみたぞ。

 並ぼうとしていた黒髪の女の子は……って、結構可愛いな。いや、結構じゃない。大分可愛い子だ。黒髪のボブカットで身長は和と同じくらい。華奢だがおっぱいがでかい。良いことだ。……いやまあそれは置いといて、ともかくその子は並ぼうとしていたところを女子二人組に横入りされて小さく嘆息している。それほど怒っている訳でもなさそうだが……ただちょっと立ち止まってしまった。

 その行動はなんとなく分かる。あるあるというか、ちょっと嫌なことがあった時に急に冷める時ってあるよな。店とかで。もういいわ、行くのやめよってなる感じの。わかるわかる。怒るまでもなかったりするんだが、自分の中でどうでもよくなったりするんだよな。

 俺は見知らぬ女の子に共感を得てしまい、そこから立ち去ろうかとちょっと悩む。……いやまあ立ち去ってもいいんだろうが、今のを目の当たりにして無視して立ち去るよりは、一声掛けた方が良いことではある。面倒事ではあるし、普段なら絶対にやらないが、まあちょっと気分的に注意してやろう。

 

「──なあ、横入りだぞ」

 

「えっ?」

 

「え? 急になんですか?」

 

「…………え?」

 

 俺が行列の最後尾。横入りされてしまったおっぱいの大きい女の子と女子2人に近づいて声を掛ける。すると全員、え、何? みたいな反応。特に横入りされてしまった子が一番驚きが大きい気がするのが地味に傷つくが、もうここまできたら引けない。俺は端的に指摘してやる。

 

「そこの子が並んでただろ。そういうのは良くない」

 

「え? 並んでたって……は?」

 

「何言ってるの?」

 

 うわ……しらばっくれるのかよ。最悪だな。男ならちょっと強気になってしまいそうだが、相手も女子だし、こっちは社会的立場もあるからあんまり強く言えない。あくまでもプロ……元プロとして穏便に注意しなければならない。

 

「……いや、並んでる子がいるのに横入りは良くない。なあ、そうだろ?」

 

「……え、あ、は、はい……」

 

 俺が隣の女の子に声を掛けてやると、何故かその女の子はかなり動揺して目をパチクリとさせていた。混乱してるみたいだが、何故混乱するのか。まあいいけどな。

 問題はこの女子2人だ。さて、どうやって説き伏せようかと頭を悩ませていると……何故かその2人も俺が差した女子の方を見て、目を丸くしている。え、何だ? 

 

「え、あ……ご、ごめんなさいっ。全然気が付かなくて……」

 

「ちょ、ちょっとボーッとしてたのかも……その、横入りしてごめんなさい……」

 

「……べ、別にいいっすけど……その、こういうの慣れてますし……」

 

 ……なんだこのコミュ障というか、ぎこちない会話は……え、というか本当に気づいてなかったのか? 

 ナチュラルに横入りしたのかと思ったが、2人の反応を見る限り、本当に気づいてなかったし、申し訳ないという気持ちが見て取れるし、どうやらマジのようだ。

 逆に、横入りされた女の子の方も困惑気味なのが気になるが……まあ良いだろう。巨乳美少女との接点は惜しいが、見知らぬ子とその場で知り合いになって仲良くなれるほど俺は器用でもないし、勇者でもない。そういうのはデフォでモテモテの奴がやることだ。

 

「……解決したか。それじゃ、俺はこれで」

 

 ということでさらばだ巨乳ちゃん──と、俺は両手にタピオカを持ったままその場を後にする。駐車場へ向かい、

 

「ま──待ってくださいっす!」

 

「え?」

 

 と、ちょっと歩いて駐車場に足を踏み入れたところで後ろから呼び止められた。って、さっきの巨乳ちゃんか。どうしたんだそんな追いかけてきて……? 

 

「……あー、何か用かな?」

 

「──()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

「……は?」

 

 巨乳ちゃんは俺に近づいてくるなりそう勢いよく質問してくる。意味が分からんけども。思わず、は? って顔になる。そりゃなるだろ。誰だってなる。

 だが一応落ち着いて、外向き用の対応で、

 

「……なんだ、君は幽霊か何かなのかな?」

 

「幽霊ではないけど()()()()()()()()()!」

 

「似たようなもの……?」

 

 冗談っぽく言ってみたが、まさかの返答に頭に疑問符が浮かんでしまう。また意味がわからん。なんだ、電波な子なのかな? 

 しかし冗談を言ってる風には見えない。……それが余計に電波っぽくもあるが……とにかく巨乳ちゃんの話を聞く。

 

「私、存在感めちゃくちゃ薄いんすけど……どうっすか!?」

 

「……いや、そんな迫るように聞かれてもな……」

 

「あ、それもそうっすね。それじゃあ──」

 

 と、その女の子はそこで黙る。眼の前で何もせずにただ突っ立っている──すると、だ。

 

「……あ? 確かに、ちょっと影が……いや、よく感じてみたら、確かに気配がめちゃくちゃ薄いな……?」

 

「そうっすよね! そうなんすよ!」

 

「っと、大声を出すとまた元に……いや、それでもちょっと気配が……」

 

 その巨乳ちゃんが言うように、確かに気配が薄くなった。それも、異常な程に。

 眼の前にいるのに、まるでいないようにも感じられる。それこそ、普通なら気づくことすら出来ない。眼の前にいても誰もいないと認識してしまいかねないほどの存在感の無さだ。

 これなら確かに、先程の2人が気づけなかったのも納得だし、幽霊みたいなものって言うのも頷けるが……こいつは一体……? 

 

「これが“ステルスモモ”の力っすよ!」

 

「……ステルスモモ?」

 

「……も、モモっていうのはあだ名っす!」

 

 俺が真顔で聞き返すと微妙に恥ずかしかったのか誤魔化すように説明する。肝心のその力の説明はしてないが……まあ、そこまで聞けば俺には何となく分かる。俺は頷き、

 

「……なるほどな。生まれつき、そういう力……いや、そういう特性って訳か」

 

「え、分かるんすか?」

 

「まあ……そういう特殊な力とは結構関わることが多くてな」

 

「へぇ、そうなんすか……だからお兄さんは私のことも見えるんすか?」

 

「……そんなところだ」

 

 正確に言うなら、特殊な力と関わってるから分かる訳じゃないけどな……ただこれは言う必要がないってだけで。

 

「……そうっすか……そんな人もいるんすね……」

 

 そしてそのモモという女の子は俺が見えるということに何か思うところがあるのか、下を見て、呟くようにそう口にする。

 ……まあ生まれつきそうだとしたら思うところは色々あるだろう。それこそ、容易に想像出来ることもあれば、他人が想像する以上の苦労があったはずだ。

 しかし、こうやって推測するのも少し失礼だが、本人は割り切れているようなので良かったとも言える。それで絶望などしてしまえばもっと酷いことになっていた可能性もあるからな。

 だからそこまで悲観することもない。ま、今日はちょっと良いことがあったというオチで終われば──

 

「……お兄さん、ちょっと頼みがあるんですけど……」

 

「? なんだ?」

 

 と、息を入れてこちらを見上げるモモ。頼み? いや別にいいけど、もうちょっとでこれから指導する学校に行かなければならないんだけどな。

 しかしまあ、少しくらいならいいだろうと俺はモモの声を待つ。何を言うのだろう。タピオカくれ、とか。それなら全然構わない。むしろあげたい。適当な理由をつけてあげようかと思っていると、

 

「私と……と、友達になってほしいっす!」

 

「……友達?」

 

「そうっす! 私、こんなんだから全然友達がいないんす!」

 

 ……そ、そうか……いや、そんな明るく言われると反応に困るな……予想外の頼みだ。それに、

 

「……そうか。お前も苦労したんだな……」

 

「あれ? その反応……あっ。もしかして、お兄さんもぼっちっすか?」

 

 友達がいないことを内心で憐れんでいると予想外のカウンターを食らう。くっ、失礼な……だが俺はぼっちではない。それを何とか口にする。

 

「……いやいや、友達くらいいるぞ」

 

「何人っすか?」

 

 さらなる追撃。い、いやいや、友達くらいいるし……ぼ、ボブとかハギヨシとかボブとか……。

 

「…………2人」

 

「……ほぼぼっちっすね……」

 

 うるさい。友達なんていなくとも生きていける。

 それに俺には友達こそ少ないが、仲のいい相手はそれなりにいるのだ。関係性が友達っていうか、恋人とか後輩とか先輩とか教え子とかそういうのが多いだけでぼっちという訳ではない。断じて。

 

「それじゃあ友達ということでいいっすか?」

 

「……いや、なんだ、その……友達って言われても俺、この辺りに住んでる訳じゃないからな。それにお前、多分だが学生だろ?」

 

「あ、そうなんですか。それじゃあメル友的な感じでどうっすか?」

 

 いや、メル友って古いな。今日日聞かない言葉だ。

 つーかそれでもどうなんだ……? 学生と友人か……いや、学生と肉体関係にある俺が何を躊躇してるんだって感じだけどな。

 それに有珠山や龍門渕、今まで行った学校の生徒ともチャットで普通にやり取りしてるし、特に問題ないと言えばないな。それなら……、

 

「……ま、いいけどな。それじゃあ連絡先でも交換するか」

 

「お願いするっす」

 

 と、あっさりと了承してお互いに携帯を取り出す。なんか変な感じだな……まあ気にしない方がいいか。

 

「お兄さん、東郷さんって言うんすね」

 

「ああ。まあ、それじゃあ暇な時にでも連絡してくれ。これから俺は仕事なんでな」

 

「あ、はい。私もこれから部活が──って、もうこんな時間っすか。急がないとヤバいっす!」

 

 ほー、モモはどうやら部活に入ってるらしい。部活か……なんだろう。影の薄さを活かしてバスケとか? なんかミスディレクションとか使えそうだな。

 それはともかく、遅れそうか……車で送っていってやろうかと提案したくもなるが、出会って直ぐに車に乗せるのもなんだかな……それに、俺の方もぼちぼち向かわないとならないし。ここは見送るか。

 

「それじゃあな」

 

「はい。お兄さん、また今度っす」

 

 と、お互いに別れの挨拶を告げると、モモは小走りでその場から立ち去っていく。

 ……確かに、離れるに連れて気配が薄くなってるような……なるほど。そういう体質か。

 十中八九オカルトだろうが、なんとも言えないオカルトだ。麻雀とは関係なく作用するタイプで生活にも影響を及ぼしている。

 何気に大変そうだが、まあなんだ。個人的にちょっと同情してしまうし、何かあったら相談に乗るなりしてやろう。一応友人ってことになったしな。ちょっと変わってるが……。

 

「さて、俺の方も向かうか……」

 

 モモと別れたところで俺はタピオカを持って車へ乗車し、目的地に向かって車を走らせるのだった。

 

 

 

 

 

「ここか……」

 

 俺は眼の前にある建物、ここ数ヶ月で割と慣れた類の施設を見て呟く。

 長野での指導もここ──鶴賀高校で4校目となる訳だが……やはり大人が学校に入るのは若干緊張もするし、懐かしくもあるような独特な感じを受けてしまう。

 特に特徴もない、と言ったら失礼だが、極めて普通の学校だからだろうか。風越や龍門渕とは違い、普通の高等学校。私立ではあるが特に特徴も無さそうな普通の学校だ。

 特に麻雀が強い訳でもないっぽい学校への来訪は、麻雀を仕事にしていた俺とは縁がないためそう感じるのかもしれない。

 それこそ、強豪校へ来訪した際は慣れ親しんだ空気感というものを感じた気がしたが……ここはそういう感じでもないしな。

 

「えっと……部室はこっちか……」

 

 とりあえず部室に向かおうと事務室で案内を受けて部室へと向かう。

 土曜日ということもあって生徒の数は少ない。外であれば運動部が練習している姿を見られるが、室内は部活動をしていたとしても部室に籠もっているため廊下に出ている生徒が少ないのは道理である。

 ただ夏の大会……それこそ、麻雀以外の部活でも大会は近いだろうし、土日でも練習している部活は多いため、人の気配はそれなりに感じるけどな。道中、部屋の中から声が聞こえたりとかもあるし。ほんと学生生活って感じがして良いと思う。……おっさんみたいな感想だな。やめとくか。

 そろそろ暑くなってきたよな、と別の事を頭に思い浮かべながら部室へ真っ直ぐに向かっていると、途中、向かい側から生徒が小走りでやってきて、

 

「──っと、遅れてしまったか……」

 

「あ?」

 

 その生徒が俺を見るなり立ち止まり、頭を抱えて独り言を口にする。なんだ? もしかして……、

 

「申し訳ありません。私は依頼させて頂いた麻雀部の加治木(かじき)ゆみです。そちらは東郷さんで?」

 

「──ああ、どうも。態々迎えに来たのか」

 

 挨拶をされて得心する。メールで俺に依頼をしてきた加治木という相手は眼の前の女子であるらしい。

 丁重に礼をしてくる女子にしては身長が高めで高校生にしては大人っぽい加治木を見て俺も応対する。髪の色とか目の色が俺とか良子に似てるよな。ちょっと親近感だ。それに雰囲気的に付き合いやすそうでもある。

 

「本当は駐車場か事務室で待っている予定でしたが、所要で少し……ここからは案内します」

 

「ああ、頼む」

 

「ではこちらに」

 

 と言って先導する加治木についていく。うん、何も問題はない。無さすぎて逆に不安になるレベルだ。

 この加治木という女生徒……なんというか、話してると全然高校生っぽくないな……。

 ほんと大人のキャリアウーマンと話をしてるみたいだ。学生相手なのに一瞬普段の話し方じゃなくて敬語を使ってしまいそうになる。話も簡潔で無駄はないし年上への礼儀も弁えてるし、めちゃくちゃしっかりしてるな……。

 何十名と部員がいる強豪校の部長でもここまでしっかりしている奴はそういない。少し遊びがないようにも見えるが、そういう気遣いまで求めるのは酷だろう。こういう時は大人の方から話を振るものだ。

 

「……加治木、だったか。とりあえず事前に聞いていた通り、1週間部員の指導に当たってほしいとのことだが……」

 

「はい。私も含めて、東郷さんにはうちの部を鍛えて頂きたい」

 

「……鍛えるのは指導する以上当然だが、どの程度が良いんだ?」

 

「……具体的な目標設定ということでしたら、大会で勝ち抜けるくらいに……と言うことで如何でしょうか」

 

 なるほど。大会を勝ち抜けるくらいに、か。結構本気な上、ガチめのをご所望のようだが、

 

「……それにはまず、部員の程度を見ないとな。ただ長野県内で大会で勝ち抜ける……というのは中々厳しいってのは分かってるか?」

 

「……無論です。昨年の優勝校である龍門渕に、龍門渕に負けたとはいえ県内屈指の強豪である風越女子。その他にも我々より実績がある学校は無数にある……」

 

「ほう……よく理解しているみたいだな?」

 

「勿論。大会で出来る限り勝ち抜くと目標を設定した以上、対戦相手の情報収集は……いや、出来ることは何でもしておきたいと……そう思っているだけですよ」

 

「……俺へ依頼したのもその一環ということか」

 

「ええ。うちの部は大会での実績もなく、部員も団体戦に出れるギリギリの数。当然、部費も少なく、無駄遣いは──と、すみません。これは言うべきではなかったです」

 

 加治木が俺に気を使ったのか途中で言葉を止める。他人に値段をつけているようでどうかと思ったのだろう。

 

「いや、気にしなくていい。元プロへの依頼料にしては安すぎるのは自分で分かってるからな」

 

「……正直なところ、最初は疑わしいと思っていましたが、猫の手も借りたい状況であれば、手段を選んでいる暇はないと」

 

「まあそうかもな。なりふり構わずやるってのは良いと思う。俺が部長か指導者でもそうするかもな」

 

「はは……部費に余裕があれば学校に申し出て正式に指導者を呼びたいくらいなのは間違いないです。……っと、ここです」

 

「ん、そうか」

 

 加治木と話している内に部室の前へとたどり着いた為、一度会話を打ち切る。というか……こいつ、めっちゃ話しやすいな……なんだろう、凄く無駄がない会話が出来て悪くない。アホっぽいやり取りも嫌いじゃないが、俺はどちらかというと受け手でツッコミの方だから自分からどうこうっていうのはしないしな。

 多分、この加治木もそんな気がする。会話が疲れないというか、フラットで落ち着くな。会話的には何も面白くないだろうが、誰かに聞かせている訳でもないし面白さは必要ない。

 と、内心で加治木の評価を上げていると、その加治木が部室の扉を開けて中に足を踏み入れたのでそれに続く。そして、その中では、

 

「──戻ったぞ」

 

「──お、ユミちん。プロ連れてきたのかー?」

 

 そして加治木の声に応えて中からお気楽そうな声がこちらに届く。見ればショートカットの……外ハネ? 少し髪が外側にハネている小柄な女生徒が加治木をユミちんと呼んだ女生徒のようだ。

 それに加えて部室には他の部員もいた。その中の2人がこちらを見て、

 

「す、凄い……本物の東郷プロだ……!」

 

「有名な人なんですか……? あ、でも確かにちょっと芸能人っぽい感じが……」

 

「う、うむ。東郷プロは知る人ぞ知るマニア向けではあるけど麻雀ファンにはそこそこ有名で──」

 

 ……おいそこ。聞こえてるぞ。そこの麻雀ファンらしい子。俺のことを知ってるなら結構マニアックだな。

 黒髪ポニーテールで前髪が跳ねた女子が俺のことを差して言い、それを金髪のサイドテール、巨乳の眼鏡っ娘という中々に好みの女の子が俺を物珍しそうな表情で見て、ポニーテールの子に相槌を打っている。うーん、やっぱ麻雀部って美少女率高いな。この時点で大分当たり感がある。

 しかし、ちょっとこの面子は清澄程ではないが賑やかそうだな──って、んん? 

 

「……モモ?」

 

「──あれ? 東郷さんじゃないっすか」

 

「ひゃっ!? 桃子さんいつからそこに!?」

 

 部室の中。金髪眼鏡っ子の隣には先程街で会ってメル友(?)になったモモの姿が。凄い奇遇だな。いや、秒速で理解した。

 

「ここの麻雀部の部員だったのか……」

 

「あー、今日から指導に来る元プロってホストのお兄さんのことだったんすね」

 

「凄い偶然──って、俺はホストじゃねぇよ」

 

「あ、つい思っていたことが口から出たっす……」

 

「……知り合いだったのか──って、それより東郷さん、今モモを……!」

 

 加治木が困惑気味に俺達を見た後、何かに気づいて驚いた顔で俺を見る。うん、多分モモの体質のことだな。

 

「ワハハ。まさかモモのことが見えたのかー?」

 

「う、うむ……まさかそんなことが……あ、でも確かにさっき普通に見かけて名前を……」

 

「私や加治木先輩達でもまだ見失うのに……」

 

 次いで他の3人も俺がモモを見つけたことを口々に驚く。やっぱ普通はそうなんだろうな……。

 

「そうなんすよ! 東郷さんは街中で困ってる私を見つけた凄い人っす!」

 

「いや、まあ……確かにそうだが……」

 

 モモが俺の斜め前で俺を称えるようなポーズを取って言う。なんだその大げさで動きがでかいポーズ……あれか? 存在感が薄すぎるから変なポーズや動きで目立とうとしてるのか? 涙ぐましい努力だが反応に困るな……。

 しかし他の部員達はそんなことより俺がモモのことを見えることが気になっているというか驚いているらしい。おそらく部長である加治木も他の部員よりは落ち着いてはいるが、驚いた表情で俺の方を見て、

 

「……驚いたな……モモに気づくことが出来る人間がいるとは……しかし、何故街中で?」

 

「いや……なんか店の行列で横入りされてたから注意したら驚かれて──あ、そうだ。誰かタピオカいるか?」

 

「……なるほど。確かに、モモならそういうこともあり得るか……しかしこれは僥倖だな。モモの特訓にも使えるか……?」

 

「ワハハ、元プロは気が利くなー。ありがたく貰うぞー」

 

 顎に手を当てて考え込む加治木。なんというか、真面目だな……その横で平然とタピオカを受け取る部員がいるのに。

 何となくだが、加治木は苦労してそうである。なんかこの面々と加治木の性格を鑑みるとそんな感じがするな……特にこのタピオカを受け取った能天気な部員の所為で。

 

「東郷さん、見た目とか服装的にホストかと思ったんすけど、麻雀のプロ……元プロだったんすね?」

 

「よく言われるが……そんなにホストに見えるか? 目のクマとか見たらそう見えないだろ」

 

「……言われてみればホストというより、そういう怪しいお店の裏方とかやってそうっすね。インテリ系の()()っぽいっす」

 

「違ぇよ。つーか、そっちはそっちでなんとも言えないな……」

 

「あー、知ってるぞ。肉とか食べたら歯に挟まるやつなー」

 

「もっと違ぇよ。それはただの筋だ」

 

 モモが顔の頬辺りを指で差して言ったのでツッコミを入れると、続けて口の大きい女子が別のことを言うのでツッコむ。……って、筋という言葉が出てくる時点で知ってんじゃねぇか。スジモンな。何気にモモの手の動きも古いポーズだし古い言い方だよな……。

 

「……はぁ、それよりも、お互いに紹介をしておこう。蒲原から頼めるか?」

 

「分かったぞー、ユミちん。私は3年で部長の蒲原(かんばら)智美(さとみ)だ。はい、次佳織とむっきー」

 

「あ、うん。えっと、2年の妹尾(せのお)佳織(かおり)です。よろしくお願いします」

 

「う、うむ……2年の津山(つやま)睦月(むつき)です。よろしくお願いしますっ」

 

「そして私が、1年の東横(とうよこ)桃子(ももこ)っすよ!」

 

「ああ、俺は東郷仁だ。よろしくな」

 

 順番に挨拶されて俺は頷く。えーっと? 外ハネで脳天気な奴が蒲原で、金髪サイドテールメガネっ娘おっぱいが妹尾で、黒髪ポニーテールの真面目そうな子が津山。

 それに影が薄いオカルト持ちの東横桃子ことモモか。それに部長の加治木を合わせて鶴賀高校麻雀部──って、あれ? 

 

「……あ? 部長は加治木じゃないのか……?」

 

「……ん? ああ、いえ、私は部長ではなくて……」

 

「ワハハ、部長は私だぞー」

 

「……そうなのか」

 

 え、マジ……? まさか過ぎる。てっきり加治木が部長だと思っていたが……蒲原なのかよ。全然そんな感じしないけどな……仕切ってるのが完全に加治木だし。ほら今もホワイトボードの前に自然と立って、

 

「──それでは東郷さんも揃ったところでミーティングを始めよう」

 

 ほら。もうなんか完全に様になってるし、他の部員も全然違和感持ってないもん。部長だと言う蒲原も普通に椅子に座ってアホ面で俺があげたタピオカ吸ってるし。部長ならミーティングとかで仕切れよ。いや、確かに加治木の方が向いてそうだけどな……。

 ……しかしまあ、なんだ。ここでもちょっと期待出来そうというか、オカルトを使いたい相手がいるし、ラッキーだな。

 俺はミーティングの為に席に着く部員を見渡して……その中でモモ。それに次いで妹尾を見て、内心でこれからに期待した。




今回は最初なのでこんなところで。次回は対局とか色々。落とすのは当然モモだけど、なんかユミちんとか相性良さそうな感じあるなって書いてて思いました。
それと、お気に入り5000突破とR-18累計ランキングで10位ということで、皆様に感謝を申し上げます。ありがとナス!
皆の熱い感想、待ってる

【参考程度に】鶴賀高校で好みの子は誰?

  • 津山睦月
  • 妹尾佳織
  • 蒲原智美
  • 東横桃子
  • 加治木ゆみ
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