※この作品はR-18です。

役満で上がると惚れられる   作:黒岩

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ステルスモモ

「──大会は2週間後、6月4日、5日の日程となっている。それまでにやれる限りのことをやっていく」

 

「要は沢山練習するってことだなー」

 

「ああ。そのために元プロである東郷さんを招いた。ここにいる5人、私も含めて大会までに少しでも強くならなければならないからな」

 

 始まった加治木のミーティングは手慣れたものであった。全員の前に立って堂々とホワイトボードを差しながら説明し、部を取り仕切っている。

 多分、本当に慣れているのだろう。監督とかコーチがいるようにも見えないし、采配を取っているのは加治木ということだ。珍しい……ことはない。強豪校なら監督やコーチがいることは当たり前だが、俺が今まで指導に出向いた学校の殆どは監督やコーチなどの指導者はいなかった。顧問の先生──名義だけ貸し出しているであろう学校の先生などはいるだろうが。

 有珠山は獅子原が皆を引っ張っていたし、龍門渕だと透華が、清澄だと竹井が──といった風に。風越だと久保さんというちゃんとしたコーチがいるが、キャプテンとしてしっかり活動もしている美穂子なんかもな。

 なんだかんだでどいつもリーダーシップを発揮していて素直に凄いと思う。俺みたいなそこらの大人よりよっぽどしっかりしているんじゃなかろうか。

 特にこの加治木はかなりしっかりしているな。落ち着いていて頼りになるというか、後輩は安心出来るだろう。

 

「さすが加治木先輩っす!」

 

 モモも、さすがと褒め称える。その眼差しは尊敬にも似た……うん。なんか結構心酔気味な気もするが気の所為か? でもモモの特性とかを鑑みるに、敢えてこういった部活に在籍するのも何かがあったからではないかと思わなくもない。

 

「それじゃあここからは東郷さんと実際に打っていこう。……それで構わないだろうか?」

 

「ああ」

 

 と、加治木が横に立っていた俺に向かって声を掛ける。まぁ、ここからは仕事の時間ということだ。ここに来る前、メールで行った打ち合わせ通りでもある。

 

「まずはここにいるメンバー全員、俺と打ってもらう。順番は任せるから席に着いてくれ」

 

「は、はい。それじゃあ……」

 

「わはは。プロと打つなんて緊張するなー」

 

 最初に返事をして席に着いたのは津山と蒲原の2人だった。津山は分かりやすく硬くなっており、蒲原の方は口ぶりとは裏腹に脳天気な表情を崩していない。俺があげたタピオカも飲んでるしな。

 そして最後は、

 

「それじゃステルスモモの実力を見せるっすよ! ホストのお兄さん!」

 

「だからホストじゃねぇんだよ……いいから早く座れ」

 

 はいっす、と割と威勢よく全自動卓の席に着いたのは東横桃子ことモモ。1時間ほど前に俺の友人となったこの中で唯一の1年生部員だ。これで俺を含めて4人。麻雀をするための面子が揃ったことになる。後の2人は、

 

「えっと……加治木先輩、私はどうすれば……?」

 

「妹尾は私と一緒に実際の対局を見てほしい。それを見ながらルールと流れを説明するが……構わないか?」

 

「うっ、難しそうですが……やる以上は頑張ってみます……」

 

「おー、頑張れ佳織ー」

 

 わはは、と佳織の方を見て笑う蒲原。俺も2人の会話が気になって顔を向ける。少し眉をひそめてしまいながら、

 

「ん? そっちの子……妹尾は初心者なのか?」

 

「はい。団体戦の登録のために出てくれると……」

 

「わはは。佳織は私の幼馴染だからなー。幼馴染権限で引っ張ってきたぞー」

 

「べ、別にいいけどもっと早く言ってほしかったよー……」

 

 佳織が少し困ったように言う。へぇ、初心者か。初心者を連れての団体戦か……。

 しかしまあ、初心者を指導するのはついこの間やったばかりだし、別に構わない。俺は指導の為に、対局前に少し聞いてみることにする。

 

「それで加治木がルールを説明するのか……って、始めてどのくらいなんだ? まさか1、2週間とかか?」

 

「……いえ、それは……」

 

「? どうした?」

 

 ここまでずっと落ち着いた様子の加治木が珍しく言い淀む。だが隠していても仕方ないと直ぐに頭で理解したのか、溜息と共に答えを吐き出す。それは、

 

「……妹尾は今日が初めてです」

 

「えっ、マジ?」

 

「マジだぞー。佳織は今日初めて練習に参加するからなー」

 

 えぇ……ってことは、大会まで2週間しかないから、麻雀歴2週間。練習期間も2週間でインターハイ予選に臨むのか……流石に困惑してしまう。

 他のメンバーの実力にもよるが、どう見ても龍門渕や風越、後は……清澄も何気にヤバいな。その3校を超えるほどの実力は無さそうな気もするし、結構厳しいんじゃなかろうか。

 

「えっと……なんかすみません」

 

「……いや、別にいいんだけどな。俺はやるべきことをやるだけだ」

 

「気にしなくていい。妹尾が参加してくれたおかげで団体戦にエントリーすることが出来た。むしろこちらの不手際で練習への参加が遅れたことを謝りたい」

 

 妹尾が俺の表情を見てなのか、軽く謝ってくるがその謝罪を俺と加治木で首を振って気にしなくていいと伝える。実際俺は仕事をするだけだし、加治木は今言ったことこそが真実でしかないだろう。感謝と謝罪しかないはずだ。

 

「苦労をかけるが、我々も全力でサポートする。大会までは耐えてほしい」

 

「は、はいっ。頑張りますっ……!」

 

「ああ。それじゃあルールを説明するが……まずは場決めと言って──」

 

 ……まあ内心では苦労しそうだと頭を抱えるしかないけどな、俺は。今からルール説明となると、憶えにもよるが殆ど何も出来ないんじゃなかろうかと思ってしまう。

 麻雀は意外と憶えることが多くて最初は大変だ。とりあえず、ルールを憶えさせてチョンボさせないようにするので手一杯になりそうだな……。

 というか俺もルールを教えることになるな、これは。ガチの何も知らない初心者に麻雀を教えるとか、プロ時代にも何回か経験があるが、大分久し振りだしそこまで得意じゃない。俺の教え方は多分、面白みに欠けるだろうし……初心者相手の指導とかそういうのはやっぱはやりさんとかが得意だ。牌のお姉さんだしな。子供相手に教えることもあるし、はやりさんの説明、指導は聴きやすくて面白いのだ。声可愛いし。あの声でエロいこと言われると中々に股間にクるものが──っと、危ない。自重しよう。今から仕事だ。私用もあるけど。

 

「始めるか」

 

「う、うむ……よろしくお願いしますっ」

 

「よろしくなー」

 

「よろしくお願いするっすよー」

 

 というわけで対局を始める……ただまあ、俺の予想、推測、直感だとモモ以外はそこまでじゃないだろう。単純に対局のことだけ考えるならとても楽だ。

 しかし、そのモモが俺の仕事としても私用としても厄介だ。多分ではあるが、モモの力は麻雀においても通用するだろうからな──と、言ってる間に、

 

「ツモ。1300・2600」

 

「なっ……早い……」

 

「わはは、親っかぶりかー……」

 

 さっそく、東一局から俺の和了りで幸先の良いスタートを切る。点数もまあまあで速さもある和了りは麻雀という競技において理想的なもの。

 ちなみに今ので蒲原の親が流れ、次は東二局。津山の親だ。順番としては蒲原、津山、東横、俺という風に始まったため、俺はラス親ということで順番もまあ良い。

 って、いきなり和了ってしまったが、もう少し様子見もしないとな。実力が分からない。……ただ、この分だと様子見していても、

 

「……ツモ。1000・2000」

 

 連続で俺の和了り。そこそこ様子を見て和了もちょっと遅めだったのだが、どうやら運は俺に傾いているらしい。

 そしてまあ……この時点で大体分かった。なんというか、この卓に座る2人は可もなく不可もなくというところだろう。

 

「ん~……この辺かー?」

 

「それ、ポンです」

 

 東3局でも2人を見て思う。蒲原と津山。この両名は麻雀はそこそこ出来る。学生レベルの話ではあるが、弱くはない。蒲原の方が3年生ということで若干出来るが、津山とそれほど差があるわけでもない。どちらも地区予選レベルではそこそこ。20位前後に入れるくらいといった実力。オカルトの気配もない普通の打ち手だ。

 全国に出てくる選手と比較すれば実力は下位で劣りはするが、戦えないというほどではない。麻雀は運も絡む競技。その場の状況や巡り合わせによっては十分戦いようはある。

 先程も俺や他家の捨牌から当たり牌を探っている様子を見せたり、とにかく和了ろうとして鳴きを見せたりと動きや判断だって悪くない。少なくとも基本は出来ている。

 

「……ロン。6400」

 

「っ……はい」

 

 津山から直撃を取り、僅かに表情を崩すところを見ながら思う。……やはり悪くはないと。

 ただそれはあくまで学生レベルの話で、プロや全国クラスの魔物相手に通用するほどの確固たる何かがある訳でもない。元とはいえ、俺に劣るのは当然のことだ。

 逆に言えばきちんと今まで麻雀を打ってる痕跡が見えるため、ちゃんと指導をすれば伸びる素質だってある。普通の打ち手ならちょっとしたコツやテクニック、牌効率を高めたり、経験と自信を積ませることで順当に伸びていくものだ。

 だから2人は悪くない。今は元プロの俺と、オカルト持ちであろうモモがいる場なのだ。

 

「──ロン」

 

「……! あっ……」

 

 ──そして東4局。津山が捨てた牌に対して、俺の右隣からようやく声が聞こえた。

 津山は驚き、自分の迂闊さに今更ながら気づいたように声を上げるが、それも当然だろう。

 何しろ、津山は気づいていない様だったが、その牌は危険牌とも言える牌であり、

 

「3900点っすよ、むっちゃん先輩」

 

「う、うむ。……はぁ、また見失ってしまった……」

 

 と、モモが津山から点棒を受け取って俺の親番が終わる。……まあ親番は流されたが、それよりもモモのオカルトのことだ。

 ……なるほどな。消える打牌……いや、モモという対局者そのものを見失っているのか。

 今、モモの捨牌、河の状況を見ればモモの当たり牌はある程度推測出来るものであった。実際の和了りを見ても引っ掛けのない素直な待ちをしており俺の予想とも合致していた。

 麻雀初心者で当たり牌の予想が全く出来ないというのならともかく、津山や蒲原くらいなら危険牌ど真ん中を意味もなく捨てる筈もない。

 聴牌を取るためにリスクを背負って仕方なく──といった表情でもなかった。見えたのは、うっかり、といった表情。見失うという言葉。

 それらを合わせると、やはりモモは消えていたのだ。それも牌ごと。

 これがモモの言う“ステルス”なのだろう。

 モモの元々持っていたその特性、存在感の薄さを利用して牌ごと自分の姿を相手に見失わせる。

 無論、ただ存在感が薄いくらいでそういうことが出来るはずもないので、これは明らかにオカルトだ。一瞬だが、龍門渕の国広が得意とする手品で使われるような視線誘導のテクニック。漫画みたいな手法でやっているのかとも思ったが、やはりそれとは違う。

 牌ごと消えたように見せかけるなんてことはモモほどの気配の薄さ……言わばマイナスの気配でもなければ不可能だ。

 多少消えるのに時間は掛かるように思えるが、それでもこのオカルトは麻雀において非常に強力だ。見ていてそう思う。

 

「…………」

 

「……ふっ」

 

 モモの打牌を見て思わず鼻で笑ってしまう。別に杜撰だったとかそういうことじゃない。その大胆不敵さと言うべきか、不条理さに笑ってしまったのだ。

 今、モモは明らかに蒲原の危険牌を捨てたが、蒲原がそれを見ることはない。俺の予想だと、それは当たり牌であると思うのだが、蒲原はそれに目をくれることもない。

 

「……リーチっす」

 

「これ以上点数を失うのは……ううむ……」

 

 津山も同じだ。今の言葉もまるでモモのリーチ宣言に反応したように見えて、実はそうではない。単純に点棒を失って最下位になっていることを憂いているだけのようだ。

 ……反則級のオカルトだな。対応出来ないとボコボコにされるだろ、こんなの。

 全く理不尽極まりないオカルトだ。どうやらモモが消えると、相手はモモが放銃したことにも気づかないどころか、立直宣言にも気づかないらしい。

 モモの聴牌気配や牌の推測が出来ないどころか、モモが当たり牌を捨ててもそれに気づけず、いつの間にか相手はフリテン状態になったりするわけだ。そして、気づかないうちにモモに振り込んでしまう。

 ……まあ、俺からするとマイナスの気配はむしろ不自然に映るけどな──っと、

 

「──ロン」

 

「あっ……」

 

 モモの捨牌を見て俺は宣言する。モモが驚いた表情を見せるが、いや、さっきから分かってた筈だろう。

 

「5200だ。……言っとくが、危険牌だぞ。俺には見えてるからちゃんとしろよ」

 

「……! はいっす!」

 

 モモが元気よく、笑顔で点棒を渡してくるが……いや、なんで放銃したのに嬉しそうなんだよ……そんなに見えてることが嬉しいのか? 注意すら受けてるし、麻雀的にはマイナスだが……本人としては色々あるのだろうか。

 それはともかく、これで殆ど俺のトップは決まったようなものだ。後は油断しなければ良い。

 ……しかしそれとは別に、重要なことがある。まあ、俺のオカルトのことだ。

 役満を当てて女の子を惚れさせてエロいことをする──その目的が俺にはある訳で……そして当然、ターゲットはこの正統派後輩系巨乳美少女のモモな訳だが……やっぱり、役満を和了るには運が必要なのだ。

 最初の対局で和了れる筈はないとは思っていても、和了る気がなければ和了れないし、試しはするのだが……やはりこれに関しては試行回数を増やして狙えるときに全力で狙うしかない。

 ただまあモモがオカルト持ちであるとはいえ、俺には通用しないのが不幸中の幸いと言える。俺からするとモモはむしろ存在感がある方だ。おっぱいもでかいしな。……いや、別にそれと見えることは関係ないけど。多分。

 出来るなら早めに役満をぶち当てて滞在中に沢山エロエロしたいところだが、モモにオカルトがある所為で若干だが不安要素もある。

 

「……ロン。8000っすよー」

 

「わはは、振り込んでしまったなー」

 

「……ふぅ」

 

 俺は聴牌した手牌を手前に倒して息を吐く。一応、跳満ではあったんだけどな。

 また真面目な話にもなるが、こうやってスピードで負けることが懸念される。というのも、モモはオカルトによって他の相手からは見えていない。俺は見えているが、ある意味でそこは関係ないのだ。俺に気を配ればいいだけで、後は放っておいても振り込んでくれるのだから。

 普通に麻雀として考えてもこれはかなり厄介だ。見えている者が1人いても、その他の相手は見えていないため、結局モモに振り込む確率も高いし、捨牌を考慮しなくとも良く、他家から放銃される確率の高いモモの方が当然和了るのも平均として速くなる。

 何しろ見えている1人は普通に麻雀をしている訳で、他家からは普通に警戒だってされるし、隙あらばこちらを狙ってもくるだろう。麻雀は4人で競い合う競技であり、誰か1人だけに気を配っていればいいという訳ではない。

 それがある意味で許されるのが、モモだ。見えていなければ他家に気を配る必要は殆どなく、見えている人が1人いたとしてもそこにだけ気を配っていればいい。

 つまり、俺が役満だろうがなんだろうが狙っていても、相手が振り込む確率はモモの方が高く、それだけ和了れる確率が減っていくのだ。

 そして何気に素の麻雀の実力も高いため、対戦相手として見ると非常に厄介だ。元プロの俺でもそう思う。全国クラスの打ち手だな、モモは。オカルトも対処は難しいし、誰か1人対処出来たとしても放銃確率から考えて稼ぎ負けるだろう。

 この分だと団体戦もそうだが、個人戦でも結構良い結果が期待出来そうではある。……役満狙いの俺からすると面倒だけどな。――関係ないけど牌をツモる時に乳の動きを見てしまいそうになる。後輩おっぱい揉みてぇなぁ……。

 

「……ツモ。2000オール。で、和了り止めだ」

 

「ありがとうございましたっす!」

 

「わはは、やっぱプロは違うなー」

 

「桃子も相変わらずすごかったですね……」

 

 と、それでもなんとか最後も俺の和了りで終えて結果は俺のトップ。

 2位が何故かちょっとテンションが上がってるモモ。3位が相変わらず脳天気な笑いを見せる蒲原。もうわははって呼んでやろうか。そして最下位が緊張していたのか、対局が終わったことに露骨に胸を撫で下ろす津山だ。

 そして横で対局を見ていた2人に俺が目を向ける。俺から声を掛けないのはまだ喋っているからだ。

 

「えっと……今のは……?」

 

「ああ、今のは和了り止めと言って、オーラス……最後の親がトップであった場合、その和了りで連荘を放棄して試合を終えることが出来るというルールだ。ローカルルールに分類されているが、プロの対局など採用している大会も多い。インターハイでもこのルールは適用されるから、出来れば憶えてほしい」

 

「和了り止め……和了り止め……は、はい。頑張って憶えますっ」

 

「よし。──それで対局の方も終わったが……結果はやはり、東郷さんがトップか……」

 

 と、実は何気に対局中もずっと妹尾にルールの解説をしていた加治木がようやく向き直る。

 そのタイミングで俺も話しかけようと思ったが、それより先にモモが話しかけた。

 

「どうっすか加治木先輩! 私、頑張ったっすよ!」

 

「──っと、ああ。元とはいえプロのいる対局で2位はさすがと言う他ない。……それに、やはり東郷さんにはモモが終始見えている様子だったしな」

 

「そうなんすよ。お兄さん相手だとガチの麻雀っすからね──でもいつもより楽しかったっすよ!」

 

 モモがその言葉の通り、楽しそうに加治木に向かって報告する。……やっぱ結構仲が良さそうだな……もしかしたらもしかしそうなので留意しておこう。

 

「確かに、今日のモモは活き活きしてたなー」

 

「それ以上に東郷プロが暴れてましたけどね……」

 

「ふっ……ああ。だが、モモに東郷さんも暴れて貰った方が都合が良い。私達が強くなるためにはな」

 

 蒲原と津山の言葉に不敵な微笑を浮かべ、加治木が席に着く。どうでもいいが、こいつ学生の貫禄じゃねぇなやっぱり……リーダーとしてのスキルが高すぎるというか、ちょっとカリスマ性すら感じるな。強豪校の部長でもこういうのは中々いない。どっちかっていうと指導者みたいな感じだ。

 

「……それじゃ、次は加治木も混ざって打つか」

 

「ああ、どんどん頼みたい。──津山、悪いが抜けている間は妹尾に色々教えてやってくれ。他の皆も抜ける際は頼む」

 

「はい、分かりました。妹尾さん、大変だと思いますが頑張りましょう」

 

「はい、頑張りますっ……!」

 

「わはは、出来れば私が抜けたかったけどなー。この面子は中々にヘビーだ」

 

「加治木先輩に東郷さんっすか。確かに強敵っすね」

 

「そう言うモモもな。……だが、やるからにはモモ相手でも元プロ相手でも負けるつもりはない」

 

 加治木がそう言って静かに闘志を覗かせる。なるほど、気合は十分ってところか。

 

「……胸を借りるつもりで来るんじゃないのか?」

 

「ええ、勿論。……ですが麻雀では下位の者が上位の者を打ち倒すことは珍しくない。それに、勝つつもりでないと練習にならないでしょう?」

 

「……ふっ、まあ、それもそうだな」

 

 随分と真面目で熱意とやる気に満ちた言葉だ。

 それに応えて俺も本気で指導しよう。……それはそれとしてモモ相手に役満は狙っていくけどな。うん、真面目に指導はするから許して。

 そうして次の対局が始まった。

 

 

 

 

 

 ──そうしてしばらく。

 

「……なるほど。これが元プロの実力か……」

 

「そんな大したものじゃないけどな。それより加治木、お前はかなり良いな」

 

「……元プロにそう言って貰えると励みになりますが……3位では素直に喜べませんね」

 

 対局が終わり椅子に背を預けた加治木が、ふぅ、と息を入れる。そして最終的な順位を告げて苦笑した加治木に俺は続けて言ってやった。

 

「いや、筋がいい。俺とモモ相手にここまで健闘出来るのはお前の地力が良いからだ」

 

「そうっすよ加治木先輩。私とはリー棒分の差じゃないっすか。消えるのにもかなり時間がかかりましたし……正直ヒヤヒヤしたっす」

 

「……そうか? だがこれくらいで喜んでいては──」

 

「わはは……飛ばされて終わった私よりはマシだぞー……」

 

「……す、すまない蒲原。そうだな、一応喜んでおこう」

 

 蒲原がハイライトの消えた目でそう言うと加治木の方が蒲原に気を使う形でそう言う。

 ただまあ、実際加治木の実力は俺が見る限りではあるが、かなり高い。

 オカルトこそ全くないが、単純に上手いのだ。牌効率を良く理解し、他家を良く見てる。特筆すべきはその視野の広さと観察眼だろうか。聴牌気配を推測し、当たり牌を的確に予想しているのだろう。殆ど放銃しない。

 するときは誰かが高い手を張っていそうな時であり、そういう時は安そうな相手に振り込んでもみせる。戦略眼、戦術眼にも長けているというか……おそらくだが、考える能力が全体的に高いのだろう。

 当たり前の話ではあるが、常に最善を模索して打っている。その導き方が加治木は抜群に上手いように感じる。

 自分で言うのもなんだが、俺という元プロでそこそこ出来る雀士と、モモという厄介なオカルト持ち雀士相手に一歩も引かない戦いぶりは見事と言う他ない。全国クラスの打ち手だ。長野でも10位以内には入れる。……まあ最近長野に結構ヤバい奴がいることが分かったのでこの順位だが、他の地区ならもうちょっと上位も狙えるかもな。

 とにかく、自分より上位の相手に対してどう打つかの答えを常に想定して実戦でそれをぶつけてくる。デジタル型と言えばそうだが、オカルトに対してもそれがあるものとして考えて打てる……言うなれば、プロのデジタル雀士に多いタイプだ。

 正直鶴賀のメンバーの中だと一番素の実力は高く、それでいてプロ向きかもしれない。大学とか実業団とかで経験を積んでプロに──という想像が出来なくもない。あくまで順当にいけば、の話だが。

 

「……なるほどな」

 

「……ふむ、しかし……」

 

「…………あの、ちょっといいっすか?」

 

 と、俺が加治木も含めた部員達の評価に対する答えを出そうとする直前、モモが俺と加治木を見て一声掛けた。なんだ? と顔を向けると、同じように加治木もそちらを向き、

 

「どうした? モモ。何か気になることでも?」

 

「いえ、大したことじゃないんすけど……加治木先輩と東郷さん──なんか似てるなーって」

 

「え?」

 

「は?」

 

 モモが突然言い放った言葉に俺と加治木は揃って間の抜けた声を出してしまう。いきなり何を言い出してんだと。

 だが直後、周囲からは“あー”という得心したと言った風な声が揃い、

 

「わはは、確かに。ちょっと似てるかもなー」

 

「髪の色とかそっくりですしね」

 

「性格もなんだか……私、どっちも会って間もないから分からないですけど、ちょっと似た印象を受けますね」

 

「そ、そうなのか……? そう言われてもどういう反応をすればいいか分からないが……」

 

「……そうだな」

 

 加治木の言葉に俺は同意する。蒲原、津山、妹尾と口々に俺と加治木が似てるということで盛り上がるが、それを言われても困るな。というか、俺からするとそこまででもないような……俺の方は目の下のクマが酷かったりするし……どっちかっていうと良子に似てると言われるが……いや、でもそう考えると良子と加治木は似てなくもないか……? よく話のネタになる“似てると言われる芸能人”くらいのレベルではあるが、加治木も美人だし似てるっちゃ似てるか。

 後はまあ──

 

「加治木先輩と東郷さん、実は生き別れの兄妹とかじゃないっすよね?」

 

「私は一人っ子だが……」

 

「……妹は別にいる。加治木に似てない妹がな」

 

「へぇー、どんな妹なんすか?」

 

「あっ、そういえば東郷プロは戒能プロと従兄弟って聞きましたけど、もしかして──」

 

「違う。良子は妹分なだけで妹じゃねぇ。本当の妹の方は生意気でがめつい馬鹿だからな……」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 モモの質問と津山の勘違いに答える形で口にする……が、俺は頭に手を当てて息を吐いた。

 別に他の事に比べれば妹はまだマシだが……実家のことがあるのでここ最近は殆ど会ってないのでなんとも言えないのだ。気がかりでもあるがどうせ放っておいてもそのうち強請ってきそうだし、逞しいから平気だろう。俺の方から連絡を取るのは微妙だ。というか無しだ。

 ……ま、今はオカルトでエロエロする方が大事だしな! 

 後、仕事の事も考えないといけないし、実家に関わってる暇はない。というか今後10年くらいは関わりたくない。10年くらい経てば大丈夫そうだが、今は無しだ。自分のことで精一杯だしな。

 

「……ほら、お喋りは打ちながらでも出来るだろう。打つぞ。時間は限られてるからな」

 

「東郷さんの言う通りだな。時間は有限で限られている。部費と大会までの時間を無駄にしないためにも、やれる限りのことをしよう」

 

「わはは。普段はユミちんだけで真面目要素がいっぱいなのに、東郷さんまで増えたから部室の真面目の空気が色濃いなー」

 

「真面目の空気ってなに、智美ちゃん……?」

 

「自分もそれに含まれている気がする……」

 

「真面目でも真面目じゃなくても空気感満載の私がここにいるっすけど?」

 

「……いいから打つぞ」

 

 話が止まらなくなりそうなのでもうさっさとサイコロを振って場決めをする。……いやまあ俺は真面目の空気を出してるだけで実際は真面目かどうか怪しいけどな。打つ回数増やしてとにかく役満和了りたいだけだし。

 だがそれまでは、この一応大会に向けて真面目に頑張ろうとしている部に真面目に指導することになりそうだった。




次回は続き。モモはぼちぼち落とします。実は障害が無さすぎて話的に山も谷も無さそうな鶴賀編。山と谷間はあるけどね(最低)

それと、ちょっとしたことなのですが、創作用のTwitterアカウントをこの度用意しました。(といっても以前作ったアカウントを流用しただけですが)
更新の予定とかを前日とかに載せたり告知とかに使えたらいいなって。活動報告にも載せています。ということで、よろしければこちらをどうぞ→https://twitter.com/kuroiwaorca

あ、それとR-18累計ランキング9位、ありがとうございます。遂に一桁です!
皆の熱い感想、待ってる。

【参考程度に】鶴賀高校で好みの子は誰?

  • 津山睦月
  • 妹尾佳織
  • 蒲原智美
  • 東横桃子
  • 加治木ゆみ
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