「えーっと……待ち合わせ場所は──こっちか」
5月22日の日曜日。
俺は朝からスマホを片手に長野市内を歩いていた。
昨日の約束通り、今日は朝からモモと加治木と一緒に軽く遊ぶことになっているためである。
まあ別に構わないんだが、出会って1日しか経ってない奴ら……しかも女子高生2人と遊ぶことになるなんてな……。
知らない人からしたら羨ましがられるかもな。もしくは通報されるか──いや、通報まではいかないか? 腐っても元プロ雀士だし、社会的立場がある。
一応指導している子供の相手をしているようなもんだしな。何もおかしなことはない。
いや実際に今回は本当にただ遊ぶだけだし、やましいことは何もない。……まあそういうことをしたいとは思っているが。
「しかしそろそろ熱いな……まだ5月だってのに」
歩きながら日差しが強くなってきたなと思う。
しかしそう言いながらも、なんだかんだで毎年5月くらいは既に暑かったりもするよな、と近年の異常気象っぷりを感じてなんとも言えない気分になる。
一応このいつもの服は通気性が良いのか、そこまで暑くは感じない
……まあ良子がプレゼントしてきたものなので、何らかの曰く付きのものである可能性もあるが……とにかく物は良いので気にしないことにする。
さて、そうしている間にも目的地にたどり着く。
「ん……東郷さん」
「よう、来たぞ」
待ち合わせ場所に指定している神社の鳥居の前に近づいていくと、そこに鶴賀高校麻雀部の部長――じゃない。なんて言うか……まとめ役の加治木ともう1人が立っており、数メートルほどの距離になったところで挨拶。そのまま近くまで行くと加治木が息を入れて、
「今日は付き合ってもらってすみません、東郷さん」
「いや、気にするな。俺にとっても息抜きになる。それにまぁ……モモとは友人だしな」
「……ええ、そういうことならいいんですが……っと、そういえば肝心のモモは遅いですね」
加治木がポケットから携帯を取り出しながら言う。……なんでもいいが、私服の加治木は身長も高く、スレンダーなこともあってモデルみたいだな……ショートデニムにスパッツ。ブーツやインナーの黒アウターの白が一体化したトップスも大人っぽい。肩にかけているレディースのバッグもオシャレだしな。
身長も女性にしては高い方だし、モデルとか向いてそうだな……というか加治木。やっぱり気づいてないのか。
仕方ない。教えてやるか、と俺はもう1人にジト目を向ける。そして、
「……おい、加治木。モモならそこに──」
「──ここにいるっすよー!」
「おおっ!? も、モモ! いたのか!」
「ふふん。最初からいたっすよ。驚かせようと思って。……まあ、やっぱり東郷さんにはバレたっすけど。驚いたっすか?」
「心臓に悪い……」
加治木が胸を押さえてやれやれと言った風に息を吐くと、モモは、大成功っす、と悪戯っぽい笑みを浮かべて喜ぶ。……うん、まあ実際俺にはずっと見えていたし、遠くから見た時も加治木の後ろにいたので何となく察していた。
しかしモモの私服も……これまたお洒落で可愛いな。
白いワンピースドレスのような服に半袖ジャケットのようなものを前を開けて着ており……つーかやっぱ乳でけぇ……本当に高校1年生か? その乳で1年生は無理だろ。
いやまあ和やユキほどではないにしろ、それでもかなり大きくて目を引く。うーむ、揉みたい。吸いたい。挟ませたい。手が届く位置に動く巨乳娘がいるとどうにもエロいことを考えてしまうな……一応今日はまだ遊ぶだけだし、自重しないと……そういうのは堕としてから考えることだ。
「それにしても……どうせなら親睦を深めるために部員全員呼べば良かったか」
「仕方ないっすよ。むっちゃん先輩やかおりん先輩達2年生は宿題があって、部長さんは家の手伝いっすからね」
なるほど。一応誘いはしたのか。
まあ確かに、土日に部活がある以上、昼間は宿題なんて出来ないし、やれるのは朝と夜であるため、遊んでる余裕はないのかもしれないし、家の手伝いはまぁ……しょうがない。
昨日のモモは朝から街にいたが、もしかしたら部活まで暇だったのかもな。1人で街に行くのもアクティブで結構なことだ。俺もそうだから気持ちは分かる。ぼっちが全員インドア派かと思ったら大間違いなのだ。
「……ま、朝も早いからな。それでどうするんだ?」
「行く場所か……実は私も知らされていないんだが……どうするんだ、モモ?」
「行く場所は決めてるっすよ! 早く行きましょう!」
「っと」
「うおっ……!?」
モモが俺と加治木の腕を掴んで引っ張る。そのまま腕を組むようにして思わず声を上げた。何故ならだ。
横乳が俺の腕に……!
むぎゅうっ♥ と俺の右腕に押し付けられるモモの女子高生らしからぬ乳房。服の上からでもその柔らかさと弾力は伝わってくるもので、中々に気持ちいい。
いきなり男に向かってこういうことを……と思ったが、どうやら気づいてないっぽいな。
くっ、気づいてないのか? 役得だが、これを繰り返されるのは辛いぞ……。
男との距離感が分かっていなかったりするのだろうと納得は出来るが、これは中々にムラムラさせてくれる。くそっ、これで今夜は地獄だな……抜きたくないのに思い出したりして。
「あまり引っ張らないでくれよ……?」
「あっ、ごめんなさいっす。はしゃいじゃってつい」
「……ん、まあ良いけどな」
軽くそう告げるとモモがあっさりと腕の力を緩める。……それはそれで残念なんだよなぁ……くぅ、おっぱいの感触が離れた……。
とりあえず、俺と加治木は楽しそうなモモについていくことにした訳だが──
「──ああ、なるほど。ここか……」
「確かに……色々出来る場所ではあるな……」
俺と加治木は揃って高い建物を見上げて頷く。するとモモが胸を張り、
「ここなら移動時間をあんまり考えずに遊べるっすよ!」
と言って示すのは某有名アミューズメント施設。ゲーセンからカラオケ、ボウリングからダーツにその他各種スポーツ……なんでもござれの施設だ。
まぁ、確かに、街を歩いて色んな場所を……ってやると移動時間で時間を浪費しそうだし、色々揃ってるここが良いと言えばそうなのかもしれない。
男の俺1人引っ張って買い物するってのも気を使うだろうし、割と最適かもな。
──というわけで早速、3人で中に入った訳だが、
「ゲーセンか……来るのは久々だな」
「私もだ。友人とたまに訪れる程度で……」
まず中に入ると1階と吹き抜けになった2階部分にゲームセンターがある。
周囲からは特徴的なここでしか聞くことの出来ない電子音が入り混じっており、俺からすると懐かしさを感じる。学生の時、一時期ボブと通ってたな……その所為か、一通りやったことがある……と思う。3年生になってからは頻度が減ったし、プロになってからは殆ど行ってないため新しいゲームなどは知らないだろう。直近で行ったのはプロの時に1度、通りがかった店先のクレーンゲームをはやりさんにせがまれたので1回やったくらいである。
「任せてくださいっす! 私は時々来てるから大体は遊んだことあるので!」
「おお……それじゃ任せる」
了解っす、と元気よく返事をするモモについていく俺と加治木。なんというか、モモは詳しいみたいだな……。
まあモモが遊びたいと言うものをやればいいだろ。しかし何のゲームだろうか。女の子が好きそうなゲームか……クイズゲームか? あれは確かカード持ってるけど今も使えるんだろうか……しかし別に使えなくてもどっちでもいいとしてだ。女子が意外と好きなゲームといえばガンシューティングゲームとかか? あれは割と老若男女誰でも楽しめると思う。2人プレイが出来るしな。あれもボブと記録塗り替えたな……。まあこれは大いにある。それ以外だと……コアな音ゲーとかか? 音ゲーは苦手というほどでもないが、難しいんだよな……やっぱ他のゲームと比べるとちょっと苦手かもしれん……あ、いや1番苦手なのはパズルゲームだな。テトリスとかぷよぷよする奴とか未だに理解出来ん。階段とか聞いても理解出来ん。2連鎖が限界だわ。他はなんだ。シューティングか? そういやシューティングはあまりやったことはないな……なんだ、白糸台の後輩だった倉橋って奴が持ってた女の子が撃ち合う謎のシューティングゲームならやったことはある。ただ巨乳キャラがいなくてちょっとな……と思ってなんか止めた気がする。逆にボブはガッツリ嵌っていた。アイツ、ロリコンだからな……。
「──さあ、ここっす!」
「ん……って、ここは──」
色々と候補を考えていたところでモモがある一角で足を止める。これは紛うことなき、
「ふむ……いわゆる、エアホッケーというやつだな」
と、答えを加治木が口にしてくれた。
モモがやりたいと言って連れてきたのは、まあゲームといえばゲームなのだが、体を動かしてやるタイプの──……なんて言うんだ? 分からん。とにかくアクティブなゲームだった。
なんでこれをモモがやりたいのかはよくわからないが──
「ふふふ、他のゲームは1人でも出来るんすけど、これは複数人いないと遊べないっすから一度やってみたかったんすよね!」
「あー……」
なんとも言い辛い理由をご機嫌な様子で答えるモモ。なるほどな……そう言われるとやらない訳にはいかない。
「それじゃあやるか」
「ああ。だが3人だとチームを分けなければならないな」
「どう分けるっすか?」
「俺1人でいいだろ。お前達で組め」
そういう訳でさっさとチームを決めて硬貨を投入する。まあ唯一の男で大人の俺が2人側ってのも……まあ遊びなのだからおかしいとまでは言わないが、それが適当だろうしな。
「それじゃあ行くっすよー!」
「ああ、来い」
という訳で早速、モモの掛け声でゲームがスタート。それぞれマレットと呼ばれる器具でパックを打ち出し、相手のゴールを狙う。先に10点を入れれば勝利だ。
……まあこのゲームはシンプルだし、一々説明することもないな。俺も何度かやったことある。
とはいえ2対1は初めてだし、どうだろうか……と考えているとモモがマレットを振りかぶり、
「ていっ」
「っと」
「! くっ……」
「ああっ!? もう1点入れられたっす!?」
……あー……なんというか、コメントに困るな……。
ぶっちゃけ運動がそれほど得意じゃないのか、モモのそれは本当にそこらにいる普通の女子って感じだ。
強いていうなら乳揺れが最高ってだけ。うん……いや、それだけで十分じゃないか?
昔ボブとやった時のような激しい打ち合いはない。あの時はパックが相手に激突するくらい白熱してたからな……。
とはいえこれはこれで女の子とキャッキャしてる感じが楽しい。
「角度を計算して……ここだ!」
「っと、危ないな」
「あっさりと防がれるか……モモ、次はコンビネーションだ。2人で協力するぞ」
「分かったっす!」
……とまあ、加治木が時折油断ならないこともしてくるので完全に気を抜ける訳でもない。
やっぱり加治木は頭が良いし、指揮も上手い。的確にモモのカバーをするし、角度を計算して返しにくいところを突いてくる。
とはいえな……2人とはいえ女子に負けるほどではない。モモならこのゲームでもステルスを応用出来そうだが、モモのステルスは俺には効かないからな。俺にとってはやはり普通の女の子だ。
しかし1点も入れさせないのはそれはそれでなんとも言えないため、一応適度にミスっておく。4点くらいでいいか。
「やったぁ! 入った! 入ったっすよ!」
「ふぅ……麻雀と同じで、東郷さんの守りは堅いな……」
「まあ、これでも運動はそれなりに得意だからな──ということで終わりだ」
「あっ」
「っ……油断した……!」
と、いうことでひとしきり楽しんだところで最後の1点をゴールに叩き込む。喜んでる隙を狙うとか割と常套手段だよな。
「あぁ!? 東郷さんずるいっすよ~!」
「ははは、馬鹿め。勝てばいいんだ、何を使おうが」
「む~、油断したっす……」
「まるで悪役のような台詞だな……」
ぐぬぬ、とこちらを見て悔しそうにしているモモと、苦笑気味にツッコミを入れてくる加治木らに向かって勝ち誇る。
まあなんであろうと勝つのは良い気分だし、こうやって分かりやすく勝ち誇った方が盛り上がる。
「それじゃまた次のゲームで勝負っす! 今度は負けないっすよ!」
「……ああ、何でもこい」
それにまぁ……モモが楽しそうなのでノッてやるのも悪くないだろう。
下心がある身ではあるが、彼女とは友達として遊びたい、友達として付き合いたい筈だ。
ならちゃんと友人として一緒に楽しまないとな。
「ふっ……モモ、楽しそうだな……」
「……そうだな。お前も楽しんでるか?」
「ええ、勿論です。こういった息抜きも悪くない」
加治木がはしゃぐモモを見て微笑を浮かべる。一応こっちも楽しんでいるようで良かったが……まるで保護者みたいだな。
まあ今の俺もひょっとしたら人のことを言えないのかもしれないが……俺の方は下心がある分マシだろう。マシってなんだっけ。
まあとにかく、俺と加治木はモモに付いていき、色んなゲームや遊びに挑戦した。
「モモ! そっちいったぞ!」
「任せてください加治木先輩! ステルスは得意っすよ!」
「ずっと隠れてたら時間切れになるぞ……」
──ガンシューティングゲームをやる2人を後ろから眺めたり、
「何……? どういう意味だ……?」
「加治木先輩、一応分からないなら問題飛ばすことも出来るみたいっすけど……?」
「いや待て……もう少しで分かる筈だ……ふぅ、冷静になれ……焦っていては分かる物も分からない……こうやって落ち着いてじっくりと問題を眺めれば……そう、知っている筈の答えが出ない筈がない──!」
「あ、時間切れっす」
「…………」
「……時間、見てなかったのか……」
「は、恥ずかしいから指摘しないでくれ……!」
──クイズゲームで白熱してミスったところを恥ずかしがる加治木を見たりと……まあ他にも色々とやった。
「とりゃっ!」
「見事なスイングだな……」
「当たってないけどな……」
「うぅ……難しいっす……」
途中からスポーツが楽しめるコーナーに行って卓球やら野球やら色々やってみるが……どうにもモモは運動がそれほど得意じゃないようで、かなり苦戦していた。
楽しそうなので良いにしても、ちょっとせがまれるので面倒ではある。
というのも今やってるバッティングセンターは、
「最高難易度メジャー級……160kmの剛速球をホームランに出来れば豪華賞品をゲット……か」
「ああああぁぁ! 全然当たらないっすー!」
「なお、危険なので小さなお子様の挑戦はご遠慮下さいって……いやいや、そもそも打てる奴がいないだろう……モモ、諦めた方がいいんじゃないか?」
「う~……でもあの商品、ちょっと欲しい──っす!」
そう言って再び空振りするモモ。スイングの音ではなくクッションに当たったボールの凄まじい音が裏にいる俺と加治木にも聞こえる。
あの商品、というのは受付のショーケースに飾ってあった幾つかの商品のうち……おそらくぬいぐるみか何かだろう。多分。やたらデカいダイオウグソクムシのぬいぐるみがあったし、モモもそれを見ていた──気がする。
なんでもショーケースの中から好きな商品を選べるみたいだが、確かにゲーム機やフィギュア、先程のデカいぬいぐるみなど、全体的に高そうな物ばかり置いていた。
ただまぁ……加治木が言うようにこれクリア出来る奴いないだろ……それこそメジャーから現役バリバリのスラッガーでも連れてこないと無理そうだ。まず当たっても飛ばないだろうしな。当たっても力負けしてバットを落としそうだし、自打球喰らいそうでハラハラする。
「むぅ……こうなったら東郷さんに交代っす!」
「……無茶言うな。こんなんただの麻雀元プロでやさぐれたホスト扱いされる俺が打てると思うか?」
「自分で言うのか……」
うるさいぞ加治木。自分で言った方がダメージは少ないから言っただけだ。
それにこんなのやってもしょうがない。野球ってあんまり好きじゃないから経験も殆どないし……。
「……やっても結果は見えてるからな。やってもしょうがないだろ」
「……実は小さい頃はプロを目指していた天才野球少年だったりしないっすか?」
「悪いがしないな……むしろ外にはあまり出ないインドア少年だったぞ」
「というか野球経験者であっても難しいだろうな……」
「むぅ、やっぱり駄目っすか……商品欲しかったっすけど……」
肩を落として残念そうなモモ。それほど残念そうにするとは、よっぽど欲しかったのか? しかしまあ、無理なものは無理だからなぁ……。
「ほら、そろそろ腹減ったろ。食い物奢ってやるからそれで我慢しとけ」
「おお! さすが大人の東郷さん! その財力に憧れるっす!」
「えっと、いいんですか?」
「いい。むしろ子供に払わせると外聞が悪いから大人しく奢られてくれ」
年上の大人としてもそうだが、元プロという立場を考えるとそういうのはかっこ悪いし無しだ。
これはお世話になった人から教えてもらったことだが、プロってのは子供に夢を与えないといけないから、金があるならどんどん使って見せつけておくのが良いらしい。
良い車とか腕時計とか、とにかく羽振りを良くしておくと、それだけプロって儲かるんだなってことで夢が広がる。プロを志望する人が増える──ってことらしい。
そんなことしなくてもプロ雀士志望が少なくなることなんてない気もするが、確かにプロなのにセコいってのもなんかな……というわけで俺はそうしている。
とはいえ俺の財力なんてゴミみたいなもんだから憧れるのは止めとけ。憧れるならはやりさんとか良子とか三尋木プロみたいなスター選手に憧れた方が良い。日本の女子プロは結構タレントが揃ってるしな。儲けもとんでもないぞ。
しかしこの場において、俺が1番の財力の持ち主であることは言うまでもないのでさっさとフードコートで飯を買ってやることにする。
「何食べるんだ?」
「午後には部活も控えてるからな。栄養はきちんと摂っておいた方がいいだろう」
「んー、色々ある……ってほどでもないっすね」
「フードコートつってもデパートのとは規模が違うしな。……後、こういうところのは微妙に割増だ」
「でも奢ってくれるんすよね? あ、私ホットドッグにオレンジジュースで」
「少し気が引ける感じもするが……私はナポリタンとアイスコーヒーをお願いします」
「……まぁセットだと若干ドリンク安くなるからな。別にいいが……」
というわけでさっさと注文することに。ちなみに俺は焼きそばにメロンソーダだ。……どうでもいいけど、こういう外のお店じゃないとメロンソーダって飲まないから何故か頼んでしまう現象ない? 俺だけか……?
「時間的に食べて少ししたらお開きになるか。もう少しで部活もある」
「そうっすね。部活もありますし。あ、先輩達のお土産にポップコーンでも買っていったらどうっすか?」
「ナチュラルに出費を増やそうとしてるな。いいけどよ」
たかだか数百円、数千円の奢りくらいで懐が厳しくなるでもないが、塵も積もれば山となるとも言うし、なんかこう奢ってばっかだと予想以上に貯金が無くなりそうだな……。
「──あっ」
「ん? どうした?」
「いや、中学の時の同級生がいて……」
と、俺が懐の心配をしながら注文を終えて席に戻ろうとしたところでモモが遊びに来ている女子を見てそう言う。
俺も見てみれば確かに同じくらいの歳の女子。女子高生って感じだな。特に興味もないが、俺はなんとなく質問する。
「知り合いか?」
「えっと、まあ、何回か話したことあるかなーってくらいっすね」
「なるほどな……」
と、俺も加治木もそれほど深くは突っ込まない。
モモの過去には触れていいかどうか分からないからな。本人は気にしてないように見えて気にしてるのかもしれないし。
なので気を使って別の話題でも振ろうかと思っていると、モモが一瞬、俺や加治木をチラッと見て、
「……私、ちょっと話しかけてくるっす!」
「え? ──あ、おいっ……!」
「それはどういう──」
モモが急にその集団を追いかける。
俺と加治木が虚を突かれたという風に驚きを見せている間に、モモは小走りで彼女らの背後から、
「お久しぶりっすー!」
「え……? 急に声が──って、きゃあっ!?」
「あー……やっぱそういう反応になるっすよね……ってことで私のこと憶えてないっすか?」
同級生だと言う集団にいきなり話しかけたモモは驚かれつつもそのまま自分を指して憶えてるかと質問する。
ちょっと心配になるが、まあ幾らモモの影が薄いとはいえ、一度話したことがあるなら忘れようもないだろう。ある意味でインパクトは凄いからな。
だが、
「えっと……知り合い?」
「あ、あー……そういえば同じクラスにいたような気も……」
俺の予想に反して彼女達はモモのことを憶えていないようで、
「……えっと、ごめん。名前、なんだっけ?」
「……あー、あはは、憶えてないなら大丈夫っすよ。ちょっと話したことがあるくらいで、名乗ったかどうかも憶えてないっすから」
「……そっか。ごめんね、憶えてなくて」
「ううん。気にしなくていいっすよ。それじゃ」
「……? うん、それじゃあ……」
モモと話していた少女は頭に疑問符を浮かべながらも、モモに軽く手を振って別れる。
さしずめ、なんで話しかけてきたのか。何か用事でもあったのだろうか、ってところだろうか。
まあそれほど関係の深くない同級生からいきなり話しかけられたら誰でも面食らうといえばそうかもしれない。
モモもそこまで気にしてる様子はなく、あっさりとこちらに戻ってきたからな。
しかし、
「……あ、ちょっとお手洗いに行ってくるっす」
「ん、ああ……」
「……おう」
モモは突然、そう言って再び席から離れる。
何となく、微妙な空気になったのは気の所為ではないだろう。
実際、俺も加治木も今のやり取りは聞いていたからな。
だからだろうか。俺も加治木もなんとも言えない様子で露骨に口数が少なくなった。
「……気を使わせてしまった……といったところだろうか……」
「……さあな。とはいえ、モモもあまり気にしていないようだし、他人が気にするのも違う気もするが……」
「そういうものですか……」
と、何気ない会話をしたところでまた会話が止まる。
加治木は話しやすいが、俺も加治木もお喋りな方じゃないからな。
それに加治木は俺に対して目上の方に対する姿勢を崩していないのもあるし、モモが間に入ってくれた方が接しやすいかもしれない。
部活ならこれでも問題ないんだが、こういう遊んでる時だとな……ちょっとだけ気になる。
いやまあもっと気になることはあるんだが……、
「……ちょっと俺もお手洗いに行ってくる」
「……えっと、私もちょうど行こうと思ってたのですが……」
あれ? そうなの? それなら加治木に任せるが──
「……ふっ。ですが全員お手洗いに行ってその間に注文が来たら店員が困るでしょうし……ここは私が残ります」
「……いやまあ、別に俺が残ってもいいんだけどな……」
「いや、ここは年長者にお任せします」
しかし加治木は譲らなかった。いや、そもそもトイレの話の筈なんだけどな……俺も加治木もトイレの話として話していない。
……だが加治木がここまで言うなら仕方ないと自分を納得させつつ、俺は席を立つ。
そしてモモと同じ方向に向かって歩いていく。
するとお手洗いが見える──が、モモはそのお手洗いがある廊下の奥のベンチに1人でいて、
「……あ、東郷さん」
「ん」
と、俺はトイレに入ることはなくそのまま、虚空を見つめてアンニュイな表情のモモに近づき、ベンチに腰掛ける。
そして隣を見ずに話しかけた。
「なんでここで座ってるんだ?」
「……なんでっすかね? やっぱり気にしてるとか?」
「なんでお前が疑問形なんだよ……」
「あはは、ごめんなさいっす。いや、なんていうか……自分でもよく分かんないんすよ」
と、モモは一応の笑みを見せながら言った。自分の手のひらを広げて見つめながら、
「正直、本当に1、2回話したことがある程度ですし、そもそも私は気にしてないっす。こんなこと今更っすからね」
と、諦めてるのか、ちょっとだけ寂しそうに微笑を浮かべる。実際、モモの特異性を考えると本当に今更で、今まで何度もあったことだろう。
いや、そもそも気づかれないことの方が多いのだから、憶えられるほど関わることがほぼないのだろうし、それを考えると先程のケースは珍しいのではないだろうか。
「私としては、東郷さんと加治木先輩が私に気を遣わなくていいように、ちょっと自虐ネタみたいな感じで、やっぱり憶えられてなかったす~って場を和ませようと思ったんすけどね。……ただ──」
と、モモは前置きして表情を変えて、
「……久し振りに誰だっけ? って言われるとダメージ結構デカいっすね。最近はそもそも関わることが少なかったから予想外っすよ。それに、その状態で2人のところに戻ったら、なんかまた気を遣わせそうでこうやって……はは、私、ダメダメっすね」
そう言って今度は自虐……自嘲するように笑みを見せるモモ。
俺はそれを見て、
「……気にするな──って、自分でも言い聞かせてるだろうけどな。実際俺や加治木は駄目だなんて思ってないしな……別にそのままでいいだろ。嫌なことで落ち込むことなんて誰にだってあるもんだ」
「あはは、そうなんすけどね。……ただまあ、こういうことがあると時々思うんすよ」
「……時々思う?」
はい、とモモは笑みを表情から消して頷く。
「この……私が生まれ持った特性が無ければ……私はもっと楽しい普通の人生を送れたんじゃないか。なんで私はこうなのか……」
「…………」
「生まれ持った自分の……なんていうんすか、力? ……まあなんでもいいっすけど、それは変えられない。一生付き合っていくしかない」
つまり、
「私にはこれからも……こういうことが起きるってことっすよね。なんかそれを考えると……時々凄い嫌というか……とにかく気が滅入るっすよね……ひょっとしたら数少ない私のことを知ってる人も、いつか私のことを忘れたり……もしくは完全に誰からも気づかれなくなるとか……そういうことがありえないことじゃないんじゃないかって思っちゃうんすよ」
馬鹿みたいっすよね? とモモはこちらを向いて、そこで再び笑みを見せる。
だがその笑みは……ただの空元気。力のない笑みだった。
それを見て俺は考える。モモの悩みは分からないことではない。
自分の生まれ持った力。自分に嫌なことを引き起こす能力。
それらが引き起こす“孤独”というものに慣れているとはいえ……傷つくことに完全に慣れたという訳でもないだろう。
いや、慣れたとしても、辟易することは避けられない。
そして同じことが起きる度に過去の傷を思い出すし……もっと悪いことが起きるかもと不安に思うのも分かる。
……ああ、確かに理解るな。
気にしてない。慣れている。吹っ切れたつもりだ──とはいえ、それを連想させるようなことをすれば嫌でも過去のことを思い出すものだ。
誰だってトラウマや、それに繋がる物は避けたがる。
モモにとってはそれが……コミュニケーション。
人と関わること自体が嫌な事を思い起こさせる物なのだ。
故に今まで避けてきたし、これからも狭いコミュニティの中で生きることを彼女は望むのだろう。
どうせ無駄になるのなら最初から期待せずに何もしなければいいということだ。
加治木や麻雀部の部員。それに一応……俺とも出会ったことで多少はマシになってるのかもしれないが、モモにはそういう悩みがあった。
……まいったな。
俺は重たい息を吐く。その気持ちは理解るとはいえ……俺にはその悩みを解決する方法はない。
漫画やドラマみたいに、分かりやすく言葉や行動を起こして悩みを解決してあげてハッピーエンド──なんてことは俺には出来ない。
……俺に出来るのは、精々──
「……はぁ~~~~…………モモ」
「はい?」
俺は重すぎる腰を上げる。
こんなこっ恥ずかしい上に酷く気が乗らないことはしたくないが……俺はモモに向かって言う。
「お前の悩みに指導者らしい答えが出せればいいんだが……俺が出来るのは聞いてやることと……あー、なんだ……その……」
「……まあ聞いてくれるのは普通に……というか結構ありがたいっすけど……」
歯切れの悪い俺に対し、モモは控えめに感謝を示す。
だがそうではなくてだな、と俺は咳払いを1つして、
「それと……ちょっと、元気を出させてやることくらいだ」
「……元気、っすか?」
「ああ。……ついてこい」
「えっ? あ、ちょっと……!」
俺は決心と共に頷き、モモの手を引いてやる。女子高生(巨乳)のスベスベの手。いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
このブースの隣だったな、と俺は何がなんだか分からないといった様子のモモを連れて隣の施設へ。
そこは飯を食いにくるまで、さっきまで遊んでいた──
「……バッティングセンター?」
モモがその場所の名を疑問符付きで口にする。
そう、俺がモモの手を引いて連れてきたのは先程、モモや加治木と遊んでいたバッティングセンター。
とはいえだ。
「え……ひょっとして遊ぶんすか? ……でも東郷さん野球はそんなに好きじゃないからってやってくれないっすし、私はもう十分遊んだっすよ?」
「……ああ、さっきは悪かったな」
そう。さっきまで、俺はどれだけせがまれてもバッティングに挑戦しなかった。
しかし今は違う。非常に気は乗らないが、
「……さて、商品が出るのはここだったか」
「え? ここって、さっきの──」
俺はつい先程までモモが挑戦しまくってた1番奥のボックスの前で立ち止まる。──良かった。人は殆どいない。
「えっ……えっ!? いやいや、無理っすよ東郷さん! あの、なんとなく何してくれるかは分かったっすし、気持ちは嬉しいんすけど……さっき東郷さんも言ってたじゃないっすか! さすがに160キロをホームランは出来っこないっすよ!?」
「……まあ、そうだろうな」
扉を開けて、網を潜り、ボックスの中に入る俺をモモが背後から驚いた様子で止めようとしている──が、俺の意識は既にそこにはない。俺はバットを選びながらモモの声に応答する……っと、木製バットがあるな。これにしよう。
「やっても結果は見えてるからやるだけ無駄って言ってたじゃないっすか! だから別に……私の為に無理しようとしてくれなくても──」
「……ああ、確かに言ったな」
だが、と俺はポケットから硬貨を取り出し、それを手前の機械に入れながら、
「……別に出来ないって言ったつもりはない」
「えっ? いや、言ってたんじゃ──」
「まあいいから見てろ──」
と、俺はモモにそう言い捨て、バッターボックスに立つ。
息を整え、足を開いて木製のバットを構えて正面を見据える。
するとモモが俺を見て、
「って、なんかフォームが変っすよ!? 私が言えることじゃないっすけど! 明らかに野球未経験じゃないっすか!」
「…………」
「……あれ? でもなんか様になってるというか堂に入ってる感じがするっすね……? これはもしかしたらもしかするんすか?」
……ちょっと後ろの声が気になるが……まあこのくらい何でもないっちゃ何でもない。
ただまあ──野球は本当にやったことはないからな。体育の授業で触りだけやったことがある程度だ。
「! 来るっすよ!」
と、モモの声が届くより先に俺はそれを見ていた。
遠く──おそらく実際の野球のピッチャーと同じ程度に離れた場所からマシンがボールを放つ。
「!」
そして一瞬。
ボールがストライクゾーンに辿り着くのに1秒と掛からない。
気がつけば通り過ぎてるレベルの速さでボールが飛んできた。
俺はそれをじっと、ただ眺める。
するとまたしても後ろから、
「傍目から見ててもやっぱ速すぎっすよね……いや、やっぱ無理っすよ。真っ先にここに来て商品取ってくれようとするってだけで十分嬉しかったっすし、危ないからやめた方が……」
「……だから見てろっての」
全く……せっかく重い腰を上げたってのにそれをさせた当人がめっちゃやめさせようとしてくるんだが……。
正直やめていいならやめたい気もするんだけどな。
ただもう──
そういうものなのだ。
だからもう俺はやり切る。
バットをしっかりと握り、正面、そしてホームランマークを見る。
……確かに、野球経験はないし、160キロってのは中々の速さだったな。
──マシンが2球目を放とうと動いている。
昔聞いたことがあるが、確か野球で出るような最高速度である160キロってのはバッターに到達するまでに0.38秒ほど掛かるらしい。
──マシンが今にも2球目を放とうとしている。
人間の単純な反応速度ってのはアスリートで0.1秒。全身反応をするなら0.3秒は掛かる。
つまり160キロに反応して打つというのは、普通の人間なら不可能。アスリートでも目で見ているというより、殆ど反射的に動いているということだ。
並の人間にこれをヒットにする──ましてやホームランを打つことなど難しいだろう。
繊細なバットコントロールだって要求される。
この棒を的確に、それこそ目で見て的確な角度で叩かないと無理なのだ。
──だが、
「!」
──マシンがボールを放つ。
この時には既にバットを振るくらいの気持ちでいかないと難しいだろう。
……しかしこんなものは──
「……ッ!」
「ほら空振──ええっ!?」
俺は自然体でボールにバットを叩き込む。
狙いは正確。寸分違わず狙ったところを叩き、ボールを遠くへ運んでいく。
打球は同じ様に高速だ。本当の球場のように130メートルとか飛ばさないとホームランって訳でもない。
故に必然的に、打球が到達するのは一瞬で、
『──ホームラン!!』
バンッ、とホームランマークにボールが当たり、同時に上からキャラクターのような声でホームランコールが響く。
「……ふぅ」
そこでようやく俺は息を吐いてバットを下げる。
バッターボックスに付いた己の靴の足跡を消しながらバットを戻し、そのまま網と扉をくぐって出る。
また球数は残っているが目的は果たしたし、そもそもこれ以上やりたくはない。
だからさっさと受付に行ってモモに欲しい商品を選ばせてやろうと思ったのだが、
「……モモ?」
「…………」
モモが固まっている。
こちらを見たまま、驚いた表情のままで固まっている。
「……ほら、受付行くぞ。好きな物やるから選べ」
「……え? えっ? ……ええっ!? と、東郷さん……今のは……今のはなんなんすか!?」
3回くらい驚きの声を上げてモモが動き出す。
俺は目をそらしながら、一応その質問に答えた。
「ホームラン打ったぞ。これで商品が貰えるだろ」
「いやいや! そうじゃなくて……めちゃくちゃすごかったっすよ!? 私、バット振るの見えなかったっす! なんなんすか! 東郷さんって実は本当に元プロ野球選手なんすか!?」
「一度もプロ野球選手だったことはないし、野球経験も本当にないんだけどな……まあ、なんだ。偶然打ったら当たったぞ。良かったな」
「や、ヤバすぎるっす……うわぁ……今の、なんていうか……ちょっとビリって来たっすよ……ヤバいっす……」
「何がだよ……」
俺は若干げんなりしながらも受付に行って、混乱? 状態のモモに代わって商品を受け取る。……受付の人から物凄い目で見られたし、実際モモみたいにプロ(野球選手)ですか? って聞かれたから“はい、プロ雀士です”──って答えておいた。もっと見られたけどな。
とはいえ商品はゲットだ。
「うおっ……受け取ってみるとマジでデカいし意外と重いな……ほらっ」
「うわっ……ととっ……」
「大丈夫か? 重いなら俺が持っててやるが……」
顔が隠れるくらいにでかいぬいぐるみをモモに渡すと、若干ふらつきながらもそれをしっかりと抱きかかえる。一応気を使って持っててやろうかと尋ねるが、
「……い、今はいいっす……しばらくは私が持つ感じで……」
「……まあそれでいいなら構わないが……それで、なんだ。元気は出たか?」
「それは……はい。なんていうか、色んな意味で元気づけられたっていうか……とにかく嬉しいっす。東郷さん、ありがとうございますっすよ!」
「……そうか」
その歯切れの悪さに思わず笑ってしまうが、とにかく元気が出たなら良かった。
これなら俺が身体を張った甲斐もある──
「っ……」
「うわっと……東郷さん、どうしたんすか? 急に立ち止まって」
「……いや、何でもない」
「本当っすか? あんな豪速球打って腕が痛んだりしないっすか?」
「いや、本当に大丈夫だ。まあ打った瞬間は若干痺れたかもしれないが……今は問題ない」
「それならいいんすけど……怪我とかしてたら申し訳立たないっすし、なんかあったら言ってほしいっす」
ああ、と頷いて再び歩き出す。
加治木のところまで戻ろうとしたところで僅かに頭を押さえて立ち止まるが──まあ大丈夫だ。実際に、腕や身体に痛みはない。
それにもし、何かがあったとしても……それは、
とにかく良かった。たまには良いこともあるもんだな……。
「──加治木せんぱーい!」
「っと、遅かっ──なんだそれは……?」
「ぬいぐるみっす! 聞いてください加治木先輩! 東郷さんってば、すごかったんすよ! 160キロの豪速球をこう──ズバーンッ! と一瞬でホームランにして……!」
「ああ、それで遅くなったのか……まあ良かったな、モモ」
「はい! それと遅くなって申し訳ないっす!」
「いや、気にしていない。──それより、注文していた料理もそろそろ届く頃だぞ」
「あれ? 意外と遅いっすね?」
確かに。俺達が注文してからもう結構経った筈だが……?
「なに、少し遅くなるかもと思ってな。店員に言って、少し遅く作って持ってきて貰うように伝えておいたんだ」
「おお……! さすが加治木先輩っす!」
「ああ……なるほどな……」
さすがの気遣いだ。やっぱこいつ、実は大人だったりしないか? もう成人してるとか……。
──それはその後、小声で俺に伝えてきたことにしてもそうだ。
「……モモのこと、ありがとうございます。東郷さん」
「……気にするな。これでも友人だからな」
「ふっ……そうですか……」
と、お互いに口角を上げて小さくやり取りをする。
それにモモが気づき、何を話してるんすかと混ざってきて──まあそんなこんなで午前中のちょっとしたお出かけは終わった。
ゲームセンターに遊びに出かけた日の午後は普通に部活だ。
「うーん……このままじゃ負けてしまうぞー……むしゃむしゃ」
「蒲原……私達との対局ならともかく、元とはいえプロとの対局でそんなにがっつり食べながら打つのは如何なものかと私は思うのだが……」
「そ、そうだよ智美ちゃん! 真面目にやらないと……」
「わはは。皆は固いなー。そもそもこのポップコーンは東郷さんが持ってきたものだぞー?」
「そ、それは確かに……うむ……」
「……まあ真面目に打つなら別に飲食くらいなら構わないと思うぞ。麻雀中の飲食ってのはプロでもよくある。……誰だったか……ど忘れしたが、対局中にカツ丼をがっつり食べるプロに比べたらマシだ」
「む……それは確か──あれ? 確かに憶えてたのに思い出せない……カードも余ってるのに……」
「あー、分かるぞー。絶対憶えてるのに何故か出てこないのってあるよな。テストとかでよく──」
「それは勉強してないからだろう……!」
「わはは……正論は時に人を傷つけるぞユミちん……」
……いつも思うがこいつら、黙って麻雀打てないよな……。
まあ今まで行ってきた学校の殆どがそうだった気もするが、風越女子や清澄は意外と真面目だったか? 逆に有珠山とか龍門渕は喋りまくりだったな……特に有珠山。
それだけ仲が良いと捉えることも出来るため、あながち悪いこととも言えないし、別に注意する気もない。真面目に打っていればそれでいいのだ。
だがそんな中で1人、気になる奴がいる。
「…………」
「……なあ、ユミちん。なんだかモモの気配がいつも以上に薄い気がするんだけど……なんかもう消えてる? というか最初から実は対局してなくて、実は三麻だったり……?」
「……いつもなら何を馬鹿な、と真面目に取り合わないところだが……確かにモモのステルスが極まってるな。比較的気づく頻度の高い私でも見失ってしまう……」
「うむ……」
「えっ……? も、桃子さんいたんですか……? 一体どこに……?」
対局を眺めてるだけの妹尾が辺りをキョロキョロと見渡すが……一応、普通に席に着いて麻雀打ってるんだよなぁ……。
俺にはモモが見えるから分かるが……他の奴では気づけないほどにステルスが効いている。
その原因は定かではないが……俺から見ておかしなことは確かにある。それは、
「…………」
「……っ」
……まぁ、なんだ。目を向けると目が合って、モモがふいっと目を逸らしただけなのだが……。俺が目を向けると即目が合うということは、即ち俺の方を見ているということだ。
そう。モモは先程から俺を何故かチラチラと、あるいはじーっと視線を送ってくる。
そしてそれ以外には麻雀を打つ以外に何の行動もしない。
それが無意識のステルスの強化に繋がってるのかもしれない──が、ぶっちゃけよくわからないな。因果関係があるかどうかも全然知らんし。
そもそもなんで俺を見てるのかも分からない。なんだ? まさか先程のことで俺が気になる訳でもあるまいし……。
それともあれか? そろそろ俺が胸を見てることがバレたか? でもあれは仕方ないじゃん……モモみたいな可愛いのに細くておっぱいがでかい。しかも動いたりすると揺れたりするんだからそりゃ見るだろ。男なら見る。見ない奴はおかしい。女でも巨乳には自然と目が行くという研究結果が出てるというのに。
だから俺が巨乳に目がないのは何もおかしくないのだ。……とまあ、クソどうでもいい言い訳をしたところで、何が分かるでもない。俺が出来るのは普通に麻雀を打って……イケそうなら役満を上がって女の子を堕とすだけだ。
そういう訳だからモモと同卓してる今はチャンスだ。それに何故かモモは今ちょっと上の空だし、振り込む確率が高い。
それもステルスだから俺以外には当たり牌を切っても相手がロン宣言しないので振り込んだことにならない。
つまり俺にしか振り込まない訳だから直撃させやすいのだ。それは俺のオカルト的に非常に良いことと言える。
そういう訳でさっきから一応真面目に打って指導してモモの視線に耐えながら役満来ないかなーってのんびりとしてる訳だが──
「──!」
っと、キタ────ー!?
そんなこと考えてたら役満来たぞ!? 正確には和了れそう! 狙えそう! そんな手牌だけど!
でもまあこれはいけるか……?
今の俺の手牌は……索子だらけだ。
それも二索、三索、四索、六索、八索……それに発。
役満、緑一色に必要な牌が殆ど……暗刻で揃ってる。一向聴だ。
この役満、緑一色は簡単に言えば──緑色の牌。
竹、とも言われる索子の緑色の牌。赤が含まれてない牌で作る役である。
そしてこの役満。意外と自由度が高く、和了りやすいのだ。
なにせ待ちはなんでもオッケーだし、鳴いても構わないから牌だって集めやすい。
まあ役満であるため、それでもそれなりの和了りにくさはあっても、他の役満よりは十分和了りやすい。
故に期待値は高い。振り込む確率だって高い。待ちも広く取れるから仮に他の奴のを見逃しても和了れる確率が全くないとも言えない。
これはなんとしてもモモに直撃させねば……!
「そろそろ逆転しないとなー」
「そうはさせない。……が、私としても一度くらい元プロに土をつけてみたいところだ」
俺は期待しながらその時を待つ。蒲原や加治木も頑張ってるが、俺の狙いはそっちじゃない。
和了りやすいだけあってそういう意味でも気を使う……別にツモ和了りでもいいっちゃいいんだが、ツモ和了りって堕ちたり堕ちなかったりで微妙に信頼出来ないんだよな……なんか条件がありそうな気もするが、実験が中々出来なくて辛い。
まあ今回はとりあえずさっさとモモを堕としてエッチしたいところだ。今日中に落とせば5日間はエロのチャンスがあるし、その辺りの期待値がでかい。
だから頼む……頼む……! 俺に乳を! 溢れんばかりの乳と可愛い女子高生を!
モモって普通に可愛いし、妙に構いたくなるというか……やっぱ後輩キャラって最高だな。なんか妙にエロいもんな。
頭の中では既にモモを脱がすという気持ちの悪い想像をしながらそれを待つ。……というか、相変わらずモモはぼーっとしてるな……大丈夫なのか? エロを狙ってる身でなんだが、ちょっと心配になるぞ……。
「っ……」
と、思って見ていたらモモが気づいて目を逸らした。いやまああんまりぼーっとしてると──って……。
「っっっ!? ──ロン!!」
俺は慌ててロン宣言をする。危ねぇ!? 普通に見逃すところだった!?
とはいえ俺はロン宣言をして、モモの捨牌で和了る。その役と点数は、
「緑一色! 48000!」
「……!」
「うっわ……」
「なんと……役満、か……」
親の役満。そういう訳で48000点。
既にトップだったが、モモから奪ってトップ。
そしてモモが飛んでゲームが終了する。
ヒュー! これでオカルトが発動した筈だが……さて、どうなる?
「お、驚いたっす……さすが東郷さんっすね。私が役満を振り込む日が来るとは思ってなかったっすよ……」
「ん……まあ気付ける奴じゃないと無理だろうしな」
……あれ? あんまり変わってないように見えるな?
モモは普通に役満に驚いているだけのように見える。
いやしかし、今までもこういうことはあった。
何も起きてないのかな? と思っていてもしばらくすれば皆堕ちて積極的に俺に好意を見せてくれるのだから、きっと今回もそうなのだろう。
だから慌てずに待っていよう。そのうち相手の方からそれらしい反応を見せてくれる筈だ。
「……さて、1度勝ったところで俺はお手洗いに行ってくる。お前らは普通に対局を続けてろ」
「はい、わかりました。……それなら妹尾。次は入ってみるか?」
「は、はいっ! まださっきの凄さがよく分かってませんが、頑張りますっ!」
分かってないのかよ……でもまあ初心者だもんな……まだ始めて1日しか経ってないんだからしょうがない。
俺がいない間に打つみたいだが、その加治木の判断は的確だ。まさかプロとの真面目な対局でルールがあんまり分かってない初心者が入る訳にもいかないからな。
だから何気に狙っていたが、諦めざるを得ないというか……いや残念だな。機会があれば堕としたいものだが……まずルールを憶えて貰わないと……。
「はぁ……にしても役満和了れたな……」
俺はお手洗いを済ませながら独り言を呟く。いつ味わってもこの役満を和了った瞬間は高揚感があるな。
オカルトによって女の子を堕とせたという事実が中々に良いものだ。
それも好みの女の子とも来れば期待も興奮もしてしまう。
……でもまあまだ大人しくしてるか。さすがに部活中だしな。
狙いは放課後だろう、と俺はいつもの堕とした後の予定を決めつつ、人気のない廊下を歩く。それにしても人がいないな……日曜日で文化部だし、やっぱこの辺りは生徒はあんまりいないのか……?
外からは遠くで運動部が声を出しながら運動に励んでいるのが分かるが、文化部が揃ってるであろうこの建物には人の気配が少ない。
それこそ、モモや他の部員らの気配が感じ取れるくらいに──
「……東郷さん」
「──お? モモ?」
とか考えているとだ。
不意にモモが背後から声を掛けてきた。
なんだ、まだ練習中なのに抜けてきたのか? と俺は少し不思議に思いつつ振り返ろうとして、
「どうしたんだ? 交代して──」
「っ!」
いきなり背後に衝撃。柔らかい。熱い。
「……えっ?」
え? 何? ──いやマジで。
突然の事に俺は混乱する。え? なんか後ろからこれ……え?
まさかとは思うが……抱きついてきてない? きてるよね? これ。
背中にモモらしき少女の体温と柔らかさを感じる──特にこのたっぷりと背中を圧迫するような柔らかさは……おっぱいだ。
明らかにモモの乳房が押し付けられている。間違いない。これはモモだ。
しかしいきなりもいきなり過ぎないか? 嬉しいには嬉しいが、今は授業中で──うおっ!?
「も、モモ……?」
「……東郷さん……私、多分……いえ、間違いなく、東郷さんのことが好きっす」
え、いやまあオカルトで落としたから当然だし、それは勿論嬉しいのだが、今はちょっと……。
というかなんだ……モモの手がなんか際どいというか……ちょっとヤバい。マズい。胸を押し付けられてるだけでもヤバいのに、このままじゃ勃起しそう。
せめて放課後にしてほしいのだが──
「東郷さんには彼女さんがいるみたいっすけど……そんなの関係無しに、東郷さんが好きっす」
「え……」
えっ……えっ? いや、なんでバレてるの?
まさか昨日の携帯か? いや、まあ確かにちょっと際どいメッセージ打ってたけどさ。
というかその告白の仕方はなんかヤバいな。まさかとは思うが、
「私には……私と一緒になれる男性は東郷さんしかいないっすから。だから──」
「っ……!」
モモが正面に回り、今度は正面から抱きついてくる。その瞳は完全に、恋する女の熱を持っている。
そして彼女は俺を壁に押し付けるような──まるで逆レイプするような力強い動きでそれを為した。
「東郷さん……大好きっす……♡」
「――っ」
──ちゅっ。
俺の唇に落とされるその音と共に、俺は彼女の方から襲われていることを自覚するのだった。
次回、モモとエッチ。エロエロ。ようやくモモに色々言わせられるね……あの口調で言葉責めされたい……されたくない?
皆の熱い感想、待ってる。
【参考程度に】鶴賀高校で好みの子は誰?
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