──5月27日、金曜日。
5月の下旬ともなれば、もう初夏という言葉が相応しくない程の暑さが長野県の地表を襲っていた。
……いや、この場合は相応しいと言うべきか。
まあどっちでもいいが、とにかく、外は暑い。
調べてみたら日中の気温は30度を超えていたりする。5月にしては暑い。いわゆる真夏日というやつだ。
しかし、クーラーの効いた室内に居座る分には特に関係はなく、
「──ロン。3900だ」
「あっ」
今日も今日とて、俺は鶴賀高校麻雀部の面々に麻雀を指導、対局をしていた。
対面の妹尾の捨牌で和了って俺は1位でオーラスが終了。対局が終われば多少緊張感を持っていた部屋の空気も弛緩し、口も開きやすくなる。
「……ふぅ、これでまた東郷さんの1位か……正直、プロとアマチュアでこれほど差があるとは思っていなかった。認識が甘かったか……」
「……まあ、こんなこともある。それにオーラスまでは加治木がトップだったろう。言うほど差はないとは思うけどな」
「そうっすよ。加治木先輩が1番食い下がってたっす! 元プロ相手にここまで戦えるのはすごいっすよ!」
「……そう言ってもらえると気が楽になる──が、楽観しすぎるのも良くない」
対局が終わり、加治木が椅子に背中を預けて息を吐くが、直ぐに気を取り直したように真面目な表情で俺やモモ、他の面子にも聞こえるように続けた。
「1週間、元プロである東郷さんとの対局で、皆それなりに腕は上がった筈だが、大会で勝ち抜けるかどうかは分からないところではあるな……」
「私はまだまだ初心者ですけど……」
「佳織も基本のルールは憶えて打てるようにはなってきたしなー。マシにはなってきてると思うぞー。とはいえ、大会ではまだまだ初心者だろうけどな!」
「大会まであと1週間ですもんね……」
と、睦月が部室内のカレンダーを見てそう呟くのを皆は聞いたし、聞くまでもなく知っている。
全国の高校生雀士の頂点を決める夏の大会、全国高等学校麻雀選手権大会こと、通称──インターハイ。
その地区予選が6月4日、5日に行われる。
故にこの鶴賀高校麻雀部だけではなく、全国の高校生雀士がこの1週間で最後の仕上げ、調整を行っているところであろう。
当然世間にも注目されており、マスコミ、各記事、ネットでも今年のインターハイの有力校、有力選手が誰か。春季大会や昨年のインターハイ、国麻、インターミドルや世界ジュニアなどで活躍した選手などを中心にリストアップされており、麻雀ファンはそれらを見て、今年はどこが、誰が勝つのか、どんな活躍が見れるのかと大いに期待し、熱を上げている。
俺もその辺りのニュースや記事は一通り目を通している。去年までは現役プロとして解説の仕事なんかもあったからな、普通に有力選手、有力校の情報などは大体頭に入っているのだが。
……余談だが、やはり優勝の大本命は俺の母校でもある白糸台高校であり、最も活躍が期待される選手もやはり、白糸台の団体戦2連覇の立役者、個人戦でも2連覇を成し遂げているあの宮永照である。
まあ今の3年生の世代は宮永世代って言われるくらいだからな。他にも活躍してる選手はいるが、やはり宮永照の活躍が頭一つ抜けているし、マスコミやプロのスカウトなんかもとっくの昔から注目している。
他にも注目校が幾つかあるが……まあ今俺が注目すべきは長野県予選に出てくる有力校だろうな。
「どこまでいけるかっすよねー。どうせなら優勝したいっす!」
モモが気合十分、といった感じで両の手を握って“優勝“という言葉を出すが、情報を頭に入れ、他校のリサーチなども行っている加治木などは苦笑しつつも冷静だ。
「……まあ組み合わせは恵まれている。出来る限り上を目指したいところではあるな……」
「組み合わせ、ですか?」
「ああ。優勝の大本命……龍門渕や風越女子とは決勝まで当たらないようになっている」
と、加治木は自分の携帯を取り出し、皆に組み合わせ表を開いて見せる。
すると確かに、龍門渕は第1シード。1つ目の山に入っており、風越女子は第2シードで3つ目の山に入っており、鶴賀はそことは違う、4つ目の山に入っていた。
……そして俺は、その3校と決勝まで当たらない、2つ目の山に“清澄”と書かれているのを見て、なんとも言えない気持ちが浮かんでくる。
「わぁ……参加校ってこんなに多いんですね……!」
「2回トップを取れば決勝なんですよね……3回勝てば優勝……う、ううむ……」
「ワハハ。でも激戦区に比べたらこれでも全然少ない方だぞー」
「そうなんすか?」
蒲原の発言を聞いて、モモが俺の方を見上げて確認してきた。俺は頷き、
「ああ。東京や大阪なんかだと200校くらいは参加してるからな。それに比べたらずっと少ない」
「へぇ、そうなんすね」
俺は簡潔にそう説明してやる。いやほんと、しかも西東京に東東京、北大阪と南大阪とかで分けてそれだからな。参加校はめちゃくちゃに多い。
確か、後多いのは神奈川とか愛知とか北海道とかか。どこも地区が2つに分けられていたりする。どこも激戦区だ。
……そういや、有珠山は南北海道地区だったな……後で確認しとくか。
やはり俺が関わった高校はちょっと気になる。有珠山は言わずもがな……この長野で指導した学校も、それぞれ気になるというか、もしかしたら決勝で4校が当たる可能性もあるため、ある意味困ってしまう。どこを応援するべきかで。
「……まぁ、頑張れよ。俺は今日で終わりだが、大会まであと1週間はある」
「はい。ご指導、ありがとうございました。正直、予想以上に捗りましたよ」
「はっ……まあそれなら良かったな」
もっとも、本物のプロの指導の方が捗ったとは思うが……一々それを口に出すことはない。練習ももう終わりで、部の雰囲気も悪くないしな。それに水を差す気にはならない。
「大会は俺も見に行くし、また会うことにはなるが……まぁ、記念だ。最後に飯でも奢ってやる。何が食べたい?」
「験担ぎでカツだな!」
「安直過ぎないか……?」
「というか部長、この間もカツカレー食べてたような……」
「あれれ? そうだっけ? ま、なんでもいいだろ。奢ってもらえるんだしなー。ワハハ」
「そんな感じで奢ってもらっていいんですか……?」
「……まぁ、気にするな」
ぶっちゃけカツとかその辺りは意外と安いし、奢る側としては助かるっちゃ助かるので俺は頷き、携帯を取り出す。とりあえず、近くのお店でも調べるか……と、俺は鶴賀高校麻雀部との最後の練習日を終えた。
「──うぷ……ちょっと食べ過ぎた……くそ……特盛りなんか食うんじゃなかったな……」
夜になり、ホテルの部屋に帰ってくると、ジャケットを脱ぎ捨てて即座に口元を押さえながらベッドに横になる。
練習が終わった後、ネットで調べた市内のとんかつ屋に行き、鶴賀高校麻雀部らに飯を食わせたのはいいが、ちょっとしたノリで俺は大量のとんかつを食う羽目になったのだ。
まさか大盛りの更に倍……通常サイズと比べて10倍の量があるとは思わなかったけどな……まさかカツの下にカツが隠れているとは……度し難いトラップだった。
とはいえなんとかその戦いに勝利し、俺は皆と別れ、意気揚々とホテルへと帰還した。ちゃんと備え付けのキャベツの千切りや豚汁も完食してやったぜ……ははは……気持ち悪っ。油断したら吐きそう。むしろここまで吐かなかった自分を褒めたいくらいだ。
「はぁ……おかげで締まらない別れになったな……」
そう独りごちるが、とはいえ来週の大会ではまた再会するだろうし、大した別れではない。
……強いて反省点を言うなら、最後の最後まで、あわよくばと妹尾にも役満を当てようとしたが出来なかったことくらいか……これに関しては運が悪かったとしか言いようがない。いやまあむしろこれまでが良すぎたというか、上手く行き過ぎていた訳だが……、
「これで長野での依頼は終わり、か……そして、成果は3人……」
天井を見つめていた瞳を閉じて、瞼の裏に長野で堕としてきた女達を描く。
福路美穂子、原村和、東横桃子。
出向いた4校の中で3人も堕とせたのだから上出来だ。俺のハーレム計画は中々に上手くいってると言えるだろう……計画と言うほど大した考えはないけどな。オカルト様様って奴だ。
それに、だ。そういうクズい意味以外でも、良い出会いだったと言えるのかもしれない。どいつもこいつも、俺と関わるには勿体ないほどの良い子ばかりだったからな……いやほんとに。
おかげで来週のインターハイの地区予選にも顔を出さなきゃならなくなった。見に来いって言われたのもそうだが、単純に気になるしな。風越女子、龍門渕、清澄、鶴賀……何処が勝ち上がるのか、はたまたどの学校も勝ち上がらないのか──いや、それはないな……可能性としてはめちゃくちゃ低いだろ。天和並みに。
というか天江衣や宮永咲といった魔物だけでもお腹いっぱいなのに、それらに勝てる化け物がこれ以上長野に居てたまるかって感じだ。美穂子や池田、透華に原村や竹井、加治木やモモ……その他の連中も中々に高校生レベルだとかなりの腕を持つ奴がごろごろいるし、これだけでも他の地区よりもレベルが高いんじゃないかと思ってしまう。故に俺が見てきた4校の内のどれかが勝ち上がるんじゃないか……と思っている。まあ大本命で龍門渕、次点で清澄か、風越。そして鶴賀ってところか。割と面白そうな戦いになりそうだな、と柄にもなく楽しみになってしまいそうだ。以前までは麻雀プロではあっても、高校生の試合を純粋に楽しみにする麻雀ファンかって言われると微妙だったんだけどな……やはり知り合いが居るって言うのは大きいか。
……それと、やはりプロをクビになったのが──って、あぁん?
「っと……電話か……」
いきなりポケットから聞き慣れた電子音が鳴ったので俺はポケットから自分のスマホを取り出す。そういやポケットに入れたままだったな。普通は帰ってきたら直ぐに取り出して充電ケーブルにでも差すんだが、腹がいっぱい過ぎて忘れていた。
俺は携帯を取り出すついでにベッドから起き上がり、財布やら鍵やらも取り出して机の上に置く。そしてベッドの縁に座り直し、液晶画面に表示された名前を見て……ちょっと思案しながらも電話に出た。
「──もしもし」
『あっ……もしもし、仁さん、夜分遅くにすみません。今大丈夫ですか?』
「ああ、大丈夫だ」
と、スピーカーから聴こえてきた声は液晶に表示されていた名前の人物の声──和の声だった。
どうでもいいが、気遣いとはいえ、今大丈夫ですかって電話で聞かれるのってちょっとだけ気になる時あるよな。大丈夫だから電話に出てんだよって言う……まあそれでイラッとするほどでもないが、頭の片隅で思う時はある。
当然、それを口にするでもなく、俺は和の続く声を聞いた。
『えっと……少し、聞いてほしいことがあって』
「聞いてほしいこと?」
『はい……一昨日のことなんですけど……』
そう前置きする和の声は、真面目で何処か悔しさを滲ませた様な声だった。
『……放課後に部長に言われて咲さんと一緒に染谷先輩のお家でやっている麻雀喫茶でメイド服を着せられて対局してたんですけど……』
「……え? 何? メイド服で対局? あいつのお店っていかがわしい店なのか?」
『ち、違いますっ! その、お店の制服がそれで……あ、でも……可愛かったんですよ?』
いや知らんし。って言いたくなる言葉をぐっと飲み込む。というか何処からツッコめばいいのか……まあ、なんだ。竹井がやりそうなことだな……和も宮永もご愁傷さまって感じだ。
あ、だがメイド服はいいな、うん……今度、和にメイド服を着てもらおう。それでエッチなご奉仕をしてもらおう。最高だな。
『……エッチ』
「……まだ何も言ってないんだが」
『何も言ってなくても雰囲気で分かりました。もう……そ、そういうのはまた今度です……』
はい、エロい。ドスケベ淫乱ピンクのどっち。今の嬉し恥ずかしみたいな声で半勃ちした。眼の前で見ていたらフルボッキ不可避だったな。そして襲ってた。まだ今日は抜いてないしな。
しかしここでムラムラしたところで辛いだけなんだよなぁ……モモは今日は普通に帰っていったし──まあ一緒に居たそうにしていたが、今日は泊まりは難しいらしい──それに、大会まで後1週間ということもあり、長野にいる俺の女は全員麻雀の練習に打ち込んでいるし打ち込みたい筈で、暇な時に出会ってセックスという訳にもいかないのだ。
ヤれるとしたら精々大会後とかその直前とかそのくらいで……はぁ、考えたら憂鬱だな……ここから俺は1週間以上生殺しにされる可能性があるっていうのがなんとも……。
だがそうは言っても仕方ない。とりあえず、ムラムラするのを抑えて和の話の続きを聞く。それは、
『……それで話を戻しますけど……そこで、咲さん共々、プロの方に負けてしまって……』
「……プロだと?」
は? なんでいきなりプロと打つ羽目に──と思ったが、竹井がその麻雀喫茶にこの大事な時期に清澄のキーマンであろう2人を行かせたのだから、間違いなく彼女の差し金だろうな、と俺は軽く眉間に皺を寄せる。
まあ俺に依頼したくらいだし……元プロの次は本物のプロってか? 贅沢なことだな、と率直に感想を思う。しかしプロか……誰だ? ぶっちゃけプロつっても数は結構いるからな……言われても分からんかもしれんが、一応──、
「……なんてプロだ?」
『確か……藤田さんって呼ばれてました』
誰だよ。藤田? さすがに名字だけじゃ分からんな……聞いたことがある気もするが、気の所為な気もする。うーむ……。
「他に特徴は何かないか?」
『……何でも、実業団時代から“まくりの女王”と呼ばれているらしくて……』
「あ、あー……」
和からの追加情報で判明した。頭の中で1人の人物像が浮かび上がる。そうか……あのプロって藤田って名前だったっけか……ぶっちゃけ有名と言えば有名だが、そこまで興味が無かったので名前までは忘れていた。
「……カツ丼とか食ってたか?」
『え? あ、はい……言われてみれば食べてましたけど、何で分かるんですか?』
「いやまぁ……それより、その藤田プロに負けたって?」
カツ丼ばっかり食うことで有名だからな、という言葉を飲み込み、俺は和に話の続きを促す。……まあ俺もさっき大量のカツを食ってきたばっかりだから出来ればカツの話なんかしたくないんだけどな……和からの相談だし、しょうがないと耳を傾ける。
『はい……負けてしまって……それで、その人に言われたんです。私達の実力じゃ、龍門渕高校の“天江衣”には勝てないと……』
「あー……なるほどな……」
今度はまた知ってる奴──和と同じく、長野に来て最近知り合った有名人の名前が出てきて俺は思わず納得してしまう。
確かに天江衣相手に和や宮永が勝てるかって言うと……正直難しいだろうな。
和はネットなら、宮永ならもう少し頑張れば食い下がれる可能性はありそうだが……少なくとも、この間見た実力では勝てないだろう。まだ全然衣の奴の方が強い。
まあ勝負は団体戦になるのだから、総合的に勝ち越せばいい訳だが、龍門渕は別に他のメンバーが弱いって訳でもないしな。どいつもそれなりに麻雀が出来る連中だ。
清澄もその点は同じ──いや、ひょっとしたら総合的、平均的には清澄が僅かに上かもしれないが、そうだとしても衣の圧倒的な実力があれば、多少の点差はハンデにすらならないだろう。
そして実力を知ってる俺ならこう色々と言えるが、和は天江衣がどういった選手でどういったオカルトを持っているか知らないだろうし、不安なのだろうな、と何となく電話してきた理由を察する。
「……それで、不安になって俺にまた依頼して──って訳ではなさそうだが……」
『あっ、いえ、そうして貰えるなら有り難いですけど……今日から合宿することになってまして。これから大会まで、猛特訓する予定です』
「そうなのか。気合が入っていて良いことだな」
『はいっ。それで電話したのは……ちょっとした決意表明みたいなもので……』
ん? どういうことだ? と俺は和の言葉に疑問符を浮かべる。
すると思ったより不安そうではなかった──むしろやる気に満ちた声音で和は言った。
『……私、絶対に勝ちます』
「……おお」
『絶対に勝ち進んで……優勝して、大切な物は全部勝ち取って見せます』
「……ああ」
『だから……見ていて下さいね仁さん。大会で私の成長した姿を……』
「……ん、わかった」
『お願いします』
と、和は俺にそう頼んできた訳だが……。
……ぶっちゃけ、事情がよく分からんな──あ、いや、ちょっとだけ親云々の話は前に聞いたっけか。確か、親にはあまり麻雀のことを良く思われてないとか何とか……もしかしたらそれもあって、こんな真剣な宣言を俺にしたのかもしれない。
正直いきなりそれだけ言われても何がなんやらだが、真剣な事は伝わるし、頷かない理由はない。
……それに、だ。もしそうだとしたら、その理由は──、
「……和」
『はい?』
俺は言っておく。別に言わなくても良いかも知れないが、気まぐれで何となく、
「……あー……何だ。麻雀が好きなら……それを最後まで貫けよ」
『!』
「何に悩んでるかは知らねぇけどな。……いや、悩んではないのか? そう決意とか言ってくるくらいだしな。……まあ分かんねぇ。とにかく、周りのことを気にしすぎず、好きなものに打ち込め。和はそれが持ち味だと……なんだ。俺は勝手に思ってるからな」
と、俺はグダグダというか、言葉を迷わせながらそう励ましにも近い言葉を通話口に投げる。
若干こっ恥ずかしいことを言ってるような気もするが、一応事実というか本心だ。
和は今まで会ってきた雀士の中でも、特に集中力が凄まじいと思う。
特にネット麻雀をしている時の和は、俺が後ろから胸を揉んでも頬を赤くするくらいで全く反応しなかった。……今考えるとやってること最低だな……それも今更だが。
とにかく、その集中力をネットだけではなく、リアルでも出せるようになったら──和が目指しているであろう目標にも手が届く可能性はグッと高くなると……思う。多分。
曖昧でしょうがないが、俺如きに確実なことは言えないし、確証がある訳でもないからな。まぁこんなもんだ。
とりあえず、俺はそう言って和の返答を待っていると、和はややあって、吐息を漏らしながら、
『……ありがとう、ございます』
「……おお。いやまぁ……とにかく頑張れよ。当日は見に行くからな」
『はいっ……! そのっ、あのっ……』
「? なんだ?」
電話を切る感じの雰囲気になったところで、和は途端に言葉を詰まらせる。
何かを言おうとして、言い切れない。そんな感じが数回続いたところで、
『~~~っ♡ あの……す、好き、です……♡』
「……えっ? ……あ、ああ……。あー……まだ何かあるか?」
『……えっと、それだけです…………おやすみなさい……』
「……ん、おやすみ。それじゃあな──」
と、俺は電話を切って──そこで気づく。
……あっ、今の多分……あれだ。恋人とか特有の、別れ際の好き確認みたいなのしたかったんだな……。
ちょっと不意打ち過ぎて素でスルーしてしまった。いや、なんというか直前まで真面目っぽい話してたからな……それでも気づけよって話だが。はやりさんとはよくそういうのやってるんだしよ。
ちょっと何も言わないのはアレなので、チャットでそういうのを送っておく。えーっと……まあ無難に、『俺も好きだぞ』っと……なんというかバカップル過ぎる上に俺に似合わなすぎて寒気がしてくるな……男のこう言う甘いのは気持ち悪い気がしてくる……。
しかしまあ、こういうので女の子側は喜ぶのははやりさんとか他の相手でよく分かってるし、和も今頃喜んでいるに違いない。もしかしたらその勢いのまま自家発電とか──いや、ないな……幾ら和が淫乱とはいえ、合宿って言ってたし、他の部員がいるようなところでオナニーはしないだろ……。
「むしろ俺の方が欲求不満だな……あー、セックスしてぇ」
ちょっとここ最近、ヤリまくってたのもあってもっとヤリたくなる。……いやまあ普通は落ち着くと思うだろうが、なんていうかな……ハーレム状態で好みの女とヤりまくれるってなると性欲ってとめどなく溢れてくるんだわ。
複数の美少女と関係を持っているっていうのは男として堪らないもので、それでいて複数プレイとかが出来ていなかったり、意外とヤれる時が限られているのがムラムラを加速させてくる。
ともあれ先程も思ったことだが、ムラムラしても出来ないものは出来ない。ムラムラしても仕方ない。今更自家発電ってのもな……ということで俺はシャワーでも浴びて頭を冷やすことにする。
「…………あー……それにしても……」
服を脱いで浴室へ。
そしてシャワーの栓を捻ってお湯を出しながら、俺はふと、先程の自身の発言を思い出す。
「麻雀が好きなら……最後まで貫け……か」
反復し、ややあって──ハッ、と嘲るような乾いた笑いが口から漏れ出る。
「
ノズルから降り注ぐお湯を頭に被りながら、俺は洗い流せない複雑な感情を胸の内に浮かばせた。
──その後。清澄高校の合宿所。消灯後のとある部屋では、
「……んっ……♡ はぁ……はぁ……、──ん、さん……♡ んぅ……っ♡ ぁっ……♡」
「…………うぅ……(な、何やってるんだろう和ちゃん……ベッドでもぞもぞして……って、気の所為じゃなければ、
「…………ふぁ……(のどちゃん……いつの間にムッツリから淫乱に……。まあそれはともかくとして、これじゃ眠れないじぇ……早く終わって欲しいじょ……)」
並べられた布団の両隣。和の隣で眠った振りであり気づかない振りをしている咲と優希は、和のその行為に何か言うことも眠ることも出来ず、ただただ耐え続けていた。
「はーっ……♡ んぁ……♡ ──さん……♡ 勝ちます……んんっ♡ だ、だから勝ったら……♡ はぁ……♡ ご褒美……っ♡」
気づかれていることに気づいてないのはベッドの中で荒く熱い息を吐くピンクだけ。
妄想の中で相手に犯される。それを思い描きながら両手を動かす──合宿所の1年生トリオらが眠るその部屋の夜は、彼女の一人舞台であった。色んな意味で。
──高校生の頂点を決める大会まで後7日。
──麻雀に青春を懸ける少女達の最も熱い夏が、今まさに、始まろうとしていた。
始めらんねぇわ()
という訳で、次回からは大会です。しばらくは真面目(?)回が続きます。まあ若干いやらしい描写があったりするかもだけど、基本は真面目。大会が終わったら、ちょっとしたお話とかエロがあって長野編という名の第1部が終了で、その後は全国編という第2部になります。そんな感じの予定。という訳でお楽しみに
皆の熱い感想、待ってる。評価も良ければお待ちしております
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