東郷恋。
俺の5つ下の妹である。誕生日は10月10日。てんびん座のAB型。
ちょっぴりくせっ毛のボブカットでいつもお気楽マイペースでスタイルも良い美少女。身長は155くらいで胸は……まあ大きいがサイズは知ろうとは思わないが大きくなるとどこかのタイミングで報告してくる。半年前はHとか言ってたから今はそれより上かもしれないがどうでもいい。
何しろこいつはビッチだ。妹をビッチ呼ばわりするのは一般的に酷いかもしれないが、事実なのだからしょうがないし、それが許される距離感ではある。
というのもこいつは昔から男にモテた。そりゃあまあ美少女なのだから当然だ。それ自体はなんとも思わない。精々悪い男に引っかかるなよってくらいだ。
だが実のところ悪いのは女──妹の方だ。
初デートは小学生4年生の時。それから週に一度は必ずデートに行っているが、問題はその相手が毎回違う人物だということ。昔、そのことを問いただしたら妹はあっけからんにこう言ってのけた。
『だって飽きちゃうんだもん。それに、色んな人と付き合ってる方が沢山好かれて気持ちいいし、お得でしょ?』
……とのことだ。それを聞いた時、俺は『さもありなん』と思った。
妹には悪癖がある。他人に何かを強請る癖。
それは物やお金に限ったことではない──心もそうだ。
他人から好かれたいし、愛されたい。そういう気持ちが強いのか、妹はどんな男も落として自分の虜にしてしまう。妹に迫られれば男はぞっこんになってしまう。
だが妹のその相手に対する感情は薄い。そもそも妹は大抵の物は好きではあるのだが、好きが軽い。男に対してもそれは同じで、どんなブ男だろうとクズであろうと、それを面白いから好ましいと、“好き”に変えてしまう。
だがかけがえのない物ではない。ある意味で、妹は相手を好きではないのだ。それはそうだろう。
平等に殆どの人を好きというなら、それは誰も愛していないのと変わらない。特別扱いする相手ではないのだ。
妹は誰に誘われても遊びに行くし、気分が悪ければ断る。関係を断つことも容易で、なんなら平気で彼らを傷つけることだって出来る。
一部の例外があるとすれば、それは家族や親戚などの切っても切れない関係の相手だけ。それらは家族だからちゃんと好きだし特別扱いもする。
言うなれば常人とは感覚が違うのだ。身体を開くこともこいつにとっては特別、拒否することでもない。気分が乗らないとかそういう理由で断ることはあるが、相手の性格だとか容姿で断ったりすることはない。……なんならこいつは性別どころか──
「──恋の名前は恋でーす♡ 突然だけどよろしくね~♪」
「…………えっと……」
恋は俺の腕を胸に抱き込みながら、小首を傾げて満面の笑みで挨拶した。自分の可愛さを理解したあざとさだが、こいつの場合これが天然でもある……ってそうじゃない。
「と、東郷元プロ……不潔だし!」
「妙な勘違いするな池田……俺の妹だ。お前も勘違いさせるような行動するな」
「あ~ん、残念。ってな訳で改めて東郷恋でーす♪ 恋も15歳の高校1年生なのでよろしくお願いしまーす♪」
「あー妹……って東郷さんの妹!? 言われてみれば髪とか目も似てるし!」
「ふふふ、仲良しなんですね。私は福路美穂子です。よろしくね」
「私は池田華菜ちゃんだし! よろしくな! 1年!」
妹の思わせ振りな挨拶から勘違いしかけた風越女子の2人に説明しておく。昼飯時に美穂子と約束していたため、こいつは帰そうとも思ったが、そうもいかないため仕方なく美穂子に了解を取って同席させた。美穂子の方も池田と一緒のため、全然問題ないらしい。弁当を沢山作ってきたため、ちょうどいいかもしれないとのことで、今も妹と俺のやり取りを見て笑顔を浮かべている。微笑ましいと言った感じだろうか。
「美穂子さんに華菜さんですね♪ ──あっ、ところで美穂子さんに質問なんですけど……」
「ええ、何かしら?」
恋の奴も一応は礼儀正しく接している。普段の態度はそこまで問題ない……筈だからな。多分。変なスイッチが入らなければいいが……それと、余計なことを言ったりしないよう俺が注意して──
「美穂子さんってお兄ちゃんのこと好きなんですか?」
「──おい!」
「いっ──た~い! ぶーぶー! 可愛い妹の頭を殴るなんてお兄ちゃんさいてー!」
「お前が変なこと聞くからだろうが!」
──言った側からこれだった。妹の頭を手ではたき、頬を膨らませて文句を言う恋に語気荒く注意する……まあ美穂子なら上手いこと誤魔化してくれるから大丈夫だと思うが。今も虚を突かれたのか驚き、両目を開いて可愛くぱちくりさせた後、にっこりと笑みを浮かべた。
「……ふふ。ええ、好きですよ」
「!?」
「え!? きゃ、キャプテン!!?」
「わお♡」
そして誤魔化さ──ない! えっ? いやいやいや……美穂子? さすがにそれは……どうした? 池田も驚いてるし、俺も絶句してる。妹はなんだか楽しそうだがこいつは後でシメる。だが……いやほんと急にここでそんなことを言うとは一体どういうつもりなんだ?
そう思った直後、美穂子は同じ笑顔のままで首を傾げ、
「──コーチとして、凄く尊敬しています♪」
「えっ……」
「コーチとして……あっ、そ、そうですよね! そう、そんな訳が……」
「……ふーん?」
コーチとして、という枕詞をつけてその意味を変換させた。俺も一瞬戸惑ったが、遅れて理解する。今の言い方だと『コーチとして好き』と言ってるように聞こえる。ラブではなくライクだと。
しかも敢えて普通に頷いて否定はしないことで、その意味合いが強く見えた。確かに、何とも思ってないのならこういう風に答えるのが普通だろう。慌てて否定したり、慌てなくても別に好きじゃないと答えるのはちょっと違う。特に温和で人のことを嫌わなさそうな美穂子なら尚更だ。
「東郷さんには学校に臨時コーチで来て頂いた時に熱心に指導してもらって、今でも凄い感謝しているんです。だから今日も会場に応援に来てくれるって聞いて張り切ってお弁当を作ってきました♪」
「…………なるほどねー♪ そっかそっか! 美穂子さんはお兄ちゃんに指導してもらったんですね~♡ いや~お兄ちゃんもやるなぁ♪ こんな美人さんに好かれて良かったね♡」
「……まあな……って、池田、どうした?」
「とすると最近のキャプテンのあれこれは…………え? なんですか?」
「なんですかじゃねぇ。お前、1人でブツブツと呟いて……何を言ってたんだ?」
「あ、あー……いやその……あの……つ、次の試合のことを考えてて、思わず口に出てしまったし!」
「まあ……! 華菜ったら……熱心なのは良いことね」
「は、はい! ありがとうございます!」
「……なるほどね~♪」
何かを誤魔化す池田に、誤魔化される美穂子。そして何かに感づいた恋。そして俺も……正直今のは明らかに嘘だと思っていた。小声で微かにしか聞こえなかったが、美穂子のことをどうたらと言っていたのは確かだ。……まさかこいつも気づいてたりしないよな? そうだったらさすがに面倒だな……そうではないと信じたい。美穂子がボロを出すとは考え辛い……とはいえ池田は美穂子のことはよく見てるからな……まあ、留意はしておこう。
「ではいただきましょう。どうぞ、好きに召し上がってください」
最も、留意したところでやることは振る舞いに気をつけるくらいしかないのだが。そうして俺は妹に注意を向けながら美穂子の弁当……大量の重箱に入った料理の数々に舌鼓を打った。そうして妹到来の不安は杞憂に終わ──
「──東郷さん。この人は誰ですか?」
「──また新しい人っすか?」
──らなかった。食事の席に偶然……偶然……だよな? まあおそらく偶然やってきた和とモモが俺と親しそうにしている恋を見て話しかけてきた。2人は笑顔だが……どう考えても嫉妬している。
だがこいつに嫉妬する必要はない。それに関しては問題ない。問題はどっちかというとそれ以外だ。
「……いや、こいつは……」
「──ん~? な~にあなた達。お兄ちゃんのこと好きなの?」
「すっ……」
「……お兄ちゃん?」
恋が美穂子にしたように和とモモにも好きかと聞くがやめてほしい。和が言葉に詰まった。モモの方はそれをスルーしてお兄ちゃん発言の方が気になったようだ。俺も和がボロを出す前にフォローに入るか。
「……妹だ」
「あ、そうなんすか。確かに似てるっすね」
「……東郷さんの妹……ですか」
「はーい♪ 妹の東郷恋でーす! それで? 2人はどう知り合──」
「お前ちょっと黙ってろ。……それで原村に東横も、自分のチームから離れていいのか?」
「──ええ、部長から許可は取っています」
「──同じく。加治木部長から許可は取ってるっす」
妹を黙らせて無理矢理帰るよう誘導したつもりなのに、2人は堂々とそう答える。……いや、帰れよ……一応他校の集まりなのに平然と混ざろうとするのはどうかしてるし、このままじゃボロが出そうでこっちとしては中々怖い状況なのだ。どうにか帰らせたいが……。
「……あー、だが福路や池田……こっちはこっちで午後の試合のこととかの話し合いもお互いあるだろうし、戻った方がいいんじゃないか? なあ福路」
「えっと……そうですね。……でもそちらの2人がいいなら私は構いません」
「え」
福路なら俺の意を汲み取ってくれるか、気を使って頷いてくれると思ったが、その優しさ、包容力ゆえか普通に受け入れてしまう。くっ……ならば最後の砦──
「…………まあ……そうだな。福路がこう言ってるしな」
「ちょっと!! 今なんで華菜ちゃんの方見てため息ついたし!!」
「いや別に……池田もいいよな? 福路がこう言ってるし」
「そ、それはまあ……強豪校の、それも先輩としての余裕だし! どこぞの1年だろうがあの原村和だろうが心良く──」
うん。池田はどうせ無理だろうから諦めた。池田がこの押しの強い連中を止められる訳がない。池田だしな……とはいえさすがの池田も若干ぎこちない。知らない人がいきなり3人も現れたらそりゃあそうなるだろう。そして美穂子なんかは初対面でもごく普通に笑顔を浮かべて接していてさすがだ。
「それじゃあ原村さんに東横さんだったかしら。2人も良ければ召し上がってくださいね♪」
「ええ、ありがとうございます……ふむ……これは……」
「ではお言葉に甘えてさせて頂くっす! ──って、うわっ……すごい量っすね。しかもどれも美味しそう……むむ……これは手強い……」
和とモモが今度は美穂子の弁当を見て何やら分析している。……まさかこっちまでバレたか? なんかさっきと同じ空気を感じる。しかも美穂子を警戒してもいる様だ。
だが俺が迂闊なことを言う訳にもいかないし、対応に困るな……とにかく今は無難に時間を潰すことを考えよう。──そう思った直後。
「──それで、参考までに聞きたいんですけど、お三方はお兄ちゃんのどういうところが好きなんですか?」
「おい!!」
恋が突然そんなことを平然と言い出す。3人と言ったのは当然俺が落とした3人だろう。どういう根拠があるのかわからないが、やはりこいつは気づいているのか? そんな疑問を思うも、それより止めるのが先だと声を大きく注意する。しかし、
「ん~? どうしたのお兄ちゃん♡ 私は3人に、コーチとしてどんなところを尊敬しているのかって聞いただけなんだけど……どうして慌ててるのかな?」
「っ……だったらなんで3人なんだ。池田にも聞けよ」
「池田先輩は聞いてもつまんなそうだからいいかな」
「確かに池田に聞いてもつまらないかもしれんが、そういうことじゃねぇだろ」
「兄妹揃ってディスられた!?」
池田がツッコミを入れてるが今はそっちに反応している場合じゃない。このバカな妹の謎の探りを躱す方が先決だ。
「……そうですね。私は、東郷さんの真摯なところを尊敬しています」
「ほうほう♪ そうなんですね♪」
って、美穂子が真っ先に答えた!? いやまあ……尊敬って体なら確かにどうとでも言えるが……今は池田もいるからな。バレたら面倒とかいうレベルじゃない。
しかしよく考えれば3人がバカ正直に答える筈はない。良い感じに尊敬しているところをでっちあげてくれる筈。でっちあげるのは悲しいが、まあそれはいい。無理に話をぶった切る方が不自然だし、このまま成り行きを見守るか。
「……確かに、東郷さんは紳士ですよね。でも私は東郷さんの頼れるところがす……尊敬しています」
「ふむふむ♪ なるほどなるほど~♪」
うんうん、和も問題ないな。ちょっと危ないような気もするし、なんだか言葉の裏でマウント合戦みたいなのが始まってる気がするが、それは気にしないことにする。変なことを言い出さなければそれでいいのだ。
「私は全部好きっす♡」
「! へぇ! そうなんだ!」
──は? お、おいおいおい……モモ? 急に何を言い出してるんだ?
急に好きという言葉を使ってきたモモに俺は戸惑うし、和も美穂子も妹も驚いているようだった。そして池田もおにぎりを喉につまらせていた。何やってんだこいつは……とは責められない。とりあえず美穂子が持ってきた水筒のお茶を渡してやりながら怪しい話の流れを耳にする。
「あくまでコーチとしてっすけど、東郷さんは男の人の中で最も尊敬する大人の男の人っすね♡」
「くっ……」
「…………」
「あはは♪ そこまで尊敬してくれてるなんて妹としても鼻が高いけど~……それだと男の人としても好きって言ってる風に聞こえるね?」
「そう聞こえてしまうくらい尊敬してて好きってことっす♡」
「……ふふ、なるほどね~♪」
いや待て待て……モモの言い方が意味深過ぎる。その言い方だと恋の言う通りそういう意味にも聞こえるし、ホントギリギリの発言だ。
「……確かに。東郷さんは素敵な人ですよね」
「! ……ええ、そうですね。東郷さんはとっても格好良くて素敵な人です」
そしてモモ以外の2人にもなんだか微妙な……そこはかとなくひりついた空気が流れた気がする。まるで麻雀の、それこそ公式戦の駆け引きを見ているかのようだ……って、そんなこと言ってる場合じゃないな?
「そうなんだね~♡ ──あ、それとは関係ないけど、お兄ちゃんって家庭的な女の子がタイプなんだよね~♪ 料理上手な子とか♪」
「あっ……♡ そ、そうなんですね……」
「ふ、ふん……私だって料理は得意です。全く他意はないですけど、以前もお弁当を作って何度も美味しいって言ってもらいました」
「……でもまあ料理だけが家事ではないっすからね。私は家事は大体出来るっすよ?」
──おい。
俺は視線で恋に抗議する。この妹の質問でなんだか妙なマウント合戦みたいなのが始まってしまった。
確かに家庭的な女は嫌いじゃないが……だからといってここで一々言わなくてもいいだろう。
こいつ一体何を考えてるんだ……?
「あ、それと麻雀が強い女の子が好きとも言ってたような……?」
「…………」
「…………」
「おい……!」
そんなこと言ってない。言った憶えはない。
だが俺の反論の声は出なかった。なぜなら、その場の空気が一気に冷え込んだから。
和とモモが黙る。どちらも長野県予選に出場してる麻雀競技選手であり当然優勝だって目指している。
それに加えて俺への好意と相手へのライバル心なのか、戦う前からバチバチと──
「なら長野だとキャプテンが1番のタイプってことじゃないですか!!」
「!」
「は?」
──おい池田ァア!!? てめェ何てこと言いやがる!! 空気も読めねぇのか!? そんなこと言ったらどうなるか……。
「も、もう華菜ったら……タイプだとかそんな……」
「そんなことないですよ!! キャプテンは昨年の個人戦でも1位だったし、女性としても完璧です!! 東郷元プロとは釣り合わないくらいには!!」
「♪ ──あー確かにそうかも~♡ お兄ちゃんには勿体ないけど、お兄ちゃんの1番の好みは福路さんかもですね~♡」
「……そ、そんなこと……むしろ、私の方が……」
「ッ……!!」
「…………」
……や、やばい。なんだかまた更に話題に入りづらく……というか、和とモモから伝わる気が恐ろしくなった。
和は歯を噛み締めているし、モモは無言で頬を手で押さえて赤くなる美穂子を見つめている。このままじゃ美穂子までボロを出しそうだな……まあこの場で匂わせるような行動や言動を取ったところでそれを知るのは池田くらいだからそれほどマズイ訳ではないが……しかしどう考えても引っ掻き回そうとしてるだけのこのバカ妹はそろそろ止めた方が良さそうだ。
「……おい恋。あんまりいい加減なこと──」
「あと、お兄ちゃんは胸の大きい娘が好きだよ♡」
「──知ってるっす」
「──常識ですね」
「あっ……えっと……その……」
「元コーチ、変態だし!」
「…………さ、飯でも食うか」
──よし、今はスルーしよう。
俺の性癖というか好みをバラした恋は後で折檻。俺の好みを聞いて「え? 常識ですけど?」みたいなすまし顔でマウントを取ろうとしてるモモと和も後で注意だ。返答に迷ってしどろもどろに顔をかぁっと赤らめてるだけの美穂子は……うん。まあ反応が可愛いだけだし、何も言わなくていいだろう……別に現実逃避してる訳じゃない。女の戦いに男が出ると碌なことにならないからな。今更恋を止めても無意味だし、なんなら俺が反応しない方がこいつは止めてくれるだろう……なので俺は怒りをしばらく溜めてガールズトークに対しては空気であり続けることにした。
──そして昼食の時間が終わり、笑顔の美穂子と嫉妬なのか頬を膨らませて不満そうにしていた和(とついでに池田)と別れた俺と恋はモモについていき、鶴賀と合流することにした。
「おい恋。次またふざけた言動したら……」
「ん~……どうかな?」
「おい」
「冗談冗談♡ もう大体わかったから次は大人しくしてるね♡」
「……ああ?」
途中、恋にひそひそと小声で注意してやると、また意味深な返答が。……大体わかった?
もしかして俺の交友関係でも調べてたのか……? そういや、こいつは良子や他の魔物級オカルト持ちでも気づかなかった俺のオカルトに気づいてたが──
「……そういえば恋さんって……もしかして、私のこと見えるっすか?」
と、俺がオカルトのことに思考を巡らせたところでこちらに振り向いたモモからの質問が飛んでくる。……ああ、でもそうか……こいつなら、俺と一緒でモモが見えてもおかしくはない。
「うん、見えるよ~。でもモモちゃんすごいね♡ こんなに気配が薄い人、私初めて見たよ~♪」
「まじっすか……東郷さん家って、そういう家柄なんすか?」
「そういう家柄ってどんな家柄だ……」
「……ん~、どうだろうね~?」
俺と恋は揃ってはぐらかす。まあ……家はオカルトには強いからな……良子とか親戚の連中ほどじゃないが──
『──お前は……じゃ』
「っ……」
「? 東郷さん?」
その時……映像がフラッシュバックし、思わず頭を押さえて立ち止まってしまう。
モモがそんな俺の様子を見て不思議そうにしていた。そんなモモを見た俺の方は息を整えて普段通りの表情へと戻す。
「……いや、何でもない」
「?」
「…………」
そしてそんな俺を見て薄く笑みを浮かべる恋は俺の手を取り、
「あ、ごめんモモちゃん! ちょっと忘れ物したから先行っといて~♪」 ──ほらお兄ちゃん」
「え?」
「あ? いやお前、忘れ物って──」
「早くしないとモモちゃん達の学校の試合に間に合わないよ~♪」
そう言って俺を強引につれていく。モモも戸惑っていたが……おそらく話があるのだろうと俺もそれに乗っかることにする。
恋の引く手に逆らわず、人が多い場所から人気のない場所へ移動する。試合開始までには戻らないとな……。
「で……どこに行くかと思えば……トイレか」
「きちんと清掃されてて良い感じ~」
人気のないフロアのトイレの個室の鍵を閉める。確かに内緒話にはうってつけだが……別にトイレにまで来る必要はないのでは? と思ってしまう。
「近いな……」
「ドキドキするね♪」
「しねーよ。いいから話があるならさっさと話せ」
俺からも聞きたいこともあるが、そのことを深く話し始めると試合開始まで間に合わないかもしれないからな。それは一先ず後でもいい。
「んー、しょうがないなぁ……それじゃ、さっさと用事を終わらせちゃおっか♪」
「ああ……あ?」
ふざけた事を言う恋に早くしろと言うと恋は俺の両手を取り──
もにゅっ♡
「あんっ♡」
俺の手を自分の胸に誘った。俺はそのまま妹の豊満な乳房を揉み──いやいやいや。
「……何やってんだビッチ」
と、俺は突発的な妹の意味不明な行動から逃れようと冷静に手を離そうとした。だが──
「あ、手を離したらオカルトのこと教えてあげな~い♪」
「!」
「やんっ♡」
そう言われ、離そうとした手をその場所へ留める。……思わず掴んでしまい恋が官能的な声をあげたがそれを気にしないように努めて恋を睨む。
「……それで? お前、なんで俺のオカルトのことを知って……いや、なんでわかったんだ?」
「んっ♡ それより恋のおっぱい♡ どう? 高校にあがってからおっきくなったんだよ♪」
「……だからなんだよ」
「何カップか当てられたら質問に答えてあげる♡」
「…………当てればいいんだな?」
……どうせ付き合ってやらないと何も話さないんだろう。
こいつは人をからかうのが好きだからな。俺の反応を見て楽しんでるのと……後は単純にこういうことが好きなのだ。
「揉みしだいて確かめてもいいよ♡」
「そうかよ」
「あっ♡ ふふ♡ 妹のおっぱいを容赦なく揉みしだくなんてお兄ちゃんのすけべ♡」
「お前から言い出したんだろうが……」
俺が諦めて手に力を込める。……手のひらと指で恋のニット越しのおっぱいの感触を確かめる。
するとすぐにあることに気づく。これは……。
「……ノーブラかよ」
「興奮した?」
「バカなこと言ってんな」
「あれ~? 否定はしないんだぁ~? ふふふ♡」
恋が視線を下に向けながら意味深に笑う。くそ……こいつムカつくな……。
「妹のおっぱいで興奮して勃起しちゃうなんて……お兄ちゃんのえっち♡」
「……うるせぇ。そっちは生理現象だ」
……もうさっさと当ててこいつの遊びを終わらせてやろう。
俺は恋の胸に意識を集中させる。
「あぁんっ♡ んっ♡ お兄ちゃんの手、気持ちいい~♡」
恋が俺を惑わすためか甘い声をあげ続けていたがそれも無視だ。そんなに時間もないしな。
……にしてもこいつの胸……中々……。
ニット越しでも指が沈む。そして沈んだ指が弾力で押し戻されて──
「──お兄ちゃん♡」
「!」
妹の声が耳元に届く。ハッとして恋を見ると熱い吐息を漏らした恋が先程よりも近くにいた。
「そんなに夢中になっちゃって……そんなに恋のおっぱい良かった?」
「っ……そんなことより当てればいいんだろ」
「あ、誤魔化した~♪ お兄ちゃんずる~♪」
「黙ってろ」
楽しそうな笑顔の妹が憎たらしい。思わず舌打ちを漏らしてしまう。
……だが……まあ……。
「……お前、俺が当てられないと思ってるだろ?」
「ん~、どうかな?」
「──Jカップだろ?」
「…………」
俺は確信を持って口にする。
すると恋は黙った。一瞬、驚いたような表情を浮かべる。
だがすぐに目を細めて薄い笑みを浮かべると再び甘ったるい声を紡ぎ出した。
「……さ~すがお兄ちゃん♡ またおっぱいソムリエっぷりがあがったね~♪ おっぱいの達人だね!」
「不名誉な称号をつけるな……」
俺は息を吐いて恋の胸から手を離す。恋もそれには何も言わなかった。やはり正解か。
「いやほんとすごいね~♪ 昔のお兄ちゃんなら当てられなかったと思うな~♡」
「……昔の話は──」
「褒めてるんだよ? これもオカルトで経験豊富になったおかげかな?」
「…………そうかもな」
確かにそれは間違いではない。当てられた理由は間違いなくそれだ。
触った感じ、以前のモモと同じくらいだったからな……その経験がなかったら難しかっただろう。
「和ちゃんにモモちゃんに福路先輩……み~んなおっぱいおっきくてめちゃくちゃ可愛かったもんね~? ねぇねぇ皆気持ちよかった?」
「……お前も同じオカルトを持ってんのか?」
「え?」
「あ? ……違うのか?」
恐らくそうなのだろうと俺が当たりをつけて聞くが、恋からは虚を突かれたような意外な反応が返ってきた。おかげで俺の方まで間の抜けた声を出してしまう。
「……あ、そっかそっか。うん……まあそういうことになるかな♪」
「はぁ? どっちだよ」
「んーん。気にしないで。まあ同じ力を持ってるからわかるってことだね♪」
と思ったが恋は気を取り直したかのように頷いて俺の質問を肯定する。
何か隠しているようにも思えるが……まぁ……いいだろう。それよりも話を進める。
「……ってことはお前も今までオカルトを使って……」
「ん~……そういうことになるのかな?」
「曖昧な答えだな…………ん?」
今まで恋が男をとっかえひっかえしてたのは俺と同じでオカルトを使っていたからか。
まあこいつなら使わなくても男くらい余裕で落とせるとは思うが……そう思ったところで引っかかる。
「お前……昔から実は麻雀やってたのか?」
「ん~? 恋やってないよ?」
「は? 嘘つくなよ。このオカルトは役満を上がった時に──」
「嘘もついてないよ?」
俺の言葉を差し止めるように恋がなおも言う。
だがそんな筈はない。役満を上がらなければ異性を落とすことは出来ない筈だ。
それはつまるところ、落としたい相手と卓を囲む必要がある。
つまり麻雀をやっていなければ使えない。
「それともあれか。昔はオカルト関係なく落としてたってことか?」
「……はぁ……お兄ちゃんさぁ……」
だが俺の質問に恋はジトーっと呆れた視線を向けてくる。
「……なんだってんだ」
「……んーん。何でもない。──はーあ。まさかお兄ちゃんがここまでわかってないなんて思わなかったなぁ……」
「……お前は俺の知らないことを知ってるってことか?」
「それもそういうことになるかな~」
「お前……」
要領を得ない曖昧な返答ばかりでさすがに苛立ってしまう。すると恋はそれを感じ取ったのか、逆に笑顔を浮かべた。
「あはは♪ 怒らないでよお兄ちゃん♪ 別に私も嘘ついてる訳じゃないし、煙に巻こうとしてる訳じゃないんだよ?」
「……だったら教えろよ。このオカルトについて」
「いーよ♪ でもそれは──」
──
「!?」
「あはっ♪ それじゃあそろそろ戻ろっか♪」
恋が俺の耳元に顔を近づけてそう囁いた瞬間──変な感覚を俺は感じ取った。
身体の内側から来るような何か。血が熱くなる感覚。鼓動が強く脈打つ。
「お前……今何した?」
「──また今度、教えてあげるね♡」
「……今じゃダメだってのか?」
「うん♪ でも安心して♪ その時が来たら……全部答えてあげる♡ 今はまだ……ちょっとレベルが低すぎるしね」
「レベルだと?」
オカルト的にはあまり聞かない単語が出てきて俺は単語のまま質問を返す。
すると恋も頷いた。トイレのドアの鍵を開けながら、
「ヒントをあげる。お兄ちゃん、今まで何人の女の子を落としたの?」
「…………7人」
「わーお。もうすっかりハーレムだね♡ ……でもまあ……それなら後半分くらいは落としてみたら?」
「後半分……後7人ってことか」
「そうそう。まあ正確に7人かはわからないけど……多分それくらい落としたら……ちょっとはわかってくるかもね~♪」
──その時になったら教える。
恋は言外にそう言っていた。
俺は少し考え……いや、あまり迷うこともなく──
「……わかった」
「即決だね~♪ ま、もっと色んな女の子とエッチしたいだろうし、そりゃそうだろうけど♪」
「……話が終わりなら行くぞ」
「おっけ~♪ あ、もう1つ……これはオカルトとは微妙に関係のない話だけど……」
「……何だ?」
トイレの個室から出ながら話をする。周囲に人の気配はない。聞こえる物音は遠くの喧騒とアナウンスだけだ。
「お兄ちゃん、中途半端に優しいところあるけど……ハーレム作るなら、ちゃ~んと上下関係躾けといた方がいいよ?」
「……余計なお世話だ」
「え~? 聞いといた方がいいと思うな~……なんなら、私が代わりに──」
「──
「! ……は~い。やめま~す」
恋がやりかねないことを止めて2人でトイレを出ていく。
少し不貞腐れた……だがなんだが微妙に嬉しそうな恋を見て、複雑な気分になる。こいつも昔から──
「ま、何にせよ恋はハーレム応援してるからね~。……あ、そうだお兄ちゃんもう1つ。これは本当に親切で言うけど──」
「あ?」
「────」
──試合の始まりのアナウンスが聞こえる。
そんな中、俺は恋の親切心からの言葉を聞いて……息を入れた。
「……そうか。わかった。ありがとな」
「別にいいけど~~お礼なら何かちょうだい♡」
「……後で焼き肉連れてってやるよ」
「いいね! 楽しみ~♡ タン塩♪ カルビ♪ ネギタン塩~♪」
「今日は幾らでも食っていいぞ」
……戻るか。
焼き肉に連れていくというだけでルンルン気分ではしゃぐ妹を見て張り詰めた気を弛緩させる。こいつも、いつもこれくらい歳相応なら可愛いんだけどな……悪いところが俺に似ちまって……。
今日と明日はどうやら妹と一緒に観戦することになりそうだ。そう思い、俺は少し遅れて鶴賀の観戦室まで恋と共に趣き、鶴賀の面々にも恋を紹介して……そして数時間後、今日行われる全ての試合が終わり、俺は息を呑むことになる。
明日の決勝戦。その組み合わせは──
『龍門渕VS清澄VS鶴賀VS風越女子』
……4校全てが、俺の関わった学校だった。
と、オカルトについての糸口を見つけかけたところで今回はこんなところで。次回は決勝卓。次次回は四高同時合宿でエロの始まりになる感じですのでお楽しみに。
感想、評価、良ければお待ちしております。