※この作品はR-18です。

役満で上がると惚れられる   作:黒岩

6 / 58
初めての指導

 対局が始まれば、周りの目は気にならなくなる。頭が冷え、相手と牌だけしか見えなくなる。

 ──なんてことはなく、有珠山高校麻雀部との対局は始まった。

 

「サイコロ振るよー」

 

「ぷ、プロとの対局なんてドキドキします……」

 

「よろしくお願いしますね」

 

「そんなに緊張しなくてもいい。お手柔らかに頼む」

 

 席を決めて、サイコロで最初の親、起家を決めてしまう。

 対局する三人は、まず二年生を除いた三人。岩館揺杏、本内成香、真屋由暉子の三人だった。

 女子高生との対局。プロになってからはイベントなどで訪れる相手をたまに相手にするくらいだったが、さすがに部室の中で三人の女子高生──いや、1人は中学生か。まあそれらと対局するのは少し緊張しなくもない。

 だが、さすがにプロと対局する三人の方が緊張してる様子なので一応声を掛けておく。お手柔らかに頼む、といったのは本心だ。正直、相手が女子高生とはいえ実力が未知数な相手には違いない。

 プロをクビになったとはいえ、矜持──なんて大層なものではないが、ちょっとしたプライド、意地みたいなのはまだ残っているので、負けるのはさすがに嫌だと思うが、

 

「成香は初心者だし、揺杏はそれほど強くないから先生こそお手柔らかにになー」

 

「それ言わないでよ。事実だけど」

 

「一応ルールは覚えたんですけど……まだ始めて2、3ヶ月しか経ってなくて……」

 

「一応、私が後ろで見といて上げるわね」

 

 と思ったが、どうやら岩館はそれほど強くはなく、成香に至っては初心者らしい。成香の後ろには桧森が、岩館の後ろには獅子原がからかい混じりに付く。

 それならさすがに負けはない。狙うだけの余地はありそうだ──と思ったが、もう1人が気になる。

 

「そうなのか。……真屋は、結構出来るのか?」

 

「少しは」

 

 特に含むところもなく頷いて応えてくれる。何もしていないのに自然と前に突き出ている巨乳に目を奪われそうになるが、自重だ、自重。もうサングラスは外してしまったのだ。目線でバレる。

 しかしそうか。美少女には強い奴が多いが、由暉子は強いのか。出来れば俺も名字ではなく名前で呼んでみたいが、プロが指導として来てる以上、あまり馴れ馴れしいのもどうかと思って全員を名字で呼んでいる。

 そんなことを思いながら自動卓が配牌し、ドラをめくって対局が始まる。白か。この場合のドラは発。ドラは開示された牌の次の牌となる。数牌であれば次の数。字牌は、三元牌は白発中。風牌は東南西北、の順番だ。

 本内が初心者と聞いたので、何となく頭の中で解説しようかと反復してみたが、さすがにその辺は理解しているようだ。

 そうやって、自分の配牌を見るのだが……うん、まあ、そこまで悪くない。というか良い方だ。かなりグッド。

 何故なら、中が三つ。発がニつ、白も一つある。

 これだと何が出来るか、そうご存知、役満、大三元が狙いやすい。

 更にそれだけではなく、今のドラは中である。ドラは一つ増えるごとに一翻。つまり、役が一つついて点数が上がる。ドラが三つあるのでドラ3,三翻もあがるのだ。

 それに加えて役牌、発に中。それぞれ一翻ずつ。これだけでも結構高めで、仮に大三元じゃなくても小三元も狙えるので、二翻は増やせるし、立直、鳴かない場合は門前でそれぞれ一翻ずつ。仮に一発なら更に一翻。裏ドラが乗る可能性だってあるので、こうなってくると数え役満も狙えてくる。ついでに親は自分。どう少なく見積もっても、満貫以上は固いし、期待値はそれ以上だ。

 まあ、これを説明しても麻雀をよく分からない人は分からないだろうな、と思う。誰かに説明する場合、とりあえず悪い手牌ではない、役満も狙えなくもない、くらいしか言えない。

 さて、どうなるか……と俺はとりあえず山から牌を一つツモり、それを取って手牌から何を捨てるかを選んで、河に捨てていく。

 プロなら緊張感があるものだが、高校生の部活。それも弱小っぽい子達の中での対局であるため、それほど緊張感はない。

 

「えっと……これだと……こうで、こうだから……」

 

「うっげ……」

 

「…………」

 

 ポーカーフェイスという言葉がある。表情で相手に真意を、こちらの手を探らせない。無表情だったり、機微が少ない場合にも例えられる言葉だ。

 だがこの場に殆ど、それはない。本内はまだ慣れていないのか、真剣に頑張ってるのは伝わってくるが、色々と迷ってる様子だし、岩館は僅かに表情が引き攣っていた。配牌が悪かったのだろう。

 ただ由暉子だけは先程から変わらないおっとりした無表情で牌をツモって、対局を進めていた。どうでもいいが、牌を山からツモる際に、卓の手前に胸が当たって形を変えるのが妙にエロい。集中力を乱してくる。盤外戦術なんて卑怯だぞ! 

 いや、うん。俺が勝手に見てるだけだけど──とか思っていると、

 

「……ポン」

 

 由暉子がツモで発を捨て、それはまだ見送ったのだが、続いて俺、成香の番となったところで、また発が出てきたのでやむをえずに鳴く。

 副露。鳴きは要は、二枚ある牌を誰かが捨てた瞬間に手番に関係なく貰っていいよ、というルールだ。それがポン。鳴いて捨て牌からその牌を貰った場合、手牌からその牌を開示して、卓の右側に並べて置く。並べ方は貰った相手の席の部分を横に、他の二つは縦にする。チーやカンだとまた違うのだが、その辺りは割愛。

 とりあえず、発を俺が二枚抱え、一枚が捨てられた時点で残りの発は一枚なのだ。その最後のものが出てしまったので、俺はやむをえずに鳴いてそれを回収した、ということになる。

 あんまり鳴きたくはないんだけどな、と思いながらも手牌からいらない牌を捨てて再び成香の手番。鳴いたらその人から再び反時計回りで再開。これを利用して上家の手番を飛ばしたり、なんてことも出来る。

 ただまあ鳴くと門前がつかなかったり、立直が出来なかったりで安くなりやすいのが欠点ではある。早上がりをする際は役に立つ。親を継続したい時や、相手の親を流す時。役がつくなら鳴いて速攻というのも一つの戦術だ。

 ともあれ、自分のことばかり考えてはいられない。10巡した辺りで俺は彼女達の捨て牌を見ながら考える。

 本内は……萬子ばかり出てるな。裏目ったか? とりあえず、索子か萬子。二索はなし。一索と四索もない。六索は俺が抱えてるから持ってたとしても一つ。真屋と岩館から出てるし。テンパイはしてないか。岩館は……筒子の六筒以降辺りとかか? 萬子と索子はそれなりに出てる。萬子は本内が放出してるし、索子を抱えてる可能性も無くはないが、六索は俺が抱えてるし……由暉子が少し分かりにくい。これは……ん、よく見れば北が出てない。北は真屋の自風だし、抱えてる可能性もあるか。それはいいとしても、結構ばらけてるな。まあ、筒子の二筒から六筒辺りとかクサいか? 筋的にも……それにツモ切りも多くなってる。ダマでもうテンパイしてる可能性も考えた方がいいな。

 対局中は考えることが沢山ある。自分の牌と河の状況。相手の動向を探るために捨て牌が増える度に情報を更新して思考を続けるのだ。

 というか誰も鳴かないし立直もしない。麻雀の一局は17、18巡目には終わる。それが終われば次の局。これを基本的な半荘、東南戦の場合は、東一局から四局、南一局から四局までの八回行う。

 親が和了れば、例えば、東一局一本場、などになり数字は変わらず、連荘することになるため、10局以上は回すことになるが、誰かの点数がなくなれば、誰かが飛べばその限りではない。順位はそのどちらかの終了時に決まる。まあ、稀に西入……西一局に突入することもあるが、あれはほんと勘弁してほしい。昔友人と深夜にやってて、もう朝方でそろそろ終わるかって時に西入すると、大体全員流れが悪い泥沼状態なので、早く終われよ、ってなる。それで、深夜で集中力が落ちてたりして、誰かがチョンボしてくっそ微妙な終わり方をする時がある。俺は思わず食ってたラーメンをぶちまけた。いや、雀荘で食べる食べ物って、どうせそれほど美味しくないって分かってても食べちゃう。海の家とか、サービスエリアと同じ現象。

 それはともかく、さすがに10巡を越えると、無理かな? って思う。いや、一応テンパイはしたのだが……白が一枚足りない。俺の白はどこだ……? 

 そんなことを考えてると16巡目──普通に上がり牌をツモってしまう。

 

「ツモ──小三元。発。中。ドラ3。50符の7翻。跳満、6000オールだ」

 

「わぁっ……!」

 

「っ、いきなりげっろ……」

 

「……どうぞ」

 

 三者三様の驚き方で返され、点棒を貰う。これで43000点。他は19000点で横並びだ。

 

「いきなりえげつないなー、先生。初心者相手にそれは」

 

「運が良かっただけだからな。まあ、こういうこともある。ほら、切り替えて次だ」

 

「うーん、さすがはプロね……綺麗に当たり牌躱してたわ」

 

「はい……躱されてました」

 

 桧森と由暉子がそれぞれ感心したように言う。確かに、見れば由暉子は既にテンパっており、当たり牌は俺が抱えていた。

 とはいえ、こちとら一応プロ。元プロ。デジタル打ちだったり読みくらいはさすがにそれなりに出来る。今のは本当に運が良かっただけだ。

 しかし……今のを和了れなかったのは痛いな……と思う。結局、最後の白は山の奥に隠れていたようだ。

 役満を和了れないことにはオカルトが発動しない。役満を上がらなければどうなるかも分からない。分かっていたことだが、ハードルは高かった。

 

 だが、次の局──東一局の一本場で、

 

 ……おいおい……また来たぞ……! 滅茶苦茶ツイてるな俺……! 

 またしても大三元のチャンス。しかも今度はそれぞれ三枚ともツモって、後は雀頭、上がり牌を揃えるだけ。

 これは来てる。俺は対局する三者を見る。JK2人にJC1人。漏れなく美少女。おら、ツモれツモれ! もしくは振り込め! 出来れば由暉子! 頼む! 来い! 来いっ! 

 俺は拝む。テンパイし終えると、後は願うくらいしか出来ないものだ。

 頭の中は煩悩だらけ。こんな俺に麻雀の神様が微笑むはずは……などと思っていたが、しかし麻雀の神様は意外と優しかったようだ。

 

「ツモ! 大三元! 16000オール!」

 

「!」

 

「!」

 

「!」

 

 俺は役満、大三元を上がることに成功した。三者──いや、この場にいる有珠山高校麻雀部の目が驚きに見開かれる。

 いや、俺の時代来てるのでは? あの夜の対局から。俺、強くなったのでは? この分だとプロテストもいけるんでない? 

 いや、今はそれよりもJKだ。JCだ。おっぱいだ。ユキぱいだ。

 さあ、どうなる──? と、俺はドキドキしながら彼女達の反応を待つ。すると、

 

「えー! ちょっとそれはないって! プロ、もっと手加減してください!」

 

「役満、素敵です!」

 

「残り3千点ですか……」

 

 ……ん、どう、だ? どうなんだこれは? 

 岩館の抗議の声。本内のキラキラした視線。そして、由暉子のマイペースな呟き。

 その反応が、どうにも判断しづらく、俺は頭に疑問符を浮かべながら、今度は二年二人の声を聞く。

 

「先生やるじゃん! もしかして大三元のプロ!? よし、全員にそれを伝授してくれ!」

 

「いやいや……それはないでしょ。凄いけど」

 

 獅子原と桧森の声が響き、しかし対局は続く。残り全員が1000点。立直は一回出来るだけの点数。

 故に、終わるのも早かった。由暉子が東一局二本場で、岩館から、

 

「……ロン。3900です」

 

「うえー、最下位じゃん……」

 

 岩館を飛ばしてしまい、トップが俺。ニ位が由暉子。三位に本内に、最下位が岩館という順位になって終局。

 そうすると、再び皆が俺を見て、

 

「揺杏、落ち込むことはない。相手はプロだからな。私の15000円分くらいは挑んで揉まれてこい」

 

「まだそれ気にしてるの……?」

 

「うー、まあ、結構やるってのは分かったけどさあ……」

 

「強くなれそうで素敵です……!」

 

「そうですね。まだ一局ですが、学ばせてもらいました」

 

 そんなことを口々に言う。が、俺としては色々と気になるところなのだ。

 しかし、どう惚れた? と言ってみる訳にもいかない。気持ち悪すぎる。なので普通に会話を行うしかない。

 

「……運が良かったな。まあ……それで、なんだ。お前達はインターハイを目指してるのか?」

 

 そんな無難なことを聞いてしまう。すると獅子原が拳をグッと握って、

 

「そうそう。このユキのビジュアルを知らしめるためにな!」

 

「ユキの、ビジュアル?」

 

 思わずオウム返ししてしまう。そこがよく分からないが、すると続けて獅子原と岩館が、

 

「ほら、ユキって可愛いだろ? だからインターハイで有名になって貰うんだ」

 

「インターハイで活躍すれば雑誌に乗ったりもするからね。それで、目指すはポスト瑞原はやり!」

 

「なる、ほど? ……つまり、牌のお姉さんを目指してるのか?」

 

「まあそれじゃなくてもいいけど、とりあえず有名にしてアイドルになってもらおうと思ってな! だから全員で麻雀の特訓してインターハイまで行こうって目標を立てたんだ」

 

 えぇ……どんな目標だよ……と思ったが、そういえばはやりさんも牌のお姉さんになるためにインターハイで活躍したらしいし、少し変わってるがおかしな目標でもない、か。

 それでも部員全員が由暉子のアイドル化を目指してるってのも凄い話だ。そうしていると、右隣の本内が、

 

「先生から見ても、ユキちゃんは可愛いと思いますよねっ」

 

「ん……まぁ……そう、だな。可愛いと思うぞ」

 

「……ありがとうございます」

 

 そう問われたことは一瞬驚いたが、まあ普通にそれを認める。可愛いというだけじゃ変な感じもないしな。由暉子も、目線を僅かに逸らしながらも、普通にそれを受け取ってお礼を言った。

 すると獅子原も、

 

「そういえば、先生もプロならはやりんと会ったことあるでしょ? 比べてどんな感じ?」

 

「あ、あー……そうだな……比べてどうかは分からないが、アイドルになれるくらいの可愛さはあると思うぞ。アイドルっぽい格好したらそれっぽくなるかもな」

 

 と言ってみる。言いながら、これ、誰も惚れて無くね? オカルト不発か? と自問する。普通にショックなんだけど……。

 まさか三麻じゃないと駄目とか? 何か他に隠された条件があるのか? と、色々考えてみるが答えは出ないし、思考するには会話が続くため、この場には向いていない。

 

「よし、それなら……揺杏!」

 

「オッケー。ユキもいい?」

 

「……はい。大丈夫です。お願いします」

 

 獅子原は何かを思いついたのか、ニヤリと口端を上げて、揺杏を呼ぶ。揺杏もニヤリと笑みを浮かべてユキを呼ぶと、ユキもこくりとそれに頷いた。

 俺は頭に疑問符を浮かべ、

 

「? 何だ?」

 

「えーと……変身?」

 

「ユキちゃん、ほんと可愛いんですよっ。ちょっと待っててください」

 

 と、部室の端の一角。カーテンが掛かっているそこにユキと揺杏が入っていく。

 一体何が始まるのかとそれを待っていると、中から、

 

「えーと……まずは服を──って、ユキ。また胸大きくなってない?」

 

「そう言うならそうかも知れません。確かに、言われてみれば、少し胸の部分がキツいような……」

 

「あー、また採寸し直しかなぁ……でもまあ、今はこれでいくか。大丈夫?」

 

「大丈夫です」

 

「よしよし、それじゃあ髪下ろすねー」

 

 と、そんな声が漏れ聞こえてくる。俺は思わず眉を顰め、

 

「お、おい、何やってるんだ? ……というか、外に出た方がいいような……」

 

「あ、あー……多分、もう少しで終わると思うんで気にしないでください」

 

 さすがにどうかと思ったのか、桧森は少し目線を逸らして、恥ずかしそうにそう言ってくる。カーテンで隠れてるとはいえ、同じ部屋の中で、おそらく、着替えをするのはどうかと思うのだ。

 だが由暉子や岩館、獅子原、本内と、あまり気にしてる様子はないので結局出て行くタイミングを逃してしまった──が、その会話は中々に興奮させてくれる。ナイスだ岩館。ちょっと胸が大きくなった話をもう少しお願いします。

 妙に興奮させるような話を聞いて、しばらく待っていると、

 

「──お待たせしました」

 

「じゃーん! これがユキのビジュアル力だ!」

 

「っ、これは……なるほど。確かに……」

 

 カーテンから着替えを終えて出てきた由暉子は、その長くて綺麗な髪を下ろし、眼鏡を取っていた。

 服もカジュアルな、ファッション誌に載っていそうなもの。首元に巻いたマフラーが可愛らしいし、やはり彼女は美少女だった。眼鏡も良かったが、こちらも、なるほど。とっても可愛い。

 それに……やはり、服を変えても、その胸元の盛り上がりは悩ましい。大人顔負けの大きな乳房。張りの良さを示すようなふるふる、たゆたゆ具合。これで中学生。ビジュアルも、胸以外はロリコンが歓喜しそうなレベルで高い。

 しかも、胸だけでなく全体的にスタイルが良い。小柄だが、腰つきは女性的な曲線をしっかり描いており、スカートの丸みからお尻の方もぷりぷりしてそうである。

 小柄で幼い顔立ちのロリ美少女と思わせて、スタイルはしっかり女性的な魅力に満ちた、そのアンバランスな発育の良さ。男の欲望を詰め込んだような都合の良い持て余すような体つきのJC。

 こんなのが中学の教室にいるとか、同級生はたまらんだろ。というか、大人でもこれはちょっと息を呑む。犯罪的なビジュアルだ。

 まあこんな思考をする大人は少数派──特に麻雀界隈は妙に風紀が緩いというか、純粋な人が多いから、俺みたいにムラムラする人は異端なんだろうが……。

 ただちょっと思ったのが、

 

「……真屋はアイドルになりたいのか?」

 

「……はい。先輩方が取り柄を見出してくれたので、とりあえず頑張ってみようかと」

 

「ユキはいじめられっ子だったからな。アイドルになって見返してみようってことで!」

 

「なんか、新たな目標まで追加されてるし……」

 

 表情の機微が少ないので分かりにくいが、由暉子の可愛さを見出した他の面子に応えるためらしい。……というか、いじめられてたって……なんだ、やっかみか? まあ同じ女性からするとこんな見た目、先程の少し地味な見た目でも反則的だもんな……男子なら、それは多分、好きな子に関わりたいが故のよくある奴だろう。俺も小学生の時はそのタイプだった。いや、なんだろうな、あれ。今思い返すと馬鹿らしいが、当時の気持ちを思い返すと、ようは関われて、好きな子が反応を見せてくれるのが嬉しいのだ。それも小学生くらいだと結構ムキになって、声を上げたりするので、からかったりするといい反応を見せてくれるってこと。まあ、大体相手が泣き出してから後悔するやつ。俺はそこまでやらなかったが、今思うとやっぱアホらしい。普通に仲良くした方が良いに決まってるのだ。

 まあ俺の熱い自分語りはどうでもいいとしても、まあ、由暉子はそのことをあまり気にしているようには見えないので、そこまで深刻ではないのかもしれない。せいぜい無視されたり仕事を押し付けられたり、マイルドないじめだろう。いじめにマイルドもくそもないと言いたいかもしれないが、確かにあるんだよな。単純にクラス内の立場が低くてないがしろにされがちなやつ。大抵、やってる側はそこまで意識してないか、単純に舐めているパターンだ。あまり言いたくはないが、俺にも経験がある。麻雀でそこそこ成績出して、見た目も同級生に比べて勝ってるとちょっとしたナルシスト気味になっていた黒歴史を思い出してしまう。とりあえず、忘れよう。あまり思い出したくはない。

 

「とりあえず、先生にユキの可愛さを知ってもらうために、このまま続けるか。次は私とチカが入るぞ」

 

「ぷ、プロと打つなんて初めてだからドキドキするわね……」

 

「誰が残ります?」

 

「ニ位のユキでいいんじゃないか? それで、揺杏と成香は先生の後ろで勉強させて貰うといい」

 

「りょうかーい」

 

「先生、お願いしますねっ」

 

「ああ……」

 

 対局者が入れ替わる。今度は獅子原と桧森が、岩館、本内と入れ替わる形だ。由暉子はそのまま。だが見た目が変わってて……うん、いや、確かに近くで見るとより可愛いな。こんなちっこくて超可愛いのに、その上、胸は大きくて……いや、確かにヤバい。あまり近くで見るものじゃない。昔、初めてはやりさんを見た時くらいのたまらなさがある。幾ら何でも中学生にガチ恋はヤバい。いや、全然ガチ恋じゃないけど。単純に下半身に従ってるだけだけど。いや、ほんと、そういう恋とかわっかんねー。昔っから可愛い子は皆好きだった俺だ。というか、そういうもんじゃないの? どうせ男の殆どは好きな女の子が複数いて、その中で付き合えそうな子とか距離が近い子を意識して、付き合えたから付き合って、好きって言ってるだけだろ? じゃなかったら不倫や浮気がこんなに多い訳ない。

 まー、この国は同性婚だろうが重婚だろうがなんでも認められるような恋愛が自由すぎる国だし、それほど問題にはならないが、にしてもその辺りは気になるところだ……是非を問いはしません。現在進行系ではやりさんと良子の二人と肉体関係を持ち、更にその範囲を女子高生に、しかも女子中学生に向けてる俺だ。言っても説得力がなさすぎる。

 ともあれ、次はまたどうなるか──というか、効果が出てるか分からないの不便すぎる。効果出てないんじゃねぇか? 全然惚れられてる気がしないんだが。

 

「ツモ。6000オール」

 

 ──って、そんなこと考えている間に獅子原が上がって……ってか、こいつ……、

 

「……獅子原……お前……」

 

「? どうした、先生?」

 

「……いや……やるな。お前、この部で一番強いだろ」

 

「うーん、どうかな。先生はどう思う?」

 

「そりゃ──っ」

 

 獅子原が問いを、不敵な笑みと共に投げかけてくる──その瞬間、俺は背筋が凍った。

 獅子原のその何かを感じてしまったのだ。

 

「うわっ! びっくりした……」

 

「きゅ、急に跳ねてどうしたんですか、先生?」

 

「……い、いや、なんでもない……」

 

 ビクッと肩を跳ねさせてしまった。おかげで肩口から覗き見ていた岩館と本内がびっくりする。というか、今更だが、女子高生に囲まれての対局というのは、いい匂いがするな。男や大人とは違う、ほのかな甘い匂いがする。

 だがそんなものを感じてる余裕はない、ヤバい。死ぬ。いや、ほんと。

 俺は、オカルトの気配にだけは敏感だ。これは幼少から良子と関わっていたからか、家系の特徴なのかは分からないが、俺はオカルトを持っていない時から、オカルトの気配だけは感じることは出来た。

 自然と汗が溢れる。暖房が効きすぎた訳じゃない。獅子原の近くにいるナニカを感じてしまったがゆえだ。

 とんでもない化け物を飼っている。おそらくは、良子と似た、何かを呼び出すタイプのオカルト。麻雀以外にも使うことの出来るヤバい系統のオカルトだ。

 オカルト持ちのこの怖さは、オカルトを持っていないか、もしくは一定以上の実力がないと気づかないだろう。事実、岩館や本内、桧森も平然としている。由暉子は一瞬、獅子原を見たので、気づいているのかもしれない。

 というか、その由暉子も、不意に、

 

「あの……左手を使ってもいいでしょうか?」

 

「……ああ、いいぞ」

 

「いいよ」

 

「どうぞ」

 

 左手を使うことを申告する。昔はマナー的に左手を使うことは駄目とされていたが、今はそんなことはない。前に大沼さんから聞いたことがある。イカサマを疑われるとか、左手で先ヅモすると上家にぶつかるとか色々あるが、科学の進歩のおかげもあり、公式試合などではイカサマはまず不可能なので前者の心配がなくなったことが大きいらしい。

 が、左利き、という訳でもないはず。なら使う理由はなんなのか──その理由はすぐに分かった。

 

「ツモ。4000オールです!」

 

 ユキが少し嬉しそうに和了りと点数を告げる。ああ、そういうことか。特定の条件でツモ運が高くなるとか、ツキがよくなったり、高い手で和了れるとか、そういうタイプのオカルト。

 このタイプはオカルトの中では強力という訳でもないが、それでも脅威であることには違いない。支配系とか憑依系とか、訳わからん、いい加減にしろよ、って言いたくなるようなオカルトも多いから、これくらいはマシだと言える。いやほんと、支配系とか特に消えてほしい。和了れないようにする、みたいなガキが考えたみたいなクソチートオカルトがあるからほんとイラッとするのだ。どう対応しろって言うんだよ。普通の麻雀させろ。

 だがまあ、さすがに中学、高校辺りでそれも慣れた。諦めた。情熱を失ったのもその所為か……女子は高校、中学くらいからオカルトが飛び交うことも珍しくないし、レベルが一段落ちる男子も、プロになればオカルト持ちは珍しくないし、トッププロにもなれば狂気染みた、はっきり言って、頭がおかしい狂った奴も多い。

 そういうのに比べれば由暉子のそれは可愛いものだ。4000点くらいくれてやる。ただし、獅子原。テメーは駄目だ。良子もそうだが、霊体とか精霊とか、場合によっては神とか降ろしてくるのやめろ。なんだよ、初手テスカトリポカって。シャー○ンキ○グでやってろ。実際、憑依合体みたいなことする奴もいるから困る。良子にそれ言ったら、「よみ○ーえーれー」って気の抜けた声と共に変なの呼び出されてボコボコにされた。次会った時は「きーみにと○けーのーざんらーい」だった。ハマってんじゃねぇよ。そっちまで教えた覚えはねぇよ。あいつ、結構良い声してるからマジに歌うと上手いのが腹立つ。

 まあ、オカルト持ちっていうのは、そういう痛いことを現実に出来るやべー奴らなのだ。俺もオカルト持ち……になったはずなんだが、肝心のオカルトは条件を満たしてないのか、どうなのか。発動したかどうかも分からないし、麻雀の対局には関係ないという欠陥品である。

 そしてこの流れだと、桧森もヤバいのかと思ったが……

 

「ツモ。1300。2600」

 

 ……普通だった。

 いや、上手いには上手い。岩館や本内に比べれば結構良い打ち手だ。

 とはいえ、由暉子、獅子原に比べれば劣る。うん、普通に上手いから特に言うことがない。

 結局、その対局は獅子原が圧倒的一位。少し離れて由暉子がニ位。最初のツモで少し離された俺が三位で、四位が桧森だった。一応頑張って最下位は回避したが、獅子原が暴れ過ぎだし、ずっと狙われれば最下位は俺だった。

 というか、さっきまでは滅茶苦茶ツキが回ってきてると思っていたが、途端に普通になったな。いつもの俺だった。躱すのはそこそこに上手いが、それだけな俺。別に高い手を張れたりはしなかった。

 

「……なんだ、結構やるじゃないか」

 

 震え声。ふざけんな獅子原。こんな化け物がいるなんて聞いてねぇぞ。

 こんなの役満を上がるどころの話じゃない。耐えて、なんとか二位か三位を拾うのが精一杯だろう。最下位だけはプロとして回避したいところだが、何度もやればキツいだろうな。最下位率が少なくなるように頑張ろう。

 

「よっし、プロに一勝だね」

 

「ニ位だと勝ったと言えるんでしょうか?」

 

「うえー……最下位……」

 

 皆が対局を終えてそれぞれ喜び、自問し、落ち込んでいる。

 俺は息を入れ、

 

「……インターハイ、いけるかもな」

 

「え、マジ? 今のだけで分かったの?」

 

「私、初心者ですよ……?」

 

 岩館と本内が問うてくる。俺は汗を拭いながら言ってやった。

 

「獅子原の実力は全国レベルだし、真屋も良い腕をしてる。桧森は堅実な打ち手だし、岩館も粘り強くはあるし、本内にも伸びしろがある。インターハイ予選はこれから半年近くあるし、このまま練習を続けていれば可能性はあるんじゃないか?」

 

「お、おー……」

 

「まあそのために呼んだからね。15000円で」

 

「まだ言うの……?」

 

 一応そう言ってやったが、本当にそう思った。

 いや、それだけ獅子原のレベルは桁が違う。多少他の面子が成績を残せずとも、獅子原一人で逆転が可能なほどに強い。

 それに実際、由暉子も全国レベルだろうし、他の面子に伸びしろがあることも確か……だと思う。まだ分からないが、その二人がいるだけで期待する価値はあるだろう。

 本気でとは言ったが、少しリップサービスだったか? しかしそれくらいはいいだろう。実際、光り輝くものは感じる。

 ……しかし、やはり惚れられてる気はしねぇ……なんなんだよ、ほんと。マジで分からん……俺の野望、早速頓挫したのでは? 

 

「よし、それじゃあ次私も。先生にリベンジするぞー」

 

「今度は見てもらってアドバイスしてもらった方がいいんじゃない?」

 

「あ、出来ればそういうの、私はお願いしたいです……」

 

「うーん。じゃあ一回見てもらうか。私は抜けるから、四人で打って先生に見てもらおう」

 

 と、今度は獅子原がそんなことを言う。うん、まあ、おかしなことじゃない。指導ってこういうことだ。ぶっちゃけ、役満を上がる機会は減るが、俺もある意味でありがたい。あんまり情けない姿を見せるのもあれだし、麻雀の指導は得意な方だ。

 そうして、今度は獅子原以外の4人の対局が始まったのだが……、

 

「ロン。3900」

 

「うげっ、またいきなり……」

 

「──ロン。5800」

 

「はい……」

 

 うーん、これはなんというか……。

 皆が打っているところを周囲を回って、手牌を見ながら見ていく。由暉子の後ろに回った時、上から見る胸の膨らみが素晴らしかった──のは置いといて、だ。一応真面目に見てみた。

 その感想を、対局終了後に率直に言う。

 

「……お前達に必要なのは、防御だな」

 

「防御、ですか」

 

「攻めたりないとかじゃなくて?」

 

「ああ、特に岩館と本内……はまだ初心者だからしょうがないが、振り込む率が高い。後、裏目に出ることもな」

 

「名指しでダメ出しされるとかきついなぁ」

 

「防御と言うと、相手の和了り牌を予測……するんですよね? 裏目る時は……すみません、分かりません」

 

「謝らなくてもいい。それに、前者で合ってるぞ」

 

 初心者だが、一応ルールや何を気をつけるべきかを知っている本内に頷く。しかし岩館が、

 

「と言ってもな~当たり牌を予測するのとか難しいよね」

 

「プロくらいになれば完全に当てることとかも出来るんですか?」

 

 本内が中々なことを聞いてくる。いや、まあ、そこがミソでもある。

 

「完全には無理だが、それに近いことは理論上、可能だ」

 

「えぇ~、幾らなんでもそれは……」

 

「いや、出来るぞ。要は予測すればいい」

 

 と言って、俺はよく使う例題を出すことにする。プロ雀士にとっては有名な話だ。

 

「本内。お前、電車に乗ったことはあるか?」

 

「電車、ですか? はい、ありますけど……」

 

 急にそんなことを聞かれて、困惑してる様子だ。だがまあ関係あるんだよな、これが。

 

「お前が電車に乗っていると想像し、次の駅で最初に乗ってくる人を当ててみろ」

 

「ええっ!? そんなの、無理じゃないですか……? 素敵じゃないです……」

 

 まあ、それだけならそうだろう。本内の言っていることは正しい。だが、俺は続ける。

 

「なんで無理だと思う? 岩館も考えてみろ」

 

「いや、誰が乗ってくるかなんて分からないよね?」

 

「なんで誰が乗ってくるか分からないなんて思うんだ?」

 

「……先生。急に馬鹿になった?」

 

「なってない。……そうだな、それじゃあ時間を、朝の7時から8時頃だとする。その時間で考えてみろ」

 

「時間? そりゃ、朝だと……サラリーマン?」

 

「満員電車って凄そうだよね。拷問系アトラクションみたいでさ」

 

「満員電車、怖いです……」

 

 話が脱線しかける。獅子原、ちょっと黙っててくれ。本内も、そこまで怖がらなくても……いやまあ、都心とかだと酷いけどな。俺も、満員電車が嫌いすぎてやむを得ず車で移動するようになったのだ。別に車がそこまで好きという訳ではなかったのに。

 ともあれそうじゃない。この話の肝は、

 

「そう、サラリーマンか。学生が乗ってくる可能性が高いだろうな。なら、それに加えて、駅も指定してみよう。次の停車駅がオフィス街である場合。乗ってくる確率が高いのは?」

 

「そりゃ、サラリーマン──って、あっ」

 

 と、岩館が気づいたようだった。本内も気づいた様子である。そう、つまりそういうことだ。

 

「麻雀でも、同じことだ。山から次にツモる牌。相手の当たり牌。それらのヒントは、卓のどこかに必ず転がっている。自分の牌。捨て牌。相手の牌の並べ方や視線の動き。開示される情報が増えれば増えるほど、局の後半になればなるほど、予測しやすくなる。その予測の仕方を、少し憶えるだけでいい」

 

「あー……って、それでもキツくない?」

 

「難しそうです……」

 

 まあ、難しいな、うん。ただ、インターハイで活躍する選手やプロ、防御に定評がある選手は、それをして、訳の分からない躱し方をしてくる。

 確か大阪の有名選手にもいたはずだが……えーと、ド忘れした。ちょっと面白い顔の、有名プロの娘。ここまで出てくるのに名前が出てこない。こういうことってあるよな。愛宕……愛宕、愛宕選手だ。下の名前忘れた。愛宕プロは憶えてるから出てきただけ。

 まあそれはいいとして、

 

「男子の有名なプロ雀士は、電車に乗って、最初に乗ってくる乗客を当てる特訓をして強くなったらしいぞ。要は、牌には気配なんかがあって、予測だけでなく、勘を鍛えることにも繋がるらしい。シックスセンス……第六感って奴だな」

 

「シックスセンス……カッコいいです」

 

 えっ、なんか由暉子ちゃんがここまでで一番の笑顔を浮かべてるんだが。なに、そういうの好きなの? オカルト系好き? 地元の曰くつきの品とかあげようか? 謎の効能がありそうで怖いけど。人に上げたら呪われそう。

 

「まあ、勘を鍛えるのは置いといても、予測出来るように鍛えることは出来る……ほら、これをやってみろ」

 

「え、なにこれ? クロスワードパズル?」

 

「違う。当たり牌を当てる……まあ、将棋で言う詰将棋か、パズルみたいなものだ」

 

 俺は携帯を開いて、幾つかの問題を見せてやる。それは言った通り、パズルだった。

 

「自分の手牌と河の状況や相手の鳴いた牌なんかの卓の状況を映した問題だ。そこから当たり牌を当てればいい……ま、本当は対局で鍛えた方がいいが、やらないよりはマシだろ。サイトを教えるから暇な時に家でやってみろ」

 

「はー、こういうのもあるんだ。さすがはプロ。色々知ってる」

 

「難しそうです」

 

 うん、まあ……正直遊びみたいなものだが、ほんと、やらないよりはマシだろう。

 特に初心者か、中級者の入り口くらいにいる人にはお勧めだ。まあ対局って良くも悪くも神経使うし、気軽にやりたい時もあるだろう。

 そうやって岩館と本内にそれを教えたのだが、

 

「私はどうすればいいですか?」

 

「……真屋は……そうだな……」

 

 気がついたら、近くに由暉子がいた。小さいから見下ろす形になる。いや……ちょっとあまり近づかないでほしい。この子、胸が大きいから近いと触れそうだし、ちょっとムラムラする。真面目な時にそれをやってしまうと死ぬので今はなんとか平静を保つ。

 

「……まだなんとも言えないけどな。もう少し、打ってみるか」

 

「……なら、お願いします」

 

 うん。言えないな。何か言おうと思ったけど、胸を見てたら頭から飛んだとか。俺ってホント馬鹿。下半身脳。

 しかし由暉子の技量に、俺が何かを言えるのかと言う部分では間違ってない。獅子原もそうだが、俺が偉そうに知った風な口でアドバイス出来る相手ではないからだ。

 獅子原は格上だし、由暉子も、オカルト持ちで、技量も殆ど変わらないと思う。まだ中学生でこれは、将来有望である。考えてると凹む。

 ……つーかオカルトはどうした……。何も変わってねぇよ。変わってたとしても、普通に先生として打ち解けてる程度だし。しかもそれも、普通に接してるからそうなってるだけで、別に獅子原と桧森と大差ない。

 やっぱ三麻じゃないと駄目? だとしても面子が揃ってるのに三麻をやろうとするのは不自然だしな。ロン和了りじゃないと駄目とかなんだろうか……だとしたらまたキツいな……。

 とにかく、試行回数を稼いでみるしかない。時間は有限だしな。

 

 ──しかし結局、その日の対局中、役満を和了ることも、最初みたいなツキもなかった。

 

「──もう一度だ」

 

「よーし、どんどん行くぞー!」

 

「いやいやいや、もうそろそろ下校時間なんだけど……」

 

 夕方になって日が落ちる。日落ちるの早いな。冬だし北の方だしな。しょうがないとはいえ、なんとも口惜しい。

 くそっ、和了らせろ! やくたたずの俺のオカルトが! さっき和了ったのに何も起きねぇとか詐欺かよ! 俺はJK、JCとセックスしたいんだよ! さっきからずっと接しててムラムラが溜まる一方だしよ! 

 なんて心の中で思ったところで、役満は和了れない。テンパることすら出来ない。くそ。さすがに……何局だ? 数十局くらいじゃ無理だってか? 

 最初に一度和了れただけでも奇跡な気がする。とはいえ、それで効果を発揮してないんだから意味がない。ふざけやがって。

 

「熱心ですね」

 

「まー明日も来るならそろそろ終わりでいいんじゃない? お腹空いたし」

 

 由暉子と岩館がそんなことを言う。そこで俺は気づいた。

 

「……確かに、腹が減ったな……」

 

 そういえば昼を食べるの忘れてた。うん、めちゃくちゃ腹が減った。

 もうこれ以上引き伸ばすことは出来ない。もう明日にしようかと諦めに、そして軽く自暴自棄に入った俺は……、

 

「……お前ら、ここらで上手い飯屋とか知らないか?」

 

「レストラン? あー、色々あるけどね。何が食べたいかにもよるかな」

 

「私は肉が食べたい」

 

「爽には聞いてないでしょ」

 

 焼肉か。そういえば、ジンギスカンなんかも北海道だと有名だよな。

 

「……食べるか?」

 

「えっ」

 

 俺はこの場にいる面子に言う。思うところがありつつも、

 

「案内してくれたらおごってやる。車もあるしな。まあ、家でも夕飯があるだろうし、大丈夫ならだが……」

 

 ちょっとした気まぐれ……って訳でもない。元々、そうしようと思っていたのだ。

 金欠の癖に何を見栄張ってんだと思われそうだが、しょうがない。せっかく女子高生に先生と言われて指導してるんだから、ちょっとくらい部活の顧問気分を味わってもいいだろう。

 とはいえ、会ったばかりの奴に着いてくるかは疑問だけどな。幾らプロ雀士とはいえ。とか思ってると、

 

「行く行く! よし待ってろ! 家に連絡する!」

 

「先生、太っ腹じゃん! いやー、是非行かせてもらいますよ」

 

「焼肉、素敵です……!」

 

「え、ええ……少し悪いような……」

 

 獅子原を筆頭に、岩館が続き、本内も行く気の様である。獅子原が残る由暉子に向けて、

 

「ユキは?」

 

「私も大丈夫です。うちは親の帰りがかなり遅いですし……」

 

「それじゃあ辞退するのはチカだけかー」

 

「ちかちゃん、来ないんですか?」

 

「い、行かないとは言ってないでしょ! 待ってて! 親に連絡してくる! ということで先生! よろしくお願いしますっ」

 

「お、おう……」

 

 勢いに狼狽える。まさか5人全員来るとは。

 レンタカー、4人乗りとかにしなくて正解だったな。

 

「近くのホテルに車停めてるが、付いてきて直接乗るか? ここで待っててもいいが……」

 

「近くのホテルって……ああ、あそこか。なら皆で歩いて行くか!」

 

 獅子原がそう言って、部室の暖房などの設備を切っていく。いやほんと、遠慮ないっていうか、凄いな。でもまあ学生なんてこんなもんか。確かに、ご飯奢るって言われたら余裕でついていく。ある程度信用してる相手なら。まあプロ雀士って肩書の効果だな。普通ならこうはいかない気がする。

 もうこうなったら俺もヤケ食いしよう。せっかく北海道まで来たんだ。オカルト云々のことは一瞬忘れよう。

 そうして俺は5人のJK。JCを連れて地元で有名な焼肉屋に向かった。地元の人の案内って間違いないよね。

 

 

 

 

 

「ジン、ジン、てんててー。へいらいだー、ほーらいたー、はんにゃにゃ、はんにゃにゃ……」

 

「……先生。なにその変な歌。先生のテーマソング?」

 

「どこかで聞いたことある……」

 

「別に俺の名前とは関係ない。ネットだとそこそこ有名な海外の歌だ。ちなみに、羊肉は微塵も関係ない。アジアの英雄の歌だ」

 

「なにそれ……」

 

 伝わらない。悲しいことだ。中学生の時、情報の授業中に死ぬほど見ただろ。モス○ワの歌とかマイ○ヒの歌とか。……伝わらないよな、うん。俺も歌詞忘れたから適当に歌った。

 ということでジンギスカンが有名な焼肉屋へ。JK4人、JC1人と。しかも全員美少女。この状況だけ見たら俺って勝ち組だな。うん、社会的立場は死んでるけど。

 とはいえ席に案内してもらって早速ジンギスカンパーリィだ。ジンギスカンくそ美味そう。いや、今どきどこでもやってるかと思いきや、北海道ほど美味い店はないし、北海道に来た時くらいしか食べないからな。というか北海道は食材そのものが美味いから困る。玉ねぎとか甘すぎてびっくりする。じゃがいもとかも美味い。

 

「いぇーい! チカセンの肉もらいー!」

 

「なっ──」

 

「成香、その肉貰っていい?」

 

「だ、駄目です。上げません」

 

「お前ら、少しは落ち着いて食えよ……」

 

 うーん、こういうノリも、昔は俺もやってた気がするが、今となっては懐かしいな……俺は眼の前のジンギスカンを箸で取ろうとして──取られる。は? 

 

「岩館ァ! 俺の肉を取るとはいい度胸だなぁ!?」

 

「いや、つい」

 

「ま、まあまあ、先生。私のお肉をどうぞ」

 

 と、左隣に座っていた成香が肉を取り分けてくれる。優しい。この子、凄く良い子なのでは? 明日はこの子を重点的に見てやろう。そして岩館には厳しくしていいらしい。なのでそうしようと思う。えこひいきではない。

 とはいえ、なんだろうな。微妙にこういう雰囲気も嫌いじゃない俺がいる。若返った気分になれる、うん。俺、やっぱ高校とかのコーチが天職なんじゃないか……? どこか雇ってくれるとことかないかな。プロには戻りたいけど、どうせ戻れないだろうし、こうやってJKと楽しく麻雀を指導する気さくなコーチ。聖職者。そしてたまにオカルトを使ってエロいことをする。性職者。我ながら思考がゲス過ぎる。 

 でも肝心のオカルトがなぁ、と思う。俺は右隣に座る。唯一のJCを見た。

 

「? どうしました?」

 

「いや……美味しいか? 食べたいものがあったら遠慮しなくていいからな?」

 

「はい。大丈夫です、先生。お気遣いなく。ちゃんと味わってますから」

 

 その言葉通り、変わらない表情でもくもくと食べる由暉子。

 その見た目は出会った時の眼鏡と制服に戻っている。……うーん、やっぱり素晴らしいアングルだな。上から見下ろすと体格差とか背丈の差でロリ感がより感じられる上、自然と上目遣い。しかもその巨乳が……しかし、本内も岩館もそうだが、全然惚れられてる気がしねぇ……。

 もし発動しているなら──ん? でもどうなんだ? はやりさんや良子の時はホテルまで誘ってきて露骨に誘われたが……どうにかして二人っきりとかになれば誘ってくれたりするのか? 

 だがそれも微妙なところだな。あの時は今思い返すと、明らかにおかしかったし。

 今はこれ、どう甘く見積もっても普通に慕われてるだけだ。獅子原と岩館は割と気安いし。成香も実は怖がりなのかと思ったが、そういう様子でもない。桧森は普通の学生が大人に接するような感じだし。由暉子に至っては……表情の機微が少ないので全く分からない。この子、凄く可愛いし、俺は構わないけど、アイドルになるならもうちょっと──って、ん? 

 

「? どうした?」

 

 なんか見てるような視線を感じたので右を見てみると、由暉子がこちらを見上げていた。なんだ? と問いかけると、やはり真顔のまま、

 

「……目の下のクマ、凄いですね」

 

「……寝不足なんだ。不眠症気味でな。プロになってからずっとこうで……写真なんかも大体これで写ってる。おかげで格好も相まってやさぐれたホストとか言われるようになってな。凄いだろ」

 

「そうなんですね」

 

「……まあ、知らないか。二軍のプロだしな。ドランカーなんて呼ばれてたりもするんだが……」

 

「ドランカー……」

 

 何かを思うようにそう呟いて、間が空く。何この子、会話難しい。いや、会話が難しい訳じゃないけど、ちょっと笑わせようと言ってみたり、今日一日、他の子達とも合わせて会話を試みたが、基本、表情の機微とかがフラットだ。

 まあ受け答えはしっかりしてるし、特に問題はないし、刺々しい感じもしないから、こういう性格なのだろう。別に嫌な感じはしないのでいいのだが、とか思っていると、

 

「かっこいいですね」

 

「えっ」

 

 何故か俺の異名をかっこいいと言って、ちょっとワクワクしたような笑みを浮かべた。えぇ……難しいこの子。やっぱそういうのが好きなのか? 

 そう思って、俺は話題を振ってみる。

 

「……オカルト系の話とか興味あるか? 超能力とか霊能力とか──」

 

「あります! ──あっ」

 

 ああ、やっぱそういうのが琴線に振れるんだな、と拳を胸の前で握って目を輝かせた由暉子。勢い良く身を乗り出すように反応したため、胸が揺れた。だがそれよりも、

 

「っと──」

 

「あっ、ごめんなさい……!」

 

 その時に手が近くのコップを倒してしまい、ジュースが俺の方に溢れる。

 すると由暉子は目を見開いて、あわあわといった表情で謝った。

 ああ、やっぱ本気でよくいるような無表情系って訳ではなくて、良子みたいな普段はフラットなだけか、とその中学生らしい表情の機微を見ながら、

 

「あーっと、結構溢れたな、ってアイスかよ……まあ、お絞りで拭くか」

 

「ありゃ、ドジした?」

 

 おしぼりを取って机とズボンを拭くことにする。由暉子だけでなく他の皆も、目を向けてくる──が、大したことじゃない。

 

「先生、ごめんなさい……ズボンが濡れて……その、クリーニング代、出します」

 

「いや、いい。ちょっと濡れただけだからな。こんなもん安もんだし、洗濯すればいいだけだ。クリーニングに出すほどじゃない……というか、暖房と火でちょっと暑かったところだし、むしろちょうどいいな。もっと濡らしとくか?」

 

「いやいやいや、濡らしてどーすんのさ」

 

「コップに中途半端に残ったから勿体ないかと思ってな。……まあそれはいいとして──あ、すいません。クリームメロンソーダ、もう一ついいですか? 後、ちょっと零してしまったんで拭くものを何か……」

 

 と、俺は近くに通った店員を呼びつけて、由暉子が零したクリームメロンソーダをもう一杯注文する──が、店員が去っていこうとする途中で由暉子が、

 

「あっ、私は──」

 

「零しちまったんだからもう一つ欲しいだろ。遠慮するな。それとも別のが良いか?」

 

「……でも、少し悪い気が……」

 

「んー……いや、実は俺もクリームメロンソーダが欲しくなってな。無くなったのが残念だから、お前が飽きたら少しくれ。嫌なら別にいいが」

 

「え……? あ、はい。いいですけど……」

 

「焼肉の締めってアイスとか食べたくなるよな。お前らも頼んでいいぞ」

 

「え、マジ?」

 

「冬に暖房が効いた室内でアイス食べると美味いよな!」

 

「えー……どうせなら、こっちの抹茶プリンの方が……」

 

「あ……そういえばここの牛乳、家の牧場のものを使ってます!」

 

「家が牧場なのか。へぇ、凄いな……あっ、すみません。ありがとうございます。あ、いや、自分で拭きます。ズボンにも零してしまったんで。後、追加注文なんですが──」

 

「…………」

 

 俺は下着まで濡れてズボンのひんやり感を感じながら、追加注文をすることにした。ホテルに帰ったら洗濯だな、うん。というか、何気に俺、由暉子に、JCに間接キスの許可を貰ったな。だがまあよくいる変態キャラならそれに大喜びするのがフィクションでのお約束だが、幾ら美少女とはいえ、別に今更間接キスくらいで何とも思わない。間接キスするくらいならキスさせろ。もしくはおっぱい吸わせろ。やだ、俺の心の声、めっちゃアホっぽい……。

 そんな馬鹿なことを考えながら、俺は焼肉店を後にし、皆を車で家まで送り届けてからホテルに戻ると、北海道での一日目を終えた。結局、普通の遠征である。はー、めっちゃヤりたい。オカルトいい加減にしろよゴラァ!! 役満上がったんだからちゃんと発動しやがれ!!




何気に闘牌描写モドキがあるやつ。まあ、ちょっとはね。原作もそうだけど、麻雀知らない人でもどうにか説明出来ないかなぁ、って考えて書いてみた。あんまり上手く説明出来てる気がしないけど。それはそれとして、プロ麻雀カード置いときます。コモンですが。

The drunker
東郷仁
20歳 4月6日生まれ
鹿児島県出身 175cm 61kg
白糸台―甲府―名古屋ドラグーンズ
プロ1年目からタイトル戦で活躍。
しかし、その後は成績不振に。
多様な打ち回しを見せる。

皆の熱い感想、待ってる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。