「あー……そろそろ朝食バイキング行く、か……あー……」
ホテルの部屋って眠れる時と眠れない時があるよね。それ、大体は空調設定失敗してる時。暖房だろうと冷房だろうと、その時は暖かかったり、涼しく感じても、後から妙に寝苦しくて汗かいたりしてうんうんと唸る時がある。今の俺がそれだ。
北海道の朝。二日目の朝。暖房が少し効きすぎたビジネスホテルの一室で、俺は緩く目を覚ました。
今日は4時間は眠れたと思う、うん、俺的には割と眠れた方だといったところだ。
とはいえ、途中で起きたりしてしまったし、眠いことには違いない。だから、ホテルのあの緩い寝間着を殆ど半脱ぎ状態にし、布団を横向きに抱きながらだらだらとしていた。
眠いからこうやって時間を潰してる訳だが、しかしそれだけではない。理由の一つは、この股間のギンギン具合が関係する。
「はぁ、ユキ……」
俺は昨日、出会ったばかりのJCのあだ名を溜息付きで呼ぶ。このシーンだけ見れば恋煩いしてるようにでも見えるだろうか。まあ違うが。要はヤりたくて、ムラムラしてしょうがないのだ。
最後にエッチなことを、プロをクビになって、はやりさんと良子と3Pをしてから一週間程が経っている。それから、一度も抜いてない。風俗は勿論だが、自家発電すらしていない。
俺は酷い時、一日3回は抜く……いや、ちょっとかっこつけた。酷い時なら5、6回は抜いてる。時間がある時、主に休日、家でゴロゴロしてる時限定だけどな。
だがまあ、あまり他人に聞いたことはないが、こんなもんだろう? 男なんて。自家発電を憶えた最初の学生の頃なんて、猿みたいに抜きまくってたはずだ。俺も何回にも分けて最大15回くらいは抜いたことがある。知ってるか? それくらいするともう痛いだけだ。そして何も出てこない。そして翌日、チンコが痛い。
さすがに今はそんなにすることはないが、仕事の日でも必ず一回は自家発電か風俗で抜いていた。ただなんだろうな。はやりさんと良子みたいなとんでもなくエロ可愛い美女と一応身近にいたからか、数回抜いても全然ムラムラしてたから困る。サキュバスの血とか入ってないよな? オカルトがあることを知ってるから、0ではないのが怖いところだ。
まあそれは冗談にしても、俺ははやりさんと良子という極上の女の味を憶えてしまって、なんというか、自分で抜くのが勿体なく感じてしまっていた。いや、その気になれば抜いてもらえるという事実がそこにあると、とにかく気持ちよく射精したいもんなんだ。まさに射精中心の生活。
「あー……ヤりてー……はぁ、ヤりてー……」
うわ言のように欲望を直球で呟きながら、布団を横に抱きしめて、それを妄想上の女の子に見立てて腰を軽くカクカクと揺すってしまう。勃起した肉棒が下着の中でヤラせろ、そこに女がいるのか? と勘違いをしてギンギンになっている。気持ち悪いと思うか? だがそう思った奴、果たして本当に俺を馬鹿に出来るのか? こういうことを一度もしたことがないと言えるのか? 好きな女の子やヤりたい女の子、もしくはAVや二次元絵を見て妄想し、股間を虚しく擦りつけたことがないか? ないなら幾らでも馬鹿にするといいが、まあ、男なんてこんなものだろう。一度性欲に火がつくとどうしようもなくアホになる悲しい生き物。程度の差はあれ、絶対頭の中には性への衝動を飼いこなしている。表向きは格好良く見せているが、家で1人になればこんなこと珍しくもない。誰も見ていないし、誰にも迷惑をかけない範囲でなら幾ら気持ち悪かろうと、欲望を丸出しにした発言をしようと構わない。この現実を女が見れば幻滅するだろうか。だがまあ、どれだけ情けなくキモかろうがこれが現実。大多数の男の真実。歳老いればどうか分からないが、若い時は射精のことばかり考えてる。
そしてこれは逆に、殆どの男が体験したことないだろうが、妄想が現実になった時の快感は想像を絶する、絶大な快楽だ。
家で1人、妄想していた叶うはずのないと思っていた出来事が叶う。はやりさんと良子。男女問わず羨む極上の美女。グラビアでも人気のアイドル雀士。それらと実際にヤッた時の、脳汁と言えばいいのか、それは凄まじかった。
快感も、今までの全てが吹き飛ぶようなもの。異性への性衝動を覚えた思春期のような性欲が復活するほどの衝撃。
あれを何度だって味わいたい。それが出来る力が、オカルトが、俺にはある。──これで動かない奴がいるか? どんなクソニートや社会不適合者でも、男なら外に出て行動を起こすだろう。それだけ性欲のエネルギーは強い。
アホなことをしてるという自覚はあっても止められない。このバイタリティはまるで、何か大きなことを成し遂げようとする起業家や冒険家、研究者のような情熱だ。──やってることは最低だが。
まあ歴史上の偉人なんかも、案外俺みたいにハーレムを作ろうとして頑張ったのではなかろうか。そんな誰にでも言えるようなことを思い、俺は布団から起き上がって頭を冷やそうとシャワーを浴び、ホテルの朝食バイキングへと向かうことにした。何気にホテルの朝食って旅行の楽しみなんだよな……。
──と、ホテルの自室では野望と下心に満ちあふれていたが。
「せんせーって眼のクマ凄いよね。アイシャドウでもつけてるの?」
「アイシャドウでこんなんなるかっ。岩館、昨日の話を聞いてなかったのか?」
「じゃあ炭だ!」
「どこの部族だっ。獅子原、俺は野球選手じゃないからな」
「どうして目の下に炭を塗ることが野球選手になるんですか?」
「ん……ああ、アイブラックって言ってな。見たことないか? 野球選手は光の眩しさを抑えるために目の下に黒いシールみたいなのを貼ることもあってな。今はグリースやステッカーだが、昔は炭を使っていたらしい。元々はアメリカで、アメフトの選手がやってたものだな」
「アメフト、怖いです……」
「ムキムキで凄いよなっ! こう筋肉がぶつかりあう感じが!」
「爽、昔はやんちゃだったもんねー」
「アイブラック……かっこいいです。ちゃんと効果もあるんですね」
「…………つけるなよ?」
有珠山高校麻雀部への指導二日目。俺も含めた6人でメンバーを入れ替えながら麻雀を打つのだが、なんというか、普通に雑談してしまっている。
なんだろうな。昨日よりは親しみを感じるか。昨日一日と焼肉でそれなりに打ち解けた気がする。
「せんせーって実家どこ?」
「鹿児島だ」
「遠いな! こことは逆だ!」
「いや沖縄があるだろ……日本で2番目に南だな」
「鹿児島……黒豚さんが素敵ですっ」
「あとなんだっけ? 火山? 神社? その辺りで生まれ育った?」
「いや、火山では生まれ育たないでしょ……」
「……家は……まあ、鹿児島市内だ。桜島は、同じ市内だし小学校の時に何回か。霧島神宮は霧島市で隣の隣だな。観光するなら、基本的に自然巡りになるから若い奴らが見に来ても面白いかどうかは保障しない。島とか滝とか森とか山とか……」
「海とかは綺麗そうですが、海は駄目なんでしょうか?」
「どこもそうだろうが、観光地で紹介されるような場所は人も多いからな。穴場とかいっても紹介されてる時点で穴場じゃないし、夏休みシーズンの観光はお勧めしない。だがまあ、砂浜とか温泉とか綺麗な場所はあるし、そういう場所なら人が多くても落ち着けるか……どうしても泳ぐっていうなら、まあ、場所はなくはないが……」
「へー……それじゃ、もし行くことになったら先生に案内してもらうか!」
えー……いや、ぶっちゃけ帰省することになるからあまり──いや、待て。そうなると彼女達の水着を見れるんじゃないか?
美少女JKの水着を人のいない浜辺で堪能する。俺だけで独占する。最高なのでは? 実家に帰るのは気乗りしないが、そういうことなら考えなくもない。
特に由暉子の水着とか絶対破壊力高い。やべぇ、超見たい。くっ、どうにかしてこの子らを地元まで連れていけないか……? あっ、そうだ。はやりさんと良子に今度水着を着てエッチして貰おう。なんでそんな最高なことを今まで思いつかなかったのか。グラビアの水着とか着てもらって……あ、まずい。興奮してきた。自重しろ。今は一旦忘れろ。
しかし、まあ、やはり惚れられてる気はしないし、少し雑談しながらなら皆も隙があるだろうからと役満を上がれないか試行錯誤してるが、全然そんな気配はない。獅子原は昨日みたいなヤバい力は使ってないようだが普通に上手いし、俺としてもあまり気は抜けないのだ。
というか……やっぱりあれだな。どれだけホテルで意気込んだところで、実際に会って対局し、普通に慕われた感じで雑談するしかないから何とも言えない。
当たり前だが、下心なんて出せないし、出来ることなんて結局役満が和了れるように麻雀を続けるだけ。だからそれまでは普通に指導し、普通に大人として接するしかないのだ。相変わらず普通にいい匂いはするし、皆可愛くて良い子達だし、このまま普通に指導を終えても普通に楽しい思い出になるのでは? だが……はぁ、どうにか出来ないのか、マジで。全然来ない。普段なら役満が幾ら来なかろうが、そんなもんだろって感じで全く気にならないのだが、今は一局毎に配牌や最初の数巡のツモ牌を見て、あっ無理、ってなる度に凄い残念になる。そんで途中交代したりして、対局してる四人を見たり、残った1人にアドバイスをしたりする。その間は当然役満のチャンスはない。
「岩館、手牌見えてるぞ」
「え……わっ、ほんとだ! やっべー……」
「気をつけろよ。手牌を容易に晒すと当たり前だが不利になる。後、お前全然鳴かないな。もう少し副露してみろ」
「えー、でも高い点数で和了りたいじゃん」
「それで和了れるならいいが、お前は門前するまで粘った挙げ句、他家に振り込む率が高すぎる。粘り強いのもいいが、聴牌が遅いと話にならないし、ちょっとスピード重視の打ち方も試してみないか?」
「あー、うーん……でも、稼ぐ練習した方が団体戦だと有利じゃない?」
「いや、収支が順位に影響する個人戦と違って、団体戦は最終的な点数さえ他のチームにさえ勝っていればいい。なら戦略として、安い手で流しまくってこちらは極力振り込まず、点差をそれほど変動させずに次に回すのも手だ。仮にこのメンバーで団体戦に出るとするなら、大将は獅子原だろ?」
「まぁ、そうだね。一応そんな風に考えてるかな。エースの集まる先鋒に私が出てもいいけど、最初に点数上げて順位を上げると、次から狙われるだろうしね。でも私だけで勝てるほど甘くはないだろうから私も含めて、もっと練習しないとね」
獅子原がフラットな笑みのまま言う。結構やんちゃでノリ重視っぽい奴だが、麻雀のことになると部の中で一番見立てが的確だ。実力も一番で、実は頭の中はかなり冷静に見ているのだと思う。このチームは由暉子を目立たせることを目標に置いているが、柱は実力的にも精神的にも獅子原だろう。絶対的エースにして、分析も出来る指揮官としても有能な若きホープ。しかも強力なオカルト持ち。……なんでこんなのが埋もれてるんだ? インターハイ常連校でもエースになれる逸材だぞ?
まあそこは獅子原の自由だし、友人との縁を重視したのだろうから特に俺が何か言うことはないが、それでも獅子原がいるのといないのとじゃ相当でかい。
が、獅子原一人に頼りすぎるのは負担が大きすぎるし、いざ獅子原が成績を残せなかった時が厳しい。由暉子も中3にして既に全国を期待出来るレベルの打ち手。桧森だって悪くない。聞けば小学生の大会ではベスト8に入れるくらいには麻雀をきちんと続けてるらしいし。正直、この三人だけでも地方予選で結構いいところまでいけるだろう。有珠山高校が出場することになる南北海道予選には琴似栄というインターハイ常連校があるが、途中で当たりさえしなければベスト4は余裕だと思う。琴似栄を倒せるかどうか。それとインターハイで結果を出して目立てるかどうか。彼女達にとって重要な課題はそれだ。
それには、岩館と本内の成長が、ともすれば一番重要かもしれない。本内はこのまま初心者に毛が生えたレベルで参加するのはさすがに厳しいし、岩館も全国レベルの相手と張り合うには、やや力不足だ。まあそれでも獅子原達なら予選を突破していいところまで行く可能性はあるが、それでも彼女達が成長すればそれだけ獅子原や由暉子が楽を出来ることに違いはない。
……なーんて、偉そうにクビになった雑魚プロの分際で分析してみたが、何言ってるんだろうな。実業団やプロで実績を残した打ち手ならともかく、俺なんかが言っても全く説得力がない。俺の判断なんかより、獅子原や、己自身で判断させた方が正しいだろうし、後悔もしないだろう。
だが俺は指導してほしいと呼ばれた身だ。だから俺はフォローというか補足をしながら、その間を取ることにする。
「……まあ、こうは言ったが、高い手を狙っていくスタイルで成長することもあるし、岩館がそれを好むならその方が合ってる可能性もある。どちらがいいかは岩館が選んでくれ。俺はどちらでも成長出来るようにアドバイスさせて貰う」
と、さっきあんなこと言っておいて、いきなり掌返し。どっちでもいいよ、と。やっぱ俺向いてないんじゃないか? 普通は正しい判断だと思ったらそうするように言った方が良い筈だ。指導者ってのは決断力なんかも重要だからな。じゃないとオーダーを決める際や、選手のどの部分を育てるかで迷いすぎるのもどうかと思う。選手の自主性に任せると言えば聞こえはいいが、俺の場合は自分の判断を信用しきれず、ただ優柔不断で責任を半ば放棄しているようなものだ。
実際どうなんだろうな、と自嘲していると、岩館は少し考え込んでいたが、
「……うん、じゃあちょっとやってみる。せんせーや爽の言う通り、成長の可能性を探った方がいいからね!」
「そうそう、その意気だ! ユキのために頑張ろう!」
「よっしゃー、鳴きまくるぞ! 単騎待ちで和了りまくる!」
「いや、極端過ぎでしょ……」
ほんとだよ。桧森の言う通り、単騎待ちまでする必要はない。そこまですると上がり牌が狭まるからむしろ上がりにくい。
とまあ俺が呆れていると、後ろから袖を引っ張られる。
「あの……先生。私にも、何かもっと出来ることはありませんかっ」
対局から外れていた本内だった。この子も、高1にしては小さいよな。なんだか小動物チックな可愛さがある。それでも、由暉子よりは大きいが。大きくて小さい。由暉子は、小さくて大きい。比べるとか最低過ぎて苦笑。なにわろてんねん!
「……本内は、まずはセオリーを覚えないとな」
「……そうですよね」
初心者以上、中級者未満といった本内に、正直言えることはあまりないというか、普通のことしか言えないのだが、そうやって露骨にしゅんとされると罪悪感が凄い。美少女ってこういうとこズルいと思います! 俺は何も悪いことしてないのに、悪い感じになる! いや、食ってやろうと考えてるクズだけど、まだ未遂だからまだクズじゃない! 多分。
「……まぁ、それを覚えたら応用を憶えるといい。麻雀は牌効率通りに打っても良い結果が出るとは限らないからな。本内は物覚えも早いし、それに初心者ってことは伸びしろの限界がこの中で一番見えないってことでもある。努力を続ければ、ひょっとしたらこの中で一番強くなれるかもしれないぞ?」
「先生……」
「そうだぞ成香! 私なんて追い越せ! でも身長は追い越すな!」
「身長は駄目なの……? まあ、なるかは昔からがんばり屋だし、きっと強くなるわ!」
幼馴染とかなんだろうか、獅子原に続いて、桧森がそう元気づける。
すると本内は頷き、
「爽さん、ちかちゃん……はいっ! 私、強く素敵になれるよう頑張りますっ!」
は? 可愛いんだが? あざといんだが? というか眩しい。なんだこいつら。どいつもこいつも良い子かよ。学生時代にこんなやり取りしたことねぇよ。俺、微妙に嫌われてたっぽいし。友人も浅い関係の変な奴しかいなかったし、麻雀部は男子も女子もそれほど仲の良い奴はいない。補欠だった後輩の女子とかちょっと交友もあったが、周囲のやっかみがうざかったんで結局俺の方から離れた。まあ、今でもたまに連絡してくれたりもするが……プロになってからは本当に連絡を返すくらいか。今はそういうのもないし、麻雀打って役満上がれば……うーん、いい話っぽい雰囲気の中でこの思考。これはクズですわ。
「……少し、退席します」
とか考えていると、対局を終えた由暉子が席を立った。間髪入れず獅子原が、
「トイレか──」
「そこまで!」
由暉子がぴしゃりと獅子原の発言を遮る。えぇ……さすがにそれはねぇよ獅子原。幾ら俺でもないわ。由暉子みたいなタイプが退席するって言った時点で何となく察する。その当たりの機微は気をつけないといけない。はやりさんも直接的な言葉を使わないタイプなので慣れた。それに、俺は性欲は強いが、そういう趣味はないので例え美少女がお花を摘みに行ったところで何とも思わない。いや……まあネットとかでさ、よく美少女がトイレに行くってなると立ち上がる奴とかいるけど、まあ笑うけど、ネタだろ? もしくは二次元限定だろ? リアルで考えろ。普通に無しだ。少なくとも俺は。本当にそういう趣味の奴は知らん。ただ、リアルでそういうことさせてくれる彼女とかいんのか? と思う。特殊な性癖持ってる奴って大変そうだなって……。
その点俺は女の子の肉体そのものに興奮するだけの至ってノーマルだから問題ない。おっぱい星人だってくらい。どうでもいいが、おっぱい星人って実はもう死語らしい。問題はないが、AVとかエロ漫画とか官能小説とか漁ってると微妙に困る。いや、ああいうので、エロいと評価されてる奴ってさ、ちょっとマニアックなのが多いんだよな……レイプしたり、ハードなSMだったり、寝取り寝取られ……輪姦したり、軽くスカ入ってたり……何故か陵辱系が多い気がする。こう、女優やキャラは可愛いのに、プレイの内容はこちらの好みを外してくるのだ。まあ需要があるからしょうがない。性癖の違いは人それぞれ。それぞれが好きなものを楽しみ、他のジャンルには干渉せず、寛容すればいいのだ。──が、それでも言いたい。もうちょっと純愛ハーレム増えろ。それが巨乳モノならなお良し。複数の男とか、寝取りとか、個人的にはちょっと分からん……忌避感を感じる訳ではないが……うん、これ以上はやめよう。個人的なこととはいえ、この思考をその趣向の人にもし見られたら怒られそうだ。皆違って皆良い。エロに貴賤はない。皆でエロ界隈を、それぞれのジャンルを盛り上げて行こうじゃないか。
とかなんとか考えてたら、俺までトイレに行きたくなってきたな……このタイミングで行くと由暉子を追いかけてるみたいでアレだし、少しタイミングをずらすか。
と、俺は由暉子が部屋を出て少しした後で、トイレの場所を聞いて部室を出た。
「はぁ……寒」
やっぱり北海道の冬は冷えるな、とトイレから出て思う。南の人間だから寒さには強くない。外は雪が降っている。雪も北海道や東北、北陸に住む人には見慣れたものかもしれないが、俺にとっては珍しい。昨日、何気に転けそうになって怖かった。車の運転もスリップしないように普段より注意してる。やっぱり、試される大地だな……。
寒いし、暖房ぬくぬくの部室にさっさと戻ろうと廊下を歩いていると、
「あ……?」
一階の窓の外、校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下から少し外れたところにあるベンチに、由暉子が座っていた。何やってるんだ? 絶対寒いだろ。北海道の人間とはいえ、態々外のベンチに腰掛けるとか……。
というかトイレに行ったと思っていたが、まだ戻ってない? もしくはそもそも行ってない? 分からん。分からんが……どうするか、これ。
「……うーん」
俺は迷う。外寒そう。迷った末に、俺は廊下の奥の扉を開けて、由暉子の元に歩いていった。
「何してるんだ?」
「あ……先生」
俺が声を掛けると、由暉子は相変わらずのつぶらな瞳で俺を見上げてきた。
由暉子の格好は昨日と似たようで少し違う。中学の制服。眼鏡は同じだが、髪を下ろしている。うーん、やっぱ可愛い。小さい。なのに胸は大きい。ビジュアル力高すぎる。
「外、冷えないのか?」
「はい、冷えます」
「……なら部室に戻らないのか?」
「……少し考え事をしていて」
「……そうか」
一応、なんで外にいるのかと会話をして聞き出すことに成功したが、そう言われると何とも言えないな。考え事か。
もしかして、俺が由暉子のおっぱいに注目してることがバレたか? 俺の煩悩に塗れた視線が。いや、でも俺は普段は割と気づかれてない自信がある……と思う。はやりさんもそう言ってたし。もしかしてリップサービスで、実は気づいてたりするのかな……。
それはともかくだ。マジでどうしよう。ちょっと、この機会にオカルトが発動してるかどうか確認……する方法なんてないが、どうだろうな。少し様子を見てみるか。
「よいしょっと……はぁ、結構積もるもんだな」
「…………」
俺はベンチの上の雪を手で払う。学校の敷地内の降雪量はこれ、どんなもんだ。数センチ? いや、よく見ればなんか雪かきされたっぽい形跡があるし、学校が休みでも事務員とか業者がやってたりするのか? 雪かき事情はよう分からん。大変そうだな、としか。
とはいえ俺はベンチの上に座って、特に話しかけることもなく由暉子の様子を窺うことにする……が、よく考えたらこの行動がすでに怪しいというかキモいのでは? 黙って隣に座る出会って二日の男。多少なりとも打ち解けてなかったら通報だな。
だが由暉子は動かない──あ、いや動いてる、か。動いたけど、止まってる。こちらを見た。不思議そうにしてるのか? なんでいきなり隣に座ったの? キモくない? みたいな。由暉子ちゃんはそんなこと言わないし思わないと思います。
とか思っていると、再び由暉子が正面を向く。何か喋ってほしい。勝手に座っておいてなんだが、やっぱ寒い。手袋とか買っとけば良かったな……北海道の冬を舐めてた。手の冷えって致命的だわ。
「……少し聞いて貰ってもいいですか?」
「んっ……ああ、いいぞ。何か相談か?」
と思ってたら由暉子の方から来た。告白とかだったらいいな。まあ違うな、この雰囲気は。
「私、先輩方が期待するようなアイドルになれるでしょうか?」
「……それは俺には何とも言えないが……自信がないのか?」
「どうでしょう……ただ、瑞原プロの記事や動画を見ました」
あー、俺もよく見る見る。どういうとこが良かった? ライブとかであのおっぱいがたゆんたゆん揺れてたり、最高だよな──なんて言ったら一瞬で評価が地に落ちるな。どう考えても同じ目的では見ていない。真面目な話だろう。俺は一応頷いて、
「……それで?」
「すごかったです。キラキラして、笑顔でステージを駆け回って、麻雀も強い」
「まー、はやりさんはプロ雀士の中でも上位数%の実力者、トッププロで、しかもアイドルだからな。そりゃすごい」
俺なんかとは比べ物にならん。だからそれを言われても俺も、あの人凄いよ、としか言えない訳だが。
「……正直、想像が尽きません。先輩方の期待に応えて、努力する気ではいますが……壁は高いですし、なんと言いますか、もしそれに応えられなかったらと思うと……」
「……ああ……」
なるほどな。由暉子がいつもの表情のまま──いや、僅かに下を向いて表情を落としたところで気づく。
それは俺でも分かる。俺も経験したことがあるものだからだ。それを告げてやる。
「まぁ……期待されて、それに応えられなかった時のことを想像すると怖いよなぁ」
「…………」
由暉子が無言のまま、僅かにスカートを手で握った。まあ無理もない。
この子はしっかりしている。たった二日だが、正直、俺なんかよりしっかりした考えを持ってるかもしれない。最近の子供って思考が大人びてるよな。俺なんかガキ丸出しだったってのに。
しかししっかりしていても、まだ15歳の子供だ。
大きな期待を寄せられ、プレッシャーを感じてしまい、失敗した時のことを考えて怯える。それを乗り越えられるかは周りの助けや、もしくは精神力が必要だよな。慣れれば、プレッシャーに怯えることもなくなる。周囲の期待も小さくなるし、そもそも失敗することに慣れてしまえばいい。それで解決する。
だが……まあ、由暉子のことをそれほどまだ知らないが、彼女にとって、初めての大きな挑戦なのではないだろうか。
いじめられっ子だと言っていたし、先輩である獅子原達との絆を大切にしようとしている。その期待に応え、努力し、挑戦しようとしている。
インターハイで活躍し、アイドルになるという目標。とてつもなくデカい挑戦だ。成功すればその喜びは無二の輝きとなるだろうが、その反面、挫折し、失敗した時のリスクも高い──なんて考えるだろう。
ひょっとしたら、失敗することでその繋がりが消えるとでも考えているのかもしれない。そんな訳ないと思うけどな。
しかし俺が言ったところで心には響かなそうだな。俺にはずっと一緒にいたいと思えるような仲の良い友達なんていない。挑戦することも、中学の半ば、高校に入る頃には諦めた。多少それまでの蓄積分と多少器用だったからそれなりに成績を出してプロにもなった。
もう熱くなれるようなことは何も残ってない。まあ性欲くらいか? だがこんなもん、人に誇れるものじゃない。道徳的には最低なものだ。
「先生……私は、アイドルに向いてるんでしょうか? 本当に、なれるんでしょうか……?」
だからそんなことを言われても俺には分からない。アイドルじゃねぇし。アイドルになったこともなければ目指したこともない。人気者とは程遠い男だ。可愛いとは思うが、それとアイドルになれるかは別問題だ。そう言ってやってもいいが、正直気休めにしかならんな。
だから俺はこう答えるしかない。
「……悪いな。俺には分からん」
「……そう、ですか……」
由暉子が残念そうな顔をする。
が、俺は一言添えてポケットから携帯を取り出した。
「──
「え?」
由暉子が間の抜けた声でこちらを見る。その間に俺は携帯を操作し、お目当ての連絡先にコール。
出るかどうかは分からないが──少しして繋がる。運は良いみたいだな。俺じゃなくて由暉子は。
『……と、東郷くん!? どうしたの? 今北海道だよね?』
「すいませんはやりさん。今大丈夫ですか?」
「えっ……!?」
由暉子が驚いた表情を浮かべるがそっちに反応している場合ではない。俺ははやりさんが慌てた様子であることに不安を感じながら返事を待つ。仕事中だったかな、やっぱ。
『う、うん……少しなら大丈夫だけど、どうしたの?』
が、どうやら大丈夫だったようだ。俺は事情を話すことにする。
「実は、こっちで牌のお姉さんを目指してる中学生の子と会ったんですが……ちょっとその子の話を聞いてもらえませんか?」
『はやっ!? えっ、私、まだ引退しないよ!?』
誰も引退しろなんて言ってないから落ち着いてほしい。はやりさんはまだまだイケる。キツいとか言ってる奴は分かってない。これがいいんだよこれが。というかはやりさん、一人称が私になってる。よっぽど焦ったのだろうか。
「いや……なんて言うんですかね……ちょっと悩んでるみたいなんで……それに牌のお姉さんじゃなくてアイドルでもいいらしいので、はやりさんは心配しなくてもいいと思います」
『ほっ、そうなんだ。うん、それならいいよ。ちょっと顔も見てみたいから画面切り替えていい?』
「はい。それじゃあ切り替えて代わります」
「え、あ、あの……」
と、俺は画面をテレビ通話に切り替えて、戸惑う由暉子に手渡す。ここからは俺の関与は必要ない。
『もしもし──わっ、可愛い! あなたがアイドルになりたいって子?』
「は、はい……えっと、真屋由暉子と言います。本物の、瑞原プロ……ですよね?」
『そうだよっ☆ はやりんって呼んでほしいなっ☆』
アイドルモードのはやりさんが画面の中で笑顔でウィンクする。はぁ、久し振りに見ると可愛いし堪らん。ちょっと、どうにもならなかったら後でホテルで変則的なプレイでもお願いしようかな。いかん、ちょっとゲスな思考はやめておこう。なんか大事な話になりそうだし。
『それで、悩みって何かな?』
「……はい。私、学校の……これから入る学校の先輩方にアイドルになれるって期待されて、来年のインターハイで活躍するために練習してるんですけど……」
『うん』
「私には、取り柄とか何もなくて……今まで、人からの雑用とか、頼まれごとだけをこなして自分の価値を感じていたんです」
『うん』
「そんな時に先輩方が私を誘ってくれて……アイドルになれば、誰かを喜ばせることが出来るって言われて……そうやって言ってくれた先輩方の期待にも応えたくて……」
『うん』
「でも私、身長は低すぎるし、胸は大きいし、あまりアイドルに向いてないんじゃないかって……」
『うん。それで?』
「……もし、アイドルになれなかったら……先輩方の期待を裏切ってしまったら……どうなるんだろうって、考えてしまって……」
そう告げる由暉子の表情はいつもより少し不安そうだった。はやりさんはそれに相槌を打ちながら優しい笑顔で聞き続ける。
そして続けて言った。由暉子が、
「だから、教えてください。私、アイドルに向いてるんでしょうか? ……それとも、やっぱり、私みたいな子じゃ……」
と、由暉子はそこで俯く。その表情は少し物悲しさがあった。
だがそんな由暉子にはやりさんは画面の中から、
『……由暉子ちゃん、でいいかな。こっち見て』
「え……?」
画面の中のはやりさんが由暉子を呼ぶ。そしてアイドル衣装のはやりさんは、その右手を顔の横まで持っていく。
その手に握られているのは、麻雀牌の白だ。真っ白の、何も描かれていない牌。そのことにおそらく由暉子も気づいている。
そうして言った。はやりさんはその白を一瞬で、
『──元気になって!!』
「っ、わ、白が中に……! 凄いです……! 手品ですか……!?」
由暉子が言うように、はやりさんが白を中にする手品を披露する──が、由暉子、少し目を輝かせすぎだろ。元気になるのはいいんだが、変わりようが……。
「……あっ、す、すみません……取り乱しました」
そのことに由暉子も気づいたのか、少し恥ずかしそうに謝罪する、が、はやりさんはそれを見て嬉しそうな笑顔で、
『ふふっ、元気になってよかった。……それと、そうだね。由暉子ちゃんは、誰かを、その先輩達を喜ばせたいんだよね?』
「はい……それが……?」
はやりさんは言った。それなら、と、
「──人を喜ばせようとするってことは、由暉子ちゃんにもアイドルの素質があるのかも」
「────」
はやりさんのその……どこか実感の籠もった言葉を聞いて、由暉子は一瞬、呆然と目を見開いた。
そして少しして、その言葉を噛み締める。表情を普段のものに戻して、
「……私、瑞原プロほど媚びれないですけど大丈夫なんですか?」
『はやっ!? だ、大丈夫だよ☆ はやりも、昔は……うん、由暉子ちゃんも、そのうち笑顔で、皆を喜ばせることが出来るよっ』
「そうなんですか……」
『そうそう! それにさっき言ってたことだけど、はやりだって身長はそんなに高い方じゃないし、胸だっておっきいよ!』
「……なるほど、確かに。需要があるんですね」
うん、それには俺も頷ける。需要はすっごいある。主に俺。俺みたいな奴にぶっ刺さる。まあ後、女性もなんだかんだで可愛い子が好きだし、全然イケる。
『そこの東郷くんだって、おっぱい大きい方が好きなんだし!』
「……そうなんですか?」
「…………えっ」
おおいっ!? なんで言うんだはやりさん!? バレたら引かれる、もとい、色々と台無しじゃないか! せっかくここまで隠してきたってのに!
まさかのはやりさんからの口撃に怯む俺。なんて答えればいいんだ。ここで嫌っていうと、それはそれで由暉子の励ましにならないっていう……い、いやまあ、普通に、ナチュラルに答えればいい。いやらしい感じがなければ普通に聞こえるだろ。
「……ま、まぁ、そう、だな……大きいのが好き、だな……うん」
「……そうですか」
『うんうん! だから大丈夫☆ 後は……笑顔かな。アイドルになる秘訣は!』
「笑顔……」
由暉子が呟く。うん、笑顔ではないが、普段の調子が戻ったようだ。
「……ありがとうございます、瑞原プロ。おかげで、少し迷いが晴れました」
『うん! それなら良かった! 頑張ってね☆』
「はい」
よし、これで一件落着だな!
我ながらいい仕事をしたと思う。まあ俺が同じこと言ったところで説得力皆無だからな。
アイドルの悩みはアイドルに。アイドルといえば瑞原はやり。目指すアイドルそのものの言葉は、おそらく由暉子にちゃんと届いたことだろう。
まあ、ほんと、俺なんかには眩しすぎる。なんかゲスい思考をする気にもならないし、携帯預けてちょっと飲み物でも買ってこようかな。ホットの飲み物。ぶっちゃけ、実はさっきから寒すぎて震えてるんです!
と思ってその場から離れようと思い、気づく。そして気づいた瞬間に、背後から声も掛けられる。
『あ、それじゃあ東郷くんに代わってくれる? 通話に切り替えてから』
「あ、はい。先生、お返しします」
「ん、ああ……」
もういいのか、と思ったが返された携帯を思わず受け取ってしまう。そして通話モードに戻った携帯に耳を押し当てる。すると、
『……えへへ、東郷くん。優しいね』
「え? あ、いや……別に……俺はまあ、ちょっと……まあ、一応指導してる身として、それっぽいことしてみただけ、みたいな……?」
急にそんなことを言われて面食らう。いや、下心満載で近づいて、他力本願で電話で仲介しただけの俺だ。ぶっちゃけ褒められても困る。目的は未だゲスいままだ。
だがはやりさんは優しげな声色で、
『由暉子ちゃんのことも、ちゃんと見てあげてね?』
「あ、はい。それはまぁ……とはいえ、俺が出来ることなんてたかが知れてると思いますが」
『えー、そんなことないと思うけどなー。ふふ、そろそろお仕事だから切るね? また連絡するから』
「あ、はい。それじゃあまた」
と、俺は別れの言葉を言う。通話が終わるというその瞬間、
『……そういうところ、大好きだよ──ちゅっ♡』
「っ──へっ? ……え、あ、は、はやりさん!?」
耳にその柔らかさを伝えるようなリップ音が届き、俺は一瞬背筋を震わせ、戸惑ってしまいはやりさんの名を通話口に呼ぶ。
だが耳からは何も聞こえない。既に通話は切られていた。
「…………」
俺は切れた携帯の画面を見ながら、思う。
くっっっっっっっっそ可愛いんだが!? は!? は!? 何今の!? やばくね? 何ちょっと恥ずかしがって電話ぶつ切りしてんの!? 恥ずかしがるくらいならやんなきゃいいのによぉ! でもそれなのにやってしまうくらい俺に惚れて──ぐううううう! くそ、距離が恨めしい! 目の前にいたら分からせてやるのによぉ! この昂りを!
いかん。落ち着け……こんなところで興奮する訳にはいかない。マイサン、今はお前の出番じゃない。座ってろ。気持ちは分かるが、ここで立ち上がっても何も出来やしないんだ。悲しいことにな。
くそ……気分的には最高だが、性欲は滾る一方だ。オカルトも全く発動しねぇし……だが効果が絶大であることは改めて理解した。以前までのはやりさんなら俺にあんなことしないだろうしな。
だが肝心の昨日のニ回目は不発。やっぱ訳分からん。なんだ? やっぱり役満だけじゃない条件でもあんのか? それとも──、
「あの……先生」
「ん……ああ、そろそろ戻るか。お前も、悩みは解消しただろ。それに──」
「はい──見えてますね」
由暉子に声を掛けられ、そして一緒になって校舎の方を見る。そこには、
「あ、目があっちゃった……」
「ど、どうしましょう……?」
「いや、ほら、私らもトイレに行こうと……ね、爽?」
「そうそう、それも大──」
「──そこまで!!」
由暉子がここから校舎の扉の影に隠れる面々に大声で注意する……うん、どっちにツッコむべきかな。爽の発言か、由暉子の大声ツッコミか……まあ、どっちでもいいか。
「戻るか……」
「そうですね……あの」
「? まだ何かあるのか?」
正直寒い。手がかじかむ。頭に雪も積もってきた気がする。しかしだからといって無視する訳にはいかないので立ち止まると、
「……先生。ありがとうございました」
腰を折ってお礼を告げてきた。胸が……いや、というか、
「……俺は仲介しただけだからな。ま、悩みが解決してよかったな。獅子原達もあの様子だと、失敗したところで縁が切れることはないだろ。お前の弱いところも見てたみたいだし」
「……はい、そうですね」
そう言って、由暉子は笑みを浮かべた。うお、可愛い。なるほど。普段の表情も可愛いが、中々に笑顔の破壊力も高い。はやりさんの見立ては間違ってないな。
「……先生も、ちゃんと見てくれますか?」
「ん……俺は……まあどうだろうな。明後日には帰るし、いつふらっとプロじゃなくなるかも分からない二軍プロの俺だし、保障は難しいか」
「…………そうですよね」
由暉子も頷いた。まあ、実際、実はもうプロをクビになってるし……また会える保障もないしな。俺に惚れたりするなら分からないが、今のところは出来てないし、仮に由暉子がプロやアイドルになる頃には、俺は麻雀界隈からは消えてるだろ。まあ、細々とコーチとかやれてたりすればいいんだが……。
ぶっちゃけ、この子、可愛すぎて家に持って帰りたいくらいではあるんだが……それが叶いそうにないのが虚しい。くそっ、ほんとオカルト頼むぜ……。
心の中で自分のオカルトに対する愚痴を呟きながら、俺は由暉子と共に部室へと戻った。
──だが、その機会が訪れたのはその直後だった。
「うーん、こっちかなぁー? それともこっちかー?」
「揺杏ちゃん、あんまり口に出してると当たっちゃいますよ……?」
「早く捨ててください」
「まぁまぁ、いいけどね。身内との対局なら公式試合みたいに厳格にする必要ないし、少しくらい待っても。──ねえ、東郷先生?」
「ん……まあ、そうだな」
と、対局者である揺杏、由暉子、爽──その爽の声に頷きながらも、俺の意識は手牌にしかない。何故なら、
……来た……ッ! 大三元聴牌……!
上がり牌は白。白をツモるか、誰かからの振り込みを待つのみ。
やっとだ。役満だ役満! なんだろうなこの高揚感。昔のポ○モンで孵化厳選が終了する時のそれみたいな。最近のは簡単になってるんだよね。お手軽でいいけど。
だがここでツモれば……あるいは誰かが振り込めば、今度こそ誰かが俺に惚れる可能性がある。岩館か、獅子原か、由暉子か。頼む! 今度こそは! 俺に役満を! さっきのはやりさんのあれもあって、そろそろ限界なんだ!
そんな最低な願いを込めて、俺は心臓をバクバクさせながらその時を待つ。後ろで桧森が俺の手牌を見てたが、頼むから表情に出して悟られるなよ。もうチャンスは来ないかもしれないんだからな。
そうして、上家の爽が……捨てる。一筒。違う。俺がツモる。北じゃない。下家の揺杏が……迷った末に捨てたのは…………六索。違う!
後、二巡でこの局も終わる。流局はやめろ。せめてツモるかだれか振り込んでくれ! 頼む!
俺は願った。そして次は対面の由暉子の番だ。
「…………」
由暉子が山から牌をツモった。由暉子は立直済み。ツモ切りしか選択肢はない。
一瞬、その牌を見て動きを止めた由暉子だが、それを河へと捨てた牌は────
「っ……、ロン! ──大三元ッ! 32000点!!」
「!」
──白だった。
その瞬間、由暉子は昨日と同じ様に、一瞬驚いたように目を見開く。
だがそれは他の皆も同じだ。どうなるのか。また不発か? まだわからない。
「まーた大三元!? 最下位じゃん!」
「……東郷先生って、実は大三元を和了れる特殊能力とか持ってる? イカサマ?」
「そんな能力持ってたら最強だろ……イカサマでもない」
「東郷先生がまた役満……素敵です!」
「二日で役満二回って……」
俺が一位だった爽をまくり、対局が終わる。というか、何気に爽に勝てたのもヤバいな。役満上がったんだからまあそういうことになる可能性も高いが。初めて勝ったってのが情けない。この魔物め。
何気に皆が俺のことを時折、東郷先生と呼ぶようになったのは……なんだろうな。さっきのやり取りを見てたからなんだろうか。まあ悪い気はしないので特に何かを言うことはない。
それよりも……由暉子の様子はどうだ? 俺は彼女を見てみるが、
「……大三元……何度も出ていいものじゃないですね」
「ねー、ズルいよねー? 罰としてせんせー、今日もご飯奢ってよ」
「岩館……別にズルくないだろ。後、別にご飯に連れていくのはいいが、二日連続とかいいのか?」
「へーきへーき! 合宿みたいなもんで、皆と食べるって言ってあるし!」
「先生は何か食べたいものとかありますか……?」
「昨日はお肉だったし、私は魚が食べたい」
「爽には聞いてないでしょ……あ、もし行くなら連絡するから、少し待っててください」
……いやいいけどさぁ……うん、ちょっと由暉子の様子が全然変わってる気がしないんだけど? は? また不発か? 二回も和了ったのに? 直撃させたのに? はー、このオカルト、ほんまつっかえ。
もう今日もヤケ食いするしかない。なんだ、今日は海鮮か? え、カニ? カニ鍋? カニだけじゃない? 元有名板前のおっちゃんがやってる海鮮料理専門のお店? いや……そんなの絶対美味いやん……でも、6人分も奢らなきゃならないの? そんなの無理────行けらぁ!! しょうがねぇから行ってやんよぉ!
俺はヤケクソ気味に、今日もまた全員を連れて飯を食べに行くことにした……これ、獅子原からの15000円とか余裕で飯で使い切るどころかマイナスになるな……もうヤケクソ気味というか、性欲を満たせないならせめて食欲くらいは……って気持ちだから別にいいけど。
「──この魚屋は世界一美味い。魚、刺し身、食べろ」
「あ、今度はなんか聞いたことある!」
「私も、聞いたことがあります……! お父さんが歌ってたような……?」
「私は分かるわ! 昔の有名なアイドルソングよね!」
「よく分かったな桧森。正解だ」
「まあ、ここは魚屋じゃないけどね。魚あるけど」
獅子原にそうツッコまれる。が、別にそれはいいだろう。北海道の海鮮! 一番の目玉と言っていい。個人的に北海道に来たら、海鮮とラーメン、ジンギスカンは欠かせない。ということは明日はラーメンかな? まあ、ラーメンならそこまで出費は……というか、明日も行く気でやんの。俺ってほんとチョロい。JK、JCと楽しく飯が食えるってだけなのに……まあキャバクラよりはマシか。それに、キャバクラなんか目じゃないほどのぴちぴちの美少女達。海鮮もピチピチだけどうちの教え子達も負けてないだろ? 勝手に自分の教え子にするとかやべー奴だな、俺。とりあえず、席に着くか……。
と、俺は通された席の真ん中に、適当に腰掛けたのだが、
「お隣、失礼します」
「ん、ああ……」
すっと昨日と同じく俺の右隣に由暉子が座ったのだが……ん? いや、別に普通か。一瞬、俺の隣に座りたい──つまり、俺に惚れてるのではないかという図式を完成させようかと思ったが、そんくらいで惚れてるって判断するのは幾らなんでも童貞すぎる。特に含むところはないだろう。
──だが、
「先生、歳は幾つですか?」
「二十歳だ。四月に21歳になるな」
「それにしては目のクマが……」
「放っとけ」
「…………」
なんというか、
「先生、これ美味しいです」
「ああ、美味いな。近場にあったら通いたいくらいだ」
「……そうですね」
微妙に、違和感を感じる。
「はー、食った食った」
「ごちそうさまでしたー」
「お魚も素敵でした……!」
「美味かったな。ほら、それじゃあ車乗れ。送ってくから」
「はい。よろしくお願いします」
「あ、ユキ助手席?」
「はい。今日は雪が降ってますから、道案内役が必要かと」
「ああ、確かに。雪の夜道はねー」
「ユキだけに雪!」
「その駄洒落は素敵じゃありません……」
……俺は案内してもらった海鮮料理屋での食事を終えて、車で皆を家まで送り届けていくのだが……うん、もしかするともしかしてか? いや、そういう感じはしないが……。
「それじゃあユキちゃんに先生! また明日です!」
「はい、また明日ですね」
「ああ、また明日な」
と、由暉子の案内通り、皆を順番に送り届けていくと、最後に由暉子だけが助手席に残った。
「ええっと、こっちだったか?」
「はい。その先を真っ直ぐ。200メートル先の信号で右方向ですね」
なんかカーナビみたいな説明をされるが、由暉子のカーナビか。売れそう。はやりさんとかの音声収録したら普通に売れるのでは?
そう思いながらも、俺は雪が降る夜道を車で走っていく。
先程までは3人以上で賑やかだったが、そこまでお喋りという訳ではない由暉子との二人きりの車内は静かだった。
その横顔を見るが、表情は変わらない……うん、やっぱり全然落ちてる感じしないな。今思えばだが、はやりさんなんかは分かりやすかったし。なんか熱いとか言ってたもんな。
今日もユキぱいはゲット出来ず。誰もゲット出来ず。ムラムラを解消出来ない。あー、もう、ぶっちゃけそろそろ限界だ。諦めて自家発電でもするか? いやでも明日もあるし、そもそもホテルで自家発電か……うーんなんとも言えない。
「っと、着いたか」
「ええ、ありがとうございます」
ああ、と頷きながら、由暉子の家だという2階建ての一軒家を見上げる。結構な豪邸である。そこそこのお金持ちなのかな? 電気は点いていない。親の帰りは遅いのだそうだ。
しかしまあ、ホント、どうしたもんかなぁ、と思う。思わず溜息を吐くと、
「──先生」
「ん? なんだ? 忘れ──」
何だ、と顔を助手席に向けると──突然、唇にぷにっとしたものが押し付けられた。──え? あ、え?
「んっ……」
「っ……ぁ……」
至近距離にあったのは、この二日間。何度も見た由暉子の可愛らしい顔。つぶらな瞳を閉じたキス顔だった。
ふわりとした、甘いミルクのような香り。唇に触れたとてもちっちゃな唇。肩口にふにゅりと押し付けられたその、由暉子の中学の制服越しの爆乳。
一瞬でその状況を理解し、しかし由暉子がすぐに唇を離したため、俺は驚きの表情を由暉子に向けていただろう。
由暉子のつぶらなタレ目は普段よりも、とろん、としており、口を小さく半開きにして、僅かに息を吐く。そしてその、おそらく、俺がファーストキスを奪った唇から、由暉子が俺に奪わせた唇から、決定的な言葉が飛び出す。
「先生……私、先生のこと、好きになってしまったかもしれません」
「っ、ほ……本当か?」
本当か? などと、普通はびっくりするところを、確認の言葉を投げかけてしまう。まあ、そこまで不自然ではないが。由暉子はこくりと小さく首を縦に振り、
「私……こんな気持ち、初めてなんですが……さっきから、先生を見てると胸がドキドキして……多分これ、恋だと思います。今こうしてみても、全然嫌じゃありません」
由暉子はそう言いながらも、由暉子らしく、冷静な、物怖じしないはっきりとした口調だった。
俺は心臓をバクバクとさせてしまう。近くで見る由暉子の、有珠山高校の麻雀部の中でも随一の美少女が、まだ中学生で身長が140センチもないのに、体つきだけはとってもいやらしいロリ爆乳美少女が、そうやって恋をした女の表情で俺を見つめている。
その小さくて、肌のきめ細やかさを感じさせる手が、俺の手の甲に添えられて、
「先生……実は今日、両親は帰ってこないんです。だから良かったら──」
と、由暉子は頬を赤く染めながら、
「……私と、もう少し一緒に過ごしませんか?」
次回、「雪の日の夜」。大人の男を誘ういやらしいユキちゃん。そんなユキちゃんと欲望に塗れたエッロエロな夜を過ごします。全裸待機して震えろ
皆の熱い感想、待ってる