当日朝、天気は容赦ない快晴。予報では終日晴れるとのことで、何もここまで暑くならなくてもいいのにと、俺は恨めしく空を見上げた。
もちろん、雨が降らなかったことを喜ぶべきだが、もし雨だったら「その時は○○さんのお部屋でまったりしましょう」というメールが飛んできて、それはそれで大歓迎だった。
珍しく少し遅れると連絡を入れてきた卯月ちゃんを待ちながら、俺は一度荷物に目をやった。結局自分の水着にバスタオル、ラッシュガードなるものがあるとのことで、用途もよくわからずに買ってみたり、大きな浮き輪とビーチボール、それに小さなビーチテントまで購入した。
自分でも少し買いすぎたと思っていたが、案の定、やってきた卯月ちゃんも俺の荷物を見て目を丸くした。
「○○さん、キャンプにでも行くんですか?」
「あ、いや、よくわからずに色々買ったらこうなった」
「気合入れなくていいって言ったのに」
やれやれと卯月ちゃんが呆れたようにため息をつく。今日の卯月ちゃんは丈の短いワンピースに黄色のカーディガン、大きなリボンのついた麦わら帽子。髪は低い位置で一つに縛っている。最近夜にしか会っていないが、太陽の下でもやっぱり可愛い。
「それで、何を買ったんですか?」
「あー、テントとか」
「テント!? テントって、そんなに小さいんですか?」
「畳んでボンって開くタイプ」
「ボンって開くんですか。すごい時代になりましたね」
雑談を交わしながら、俺の大好きな湘南新宿ラインに乗る。夏休みの平日、通勤時間の後ということもあってか、隣同士で座ることができた。いつもながら、ぴったりと触れ合う卯月ちゃんの肌の感触が気持ち良い。
ドキドキしている俺とは対照的に、卯月ちゃんは向かいの窓から外を眺めながら楽しそうに口を開いた。
「海って、なんだかすごく小さい時に家族で行ったきりです」
「プールは行くの?」
「プールは友達と行きますね。でもデビューしてからは一度も行ってないです。忙しくて」
「今日は倒れてくれたみんなに感謝するよ。ライブは大丈夫そう?」
「体調的には大丈夫だと思います。問題は完成度が……」
「曲、何やるの?」
「知りたいですか? 教えてもいいけど、知らない方が当日楽しめませんか?」
「確かに。じゃあ、内緒で」
相変わらず途切れることなく会話を続けていると、あっという間に横浜を過ぎ、景色も緑と住宅が多くなってきた。
海水浴場の最寄り駅で降りると、むわっとした熱気が身体にまとわりついてきた。予想最高気温36℃。油断したら倒れそうだ。スポーツドリンクを一口飲むと、卯月ちゃんが欲しいというので渡した。
平日だが夏休みということもあり、自分たちと同じような若者がたくさん降りた。いかにもリア充というオーラがそこかしこで漂っていて居心地が悪いが、どう見ても自分もその一人だろう。
人の流れに従って歩くと、少しだけ潮の香りがしてきた。やがて広大なビーチが姿を現して、卯月ちゃんが嬉しそうに目を輝かせる。
防波堤から見下ろすと、すでに砂浜には無数のパラソルやテントが立ち並んでいた。本当に今日は平日なのだろうか。
ビーチサンダルに履き替えて、白い砂を踏みしめる。所狭しと並ぶ海の家に更衣室を探すと、卯月ちゃんは水着は着てきたと言った。用意のいいことだ。むしろ俺も海パンを穿いてくるべきだっただろうか。
テントの中で着替えてもいいか聞いたら、卯月ちゃんはどうぞと頷いた。空いていた適当な場所にテントを張る。張ると言っても、ボンと開くだけだが。
あっという間に出来上がった陣地に、卯月ちゃんが小さく手を叩いた。
「すごいですね、これ」
「思ったより便利だ」
「畳むのが大変そう」
「家で練習したから大丈夫だよ」
先に卯月ちゃんを押し込んでから中に入る。直接日に当たらないだけで、随分涼しかった。着替えのために入口を閉めると、テントが意外と狭いことに気が付いた。金額的にケチったわけではないが、荷物のことまで考えてなかった。
「ちょっと小さかったな」
「そうですか? 私は別にこれでいいですよ?」
そう言うと、入口を背に座っていた俺にもたれかかるように、卯月ちゃんが体を預けてきた。
帽子を取り、カーディガンだけ脱がせてから、ふわりと抱きしめる。通気性よりも外から見えない生地を優先した結果、空気が籠もってサウナの様相だが、そのおかげでこんなふうにしていられるので贅沢は言えない。
腕や胸を撫でながら、髪に顔を埋める。海と汗と卯月ちゃんの匂いと熱気と喧騒にくらくらする。
「これ、たぶん閉め切って使うものじゃないですね」
不意に卯月ちゃんがそう言って、体を起こした。それから汗で張り付いたワンピースを脱いで、畳んで隅に置く。シンプルな柄の、スカートもリボンもついていない布の少ないビキニだった。実に健康的な肢体。少しだけはみ出していたお尻のお肉をすっと指を通して直してから、卯月ちゃんがちらりと俺を見た。
俺も上を脱ぐと、卯月ちゃんに背中を向けていそいそと着替えた。てきぱきパンツを脱いで海パンを穿いて振り返ると、卯月ちゃんがじっと見ていて、俺は思わず悲鳴を上げた。
「なんで見てるの!?」
「なんとなくです。大きな声を出さないでください」
言われて、慌てて口を押さえた。通気性は重視していないとはいえ、あくまでビーチテントというジャンルの製品だ。多少の風は通るし、音や声は言うに及ばず。
じっとしていても汗の滴り落ちる暑さなので、着替えも終わったし入口を開放しようとしたら、卯月ちゃんが先ほどの続きと言わんばかりに座ってもたれかかってきた。同じように抱きしめると、生々しい肉体の感触に全身が震えた。火照った体が焼けるように熱い。
これは理性を試されているのだろうか。しかし、残念ながらすでに理性はかけらも残っておらず、俺はそっと水着の上部から手を入れて、汗でぬるぬるするおっぱいに指を埋めた。
驚いたように振り返った卯月ちゃんの唇を塞ぐと、卯月ちゃんも体勢を変えて俺の背中に手を回してきた。熱い吐息が籠もる。
声を出さないように唇を重ねながら、卯月ちゃんの肌を指でなぞる。くすぐったかったのか、卯月ちゃんがぶるっと体を震わせた。
そのままビキニの中に手を潜り込ませると、卯月ちゃんが顔を離して耳元で囁いた。
「ダメですよ?」
「そう言われても……」
汗やら何やらで濡れたお股の肉を指先でくにくにしていると、卯月ちゃんが「もうっ」と頬を膨らませた。途方もなく可愛い。
「俺、このまま一日遊ぶの、無理」
「どうしたらいいですか? こんなところでエッチはダメですよ?」
卯月ちゃんが潤んだ眼差しで訴える。耳にかかる吐息に背筋が震えた。
どうしたらいいのだろう。しばらく指でいじっていると、卯月ちゃんは漏れそうになる声を堪えるように、一瞬顔をしかめてから、ぎゅっと俺の腕にしがみついた。くぐもった声が外の喧騒にかき消される。
俺は少しだけ海パンを下ろすと、卯月ちゃんの手を取って握らせた。そのまま卯月ちゃんをくの字にして寝かせる。
膝枕するように頭を引き寄せて、そっとくわえさせた。ぬるりとした舌の感触と、ぎこちなく握る指の感触に、あっと言う間にイキそうになる。
そういえば、次は10秒に挑戦するんだったと思い出して、意識を自分の指に集中させた。卯月ちゃんの一番気持ち良い場所を指先で強めに刺激すると、卯月ちゃんが俺のをぎゅっと強く握って頭を振った。
それは気持ち良すぎる。結局あっけなく口の中に全部放出してしまったが、果たして10秒はもっただろうか。
あの雑誌を買ってから二日間、一度もせずに我慢したのでかなり溜まっていたが、卯月ちゃんはそれを苦しそうに飲み干してからペットボトルを取った。ぐびぐびと3口ほどジュースを流し込んで、大きく息を吐く。
「はぁ。また穢された……」
「いや、その、ごめんなさい」
「冗談です」
卯月ちゃんはにっこり笑うと、俺の脚を跨いで入口を開けた。途端に眩しい光が差し込んでくる。先ほどより大きな喧騒。すぐ目の前をたくさんの人が歩いていく。
なんだか随分大胆なことをしてしまった。卯月ちゃんはまったく怒っていないようだが、果たしてそれは喜ぶべきだろうか。どんどん俺のセクハラに耐性がついてきているが、そこは俺色に染まってきたとポジティブに解釈しよう。
「せっかくだから、海に入りましょう」
卯月ちゃんが笑顔で俺の手を引く。テントの外に出ると、風が気持ち良かった。
太陽の光に輝く卯月ちゃんの肌が眩しい。手を引かれるまま海の方へ駆け出した。
夏の一日はまだ始まったばかりだ。