第2幕。
初っ端はアスタリスクの『Wonder goes on!!』。これには客席が驚きにどよめいた。
蘭子ちゃんが『-LEGNE- 仇なす剣 光の旋律』、ラブライカが『Memories』だったから、アスタリスクは『OωOver!!』と思われたが、意外な選曲だった。元は4人の曲で掛け合いも多いが、上手く二人用にアレンジされている。
そして、みくちゃんが可愛い。
「ああ、みくにゃん可愛いっすね。可愛いっすね!」
「そうだな」
泣きそうな水野に深く頷いた。俺もライブを楽しんでいるが、ここまで深く感情移入できてはいない。
そんなことを思った刹那、次のニュージェネレーションズの『流れ星キセキ』で泣きそうになった。やはり、他のアイドルを見たからこそ余計に、俺は卯月ちゃんが好きなのだと実感する。今度卯月ちゃんと流れ星を探しに行こう。
3曲目は『LET'S GO HAPPY!!』。『Shine!!』以来、初めてのきらりちゃんの登場に、ファンが沸く。
そして、キャンディアイランドも『Happy×2 Days』と思われたが、ピアノから始まるカッコイイ曲で登場した。裏拍のリズムが心地良い。『Heart Voice』という曲らしい。水野は物知りだ。箱推し勢、恐るべし。
相変わらず智絵里ちゃんが可愛いが、それよりも杏ちゃんが印象的だった。日頃の怠惰な姿からは想像もできない、きびきびしたダンス。やれば出来る子なのか、普段のだるそうなのが芸なのか。
すっかり曲とアイドルたちの魅力に没頭し、第2幕最後の曲を心待ちにしていると、ステージに全員並んだ。そして、まさかの『お願い!シンデレラ』に客席が盛り上がる。
元々アンコールの定番曲だし、先ほどの杏ちゃんのトークもあったから、誰もが今回もこれがアンコールだろうと思っていた。杏ちゃんにしてやられた。
「はい。皆さん、一度座って水分補給してくださいねっ」
曲が終わると、最初の並びで立って、新田さんが微笑む。実はほとんど見たことがなかったが、とても美人だ。俺は卯月ちゃんのような可愛いタイプの子が好みだが、新田さんにファンが多いのもわかる。
「いやー、まさかの『お願い!シンデレラ』だったねぇ」
未央ちゃんがファンの気持ちを代弁すると、杏ちゃんが顔を上げて目を輝かせた。
「つまり、今日はアンコール無し!」
「そうならないように頑張ろうねー」
きらりちゃんが諭すように言って笑いを誘う。
前のMCと同じように曲を振り返る。ここまででシンデレラプロジェクトの代表曲と、それぞれのユニットの曲は披露したことになる。
ここから後半戦はどういうセトリになるのか。大体どのユニットも2曲ずつ持っているが、恐らく1曲ずつしかやらないだろう。『エンジェルドリーム』のように、全員揃っているからこそ出来る曲を並べてくるはずだ。
期待に胸を弾ませたまま、迎えた第3幕。
最初はニュージェネのライブでもよく歌われる『輝く世界の魔法』だった。オリジナルメンバーの蘭子ちゃん、アーニャちゃん、凛ちゃんに、きらりちゃんとかな子ちゃん。センターはオリジナル通り蘭子ちゃん。
なんとなく卯月ちゃんたちの曲という印象があるのは、俺がニュージェネのライブでしか聴いていないからだろう。元気いっぱいのイメージがあったが、このメンバーだとしっとりして聴こえる。そういう変化も面白い。
次の曲はイントロから盛り上がった。『BEYOND THE STARLIGHT』。俺もCDを聴いていい曲だと思ったが、俺の想像を遥かに超える人気っぷり。
莉嘉ちゃんをセンターに、オリジナルメンバーの智絵里ちゃん。新田さんに李衣菜ちゃん。そして一番右に、我らが卯月ちゃん。もちろん、この曲を歌う卯月ちゃんは初めて見る。
3、2、1、Fight!
卯月ちゃんの一挙一動を見逃すまいとじっと見つめていたら、卯月ちゃんもずっとこっちを見て歌っていた。果たしてステージからこの場所が見えているのか。
途中で手も振ってくれて興奮していたら、曲の後に水野が囁いた。
「なんか、卯月ちゃん、ずっとこっち見ててくれたっすね! 俺、なんだかドキドキしたっす!」
水野が紅潮した顔で、鼻の穴をひくひくさせる。本当に卯月ちゃんが好きなようだ。もしも俺のスマホに入っている、海で撮らせてもらった「使いやすい」水着の写真を見られたら、刺し殺されるかもしれない。
今となっては遅いが、卯月ちゃんから距離があった時代なら、同担同士の交流も悪くなかったのかもしれないと、水野を見ていて思った。少し斜に構えて遠ざけすぎていたかもしれない。
『BEYOND THE STARLIGHT』の後は、『あんきら!?狂騒曲』という、やはり俺の知らない杏ちゃんときらりちゃんの曲が披露された。実に不思議な曲だが、二人の個性や関係をほとんど知らないので、なんとなく過ぎていった。予習不足と反省する。
次はいわゆるクール属性の5人が揃って、やはり知らない曲を歌った。『エチュードは1曲だけ』という、新しめの楽曲らしい。凛ちゃんと蘭子ちゃんがオリジナルメンバーだそうだ。
それから、キュート曲『アタシポンコツアンドロイド』。3人がオリジナルメンバーで、みくちゃんがセンター。卯月ちゃんはその左側だったので、自分の席からは少し遠かったが括目して追った。
歌っているのは知っていたが、ニュージェネのライブではやらないし、一人で歌うような曲でもないので、卯月ちゃん自身、ステージで歌うのは初めてのはずだ。サビの手を回す不思議な動きが可愛らしい。
考えてみると、この曲も含めて、卯月ちゃんが参加しているにも関わらず、ステージで歌ったことのない曲は多い。それこそ『Treasure☆』もそうだ。ニュージェネが3人とも歌っているが、ステージでやったことはない。結局今日は歌われるのだろうか。
最後はパッション曲の『絶対特権主張しますっ!』。聴いたことはあったが、歌っているメンバーまでは知らなかった。どうやら、オリジナルにはシンデレラプロジェクトのメンバーが一人もいないらしい。
「これっすよ、蘇我さん! 『夕映えプレゼント』の逆バージョンっすよ!」
水野がズイと身を乗り出してきた。そういえば、開演前にそんな話をしていた。生憎俺は、それ以前に知らない曲が多くていまいちその感動がわからなかったが、水野は大喜びだった。
MCで、アタポンの時にキュート組はお揃いのブレスレットを着けていたと話し、カメラがそれをアップで映した。智絵里ちゃんの手作りらしく、星の飾りの付いた赤い紐のブレスレットだ。
智絵里ちゃんというと、卯月ちゃんと行った切り絵展を思い出す。どういう子なのだろう。とても好みの容姿だし、卯月ちゃんに聞いてみたい気もするが、何か良くない事態になりそうな気がしないでもない。
MCが終わると、恐らくラストスパートと思われる第4幕が始まった。
初っ端は、辛うじてCDで聴いていた『Love∞Destiny』。センターはオリジナルメンバーの李衣菜ちゃん。そういえば、『エンジェルドリーム』も李衣菜ちゃんと智絵里ちゃんがオリジナルメンバーだが、この二人は仲が良いのだろうか。生憎李衣菜についてはほとんど何も知らない。
間隔を空けずに軽快なイントロが流れ、場内は熱狂的な盛り上がりだったが、生憎知らない曲だった。センター新田さんに、2曲続けて蘭子ちゃん。そして杏ちゃんと凛ちゃんに、我らが卯月ちゃん。今回は右側のいいポジションだった。
『生存本能ヴァルキュリア』という曲で、新田さんだけがオリジナルメンバーらしい。こういうカッコイイ曲を歌う卯月ちゃんは貴重だ。
3曲目もカッコイイ系。センターはアーニャちゃんで、3曲続けてクールの面々がセンターを務めたことになる。『Tulip』という曲で、『絶対特権主張しますっ!』同様、オリジナルメンバーのいない曲らしい。頑張って予習したつもりだったが、いかんせん曲が多すぎる。
盛り上がりに乗れないのをやや残念に思っていると、再び全員がステージに立った。終わりを感じる。
全員で『Take me☆Take you』。センターはオリジナルメンバーの卯月ちゃん。こうして見ると、卯月ちゃんのセンター率が高い気がするが、俺が卯月ちゃんばかり見ているからそう感じるだけかもしれない。
これはニュージェネのライブでもよく歌われるので知っている。いよいよ最後の曲かなと思ったら、涙で卯月ちゃんの姿がぼやけた。大歓声。ペンライトの波。綺麗な衣装。迫力のある音響。天井の高いホール。広いステージ。
あの数えるほどしか足を止める人のいなかった地域のイベントやインストアイベントから、よくぞここまで辿り着いた。そして、もっとずっと先へ。
覚めない夢は始まったばかり。この舞台は集大成にして、出発点なのだ。
曲が終わると、次が最後の曲だと新田さんが言って、客席からお決まりの「えーーーっ!」が響く。あっという間だった。ずっとこのままここにいて、永遠に彼女たちの歌声を聴いていたくなる。いつだってそうだ。
最後の曲は『夢色ハーモニー』。最高のセトリだ。感動に頭がじんじんするが、隣で大泣きしている水野を見ると少し冷静になれた。
かな子ちゃんやみくちゃん、新田さん、他にも何人か、目を潤ませて歌っているが、卯月ちゃんはにこにこと笑顔で元気いっぱいだった。
後奏が静かに終わると、全員で「ありがとうございました!」と頭を下げてステージを後にした。
割れんばかりの拍手からの、アンコール。アンコールはあって当たり前と思ってはいけない。全力で手を打つと、『GOIN'!!!』とともに再び14人がステージに並んだ。
もちろんここでこれだろうと思っていたが、14人全員での『GOIN'!!!』は圧巻だった。
曲が終わっていよいよ最後の挨拶。最初と同じ順番で、みくちゃんがトップバッターを務める。
「はい。アンコールありがとにゃ。アスタリスクの前川みくにゃ。今日はみんな、楽しかったかにゃ?」
みくちゃんがそう言ってマイクを客先に向けると、みんなが「楽しかった!」と声を揃える。みくちゃんは大きく頷いて、少しだけ震える声で続けた。
「みくも最高に楽しかった! プロジェクトが発足して、今まで14人で色んなことを乗り越えてきて、李衣菜ちゃんとケンカしたり、後は、李衣菜ちゃんとケンカしたり……」
「そればっかじゃん」
隣で李衣菜ちゃんが呆れた顔をして、みくちゃんが不貞腐れた顔で睨み付ける。
「今みくが喋ってるから、李衣菜ちゃんは黙ってて!」
「えーっ!」
「こうして14人揃ってライブができたのも、全部応援してくれるみんなのおかげだと思ってるにゃ。本当にありがとう」
一度目元を拭って、それから大きく手を振った。
「これからもずっとみくたちのことを応援してください。みくはまた、このメンバーでライブがしたいと思ってるにゃ!」
耳が痛いほどの握手が起こる。それから李衣菜ちゃんもこれまでの思い出を語ったり、莉嘉ちゃんは姉との話をしたり、みんなが色々な想いを打ち明けながら、とうとう最後、卯月ちゃんの番がやって来た。
静まり返る場内。一歩前に出て、卯月ちゃんがいつもの笑顔で口を開いた。
「はい。ニュージェネレーションズ、島村卯月です。今日は本当にありがとうございました」
嗚咽まじりだった未央ちゃんとは対照的に、晴れやかな笑顔だ。感動していないことは絶対にないと思うが、それが涙という形にならないのだろう。
「私は養成所時代が長くて、このプロジェクトに参加できるって聞いた時は、本当に夢が叶って嬉しかったです。でも、なんだかそれでゴールした気分になっちゃって、少し自分を見失ったり、どんどん前に進んでいく未央ちゃんや凛ちゃんを見て焦ったり、上手くいかないこともたくさんありました」
知っている話だ。けれど、卯月ちゃんがみんなの前でそういう話をするのは初めてだ。現に、水野は驚きに目を丸くしている。
「そんな時、私はどうしてアイドルになりたかったんだろう。アイドルになって、どうしたかったんだろうって、原点に立ち返って。やっぱりみんなを笑顔にしたくて、それで私も笑顔でいたいって、そう思いました。今日は皆さん、笑顔になれましたかー?」
卯月ちゃんの声に、客席から「おーっ!」と返事が上がる。卯月ちゃんは嬉しそうに頷いた。
「良かったです。このライブも夢の一つでした。それが叶って、それでもまだ夢はどんどん溢れて来ます。今日まで応援してきてくれた皆さんも、今日初めて私やニュージェネレーションズを知ったという皆さんも、これからもまた応援してください。私たちはこれからも走り続けていきます。今日は本当にありがとうございました!」
深く頭を下げて、それから大きく手を振って、最後まで涙はなく、ずっと笑顔だった。
「それでは最後の曲です。『Star!!』」