その後、卯月ちゃんからのメッセージはなかった。
ひょっとしたら、いつものように世間話が飛んでくるかもしれないと思っていた。正確に言えば、飛んでくることを期待していた。
どうして握手会に来なかったのか。聞かれたら返答に困ったが、聞かれることを望んでいた。
けれど、そんなことはなかった。それどころか、それまで毎日のように送られてきたメッセージも途絶えてしまった。
もちろん、こんな状況で俺から送れるはずがないし、もはや話すこともない。
卯月ちゃんに見限られた。
そんなカッコイイものではないかもしれない。元々たくさんいる友達の一人と会話していただけで、俺一人いなくなっても卯月ちゃんには何の影響もない。
その事実が、どうしようもなく悲しい。
スマホの待ち受けは、もう一度春色ワンピースの卯月ちゃんに戻してある。たった一日の、幸せな思い出。俺の人生で最高の一日。
きっとこの先、もう二度と、あんな幸せな瞬間は訪れない。いつまでもいつまでも、俺はあの一瞬を思い出しながら生きていく。
それでいい。この先自分からどんどん遠ざかっていく卯月ちゃんを見るのは辛い。それならいっそ、卯月ちゃんとの時を止め、ただひたすら同じ時間を繰り返すのも悪くない。
いつか、あの一瞬よりも幸せな時間が訪れるだろうか。それはわからない。ただ今は、もう少しだけ、思い出に浸っていたい。
島村卯月。世界で一番愛した女の子。
この悲しみも喪失感も本当に苦しいけれど、それでもありがとうと言いたい。
晴れ間のない空が広がっている。影のない道。見慣れたアパート。これから続いていく空虚な毎日。
抜け殻のような体でふらふらとアパートの入口をくぐった時、いきなり強く腕を掴まれた。
突然のことに、俺は思わず悲鳴を上げた。突然銃で撃たれたような衝撃。最近すっかり存在を忘れていた心臓が、緊張に大きく打った。
見ると入口に帽子をかぶった少女が座っていて、俺が振り返ると同時に立ち上がった。
もう片方の手で帽子を取る。
「なんで無視するんですか?」
最愛の女の子が、見たこともない怖い形相で俺を睨み付けてそう言った。
「う、卯月ちゃん……?」
「他に誰に見えますか? 凛ちゃんに見えますか?」
「い、いや」
「お話しに来ました。部屋に入れてください」
ぶっきらぼうな言葉。不機嫌そうに歪めた眉。卯月ちゃんもこんな顔をするのかと、一瞬そんなことを思ってから、ようやく事態が飲み込めてきた。
「あ、えっと、部屋、散らかってるから、どこか……」
「いいですから。私ここに3時間も座ってたんです。もう一歩も歩きたくないです」
そう言うや否や、卯月ちゃんは俺の手を離して階段を上り始めた。
目の前で白いスカートがひらひら揺れる。膝の裏が艶めかしかったが、それどころではなかった。
手紙のやりとりで部屋の番号まで把握されている。真っ直ぐ俺の部屋まで歩いて、卯月ちゃんはふてくされた顔のまま振り返った。
俺はどぎまぎしながら、ポケットから鍵を取り出した。
「少し片付けるから、ちょっとだけ待ってて」
「嫌です」
取り付く島もなかった。鍵を開けると、俺に続いて卯月ちゃんが入ってくる。
あの島村卯月が俺の部屋に来る光景。妄想では今まで幾度となくしてきたが、こんな鬼のような形相で、わずかのときめきもないシチュエーションは考えたことがなかった。
初めて客観的に自分の部屋を見る。壁に貼られた卯月ちゃんのポスター。テーブルの上に開きっぱなしのノートパソコン。その横に、例のツーショット写真がフォトスタンドに入って立っている。
片付けてない布団。掛布団くらいたためばよかったと思ったが、もう遅い。
卯月ちゃんはしばらく入口に立って部屋を見回してから、テーブルまで歩いて座った。
俺は冷蔵庫からお茶を取り出して、いつも自分が使っているグラスに注いで出した。卯月ちゃんはそれを無言で受け取ると、一気に飲み干してグラスを置く。俺がお代わりを注ぐと、卯月ちゃんはようやく落ち着いたように大きく息を吐いた。
「○○さん、まだ私のこと、好きなんですか?」
フォトスタンドを手に取って、俺の方を見ずに口を開く。
俺は緊張のあまり、息をのんだ。ここから先の会話は、選択肢一つですべてバッドエンドに直結するのだろう。
ただ、もうすでに最悪のエンディングを迎え、スタッフロールも流れた後だと思っていたのに、今こうして卯月ちゃんが目の前にいる。落ち着いて状況を整理することにした。
「好きだよ」
向かいではなく、L字になるように座る。卯月ちゃんはフォトスタンドを置いて、一度口元に手を当てた。
それからしばらく難しい顔をして、ようやく俺を見た。
「ちょっとなんだかもう、色々とよくわかりません」
「いや、俺も」
「なんでメールくれないんですか?」
怒気をはらんだ声を投げつける。どうして俺が怒られているのかわからないが、嫌ではなかった。
今の質問は、卯月ちゃんはLINEが欲しかったと解釈していいのだろうか。しかし、元々俺からメッセージを投げることはほとんどなく、くれるのは大体卯月ちゃんからだった。
俺の認識では、やりとりを止めたのは卯月ちゃんの方なのだが、まずそこに食い違いがあるようだ。
「それは、俺にはもうそんな資格はないかと思って……」
「意味わかんないし」
あっさりと吐き捨てて、卯月ちゃんが不機嫌そうにため息をついた。
俺は思わず背筋を正した。こんなにもふてくされた卯月ちゃんを見るのは初めてだ。そもそも笑顔ではない卯月ちゃん自体、見たことがない。
どうやら、卯月ちゃんも卯月ちゃんなりに悩んでいたらしいことはわかった。その上、俺の家まで来て入口で3時間も待ちぼうけを食くらったのだから、機嫌が悪いのも仕方ない。
もちろん、待っていたのは卯月ちゃんの勝手で、LINEでも入れてくれればよかったのだが、そんなことを口にしたらぶん殴られそうだったので黙っていた。
「私、怒ってるんです」
「それは、見ればわかります」
「この前のライブ、○○さん、ずーっと凛ちゃんと未央ちゃんを見てましたよね。あれはなんなんですか? 私への当てつけですか?」
俺は驚いて顔を上げた。
「待って。たまには凛ちゃんや未央ちゃんも見ろって言ったの、卯月ちゃんだよ?」
「そんなの真に受けないでくださいよ。私だけを見ていてほしいに決まってるじゃないですか」
さも当然というように卯月ちゃんが言い放って、俺は頭がクラクラした。
この理不尽な展開はなんなのか。卯月ちゃんのためと思って言われた通りにしたのに、どうしてその本人から怒られているのだろう。
あまりの展開に言葉も出ない俺を睨んで、卯月ちゃんは指でテーブルを叩いた。
「私、○○さんだけは私の味方でいてくれるって、それが嬉しいって言ったじゃないですか。それなのに、頑張って歌っても踊っても、○○さん、全然私のこと見てくれなくて、私ステージで泣きそうでした。あー、思い出したら腹が立ってきました」
卯月ちゃんの顔がさらに険しくなる。
これは噂に聞く、「理屈ではなく感情モードに入った女性には、とにかく謝れ」というやつだろうか。元より、どんなに理不尽なことを言われても、卯月ちゃんと口喧嘩する気はない。こういう時こそ、立場をわきまえるべきだ。
「えっと、その、ごめんなさい。次のライブは全力で卯月ちゃんだけを見ます」
「次のライブも、来てくれるんですか?」
言われて、はっとなる。卯月ちゃんは怒りよりも不安そうな目をしていた。
言葉に詰まる。卯月ちゃんの目に涙が滲んだ。
「どうして握手会、途中で帰っちゃったんですか? 私もう、本当に泣きそうだったんですけど」
潤んだ目で真っ直ぐ見つめられて、俺は思わず身を引いた。
言うまでもなく、卯月ちゃんは俺が握手会の途中で帰ったことに気が付いていた。握手していないのだから当たり前だ。
ただ俺は、卯月ちゃんはそのことを気にしていないと思っていた。そんな自信はなかった。自分が卯月ちゃんにとって特別で、影響力のある人間である自信など、まったくなかった。
矛盾している。あれだけ自分が特別ではなかったことにショックを受けておきながら、卯月ちゃんは平気だと考えていた。
言いよどむ俺を、卯月ちゃんは泣きそうな目で見つめている。もう、白状する他になかった。
「卯月ちゃんが他のファンと握手してるのが嫌だったから」
卯月ちゃんはテーブルに肘をついて頭を抱えた。それから「うーん」と何度か考えるような呻き声を出して顔を上げる。困惑気味な表情だった。
「ちょっとよくわかりません」
「いや、ただの嫉妬で、そんなに難しい話じゃなくて……」
「私、何か嫌われるようなことでもしたのかなって、不安でした」
俺の言葉を遮って、卯月ちゃんが独白する。
「○○さん、全然私を見てくれないし、握手会も帰っちゃうし、その後メールもくれないし。だから私も怖くて、メールできませんでした」
姿勢を戻して、また少し拗ねた顔をする。
「待っても待っても来ないし、なんかこのまま終わっちゃうのかなって思ったら、悲しいっていうより腹が立ってきて」
「それで、来てくれたの?」
「そうです。私がこんなにも悩んでるのに、○○さんは平気なのかなって思ったら、ムカムカしてきて」
「それは俺の台詞だから。ムカムカはしてないけど」
俺もお茶を一口飲む。話を整理すると、俺が勝手に卯月ちゃんとの距離を感じてしまったことで、卯月ちゃんは俺に嫌われたと勘違いして、メールを送れなかった。
それ自体は、卯月ちゃんの勘違いなので問題ない。俺が怒られて済むのなら、どれだけでも怒られよう。
根本的な問題は解決していない。俺が卯月ちゃんと距離を感じたのは、俺が卯月ちゃんを特別に感じてしまったからだ。卯月ちゃんの中でも俺が特別であってほしいという独善的な思いが、今回の発端である。
アイドルの女の子に対して、深い感情を抱きすぎた。情けない思いでそれを告白すると、卯月ちゃんは困ったように首を傾げた。
「そこがよくわからないんです」
「えっと、だから、俺が卯月ちゃんにとって特別だって勘違いしたっていうか、期待したっていうか……」
「勘違いも何も、私、○○さんは特別だって、何回も言ったと思いますけど」
「…………」
困惑した顔で見つめ合う。話がよくわからなくなってきた。
「それは、その、卯月ちゃんも、俺のことを好きだっていう解釈でいいの?」
俺が緊張しながらそう聞くと、卯月ちゃんは混乱極まった様子で俺の顔を覗き込んだ。
「私、○○さんのこと大好きですって、言いましたよね? あれ、○○さんの中で、なかったことになってるんですか?」
俺は呆然と卯月ちゃんの顔を見つめた。
偶然街であったあの日、俺は卯月ちゃんとキスをした。その帰りに、卯月ちゃんは俺に大好きだと言ってくれた。
忘れていたわけではない。好きの意味を取り違えていた。いや、今でもまだ本当にそうなのかわからない。
「それは、いわゆるLoveという解釈をしていいの? 犬とか猫に対する好きと違って」
「当たり前じゃないですか。私をどんな目で見てるんですか? 私、好きでもない人とキスなんてしません」
初めて、卯月ちゃんがあの日のキスに言及してくれた。思わず胸が熱くなる。
俺は今まで卯月ちゃんが一言もその話題に触れないことを、後悔から来ていると思っていた。なかったことにしたいのだと思ったから、俺も話題にしなかった。
キスだけではない。抱きしめたことも含めて、卯月ちゃんは俺の好意を意図的にかわしていた。それは一体なんだったのか。
驚きながら尋ねると、卯月ちゃんは少し頬を染めながら、拗ねたようにそっぽを向いた。
「別に意図的に逸らしていたわけじゃないです。そっか……でもやっぱりそうだったんだ。もっと早く確認すればよかった」
「何を?」
「前提をです。○○さんが好きだって言ってくれて、キスして、私も好きだって言った時点で、私、お互いに特別な関係になったのかなって思ってました。でも、○○さん、全然そういう認識じゃなかったんですね」
「待って。それはつまり、卯月ちゃんの中で、その、交際ステータスになってたってこと?」
頭の整理が追い付かず、思ったことをそのまま聞くと、卯月ちゃんは機嫌を損ねたようにむすっとした。
「私、お付き合いもしていない男の人に、毎日メールを書いたり、電話したりしません」
「えっと、ちょっと待って」
「待ちません。○○さんが、全然そういうつもりもなく、私とメールや電話をしていたっていうことがショックです。これは私が悪いんですか?」
俺は頭の中が真っ白になって、しばらく先ほどの卯月ちゃんのように頭を抱えた。
世界で一番大好きな、遠い遠いアイドルの女の子が、俺すら認識していないまま、自分の彼女になっていたというのか?
俺がうんうん唸っていると、頭上で卯月ちゃんが大きくため息をついた。
「がっかりです。私一人ではしゃいでたんですね。ひと月も!」
「いや、俺もすごく楽しかったから」
「彼女でもない人を食事に誘ったりする人だってわかりました。最低です。見損ないました」
「卯月ちゃんしか好きじゃないから!」
「私、バカみたい。もう帰ります」
そう言って卯月ちゃんがテーブルに手を乗せる。顔が少し笑っていなければ本気にするところだった。
「まあまあ」
立ち上がりかけた卯月ちゃんの肩に手を置いた。
黙って見つめ合う。卯月ちゃんがようやく初めて笑顔を見せて、照れたように俯いた。
「あの日、何を言いかけたんですか? 私、ずっと気になってるんです」
唐突に言われて、一瞬何のことかわからなかった。すぐに気が付く。ケーキを半分こした帰り道のことだ。
久しぶりに再会して、楽しい時間を過ごした。けれど、卯月ちゃんに指一本触れることなく、それが物足りなくて、自分の欲望に嫌悪した。
「卯月ちゃんを、抱きしめたかった」
喉がからからに渇いていた。今でもやはり、それは言ってはいけない一言だった気がする。
卯月ちゃんははにかんで、小さく頷いた。
「どうぞ」
力強く抱きしめる。柔らかくて弾力のある肌。顔を埋めた首筋から、卯月ちゃんの匂いがする。汗ばんだ頬が擦れ合う。
卯月ちゃんが俺の背中に指を立てて、耳元で熱い息を吐いた。全身が震える。
「卯月ちゃん」
静かに呼びかけると、卯月ちゃんが俺の肩に顔を埋めたまま頷いた。
「はい」
「俺と付き合って」
さっき卯月ちゃんが「私が悪いんですか?」と聞いた。きっと、ちゃんと言葉にしなかった俺がいけなかったのだ。もちろん、そんなことが実現する可能性を考えていなかったからだが、それを言ったら、あのキスはなんだったのかと怒られるだろう。
卯月ちゃんはすぐには答えなかった。少しだけ俺に顔を押し当ててから、不安げな声で言った。
「握手会で嫉妬したりしませんか?」
そういえば、その件がまだ保留になっていた。俺はそっと卯月ちゃんの髪を撫でた。
「嫉妬はすると思うけど……」
「私がちゃんと○○さんに好きだって伝えていたら、平気ですか?」
「たぶん。頑張る」
「それならいいです。私も○○さんを不安にさせないように頑張りますから、彼女にしてください」
顔を離して笑顔を見せる。
久しぶりのキスは、やっぱりとろけるほど柔らかくて、全身が熱くなった。しかも、卯月ちゃんの気持ちに確信が持てなかったあの日と違って、罪悪感も必要ない。周囲の目もない。全身のすべてで卯月ちゃんを感じられる。
しっかりと抱きしめ合ったまま横になった。むさぼるように顔を押し付けてくる卯月ちゃんが可愛くて仕方ない。前から思っていたが、この子は少しエッチな気がする。
足をしっかりと絡め合って、そっと胸を触った。卯月ちゃんが唇を合わせたまま小さく笑う。
「○○さん、私の胸、大好きですね」
「永遠に触っていたい」
「そんなこと言って、すぐに飽きたら、私、泣きますからね?」
その言葉を聴きながら、少し卯月ちゃんを泣かせてみたいと思った俺は、まだ妄想と現実がごちゃ混ぜになっているのかもしれない。
そっと服の裾から手を入れると、柔らかなお腹が少し汗ばんで、熱を帯びていた。軽く押さえると、呼吸に合わせて上下する。
そのまま手を奥に入れて、ブラジャーの上から胸に触れた。色も柄もわからないが、なんとなく高そうな感触がする。
しばらく撫でてから、両手を背中に回した。元々小柄だと思っていたが、服がないともっと細く感じる。ステージで輝いている姿は大きく見えるが、一人の小さな女の子なんだなと改めて思う。
ブラジャーのホックを外す。すんなり外れて、卯月ちゃんが意地悪な声で言った。
「今、すごく器用に外しましたね。慣れてますね」
「いや、偶然だから」
「怪しいなぁ」
卯月ちゃんのその一言に、俺はほっと息を吐いた。
このままなし崩し的にエッチなことをしてもいいのか、不安だった。卯月ちゃんは本当は嫌だけど言い出せないだけだったらどうしようと思っていたが、今の口ぶりからすると、そういう心配はしなくていいらしい。
片手で背中を引き寄せたまま、改めて胸に触れる。手の平から溢れる柔らかな肉と、こりこりとした先端。それを指で挟みながら優しく揉むと、卯月ちゃんが耳元でくぐもった声を漏らした。
「気持ちいいの?」
思わず聞いてしまい、その台詞に恥ずかしくなる。卯月ちゃんが淡々と答えた。
「別に……」
「えっ!? 別になの!?」
俺が思わず声を上げると、卯月ちゃんは明るく笑った。俺に慣れた手つきだとか言っておきながら、むしろ卯月ちゃんこそ余裕を感じる。
「卯月ちゃん、全然平気そうだね。俺、緊張で死にそうなんだけど」
「そうは見えません」
いつも通り、自分の話ははぐらかす。意地悪に思いながらも、敢えてもう一度突っ込んだ。
「卯月ちゃんは平気なの?」
卯月ちゃんは少しだけ答えを渋ってから、熱っぽい声で言った。
「だいぶ恥ずかしいです」
仰向けになって卯月ちゃんを上に乗っける。小柄で軽いといっても、40キロの重みをずっしりと感じながら、背中やお尻をまさぐるように撫でた。
卯月ちゃんは俺の首と肩の後ろに手を回して、時々小さな声を漏らしながらキスをしている。目を開けると、すぐ目の前に卯月ちゃんの長い睫毛があって、心臓が全力疾走した後のように打った。
ズボンが窮屈で、ホックを外す。押し付けられる卯月ちゃんの下腹部が気持ち良すぎて、それだけでイッてしまいそうになった。ここでパンツをベタベタにしたら、一生笑いものにされてしまいそうだ。
お尻の方から卯月ちゃんの股に触れると、パンツの上からでもわかる高い湿度を感じた。
手を前に回して、そっと隙間から指を入れる。熱い液体の感触が指を包み込み、ぬめぬめした肉の中に指先が埋まった。
卯月ちゃんが顔を離して、大きな吐息を漏らす。それからぎゅっと抱き付いて、首元に顔を埋めた。
そっと両手で卯月ちゃんのパンツを下ろすと、今まで得てきた知識を総動員して、女の子が気持ちいいらしい箇所を指で触れた。
卯月ちゃんはマンガで見るみたいに濡れていて、指の動きに合わせてぴちゃぴちゃと水っぽい音がした。耳元で卯月ちゃんの押し殺したような声がする。
また気持ちいいのか聞きたくなったが、やめておいた。ズボンとパンツを下げると、自分の腹と卯月ちゃんの肌に押し潰されて、そのまま果てそうになった。
どうにか堪えて、先端を卯月ちゃんの股の中央に当てる。少し体勢を低くしてから突き上げると、想像したより遥かに簡単に、卯月ちゃんの中に奥まで潜り込んだ。
「い、痛いっ!」
卯月ちゃんが悲鳴を上げて、俺に強く抱き付いてきた。体を痙攣したように固くして震わせると、それに合わせて股の中もぎゅっと圧迫され、元々触れるだけでイキそうだった俺はなすすべなく、卯月ちゃんの中に出してしまった。
一瞬青ざめたが、もうどうにもならない。腰を強く動かすと、卯月ちゃんが苦しそうに呻いた。
最後の一滴まで出し尽くしてから、両腕で卯月ちゃんの体を抱きしめる。
卯月ちゃんは俺にしがみついたまま、5分くらい荒い息を吐いて体を震わせていたが、やがて呼吸を落ち着けて顔を上げた。
上気した頬。涙に潤む瞳。前髪が汗で額に貼りついて、口元に少しだけ唾液が付着していた。
「痛かった……」
呟きながら、顔を押し付けてくる。舌を絡め合い、繋がったまま卯月ちゃんの体を撫でた。
やがて顔を離して、もう一度抱きしめる。肌の触れ合っている箇所が汗でベタベタする。初めて嗅ぐ女の子の匂い。
いわゆる賢者タイムなど一瞬で吹っ飛んで、少しずつ股間に力が戻ってくるのを感じた。
このままもう1回できないだろうかと、そんなことを考え始めた俺の耳元で、卯月ちゃんがいつもの声音で言った。
「そういえば、○○さん」
それがあまりにも、先ほどまでの情事が嘘のような響きだったから、俺も思わず普通に答える。
「あっ、うん」
「さっき、すごくあっさり、中に出しませんでした?」
背筋が凍りついた。もちろん、早いとか遅いという話ではないだろう。
卯月ちゃんが俺の上に乗っかったまま、顔だけ上げて俺を見つめる。俺が何も言えずに震えていると、卯月ちゃんは厳しい眼差しを俺に向けた。
「どうするんですか?」
言い逃れなどできないし、する場面でもない。それで卯月ちゃんを納得させられるとは思わなかったが、俺は真顔で言った。
「もしもの時は結婚しよう」
卯月ちゃんは探るような瞳で俺を見た。
「もしもの時だけですか?」
「あっ、いや、そういうわけじゃないけど」
俺がたじろぐと、卯月ちゃんは艶っぽい微笑みを浮かべた。
「次はダメですよ? 自制心のない人は嫌いです」
そう言って、卯月ちゃんが俺の上から降りて座った。
体を起こすと、自分の白い液体に汚れたアレの根元が、少し赤くなっていた。指で触れると指先に色が移って、言い知れぬ快感が全身を貫く。
卯月ちゃんがシャツを脱いで、テーブルの脇に置いた。綺麗な裸体が艶めかしく光る。今言った「次」を、今からしてもいいのだろうか。
「卯月ちゃん、大丈夫なの? 痛くない?」
「すごく痛いから、優しくしてください。さっきのはちょっと乱暴だったと思います」
俺も服を脱いで、ぎゅっと抱きしめ合った。
卯月ちゃんが気持ち良さそうに頬をすり寄せ、何度もキスをする。
俺は全身で卯月ちゃんを味わいながら、突き抜けるような幸せを覚えた。そして、思う。
この幸せも、やはり持続しないものなのだろうか。
あるものはなくなり、あり続けるものは飽きる。
人は元来、不幸になるものだと言いながら、世の中には幸せなそうな人がたくさんいる。
気の持ちようと、それからきっと、幸せになる努力をし続けること。
卯月ちゃんは俺が思ったようなことをは考えておらず、俺も卯月ちゃんが思っていたようなことは考えていなかった。
そういうつまらないすれ違いを一つ一つ解消して、互いが互いを信じて慈しみ、大切にし合えば、今のこの幸せは継続できる。
きっとこの先も、喧嘩や衝突もあるだろう。不安になって悲しんだり、憤ることもあるだろう。
そういう時は、今日みたいに本音をぶつけ合って、乗り越えていきたい。ずっと二人で仲良くしていたい。
胸の中で幸せそうに微笑んでいる愛しい女の子を抱きしめながら、俺はそう強く願った。