※この作品はR-18です。

卯月とファンの恋物語『2』~   作:水原渉

37 / 81
4

 ラブライカのライブも、凸レーションと同じくらい後ろの席を確保した。人は1部より多そうだ。ラブライカに人気があるからか、時間帯のせいかはわからない。長いイベントなので、1部と2部だけ観る人や、2部と3部だけ観る人もいるだろう。

 3部は前の方で観ることを二人に伝えると、二人は対照的な反応をした。

「私も前の方でいいですよ? 卯月ちゃんを近くで見たいし、前の方の空気も味わってみたいです!」

 響子ちゃんが目をキラキラさせると、みくちゃんは難しそうに眉をひそめた。

「みくは賑やかすぎるのは苦手かな。立ってペンライトを振るくらいはいいけど」

「そうですか。どうしますか?」

 響子ちゃんが俺に意見を求めてくる。3人一緒に観る前提で考えているようだが、俺は卯月ちゃんのライブだけは絶対に譲れない。響子ちゃんと二人で観てもいいが、みくちゃんを一人にするのは可哀想なので、二人で後ろから観ることを勧めると、響子ちゃんは残念そうにしながらも頷いた。

 みくちゃんは少し不満そうだったが、俺が卯月ちゃん優先なのはわかっているからか、渋々といった様子で承諾した。3部はもちろん、ライブの後、食事に行くところまで考えていてくれたのかもしれない。大暗黒たちとの忘年会の話も事前にしておけばよかったかもしれないが、そんなことを言ったらまた自惚れだと怒られそうだ。

 ネガティブな空気になってしまったので、それを払拭するように用意したプレゼントをバッグから取り出した。なかなかみくちゃんが言い出さないので出しそびれていたが、2部が終わったらすぐに並びに行きたいので、いずれにせよ今しか時間がない。

「これ、クリスマスプレゼント。結局お菓子にした」

 ラッピングされた袋を渡すと、みくちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせて、響子ちゃんは驚いたように目を丸くした。

「ありがと! これ、みくからも」

 そう言いながら、みくちゃんが小さな箱を押し付けてくる。

「ああ、うん。ありがとう」

 戸惑いながら受け取って、そのままバッグに入れる。ずっと二人へのプレゼントを考えていたが、みくちゃんからもらうことは考えていなかった。

 響子ちゃんが俺の渡した袋を受け取りながら、申し訳なさそうな顔をした。

「私、用意していません。ごめんなさい。プレゼントの交換をするなら、言ってくれれば良かったのに」

 唇を尖らせて、恨みがましくみくちゃんを睨む。軽いタッチでみくちゃんが謝るのを聴きながら、俺も問題ないと手を振った。

「さっきサンドイッチを食べさせてもらったから、それでいいよ」

「ダメですよ。あんなのは言ってくれたらいつでも作ります。今度何か贈らせてください!」

「わかった。楽しみにしてるね」

 意外と頑固なところがある子なので、大人しく俺から引いた。その方が響子ちゃんが満足なら、俺だってもらえる方が嬉しい。また卯月ちゃんの目の前で渡してきそうな展開が目に浮かぶが、それはもう諦めよう。

 そうこうしていると、ラブライカのライブが始まった。新田さんとアーニャちゃんの二人のユニットだが、曲は詳しくないし、トークも聴いたことがない。

 1曲目に『夕映えプレゼント』から入るという珍しいセットリストで始まったライブは、1部より歌が多めで、曲もバラード系が多かった。静かな聖夜という感じである。これはこれで悪くないが、もっと声を出したくてウズウズしているのは俺だけでないだろう。

「だからラブライカが2部で、ニュージェネが3部なんだと思うよ」

 みくちゃんがポソッとそう言って、俺はなるほどと頷いた。年齢と時間を考えると、小中学生のいる凸レーションが1部、卯月ちゃんたちが2部、新田さんたちが3部の方が自然だが、盛り上がりを考えてこの順番にしたのだろう。

 ライブが終わると、俺はすぐに並びたいからと伝えて立ち上がった。二人が仕方なさそうにため息をつく。

「この埋め合わせは、今度絶対にしてね」

「私もプレゼントを渡したいから、今年の内にまた遊んでください!」

 埋め合わせが必要なことをした覚えはないし、今年はもう残り1週間くらいしかないが、いちいち否定するような内容でもなかったので、適当に承諾して会場を出た。

 後ろの方で観ていたおかげで、列の前の方に並ぶことに成功する。大暗黒から電話が来たので、出ると一緒に観ようというお誘いだった。

『まだお知り合いと一緒でありますか?』

「いや、3部は全力だから、別れた。一人で列に並んでる」

 大暗黒もすでに並んでいて、場所を聞いたらそんなに後ろではなかったので合流することにした。開場まで1時間、開演までは2時間。一人でいるのには慣れているが、トイレにも行きたいし、どうせ夜は一緒になるのなら、少しでも知り合いを増やしておいた方がいい。

 見覚えのある長身の青年は、他に年配の男性と、丸っこい女の子と一緒にいた。女性がいるとは思わなかったので驚きつつ、挨拶をする。

「蘇我鯨です。卯月ちゃん推しですが、同担は大丈夫でしたか?」

 年配の男性が卯月ちゃんの法被を着ていたので、念のため確認すると、男性は大きく頷いてアイドル用の名刺を渡してきた。

「ハドラーです。キュート推し繋がりで、大暗黒殿と知り合いました」

「私は叢雲です。凛ちゃんラブで、凛ちゃんになら捧げてもいいと思っています!」

 女性が缶バッジがたくさん付いたトートバッグをジャラジャラ揺らして、大きなアクションで自己紹介をする。一体何を捧げるのだろう。こいつもなかなか変なヤツだ。

「キュート推しってことは割と最近ですか?」

 無難な話題を振ってみる。346プロがアイドルを3つの属性に分けたのは比較的最近のことなので、いつ頃から卯月ちゃんを推しているのか聞いてみると、ハドラーは勝気な笑みを浮かべた。

「ピンチェからですね。まだ新参です。それまでは765にいました」

「なるほど。叢雲さんは、ニュージェネのライブにはよく?」

「いえ、私もTriad Primusからです。ハートを持っていかれて、今は2つ目の心臓で生きています」

 変なヤツだ。二人ともニュージェネのライブで見た覚えがなかったが、やはりまだ歴の浅いファンのようだ。そういうところに優越感を覚えてはいけないとは思いつつ、卯月ちゃんはもちろん、未央ちゃんや凛ちゃんにも認知されていることが誇らしく思える。認知勢はあまりよい存在ではないが、口にはしないので見逃してほしい。

 4人で1部と2部の感想を話しながら開場を待つ。開場後は中央の7列目くらいに席を確保できた。一人ならもう少し前に行けたが、並んでいる最中にトイレにも行けたし、仲間がいるのも悪くない。

「今日は何をやりますかねぇ。『GOIN'!!!』はラブライカが歌ったし、『Shine!!』と『お願い!シンデレラ』は凸レーションが歌ったし」

「『おねシン』はまたやってもおかしくない」

「でも、ラブライカが歌わなかったことを考えると、たぶん同じ曲はやらないんだろう。3部全体で一つのイベント的な」

「1曲目は『YPT』と予想!」

「いや、無難に『できたて』でしょ!」

 曲の予想をしながら開演を待つ。やがてアナウンスとともに客席が暗くなると、イントロの1音目からペンライトの光が咲いた。

 1曲目『Snow Wings』から続けて『夢色ハーモニー』、『M@GIC☆』と3曲歌い終わると、会場は異様な熱気に包まれた。隣では叢雲が奇声を上げ、大暗黒は恍惚とした表情で震えている。早くも賢者タイムだろうか。

「皆さん、こんばんは! ニュージェネレーションズ、島村卯月ですっ!」

 未央ちゃんが可愛らしいポーズでうふっと笑うと、卯月ちゃんが目を丸くして慌てた様子で手を振った。

「それ、私です!」

「渋谷凛です。外は寒いけど、今日はみんな、熱いクリスマスにしよう!」

 凛ちゃんが格好良くキメると、叢雲がマンドラゴラのような叫び声を上げた。こいつはヤバイ。俺にはわかる。

「本田未央です。1部からの人も2部からの人も、それから私たちだけ見に来てくれた人も、一緒に楽しい夜を過ごそうね! じゃあ早速次の曲に……」

「私まだ挨拶してませんから!」

 卯月ちゃんが泣きそうな声を出して、会場が笑いに包まれた。アスタリスクのリスペクトだろうか。ラジオもそうだが、最近漫才みたいなやり取りが増えた気がする。みくちゃんと響子ちゃんはどこで見ているだろう。振り返ったが、何百というファンの中から見つけることはできなかった。

 挨拶の後、ニュージェネの2曲、『できたてEvo! Revo! Generation!』と『心もよう』を披露してから、1部と2部同様、企画が挟み込まれた。好き勝手に喋りながらクリスマスツリーを飾り付けていくという、なかなかシュールな内容だったが、ニュージェネのファンは3人が楽しそうにしているだけで楽しめるので問題ない。

 次にカバーコーナーで『Angel Breeze』、『Last Kiss』、そして『Flip Flop』が歌われる。前の2曲は知らなかったが、『Last Kiss』は大人っぽい曲調の割に振り付けが可愛くて、また新しい卯月ちゃんを発見できた。『Flip Flop』は大いに盛り上がり、会場の熱気は最高潮に達していたが、曲が終わると客席がほのかの明るくなってバラバラと席に座った。

 次の企画はニュージェネの1年を振り返るコーナーで、映像を見ながらファンと一緒に大躍進の1年を振り返った。考えてみると、みんなそれぞれ別のユニットを持って、ニュージェネ自体の活動は縮小している気がする。響子ちゃんには申し訳ないが、それは少し残念だ。

 ただ、その理由を分析すると、単にピンチェの場合、ファンのスタートラインがみんな同じだからである。ニュージェネは卯月ちゃんが言っていたように、俺は現存する最古のファンであり、そういう優越感がある。もちろんその優越感は誇れるようなものではないし、卯月ちゃんもファンにはあまり持って欲しくないと言っていた。

 いよいよ最後のブロックになり、『Trinity Field』と『BEYOND THE STARLIGHT』が歌われた後、挨拶があって『always』で締められた。

 3人が舞台からいなくなっても、客席は暗いままだ。さすがに第3部はアンコール無しでは終わらせないらしい。本気のアンコールを打つと、3人がイベントのパーカー姿で戻ってきた。アンコール1曲目は『冬空プレシャス』。ピンチェのライブでも歌われたクリスマスのナンバーだ。

「アンコールありがとう。今日はみんな、楽しんでくれたかな?」

 未央ちゃんがマイクを客席に向けると、歓喜の絶叫が響き渡った。1部から観ている人も多いが、まだまだもう一周行けそうなパワーだ。

 3人が来年の抱負を話した後、いよいよ最後というところで未央ちゃんがいたずらっぽく笑った。

「最後に、もう一度あの二人を呼ぼうか。まだ控え室にいたから」

 客先から笑いと期待のコールが起きる。もちろん、ラブライカの二人である。二人が卯月ちゃんたちと同じパーカー姿で現れると、今日一番の拍手が起きた。

「先に言っておくけど、凸レーションの3人はもういなかったから来ません」

 未央ちゃんがおどけると、客席から「えーっ!」とお約束の声が上がった。それがなくなってから、ラブライカの二人が来年の抱負を語る。もっと明るくて元気な曲にも挑戦していきたいと決意を込めたが、最後の曲はまさにそれにふさわしいナンバーだった。

「じゃあ、本当に最後。みんな、メリークリスマス! そして良いお年を!」

 最後は『Happy New Yeah!』を5人で歌う。特にラブライカの二人には思い入れがなかったが、なんだか感動して涙が込み上げてきた。隣では大暗黒が完全にイッてしまった目でペンライトを振り、ハドラーもコールを叫び続けている。

 熱狂の内にイベントが終了すると、4人揃って会場を出た。確認はしていなかったが、ハドラーと叢雲も忘年会に参加するらしい。他にはMasque:Radeのイベントに参加している水野とその友達、さらに炎陣とブルーナポレオンの2部構成のイベントに参加した大暗黒の仲間が4人の、計10人とのこと。

 みんな知り合いなのか聞くと、ハドラーと叢雲が首を横に振った。

「自分もほとんど初対面だな。蘇我殿と同じ」

「私も全然なので、ハドラーさんと蘇我さんと今日のライブを語り合えたら嬉しいです!」

「紅一点であります!」

「オタサーの姫的な?」

「姫って柄じゃないから!」

 ワイワイ話しながら店に移動する。不思議な感覚だった。いつもはライブの後は一人でじっくりと余韻に浸るので、時間が妙に速く流れているように感じる。余韻を味わいたい思いはあるが、これはこれで悪くない。

 ただ、ライブの後にこんなにも卯月ちゃんのことを考えないのは初めてで、卯月ちゃんの心配がはっきりと実感できた。仲間が増えて他のアイドルの魅力も知ったら、仲間と一緒に他の子も推したくなる。もし俺が今でもただのファンでしかなかったら、凸レーションやラブライカにももっと興味を持ったかもしれない。

 チラリとスマホを確認すると、みくちゃんと響子ちゃんからメッセージが飛んできていた。

『○○チャン、今日はありがとう。3部も楽しかったけど、一緒に見れなかったのは残念。絶対に埋め合わせしてね! 今日の感想会もしたいし、また遊ぼう! 追伸:大暗黒チャンとの忘年会の内容は報告すること!』

『今日はありがとうございました。すごく楽しかったです! 今すごく感動してるけど、○○さんと共有できないのがすごく残念です! また一緒にライブを観ましょう! プレゼント、楽しみにしていてくださいね!』

 俺は思わず頬が緩みそうになるのを堪えてスマホをしまった。既読をつけたまま返事ができないのは申し訳ないが、忘年会に参加することは知っているから大丈夫だろう。

 隙を見てみくちゃんからもらったプレゼントを開けると、鎖が太めのメンズのネックレスが入っていた。想像にはなるが、恐らく年上の男にプレゼントをあげ慣れていないであろうみくちゃんがこれを選んで買ってくれたと思うと、素直に胸が熱くなる。

 やっぱり俺はこっち側にいたい。みくちゃんからもらったネックレスをつけながら、はっきりとそう思った。

 大暗黒たちとのライブ観賞は楽しかったし、これから始まる忘年会もきっと盛り上がるだろう。曲にもアイドルにも詳しくなったので、アイドル談義も楽しめるに違いない。その繋がりも大事にしたいと思える程度には、水野や大暗黒はいいヤツだ。

 けれど、卯月ちゃんの特別になれた今、俺は卯月ちゃんと卯月ちゃんに近しい人たちを大切にしたい。

 自分には分不相応で、過剰評価されているとは感じている。それに、俺と卯月ちゃんがついている嘘で成り立っている関係だとも思う。それでも、せっかく手に入れた特別な友達枠を手放さそうとは思わない。

 昔卯月ちゃんが、自分はあれもこれも欲しい欲張りな今時の女子高生なんだと言っていた。俺も誰にも自慢はしないから、他のファンとは違うポジションにいる優越感に浸っていたい。

 嘘をついている罪悪感はある。卯月ちゃんは一体、この嘘の行き着く先をどう考えているのだろう。今日の凸レーションのライブの前みたいな、みんなで仲良く過ごせる世界だろうか。それとも、ただ目の前の問題から逃げているだけで、何も考えていないのだろうか。

 それならそれでいい。そんな行き当たりばったりな卯月ちゃんも大好きだ。

 店の前で水野や他のグループと合流した。水野はライブの話がしたくて仕方ないように、紅潮した顔で目を輝かせている。

 李衣菜ちゃんや美穂ちゃんはどうだったのだろう。みくちゃんが参加したくてもできないファン同士の交流。これはこれで大事にしようと思いながら、俺は水野たちと一緒に暖簾をくぐった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。