『もしもし、○○さん?』
「うん。電話、大丈夫だったの?」
『はい。やっぱり少しお喋りしたくなって。遅いですけど、平気ですか? もう家……ですよね?』
「大丈夫。酔っぱらいながら、今さらライブの余韻に浸ってたところ」
『それは丁度良かったです。ライブ、どうでした?』
「3時間くらい語れるけど」
『それは今度聞きます。一言で』
「すごく楽しかったよ。最後の『冬空プレシャス』から『Happy New Yeah!』の流れは、美しすぎて泣いた」
『あれ、いいですよね! 出演者の私が言うのも変ですけど、最高のセットリストだと思いました!』
「曲を聴き込んでなかったのが悔やまれる。ラブライカの歌った歌は、ほとんどわからなかった』
『でしょうね。3部もみくちゃんたちと?』
「いや、ニュージェネは全力で観たかったから、2部で別れて前の方で観たよ。大暗黒たちと合流した」
『それは偉いですね。彼女としてもアイドル島村卯月としても嬉しいですけど、二人の友達としては少し同情します』
「何を言われようと卯月ちゃん優先だから」
『響子ちゃんから、○○さんっていい人ですねってLINEが来ました。仲良くしてくれてありがとうございます』
「嫌じゃない?」
『どうでしょうね。ただ、私最近、二人が○○さんに懐いてる理由がわかりました』
「俺の魅力に気が付いた?」
『言いますねぇ。たぶん二人とも、○○さんをお父さんとかお兄ちゃんみたいに感じてるんだと思います』
「友達枠って言ってたよ?」
『感情を区別できるほど、二人とも年上の男の人のお友達はいないと思います』
「難しいことを言うね」
『まだ1年生で親元を離れて暮らしてるから、やっぱり寂しいんじゃないかなって思うんです。私の勝手な想像かもしれませんけど』
「意識したことなかったけど、考えてみたら偉いよね」
『私には無理です。だから、彼女としてはちょっと妬けますけど、○○さんを貸してあげようかなっていう、私の優しさです』
「とても偉そう」
『これでも年上ですから! それに私は○○さんの彼女ですから、その権利があると思います!』
「今日4人でいて楽しかったから、あれが卯月ちゃんの求めてる理想の関係なのかなって思った」
『どうでしょうね。確かに私も楽しかったですけど』
「卯月ちゃんの『どうでしょうね』は、つまり『そうじゃない』って意味?」
『私にもよくわからないだけです。ああでも、アイドルのお友達といると、○○さんが自然と呼び捨てで呼んでくれるのはドキドキします』
「呼び捨ての方がいいの? 偉そうじゃない?」
『たまにでいいです。どっちも好きですよ?』
「じゃあ、気が向いた時だけ。卯月ちゃんはライブの感想は?」
『3時間くらい話せますが』
「よし、聞こうか」
『眠たいから嫌です。2部より人が少なかったのが、ちょっと残念でした』
「それは予想外の感想だけど」
『未央ちゃんが、ちゃんと分析して来年の活動に役立てようって言ってました』
「真面目だ。その会議、面白そう」
『じゃあ、○○さんも参加しますか? ニュージェネを一番よく知ってるファンですし』
「ボロが出そうで怖いから、未央ちゃんと凛ちゃんとは距離を置きたい」
『そうですね。みくちゃんや響子ちゃんと違って、私たちを最初から知ってる上で私の従兄弟だって、そんなバカなって誰でも思いますよね』
「みくちゃんと響子ちゃんも、従兄弟じゃないって知ったら、俺のこと嫌いになるだろうな」
『そうですか? 別に私の従兄弟だから○○さんを慕ってるわけじゃないと思いますけど』
「そういう考え方もあるのか」
『嘘をついてたこととか、付き合ってることとかは怒られるでしょうね。一蓮托生なので、覚悟してください』
「それは望むところだけど、明らかに俺より卯月ちゃんの方が失うものが多いから、平等じゃないなって思ってる」
『私が好きでしてることなので、それは全然気にしなくても大丈夫です。そういえば、忘年会はどうでした?』
「まあ、情報の交換会的な? ライブはハドラーって男と、叢雲っていう凛ちゃん推しの変な子と観て、二人とも忘年会に来た。知ってる?」
『叢雲さんはテンションの高い缶バッジの子ですね。そっか、ハドラーさんか……』
「ん?」
『いえ。ハドラーさん、どうでした?』
「普通だったけど。嫌いなの?」
『正直に言うと、少し苦手です。アイドルとして、こういう感情はダメだと思いますけど……』
「何かされたの?」
『そういうわけではないです。ただ、ちょっと決めつけが多いから、本当にただ苦手っていうだけです。でも、そういう人は他にもいますし、私を応援してくれるのは嬉しく思っています』
「まあ、ドルオタは変わったのが多いし、好き嫌いはあるよね。俺も叢雲には怯んだ」
『私を苦手だっていう未央ちゃんや凛ちゃんのファンもいると思うし、こればかりは仕方ありません』
「なるべく関わらないようにするよ」
『それはいいです。でも、ハドラーさん個人がどうというより、○○さんにお友達が増えていくのは複雑な心境です。ずっと言ってますけど』
「あれはあれで楽しかったけど、せっかくだから俺は、卯月ちゃんの彼氏だからこそできることをしたいって思った」
『そうですね。私も○○さんが宿り木さんや大暗黒さんと遊ぶより、みくちゃんや響子ちゃんと遊んでくれる方が嬉しいし安心です』
「そうなの? 異性の方が嫌じゃない?」
『私の力の及ぶ範囲にいてくれた方がいいです』
「怖っ! 力の及ぶ範囲って……」
『ふふっ。私がそっちに入ることはできませんから、○○さんがこっちに来てください。でも、○○さんと合いそうな子は、もうみんな繋がってるかな』
「むしろ、みくちゃんや響子ちゃんが懐いてくれてるのが不思議。いや、そもそも卯月ちゃんと付き合えてるのが奇跡だけど」
『○○さんがそんなにモテないとは思ってませんけど、かな子ちゃんや智絵里ちゃんとは合わないだろうなって感じます。逆に、蘭子ちゃんやアーニャちゃんは、○○さんの方がそんなに好きにはならないって思うし』
「好き嫌いはあるよねって、さっきの話か。かな子ちゃんはよく知らないけど、智絵里ちゃんは結構気に入ってたけど」
『○○さん、女の子慣れしてるから、智絵里ちゃんはきっと怯えちゃいますね』
「待って。俺のどこが女の子慣れしてるんだ?」
『自覚がないんですか? みくちゃんや李衣菜ちゃんともすごく普通に話してるし、そもそも私と街で会ったあの日も、すごく自然でしたよ?』
「心臓が飛び出しそうだった」
『どうでしょうね。そろそろ眠たくなってきました。明日もお仕事があるから、そろそろ寝ます』
「うん。電話、ありがとう」
『こちらこそ。明後日のデート、楽しみにしてますね。今日のライブと同じくらい、指折り数えて待ってます』
「それはハードルが高すぎる。初デートのトラウマが蘇る」
『あれは○○さんが勝手に自滅しただけです』
「あの島村卯月とデートなんて、当時の俺には荷が重すぎた」
『今は随分扱いが雑になりましたよね』
「そんなことないから! ずっと同じくらい、むしろあの時以上に愛してるから!」
『それはどうも。明後日、ライブの感想とかゆっくりお話しできる時間もほしいです』
「カフェとか?」
『二人きりで』
「それは、そういう意味で解釈していいの?」
『さあ、どうでしょう。じゃあ、そろそろ切りますね』
「うん。おやすみ」
『おやすみなさい。私も、○○さんが大好きです』
─ 完 ─